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聖書にみられる食の意味

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Academic year: 2021

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(1)聖 書 にみ られ る食 の意味 奥 は. 田 和 じ. め. 子 に. 食 べ る こ とは,ど の よ うに時代 ,社 会 ,文 化 が 変 わ って も変 わ らない 。 し か し,食 べ る意味 や食 べ 方 は それぞれの文化 に よつて異 なる。世 界 に広 が る さまざまな宗教 は,そ の独 自の宗教観 に よつて食 の あ り方 を規定 し,固 有 の 食文化 を形 づ くり,今 日にい たって い る。 これ ら固有 の食文化 の底流 をなす 基本原理 には興味 をそそ られる。 この基本原理 は,今 日,栄 養 や健康 につ い て論 じる食物科学 の研 究者 の視点 とは趣 を異 に して い るので はない か と考 え る。食物科学 の分野 であ ま り手が け られ なか った視 点 で宗教 と食 の基本原理 につい て考 えてみ た い 。 ここで は,ほ んの 手始 め に,2000年 を経 て今 なお人 々 に読 み 継 が れ てい る聖 書 を と りあげた。 キ リス ト生誕 前 に書 かれ た旧約聖書 1)と ,キ リス ト生 誕後 に書 かれ た新約 聖書 °に,食 べ る こ とは どの よ う に位 置 づ け られて い る のか を探 ってみ た。. 1. 食 べ 物 は神 か らの 賜 り物. 神 が贈 るよい土地 イス ラエ ルの民 は,当 時 エ ジプ トで奴隷 として働 か されてい た。モーセ は,た まりかねてその民 をエ ジプ トか ら連れだ し,四 十年間 にわたつて荒 れ 野 に滞在 し苦 しみを味わ う。その後 ,や がて到着す るはず の土地 の様子 を. ,. モーセは民 に次 の ように語 つている。.

(2) 172. 聖書 にみられる食の意味. あなたたち は,神 の戒 め を守 って道 を歩 き,神 を畏 れ な さい。神 は,あ な たたちを良 い土地 に導 き入れ ようと してお られ ます 。 それ は平野 に も山 に も 川が流 れ ,泉 が 湧 き,地 下水 が溢 れ る土 地 ,小 麦 ,大 麦 ,ぶ ど う,い ち じ く,ざ くろが 実 る土地 ,オ リー ブの本 と蜜 の ある土地です。不 自由な くパ ン を食 べ るこ とがで き,何 一つ 欠 け るこ との ない土地です。 あなたたち は食 べ て満足 し,良 い土地 を与 えて くだ さった こ とを思 って ,神 をたたえな さい。 (申. 命記. 8・. 6∼ 10). 神 の祝福 と呪 い 神 は イス ラエ ルの民 に向 か って “ 祝福 と呪 い"に つ い て次 の よ うにい う。 も し,今 日あ なたたちに命 じる戒 め に聞 き従 い ,神 を愛 し,心 を尽 くし,魂 を尽 くして仕 えるな ら,わ た し (神 )は そ の季節季節 に,あ なたたちの土地 に,秋 の雨 と春 の雨 を降 らせ ます。あなた には穀物 ,新 しいぶ ど う酒 ,オ リ ー ブ油 の収穫 が あ ります。 また,あ なたの家畜 のため に野 に草 を生 え させ ま 、 亡 す。 あな たは食 べ て満足 します。 あなたたちは′ 変 わ りして神 をはなれ ,異 教 の神 々 に仕 える ことが ない よ うに注意 しな さい。 さもない と,神 の 怒 りが あ なたたちに向か って燃 え上が り,雨 は降 らず ,大 地 は実 りをもた らさず. ,. あなたたち は神 が 与 える よい 土地 か ら直 ち に減 び去 り呪 い を受 け ます。 (申 命記 H・ 13∼ 28)飢 え と渇 きに悩 ま され ,裸 に され て ,す べ て に事 欠 くよ うにな ります。 (申 命記 28・ 47∼ 48) この よ うに,神 をたたえる こ とをまず教 え,そ の教 えに従 うな ら,水 と食 べ 物 は必ず与 え られ る と約束 して い るが , もし聞 き従 わな ければ呪 い を受 け る。 試し 神 は試 す ため に人 に飢 え を与 え る こ とが あ る 。 以 下 の よ う に述 べ られ て い ろ 。神 は あ な た を苦 しめ て 試 し,あ なたが 神 の 戒 め を守 るか ど うか を知 ろ う とされ た 。神 は あ な た を苦 しめ ,飢 え させ ,あ なた も先 祖 も味 わ った こ との な い マ ナ を食 べ させ た 。 人 は パ ンだ け で生 きるの で は な く,人 は神 の 日か ら 出 る す べ て の 言 葉 に よ つて生 きる こ と を あ な た に 知 らせ る た め で あ っ た。.

(3) 奥 (申 命記. 田 和. 173. 子. 802∼ 3). 口か ら入る食べ物 は人 を汚 さない ファリサイ派の人 々 をは じめユ ダヤ人は皆 ,昔 の人の言 い伝 えを守 って. ,. 念入 りに手 を洗 つて食事 をし,ま た市場 か ら帰 った時 には身 を清 めてか らで ない と食事 をしない。そ こでファリサイ派 の人 々 と律法学者がイエス に尋 ね た。「なぜあなたの弟子 たちは昔 の人 の言 い伝 えに従 わず ,汚 れた手 で食事 をするのですか。 」 イエスは言 われた。「なぜ ,そ んなに物分 か りが悪 いので すか。すべ て外 か ら人の体の中に入るものは,人 を汚す ことがで きない。そ れは人の心の中に入るのではな く,腹 の 中に入 り外 に出される。全ての食べ 物 はむ しろ清 め られる。逆 に人の 中か ら出て来 る もの こそ,人 を汚す ので す。人間のこころか ら,悪 い思 いが出て くるか らです。みだらな行 い,盗 み 一,傲 慢 ,無 分男Jな ど,こ れ らの悪はみな人の中か ら出て来て,人 を汚す の です。 (マ ル コによる福音書 7・ 2∼ 23) 奇跡 そ もそ も聖書. (旧 約 ,新 約. )が 書 かれた時代 ,イ. ス ラエルの民が住 んだ土. 地 には食べ物 も水 も少なか った。 「アブラハ ムはその地方 (現 在 のパ レスチ ナ)の 飢饉 が ひどかったので. ,. エ ジプ トに下 り,そ こに滞在す ることに した。 」 (創 世記 12010)ま た,「 士 師が世 を治めていたころ,飢 饉が国を襲 ったので,あ る人が妻 と二人の息子 を連れてユ ダのベ ツ レヘ ムか らモ アブの野 に移 り住 んだ。 」 (ル ツ記 1・. 1). など飢饉 の様子が うかがえる。 ひどい飢饉 のために食料 を求 めてエ ジプ トに下 つた民 は,エ ジプ トで外国 人労働者 として厳 しい労働 に従事 し苦 しめ られ,つ い にエ ジプ トか ら脱出す る。その時のようすが出エ ジプ ト記 には次 の ように述べ られてい る。 その 1)マ ナの奇跡 エ ジプ トの 国 を出て荒 れ野 に入 る と,イ ス ラエ ルの人 々はモーセ とア ロ ン (モ. ー セの兄 )に 向 か って不平 を述 べ 立 て ま した。「我 々はエ ジプ トの 国 で. ,. 神 の手 にかか つて ,死 んだほ うが ま しだ った。 あ の ときは肉のた くさん入 つ.

(4) 174. 聖書にみられる食の意味. た鍋 の前 に座 り,パ ンを腹 い っぱい食 べ られたの に。 あ なたたちは我 々 をこ の荒 れ野 に連 れ出 し,飢 え死 に させ よ う と して い ます。 (出 エ ジプ ト記 160 1∼. 3)確 か に,モ ーセが イス ラエ ルの 人 々 を葦 の海 か ら旅立 たせ ,シ ュルの. 荒 れ野 に向 か って ,荒 れ野 を三 日の 間進 んだが ,水 を得 る ことがで きなか っ た (出 エ ジプ ト記. 15・ 22)。. この よ うに,食 べ 物 が少 な く,同 行 の皆 の 者 た. ちに食べ 物 が行 き渡 る よ うに しなければな らなか ったため ,必 要 に迫 られて 「奇跡」 が 行 われ た もの と推 察す る。食 べ 物 をめ ぐる奇跡 は以 下 の よ う に随 所 にみ られ る。 神 はモ ーセ に言 われ た。「見 よ,わ た しはあ なたた ちの ため に,天 か らパ ン を降 らせ ます。民 は 出 て行 って ,毎 日必 要 な分 だ け集 め な さい。 わ た し は ,彼 らが わた しの指示 どお りにす るか ど うか を試 します。 ただ し,六 日目 に家 に持 ち帰 った もの を整 えれ ば,毎 日集 め る分 の三 倍 に な って い ます 」 (出. エ ジプ ト記 1604∼ 5)。 マ ナが 降 ったので あ る。 イ ス ラエ ルの 人 々 は. ,. 人 の住 んで い る土 地 に着 くまで 四十 年 にわ た って このマ ナ を食 べ た。 マ ナ. (manna)と は,出 エ ジプ ト記. 16・. 31に よれ ば,「 イス ラエ ルの 家 で は これ. をマ ナ と名 づ け た。 コエ ン ドロの種 に似 て 白 く,蜜 の 入 った ウ ェー フ ァース の よ うな味 が した」 と書 かれて い る。 また,民 数記 H・ 7に は「エ コン ドロ の種 の よ うで ,一 見 ,琥 珀 の類 の よ うであ った」 と記 されて い る。 マ ナが な にか につい ては ,地 位類 や きの こで あ る とす る説 ,ギ ョ リュ ウな どの本 につ く小 さな虫が 出す甘 い 汁 で ,乾 くと甘 い 蜜 の よ うになる とい う説 な ど諸説 あ る2)。 その 2)煮 物鍋の毒の奇跡. そ の地 (ギ ル ガル)は 飢饉 に見 舞 われて い た。予言者 の仲 間 たちが彼 の前 に座 ってい た ときの こ と,エ リシャ (預 言者 )は 従 者 に,「 大 きな鍋 を火 に か け ,予 言者 の仲 間 たちのため に煮物 を作 りな さい」 と命 じま した。 彼 らの 一 人が野 に草 を摘 み に出て行 き,野 生 の つ る草 を見 つ け ,そ こか ら野生 の う りをい っぱい に集 めて帰 って きた。彼 らはそれが何 で あ るか を知 らなか った ので刻 んで煮物 の鍋 に入れ人 々 に食べ させ よ う とよそ った。 だが ,そ の煮物.

(5) 奥. 田 和. 子. 175. を口にしたとき,人 々は叫んで「エ リシヤ !鍋 には死の毒が入つています」 と言いました。彼 らはそれを食べることができなかった。エ リシヤは「麦粉 をもって来るように」 と命 じ,そ れを鍋に入れてから,「 よそって人々に食 べ させなさい」 と言うと,鍋 には有害なものはな くなっていました。(列 王 記下 4038∼ 41) その 3)飲 み水の奇跡 イス ラエ ルの民 は ,シ ンの荒 れ野 を出発 し旅程 に従 って進 み , レフイデ イ ム に宿 営 しま したが ,そ こ に は飲 み 水 が な か っ た。民 が モ ー セ と争 い 「我 々 に飲 み水 を与 え よ」 と言 う と,モ. ,. ーセ は「なぜ ,わ た しと争 うのか。. なぜ ,神 を試 す のか。 」 と言 い ま した。 しか し,民 は喉 が 渇 い て しか たが な いの で ,モ ー セ に向か って不平 を述 べ ま した。神 はモ ーセ に言 われ ま した。 「 あな たはその岩 を打 て。 そ こか ら水 が 出 て ,民 は飲 む ことがで きる。 」モー セ は神 の言 われる通 りに しま した。 (出 エ ジプ ト記 1701∼ 6) その 4)5千 人に食べ物 を与える 大勢 の群衆が イエ スの もとにや って来 た。 そ の うち夕暮 れ になった ので. ,. 弟子 たちが イエス の そば に きて ,群 衆 を解散 させ各 自帰 らせ て食事 をさせ ま しょうと言 った。す る と,イ エ スは弟子 たちにそんな ことを しな くて も,あ なた方 が食 べ 物 を与 えな さい と言 われ ま した。す る と弟子 た ち は言 い ま し た。「 ここにはパ ン 5つ と魚 2匹 しかあ りませ ん。」 イエ ス は「それ を ここに 持 って きな さい」 と言 い ,群 衆 には草 の上 に座 る よ うに命 じま した。 そ して イエ スは天 を仰 い で賛美 の祈 りを唱 え,パ ンを裂 いて弟子 たちにお渡 しにな った。弟子 たちはそのパ ン を群 衆 に与 え ま した。全 ての人が食 べ て満足 し. ,. そ して残 ったパ ン くず を集 め る と,12の 籠 い っぱ い にな った。食 べ た人 は 女 と子 どもを別 に して男が 5千 人 ほ どで した。 (マ タイ に よる福 音書 14016 ∼21,マ ル コ に よる福 音 書 6038∼ 44,ル カ に よる福 音 書 9013∼ 17,ヨ ハ ネに よる福音書 605∼ 14) その 5)四 千人に食べ物 を与える イエ ス は弟子 たち を呼 び寄 せ て言 われた。群衆がかわ い そ うだ。 もう 3日.

(6) 176. 聖書にみられる食の意味. もわた しと一 緒 にい るの に,食 べ 物が な い。空腹 の ままで解散 させ た くはな い 。途 中 で疲 れ きって しまうか も しれ ない。弟子 たちは言 い ま した。 この 人 里 離 れた所 で ,こ れほ ど大勢 の 人 に十 分食 べ させ るほ どのパ ンが どこか ら手. に入るので しょうか。イエ スが 「パ ンは幾つあるか」 と言 われると,弟 子 た ちは「七 つ あ ります。それに小 さい魚が少 しばか り」 と答 えま した。そ こ で,イ エ スは地面に座 るように群衆に命 じ,七 つのパ ンと魚 を取 り,感 謝 の 祈 りを唱えて これ を裂 き,弟 子 たちにお渡 しになった。弟子 たちは群衆 に配 りました。人 々は皆 ,食 べ て満足 した。残 ったパ ンの屑 を集めると,七 つの 籠 にいっぱい になった。食べ た人は女 と子 どもを別 にして,男 が四千人であ った。 (マ タイによる福音書 15032∼ 38,マ ルコによる福音書 8・. 1∼ 10). その 6)カ ナの婚礼 でのぶ ど う酒 の奇跡. イエ ス もその弟子 たち も婚礼 に招 かれた。ぶ どう酒が足 りな くな ったの で,イ エ スの母がイエ ス に「ぶ どう酒がな くな りました」 と言 い ました。イ エスが 「水 がめに水 をいっぱい入れなさい」 と言 われると,召 使 いたちは. ,. かめの縁 まで水 を満た しました。 イエ スは,「 さあ,そ れを汲 んで宴会 の世 話役 の所へ持 って行 きなさい」 と言 われた。宴会の世話役 はぶ どう酒 に変 わ った水 の味見 をした。世話係 はこのぶ どう酒が どこか ら来 たのか知 らなかっ たので花婿 をほめた。 (ヨ ハ ネによる福音書 202∼ H)。 その 7)イ エスが復活 して弟子の前に現 れた魚の奇跡 イ エ ス が 7人 の 弟 子 た ち に ,何 か 食 べ 物 が あ るか と言 わ れ る と,「 あ りま せ ん 」 と弟 子 は 答 え ま した。 イ エ ス は 言 わ れ た 。「船 の 右 佃1に 網 を打 ち な さ. い。そうすれば とれるはず だ。 」そ こで弟子 が網 を打 ってみると,魚 があ ま り多 くて,も はや網 を引 き上げる ことがで きなかった。網 は百五十三匹 もの 大 きな魚 でいっぱいで した。 イエスは「 さあ,来 て朝 の食事 をしなさい」 と いわれました。 (ヨ ハ ネによる福音書 21・ 5∼ H)。 聖書には,上 記 の食べ物関連 のほかに病人の治癒 ,死 人の蘇生 ,水 上の歩 行 ,嵐 を静めるなど多 くの奇跡がみ られる。食べ物が奇跡 の手段 として用 い られたことは興味深 い。水や食べ物 の不足 を補 うことが,民 にとって切実な.

(7) 奥. 田 和 子. 177. 願 い事 であ った。そ して民 の願 いが叶 ったのは預言者 やイエスが遣わされた 「 じる し」 であ り,人 々は神 の存在 を確認 したの。 イエスの主要 な教 えである山上の説教 一求めなさい イエ スは山上 で群衆 に向けて教 えを述べ られた。その 1つ に「求 めなさ い」 とい うメッセージがある。そ こにはパ ンと魚が讐 えとして用 い られてい る。 この 2つ の食べ物 が大切なもの として位置づ け られていて興味深 い。 「求 めなさい。そ うす れば,与 えられる。探 しなさい。そ うす れば,開 かれ る。 だれで も求める者 は受 け,探 す者 は見 つ け,門 をたた く者 には開かれ る。パ ンを欲 しがる子供 に石を与 えるだろうか。魚 を欲 しがるのに,蛇 を与 えるだろうか。あなたがたの天 の父 は,求 める者 に良い物 を くださるにちが い ない。 だか ら,人 にしてもらいたい と思 うことは何 で も,あ なたがた も人 にしなさい」 (マ タイによる福音書 701∼ H)。. 2. 感 謝 と祈 り. 神 への祈 り 聖書 には,神 に対す る祈 りはこの ようにしなさい と以下のように述べ られ てい る。食べ物 は神 か らの賜 り物 である ことはすでに述べ たが,食 べ物がな い と 1日 た りとも無事 に過 ごす ことはで きない。聖書 は神 へ の祈 りの 中で 「必要な食べ物が毎 日与えられる」 ように祈 ることを勧 めてい る。 『天にお られるわた したちの父 よ. ,. 御名が崇 め られます ように。 御国が来 ます ように. ,. 御心が行 われるように. ,. 天におけるように地の上にも。 わた したちに必要な糧 を今 日与えて ください。 わた したちの負 い 目を赦 して ください. ,. わた したちも自分 に負 い 目のあ る人を.

(8) 聖書 にみ られる食 の意味. 178. 赦 しましたように。 わた したちを誘惑 に遭わせず. ,. 悪 い者 か ら救 って ください。 』 (マ. タイによる福音書 609∼ 13,ル カによる福音書 H・ 2∼ 4). ほんの十行 ほどの祈 りの中に,パ ンを毎 日与えて ください と願 う祈 りが一 行あることは,か りにパ ンが生活必 要品の象徴的 な意味 で用 い られてい ると して も,そ の位置づ けがいかに大 きいかを物語 る。 まさに生命 の維持 こそが 先決である。現在で も食料 の足 りない国 々でこの 1行 は切実な祈 りにちがい ない。むろん,食 べ物 を求めるだけでな く,今 日も 1日 に必 要なもの を与 え てわた しを生か して下 さい と祈 るのであ り,1日 1日 が神 の守 りの 中 にある ことを感謝す るのである囀。 最後の晩餐 イエ スは亡 くなる前 の晩,弟 子 たち と一緒 に食事 を した。過越. (す. ぎこ. し :イ ス ラエ ルの民がエ ジプ トでの奴隷状態か ら解放 された こと,神 との契 約関係 に入ったことを祝 う毎年早春 に行 われる行事)の 食事 で,こ れはイエ スが弟子 たちと一緒 にする最後 の食事 となった。 この晩餐 で一 同が食事 をしてい るとき,イ エ スはパ ンを取 り,賛 美 の祈 り を讃 えて,そ れを裂 き,弟 子 たちに与 えなが ら言われ ま した。「取 って食べ なさい。 これはわた しの体 である。 」 また杯 を取 り,感 謝 の祈 りを唱えて. ,. 彼 らにお渡 しになった。彼 らは皆その杯 か ら飲んだ。そ してイエスは言 われ ました。「これは罪 が赦 されるように,多 くの人のために流 されるわた しの 血 ,契 約 の血である」 (マ タイによる福音 26・ 26∼ 28,マ ルコによる福音書 14・. 22∼ 24,ル カによる福音書 22・ 15∼ 20,コ リ ン トによる福音書. H023. ∼25)。 イエスはこれが弟子 たちとの最後 の食事 になることを弟子 たちに言 われ ました。「はっ きり言 ってお く。神 の国で新 たに飲 むその 日まで,ぶ ど うの実か ら作 った もの を飲む ことは もう決 してあるまい。 」 (マ タイによる福 音書 26・ 29,マ ルコによる福音書. 14・. 24)こ のパ ンとぶ どう酒 を分 け与 え. る儀式 は,わ た しの記念 としてこの ように行 い なさい。 (ル カによる福音書.

(9) 奥. 田 和. 子. 179. 22019,コ リン トの使徒へ の手紙 1 11025) パ ンを裂 きぶ どう酒 を飲 む ことは,現 在 カ トリック教会 の ミサのなかで 「聖餐式」 として継承 されて い る。毎 回の ミサで信者 は司祭 か らホス チ ア (パ. ン)と ぶ どう酒 を拝受す る。 この食事行為 の儀式 は,イ エスが最後 の晩. 餐 で弟子 たちと交 わ した契約 を思 い起 こ し,イ エス との交 わ りを強め,一 致 を願 い,新 しい契約 を結 ぶことを表現 してい る。 さらに後 の世 まで もイエス の死 を告げ知 らせ る。「あなたがたは,こ のパ ンを食べ ,こ の杯 を飲 む ごと にイエスが来 られるときまで,イ エスの死 を告げ知 らせるのです。 」 (コ リン トの信徒 へ の手紙 111026)イ エ ス を信 じる ものだ けが,パ ン,ぶ どう酒 を食べ飲み,そ して言葉 を通 してイエスとの絆 を強め,信 仰 を再確認す る。 食べ物 を媒 介 に仲間の確認 とコ ミュニケーシ ヨンをはかる。 しか も世の終 わ りまで,こ の食 を通 して神 と人 間 との契約 が繰 り返 され絆 を強めるとい うの は,食 の重要性 を考 え合わせると興味深 い。. 3. 食 の 本 質 ― なぜ 食 べ る か. 食 べ る こ とと神 との 関 わ りについ て ,聖 書 は以 下 の よ うに述 べ て い る。 快楽 の 空 しさ イス ラエ ルの王 で あ る コヘ レ トは,エ ルサ レム に住 んで い た。彼 は どの よ うな快 楽 もすべ て試 み ,楽 しさに浸 ってみたが ,ど れ もみ な空 しか った。 い ったい快 楽 なんて何 になろ う。飲 み 食 い に代表 され る物 質的 な肉欲 的 な快 楽 を,生 きる楽 しみ を追 い 求 めたが ,彼 が到達 した ものはただの空 しさであ っ た。人 間 に とって最 も良 い のは,飲 み食 い し,自 分 の苦労 によって魂 を満足 させ る こ と。 しか し,そ れ もわた しの見 た ところで は神 の手 か らい ただ くも の 。 自分 で食 べ て ,自 分 で味 わえ。神 は善人 と認 めた人 に知恵 と知識 と楽 し み を与 え,悪 人 には,ひ たす ら集 め積 む こ とを彼 の務 め と して させ ,そ れ を 善 人 と認 め た人 に与 え られ る。 これ また空 し く,風 を追 う よ うな こ とだ。 (コ. ヘ レ トの言葉. 2・. 1,2).

(10) 180. 聖書にみられる食の意味. また食欲 は 空 しい とい う。「 人 の苦労 はす べ て回の ため だが ,そ れで も食 欲 は満 た され な い。欲望 が 行 きす ぎる よ りも日の 前 に見 えて い る ものが 良 い。 これ また空 し く,風 を追 う よ うな こ とだ。 」 (コ ヘ レ トの言 葉 6・ 7∼ 9) 欲望 は特 に食欲 をさす。 ここでは あ らゆる苦労が空 しい こ とを一般 的 に語 っ て い る'。 神 の存在 な くして は ,い か に楽 しみ に浸 ってみ て も所詮 空 しい も ので ある こ とが述 べ られて い る。 肉 に心 を用 いてはな らな い イエ スの使徒 となったパ ウ ロは,ロ ーマ にい る教 会員 に向け て次 の よ うな 内容 の手紙 を書 い た。酒宴 と酪酎 ,淫 乱 と好色 ,争 い とねたみ を捨 て ,イ エ ス を身 にまとい な さい。欲望 を満足 させ よ う と して ,肉 に心 を用 い てはな り ませ ん と述 べ ,人 間的 な肉 の弱 さを戒 め ,信 仰心 を高揚 す る よ うに勧 めて い る。 (ロ ーマ の使徒 へ の手紙. 13・. 13,14). 思 い悩 むなっ神 が与 えて くだ さる一山上の説 教 イエ スの弟子 の ひ と りであ るマ タイは,イ エ スが 山上 で 弟子 や群衆 に話 さ れ た内 容 を述 べ 伝 えて い る。す なわ ち 「何 を食 べ よ うか」「イ 可を飲 もうか」 「何 を着 ようか」 とい って ,思 い 悩 むな。 あ なたが たの天 の 父 は,こ れ らの ものがみ なあなたが たに必 要 な こ とをご存知 で ある。 なに よ りもまず ,神 の 国 と神 の義 を求 め な さい。 そ うす れば,こ れ らの ものはみ な加 えて与 え られ る。 だか ら,明 日の こ とまで思 い悩 む な。明 日の こ とは 明 日自 らが思 い 悩 む。 そ の 日の苦労 は,そ の 日だけで十分 で あ る。神 の 国 にふ さわ しい心 と行 い こそが大切 であ る と述 べ て い る。 (マ タイに よる福音書 6・ 31∼ 33) 食 べ るこ とを十分 に して も神 の 国に は行 けない イエ スの使 徒 パ ウ ロが コ リ ン トの 港 町 の 教 会員 に 向 けて書 い た 手 紙 で あ る。 「わた した ち を神 の もとに導 くの は,食 べ 物 で は あ りませ ん。食 べ な い か ら とい って,な にか を失 うわけで はな く,食 べ たか らとい って ,な にか を得 る わ けで はあ りませ ん」 (コ リ ン トの使徒 へ の 手紙. 1808)「 あな たが たは食べ. るに しろ飲 むに しろ ,何 をす るにに して も,す べ て神 の栄光 を現す ため に し.

(11) 奥. 田 和. 子. なさい」 (コ リン トの使徒へ の手紙 18031) 食 べ物 のために神の働 きを無に してはいけない イエスの使徒 ,パ ウロはローマの教会員 に向けてキ リス ト者 はどう振 る舞 うべ きか,手 紙 に書 い てい る。「食べ る人は神 のために食べ る。神 に感謝 し てい るか らです。 また,食 べ ない人 も神 のために食べ ない」 (ロ ーマの使徒 へ の手紙. 14・. 6)ま た,「 ネ 申の 国 は,飲 み食 い でな く,聖 霊 によって与 え ら. れる義 と平和 と喜 びなのです。食べ物 のために神 の働 きを無 にしてはな りま せん。すべ ては清 いのですが,食 べ て人を罪に誘 う者 には食べ物 はかえって 悪 い物 とな ります。肉 も食べ なければぶ どう酒 も飲 まず,そ のほか兄弟 を罪 に誘 うよ うな ことを しないのが望 ま しい」 (ロ ーマ の使徒 へ の手紙 14017, 20,21) 貪欲 の 戒 め モ ー セ は神 に言 った 。「 わ た しの 率 い る民 は 男 だ け で 60万 人 い ます。 そ れ な の に 肉 を彼 らに 与 え ,1ケ 月 間食 べ させ よ う と言 わ れ ます が 。」 す る と神. は,わ た しの言葉 どお りになるかならないかい まあなたに見せ ようと言 われ た。神 は海の方 か らうず らを吹 き寄せ ,宿 営 の近 くに落 とした。民 は外 に出 て行 って,終 日終夜 ,そ して翌 日も,う ず らを集 め,少 ない者 で も十ホメル は集 めた。そ して宿営のまわ りに広げておいた。肉が まだ歯の間にあって. ,. かみ切 らない うちに,神 は民 に対 して憤 りを発 し,激 しい疫病 で民 を打たれ た。そのための場所 は,キ プロ ト・ハ タアワ. (貪 欲 の墓)と. 呼 ばれてい る。. 貪欲 な人をそこに葬 ったか らである。 (民 数記 H・ 32∼ 34) 人はバンだけで生 きるものではない 「人はパ ンだけで生 きるものではない。神 の日か ら出る一つ一つ の言葉 で 生 きる。 」 (マ タイによる福音書 4・. 4). 以上 ,聖 書 か ら読み とれることは,食 べ ることは食欲 を満た した り,楽 し みや喜 びのためではない。神 の国のみ栄えのためであ り,神 のために食べ な さい とい う。 だか ら,な にを食べ ようが,な にを飲tも うがそんな ことはとる に足 らない。神 の もとにいけるか どうかは,お い しい ものを食べ たか どうか.

(12) 182. 聖書にみられる食の意味. 全 く関係がない とい う。食べ る ことは 目的のための手段 であるが,現 在 の食 の状況 をみると,食 べ ること自体が生 きる目的になってい る。ちなみに,最 近厚生省が出 した食の指針 には,1番 目に「楽 しんで食べ よう」 とい うスロ ーガンがあげられている6。. ど う食 べ るか ―博愛 の気持 ちで食 べ 物 を分 け与 え よ 捕虜 にバ ンと水 を与 えよ ア ラムの王が イ ス ラエ ル と戦 つている ときの こ とであ る。応戦相手 である アラムの部 隊 を見 て ,イ ス ラエ ルの王が 「わた しが打 ち殺 しま しょうか」 と い ったが ,イ ス ラエ ルの予言者 で あるエ リシャは答 えて次 の よ うに言 った。 「打 ち殺 して はな りませ ん。 あ なた は捕 虜 を剣 と弓 で打 ち殺 す ので す か。彼 ら. (ア. ラム部 隊 )に パ ンと水 を与 えて食事 をさせ ,彼 らの主君 の もとに行 か. せ な さい。 」 そ こで 王 は彼 らの ため に大 宴会 を催 した。彼 らは食 べ て飲 んだ 後 ,自 分 たちの主 君 の もとに帰 って行 った。 アラムの部 隊 は イス ラエ ルの 地 に三 度 と来 なか った。 (列 王記下 6022) 報 い を期待 す るな あなたの パ ンを水 に浮かべ て流すが よい 。月 日が たつてか ら,そ れ を見 い だす だろ う。 (コ ヘ レ トの言葉. H-1)こ の言葉 は,報 い を期 待 しな い で 善行. を積 み な さい とい う意味 に解釈 されて きた。 パ ンは食料 ,穀 物 の意味 に解釈 ア す る こ とがで きる 。 惜 しみな く分 け与 えよ ヨハ ネ は群衆 に,次 の よ うにい つた。下着 を 2枚 持 って い る者 は,1枚 も 持 たない 者 に分 け てやれ。食 べ 物 を持 ってい る者 も同 じよ うにせ よ。 (ル カ に よる福音書. 3・ 11). 神 は次 の よ うに言 われた。売 られて きた奴隷が六年 間奴隷 と して仕 えたな らば ,七 年 目に は 自由の 身 と してあなた の もとを去 らせ ねばな らない 。 そ の ときは 自由 の 身 と してあ なた の もとを去 らせ る ときは,何 も持 たず に去 らせ.

(13) 奥. 田 和. 子. 183. てはな りませ ん。 あ なた の 麦打 ち場 と酒 ぶねか ら惜 しみ な く贈 り物 を与 えな さい 。 (申 命記. 15・ 13∼ 14). あなたの敵 が飢 えてい た ら食べ させ ,渇 い てい た ら飲 ませ よ。そ うす れ ば,燃 える炭火 を彼 らの頭 に積 むことになる。悪 に負けることな く,善 をも って悪 に勝 ちなさい。 (ロ ーマの使徒へ の手紙. 5. 12・. 20∼ 21). 食 べ 物 と人 間 関係. 食べ物 はとか く人間関係 をこじらせ る。食べ物 の奪 い合 い は個人 レベ ルか ら民族間の紛争 にまで発展す る。共食 のために宴会 をした りする場合 にも争 いが起 こ りがちである。聖書は この点 について次 のように述べ てい る。 食べ物 は争 いの もと,罪 つ くりの もと 使徒パ ウロが ローマの使徒へ 向けて書 いた手紙 の中に,食 べ物が原因で兄 弟 を罪 に誘 わないようにと述べ てい る。 あなたの食べ物 のことで兄弟が こころ を痛 めるなら,あ なたはもはや愛 に したがってはい ません。食べ物 の ことで兄弟 を減 ぼ してはい けません。 (ロ ーマ の使徒 へ の手紙 14015)神 の 国 は,飲 み食 いで はな く,精 霊 によって 与 えられる義 と平和 と喜 びなのです。食べ物 のために神 の働 きを無 にしては な りません。すべ ては清 いのですが,食 べ て人を罪 に誘 う者 には食べ物 は悪 い物 とな ります。肉 も食べ なければぶ どう酒 も飲 まず,そ のほか兄弟 を罪 に 誘 うような ことをしないのが望 ましい。 (ロ ーマの使徒へ の手紙 17022) 使徒パ ウロが コ リン トの港町の教会 の人々 に当てた手紙 には,わ た したち の兄弟 たち,食 事 のために集 まる ときには,互 い に待 ち合 わせ なさい。勝 手 ,が ってに自分 の分 を食べ て しまうと,空 腹 の者が出た り,一 方 ですでに 酔 った人 もいるとい う しまつ になる。 もし空腹 だったら,空 腹 の人 は家 で食 事 を済 ませてか ら集 まりに行 きなさい。 (コ リン トの信徒へ の手紙 1 11021 ∼33)み んながイ 中良 くすることが大切 だ とい うことを述べ てい る。 また偶像 崇拝 をする神殿 で偶像 に供えられた肉を食べ ない ように戒 める場面 では, も.

(14) 184. 聖書にみられる食の意味. しそのような肉を食べ てい る所 をほかの兄弟 にみ られたとしたら,ほ かの兄 弟 の気持 ちもぐらつ く。「それだか ら,食 べ物 のことがわた しの兄弟 をつ ま ずかせる くらい なら,兄 弟 をつ まずかせないために,わ た しは今後決 して肉 を口にしません」 (コ リン トの使徒へ の手紙 18・. 13). 1)だ れと食 べ るか 見捨て られた人 々 と食事 をする イエスが徴税人マ タイと食事 をしてお られると,そ こに徴税人や罪人 も大 勢や って来 て,イ エスや弟子 たちと同席 していた。 ファリサ イ派. (イ. エス時. 代 のユ ダヤ教二大勢力の一派 で律法 を守 ることを強調 した)の 人々はこれを 見 て,弟 子 たちに,「 なぜ ,あ なたたちの先生. (イ. エス)は 徴税人. (ユ. ダヤ. 人か ら憎 まれ罪人 と同様 にみなされて い た)や 罪人 と一緒 に食事 をす るの か」 と言 った。 イエスはこれを聞いて言 われた。「医者 を必要 とす るのは. ,. 」 (マ タイの よる福音書 9・ 丈夫 な人ではな く病人で あ る。. 1∼. 13)イ エ スは. 徴税人や罪人など社会の見捨 て られていた人々と共 に食事 をしていたことが ・。 書 かれてい る 祭 りでは家族 や恵 まれない人 と共食する 祭 りとは三大祝祭 日. (徐 酵祭 ・過越祭 ,七 週祭 ,仮 庵祭 )を. で,虐、 子 ,娘 ,男 女 の奴隷 ,町 にい る レビ人. (イ. さす。神 の前. ス ラエ ルの司祭),ま たあ. なたの もとにい る帰留者 ,孤 児 ,寡 婦 などと共に喜び祝 い なさい ・10∼. 12)。. (申 命記 16. これは貧 しい人たちにたいする施 しの機会で もあ った。. 貧 しい人,身 体 の不 自由な人 を客人に迎 えよ イエスは招 いて くれた人に次 のように言 われた。昼食や夕食 の会を催す と きには,友 人 も,兄 弟 も,親 類 も,近 所 の金持 ちも呼んではな りません。な ぜ なら,そ の人たち も,あ なたを招 い てお返 しをす るか も知れない か らで す。宴会を催す ときには,む しろ,貧 しい人,身 体 の不 自由な人,足 の不 自 由な人,日 の見えない人を招 きなさい。そうすれば,そ の 人たちはお返 しが で きないか ら,あ なたは幸 いです。 (ル カによる福音書. 14・. 12∼ 14).

(15) 奥. 田 和. 子. 185. 放蕩 息子 でもごちそ うを イエス は次 の よ うなた とえ話 をされた。父親 には 2人 虐、 子 が い た。兄 の方 は家 でせ っせ と働 い て い たが ,弟 は放蕩息子 で家 出 し,放 蕩 の 限 りを尽 くし て家 に戻 って きた。 しか し,そ の放蕩息子 は 自分 の罪 を悔 い改 め詫 びを入れ た。父親 は肥 えた子 牛 を料 理 して食 べ させ祝 って や った。兄 は畑 か ら もど り,怒 って父親 に言 った「 この とお り,わ た しは何 年 もお父 さん に仕 えて い ます。 言 いつ け に背 い た こ とは一 度 もあ りませ ん。 それなの に,わ た しが友 達 と宴会 をす るため に,子 羊 1匹 す ら くれ なか ったで は あ りませ んか。 とこ ろが ,弟 には肥 えた子牛 を屠 って おや りにな る。 」 す る と父親 は,「 弟 は死 ん で い たの に生 き返 つたのだ。 い な くな っていたの に,見 つ か ったのだ。祝宴 を開 い て楽 しみ喜 ぶのは当 た り前 で は な い か」 (ル カに よる福 音書. 15・. H∼. 32). 2)ど こで食 べ るか一客席 のつ き方 イエスは,招 待 を受けた客が上席. (上 座 )を. 選ぶ ようす に気づいて,彼 ら. にた とえ話 をされた。婚宴に招待 されたら,上 席 に着 いてはならない。あな たよ りも身分 の高 い人が招かれてお り,あ なたやその人を招 いた人が来 て. ,. 「この方 に席 を譲 って ください」 と言 うか もしれない。その とき,あ なたは 恥 をかいて末席 に着 くことになる。招待 を受けたら,む しろ末席 に行 って座 りなさい。そ うす ると,あ なたを招 い た人が来 て,「 さあ,も っと上席 に進 んで ください」 とい うだろ う。その ときは,同 席 の人みんなの前で面 目を施 す ことになる。誰 で も高ぶる者 は低 くされ,へ りくだる者 は高 め られる。 (ル. カによる福音書 1407∼. H)上 席 を選 びたが る精神 は,裏 を返す と人 を. 見下げる精神 である。 これは讐えで,下 げた り,上 げた りするのは神 であ る の意"。 いちばん偉 い人は仕 える者になりなさい 使徒 たちの間 に,自 分 たちの うちでだれがいちばん偉 いだろ うか,と い う 議論が起 こった。そ こで イエスは次 の ように言 われた。「食事 の席 に着 く人.

(16) 186. 聖書 にみられる食の意味. と給仕 す る者 とは,ど ち らが偉 い か。食 事 の 席 に着 く人 で は な い か。 しか し,わ た し. (イ. エ ス)は あ なたが たの 中 で ,い わば給仕 す る者 で あ る。 (ル. カに よる福 音書 22・ 24∼ 30)上 に立 つ 人 は,仕 える者 の よ う にな りな さい とい う。. 6断. 食. 1)な んの ための断 食 か 断食 とは宗教 的 な動機 で一 定 の期 間 ,食 事 を断 つ こ とをさす。旧約 の時代 か らすで に実施 され ,新 約 の 時代 にお よぶ 。 はた して どの よ うな 目的 で され て い るのだろ うか。. a)悔 い改 め と祈 り 神 を忘 れるこ とへ の警告 罪 をつ ぐな い ,悔 や んで祈 りを捧 なが ら断食す る。「 肉体 的苦痛 を とお し て深 い 罪 の 自覚 と恐 れ を もって神 に近 づ く者 の熱心 な祈 りと悔 い改 め」 で あ る. 1°. )。. モーセは,エ ジプ トか ら脱 出 した イス ラエ ルの民 を引 き連 れて い た。 そ の 民 に向 か って ,モ ーセは次 の よ うに言 う。 ホ レブ. (シ. ナ イ山の近 くの 山 )に. いた とき,あ なたたちが神 を怒 らせ たので ,神 はあ なたたちに向か って激 し く憤 り,滅 ぼそ う とされた。 わた し (モ ーセ )は 神 が あ なたたち と結 ばれた 契約 の板 (十 戒 )を 受 け取 るため山 に登 つた とき,わ た し (モ ー セ)は 四十 日四十夜 ,山 に とどま り,パ ン も食べ ず水 も飲 まなか った。神 は神 の指 で記 され た二 枚 の 石 の 板 ,契 約 の 板 を授 け られ た. (申. 命 記 908∼. H)山. を下 り. て ,さ らにモ ーセ は続 けて言 う。 あなたたち は神 の 目に悪 と見 な され る こと (子 牛 の鋳造崇拝 )を して罪 を犯 し,神 を怒 らせ た,あ なたたち の全 ての 罪. ゆえに,わ た し (モ ー セ)は 前 と同 じように,四 十 日四十夜 ,パ ン も食 べ ず 水 も飲 まず主 の前 にひれ伏 した。 わた し (モ ーセ)は ,神 が激 しく怒 りに燃.

(17) 奥. 田 和. 子. 187. え,あ なたたちを減 ぼ され るので はない か と恐 れたが ,神 は この ときも,わ た し (モ ーセ )に 耳 を傾 け て くだ さった。 (申 命記 9・ 18,19)こ の よ うに モ ー セはイス ラエ ルの民 の犯 した罪 のため に断食 した。。. ,. イナ ゴによる荒廃 イナ ゴ と干 ばつ の害 にユ ダヤの地が 襲 われた とき,一 切 の もの ,神 殿 へ の 捧 げ物 さえ も失 われた。 そ の とき預言者 ヨエ ルは以 下 の よ うに民全体 に食 い 改 めの必 要性 を説 き,嘆 き悲 しむ よ うに呼 びか け る。 断食 を布告 し,聖 会 を召集 し 長老 をは じめ この 国 の民 をす べ て あなたたちの神 の神殿 に集 め 神 に向 か って嘆 きの叫 び をあげ よ。 (ヨ エ ル書. 1・. 14). ニ ネベ の悔 い改 め 預言者 ヨナはエ ネベ (ひ ど く憎 まれた都市 の住 人 )を 救済す る よ うに神 に 命 じられた。 ヨナは神 の命令 どお り,直 ちにエ ネベ に行 った。 エ ネベ は非常 に大 きな都 で ,一 回 りす るの に三 日かか つた。 ヨナは まず都 に入 り,一 日分 の距離 を歩 きなが ら叫 び,そ して言 った。「あ と四 十 日す れ ば ,エ ネベ の都 は滅 びる」す る と,エ ネベ の人 々は神 を信 じ,断 食 を呼 びか け ,身 分 の高 い 者 も低 い者 も身 に粗布 をま とった。 この こ とが ニ ネベ の王 に伝 え られ る と. ,. 王 は王 座 か ら立 ち上が って王衣 を脱 ぎ捨 て ,粗 布 をま とって灰 の上 に座 し. ,. 王 と大 臣 た ちの名 で 布 告 を出 し,エ ネベ に 断食 を命 じた。「人 も家 畜 も. ,. 牛 ,羊 に至 る まで ,な に一 つ 口に してはな らない 。食 べ る こ とも,水 を飲 む こ とも禁 じる。人 も家畜 も粗 布 をまとい ,ひ たす ら神 に祈願 せ よ。お のお の の悪 の道 か ら離 れ ,そ の手 か ら不法 を捨 て よ。そ うす れば神 が思 い直 され て 激 しい怒 りを静 め ,わ れわれは減 び を免 れ るか もしれ ない 。神 は彼 らの業. ,. 彼 らが悪 の道か ら離 れた こ とを御 覧 にな り,思 い 直 され ,宣 告 した災 い を く だす の をやめ られた」 (ヨ ナ書 303∼ 10) 使徒 パ ウ ロが ローマヘ 向 か って船 出す る とき,「 す で に断食 日 も過 ぎて い たので ,航 海 は もう危 険 で あ った。 それでパ ウ ロ は忠告 した。 」 (使 徒 言行録.

(18) 188. 聖書 にみ られ る食の意 味. 27-9)こ こに書 か れて い る この 時期 とは 「贖罪 日」 と同 じ日で あ る と思 わ れ る。 この 日はテ イシユ リの 月 の十 日 (太 陽暦 の十 月 ごろ)で ,大 祭司 は こ の 日に至聖所 に入 り,全 国民 が罪 の懺悔 のため に断食 をす る定 め になって い た」い. b)祈 願 ナ タ ンの叱 責 ダ ビデ. (イ. ス ラエ ルの王 )は ,戦 地 にい て不在 中 の男 ウ リヤ の妻 に心惹 か. れた。 あ ま りに美 しいの で誘惑 し,子 を産 ませ て しまった。神 はナ タン (預 言者 )を 使 って ,ダ ビデ. (イ. ス ラエ ルの 王 )に 告 げた。「 あ なた は神 に罪 を. 犯 したため に,生 まれて くるあ なたの子 は必ず死 ぬ」 と。神 は,ウ リヤ の妻 が産 んだ ダ ビデの子 を打 ち,そ の子 は弱 ってい った。 ダ ビデはそ の子 のため に神 に願 い 求 め ,断 食 した。七 日目にそ の子 は死 んだ。地面 に横 たわ り夜 を 過 ご して い た ダ ビデは起 き上が り,身 を洗 って香油 を塗 り,衣 を替 え,神 の 家 に行 って礼拝 した。王宮 に戻 る と,や っ と食事 を した。家 臣が尋 ね る とダ ビデは こ う言 った。「子 が まだ生 きて い る 間 は,神 が わた しを憐 れみ ,子 を 生 か して くだ さるか も しれ ない と思 ったか らこそ ,断 食 を して泣 い て い たの だ。 だが ,死 んで しま った。断食 した ところで ,何 になろ う。あ の子 を呼 び もどせ よ うか 。 」 (サ ムエ ル記下 モルデ カイ. 12・. 13∼ 23). "エ ステル を説得 する. 反対勢力が ユ ダヤ人根絶 をた くらんで い た。 そ こでユ ダヤ人であ るエ ス テ ル王妃 の養父 モ ルデ カイは,王 暗殺 の 陰謀 を察知 しエ ステル王妃 に伝 えた。 エ ステ ル (王 妃 )は ,モ ル デ カ イに返 事 を送 った。「早速 ,ス サ に い るす べ てのユ ダヤ人 を集 め ,私 の ため に三 日三晩断食 し,飲 食 を一切 断 って くだ さい。 わた しも女官 た ち と共 に,同 じよ う に断食 い た します。 (エ ス テル記. 4016)エ ステルはユ ダヤ人撲 減 の企み を知 らされて モ ルデ カイに断食 の指 示 を願 つた。 ユ ダヤ人絶減 を回避す るための神 へ の祈 りが こめ られて い る。 Ю 旧約 では断食 は しば しば 「祈 り」 と直結 して い る I。.

(19) 奥. 田 和 子. 189. パ ウロ暗殺の陰謀 使徒パ ウロはエ ルサ レムの境内で捕 らえられ,逮 捕投獄 された。夜が明け ると,ユ ダヤ人たちは陰謀 をた くらみ,パ ウロを殺す までは飲み食 い しない とい う誓 い を立てた。 このた くらみに加わ った者 は,四 十人以上 もいた。彼 らは司祭長 たちや長老 たちの ところへ 行 って,こ う言 った。「わた したち は,パ ウロを殺す までは何 も食べ ない と,固 く誓 い ました。 」(使 徒言行録 23. 012)こ の 目的を果たさなかったら自分 たちは呪 われるとい う自己呪証 ,固 い決意 である9。 バルナバ とサウロ1宣 教旅行に出発する ア ンティオキアの教会では,バ ルナバ とサウロなどが神 を礼拝 し,断 食 し て い る と,精 霊 (神 )の. (神. の霊 )が 告 げた。「 さあ,バ ル ナバ とサ ウ ロ をわた し. ために選 び出 しなさい。 わた しが前 もって二 人に決めてお いた仕事. に当 た らせ るために。 」そ こで,彼 らは断食 して祈 り,2人 は第 1回 宣教旅 行 に出発 させた」 (使 徒言行録 1301∼ 3)使 徒行伝録 を書 い た とされるルカ は,宣 教が神 の命令 であ ったことを明 らかにしてい る。断食 は神 の啓示 を受 ける準備 であるЮ。 イエスは公生涯に入るにあたって断食 をされた 「イエ スは “ 霊"に 導 かれて荒 れ野 に行 かれた。そ して四十 日間,昼 も夜 も断食 した後 ,空 腹 を覚 えられた。す ると,誘 惑す る者が来 て,イ エスに言 った。「神 の子なら,こ れ らの石がパ ンになるように命 じたらどおだ。 」 イエ スはお答 えになった。『人はパ ンだけで生 きる ものではない。神 の 日か ら出 る 1つ 1つ の言葉 で生 きる』 と書 い て ある。 (マ タイによる福 音書 401∼ 4)。. c)神 の 掟 を守 る 神 の祝 祭 日 神 はモ ー セ に言 わ れ た 。 この 日は贖 罪 日で あ り,あ なた た ち の神 の 御 前 に. おいてあなたたちのために罪の贖いの儀式を行う日である。この日に苦行を.

(20) 19o. 聖書にみられる食の意味. しない者 は皆 ,民 の 中 か ら断 たれ る。 (レ ビ記 23・ 28)ユ ダヤ教 にお い て. ,. 断食 は罪 を悔 い る心 の表 れ と して重視 されて い た。 それ は旧約 の古 い規定 に 由来す る もので ,と くに,大 贖罪 日 (ユ ダヤ 暦 7月 10日. )の 苦行 とは 断食. の こ とで あ る4。 苦行 とは,食 べ た り飲 ん だ りす る こ とを控 え る こ とで あ り,こ れ に よつて全 イス ラエ ルの罪 が 赦 され る'。 贖罪 日 以下 は ,あ なたたちの守 るべ き不変 の定 めである。第七 の 月 の十 日にはあ なたたち は苦行 をす る。 …… なぜ な ら,こ の 日は あ なたたち を清 め るため に 贖 いの儀式 が 行 われ ,あ なたたちの す べ ての罪責 が 神 の御前 に清 め られ るか らである。 これ はあなたたちに とつて最 も厳 か な安息 日であ る。 あなた たち は苦行 す る。 これ は不 変 の 定 め で あ る。 (レ ビ記 16029∼ 31)苦 行 (断 食 ) で は一切 の飲食 と入浴 が禁 じられた。 の ちに断食 は神 の前 でのへ りくだ りで あ り,こ の苦行 は贖罪 的効果 を もつ と解す る傾 向が強 くな った。 フ ァリサ イ 派 は年 5日 の定 め られた断食 のほか ,毎 週 月曜 日と木曜 日に これ を守 ってい た。 かれ らに とつて断食 は宗教 的功績 であ った. H)。. 苦行 とは 日常 的 な楽 しみ. を断 つ こ とを意 味 し,そ の 中 に断食 も含 め て 考 えて よい. (イ. ザ ヤ書 58・. 3). この 日は 自分 を含 めて住民全体 の罪 の贖 いの儀式 が きわめて厳 か に行 われて い る ことを思 い おのれ の罪 を悔 いて祈 るのである‖。 ベ テルの 呪 い 神 の 人 (預 言 者 )が ユ ダか らベ テ ル (エ ルサ レム 近 郊 の土 地 の 名 )に 来 て , ヨシアの誕生 と祭壇 が破壊 され るこ とを預言 した。 そ こで ,ヤ ロ ブア ム 王 は この預言者 を捕 らえ よ う と して手 を伸 ば した。王 の手 は萎 えて しまって 捕 える こ とがで きなか った。 そ こで ,王 が この預言者 に嘆願す る と手 は許 に 戻 った。王 は ,こ の預 言 者 にお礼 を差 し上 げ た い と言 ったが ,預 言者 は. ,. 「た とえ王 宮 の 半分 を くだ さ って も,わ た しは一 緒 に参 りませ ん。 ここで は パ ン を食 べ ず ,水 も飲 み ませ ん。主 の 言葉 に従 って ,「 パ ン を食 べ る な,水 を飲 むな,行 く とき通 った 道 に戻 って は な らな い」 と戒 め られ て い るので す。 (列 王記上. 1308)ヤ ロ ブア ム王 は,預 言 者 にお 礼 をす るつ も りで王 宮.

(21) 奥. 田 和. 子. に招 くが ,預 言者 は招 きを固辞 して帰途 につい たのは神 の掟 を守 るためであ った。. d)民 族 の 災 い を忘 れないよ うに記憶 に とどめる イス ラエ ルの民 は約束 の地 カナ ンに定住す る 間,苦 しい戦 い を した。 イス ラエ ル 同盟軍 はベニ ヤ ミン族 に立 ち向か って進撃 したが ,ベ ニ ヤ ミン族 に打 ち負 か され ,1日 目は 2万 2千 人 ,2日 目は 1万 8千 人 の兵 を失 った。 イス ラエ ルの 人 々は皆 ,そ のす べ ての軍団 と共 にベ テ ル に上 ってい き,神 の御前 に座 り込 んで泣 い た。 そ の 日,彼 らは夕方 まで断食 し,焼 き尽 くす捧 げ物 (動 物 の 肉 を全 部焼 い て捧 げ る)と 和解 の捧 げ物 (捧 げ ものの 肉 の一 部 を奉献者 そ の家族 が 会食 す る)を 神 の御 前 に捧 げ た。 (士 師記 20・ 21∼ 26) イス ラエ ル 同盟軍 はベニ ヤ ミン族 との 第 1日 目の 戦 い に敗 北 し,さ らに第 2 日目の戦 い に も敗 れ罪 のため に泣 い た。 そ の後 ,イ ス ラエ ルの民 はバ ビロニ ア との戦 い に敗 れ ,多 くの者 が捕虜 と してバ ビロニ アに連 行 された。 バ ビロ ンの捕 因 で あ る。捕 囚期後 のゼ カ リア 時代 には,以 下 の よ うに年 4回 の 断食が定 め られて い た。。. 1. エ ル サ レムが バ ビロ ンの 王 ネ ブ カ ドネ ッ ァル に よって包 囲 され た 時. 2 3 4. エ ルサ レムが 攻略 された とき (列 王記下 2504). (列 王記下. 2501). エ ルサ レムの神殿 が破壊 された とき (エ レ ミヤ 5206) テ イシ ュ リの三 日―ゲ ダルヤの 断食 (列 王記下 25025). e)自 分 を誘惑 か ら守 り精神 を鍛 えるため さて ,イ エ ス は悪 魔 か ら誘惑 を うけ るため ,“ 霊 "に 導 かれて 荒 れ野 に行 かれた。 そ して四十 日間 ,昼 も夜 も断食 した後 ,空 腹 を覚 え られた。 」 (マ タ イに よる福 音書 401)食 べ 物 が な くな り,一 同 は神 の 護 りを疑 ったが ,神 は不信 の民 を養 った。神 は あえて苦 しめ試 されたり。 イエ ス は精霊 に満 ちて ,ヨ ル ダ ン川か らお帰 りになった。 そ して荒れ野 の.

(22) 192. 聖書にみられる食の意味. 霊 "に よつて引 き回 され ,四 十 日間 ,悪 魔 か ら誘 惑 を受 け られた。そ 中を “ の 間 ,何 も食 べ ず ,そ の期 間 が終 わ る と空 腹 を覚 え られ た。 (ル カに よる福 音 書 4・ 1∼ 3,マ タ イに よる福 音 書 4・ 1∼ 4,マ ル コ に よる福 音 書 109∼. 11). ・. f)自 己嫌悪 か ら新 しい境地 を求 めて エ ステル王妃 はハマ ン (王 に次 ぐ地位 の大 臣)の ユ ダヤ人絶減 の策略 を一 部始終知 らされ ,勅 使 が 届 い た所 では, どの州 で もユ ダヤ人の間で大 きな嘆 きが起 こった。多 くの 者 が粗布 を ま とい ,灰 の 中 に座 って 断食 し,涙 を流 し,悲 嘆 に くれ た。 (エ ス テ ル記 上 4・ 3)こ の 断食 は 自分 の 無価値 ,愚 か さ の ためであ るЮ粗布 をまとい ,灰 をかぶ るの は,嘆 き,悲 しみ と同時 に罪 を 悔 や む じる しで あ る。断食 は しは しば しば祈 りに ともな う宗教 的行 為 で あ る5。. g)人 間 の痛 み へ の同情 の表現 ダ ビデ "サ ウルの 死 を知 る サ ウル王 はペ リシテ軍 との戦 い に破 れて戦死 した。陣営 か ら一 人 の男が そ の報告 にた ど り着 い た。 それ を聞 い た ダ ビデは 自分 の衣 をつ かんで引 き裂 い た。共 に い た者 は皆 それ にな ら った。「彼 らは,剣 に倒 され たサ ウ ル とその 子 ヨナ タ ン,そ して主 の民 とイス ラエ ルの家 を悼 んで泣 き,夕 暮 れ まで断食 した。 」 (サ ムエ ル記下. 1012)こ れは人 間 の痛 みへ の 同情 の表現 で ある. 1:)。. h)節 制 預 言者 セ ガ リヤ は神 に尋 ね た。「わた しは,長 年実行 して きた よ う に,五 月 には節制 して悲 しみ の ときを持 つべ きで しょうか」 (ゼ カ リヤ 703). 2)断 食の規則 神 は再 びイスラエルの民 とユ ダの家 に幸 い をもたらす決意 をされた。そ し.

(23) 奥 田 和 子. 193. て民 に向 か って ,あ なたが たは,真 実 を語 り,真 実 と正 義 に基 づ いて平和 を もた ら しな さい 。偽 りの誓 い をす るな。 そ うす れば ,四 月 の 断食 ,五 月 の 断. 食 ,七 月の断食 ,十 月の断食 はユ ダの家が喜び祝 う楽 しい祝祭 の時 となる。 あなたたちは真実 と平和 を愛 せ。 (ゼ カ リヤ書 8018)捕 囚期後 のゼカ リヤ の時代 には,年 四回の断食が定 め られていた② 「わた しは週 に三度 断食 し,全 収入 の十分 の一 を献 げ て い ます。 ところ が,徴 税人 は遠 くに立 って……」 (ル カによる福音書 18012)パ リサイ人 は 週 2回 の断食が習慣 であ った。. 3)断 食 の方法 断食 の本質,つ まりなにが真 に神 に従 う道 であるかについて,次 のように 述べ られてい る。 何故あ なたはわた したちの断食 を顧 みず 苦行 をして も認めて くださらなか ったのか。 見 よ,断 食 の 日にお前たちは したい事 をし お前 たちのために労す る人々を追 い使 う。 見よ お前 たちは断食 しなが ら争 い とい さかい を起 こ し 神 に逆 らって,こ ぶ しを振 る う。 お前 たちが今 してい るような断食 によつては お前 たちの声が天 に聞かれることはない。 そのようなものがわた しの選ぶ断食 苦行 の 日であろうか。 葦 のように頭 を垂れ,粗 布 を敷 き,灰 をまくこと それを,お 前 は断食 と呼 び 神 に喜ばれる日と呼ぶのか。. わた しの選ぶ断食 とはこれではないか。.

(24) 194. 聖書にみられる食の意味. 悪 に よる東縛 を断 ち,輌 の結 び 目をほ どい て 虐 げ られた人 を解放 し,軌 をこ とご と く折 るこ と。 更 に,飢 えた人 にあ なた のパ ンを裂 き与 え さまよう貧 しい 人 を家 に招 き入れ 裸 の 人 に会 えば衣 を着 せ かけ 同胞 に助 け を惜 しまな い こ と。 そ うす れば,あ なた の光 は曙 の よ うに射 し出で あなた の傷 はすみやか に癒 や される. (イ. ザ ヤ書. 58・ 3∼ 8)。. 以上の よ うに,断 食 の行為 自体が 目的 となる危険性 を警告 して い る。 輛 (二 頭 の牛 な い しはろば を一 組 に結 びつ け る木 の棒 と網 :い わゆ る道 具 ) は比喩 的 に奴隷状態 をさす。土地 ,労 務 ,家 族 ,自 分 自身 を売却 して債務奴 隷化 して い く貧 しい者 と,そ れ を搾取す る富 め る者 とが 分離 して い った この 時代 背景 の なかで ,こ う した隷属 関係 は許 され るべ きで はない と主 張 して い る。形式 的 に断食や安息 日を守 る ことでで な く,む しろ社会的正 義 の実現 と つ 同胞愛 の実践 で あ る 。 断食す る ときには,あ なたが たは偽善者 の よ うに沈 んだ顔 つ きを してはな らない。偽善者 は,断 食 して い るの を人 に見 て もらお う と,顔 を見苦 しくす る。 はっ き り言 ってお く。彼 らはすで に報 い を受 け て い る。 あなた は断食す る とき,頭 に油 をつ け,顔 を洗 い な さい。 それ は,断 食が人 に気 づ かれず. ,. 隠れた ところにお られるあなたの父 (神 )に 見 て い ただ くためであ る。 そ う すれ ば,隠 れ た こ とを見 てお られ るあ なたの父が 報 い て くだ さる。 (マ タイ に よる福 音書 6・ 16∼ 18)正 しい信仰 の 実践 は,人 の 賞賛 をあて にす るので はな く,隠 れてす る ことを勧 め る。断食 は祈 りよ りもす ぐれて い る。 断食 についての 間答 人 々は イエ ス に言 った。「 ヨハ ネ の 弟 子 た ち は た び た び 断食 し,祈 りを し,フ ァリサ イ派 の弟子 たち も同 じように して い ます。 しか し,あ なたの 弟 子 たちは飲 んだ り,食 べ た りして い ます。 」 そ こで ,イ エ スは言 われた。「花 婿が 一緒 にい るの に,婚 礼 の客 に断食 させ る こ とが あなた にで きようか。 し.

(25) 奥. 田 和 子. か し,花 婿 が奪 い取 られ る時 が 来 る。 そ の時 には,彼 らは断食す るこ とにな る。 」 (マ ル コ に よる福 音 書 2・ 18∼ 20,マ タイ に よる福 音 書 2104∼ 15,ル カに よる福 音書. 5・. 33∼ 35). 形式化 して しま うこ とへ の 戒 め そ の とき,万 軍 の主 (神 )の 言葉 がゼ カ リヤ預言者 に くだ った。 「 国 の民 す べ て に言 い な さい 。 また司 祭 たち に も言 い な さい 。五 月 に も,七 月 に も,あ なたたちは断 食 し,嘆 き悲 しんで きた。 こ う して七十 年 に もなる が ,果 た して ,真 にわた しのため に断食 して きたか。 あなた たちは,食 べ る に して も飲 むに して も,た だあ なたたち自身 のため に食 べ た り飲 んだ りして きただけで はないか 。互 い にい たわ り合 い ,憐 れみ深 くあ り,や もめ ,み な しご,寄 留者 ,貧 しい者 らを虐 げず ,互 い に災 い を心 にた くらんで はな らな い。 」 (ゼ カ リヤ 704∼ 10)神 は宗教 儀 礼 に従 う こ とに終 始 す る よ りも,親 切 な行 い を喜 ぶ こ とを示 して い る。 断食 を褒 め られよ うとするな 「神様 ,わ た し (パ リサ イ派 の 人 )は ほかの人 たちの よ う に,奪 い取 る者 の よ うな者 で ない こ とを感謝 します。 わた しは週 に 2度 断食 を し……」 とあ り,パ リサ イ派 の 人 は週 2回 断食 を して い た。 しか し,神 は これ を褒 めず に 「だれで も高 ぶ る 者 は低 くされ ,へ り くだ る者 は 高 め られ る」 と戒 め て い る。 (ル カによる福 音書 18010∼ 14). 7. 飢 饉 な どの 災 害. 飢饉 など ダビデの世に,3年 続 いて飢饉 が襲 った。 (サ ムエル記下 2101)ソ ロモ ン は神 に次 のように祈 った。イス ラエルの地に飢饉が広が り,疫 病がはやった り,黒 穂病 ,赤 さび病 ,い なご,ば ったが発生す るなどなどの災いが起 こっ た ときにも,ど うかわた したちの願 い にこたえて下 さい。 (列 王記上 8037 ∼39).

(26) 196. 聖書にみ られる食 の意味. 干 ばつ 干 ばつが来る ことを預言者 エ リヤが告げた。「 しば らくたってその川 も涸 れて しまった。雨が この地方に降 らなかったか らである」 (列 王記上. 17・ 7). サマ リアはひどい飢饉 に襲 われていた。 (列 王記上 1802) 人喰 い サマ リアは大包囲が続 く中,大 飢饉 にも見舞 われていた。つい にろばの頭 一つが銀八十 シェケル (銀 貨 :1シ ェケル=約. 5。. 6g),鳩 の糞四分 の一 カブ. が五 シェケルで売 られるようになった。 イスラエルの王が城壁 の上 を通 って 行 くと,ひ と りの女が彼 に向かって叫 んだ。王が「何 があったのか」 と尋 ね る と,彼 女 は言 った。 この女が わた しに,「 あなたの女 の子供 を ください。 今 日その子 を食べ ,明 日はわた しの子供 を食べ ましょう」 と言 うので,わ た しはわた しの子供 を煮 て食べ ました。 しか しその翌 日,わ た しが この女 に 「あなたの子供 を ください。その子 を食べ ましょう」 と言 い ます と,こ の女 は 自分 の子供 を隠 して しまったのです. (列 王記下 6024∼ 29). 略奪 エルサ レムがバ ビロンの軍 に包囲されたその月の 9日 に都 の中で飢 えが厳 しくな り,民 の食料が尽 き,都 の一角が破 られた。 (列 王記下 25・. 3). 救援の品 ア ンテイオキアの教会でイエスの弟子が宣教 していた頃,エ ルサ レムか ら 預言者がやって来た。その中の 1人 のアガボとい う者が立 って,大 飢饉が起 こると “ 霊"に よって予告 したが ,果 た してそれはクラウデ イウス帝 の時 に 起 こった。そ こで,弟 子 たちはそれぞれの力 に応 じて,ユ ダヤに住 む兄弟 た ちに援助 の品を送 ることに決めた。 (使 徒言行録 H・ 27∼ 29) 備蓄 豊作 の 7年 間,大 地 は豊 かな実 りに満ちあふれた。 ヨセフはその間にエ ジ プ トの国中の食料 をで きるか ぎり集 め,町 々に蓄 えさせた。7年 間の大豊作 が終わると,ヨ セフが言 ったとお り7年 間の飢饉が始 まった。その飢饉 は全 ての国 々を襲 ったが,エ ジプ トには,全 国 どこにで も食物があ った。世界各.

(27) 奥 田 和 子. 197. 地 の 人 々 も穀物 を買 い にエ ジプ トの ヨセ フの も とにやつて来 るよ うになっ た。世界各地 の飢饉 も激 しくなったか らであ る。 (創 世記 41053∼ 54). ま. め. 聖書が述 べ る人 間 の基本原理 ,基 本姿勢 は,神 を信 じてその栄 光 を讃 える こ とであ る。人 間 の生 きる 目的 はそ の 成就 にあ る。具体 的 な生 き方 と して. 1)欲 望 の 制御 ・禁欲 2)博 愛 主義 3)神 へ の祈 りが 奨励 され る。 したが っ て ,食 べ る こ とは ,生 きる こ との一 部 であ り,こ の基本原理 の枠組 み にて ら して厳 し く規定 され て い る。す なわ ち,1)に つ い て は快 楽 ,楽 しみ ,飽 食 を戒 め ,節 食 ,時 に応 じて 断食 を勧 め る。2)│こ つ い て は食 べ 物 の独 り占 め を戒 め ,他 者 へ の 分 配 ,貧 者 ,弱 者 へ の 気 配 り,貧 者 ・弱 者 との 共 食 ,節 食 ,時 には断食 を して他 人 に与 える。他者 との つ なが りを重要視 しコ ミュニ ケ ー シ ョン を大切 にす る。3)食 前 食後 ,贈 り主 であ る神 へ の感 謝 の祈 り ,. 食 べ 物 を もらうための祈 りな どで あ る。 さらに,食 べ 物 は,困 難 な過去 を想 起す るための記念 ・祭 りや キ リス トの苦難 を想起す るための宗教 的 な儀式 の 媒体 として文化 的 な役割 を担 う。 具体 的 には,阪 神大震災 で は食 べ 物 のない 人 々のため にボ ラ ンテ イアが働 い たが一 時的 で あ った。 しか し,教 会 に属す る人 々は,自 分 の食 べ 物 を持 ち 寄 ってホーム レスの 人 々 に絶 えず食 事 を供 給 して い る。他 人 のため に自己の 欲望 を制御 す る恒常 的 ボ ラ ンテ イア精神 と行動原理 が 食行動 に貫 かれて い る とい え よ う。 この基本原理 は,個 人 の欲望 を抑 える こ とに よ り,集 団社会 との共 生 を達 成す るためで あ り,そ の よ うな行動 パ ター ンが崇高 な精 神性 に もとづ くこ と を意 図 して い る。今 日,食 物科学 がめ ざす個 人 の栄養 ・健康管理 は数量化. ,. テ クニ カル化 へ と向 か い ,個 人主義的 な視野 に依拠 しが ちな視点 とは異 な っ た。 この研 究 を とお して ,食 べ 物 が たん に栄 養 や健康 を支 えるため の. `も. の. '.

(28) 198. 聖書 にみ られ る食 の意味. で は な く,精 神 を運 ぶ 媒 体 と して 受 け 止 め る こ とが で きた の は 大 き な発 見 で あ った。 文. 1)共 同訳 聖書実行委員会. :聖 書. 献 旧約聖書続編 つ き 新 共 同訳. 日本 聖書協 会. 1997. 2)廣 部千恵子 ,横 山 匡 :新 聖書植物 図鑑 p.147 教 文館 1999 3)ジ ョン・ボ ウカー編著 :聖 書 百科全書 p.343 三省堂 2000 4)船 本弘毅 :聖 書 の世 界 一新約 を読 む,聖 書 の 世 界 ―旧約 を読 む p.72,74 創元社. 5)高 橋. 1997 虎 ,B.シ ュ ナ イ ダ ー 監 修 ,石 川 康 輔 ,木 田献 一 ,左 近 淑 ,野 本 真. 也 ,和 田幹男編集 :新 共 同約. 旧約聖書注解. エ ス テ ル記 , 日本 キ リス ト教 出版局. 6)厚 生省保健 医療局 虎 ,B。. 8)A.リ. 2000. シ ュ ナ イ ダ ー 監 修 ,石 川康 輔 ,本 田献 一 ,左 近 淑 ,野 本 真. 也 ,和 田幹男編集 :新 共 同約 キエ ル書. 創 世記 ∼. :食 生活指針 (健 医発 第 503号 )食 事 を楽 しみ ま しょう―. こころ とか らだにお い しい食事 を. 7)高 橋. I p.34,235,847. 1996. 旧約聖書注解 Ⅱ. 日本 キ リス ト教 出版 局. p.232,366. ヨブ記 ∼エ ゼ. 1996. チ ヤー ドソ ン J.ボ ウデ ン,古 屋安雄監修 :キ リス ト教神学事典. 教文館. p433. 1995. 9)松 田伊作 ほか責任編集. :旧 約聖書創世記. I p.46,74,341,647. ダニエ ル記. エ ズ ラ記 ,ネ ヘ ミヤ記 XⅦ まで全 14巻 岩波書店 1998∼ 1999 10)泉 田 昭 ほか編 :新 聖書事典 p.160,600,816 いの ちの こ とば社 出版部 1985. 11)高 橋. 虎 ,B。. 徒言行録. 12)高 橋. シ ユ ナ イ ダー 監修 :新 約聖書 注解 Ⅲマ タイに よる福 音 書 ∼使. p.74,647. 虎 ,B。. 日本 キ リス ト教 団出版 局 1991. シ ユ ナ イ ダ ー 監 修 ,石 川 康 輔 ,木 田献 一 ,左 近 淑 ,野 本 真. 也 ,和 田幹男編集 :新 共 同約 ト書 ∼マ ナセの祈 り. 旧約聖書注解 Ⅲダニエ ル書 ∼マ キ ラ書 , トビ. p.83,169. 日本 キ リス ト教 出版局. 1996. お 旧約 は 創 世 記 ,出 エ ジ プ ト記 ,レ ビ記 ,民 数 記 ,申 命 記 ,士 師 記 ,ル ッ 記 ,サ ムエ ル 記 上 ,下 ,列 王 記 上 ,下 ,エ ス テ ル 記 ,コ ヘ レ トの 言 葉 ,イ ザ ヤ (な. 書 ,エ レ ミヤ書 ,ヨ エ ル書 ,ヨ ナ書 ,ゼ カ リア書 で ,新 約 は マ タイ,マ ル コ,ル カ,ヨ ハ ネに よる福音書 ,使 徒 言行録 ,ロ ーマ の信徒 へ の 手 紙 ,コ リン トの信 徒 へ の手紙 であ る).

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参照

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