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「受験競争」論再考

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Academic year: 2021

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(1)「受 験 競 争」論 再 考 森. 永. 智. 子. い。テス ト直前 になると,各 テス トをしの ぐためだけ 1。. の場当た り的な勉強が繰 り返 され,そ の勉強 は入試ヘ. 問 題 の 所 在 と調 査 の 概 要. 向けて継続的 に蓄積 されない。 また,② そうした彼 ら 本稿 は,「 高校受験 をす る全 ての 中学生が,受 験競. の 日常 の諸相 か らも,彼 らの 日常 における意識は,必. 争 に巻 き込 まれてい る と果 た して言えるのだろ うか」. ず しも受験 に向けて構造化 されてい ない とい うことが. 「高校受験 をひかえた全 ての 中学生が ,い わゆる受験. い えよう。③彼 らは受験 を前 に して も,受 験体制 に必. 競争論 の論理 に従 って行動 してい る と言 えるだろ う. ず しも包絡 された日常 を送るわけではな く,自 らの楽 しみを犠牲 には しない。 さらに,彼 らの進路選択 プロ. か」 とい う疑問か ら端 を発 してい る。私 は,彼 らのす る勉強や受験 が ,学 歴社会ひいては受験競争 の文脈 で. セスを追 ってみると④彼 らの進路選択意識が,雰 囲気. ばか り説明 されることへ の疑問か ら,一 つの調査 を試 みたい 。その調査 によって,対 象者 たちの勉強観 と受. がる, とい うような受験競争論 で言 われるような価値. 験観 を,受 験競争論 の文脈 にとらわれることな く,彼. 観 とは異なる方向性 をもってい ることが分か る。彼 ら. らの 日常生活 の 中で捉 えようとした。. の進路選択意識 は,自 己の成績 に照準 させた高校 ラ ン. が よい,あ こがれの制服 が着 られる,将 来の夢 につ な. まず ,第 一の調査 は,H tt H学 区にお い て,あ や. クに規定 されるとい う一元的な説明ではす くい きれな. か, じゅん じ,せ い こ, た け し,ゆ か,れ い な (仮. いのである。 また彼 らは,⑤ 親や教 師の進路選択基準. 名)と い う 6名 'の 公 立 中学生 (女 4人 ,男 2人 )に. をも自らの選択 方法 の中へ納得 の行 く形 で取 り込 んで. 対 して ,1999年 度 と 2000年 度 にそれぞれ 継続 的 に一. い く。. 年 間な い し二 年 間 にわ た り実施 した 聞 き取 り調査 "で あ る。 イ ン タ ビュー調査 で は ,対 象者 たちの 日常感 覚. 以下の議論は,こ れ らの調査 か ら得 られた知見の上 に成 り立つ ものである。. を描 きだす ため に,多 くは一 問一 答形式 を とらず ,会. さて受験競争論 とはどのような理論 として確 立 され. 話 の流 れの 中にあ る彼 らの受験 や勉 強 へ の語 りを記述. てい るだろ うか。最 も洗練 された竹内 による受験競争. した。 そ うす る ことで ,彼 らの 日常 にお ける受験 や勉. の説明 をたよりに,受 験競争論 の構造 をまとめる。 ま. 強 に対 す る率直 な思 い が 浮 き彫 りになる と考 えたか ら. た,受 験競争論 においては,受 験生 はどのように描 か. で ある。そ こか ら捉 えた対象者 の勉 強観 や受験 観 は. れるのか を記 してお く。具体 的 には,受 験生 の捉 え. ,. 彼 らの 日常生活 の 中 で , どの よ うに位 置付 け られ るの か も分 か る。 第二 の調査 は,同 学 区 の. H市 立 K中 学校 の 中学 二. 方,さ らには,受 験生 の勉強 に対する意識,受 験生 の 進路選択方法 と進路選択意識 の捉 え方について再確認 す る。. 年 生 70名 と三 年 生 63名 を対象 と した質問紙調査 で あ. 本稿 の 目的は,調 査対象 となった受験生 6人 か ら得. る。これ は,イ ン タ ビュー調査 を補 うべ く,2000年 10. られる受験観 や勉強観が,受 験競争論 の文脈内で捉 え. 月 に実施 した もので あ る。. られるのか どうかを考 えることである。そ して,も し. 第 三の調査 は ,イ ン タ ビュー調査 の対 象 とな った 6. うまく捉 えられない ならば,ま た彼 らに見る受験生像. 人 の 中学生 の 親 と,イ ンフ ォーマ ン トの 6人 以 外 の 中. が受験競争論 の描 い た受験生像 に適合 しないならば. 学 生 を子 に持 つ 親 へ の イ ン タビュー で あ る。 中学教 師. これまで述べ た調査結果 を拠 り所 にして受験競争論 に. へ の イ ン タ ビュー も含 む。. 再検討 を加える ことにする。. 調査 か ら得 られた知見 とは,① 彼 らの 日常生活世界 においては,勉 強 と受験 との間に連続性が認め られな い とい うことで ある。対 象者 の勉 強 には継続性 が な. ,.

(2) 甲南女子大学大学 院論 集 第 3号. 22. 人間科学研究編 (2005年 3月 1980)。. 2.受 験競争 の メカニ ズム. ). 採 用後 は,さ まざ まな職務 を経 験 し,そ の 能. 力 を組 織 内 で獲得 して,高 め なが ら,ハ イアラー キ ー の なか を上 昇移動す る。 こ う したホワイ トカラー職業. 竹 内 は受験競争が なぜ 激化す るのか とい う問題 を提. は「内部昇進型」キャリアパ ター ンをもつ とされる。. 起 し,受 験競争激化 の論 理 を説 明 した (竹 内 1995)。. この内部昇進型 の職業キャリアは,訓 練可能性 をあ ら. 受験競争 が なぜ過熱化す るのか を解 き明か した ,最 も. わす学歴 と,不 可分 の関係 にあるとい う。. 洗練 された研究者 であ る。それ まで は ,受 験競争論 と. 特定 の専門的知識や技術 を必 要 としない職業分野 の. い えば ,学 歴 の社 会経 済的地位達成 に主 眼 を置 い た も. 拡大 とい う職業構造 の変化 は,教 育 の「普通」 ない し. のが主 流 で あ った。竹 内 は この学 歴 の社会経済的地位. は「教養」教育化'と 対応的な関係 にある と天 野 は指. 達成 に主眼 を置 い た学歴社会論 を学歴社会 I論 と呼 ん. 摘 した。 ホワイ トカラーに代表 される専門的知識や技術 を必. で い る (竹 内 1995)。 竹 内 は,「 学 歴社 会 Iに 照準 した研 究 の 知 見 は 日本. 要 としない職業 には,あ らか じめ特定 の専門的能力 を. は学歴決定社会 か らほ ど遠 く,学 歴有意社会 とい った. 獲得 してい る必 要 はな くて も,一 定水準以上の一般的. 1995:92)と 述 べ ,学 歴社. な知的能力が必 要 とされた。以前 は,中 等教育修了の. 会 I論 か らは受験競争 の発生す るメカニ ズム は説明 で. 学歴で,官 僚制的な組織 のなかでの「内部昇進型」 の. きな い との 見 解 を示 す (竹 内 1995)。 そ こで ,竹 内. キャリアをスター トしていた ものが,日 本 の ように高. は ,学 歴社 会 I論 か ら学 歴の 象徴 的価値 に照 準 した学. 等教育 の大衆化が著 しく進 んだ国では,中 等教育修了. 歴社 会 Ⅱ論 ,受 験社 会論 へ の パ ースペ クテ イブの転換. にかわって高等教育修了の学歴が,採 用 の際の基礎的. の もので しか ない」 (竹 内. を促 した。 そ して選抜 システム 刻 印論. 4の. 立場 か ら. ,. な資格 となるとい う。高学歴化が進み,一 般的な知的. 竹 内 は受験 システムの 自立化 /自 己準拠化 に受験競争. 能力 をもったもののプールが,中 等段階か ら高等段階. 過熱 の 説明根拠 を求 めて い る (竹 内 1995)。. にまで拡大すれば,企 業 は,訓 練可能性 の より大 きい もの,つ まり訓練 コス トのよ り少ない ものか ら,優 先. 2-1.学 歴社会 I論 にお ける受験競争論. 的 に採用 して い くだろ う と天 野 はい う (天 野 1984:. 竹 内 以 前 の受験競 争 の説明 で は ,天 野 (1984)が 代. 124)。. 優 先 的採 用 は ,ま ず 第 一 に ,中 等 教 育 卒 よ りも高等. 表的 であ ろ う。 天野 は,受 験競争 を 日本 の学歴社会 の構造 内 の もの. 教 育 卒 ,高 等 教 育 卒 の 中 で は 短 大 卒 よ り大 学 卒 ,大 学. と して捉 えて い る。特 に,学 歴社 会 におけ る職業構造. 卒 よ りは大 学 院卒 とい う よ う に ,高 学 歴 者 優 先 の 形 で. に受験競争 の原 因が あ る と説 明 して い る。. 進行す るとされる。第二に,同 一学歴 をもつ ものの う. 天野 に よれば , 日本 の経 済復興 と高度経 済成長 は. ,. 職業 の 世界 に構造 的 な変化 を もた ら した。 この構造 的. ち,成 績優秀者優先 とい う形 をとる。第 三 に,「 学校 歴」が重視 される。. 変化 は産業構造変化 で ,最 も特徴 的 で あ る と天野がみ. 教育 の大衆化 の進行過程 で,学 校間 には入学者 の選. るの は ,管 理 的 ・事務 的職業 に従事 す るホ ワイ トカラ ー と,第 三次 産業 に働 くセ ールス を主 体 と した職業 人. 抜 の違 いによる格差が生 まれ,ハ イアラーキカルな構 造 が形成 される。ハ イアラーキーが形成 されると,学. 口 の増大 だった。 この二 つ の社 会層 には,一 定 の一 般. 校 は知的能力による選抜機能 を果 たす ようにな り,企. 的 ・知 的 な能力 の必 要性 はあ るが ,特 定化 され ,高 度. 業 はハ イア ラーキーの頂点部 に近 い学校 か ら順次 ,卒. に専 門化 された知識 ・技術 は必 要 な い とい う共通点 が. 業 生 を採用 して い くので あ る。. あ った とい う。 そ して ,学 歴主義 との 関係 で と くに重. 企業が学歴 (学 校歴 )に よって ,人 々 を序 列化 し. 要 であ る と天 野が見 たのが ,ホ ワイ トカラー職業 だ っ. そ の上 位 か ら採用す る とい う制度 が 一般化す る とき. た (天 野 1984:123)。. 必 然的 な結 果 と して ,受 験競争 の 激化が生 じる。 受験. 官僚制化 の進 んだホ ワイ トカラー職 の組織 は,職 務 の 分化 したハ イアラー キ カル な構造 を もつ 。職務 を遂. ,. ,. 競争激化過程 につい ての天 野 の説 明 は以 下 の よ うにな る。. 行す るには専 門分化 した知識 や技術 が必 要 だが ,採 用. 採 用 の 順 位 が 学 歴 に よ り序 列 化 され て い る こ とか. に関 しては,特 定職務 の専 門的能力 に応 じてな された. ら,人 々は そ の 序 列 の上 部 の 位 置 を占め るの に必 要. わけで はなか った。選抜 ・採用 は ,サ ロ ウが 「訓 練可. な,よ り高 い学歴 を獲得 す るため に,上 級学校 へ の進. 能性」 とよんだ一 般 的能力 に応 じて な され た (サ ロ ウ. 学 をめ ざ し,進 学率が上が る。進 学率 上 昇 の結果 ,高.

(3) 「受験競争」論再考 森永 智子 三. 学歴化 が進 む。 高学歴化 が進 めば,人 々は よ り高 い成. 2-2.竹 内洋 による受験競争論. 績 を手 に入 れ るため に競争す る。高 い成績 は,序 列上. 学歴社会 Ⅱ論 とは,学 歴 の象徴 的価値 に照準 した も. の順位 を高 め る と同時 に,上 級学校 ,さ らには一流校. ので あ る。竹 内 は,学 歴社会 Ⅱ論 の説 明 を梶 田 の論 に. へ の進学 に重 要 な条 件 で あ るため ,成 績競争 は次 第 に. 拠 ってい る (竹 内 1995)。 梶 田は,学 歴 問題 ,ひ い ては受験競争 を,社 会的地. 下級 の学校 に も広 が る (天 野 1984:125)。. 進学率が高 ま り,学 歴 の大量生産が行 われると,学. 位 や収 入等 の面 か ら吟味 す るだ けで は不十分 で あ り. ,. 校 間格差が広 が り,「 学校歴」 が重要性 を増 し,人 々 は一流校へ の進学 をめざして激 しく競争す る。受験競. 人 々の 共有す る「 まな ざ し」 の面 か ら,そ してそれ に. 争 はやがて,特 定学部へ の進学希望者 の集中 とい う形. か らも吟味 して い く必 要性 があ る こ とを指摘 して い る. で も起 こるようになる。. (梶 田 1983)。. 天野は,こ うした競争 の過程 はいったん始 まると ,. よって形成 され規定 され る 自己へ の 「 まなざ し」 の面. 梶 田 は,日 本 で は,ど の学校 に進 んだのか ,ど の学. ほとんど無限に続 くと指摘す る。学校教育 システム内. 校 を卒業 したのか , とい う こ とが ,多 くの 人 々か らの. で上層 を占める学校 ほど,ま たその中で も一流校 とさ. 「 まな ざ し」 を規 定 す る もの になって い る とい う意味. れる学校 ほど,多 数 の優秀 な志願者 を集 め,厳 しい選. にお い て ,学 歴 の心理構造 を説明 した。最終的 に卒業. 抜 によつて高 い知的能力 をもった学生 を送 り出す こと. した学校が ,東 京大学 なのか ,有 名私 立大学 なのか. がで きる。企業が,そ うした学校教育 システムの選抜 機能 を信頼 し,高 学歴 ・高学校歴 の ものか ら順 に優先. それ とも地方 の無名 の大学 なのか , も しくは高卒 な の か とい った情報 に接 す るだけで ,周 囲 か らの「 まな ざ. 的な採用 を行 うと,教 育 システムの もつハ イアラーキ. し」 は大 き く変 わって くる とい うのだ。 それ に伴 い. カルな構造 は強化 され,競 争 が激 化す る とい うのだ. 当事者 自身 は,周 囲 の 人 の「 まな ざ し」 の 中で価値 あ. (天 野 1984:126)。. る もの とされれ ば,自 らをそ の よ うな もの として見 る. では ,な ぜ ,そ う した職 を人 々は 目指す のか 。天野. よ うになる とい う。有名大学 を卒業 して い る こ とは. ,. ,. ,. に よる と,学 歴主義 的 な採用 を行 う大企業 や 官庁 ,ホ. 自他 の「 まな ざ し」 の 中 で ,人 間 と して の基本 的価値. ワイ トカラー職種 が ,人 々 か らもっ とも望 ま しい とさ. が 高 い こ とを,社 会 的毛 並 み の 良 い こ とを,つ ま り. れ る部 分 を 占 め て い るか らだ とい う こ とに な る。 な. 「貴 種」 で あ る こ と を意 味 す る もの に な る の で あ る. ぜ ,望 ま しい職業 とされ るのか。 それ は,そ れ らの職 業 が ,労 働市場全体 の 中 で も収入 ,権 力 ,安 定性 な ど. (梶 田 1983:34)。. この よ うに,周 囲 の「 まな ざ し」 の 中で ,ひ い ては. の 点 で ,上 位 を 占 め る か ら だ と い う (天 野 1984:. 自身 の 「 まな ざ し」 の 中 で ,自 らが価 値 あ る もの とさ. 129)。. れ るため に こそ ,「 貴種」 と して 自他 に見 られ た い が. 高 い威信 を持 つ 組織 や職業 は,労 働市場全体 の ご く. ため に こそ ,子 どもたちは有名高校 ,有 名大学 を目指. 小 さな部分 を占め るにす ぎな い。 しか し,天 野 は,こ. す。 また,親 の倶1の 学校歴信仰 も,必 ず しもそ の 方 が. の 限 られ た「良好 な雇 用 機 会」が社 会 的 に持 つ 意 味. 生涯 賃金 そ の他 で実 質的 に有利 になるか らとい う よ う. は ,そ の比率 の 意味 す る ところ よ りもはるか に大 きい. な こ とで はな く,我 が子 が社会 的 イメ ー ジの 中 で ,つ. と して い る。 そ れ は,人 々 が 学 歴 が 高 け れ ば 高 い ほ. ま り人 々に共有 の「 まな ざ し」 の なかで 「貴種」 に位. ど,こ の 限 られた魅 力 的 な組織 や職種 をめ ざ して ,激. 置付 け られ る こ とを追 求 して い る,と 指摘 して い る. しく競争す るか らだ。 さ らに採用 が ,高 学歴 (高 学校. (梶 田 1983:34-35)。. 歴 )者 か ら優先 的 に行 われ る ことか らその競 争 は,さ. 生涯 賃金 の点 で有利 で な くとも,組 織 内 での昇進 が. らに高 い学歴 を取得 す るための受験競争 へ と広 が って. 自動 的 に約束 されて い るわけで はな くとも,ま た ,社. い く,と い うのが 天野 の 説 明 で あ る. 会 的 な実力や人間性 の点 で 問題 が あ る場合 が 少 な くな. (天. 野 1984:. 130)。. い ことが明 らか になって も,人 々の 「 まな ざ し」 の 中. 以上 は,竹 内が学歴 の機能 的価値 に主 眼 をお い た学. に「貴種」 イメ ー ジが 存在 す る以上 ,有 名大学 の在学. 歴 社 会 I論 だ と した文脈 内 で の 受 験 競 争 の 説 明 で あ. 生 ,卒 業 生 で あ る とい う ことは,追 求す るに値 す る価. る。竹 内 は,日 本 の受験競争 の激 しさは,そ う した学. 値 を持 つ と梶 田は言 う (梶 田 1983:37)。. 歴社 会 I論 だ け で は 説 明不 能 だ と して ,学 歴 社 会 Ⅱ. 竹 内 は,こ う した「 まな ざ し」 と して の学歴 に着 目. 論 ,受 験社 会論 へ のパ ースペ クテ イブの転換 を促 す。. した場合 ,日 本 は学歴意識社会 で あ る と述 べ て い る。 日本 で は「高卒 だが 大企 業 の重役 になった」 とか「東.

(4) 甲南女子 大学大学 院論 集 第 3号. 24. 大 を出てい ないの に,東 大教授 になった」 といった言. 人間科学研究編 (2005年 3月. レー シ ョンが 冷却 され る とい う (竹 内 1995:96)。. い方 をするのは,他 者 による学歴へ の「 まなざし」 が あるか らだ とい うのである (竹 内 1995:90)。. ). しか し,事 前選抜 の制度化 を冷却 とだ け結 びつ け る こ とはで きない とす る。 それ は,生 徒 が模擬試験 な ど. 竹内 は,こ うした「まなざし」 としての学歴 の作用. に よって偏差値 55と 知 らされた とき偏差値 68と され. を,象 徴的価値 といい,学 歴 の象徴的価値 に支配 され. る学校 へ の 志願 は諦 め るが ,頑 張 れ ば偏 差 値 60の 学. る社会 を「学歴社会 Ⅱ」 とした。竹内 は,こ の ような. 校 に進学 で きるので はないか , とい う よ うに却 って煽. 象徴的価値 に見 る学歴社会論 を,学 歴社会 I論 に対 し. られ る とい う こ とに着 目 した こ とに よる。 た とえば. 学歴社会 Ⅱ論 とよんでい る。. 今 の偏 差値 か らす れ ば c校 くらい とい わ れ て も,も. ,. 竹内 は,学 歴社会 Iに 加えて,学 歴社会 Ⅱの視点 を. う少 し頑 張 れ ば B校 に進 学 で きる,あ る い は今 の偏. 用意 した。 さらに, 日本社会における受験 システムの 自律化/自 己準拠化 の メカニ ズムヘ の注 目を促 す。. 差 値 で は I校 とい わ れ て も も う少 し頑 張 れ ば ,H校. +. つ け られる とい うので あ る。 こ う した焚 きつ け の作用. 「受験社会」 で ある。「受験社会」 は「学歴社会 I」. や. G校 に進学 で きるか も しれ な い とい う具 合 に焚 き. 「学歴社会 Ⅱ」 の従属 システムで あ り,従 属 システム. が ,偏 差値 上位 者 のみで な く中位 者や下位 者 につい て. としての「受験社会」 が相対白 勺に自律化 し,自 己準拠 ・ 的構造 を ビル ト イ ン したものだ とい う。学校 ラ ンク. も同様 にお こる こ とに竹 内 は注 目す る。受験 生 は ,偏 差値 をみて ,冷 却 されるので は な く,志 望 を縮小 され. や偏差値 ラ ンクがそれ 自体 として競争 の報酬 にな り意. る とい う鎮静 の あ とに 自分 な りの 目標 にむけて再 び焚. 味 の根拠 となって しまうのが受験 システムの 自律化/. きつ け られ る と説明 した。 構造 的 には ,傾 斜式選抜 シ. 自己準拠化 で あ る と説明 して い る (竹 内 1995:90-. ス テ ム =偏 差 値 受験 社 会 は諦 め を もた らす の で は な. 91)。. く,諦 め を迂 回 しなが らの焚 きつ け のテ クノ ロ ジー を. こ こで 竹 内 は ,偏 差 値 52と 偏 差 値 55の 僅 差 の 学 校. 潜 めている と述 べ て い る (竹 内 1995:96-97)。. I)に 持 ち越 され. つ まる ところ,「 傾斜式 選抜 システム とい う選抜 シ. るわ けで は な い とい う こ とを指 摘 す る と同時 に ,僅 差. ス テ ムの特徴 こそ大衆的受験競 争 を加 熱す る背後 の仕. の 学 校 ラ ン クが まな ざ し と して の 学 歴 (学 歴 社 会 Ⅱ). 掛 け」 (竹 内 1995: 110)と なる。傾 斜 式 選抜 システ. に もち こ され るわけで はない とい う こ とも指摘 して い. ムが ,多 くの 中学生 に分相応 の アス ピレー シ ョンを維. る。 それ に もかかわ らず ,偏 差値 やわずか な学校 ラ ン. 持 させ ,成 績 上位 ,成 績 中位 ,成 績下位 のいず れの成. クは受験競争 の誘 因 となる。 そ こで ,自 己準拠 化 した. 績 カテ ゴ リー にお い て も受験 生 の競争意欲 を強め ,ひ. 受験社 会が立 ちあげ る学歴 の 象徴 的価値 に も日配 りす. い ては受験競争が過熱す るので あ る。. ラ ン クが 将 来 の 地位 達 成 (学 歴 社 会. る必 要性 を説 く。竹 内 は,学 歴社 会 Ⅱにお ける学歴 の. 3.受 験競争論 における受験 生像. 象徴 的価値 と受験社 会が立 ちあげる学歴 の 象徴 的価値 を区別 してそれぞれ を象徴 的価値 Iと 象徴 的価値 Ⅱと よんだ。. 3-1。. 社会的類型 と しての受験生. 竹 内 に よれば,日 本 の受験競争 の過熱 は,学 歴 の 機. 傾斜式選抜 システム下 あ る受験生 を,竹 内 は,受 験. I)と 学歴 の 象徴 的価値 I(学 歴 社 会 Ⅱ),象 徴 的価 値 Ⅱ (受 験 社 会 )に よって 成 立 し. 、 準 備学 生 とみ な し,「 生 活 を律 し一 ″ 亡 不 乱 に勉 強 す る. て い る とい う。. 類 型 と しての 受験 生 」 と し (竹 内 1995: 113), ミシ ェル ・ フー コー の議論 に依 拠 して説明 して い る (竹 内. 能的価値 (学 歴社 会. 竹 内 は受験社 会 に晒 された受験生 の生 活世界 の リア リテ イは学歴収益 率 以上 に学校 ラ ンクそ の もの におか れ る として い る。. こ とな どの 自己監視 の特有 な生活規 範 を含 んだ社 会的. 1995)。. 竹 内 によれば ,傾 斜式選抜 システム とい う選抜 シス. それで は ,受 験 システムの 自律 化 /自 己準拠化 に よ. テ ム におかれた受験 生 は,フ ー コー の言 う規律 訓練権 力 に晒 された主 体化 =服 従化 のモデル そ の もの になる. る受験競争過熱 の 説明 とはいか なる ものか。 竹 内 に よれば ,日 本 の教育 的選抜 の特徴 は ,細 か な. とい う (竹 内 1995: 110)。 規律 訓練 権 力 とは,あ ら. 学校 ラ ンクによる傾斜 的選抜 システム にあ る とい う。. ゆ る人 に対 して ,何 ものであ り,何 がで き,何 に配 置. 傾斜 的選抜 システム社 会 にお い ては合格可能性 を知. した らよいの か を知 ろ う とす る まな ざ しの作用 の こ と. る た め の 模 擬 試 験 な どが 日常 化 し,事 前 選 抜. (pre_. selection)が 制度 化 して い るか ら,選 抜 以前 にア ス ピ. で ,身 体や感情 を 自発 的 に制 御 させ て しまうつつ ま し い が疑 い深 い権力 で あ り,毛 細血管 の よ うに偏在 し ,.

(5) 森永 智子 「受験競争」論再考 :. 日常 的社会実践 を通 じて作用す る権力 だ と して い る。. 耳塚 のい う成績 の「 自己評価」 とは,中 学生の進路. この規律訓練権力 は ,絶 え間 ない 監視作用 を促 す ため. 選択 プロセスにおいて,彼 らの進路 を規定す るとされ. に時空 間 を組織化す る実践 や技術 か らなって い る とい. る要因の一つである. う (竹 内 1995: lH)。 竹 内 は,こ の 規律 訓 練 権 力 と. お い て,「 中学校 にお け る生徒 の選抜 ・分化 か らもっ. い うまな ざ しの作用 の論理 を,日 本 の受験生 を説明す. ぱ ら『学業成績』 を基準 として進行 し,そ れは,生 徒. るの に応 用 す る。. 集団内部 での成績 ヒエ ラル ヒーの 中に 自 らを位置 づ. (耳 塚 1986)。. 耳塚 はその議論 に. 受験 生 に とって ,「 こん な点 数 じゃ,C高 はム リ。. け,そ こでの地位 を敏感 に反映 した進路意識 を形成す. E高 どま り」 とい われ る よ うな,日 常 的 なテ ス トの微. る とい う主観 的 な過程 と して進 行 して い る」 (耳 塚. 妙 な点 数差 は ,傾 斜式選抜 システムの なかで将来の進. 1986: 16)と 結論付 け て い る。 また,苅 谷 は,学 業. 学 高校 や進 学 大 学 との 対 応 を予 測 させ る と竹 内 は い. 成績が ,高 校入学以前 に生徒 の意識 の 中で教育達成お. う。それだけ に試験 のわず か な点数差 ,す なわ ち傾 斜. よび社会的地位達成 の可能性 を大 きく制約す る と し. 的選抜 システムの まな ざ しに よって ,リ ア リテ イと重. た。一元的 に示 した学業達成 を選抜基準 とす る こ と. 圧感 を もた らす とい うので あ る (竹 内 1995)。. で,将 来の教育達成 の可能性が見通 しの きくもの とな. 日本 の受験 生が 晒 され る傾 斜 的選抜 の まな ざ しは. ,. るとし,そ うした単純 で理解 しやす い基準が現実 の選. フー コー の言 ったパ ノプテ ィ コンの まな ざ しであ る と. 抜 に用 い られる以上 ,生 徒 はそれに従 って将来の教育. 竹 内 は い う。 このパ ノプ テ ィ コン下 の主 体 =隷 属 の制. 期待 を形成す る と指摘 した。苅谷 は,こ う した現 象. 度 こそが ,日 本 にお け る受験 生 とい う制度 で あ る と し. を,生 徒 の 「 自己選抜. た (竹 内 1995:H2)。. 谷. とよんだ. (seliselection)」. (苅. 耳塚 や苅谷 は,そ の説明 を生徒 に限つた点. 1986)。. 日本 にお け る受験 生 とい う制度 は,「 受 験 生 の くせ. で,教 師の関与 をもクローズアップさせた竹内の「事. に」「受験 生 なの に」「受験 生 だか ら」 とい う言葉 に反. 前選抜」 とは異なるが,学 業成績 とい う一元的説明 に. 映 され る。竹 内 に よれば ,「 受験 生 の くせ に」「受験 生. よって受験 生の進路意識 を説明 してい る点で共通 して. なの に」「受験 生 だか ら」 とい う言葉 は,制 度 と して. い る。. の受験生 の存在 と受験生 へ の社会化過程 をなに よ りも. 4.「 受 験 競 争 論 」 の 再 検 討. 証 明 して い る と い う (竹 内 1995: 113)。 「 受 験 社 会 は,『 受験 生化 』 の 自己監視 のモデル を誕生 させ」 (竹 ヽ 内 1995: 113),受 験 生 は ,生 活 を律 し一 ′ 亡 不 乱 に勉. 4-1.議 論 の前提. 強 す る と い う 自 己 監 視 の 生 活 規 範 に 従 う (竹 内. 調査 時点 での 2000年 には偏 差値 は す で に廃 止 さ. 日本 の 受験 シス テ ム は傾斜式 選抜 構 造 に よっ. れ,調 査対象者たちは 自分 の偏差値 を知ることはで き. て 受験 生 とい う 自己監視 モ デ ル を構 築 して い る た め. なか った。余談 であるが ,質 問紙調査 で偏差値 とい う. に,受 験生 は制度 と しての受験 生 か らの強 い圧力 に苦. 単語 を明記 してい ることに,中 学生は「偏差値 って な. しめ られ るのであ る (竹 内 1995:115)。. に ?」 などと逆 に質問紙 に書 いていた。. 1995)。. それでは,自 らの偏差値 を知 りえない中学生 は,学. 3-2.受 験生 の進 路選択意識. 校 ラ ンクをどれほど把握 してい るだろ うか。. 傾斜式選抜 システム下 ,す なわち「受験競争」 下 に. 表 1は 「各高校 のだいたいの順位 を知 ってい ます. あ る中学生 の進路選択 意識 の説 明 は,竹 内 の「事前選. か ?」 とい う問い に対す る回答 である。中学三年生 で. 抜」 (竹 内 1995)耳 塚 のい う成績 の「 自己評価」 (耳. さえ も,2000年 10月 の時点 で,半 数近 くが高校 ラ ン. 塚 1986),苅 谷 の「 自己 選 抜」 (苅 谷 1986)に 詳 し. クを「知 らない」 としてい る。その理由は「聞い たこ. い。 これ らの研究者 に共通す る受験生 の進路選択意識 の説明 は, 日常化 した「事前選抜」「 自己評価」「 自己. 表 1 各高校 のだいたいの順位 は知 ってい ますか ?(%). 選抜」 に規定 されるとした ことである。 事前選抜 については先述 の とお りであるが,学 校 ラ ンクの細か さか ら,模 擬試験 などで とった 自分 の成績 0偏 差値か らほど遠 い ラ ンクの高校へ の進学 は諦 める. が,そ の反面 ,僅 差 ではあ るが,よ り高 い偏差値 の高 校 の進学へ 向けて努力 しようとい うものであ った。. 中学 2年 生 知 ってい る 知 らない 無. 回 計. 答. 中学 3年 生 55.6. 57.1. 44。 4. 2,9. 0.0. 100.0. 100。 0.

(6) 甲南女子大学大学院論 集第 3号. 26. 人間科学研究編 (2005年 3月. 表 2 高校 ランクを知 っている理由 と知 らない理由 知 ってい る理 由 塾 で 教 えて もらった お姉 ち ゃん/お 兄 ち やん/お 母 さん/親 が教 えて くれ た 人か ら聞 い た 学校 で は言 わ ない が塾 で教 えて もらう 塾 で冊子 /資 料 を もら ったか ら. 知 らない理 由 きぃ た こ とが なし 興味 が ない か ら 知 る方法 が ない. ). 主観主義社会学的方法 で中学生 の受験 や勉強に対す る意識 を提 えようとした橋爪 は,中 学生に「受験や勉 強」 をテーマ に手記 を書 かせ ,そ の手記 を分析 し中学 生の受験観や勉強観 を読 み取 れるように していた (橋 爪. 1985)。. 当然 の ことなが ら中学 生 は「受験 や勉強」. についてのみ を考 え,「 受験や勉強」 につい てのみ を 述べ ることになる。 深 谷 は,「 3年 生 を受 け持 ってい る担 任 な どの 話 を. とがないから」「興味がないから」「知る方法がないか ら」である。「知 ってい る」 と回答 した者 は,高 校 ラ. 聞 くと,中 3の 二 学期後半 になって も,の んび りと し. ンクを塾や親,兄 や姉,周 囲の人から聞いたり,塾 で 冊子 をもらった りしている。特 に注目すべ きは「学校. み られ な い とい う」 (深 谷 2002:38)と しなが ら. 「高校 入試 につ い ての 気持 ち を 聞 い て」 い る。 なぜ 日. では言わないが,塾 で教えてもらう」 とい う回答であ. 常 を提 える中三担任 の意見 を聞 きなが ら,担 任 の話す. る。. 受験前 の 日常 を考慮 して受験生 の 意識 を調査 しなか っ. て い る生徒 が 多 く,受 験 に特有 な張 りつ め た雰 囲気 は ,. 「学校 では言 わない」 とい うことに関 して,中 学校. たのだろ うか 。深谷 は,担 任 の こ とばに反 して ,受 験. 側 としては,4月 か ら 12月 まで は「校風 とか部活 と. に対す るプ レッシャー は昔 と変 わ らず 存在 す る とい う. か,自 分 に合 った高校 を選べ」 (中 学教師)と い う指. 調査結果 を残 して い る (深 谷 2002)。. 導 をしてい る。 この間,中 学校側 は,選 抜制度 の内容. これ らの先行研究 は,中 学生の受験や勉強,進 路 に. を情報 として公開する こともなければ,高 校 ラ ンクを. 関す る意識調査 に際 して,「 日常世 界 における」 中学. 公開する こともない。最終的には単独選抜制度下では. 生の意識 を捉 えようとは しなかった。. 輪切 り指導 となる。最終的 には輪切 り指導 となること. 中学生の受験や進路 に関す る意識 を問お うとした調. に対 し,中 学教 師 と しては「制度 がかわ らん ことに. 査 は多 くあるが,共 通することは,当 事者 の 日常的実. は, しゃあない」 (中 学教師)の である。. 践 の 中で捉 えようとした ものではない とい うことであ. この ように,対 象 となった中学生 は,偏 差値 はおろ. る。 日常世界を構成する様 々な要素の網 の 目の うちか. か,最 後 まで高校 ラ ンクを把握 しない まま受験 に臨む. ら,進 路選択過程 とい う一要素 のみを選択 し, しか も. ことになる。 このことは,高 校 ランクを把握 してい る. その過程 にある中学生の進路意識のみにスポ ッ トを当. とい う前提 でなければ展開で きなか った先行研究 の議. てていた。中学生の 日常世界 にお ける意識 レベ ルでの. 論 とは前提 が大 きく異 なる。すで に述べ たが,「 自己. 勉強 の領域 の部分 のみ を目覚 め させ て い る状態 に し. 選抜」 (苅 谷 1986)や ,「 自己評価」 (耳 塚 1986),「 事 前選抜」 (竹 内 1995)と い う言葉 が先行研究 では使 わ. た,つ まり彼 らの意識の勉強の領域のみに焦点 を当て. れてい る。 自己の成績 によって 自らをヒエ ラルヒーの. 対象者 に勉強や受験 などの限定 した要素 のみ を意識. 中 に位置付 け,ま た「成績」 によって「 自ら進路選択. させた上での調査 だけでは,彼 らが 自身の 日常生活世. す る」 とい うことで あ ったのだが,「 事前選抜」 をは. 界の 中でそれ らをどのように意味付 けてい るのか とい. じめ 「 自己選抜」「 自己評価」 につい て も,中 学 生が. うことが見えてこない。 また,彼 らの 日常生活世界 の. 自らの偏差値 を把握 し,高 校 ラ ンクを把握 しているこ. 内部 にスポ ッ トを当てなければ,彼 らの発する ことば. とを前提 としなければ成 り立たない議論 である。. の合意が読 み取 れない。 た とえば,あ る中学生が「大 学 へ 進学 した い」答 えれば,多 くの調査 で は即座 に. まずは,「 すべ ての中学 生が高校 ラ ンクを把握 で き てい るわけではない」 とい うところか ら議論 を出発 さ せ る必 要があるだろ う。. るとい う方法 であった。. 「学歴志向」 と結 びつ け られるわけだが,私 の調査 で は,「 大学へ進学 したい」 とす る者 で も「なんとな く」 「楽 しそ うだか ら」「みんな行 くか ら」 などの理由を述. 4-2.意 識調査 の限界. べ る者 もい た し,大 学 につい て も「分か らない」「一. 受験生 の意識 に関す る先行研究 は,予 め受験や勉強. 人一 人勝手ではな く大人 っぽ くて しっか りしていて華. だけを焦点化 した上での調査 である とい う限界 を持 っ. の あるところ」「勉強 をある程度 してあ とは遊ぶ とこ. てお り,受 験競争論 の描 く悲観的な受験生像 を再確認. ろ」「 自由でのびのび した ところ」「先生がマ イクをも. するにとどまるものが多かった。. って説明 してい るところ」「授業が少な くいつ で も大.

(7) 森永 智子. :「 受験競争」論再考. 27. 学 をぬ け だせ る」「楽 しい」「大 人 の 世界」 な どとい っ. レベ ル において も意識 レベ ルにおいて も,受 験や勉強. た認識 で あ った。. が多 くを占めないのであ つた。. 同 じ意 識調査 とい って も焦点 の 当 て方や調査 の仕方 に よって得 られ る結果 は違 うので あ る。. 中学生 の 日常世界 は,受 験や勉強 によつて構造化 さ れてい るとはか ぎらず,必 ず しもス トレスの伴 う,重 圧的で,不 安や焦 りばか りの過程 とは見な しえないの. 4-3.受 験 と勉 強 の連続性. ではなかろ うか。. 先行研 究 は,中 学生 の営 む 日々の勉 強 と受験 との 間 に連 続性 を認 めて い る。 た とえば ,竹 内 をは じめ ,耳. 4-4.進 路選択基準. 塚 や苅谷 は,事 前選抜 ,ま たは成績 の 自己評価 や 自己. 中学生 の進路選択意識 は,学 業成績 のみに規定 され. 選抜 の 過程 が ,「 日常 的」 な ものであ る とみ な して い. るのであろ うか。中学生 の進路選択意識 は,学 業成績. る。 こ う した議論 か らは,中 学生 の 意識 レベ ル にお い. とい う一元的説明の もとで捉 えられるもの なのだろ う. て ,日 常 的 に行 われ るテス トと受験 とを連続性 の あ る. か。. もの と して扱 ってい る とい う ことが 読 み取 れ る。. 少 な くとも 6人 の対象者 の進路 選択 意識 は学業成績. 少 な くともイ ン タビューの対象者 6人 の勉 強観 は受. だ けに規定 され なか った。彼 らには 自身 の持 つ 進路 選. 験 を自覚 しない ものであ った。彼 らは ,受 験勉 強期 間. 択基準 があ ったか らだ。彼 らの進路 選択基準 は ,自 身. に入 る まで は,試 験前 の勉 強期 間 とその他 の非勉 強期. が高校 か ら見 出す イ ンセ ンテ イブであ る。 た とえば. 間 を繰 り返す ので あ るが ,こ こで は ,校 内 テ ス トとい. そ の高校 へ 進学す れ ば留学制度 を利用 して留学が体験. うそ の場 を しの ぐため だ け の場 当 た り的勉 強 をす る。. で きる とか ,あ こが れの制服が着 られ る とか ,高 校 が. つ ま り彼 らは勉 強 を入試 に向 け て継続 的 に蓄積 しなか. 繁華街 にあ るこ とか ら遊 びなが ら高校生活 を満喫 で き. つたので あ る。 同様 の こ とは受験勉 強 につ い て も言 え. る とか い った こ とであ る。彼 らに とつて ,自 分 が見 出. る。受験校 を決定す る最終面談後 ,入 試 に向 け ての受. す イ ンセ ンテ イブには価 値 があ る。結局 ,彼 らは高校. 験勉強 をす る。受験勉 強期 間 に入 るのであ る。受験勉. ラ ン ク とは 関係 の な い 意 味付 け を して い る こ とに な. 強期 間 にお け る受験勉 強 は ,入 試 とい う場 を しの ぐた. る。. めだ け に営 まれ る場 当 た り的勉 強 にす ぎなか ったので あ る。 先行研 究 は,中 学 生が 日常 的 に,勉 強 を受験 へ 向 け て 累積 させ て い くもの と捉 え,そ の 中学生 の 日常 をこ. ,. この よ うに,対 象者 6人 の進路選択 は ,学 業成績 だ け に依 拠す る もので はなか った。彼 らの進路選 択 の仕 方 を見 て い る と,学 歴社会 的価値 を内面 化 して い る と は言 い難 い 。. とに悲壮 な もの と して理 解 して い た。 た とえ ば橋 爪. 先行研 究 は,中 学 生 の進路意識 を説 明す る ときに. は ,受 験体制 を学歴社会 とよび ,そ の影響範 囲 が ,中. 必 ず 「学業成績」 が 説 明要 因 となって い た。 中学生 の. 学 生 の ほ とん どすべ ての生 活面 にわた り,さ らに彼 ら. 進路 選択 意識 は ,「 自己 の 成績 に よる 自己選抜」 に よ. の 精神 0心 理 面 に も食 い 込 ん で い る と指 摘 して い る. る ものであ る とい う一 元 的要素 でのみ 説 明 されて きた. 1985:119)。 橋 爪 は,中 学 生 の こ う した精 神 ・. ので あ る。受験競争論 内 で 中学 生 の進路選択意識 を説. 心理面 をマ イナ ス イメ ー ジを駆使 した表現 で記 して い. 明 した竹 内 で さえ,「 自己 の成績 に よる事 前 選抜」 と. る。竹 内 は ,フ ー コー の論 に拠 って ,受 験生 とい う制. い う一 元 的説明 に終 わ って い る。. (橋 爪. ,. 度 に晒 され た受験 生像 を次 の よ う に述 べ る。「 こん な. また ,本 研 究 にお いては ,先 行研 究 は捉 えて こ なか. 点数 じゃ,C高 校 はム リ。E高 校 どま り」 とい われ る. った ,親 と教 師 の一 部連携 に よる進路選 択意識構 築 の. よ うな,日 常 的 なテ ス トの微 妙 な点数差 に よる事前選. 側面 もみ られたのだが ,こ の観点 も中学生 の進路選択. 抜 は,傾 斜式選抜 システムの 中で ,将 来 の進学高校 や. 意識 プ ロセス を提 える際 ,考 慮 に入 れ る必要が あ るだ. 進学大学 との対応 を予測 させ るため に,試 験 のわず か. ろ う。. な点 数 が リア リテ ィ と重 圧 感 を増 加 させ る (竹 内 1995:112)。 イ ンフ ォーマ ン トで あ る 6人 は ,非 勉 強期 間 は もち. 4-4.受 験生 の 日常的実践 受験競争 の激化 ・普遍化 を「傾斜 式選抜」 の メカニ. ろんの こ と,勉 強期 間や受験勉 強期 間 にお い て も,自. ズ ム に よつて説 明 した竹 内 は ,さ らに傾斜式選抜 シス. 身 の楽 しみ を勉 強 の犠牲 には しなか った。 日々の勉 強. テ ム下 に置 かれ る受験 生 は フー コー 的 なパ ノプテ イ コ. は受験 のため に累積 させ ず ,彼 らの 日常 にお け る実践. ン型 の まな ざ しに晒 され ,勉 強 に専念 すべ く生活 を律.

(8) 甲南女子大学 大学 院論 集 第 3号. 人間科学研究編 (2005年 3月. ). してい くとい う規範 を内面化 し,自 己監視的 ・ 自己規. れ ,そ して また これ とは別 の無数 のマ イナ ー な実践 に. 律的な主体へ と形成 されてい くと論 じた (竹 内 1995:. よって構成 されてい るので あ って ,そ う したマ イナ ー. HO― H5)。. しか し本稿 のケースはいず れ も,こ うした. な実践 は,た とえデ ィス クール を組織化 しな くて も. ,. 受験 生像 には当てはまらない。 とはいって も,彼 らは. たえず そ こ に存在 しつづ け ,こ の社会 か らみ て もまた. 受験競争 か らの離脱者,い わゆる「落ちこぼれ」 とい. 別 の社会か らみ て も異質 な,な にかの 萌芽 や ,仮 説 の. うわけで もない。進学 を目指 しているか ぎりにおいて. 余 地 を 保 ち つ づ け て い る」 (セ ル トー. 受験競争 に巻 き込 まれてい るのだが,そ の勉強 も生活. 122)。. も受験 に向 か って構造化 されて い る とはい えない。 「 自己監視」「 自己規律」 の要素 も薄弱 で,勉 強や受験. 1987:121-. 私 の調査対象者 で あ った 6人 の 実践 も,セ ル ト. ーの言 う,「 別の無数のマイナーな実践」の うちの一 つ と考 えることができよう。. のために各人の 日常 の楽 しみが大 きく犠牲 にされるよ うな ことはない。. 5。. 受 験 競 争 論 の知 識社 会学. 竹内が フーコーの議論 に依拠 してい るのに対 し,本 稿 のケースに示 されてい るような受験生の姿 ,い わば. 私 のデー タが示す ように,受 験競争論ではカバーで. 受験体制 を場当 た り的 にす り抜 けて い く受験生 の姿. きない側面 を受験生が持 つ にもかかわ らず,な ぜ受験. は, 日常的実践 の多様性 とい う観点 か らフーコー を批. 競争論 は人 々に受け入れ られるのか。 これは知識社会. 判 した ミッシェル・ ド・セル トーの議論 によつて捉 え. 学的に検討 されるべ き問題である。. ることがで きよう。彼 らの 日常的実践 は,セ ル トー的 に言 えば,「 一望監視的な仕掛 けがそ こで作動 で きる. 受験競争論 にお い ては,「 受験 生」 は「生 活 を律 し ヽ 一′ 亡 不乱に勉強する」 とい う「 自己監視 の特有な生活. よ うなある固有 の場 を備えてい ない手続 き」 (セ ル ト. 規範」 を含 む「社会的類型」 として捉 え られる。「生. ー 1987: 124)で あ り,「 一望監視装置 にさず け られ. 、 亡 活 を律 し一 ″ 不乱 に勉 強す る」 こ とな しに「受験競. た,一 神教 にも似た特権 の もと,あ ち こちに散在す る. 争」 を生 き残れない とい うような受験競争観が広が っ. さまざまな実践 の 『多神教』 」 (セ ル トー 1987: 122). てい る。. で ある。 こ うした多様 な実践 的手続 きをセル トー は. こ う した受験生 の捉 え方 は,受 験 生 を我 が子 に持 つ. ル トー. 親 の 言動 に も表 れて い る。受験生 の 親 は,我 が子 の 日. 「戦 略」 と 区 別 して「戦 術」 と 呼 ん だ. (セ. 1987: 124)。. 常生活 を受験 に拘 束 しよ う とす る。夏休 みのたった一. セル トーのい う「戦術」 とは,「 これ とい ってなに. 日の 旅行 さえ も「受験 生 だか ら」 やめてお くよう制 限. か 自分 に固有の ものがあるわけで もな く, したがって. した り,「『受験生 なのに』何 を考 えてい るのか」 と遊. 相手 の全体 を見お さめ,自 分 と区別 で きるような境 界. びに出かけた りす ることを許 さない。「受験 生の くせ. 線 があ るわ けで もないの に,計 算 をはか るこ とであ. に」「受験生なのに」「受験生 だか ら」 とい う言葉 は. る」 (セ ル トー 1987: 26)。 体系性 も一貫性 もな く ,. なにか うまい ものが あれば「すか さず拾お う」 とする. ,. 「制度 としての受験生」 の存在 を象徴す ることば とし. のが「戦術」である。 いい機会 だと思 えば,さ っそ く. て捉 えられる (竹 内 1995: 113)。 また,生 活 を律 し ヽ 一′ 亡 不乱に勉強す ることこそ受験競争 を生 き残 る手段. そ こで,さ まざまに異なる要素 をいろんな風 に組 み合. だ と見 る受験競争論 は,す で に私 たちの「 日常 的知. わせ る。多 くの 日常的実践 ,大 部分の「 もののや りか. 識」 ともなっている。バー ガー とル ックマ ンの言葉 を. た」 は戦術 的 で あ る。 た とえ ば,「 強 者」 を相 手 に. 借 りれ ば,「 人 々 が そ の 日常 生 活 で 〈現 実 〉と して. 「弱者」 が成 功 をお さめ るの も,う まい 手 を使 うの. く知 っている〉ところの もの」 が「 日常的知識」 で あ. も,離 れ業 をやってのけるの も,臨 機応変 のか け ひき. り,そ うい う「常識的な く知識 〉こそが知識社会学に. などもそ うである。 こうした戦術 は,連 綿 とたえるこ. とっての 中心的な焦点 にな らなければな らない」 (バ. とな く,不 易のすがたをみせてい るとセル トーはい う. ーガー/ル ックマ ン 1967=77:24)。. (セ. ル トー 1987:26-27)。. セル トー によれば,一 社会の もろもろの働 きは,あ. 「 日常的知識」 と化 した受験競争論 のステ レオタイ 、 プ化 した受験生像 には,「 生活 を律 し一′ 亡 不乱 に勉強」. るひとつ に支配的なタイプの手続 きに還元 しつ くせ る. しない受験 生は欠落 して しまった。 この ような受験ヘ. ル トー 1987: 121)。 つ ま り「ひ と. の常識的な認識枠組みは, どの ように成立 してい るの. ものではない. (セ. つ の社会 は,そ の社会 の規範的諸制度 を組織化するよ うな,他 にぬ きんでた幾 つ かの実践 に よって構成 さ. だろ うか。 バー ガー とル ックマ ンは,「 い かなる 〈知識 〉で あ.

(9) 森永 智子 「受験競争」論再考 :. れ,そ れが 〈現実 〉として社会的に確立 されるにい た. しか し,日 本 で は学歴 の社会的規定力 はか な り小 さ. る過程」 を問題 にする ことが知識社会学 の重要な課題 で あ ると言 つた。「人間の く知識 〉が社会状況 の 中で. い と言 われてい る (竹 内 1995:86)。 少 しで もラ ンク の 高 い高校 へ 進学す るこ とに比 例 して ,将 来 の社 会的. 発達 し,伝 達 され,維 持 されてい く」過程 を「自明視. 地位 や経 済的地位 が必ず しも高 くなる とは限 らない と. された く現実 〉が どのように普通 の人間に とって凝結. い う こ とは,親 も分 か つてい るだろ う。 だが ,学 歴 に. してい くのか,と い う観点 か ら」理解す るのであ る. よる社 会的経 済的地位規定力 が小 さい とい うので あれ. (バ ーガー/ル. ば ,さ ほ ど成績 の 良 くない我 が子 が ,社 会的地位 や経. ックマ ン 1967=77:5)。 以下では,そ. の ような意味 での知識社会学的視点か ら受験競争論 を. 済的地位 の高 い ところに行 き着 くチ ヤ ンスがあ る,行. 検討す る。. き着 い てほ しい ,と 考 えるの も親 で あ ろ う。「 (普 通科 の少 しで もラ ン クの高 い高校 へ )行 って くれ た ら何 と. 竹内の受験競争論 は,学 歴社会 I論 (学 歴 の機能的 価値)と 学歴社会 Ⅱ論 (学 歴 の象徴 的価値 I),受 験 社会論 (学 歴 の象徴的価値 Ⅱ)に よつて成 り立 ってい. 科 へ 進 む とい う よ う に)選 択 肢 をせ ば め て ほ し くな. るのだが,受 験競争論 の説明す る現象 は,私 の調査 デ. い」 とい う ことばに も,親 の我が子 に対 す る社会経 済. ー タで も見 られた。た とえば,受 験生 を子 に持 つ 親. 的地位 の達成 へ の思 い が 表 れて い る。我 が子 の 成功 を. が ,我 が子 の将来のためだ と,学 歴 の価値 で もって子. 祈 る親 に,受 験 競 争論 は受 け入 れ られ や す い の で あ. どもの進学先 を決 めた り,遊 びに行 くのを咎 めて将来. る。. のために今 日の勉強 をさせ ようとす るといったことで. か なる」 とい う こ とばに も,「 (普 通科 で はな く専 門学. 一方 ,学 歴 の受験競争論 の象徴 的価値 とい う側面. 近代合理主義がイ 固人の 自律 を前提 としてい るとい う. は,た とえば,た け しの母親 の言 った「 (滑 り止 めの 私立高校 を不合格 になった とした ら)こ こらへ ん歩け. のであれば,親 は近代合理主義 の信奉者であろ う。親. んようになる。引 っ越 さなあか ん」 とのことばに端的. の ような禁欲倫理 一将来 の成果のために今 を我慢す る. に表 れてい ると思 う。なぜ なら, もし,滑 り止めの高 校 としての レッテルを貼 られてい る高校す ら不合格 と. あ る。. 一に拘束 される ことな く,子 どもは今 を楽 しむ ことに 価値 をお く。そのため受験競争論 は,我 が子 をコン ト. なったならば,我 が子 は「人々の 『まなざし』 のなか. ロールせねばならない親 に受け入 れ られやす い。 た と. で,『 人間 としての基本 的価値 が 高 い』 」 (竹 内 1995:. えば,受 験生 の親 は,竹 内のい うように「受験生 の く. 89)と み な され ない か らだ。「我 が子 の将来 のため」. せ に」「受験 生 なの に」「受験 生 だか ら」 (竹 内 1995:. とい う親 の思 い は,竹 内の受験競争論 が強調する象徴. 113)と 我 が 子 の 日常 生 活 を受験 生 活 と して拘 束す. 的価値 とい う側面 とも合致す る。. る。夏休 みのた った一 日の旅行 さえ も「受験 生 だか. 教師 たちは,「 ほんまは,校 風 とか部活 とかで決 め. ら」 やめてお くよう制限 した り,「 受験 生 なのに」 と. てほ しいんや け どなあ」 と,中 学生が実際に進路選択. 遊 びに出かけた りする ことを許 さない。. の ときに感 じる思 い を個人的に代弁す るような ことを. 親の「我が子 の将来 のため」 とい う思 い は,受 験社. 言 つて も,学 校組織 の 中 にい る以上 ,「 制度 が変 わ ら. 会論 の学歴 の機能的価値 ,象 徴的価値 を受容 してい る 証 で あ る。 た とえば,親 は「我 が 子 の 将 来 の ため」. んことには じゃあない」 と,輪 切 り指導 を行 う。輪切 り指導 は,不 合格者 を出さない ように,生 徒 を成績 ヒ. に,進 路 の選択基準 に学歴 の価値観 を用 い る。あやか. エ ラル ヒーの層へ振 り分ける作業 である。教師の個人. の母親 などが,「 もっと目標 を上 に もって。やる前 に あ きらめたらだめ」 と,我 が子 によリラ ンクの高 い高. 的思 いが どうであれ,輪 切 り指導その ものが受験競争 論 に迎合 してい る。輪切 り指導 しかで きない教師 も. 校 を目指 させ ようとす る。少 しで もラ ンクの高 い高校 へ進学 させ ることが「 この子 の将来 のため」 になると. 受験競争論 ,細 か く言 えば受験競争論 の うちの学歴社 会 I論 の文脈 か らは逸脱で きない。その意味 で,実 質. の思 いか らである。 また,れ いなやせ いこの母親 は. 的に受験競争 の論理 を支 えることになる。. ,. ,. また,教 師は己の権威 を利用 し,生 徒 を輪切 り指導. 我 が子 の「将来 を思 つて」,高 校 か ら専 門分野 を学 ば せ ず に普通科へ進学 させ ようとした。親が 「我が子 の. して彼 らの進路 を強制する ことで 自らの象徴的価値 を. 将来のため」 を思って,専 門学科 よ りも普通科 を,よ. 維持す る。仕事 であると言 いなが ら,自 らの権威 を保. リラ ンクの高 い高校 を狙 わせ ようとす るのは,受 験競. 守す る教師 は結局の ところ受験競争論 ,厳 密 には受験. 争論 に従 って学歴 の機能的価値 を重視 してい るか らだ. 競争論 の うちの学歴社会 Ⅱ論 の文脈 に収 まる。 受験競争論 とい う日常的知識 は,メ デイアに報 じら. と思われる。.

(10) 甲南女子大学大学院論集第 3号. 30. れ る高学 歴者 の イメ ー ジに も反映 されて い る。 た とえ ば ,犯 罪者 や被 害者 が 高学歴 で あ れ ば必 ず 「東 大卒」. 人間科学研究編 (2005年 3月. ). 争論 を支えてい ることの証 となる。 こうして,学 歴の機能的価値や象徴的価値が支持 さ. な どと報道 され る。対象が少年 で あ った な らば ,好 成. れ,受 験競争論 は人々の 日常知 として伝達 され,維 持. 績 が 報 じられ る。近 頃起 きた小学六年女児殺害事件 で. されてい くのである。. は ,被 害女児 の 方 が 加害女児 よ り成績 が 良 か った と報. すでに見 たように,竹 内 は受験競争論 の一つの特徴. じられ た。 メデ ィアは事件 や事故 の 当事者が高学歴 で あ る とい うだけ で大衆 の受 けが よいの で報 じるの だ と. として,日 本 には「受験生 とい う制度」 が存在す ると ヽ い う (竹 内 1995)。 それは「生活 を律 し一′ 亡 不乱 に勉. 思 う。 ノ ンエ リー トを自覚す る大衆が ,学 歴 エ リー ト. 強す ることなどの 自己監視 の特有 な生活規範 を含んだ. の 不幸 を面 白が るこ とに 目をつ け て い るか らだろ う。. 社会的類型」 で あ る。「受験社会」 では試験 の「微細. テ レビの ワイ ドシ ョーで は,「 なぜ 高 い 学 歴 を持 っ. な点数 の差異が監視 の まな ざ し」 とな り,「 傾斜 的選. た人が こん な事件 を起 こす のか」 とい うこ とが 話題 に. 抜 システムの 中で将来の進学高校や進学大学 との対応. され た りす る。高 学 歴 者 が 犯 罪 者 で あ れ ば ,大 衆 は. を予測 させ る」 ために,「 試験 のわず かな点数が リア. 「高学 歴者 の す る こ とは理解 で きぬ 」 と高学 歴 者 が 犯. リテ イと重圧感 をます」 ことになる。そ うして「受験. 罪者 となる ことを面 白が り,高 学歴者 を社 会的 に異 常. 社会 に晒 された受験生 の生活世界 の リアリテイは学歴. とみ なす こ とで ,高 学歴 で ない 自分 た ちが社 会的 に正. 収益率以上 に学校 ラ ンクその ものにおかれ る」 (竹 内. 常 で あ る と認 識 し,高 学 歴 者 を大 衆 が 見 下 す。反対. 1995:93)。. に,大 衆 は ,高 学歴者 の 属す る世界 へ の畏敬 の念 を含. 竹 内 の捉 え る,「 制 度 と しての 受験 生 」 とは,受 験. んだ特 別視 を もす る。 それ は,学 歴 エ リー トともなれ. 生 の ス テ レオ タイプ化 で あ る。高学歴者が ス テ レオ タ. ばそんな愚 か な こ とは しない だろ う とい った言葉 に表. イプ化 され た受験 生 の イ メー ジを持 ち続 けるの は,偏. れ る。有名進学校 へ 通 う女子高生 と定時制高校 中退 の. 差値 ・学業成績 とい う一 元 的尺度 に よる競 争 の頂点 に. 少年 が 犯 した タクシ ー運転手殺害事件 があ ったが ,女. あ る者 としての ス テ レオ タイプに高学歴者 自身が 固執. 子 高校 生 には「あ ん な頭 の いい 子 が なんで」「お 父 さ. す るためで はないだろ うか。 リップマ ンはス テ レオ タ. ん もお母 さん もえ らいの に」 とい う反応が あ り,少 年. イプにつ い て ,「 われ われの 自尊心 を保 障 す る もの で. に対 して同様 の 反応 はなか った。反対 に,少 年 を 「定. あ り,自 分 自身 の価値 ,地 位 ,権 利 につい てわれわれ. 時制高校 を中退 」 と報道 す る こ とで ,「 定 時 制 を退学. が ど う感 じて い るか を現実 の 世界 に投射 した もので あ. す る少年 な ら犯 しうる」 との メ ッセ ー ジが 読 み取 れ る. る。 したが ってステ レオ タイプには ,ス テ レオ タイプ. よ う にす る。高学 歴 者 に対 す る メデ イアの 報 道 姿 勢. に付 属す る さまざまの感情 が い っぱい に こめ られて い. と,一 般大衆 の 報道 へ の 反応 は ,梶 田 の い う「貴種」. る。 それはわれわれの伝統 を守 る砦 で あ り,わ れわれ. と しての高学歴者 イメ ー ジに合致 して い る。学歴 の 象. は そ の 防御 のか げ にあって こそ ,自 分 の 占 めて い る地. 徴 的価値 とい う佃1面 を もつ受験社 会論 はメデ イア と一. 位 にあ つて安泰 で あ る とい う感 じを もち続 ける こ とが. 般大衆 に擁護 され る。. で きる」 と説 明す る. (リ. ップ マ ン 1987: 131-132)。. 事件 や 事故 の被 害者 が 高学 歴者 で あ った な ら,「 高. 受 験 生 の ス テ レオ タイプ は 高 学 歴 者 の 「 自尊 心 を保. 学歴 だ ったの にその 将来 が もったい ない」 と,被 害者. 障」 し,彼 らの 現 在 の 地位 が ,「 安 泰 で あ る とい う感. が 高学 歴 者 で な い 者 よ りも,そ の 不 幸 を残 念 が られ. じ」 を もた らす 。 つ ま り,受 験競争論 は ,高 学歴者 に. る。 た とえば,地 下鉄 日比谷線事故 で な くな った一 人. とって ,受 験競争 を勝 ち抜 くこ とに よって獲得 した現. の 男子 高校 生 が 東 大 をめ ざす優 等 生 で あ っ た こ とか. 在 の 自分 の価値 や地位 や権 利 を正 当化す る機能 を果 た. ら,テ レビの報道番組 で は,東 大 へ 進学 しエ リー トと. す ので あ る。. しての将来があ ったで あ ろ う との思 い で男子高校 生 の. 日本 では近代 化 の 開始 と同時 に学校教育 が 開始 され. 死 を惜 しむ声 を伝 えて い た。 同 じ事故 で な くな った被 ′ 害者 よ りも,東 大志望 だ った男子高校 生の死 の 方 が 1昔. た。近 代 化 が 進 む に つ れ ,近 代 的 職 業 は「学 校 出」. しまれて い た とい うのが 私 の 印象 だ。被害者が高学歴 者 で あれ ば ,そ の 高学歴者 の 将来がす ば ら しい もの に. さ らには,「 戦 間期 か ら戦 後 の 高度経 済成 長期 にか け て ,近 代 セ ク ター°と学校教 育 が並 行 して拡 大 ・発 展. な ったろ うに と惜 しむの は,竹 内 の受験競争論 の機能. す る過 程 で ,両 者"の 結 び つ きはそ の 裾 野 を広 げ ,学. 的価値 に支 配 された意識 の あ らわれであろ う。高学 歴. 歴 主義 は社 会 の す み ず み まで浸 透 す る」 (藤 田 1997:. 者が被 害者 となるこ とに対す る大衆 の 反応 は,受 験競. 176)。. (藤. 田 1997: 176)に よつて 占 め られ る よ うにな る。. 密接 に リ ン クす る近 代化 と学歴主義 は,親 や教.

(11) 森永 智子. :「 受験競争」論再考. 師 ,学 歴 エ リー トや大 衆 の 間 に受 験 競 争 論 を浸 透 さ せ ,そ れ を 日常 的知識 と して 「凝結」 させ ,社 会的 な 「知 識 の 在 庫」 (バ ー ガ ー/ル ック マ ン 1967=77)に 組 み入 れて い く。す で に見 た よ うに,親 ,教 師 ,高 学 歴 エ リー ト層 ,大 衆 ,そ して メデ イアは,そ れぞれの 理 由で受験競争論 を受 け入れ ,多 かれ少 なかれそれ を サ ポ ー トして い るのであ るが ,そ の根底 にあ る共通基 盤 は「近代 主義 」 の価値観 で あろ う。近代社 会 で は. ,. 家柄 や 身分 の よ うな 「属性」 ではな く,個 々人 の 「能 力」 こそが社 会的上昇 のための資源 と され ,競 争 の 中 でその 能力 を発 揮 して い くための勤勉 な努力 ,そ して 将来 のため に今 を我慢 す る「現実原則」 や合理 的配慮 が重 視 され る。受験競争論 は こ う した近代 の価値観 ・ 世界観 に深 く根 ざ してお り,そ こにこの議論 の イデオ ロギ ー性 をみ る こと もで きる。 再 び リ ップマ ンの 言 い 方 を借 りれ ば,「 わ れ われ は た い て いの場 合」,受 験競 争 を「見 てか ら定 義 しな い で ,定 義 してか ら見 る。外 界 の大 き くて ,盛 んで ,騒 が しい混沌状態 の 中か ら,す で にわれわれの 文化 が わ れ われ の ため に定義 して くれ て い る もの を拾 い 上 げ る。 そ して こ う して拾 い上 げ た もの を,わ れわれの 文 化 によって ス テ レオ タイプ化 された形 の ままで知 覚 し て」 (リ ップマ ン 1987:lH),受 験 とい う現象 の 中 に 自 ら定 義 した もの ,「 受 験 競 争」,を 発 見 したの で あ る。 だが ,こ の 「受験競争」 は,現 実 の受験 生 の 日常 生 活 の どれ ほ どを反映 して い るのだろ うか 。. 部 に集 まる。 これ らの学部 は,本 来 は高度 の専 門教育 を目的 として いるが「教養型」学 生の増加がそれ らを 「教養学部」 にかえて しまった として いる (天 野 1984: 122)。. 6)医 者 ,法 律 家 ,教 員 な どの 専 門 職 ,近 代 国 家 の 行 政 ,軍 事 組 織 の 担 い 手 で あ る 官 僚 ・軍 人 ,及 び 銀 行 や 財 閥系大企業 の職員層. 展開す るわけだが,対 象 自体 を研究 してい るだけでは ない し,ま た対象者から得 た結果を強いて一般化 しよ う とす るので もな い。対 象 を「通 して」 (佐 藤 1992: 99),一 般的に受験競争 として認められている問題 につ いて考 えようとするのである。 3)6名 には毎週一回個別に会い,一 時間から一時間半程 度 イ ンタビュー を行 っている。彼 らはすべ て,H tt H 学区のそれぞれ別の公立中学に通 う生徒である。 4)ロ ーゼ ンバ ウムの理論 である能力 の社会的構成説 (竹 内 1992:47)に 依拠 したもの。 5)進 学者が,進 路変更や自由選択 の可能な,普 通教育 をめざす ことから,中 等学校 では普通教育 コースが発 展 した。また高度の専門教育を与 える高等教育機関 に おいても同様 の傾向が見 られた。特定 の職業を志向す る「専門型」 と区別 し,将 来 の職業やキャリアについ ての志望があい まい な学生は「教 養型」 とした。日本 では,「 教養型」学生 は,法 。経 ・商 ・文等 の文科系学. 田 1997). 参考 。引用文献 「 天野郁夫 ,1984,『 学習社 会」へ の挑戦』 日本経 済新 聞 社。 天野郁夫 ,1996,『 日本 の教育 システムー構造 と変動 ―』 東京大学出版会。 伊丹敬之 。加護野忠男 ,1989,『 ゼ ミナ ール経営学入 門』 日本経済新聞社。 上野千鶴子 ,2002,『 サ ヨナラ学校化社会』太郎次郎社 。 梶井篤志 ,2002,『 戦略的思考 の技術』中央公論社 梶 田叡 一 ,1983,「 学歴社 会 の一 つの課題」『教育社 会学 .. 研究』第 38集 。 門脇厚司 0飯 沼浩之 ,1992,『 高等学校 の社会史 一新制高 校 の く予期せぬ帰結 〉 』東信堂。 苅谷剛彦 ,1986,「 閉ざされ た将来像 ―教育選抜 の可能性 と中学生 の 『自己選抜』 」『教育社会学研究』第 41集 苅谷剛彦 ,2000,「 学習時間の研究 ―努力 の不平等 とメ リ .. トクラシーー」『教育社会学研究』第 66集. .. 坂下昭宣,1985,『 組織行動論』白桃書房 佐藤郁哉 ,1992,『 フイール ドワー ク』新曜社 。 .. 高橋 潔 ・金井壽宏,2002,「 モチベー シ ョン論 の ミッシ ン グ ・ リ ン ク」『一 橋 ビ ジ ネ ス レ ビ ュ ー 2002年 SUM.』 。. 竹内 洋 ,1981,『 競争 の社会学 ―学歴 と昇進 一』世界 思 想社. 注 1)調 査 については,『 進路選択プロセスにおける中学生 の意識構造』 (森 永 :2004)を 参照。 2)6人 とい う限られたインフォーマン トを用いて議論 を. (藤. 7)近 代 学校教育 と近代 的職業. .. 竹内 洋 ,1981,「 教育 アス ピレーシ ョンと学歴社 会 の構 造」『価値意識 の社会学的研究』関西大学経済 0政 治研 究叢書第 45冊 竹 内 洋 ,1988,『 選 抜 社 会 試 験 ・昇 進 をめ ぐ る 〈加 熱 〉と く冷却 〉 』 メディアファク トリー .. .. 竹内 洋,1992,「 教育 と選 抜」柴野 昌山,菊 池城司,竹 内洋編 『教育社会学』有斐閣。 竹内 洋 ,1994,「 学歴社会論再考 ―伝統的 アプ ローチ と 制度論的 アプローチ」『現代社会学研究』第 7巻 ヽ 亡 性』 竹 内 洋 ,1995,『 日本 の メ リ トクラ シー 構造 と′ .. 東京大学出版会. .. 竹内 洋 ,1997,『 立 身出世 主義 一近代 日本 の ロマ ンと欲 望 ―』 日本放送出版協会 田中孝彦 ・高垣忠 一郎 ,1999,『 中学生 をわか りたい』大 .. 月書店 。 橋爪貞雄 ,1976,『 学歴偏重 とその功罪』第一法規 。 橋爪貞雄 ,1983,『 学歴社会 か らの脱却』黎明書房 橋爪貞雄 ,1985,「 受験体制 に関す る中学生 の意識 一主観 .. 主義社会学的試み ―」『名城大学教職課程部紀要』第 18 巻. .. 久冨義之 ,1993,『 競争 の教育. なぜ受験競争 はか くも激.

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参照

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