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雑誌記事に見る学校図書館建築・施設整備の課題変遷

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(1)Title. 雑誌記事に見る学校図書館建築・施設整備の課題変遷. Author(s). 今, 尚之. Citation. 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 68(2): 87-95. Issue Date. 2018-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9699. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(人文・社会科学編)第68巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Humanities and Social Sciences)Vol. 68. No.2. 平 成 30 年 2 月 February, 2018. 雑誌記事に見る学校図書館建築・施設整備の課題変遷 今 尚 之 北海道教育大学教育学部札幌校家政教育教室. Changes in the Issues of Architecture and Facility Development of School Libraries in the journal of “School Library” KON Naoyuki Department of Home Economics Education, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 1947(昭和22)年の学校教育法施行規則において,学校の目的を実現するために必要な施設 として,学校には,図書館又は図書室を設置することが示されている。また,2017(平成29) 年3月に示された新学習指導要領においても,子どもたちの言語能力,情報活用能力等の育成 を支え,主体的・対話的で深い学びを効果的に進める基盤として,学校図書館に引き続き期待 がなされている。特に学習の場,児童生徒の居場所としても注目されるようになってきた。学 校図書館を建築,施設整備の観点からみたとき,その課題変化を知ることはより良い学習環境 の整備に向けて有益である。そこで,過去の雑誌記事から各時代毎の課題の変遷を探ったとこ ろ,1980年代後半が境となり,学校建築や教室空間としての図書館設置を主要な課題とする時 代から,アメニティ,環境,リニューアルなどの個別的な課題も取り上げられる時代へと変化 したことを報告する。. 1.はじめに. ことによる。その精神は,1949(昭和24)年の「ユ 1) で明文化され,その後 ネスコ公共図書館宣言」. 近代公共図書館の五原則は「利用に差別をせず」. の改定においても引き続き明記されている基本的. 「無料であり」 「公的支出によりまかない」「その. な事柄である。1994(平成6)年に改訂された「ユ. ための法的な根拠を持ち」 「運営は委員会など民. ネスコ公共図書館宣言」は, 「社会と個人の自由,. 主的な組織による」というものである。. 繁栄および発展は人間にとっての基本的価値であ. このような原則が存在するのは,人々の知る権. る。このことは,十分に情報を得ている市民が,. 利と表現の自由を保証する社会的な装置が,民主. その民主的権利を行使し,社会において積極的な. 主義を発展させるという考え方が根底に存在する. 役割を果たす能力によって,はじめて達成され. 87.

(3) 今 尚 之 2) る」 として,情報へのアクセスと活用の権利が. る。. 社会の発展をもたらすことを述べている。. このような期待に対して,現在に至るまで,学. 学校教育における図書館の役割も同様である。. 校図書館は学校の施設,設備としてどのように整. 1991(平成3)年11月の第30回ユネスコ総会にお. 備されてきたのであろうか。. いて, 「ユネスコ学校図書館宣言-すべての者の. 2016(平成28)年10月に,「これからの学校図. 教育と学習のための学校図書館-」が採択,批准. 書館の整備充実について(報告)」が,文部科学. された。その宣言の冒頭において,学校図書館の. 省が設置した,学校図書館の整備充実に関する調. 役割は「学校図書館は,今日の情報や知識を基盤. 査研究協力者会議から提出された。その報告のな. とする社会に相応しく生きていくために基本的な. かで,「学校図書館は……子供の居場所となりう. 情報とアイデアを提供する。学校図書館は,児童. ること等も踏まえ……」5)と書かれている。この. 生徒が責任ある市民として生活できるように,生. ような認識はいつから始まり,そのための環境整. 3). 涯学習の技能を育成し,また,想像力を培う」. 備はこれまでなされてきたのであろうか。さら. と述べ,児童・生徒が多様な資料を使いながら学. に,2017年3月に公示された新学習指導要領にお. 習し,人間的に成長するところとして学校図書館. いて,児童生徒が深い学びを行うために,学校図. の存在意義があることを示している。. 書館には引き続き期待がなされている。. そのような役割を持つ学校図書館の施設や設備. これまで,時代の要請を受けながら,学校図書. の整備は,これまでどのように進められてきたの. 館の施設,設備の計画や建築,そして環境の整備. であろうか。. は,なにがイシューとなり,なにを課題とされて. 第二次世界大戦後まもなく,文部省によって編. きたのであろうか。また,どのような問題解決策. 集・発行され,伝達講習で用いられた「学校図書. が示されてきたのであろうか。それらを明らかに. 館の手引」では,学校図書館は,児童生徒に自由. することは,学校図書館を中心とする学習環境の. な活動の手段を与える場として説明されている。. これまでの変遷を考察し,今後の学校図書館の施. 例えば, 「学校図書館の蔵書は,生徒の持つ問題. 設や設備の計画を検討するために有益な情報を提. に対していろいろな考え方や提供する」ものであ. 供するものと考えられる。. り「かりに,教室の学習において,教師から一つ. 以上のような問題意識から,今後の研究の方向. の問題に対してただ一つの解決しか与えられない. 性を探るために,全国学校図書館協議会が発行す. とするならば,生徒は自分自身でものごとを考え. る「学校図書館」誌にこれまでに掲載された記事. 4) と,児童生徒の主 ることを学ばないであろう」. を調査し,そのタイトルを手掛かりに,解説記事. 体的な学びを促進する場であり,そのための資料. や論考がなにを主題としてきたのか,経年的な変. を収集し, 提供する場であることを説明している。. 遷を俯瞰し,整理することを行ったので報告する。. 1958(昭和33)年の学習指導要領から学校図書 館に関する記述があらわれ,1998(平成10)年の. ⑴ 学校図書館の法的位置付け. 学習指導要領の改訂では,児童生徒の主体的・意. わが国において,学校図書館は,学校教育に欠. 欲的な学習活動や読書活動を充実することが示さ. くことのできない基盤的な施設・設備として位置. れた。そして,総則において独立項目として,学. 付けられている。. 校図書館の重要性が強調されるに至った。学校図. 学校教育法施行規則では, 「第一章(総則) . 書館には多様な学習資料(メディア)が取りそろ. 第一節 設置廃止等」に,「学校には,その学校. えられている中心的な施設(メディアセンター). の目的を実現するために必要な校地,校舎,校具,. としての役割や,学習指導,自主的な学習の場と. 運動場,図書館又は図書室,保健室その他の設備. しての働きなどが期待されるようになったのであ. を設けなければならない。」と書かれている。. 88.

(4) 雑誌記事に見る学校図書館建築・施設整備の課題変遷. また, 「学校図書館が,学校教育において欠く. 一般に,図書館には,資料(蔵書),人(専門職),. ことのできない基礎的な設備であることにかんが. 施設(図書館)の三要素が必要であると言われて. み,その健全な発達を図り,もって学校教育を充. いる。学校図書館においても同じことが言われ,. 実すること(学校図書館法第一条)」ために,学. これまでに,資料のあり方や専門教職員の養成や. 校図書館法(昭和28年法律第185号)が定められ. 配置について様々な検討や議論が行われ,実践と. ている。. 研究の積み重ねが行われてきた。. 学校図書館法において,学校図書館の目的は,. その結果,例えば,1993(平成5)年には,公. 「小学校(特別支援学校の小学部を含む。),中学. 立の義務教育諸学校における学校図書館の図書. 校(中等教育学校の前期課程及び特別支援学校の. (資料)整備における量的目標である「学校図書. 中学部を含む。 )及び高等学校(中等教育学校の. 館図書標準」が文部省によって設定され,各都道. 後期課程及び特別支援学校の高等部を含む。)(以. 6) 府県教育委員会教育長宛で通知された 。そして,. 下「学校」という。)において,図書,視覚聴覚. 同年,学校図書館整備5カ年計画が立てられ,地. 教育の資料その他学校教育に必要な資料(図書館. 方財政措置が行われるようになり,図書(資料). 資料)を収集し,整理し,及び保存し,これを児. 充実への道が開かれた。. 童又は生徒及び教員の利用に供することによっ. さらに,1997(平成9)年の学校図書館法改正. て,学校の教育課程の展開に寄与するとともに,. では,2003(平成15)年までに12学級以上の学校. 児童又は生徒の健全な教養を育成すること(第二. に司書教諭を配置することが義務化され,2014年. 条) 」と定義されている。. の改正学校図書館法において,学校司書の配置が. このように,学校図書館は,学校教育上不可欠. 努力義務化された。. な基盤的な施設であり,児童・生徒の学習環境を 向上させ,学びを豊かに深くするためにもその整 備充実が求められている。. ⑶ 議論の少ない「施設」あるいは「場」として の学校図書館. そのため,学校図書館法において,設置義務と. このように,資料(図書)と人(専門職)につ. して「 (設置義務)学校には,学校図書館を設け. いて検討と整備が進む一方で,学校図書館の施設,. なければならない。 (第三条)」と規定されている。. 設備については,学校全体の建築計画の一つとし. これは,学校規模に関わらず学校図書館を設置す. て位置づけられていることもあり,独立した検討. ることが定められていることを意味する。. や議論は数が少ない現状がある。学校図書館施設 の改善,整備への指針としては,最近では,文部. ⑵ 児童生徒の学習の場としての学校図書館. 科学省による「新しい時代に対応した学校図書館. このようなことから,学校図書館は,児童・生. の施設・環境づくり-知と心のメディアセンター. 徒が生涯にわたり学び続ける基礎的な力や,豊か. として(2001年)」7)など限られたものしかない。. な人間性を育てるために,読書習慣や情報を収. なお,公立学校の施設・設備は基準が定められ. 集・活用する能力を身につけるために不可欠な資. ており,また,学校図書館のみが独立して建築さ. 料の提供,学び方の提供などを行う重要な設備と. れることは数が極めて少なく,学校全体の建築計. 理解されているのである。そして,児童・生徒に. 画のなかに組み込まれることが通常である。建築. とって最も身近な図書館が学校図書館である。特. に際しては,そのため自由な議論が起きにくいと. に,公共図書館による全域サービスが十分ではな. いうこともいえよう。. い地域の子どもたちにとって,幅広い読書の機会. 1959(昭和34)年,当時の文部省は「学校図書. や知的好奇心を満たす系統的に収集された資料に. 館基準」を示し, 「F 建物・設備」において, 「(一). 出会えるのは,学校図書館だけといってもよい。. 学校図書館は専用施設とし,教育活動に便利な場. 89.

(5) 今 尚 之. 所がよい。 (二)閲覧室の収容定員は在籍児童・. 館施策,文教行政に様々影響を与えてきたと考え. 生徒の一割とする。(略)最低一学級分の児童・. られることなどによる9)。. 生徒を入れられる広さがいる。 」などと記してい. なお,本報告は,学校教育側から,学校図書館. 8). る 。そして,閲覧室だけではなく,事務室・研. の建築や施設・設備の何が課題とされてきたかを. 究室を置くことや視聴覚室も置くことも示してい. 経年的に整理することを目的としていることか. るほか,換気・通気・採光・照明・色彩・色調・. ら,建築関連の学協会誌については調査対象から. 防音への留意も促している。. 除外した。また,建築関連の学協会誌の傾向とし. さらに,文部科学省は,小学校設備指針,中学. ては,学校建築全体の設計や施工について紹介す. 校整備指針(1992(平成4)年作成,2014(平成. る,あるいは調査研究を行った記事や論文は見ら. 26)年改正) ,高等学校施設整備指針(1994(平. れるが,学校図書館そのものを扱った研究は数が. 成6)年作成,2014年改正)において「図書室」. 少ない。しかし,今後,設計者がどのような考え. という用語を使い,「第3章 平面計画 第2 . を持って学校建築のデザインを行い,そこにおい. 学習関係諸室 8 図書室」について,その校舎. て学校図書館をどのように意識していたのかなど. 内での位置や他の学習施設(室)との連携の考慮,. は検討課題の一つといえよう。. 展示空間の計画などを示している。 これらの指針の存在は,学校建築の中での学校. ⑵ 調査・分析方法. 図書館に対する自由な発想を妨げることは否定で. ① 調査・分析の概要. きないが,公平性の観点からは意味を持つ。しか. 「学校図書館」誌に掲載された,学校図書館建. し,指針そのものの評価や議論,さらに,その指. 築や施設整備に関する記事を収集し,その書誌的. 針に示された範囲での課題解決に向けた検討や議. 事項をデータベース化し,データベース演算を行. 論はもっと積極的に行われるべきであろう。. い計量化することで,これまでに課題とされてき た主題を,クロス集計などにより分類し,経年的. 2.調査の対象および方法. に整理することとした。 「学校図書館」誌は,国立国会図書館に納本さ. ⑴ 調査の対象とした雑誌. れており,国会図書館によって各号の記事が採録. 公益社団法人 全国学校図書館協議会(全国. されている。このため,国立国会図書館OPACに. SLA)が発行する「学校図書館」誌を調査の対象. より雑誌記事の検索が可能である。. とした。 これは,①「学校図書館」誌は,1950(昭和. ② 検索語の抽出. 25)年9月の創刊から現在まで継続して発行され. 検索にあたり,検索語の抽出を行った。そのた. ており,わが国の学校図書館に関する中心的な雑. め,建築関連の用語辞典や,ここ10年ほどの全道. 誌と考えられる。②発行母体の全国SLAは,文. 学校図書館研究大会や全道学校図書館研修会での. 部省が発行した「学校図書館の手引」伝達講習参. 研究,研修テーマなどを参考に,学校図書館の建. 加者らがはじめた,各都道府県の学校図書館研究. 築や施設整備に関わる検索語の抽出を行った。そ. 団体をネットワーク化する全国組織として設立さ. して,候補とした検索語で実際に検索を行い,検. れ,発展してきた経緯がある。そのため,全国の. 索結果からさらに検索語を見出すことを行った。. 学校図書館関係者が集い,また学校図書館界に大. そのことにより「建築」 「建設」 「施設」 「設備」. きな影響を与えてきたと考えられること。③全国. 「環境」「改善」「改造」「リニューアル」「アメニ. SLAは, 学校図書館法の制定(1953(昭和28)年). ティ」を検索語として,論理和演算を行い,記事. に大きな役割を果たし,その後わが国の学校図書. を特定した。. 90.

(6) 雑誌記事に見る学校図書館建築・施設整備の課題変遷. ③ 分析方法 単純集計とクロス集計を行い,その結果を元に,. 3.調査・分析の結果. 雑誌記事の主題から課題となっている事柄の概要. ⑴ 調査結果. を把握することとした。. 検索対象年は「学校図書館」誌が発行された. 雑誌記事一つ一つに,分析用の分類(タグ)を. 1950(昭和25)年9月から2017(平成29)年7月. つけた。. までとした。. 分類は検索された記事の主題から名詞を抜き出. 先に示した検索語により検索した結果をもとに. し,出現回数の多い言葉のなかで本分析にふさわ. データベースに登録した記事の件数は167件で. しいと思われる言葉を採用するこにとした。なお,. あった。年毎の件数の推移について図1に示した。. 抜き出しには,UserLocal社が提供するテキスト. 登録された記事は「学校図書館」誌が創刊され. マイニング用のクラウドアプリを用いた。. た1950(昭和25)年9月号から見られるものの,. 抜き出した結果,内容的に近いものは,集約し. 1950年代後半からは掲載のない年もあり,1970年. 一つの分類とした。その結果,分類は「建築」「施. 代までは全体的に数が少ない。しかし,1980年代. 設」 「整備・用品」 「計画・基準」 「リニューアル・. に入ると記事件数が増加しており,1990年代後半. 改造」 「災害」の6つとした。なお,分類は一記. に特定の年以外は件数が少なくなり,2000年前半. 事に一つとはしなかった。それは,たとえば,. には記事のない年も見られる。しかし,2000年代. 1983年12月の第398号には「学校図書館づくりと. 後半から再び記事が見られる。. 施設・設備の問題」という表題の記事があり,施. また,1962(昭和37)年からは,学校図書館の. 設の問題だけではなく,学校図書館が備えるべき. 建築や施設整備に関する記事の特集号が見られる. 設備が抱える問題点も含めて取り上げていること. ようになった。特集号が扱っている主題について. から,二つの分類をつけることとした. は本報告とは別に検討する必要がある。. 以上のように分類を付与したのち,経年的な傾 向を知るために,記事が掲載された年と分類のク. ⑵ 分析結果. ロス集計を行い,年毎に集計を行った。. ① 6つの分類(タグ)による記事の傾向 調査期間である,1950(昭和25)年から2017 (平成29)年までに掲載された分類(タグ)毎の. 図1 「学校図書館」誌に掲載された建築,施設・設備関係記事の年毎の件数. 91.

(7) 今 尚 之. また,災害(震災)への対応や,特別支援学校 における施設整備などの記事も見られる。 なお,この分類の記事には,学校図書館の地域 開放など,使い方に関する記事も含まれる。 「建築」の分類がなされた記事は,第3位となっ た。様々な検討を行われ,優れた事例の紹介だけ ではなく,1971年01月の第243号では,特集とし て「学校図書館建築における公費(特集)」を取 り上げており,学校建築において学校図書館整備 を進めるための検討や実践事例が掲載されている。 また,「計画・基準」の分類が次いでいるが, 図2 分類(タグ)毎の記事割合. 文部省の基準などの解説記事や学校建築の設計な どの記事が中心である。設備・用品は什器類や. 記事タイトル数は,図2に示したように,「リ. ICT関連の整備などである。. ニューアル・改造」51タイトル(24.9%), 「施設」. 「災害」に分類された記事数は少ない。阪神淡. 49タイトル(23.9%), 「建築」42タイトル(20.5%),. 路大震災後に特集号が発行されている。その後,. 「設備・用品」21タイトル(10.2%),「防災」12. 東日本大震災以降は学校図書館の再建築や再施設. タイトル(5.9%)であった。. 整備だけではなく,児童生徒の心のケアも含めた. 「リニューアル・改造」が51タイトルと最も多. 学校図書館利用についても取り上げられるように. くなった。この分類の記事の表題を見ると学校図. なった。学校施設の耐震化は学校図書館だけの問. 書館の位置を学校内で変更したり,読書活動や学. 題ではない。学校施設全体の耐震化,災害対応の. 習指導に使いやすくするために,什器類のレイア. 一つとして総合的に扱われる必要があろう。記事. ウトを変更する,あるいは,様々なサインを提示. の対象変化から,震災においては,学校図書館は. するなど,アコモデーションを主題とする記事が. その空間の物理的復旧と同時に,児童生徒の学び. 目立つ。なお,この分類の記事には,余裕教室の. や日常生活をいかにして支えるべきかという視点. 利・活用なども含んでいる。既存の学校図書館を. が現れてきたものと考えられる。. 学習指導要領の改訂や児童生徒あるいは教員ニー ズにあわせ,有機的に発展させることが課題とし. ② 記事主題の経年変化から見た課題. て認識され,数多くの実践や検討がなされている. 記事の主題が経年的にどのように変化したかを. ことの表れとも思われる。このことは,ランガナ. 図3に示した。. タンの図書館学の第五法則に示された内容にも通. 1985(昭和60)年を境に,記事の主題に異なり. じるところがあり興味深い。. が見られる。1984(昭和59)年以前は,学校図書. 次いで,「施設」に分類された記事が多い結果. 館の建築,施設や設備,そして,図書館設備とし. となった。学校図書館全体の評価の中で,学校図. て用品を主題とする記事の割合が多い。. 書館で行われる学習指導や読書活動の基盤として. 一方,1985(昭和60)年以降は,主題の幅が広. 必要な施設として評価が必要なことが示されてい. くなり包括的あるいは総合的な内容が見られるよ. る。さらに,1990(平成2)年に,全国学校図書. うになったほか,災害を主題とする記事も出てく. 館協議会は独自に「新しい学校図書館施設基準」. る。. を定めた。この基準について説明を行う特集号な. 「建築」に分類された記事は,42タイトルのう. どが発行されている。. ち30タイトル(71.4%)が1984(昭和59)年以前. 92.

(8) 雑誌記事に見る学校図書館建築・施設整備の課題変遷. 図3 年毎の雑誌記事件数(分類(タグ付与)積み上げ). のものである。同様に「設備・備品」は21タイト. た。学校図書館の役割期待の変化の表れと読める。. ルのうち16タイトル(76.2%)が該当する。一方,. さらに「図書館クリニック」という言葉も見ら. 「リニューアル・改造」は51タイトルのうち4タ. れる。学校司書・司書教諭・父母らに加え,公共. イトル(7.8%)しかない。. 図書館の司書も加わったチームによって,学校図. 実際に,1984(昭和59)年以前の記事では,学. 書館の現状の問題点を洗い出し,リニューアルの. 校図書館の意義や価値を教育委員会当局や建設事. プランを立て,夏休みなど児童生徒が利用しない. 業者に伝え,理解させることや,勤務校の教員間. 時期に,学校の教職員全員で学校図書館内の什器. の理解を進めるために必要な方策などを,学校図. 類のレイアウト変更とあわせて配架なども変更. 書館担当者が切実感を持って対談するする記事な. し,さらには,図書の廃棄なども行い,それまで. 10). ども見られた 。. の児童生徒の学校図書館のイメージを大きく変え. 一方,1985(昭和60)年以降は,アメニティ性. ることで,利用を促進する取り組みが記事で紹介. の高い学校図書館施設の建設事例や学校の再築に. されている。1990年代に都市計画で見られたワー. 伴う学校図書館の再整備などが紹介されている。. クショップによる住民参加型の地域整備計画と同. 1993(平成5)年7月発行の第513号の特集は. 様な取り組みである。学校によって異なりがある. 「余裕教室を図書館に」というもので,8件の記. が,生徒(図書委員が多い)も参加し,自分たち. 事から構成されている。「低学年,高学年図書室. の学校図書館という意識を育て,自治意識を涵養. と書庫を」という記事も見られるようになった。. する取り組みにもつなげている事例も見られる。. さらに, 「親しみやすい」などという言葉が記事. このようなことから,1980年代の中頃は,学校. タイトルに出現し始めたのもこの時期である。. 図書館の施設・設備に対する課題が転換した時代. また,2000年代になると, 「アメニティ」とい. と思われる。この背景のひとつとして,学校図書. う言葉が記事タイトルに使われるようになってき. 館の必置は第二次世界大戦後と新しい課題であ. 93.

(9) 今 尚 之. り,人々の認識が進んでいなかったことや,増大. 図書館のイメージをどう変えていったのであろう. する児童生徒数に対応するために,学校の新設や. か。または,資料管理上の問題を理由に,学校図. 増築などが急がれ,学校図書館など個々の施設ま. 書館は閉じられた空間として,学校のなかでは異. で関心が進まなかったのが1980年代以前であり,. 質な空間となり,子どもたちから遠い存在になっ. 学校施設全体の整備が進んだ1980年代以降は,学. てしまったことはないだろうか。. 校施設としての学校図書館の使い方に関心が高く. 「学校図書館クリニック」などとして参加型で. なり,既設の学校図書館の活用や改良に関心が向. リニューアルを図った学校図書館は,成長する有. くようになったことがあると思われる。. 機体として継続しているであろうか。. さらに,1980年代前半以前における学校図書館. 学校図書館を学校の中心に置いた図面を示した. 施設に関する中心課題は,同じ時期に住宅整備や. のは教育学者のデューイである11)。デューイが示. 都市計画分野において,いわゆるハードウェアの. したことは,単なる物理的な位置を意味するもの. 整備が中心的な課題でもあったことに通ずるもの. ではなく,子どもたちの学びの中心に学校図書館. がある。. を置くことであった。そしてその考え方は,現在. 一方,施設・設備をいかにして活用するのか,. においても古びた考えではないであろう。. また,快適な学習,読書環境を整えるのかが学校. 学校図書館の施設のあり方や整備を考える上. 図書館の課題とされた1980年代後半以降である. で,これまで課題とされてきたことを,改めて追. が,住宅整備や都市計画分野において,住環境の. 求していきたい。. アメニティや参加型の都市計画・まちづくり,リ ノベーションなどに多くの関心が寄せられ,研究,. 注. 実践が取り組まれていた。同じ時期に,学校図書 館の整備においても,アメニティや参加型の環境 改善の実践など,比較的日常的な環境整備の取り 組みに注目が集まっていたことは興味深い。. 1)清水正三:公共図書館の管理,p.199〜200,日本図 書館協会,1971年 2)日本図書館協会図書館ハンドブック編集委員会編: 図書館ハンドブック第6版補訂版,p.500〜502,日本 図書館協会,2010年. 4.まとめ 以上, 全国学校図書館協議会の機関誌である「学 校図書館」誌に掲載された,学校図書館の建築や. 3)長倉美恵子・堀川照代訳:学校図書館宣言−すべて の者の教育と学習のための学校図書館,図書館雑誌94 巻3号,p.170-172,日本図書館協会,2000年3月 4)文部省省内「学校図書館協議会」編:学校図書館の 手引,p.4,師範学校教科書,1948年. 施設整備に関する雑誌記事タイトルの経年的変化. 5)学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会. から,これまでに課題とされてきた主題を概観す. 議:これからの学校図書館の整備充実について(報. ることを試みた。その結果,1980年代中ごろが一 つの転換であることが見えてきた。 しかし, 今回は,記事タイトルの件数を集計し, 記事の傾向を俯瞰したのみであるが,この結果を 手掛かりとして,学校図書館の施設としての整備. 告) ,p.10,文部科学省,2016年10月 6)文部省初等中等教育局長通知: 「学校図書館図書標 準」の設定について,文初小第209号,1993(平成5) 年3月29日,文部省 7)文部科学省:新しい時代に対応した学校図書館の施 設・環境づくり:知と心のメディアセンターとして, 2013年,文教施設協会. の変遷についてさらに考察を行いたい。. 8)文部省制定:学校図書館基準,1959年,文部省. 例えば,小学校において1970年代から導入が試. 9)黒澤浩他編著:新・こどもの本と読書の事典,2004. みられてきたオープンプランスクールは,文部省. 年,ポプラ社,全国学校図書館協議会『学校図書館五. の助成により1980年代後半以降普及することにな る。そのオープンプランスクールの普及は,学校. 94. 〇年史』編集委員会編:学校図書館五〇年史,2004年 など.

(10) 雑誌記事に見る学校図書館建築・施設整備の課題変遷. 10)例えば「学図建築の隘路をさぐる(特集),学校図書 館261号,全国学校図書館協議会,1972年07月」など 11)J.デューイ著,宮原誠一訳:学校と社会,p.83,岩波 書店,1957年. . (札幌校准教授). 95.

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