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雪結晶における枝の接合の形成について

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(1)Title. 雪結晶における枝の接合の形成について. Author(s). 油川, 英明; 佐々木, 雅昌. Citation. 北海道教育大学紀要. 自然科学編, 57(2): 1-12. Issue Date. 2007-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/632. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(自然科学編)第57巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(NaturalSciences)Vol.57,No.2. 平成19年2月 February,2007. 雪結晶における枝の接合の形成について. 油川 英明・佐々木雅昌. 北海道教育大学岩見沢枚物理学研究室. OntheFormationofaBridgebetweenBranchesofaSnowCrystal ABURAKAWAHideakiandSASAKIMasaaki. DepartmentofPhysics,IwamizawaCampus,HokkaidoUniversityofEducation,068−8642. ABSTRACT Someofsnowcrystalswereoftenfoundtohavetinybridgesoficebetweentheirbranches.Itwas notanexceptionalphenomenonandalsoseeninphotomicrographsofsnowcrystalsofcurrentresearchers.. Asanexplanationoftheformationofbridges,itwasthoughtthatthesnowcrystalgrewupwithli−. quidofwaterandformedbridgesbetweenitsbranches.Thesnowcrystalhadbeenconsideredtogrow directlywithvaporofwater,butthespacebetweenbranchesofthesnowcrystalwasverysmalland theamountofvapormakingthebridgemightnotflowtothespace. Evenatatemperatureunderthefreezingpoint,thesnowcrystalwascoveredwithathinliquidfilm. Ofwater,Whichwascal1edtheliquidlikelayer.Whenthethicknessofthelayerincreasedbysupplyin WaterOfsupercooleddropletsormoistureofairsurroundingthecrystal,theliquidlayerbecameunst− ableinthermodynamicsandapartofitchangedtothesolidattheinterfaceoficeandwater.Asare− Sult,theliquidlayerdecreaseditsthicknesstokeepthestablestateandthesnowcrystalgrewup.. 1.はじめに. 雪の結晶は一般に六方対称で,樹枝状結晶など. などの隣りあう側枝が接合し,時として一体化す るなどの形態が一般的に見られ,このような雪結 晶の形態については,先の水蒸気供給型表面成長. においてはさらに六本の主枝から側枝が対称的に. 説では理解が難しいように考えられる.すなわち,. 成長している.これらの枝は,雪結晶一般につい. 例えば樹枝状結晶の成長が進んだとしても,枝同. ても同様であるが,周囲の大気から水蒸気が結晶. 士の一部が接合してブリッジを形成するなど,極. 表面に昇華凝縮することにより成長するという,. めて狭隆な箇所においてかつ部分的に枝と枝の接. つまりは気相供給型の表面成長により生成すると. 合が生じるということについて,水蒸気の拡散に. 言われてきている(Nakaya,1954).. よって結晶表面に水分子が取り込まれて成長する. ところが,天然の雪結晶においては樹枝状結晶. という気相型の表面成長では,その説明が困難で.

(3) 油川 英明・佐々木雅昌. あるということである.つまり,天然の雪結晶の. 形態には従来の気相成長説によっては説明が得ら れないものも見なされることから,そのような成 長説とは観点を異にした,雪結晶の新たな成長機 構としての液相からの結晶成長(油川,2005a) をもとに,これらの現象について検討する必要が あるのではないかと考えられる.. ところで,雪の研究はNakaya(1954)の意図 とは異なり,完全な過飽和状態のもとでの気相成 長を検証すべく,拡散型人工雪作製装置による実 験が精力的に行われて(HallettandMason,1958 ;Kobayashi,1961など),天然の現象とは禿離す る方向へ進められてきたようである.. ここでは対流型人工雪装置に見られる過冷却微. 図1 枝の接合など(A,B,C,D,E,F)が 見られる樹枝状雪結晶. 水滴について,水蒸気量として換算すること (Nakaya,1954)の可否は留保し,Nakayaet. 的鮮明に写し出すことができるので,枝と枝との. α/.(1958)による実験的事実をそのままに受け. 接合を観察することに適している.図1は樹枝状. 入れるならば,それが雪結晶の表面に広がるとい. 結晶の全体を示したもので,この図のA∼Fの記. うことは,結晶表面にも相応の水膜が存在してい. 号の付された部分が接合などを形成している箇所. なければならないということになる.理論的にも,. である.これらの接合箇所は樹枝状結晶の主枝か. その後,KurodaandLacmann(1982)により. ら伸びた側枝で,接合している様子が枝の輪郭に. 雪結晶表面には疑似液体層の存在が示され,その. よって判別ができる.この側枝の接合箇所を拡大. 液相と結晶固相との境界における界面成長が議論. したものが図2である.この図の左上に示された. されてきている.. 記号は図1のものと同じで,その記号の箇所を拡. このようなことから,本研究は,雪結晶の種々. 大したことを示している.図2のAは,枝同士の. の顕微鏡写真から結晶の接合状態を調査し,その. 接合というよりも,両方の枝の間にいわゆるブ. 形成機構に関わり,液相供給型界面成長説につい. リッジ状の継ぎ目が形成されているように見られ. ての有効性を検討するものである.. る.これに対して,Bの部分は左側の枝が成長し て右の枝の側面に衝突するように接合が形成され. 2.雪結晶の枝の接合に関する観察 雪結晶の隣り合う枝の接合について,顕微鏡写. ている.また,Cは両校の間がふさがっておらず,. 右側の枝が少し窪んだ状態で,左側の成長してい る枝を避けているように見える.D,E,Fは,. 真によりその幾つかを以下に紹介する.はじめに. 先のBと同じように,各々の枝が成長して他の枝. 著者らによる撮影写真を示し,次に他の研究者や. に衝突するように接合部分を形成している.. 観察者により撮影されたこれまでの顕微鏡写真の なかから,枝の接合が見られるものの例を示す.. 図3は,比較的大きな径の樹枝状結晶で,図の 矢印部分に側枝の接合形態が見られる.また,図. 4は図3の矢印箇所を拡大したもので,下方に位 2−1 雪結晶の顕微鏡写真に見られる枝の接合 雪結晶のフィルター内包型照明による顕微鏡写 真撮影法(油川,2005b)は,結晶の輪郭を比較. 置する枝が成長して行き,上方の枝がそれを回避 している形跡が少し見られるが,結局は接合を形 成している.このような枝の回避は図2のCと同.

(4) 雪結晶における彼の渡合の形成について. 図4 矢印部分(図3)の拡大.接合部分に気泡状 の文様が見られる.. 図2 枝の接合(図1の各部)の拡大. 図5 Nakaya(1954)の側彼の接合 2−2 その他の顕微鏡写真に見られる模の接合. 図5は,Nakaya(1954)の図版に見られる雪 図3 樹枝状結晶の側枝の接合(矢印). 結晶の例で,矢印で示したような結晶の中心部に ある側枝が接合の形態を示している.また,小林. 様であるが,他にも幾つか見られ,このような枝. (1970)の顕微鏡写真にも同じような枝の接合が. の回避成長も枝同士の接合の形成と関連している. 確認できるが,両者ともこのような形態について. ように見なされる.さらに,図4では,枝の接合. は特に言及を行っていない.. の中間に透明で小さな円形の文様が見られるが,. この他の雪結晶の接合例について,以下にまと. 下方の枝などに付着している不透明な凍結雲粒の. めて示す.図6は,図1などと同様のフィルター. 水球と対比して考えれば,これは気泡によるもの. 内包型の照明による著者らの顕微鏡写真で,矢印. ではないかと見なされる.. で示したような接合が6箇所に見られる.この接 合が見られる枝は側杖というよりも主枝が広がっ.

(5) 油川 英明・佐々木雅昌. ;. 図7 Bentley(1931)の雪結晶写真. 図9 Libbrecht. て成長しているように見られ,接合の形態が特に. 紙にプリントしたわけであるが,このような繊細. 側枝に限定されたものではないことを示している.. な作業を通して,Bentleyは雪結晶の彼の接合形. 図7は,BentleyandHumphregs(1931)の. 態を十分に認識していたものと考えられる.その. 写真集からの一例で,結晶の中心部が接合,ある. 結果として,このような彼の接合の写真が示され. いは一体化している様子がわかる.この写真集で. ていることになる.. は,樹枝状結晶の場合,1ページに収められた12. 図8は吉田(1999)の撮影による顕微鏡写真で. 個の結晶のうち1∼2例ほどの割合でこのような. あるが,側役の接合状態が鮮明に示されている.. 枝の接合が各ページにおいて見られる.つまり,. また,図9はLibbrechtandRasmussen(2003). 枝の接合現象はそれだけ発生頻度が高いというこ. による透過と反射の二照明による顕微鏡写真であ. とである.また,Bentley(1931)はこのような. るが,中心部の彼の接合や一体化の様子がよく判. 暗視野の写真を作成するために,コピーしたネガ. 別できる.. (写真乾板)から結晶本体だけを切り取って印画. 図10は,低温走査型電子顕微鏡による広幅六花.

(6) 雪結晶における彼の接合の形成について. 根本的な矛盾を抱えている.それは,気相供給型. 表面成長説では,雪結晶を生成させるための水蒸 気量は水飽和を超えた過飽和度を必要とするが,. 天然においてはそのような過飽和の状態は皆無に 近いということである.降雪が天然の現象である ならば,その生成条件も天然において一般的に見 いだされなければならないのは当然のことである. が,気相供給型表面成長説ではそのようになって いないのである.一方,Nakaya(1954)は,雪 結晶成長の条件として過飽和度を必然と見なした 図10 低温走査型電子顕微鏡の撮影の雪結晶 (Wergin,2005). 反面,極めて微小な過冷却微水滴が雪結晶に直接 作用するという人工雪の実験から,天然において もそのような微水滴の存在を確かめることができ. の雪結晶の撮影写真で(Wergin,2005),結晶の. るならば,雪結晶が液相により成長している可能. 表面状態が極めて良く把握できるものである.結. 性があるのではないかと考え,雪の液相成長を示. 晶全体には特有のレリーフ文様が見られないこと. 唆している.このように,雪結晶が気相あるいは. から,これは雪の「表」を示していることになる. 液相の供給により成長するという諸説について,. わけであるが(油川,1992),着目すべきは結晶. 今回の枝の接合形成を検討するなかから,その安. の枝と枝との間に形成されているブリッジ状の接. 当性を探ってみることにする.. 合部分で,比較的白く輝いている薄い継ぎ目にそ の形態が確認できる.. このように,これまで撮影された雪結晶の顕微. 3−1 気相型表面成長説について 中谷(1949)は,雪の結晶が霜の結晶のように. 鏡写真には,撮影者及び撮影方法に関わりなく枝. 空気中の水蒸気が昇華することにより成長すると. の接合形態が確認できる.つまりこのことは,先. して,霜の結晶を人工的に作製する実験を経て,. にも述べたように,雪結晶の一般的な形態と見な. 同様の装置である対流型により人工雪を作り出し. すことができるわけであるが,これまで特段に着. たわけである.実験が成功したことから,雪や霜. 目されることはなかった.. が水蒸気の昇華により成長するという「仮説」が 実証されたとして,これ以後,雪の結晶は水蒸気. 3.雪結晶の枝の接合に関する成因について これまで述べてきた雪結晶の枝の接合につい. により気相成長するものと見なした.その後,拡. 散型人工雪作製装置の実験により,雪の結晶は水 蒸気の気相成長が自明のこととして,一般の結晶. て,その成因を以下に考察する.この接合は結晶. 成長理論の分野へと組み込まれて行った(小林,. の一部を形成していることから,雪結晶の成長機. 1980).その基本的な成長機構は,図11に示した. 構を基にして検討されなければならないものと考. ようなコツセルモデル及びその欠陥を補ったラセ. えられる.雪の結晶は,中谷(1949)の緒言にあ. ン転位モデルによるもので,表面カイネティツク. るように,「低温において水蒸気が或る種の核に. スの考え方を含めて,水蒸気の水分子が直接に結. 昇華作用によって凝縮し」て生成したものである. 晶相に組み込まれるというものである(黒田,. とされ,以後,水蒸気の昇華による成長機構,い. 1984).ただ,このような成長機構は,常温にお. わば気相供給型表面成長説が雪の研究の基盤と. けるヨウ素の結晶成長など,融点から極めて離れ. なって今日に至っている.しかし,この成長説は. た固相について適用されているもので(大川,.

(7) 油川 英明・佐々木雅昌. 氷飽和の水蒸気密度として,無限遠方を一定の過 飽和とすれば,結晶近傍には相応の密度勾配が形 成され,水蒸気の拡散により結晶はその表面から 成長していくことになる.それ故,結晶が成長す. るためには,水蒸気が拡散する空間と水蒸気の密 度勾配が必要となる. 図12は,樹枝状雪結晶の枝の接合直前の状態を. 模式的に示したものである.水蒸気の等密度曲線 から明らかなように,結晶の枝の先端が成長して きたとして,それらが接近すればするほど水蒸気 の密度勾配は小さくなり,ついには図12に示した ように,両枝の近接部分では水蒸気密度の勾配は ほとんど存在しない状態になり,枝の先端近傍の. 図‖ 結晶成長のコツセルモデル1),及びラセン転 位モデル2)(小林,1980). 空気は水蒸気密度について氷結晶と平衡の状態に なるわけである.この状態では枝の先端はこれ以 上に成長することはできず,成長するとしても水. 、、、_.. J. 蒸気密度の勾配のある両枝の側面ということにな る.結局,これまで考えられてきた水蒸気の拡散. による気相供給型表面成長説では,今回示したよ うな結晶の枝の接合については説明がつかないこ とになる.そして,このような枝の接合は,先に も示したように一般の雪結晶に見られる現象であ. ることから,説明がつかない結晶成長説は結論と して一般性に欠けるということになる.. また,Nakaya(1954)により提唱された先の 液相供給型表面成長説においても,図12に示され たような両枝の狭い空間の一部を特別に選択し,. 過冷却微水滴が付着するということの理由は見あ 図12 氷結晶周囲の水蒸気密度の分布曲線.結晶の 先端近傍は氷飽和で平衡.. たらず,これも一般性を欠くものと考えられる. つまり,これらの説は,結晶の枝が接合する箇. 所の表面を限定し,そこに水蒸気ないしは微水滴 1977),氷のような融点近傍の結晶にそのまま適. が集中的に供給されなければならないというとこ. 用できるかどうかは吟味が必要であるように考え. ろに非現実性があり,結局,雪結晶の枝の接合形. られる.. 態については説明することができないことにな. ともかく,従来の結晶成長理論としてこのモデ. る.. ルを今回の雪結晶の接合現象に適用してみよう.. このモデルによる結晶の成長は,周囲の空気中か ら水蒸気が拡散により結晶面に輸送されてくるこ. 3−2 液相型界面成長説について 前述の表面成長説は,水蒸気ないしは過冷却微. とが前提で,その輸送量は結晶面における水蒸気. 水滴が結晶表面のある点に集中して供給されなけ. の密度勾配に依存している.つまり,結晶表面は. ればならないというものであるが,それは,結晶.

(8) 雪結晶における彼の渡合の形成について. がそれらの供給を受けた箇所ないしはその近傍に. 液相の内因的な成長について,Kurodaand. おいて成長するという考え方に基づいたものであ. Lacmann(1982)は有益な議論を展開している.. る.つまり,雪結晶の成長が供給相と接している. つまり,図13に示したように,氷点下において,. 固相一気相の限定された表面で成されているとい. 水晶の表面は氷一飽和水蒸気の関係にあるよりも. うことが,枝の接合について説明ができないとこ. 氷一液膜一飽和水蒸気にあることの方が自由エネ. ろであると考えられる.それ故,このような外因. ルギーとして低い状態にある.ここで,水晶は液. 的・固定的な成長説ではなく,結晶の内因的・動. 膜で結晶表面が「濡れる」ほどその表面エネルギー. 的な成長の機構によって枝の接合については考え. が小さくなるので,液膜は厚さを増す方向に変化. られなければならないということである.. し易く,また液膜は氷よりも内部エネルギーが大. そのような成長機構については以下のように推. きいことから,化学ポテンシャルとしては薄くな. 察される.すなわち,枚と枝とが接合するまでに. るように変化し易いことになる.結局,これらを. 成長するには,結晶の内部から,つまりは固相一. 総合した自由エネルギーが最小になるような水晶. 液相の界面において液相が固相へと変化すること. 表面の液膜の平衡厚さ(∂。。)が決められる.そ. により結晶の成長がなされ,両方の枚がともに近. して,それは以下のように示されている.. づき,ついに両夜の表面に存在する液相部分が接 合することになる.そして,接合部分が氷化する. 肌1ノ′ユ′トl■′ノ′. ′了‥/=−l+ ユ/りIt. ことによりブリッジ状の氷の継ぎ目が形成される. ということである(後述の図19を参照).また, 枝の接合箇所は極めて狭隆なことから,前述のよ うに,水蒸気や過冷却微水滴の結晶成長「素材」. Aα∞=中一(αⅣ+免//Iわ △〃〝Ⅳ=〃Ⅳ−〃∫. ここで,qは氷と水蒸気飽和の空気との界面. をその場所では供給され得ないので,結晶成長の. エネルギー,伊Ⅳは水と水蒸気飽和の空気との界. ための「素材」,つまり液相の水が結晶の表面を. 面エネルギー,q/Wは氷と水の界面エネルギー. 流動し,成長の速い接合箇所に移動するような機. である.また,〃wは水の化学ポテンシャル,拘. 構が考えられなければならないことになる.液相. は氷の化学ポテンシャルである.さらに,A及. のこのような移動は,結晶各面の成長速度の違い. びnは実験的に決められるべきパラメータとし. に起因しているものと判断される.. ている. 図14には自由エネルギーと液膜の厚さの関係が. 示されており,当然ながら,∂。qは自由エネルギー が最小の場合である.いまこのグラフにおいて, ■■一.一】■. 液膜の厚さが∂。。よりも小さな値∂1の状態で あった場合,固相と液相の界面において液膜の厚 さを増すように∂1→∂。qの方向へ変化 つまり 氷の液化が起こると見なされ,逆に,液膜が∂2 のように∂。qよりも大きな値になったときには, ∂2→∂。。のように変化して界面で液膜が結晶化 し,結晶成長が進行すると考えられる.このよう. ■「. な結晶の成長・消耗の変化は固液界面で起こると. 考えられることから,液膜の厚さを増加させるこ とが結晶成長の条件となる.そして,その液膜は 図13 水晶表面の水膜と各々の表面エネルギー. 近傍からの水分の供給だけではなく,他の箇所か.

(9) 油川 英明・佐々木雅昌. から極端に外れたものではないと見なされる.こ のことは,前述の∂e。の算出式において,A拘二/W. が通常の水と氷の備により求められているわけで あるが,後述のようなことから,毎Ⅰ/Wについ ては少し検討すべき余地があるものと考えられ る.この値が通常の水一氷の差より小さければ, 巧−△‰. ∂。qは図15で示された値よりも大きくなる可能性 が存在するわけである.. →6. ∂16eq∂2. これまで述べてきたような雪結晶を成長させる 図14 自由エネルギー最小値としての液膜の平衡厚 さ(KurodaandLacmann,1982). 液膜は,結晶表面に対して,空気中からの水蒸気. の凝結によってでも,あるいは過冷却微水滴によ. 6eq. る直接的な水分の供給であっても良いわけである. (Å). が,雪結晶の成長を促す液相はどのような水分で. 16. あっても良いというのではなく,氷点下において. 沌. 比較的ゆっくりと結晶表面に凝結したもの,ある. 12. いはそのようにして形成された過冷却微水滴が結. 10. 晶表面に捕捉されて液層となったものである.こ. 8 6. のことの例として,図16,図17には異なる過冷却. ム. 水滴の相変化が示されている.図16は,常温の水. 2. 滴をそのまま過冷却させたもので,凍結する過冷. 0 0. −5. −10. −15. −20. TemperQtU佗(Oc). 却水滴が潜熱放出のために昇温し,その結果,周 囲との温度差により水滴から水蒸気が蒸発して,. 図15 各々の氷結晶面における温度と液膜の厚さの. それが凍結水滴の周りに霜として生成している. 関係(KurodaandLacmann,1982). (油川他,2004).また,水蒸気が急激に凝結し て生成した過冷却微水滴も図16に類似したものと. ら液相として移流してきてもその厚さを増すこと. なる.一方,図17の矢印で示された過冷却水滴は,. になるわけである.このような結晶の成長機構に. 氷点下で比較的ゆっくりと凝結して生成したもの. より,図1などの枝と枝の接合が起こると考えら. で,図の右側から成長してきた樹枝状結晶の枝に. れ,また,このような枝同士の接合が雪結晶にお. 捕捉されるが,そのまま枝に取り込まれ,側枝と. いて見られるということは,天然の雪が液相供給. して結晶化している(油川,2005a).このとき,. 型の界面成長を行っていることになるわけである.. 図16のような水蒸気の蒸発が見られないことか. 雪結晶の表面における平衡液膜の厚さについ. ら,この場合は,一般的な凍結の潜熱を放出する. て,KurodaandLacmann(1982)は図15のよ. ことは行われていないものと見なされる.つまり,. うに示している.この図によれば,平衡液膜の厚. 潜熱の放出が両相のエンタルピー差で表されるこ. さは温度の降卜とともに減少し,樹枝状の雪結晶. とから,図17の場合は,両相の化学ポテンシャル. が生成されるような温度では,その厚さはせいぜ. の差であるA〝Ⅰ/Wが一般的な氷一水による値よ. い水分子の数個程度分と見積もられている.しか. りも小さいものと考えられるわけである.それ故,. し,今回示した天然雪における枝の接合状態(例. ∂。qの値も図15で示されたものよりは大きくなる. えば図2のA)によれば,液膜の厚さは光学顕微. ことが予想される.このことが,図2のAに示さ. 鏡で判別ができるほどで,平衡液膜の厚さもそれ. れたような比較的継ぎ目の間隔が広い接合状態を.

(10) 雪結晶における彼の接合の形成について. P「 ̄「「、二 ̄ ̄一丁l 1−→・ ′、、 ・ ●ヽ・・−・. ・r ̄ ̄ヽ、■人 n▼pmiq. mm【ご ̄ゝ.. r▼1. 「. 「. l・、ヽ. ﹁. −‥1. ・ ̄、. 図17 結晶化する過冷却微水滴(矢印).右下に時間 (秒)を示す.②左下は付着部の拡大.. 天然の雪結晶に付着した無数の凝結核の発見で ′1. ■. ∴′ヽこ. 、.. kゝ. ▲】一∧、叫q. 図16 潜熱放出を伴う過冷却水滴の凍結.1)は凍 結前,2)はその1分後に;東結した状態.. あった.Nakayaは,雪結晶が過冷却微水滴の液 相を取り込むためには結晶の表面にも液相,つま り液膜が存在しなければならないと考え,そのこ とから二つの水球を接触させ,それを引き離す実 験により,雪結晶に見立てた水球の表面に液膜の. 形成している原因ではないかと考えられる.人工. 存在を確かめた.それらのことについては図18及. 雪作製法においても,水蒸気の供給や凝結が急速. び1司19に示されている.. に行われれば,雪結晶ではなく水球が生成する(中. さらにNakayaetal.(1958)は,氷板の上に. 谷,1949).これは,雲粒付雪結晶を人工的に作. いろいろな径の過冷却水滴を付着させる実験か. 製する際に行われる方法であるが,このような急. ら,おおかたの水滴は凍結して水球になるが,径. 激な水蒸気の供給では雪結晶を作製できないとい. が1∼2〃mの過冷却微水滴は液膜として氷板上. うことから,対流型人工雪作製装置において湿度. に広がることを観察し,天然においてもこのよう. の上限が存在する(花鳥,1944)ことの理由にも. な微水滴が雪結晶を成長させている可能性を示唆. 考えられている.. した.さらに,この微水滴をも「湿度」に含める. ところで,Nakaya(1954)は,人工雪の作製. ことにより,人工雪作製実験における過飽和につ. 実験から雪結晶の生成に関する温度と湿度の条件. いて,結果として,そのような過飽和が存在しな. を見いだしたが,湿度については天然に存在しな. い天然との妥協を図ることとなった.そして,上. い過飽和でなければほとんどの雪結晶が生成し得. 記のような微小な過冷却水滴,つまり雲粒の存在. ないことから,雪結晶の成長に液相が関与してい. を大然において確かめることができれば,人工雪. るのではないかと考えた.その根拠としたところ. と天然雪との生成条件が合致することになること. は,一つには,花鳥(1944)による対流型人工雪. から,雲粒の分布の正確な観測を提唱した.. 作製装置における極めて微小な過冷却水滴の浮遊. しかし,天然の雲粒分布はNakayaの期待に沿. と成長する樹枝状結晶へのそれらの付着・取り込. うものではなく,それよりも1桁ほど大きな粒径. みであり,他の一つは,Kumai(1951)による. の分布を示している(Harimaya,1975).一方,.

(11) 油川 英明・佐々木雅昌. 油川(2005a)の実験においては,天然の雲粒と 同程度の粒径であっても,液相として雪結晶の成 長に寄与することが確認された.この差異は過冷 却微水滴の生成過程の違いによるもので,対流型 人工雪作製装置の過冷却微水滴や,Nakayagf αJ.(1958)の氷板の実験における過冷却微水滴は,. 図18 水球の接触(左),付着(中),回転(右)。球. 径1.95mm,−3.0℃(Nakaya,1954). 水蒸気の吹送距離が短いために急激に凝結して生 成したもので,結果的には1∼2〃mの径の微小 なものしか結晶に取り込まれず,それよりも大き な水滴は「結晶化」の条件が得られなかったもの と考えられる.これに対して比較的長い時間をか けて凝結・生成させた過冷却水滴は,天然の雲粒 程度でも十分に「結晶化」することになる.この. 氷球2. ような現象は過冷却した水の分子構造に関係して. いると考えられるが,その詳細は他に譲ることと する.. このような過冷却微水滴の凍結形態は,天然の 降水現象においてもいろいろと見られることで,. 寒冷前線などの通過による大気の水蒸気の急激な 凝結で生成した水滴は雪結晶に付着して水球とな り,雲粒付結晶や霧を形成することになる.これ. に対して,厳冬期の高山などでゆっくりとした上 昇気流から得られる雪結晶は,比較的形が整って いるものが多く見られる.つまり,雪結晶も霞も. 過冷却微水滴の雲粒により生成するが,その違い は雲粒の形成過程に因るということである.この ように,雪結晶の生成を含め,枝の接合形成につ. いては,過冷却微水滴が直接に関わっているとす る液相供給型界面成長説が最も安当なものである と判断される.. ところで,雪結晶を成長させるために結晶表面 の液膜の厚さを増すには,先に述べたように,空. 図19 水球の回転による表面液膜の検証.これは図18 の実験結果を模式的に示したもの.氷球の接触 によりブリッジ(B)だけしか形成されかナれば 回転は生じない.氷球の上端に取り付けられた 繊維が水平に移動することにより,Bが破壊し, 疑似液体層があることにより水球はすぐには離 れず,それらが付着して矢印方向に回転する. (Nakaya,1954). 気中の水蒸気がそのまま液膜に凝結することも考 えられるわけであるが,そのためには大気中の水 蒸気庄が水飽和以上でなければならないことにな. 3−3 雪結晶の各種成長説について これまで述べてきた各種の雪結晶成長説につい. り,ウイスカーのようなVLS成長や拡散型装置. て,それらをまとめて以下の表に示す.ここで,. により作製される人工雪の成長(小林,1980)に. 供給相が「気相」である横の行の項目は,雪の成. は気相供給型の界面成長が想定できるとしても,. 長に関しては水飽和以上の過飽和が求められるこ. 天然の現象としては,その可能性は極めて低いも. とになり,天然の現象としては不可となる.また,. のと言える.. 成長が「表面」となっている縦の列の項目は,液. 10.

(12) 雪結晶における彼の渡合の形成について. 層としての結晶成長においては想定し難く,表で はそれぞれに編目が施されている.その結果,編. 本論文は,著者の一人である佐々木雅昌の2005 年度卒業論文をもとに作成されたものである.. 目の最も濃い項目,つまりは実際の雪結晶成長に. なお,本論文に掲載された雪結晶の写真の一部. 関して最も可能性の小さな説は,コツセルモデル. は名古屋大学名誉教授の樋口敬二氏より紹介を頂. などの従来の成長説となる.そして,編目が見ら. いた.ここに記して感謝の意を表する.. れない項目,つまり実際的にも理論的にも妥当で あると見なされる雪結晶の成長説は液相供給型界 参考文献. 面成長説で,これにより,本論において紹介して. きたような雪結晶の枝の接合に対しても理解が可. 油川英明,1992:雪結晶の「裏」と「表」について.雪氷. 第54巻,第2号,123−130. 能であると考えられる.. 油川英明・田代智昭・尾関俊浩,2004:凍結する過冷却 微水滴の表面に形成される氷晶状結晶−「水の結晶」. 表 結晶成長に関する種々の説. に関する検証−.北海道教育大学紀要(自然科学編),. 第55巻,第1号,9−22 油川英明,2005a:過冷却微水滴の結晶化による雪結晶 の生成.北海道教育大学紀要(自然科学篇),第55巻,. 第2号,1−12 油川英明,2005b:雪結晶の環状透過照明による顕微鏡 写真撮影法.北海道教育大学紀要(自然科学篇),第56. 巻,第1号,1−7 中谷ほかの液相成. 対流型の人工雪 本論の結晶成長説. Bentley,W,A,andHumphreys,W,J.,1931:SnowCrys− tals,McGrawHillBookCo.,NewYork,226pp, Hallett,J,and Mason,B,J,1958:Theinfluenceof. temperatureandsuper−Saturationonthehabitofice CryStalgrownfromthevapour,Poc,Roy,Socり247, 231−238. 4.おわりに. 花鳥政人,1949:人工雪の生成条件について一補遺.低. 温科学,物理篇,2,23−29. 天然の雪結晶において,例えば樹枚状結晶の側 枝などに見られるような枝と枝とが接合し,ブ リッジ状の継ぎ目を形成している形態が見られ. Harimaya,T.,1975:CloudDropletsonSnowCrystals,J, Meteor,Soc,Japan,52,384−390 Kobayashi,Tり1961:TheGrowthofSnowCrystalsat I,OWSupersaturation,Phil,Mag.,6,1363−1370. る.このような形態は一般的なもので,これまで. 小林禎作,1970:雪の結晶.講談社,304pp.. の研究者の観察や写真集に共通して見られること. 小林禎作,1980:六花の美.サイエンス社,249pp.. である.すなわち,雪結晶の彼の接合は,天然に. Kumai,Mり1951:Electron−MicroscopeStudyofSnow−. おいては通常的な現象であることから,雪の生. CrystalNuclei,J,Meteor.,8,151−156 Kuroda,T,andLacmann,R.,1982:Growthkineticofice. 成・成長に関わることとして,この現象について. fromvapourphaseanditsgrowthforms,),Crystal. も雪結晶の成長機構から一般的に説明がなされる. Growth,56,189−205. 必要がある.. そのような成長機構として,これまで碇唱され てきた諸説のなかで,従来の気相供給型の表面成 長説では理解が困難であり,それとは対局的な液 相供給型界面成長説が最も安当性を有しているよ うに考えられる.. 黒田登志雄,1984:結晶は生きている.サイエンス社, 265pp.. Libbrecht,K,andRasmussen,P,,2003:Snowflake −Winter’sSecretBeauty,VoyageurPress,Inc,Still− Water,112pp, 中谷宇吉郎,1949:雪の研究一括晶の形態とその生成−. 岩波書店,161pp.. Nakaya,U,1954:Snow Crystals −Naturaland ArtiBcialーHarvardUniv.,Press,Cambridge,510pp,. 11.

(13) 油川 英明・佐々木雅昌 Nakaya,U.,Hanajima,M.andMuguruma,J.,1958:. PhysicalInvestigationontheGrowthofSnowCrys− tals.J.Fac.Sci.,HokkaidoUniversity,Ser.II,5,88−118 大川章哉,1977:結晶成長.裳華房,245pp. Wergin,W.P.,2005: http://emu.arsusdag.gov/snowsite/Beltsville AgriculturalResearchCenter,Beltsville,Maryland, USA 吉田六郎,1999:天から送られた手紙一写真集 雪の結 晶−.中谷宇吉郎 雪の科学館,47pp.. (油川 英明 岩見沢校教授) (佐々木雅昌 2005年庭草業生). 12.

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