乳児の母児間音声相互作用に関する研究
13
0
0
全文
(2) 282. 瀬戸口裕二・林部英雄. るとした。この顔の模倣は,実験者の顔の表情を視覚的に弁別し,運動として反応する ためにその表情が持つきわめて複雑な顔の筋肉の微細な運動を知覚し,統合して処理し なければならないという高度な能力を要求されるものである。しかし,ここでは,その 能力の高度さよりも,この時期の乳児が,模倣をする傾向を持つことに注目したい。何 らかの刺激に対して反応し,模倣しようとする事は,相互作用を支える最も重要な社会 的な機能だと考えることができる。 また, KalninsandBruner. (1973)は,生後6週から10週の乳児で,提示される画像. と吸畷反射との関係について検討した。結果,乳児は,鮮明な画像を得るために,おし やぶり行動を増大させた。おしゃぶりが画像を悪化させる場合には,画像を見ている問 おしゃぶりを停止させた。このことは,乳児が,自分の行為の結果を予測できることを 示すものであり,上述の社会的機能同様に相互作用を持ち得ることを示すものである。 また,これは,自らの行為の機能を理解しているということもできよう。相互作用は, これら,社会的機能の上に成立するものである。 Eimasetal.. (1971)は,生後1カ月の乳児が,わずかなVOT (音声を生じる際の呼 気の閉鎖の解除と,声帯の振動が開始され発声されるまでの時間)の差を鋭敏に検知で きることを報告した。閉鎖子音の弁別は,このVOTによってなされるが,. 10msec程度の VOTの差の弁別能力は,出生後の学習の結果としての鋭明は困難であり,ここでも生得 的な側面が指摘された。 しかし,これらの初期の言語の基礎となる能力が生得的であるか否かより, Bruner(1974) の言うように, 「言語能力そのものと言うよりも,人間の行為と人間の注意のある特性か 生得的である。+と考えた方がよいのかもしれない。つまり,その特性に支えられた言語 獲得にいたる過程において,基礎的能力と社会的機能に基づく相互作用の果たす役割は, 無視できないのである。村井(1961b)が聴覚障害児の言語発達に関しての研究で指摘し ているように,言語発達における学習要因の存在は大きい。乳児は,本来持っていると 考えられるさまざまな能力だけでは,言語を獲得するには至らないことも明白である(Curtiss et. al.,. 1975)。. さて,この乳児期は,言語発達の上では,暗譜期とか前言語期と位置づけられている。 乳児は,出生後さまざまな音声を出すが,それは,大きく叫喚と非叫換発声とに分けら れる。噂語は,この非叫喚発声全体を指すという定義と,. 4カ月から10カ月頃までの反. 復される発声を指すという定義とがあるが,村井(1970)払音声の質的な異なりと反 復される特徴から,噴語は5カ月から6カ月頃に現れる反復する音声であるとしている。 噴語はまた,成人の音声的素材を多く含むものであり,ここに,音声の体制化過程を経 て,言語音となっていく(村井,. 1970)ものである。. しかし,前述したように,言語発達を支える学習要因は,それ以前にも存在するので あり,乳児期の言語発達を検討する際には,晴語のみならずそれ以前の音声行動全体を 検討していく必要がある。そこで,本研究においては,乳児期を前言語期として位置づ けた発達研究に主眼をおいている。あわせて,この時期の発声を検討する際に,叫喚に.
(3) 283. 乳児の母児間音声相互作用に関する研究. 比して機能が特定されにくい発声としての非叫喚発声が検討の材料となる。村井(1970) 「乳児が快適な状況に は,先行研究の検討と,聴覚障害児の研究(村井, 1961b)から, おかれたとき,量,種類はともかくとして,叫喚と異なった発声を行う傾向,あるいは, ポテンシャルを持つ。+とし,この非叫喚発声を言語形成過程の基礎とする理由を以下の ようにあげている。、 (村井, 1970)0 (1)非叫喚発声が,本能的発声であったとしても,その発達には文化的要因が強く関 係し,学習要因によって大きく影響を受ける (2)非叫喚発声が極めて,人間特有のものであること (3)非叫喚発声の多少が,言語獲得に大きな意味を持つ可能性のあること (4)非叫喚発声は,なんら信号的意味を持たないことにより,後の言語発達の素材と しての可塑性を持つ (5)音声的素材としての音声は,快適時にははるかに多い (6)聴覚障害児,中枢性言語発達遅滞児との比較から,言語発達においての非叫喚発 声の重要性が指摘されること (7)非叫喚発声がなされる快適状況においては,知的活動性が高まることが予想され, それが,この発声活動への学習効果を高める この,非叫喚発声及び噛語を,乳児の循環的反応とする立場もあるが,ここ-の社会. 的介入が,乳児の発声に影響することは十分に予想できよう。以上によって,本研究は, 乳児の非叫喚発声を素材としている。 次に,この時期の母親の発話の特徴が指摘されている(Garnica, Simon,. 1984;. Fernald,. 1977;. Fernald. 1985)0. Garnica(1977)は,通常の成人に対する発話との比較から,それを以下のようなもの であるとした。. (1)全体的にピッチが高いこと (2)ピッチの変位が大きいこと (3)特徴的な周波数曲線(pitch. contour). (4)ゆっくり-したテンポ (5)長い沈黙 Fernald. andSimon. (1984)は,これに発話の短さを加え,さらに,特徴的な周波数. 曲線として,以下のものをあげた。 (1)上昇型 (2)下降型 (3)平坦型 (4)上昇・下降型 (5)複合型 同時に,母親による反復が多いこ七を指摘し,これらの特徴を持つ母親の発話を母親 語(motberese)と呼んだ。. and.
(4) 284. 瀬戸口裕二・林部英雄. 我が国においても志村(1987)が,この母親語の特徴を確認し,さらに,基本周波数 での母児対の高い相関と周波数曲線の頗度の相関があることを示し,これによ■って,母 親語と乳児の音声行動との関連の上で,母親語が,乳児にとっての重要な音響環境であ ることを指摘した。 さらに,. Masataka. (1992a)は,母親語が,乳児の注意を惹起する機能を有し,乳児. は母親の周波数曲線に同調しようとする傾向を持つことを示した。このことは,乳児が, VOTにおいて高い弁別能力を有する(Eimas. 1971)ことのみならずピッチの特 徴をも弁別し,再生する能力を基本的に持つことを示すものである。また,乳児は,母 et. al.,. 親の反応の有無によって,意図的に発声する間隔を調整することと,この時期の母親の 発話の量と初語獲得の時期との相関があることを指摘し,相互作用における乳児の言語 発達の側面を検討している(正高,. 1991a. 1991b)。 最後に,ここまでにおいて,相互作用が乳児と母親の間に成立し,それが学習的要因 ;. として乳児の言語発達に影響していくことが示されたが,相互通行であるべきこの相互 作用が不完全であったり,剥奪される状況にあった場合について論じておく必要がある だろう。 まず,母親からの作用に問題のある例として,マターナルデイブリベーション(maternal deprivation)があげられる。. Irwin. (1952)が述べたように,託児施設に預けられた乳幼. 児は,家庭乳児に比して,非叫喚発声の量,種類が乏しく,叫喚が多い。これは,. Irwin. (1952)が考察したように,単に音声刺激の多少によるものではなく,乳児が非叫喚発声 を発する条件としての快適状況の多少によるとする事もできようが,この非叫喚発声の 少なさが,その後の社会的働きかけを二次的に制限する要因になることは想像に難くな い。また,社会的要因ではないが,先天性聴覚障害の場合も同じく母親の側からの作用 を阻害するものである。村井(1961b)は,先天的聴覚障害を持つ乳児の非叫喚発声の量 狗,質的違いを報告し,音声よりも動作的模倣による相互の交渉の方が顕著であること を報告している。これは正常乳児に関しても,. RutterandDurkin(1987)が示すように, 注視や動作が相互作用の交替(turn-taking)においてのシグナルとなり,母親も乳児に 同調して表情を作り出す。つまり,先天的聴覚障害を持つ乳児は,視覚の用心深さや注 意探さが,正常乳児に比して増し(村井,. 1961b),それによって相互作用を維持しよう. と努めているということであろう。 母親との聞で,往復する相互作用の両面的障害として,自閉症があげられる。この場 令,母親の側の問題というのではなく,自閉症児が人丸. 出力いずれにおいても感度が. 低いことによる。 さらに,母親自身の反応の量,質によるものもあると考えられる。最も一般的なもの は,母親の発声の量や質,機能等の違いであろう。 本研究は,以上をふまえて,社会的機能を基本的,初期的言語機能と位置づけ,母子 間の音声相互作用について概観し,乳児の母親へ同調しようとする傾向について検討し, 中でも相互作用の重要な機能である発話の交替(turn-taking)について検討していく。.
(5) 285. 乳児の母児間音声相互作用に関する研究. 2.方法 2-1.. #&. 本研究は第一に正常乳児の母親との音声相互作用を検討するものであるために,生後 3カ月から5カ月(開始時)の乳児8名とその母親の8組の母児対(表1)を対象とし た。母親藷の特徴の出現は,児の数及び性差に影響されない(Fernald. and. Si血on, 1984). とされているが,万全を期す為に,本研究で対象となった乳幼児は,すべて第一子であ る.対象の母親は,乳児の主たる養育者であり,出産時の年齢は,写3才から26才であり, 高校卒業以上の学歴を持つ健康な母親である。 表1.観察対象とした母親と乳児 母児対 A B. C. P E F. G H. 乳児の性 女 ・女・′ 女 女 女 女 男 早. 乳児の月齢 3,4,5 5,6 5. 栄養 母乳. 母の年齢 24. 分娩 正常. ■母乳 混合. ・25. 正常. _25、. 3,4,5 3,5. _・母乳 母乳. 、26. 5,6. 人工. 26. 3 -3,5. 26. 母乳. 23. 母乳.  ̄23. ・正常 正常 正常 正常 正常 正常・. *乳児の月齢は,観察時の満月齢であり,複数あるものは,記錬.の回数を示す *すべての母児対において周産期の異常はなかった. 2-2.手続き 本研究では,乳児が発する非叫喚発声を材料とした検討をねらいとしている。従って, 分析の材料となる音声の録音は,乳児の快適な状況でなされなければならない。そこで 録音に関しては,これまでの研究(FernaldandSimon, 1992a. ; 1992b;. 1984. ;志村,. 1987. ; Masataka,. 1992c)の手続きに準じて行った。まず,乳児は空腹でなく,十分に睡眠. をとっていること,おむつも快適な状況であることを考慮して, (1)録音の開始は,授乳後30分以内であること(2)十分な睡眠から目覚めて1時間以内に録音が終了すること (3)おむつが替えてあることを確認した後であること (4)児が快の状態であることが確認されたこと (5)母児間にアイコンタクトが成立していること. を条件として,これらが母親によって確認された後に,児をベッドに横たえるか抱いた 状態で録音をとることとした。 録音に関しては,母親も乳児も発話は統制されない自然発話が求められたため,録音 用の機材が児の視野に入らないように配慮した上で,録音は母子だけがいる時に行い, 母親によってスイッチがいれられるよう・七依頼した.. 1回の録音は30分間である.. さらに,成人に対する発話との差を比較するために,電話での食詰を3分間録音した。.
(6) 286. 瀬戸口裕二・林部英雄. 電話での会話では,相手との発話の重なりがあっても,こちら側の発話しか録音されな いという利点をもっていた。 録音に用いた機材は,録音機が, SONY. TC-D5M,マイクロフォンが,. SONY. ECM1959V. であった。. 1回について30分間とられた録音から,相互作用の密な部分の3分間の録音を抽出し, その中の音声を間断無くすべてサウンドスベタトログラフによって分析した。サウンド スベタトログラフは,. RIONSG-07を用い,分析に際しては,分析サンプルを7.2秒とし, 狭帯域で,周波数特性は平坦とし, VUメーターは,-3--5の範囲に設定した。 サウンドスベタトログラムの分析は,正高(1991a. ;. 1991b)の分析項目に準じて行い, それに発話の交替についての検討を行うための項目を補足して,以下のように分類,記 録した。. (1)基本周波数. FO. 母親,乳児ともに,一連の発話の中で,. 0.3秒以内の沈黙しかとらない音声のまとま りを一つの発話パウトとし, 0.3秒を越える間隔の発話は,それぞれ別の発話パウトと 定義した。その発話のFOの4点(音声の開始点,終了点,最高点,最低点)の平均を とったものを基本周波数とする。 (2)ピッチの幅 ピッチの幅は,発話のFOの周波数の最高点と最低点の差である。 (3)発話の長さ. ひとつずつの発話バウトの長さである。 (4)潜時 母親(児)の発話が終了してから児(母親)の発話が開始されるまでを潜時とした。 ただ,一連の発話パウトの中で,とりあえず3.0秒以内を応答と考え,それより大きな ものについては記録しないものとした。 (5) A-A発話の基本周波数. 母親の成人に対しての発話のFOの平均である。 ここで,本来ならば,研究の目的に沿って,各項目毎,もしくは,項目間の分析手続 きに関して記しておくべきであるが,本研究においては,理解を容易にするために,結 果の部分でそれぞれ解説しながら論を進めることとした。 3.結果 本研究においては,まず,母子間の音声相互作用について概観した。その後,発話の 交替についての検討を加えた。 3-1.音声相互作用 音声相互作用において,. 8組の母児対で,. 3カ月間行った録音であったが,録音レベ. ルの低いもの,ノイズが大きくて,分析できなかったものなどがあり,総数16回の録音 が採用された(表1)。ここでは,まず, 16回分の録音全体で,発話の数,基本周波数,.
(7) 287. 乳児の母児間音声相互作用に関する研究. さらにA-A発話と乳児への発話(A-Ⅰ発話),ピッチの幅,発話の長さ,潜時,応答 率,に関しての検討を行う。 (1)発話の数. 3分間に記録された母親の発話の数と児の発話の数については,ピアスンの相関で, 8組の母児対に,相関はみられなかった。 (2)基本周波数 31匂 3gO 29g 28g. 裏書 2匂匂 Ig匂 188 178 1昏8. 母親 -A-A発話. -・・A-1発話. 図1母親のA-A発話とA-. Ⅰ発話の基本周波数の比較. 8組の母児対の母親乳児に対する発話(A発話(A-A発話)のFOの平均より有意に(t-4.46, r-0.79. 2及び図1)。母親と児のFOの平均は, 表2. 母親A-A発話とA-. 母L. AIA発話. Ⅰ発話)のFOの平均は,成人に対する df-14,. p<0.05)高かった(義 (p<0.05)で高い相関を示した。. 1発括の基本周波数の比較 A-Ⅰ発話. A-AとA-Ⅰの差. A. 178. 214. 36. B. 206. 255. 49. 188. 253. 65. D. 194. 272. 56. E. 167. 223. 56. 233. 384. 71. 163. 217. 54. 172. 248. 76 ̄■. .C. .F. G ・H. (3)ピッチの幅. ピッチの幅は,. r-0.73. (p<0.05)で高い相関を示した。. (4)発話の長さ. 発話の長さには,相関はみられなかった。.
(8) 288. 瀬戸口裕二・林部英雄. (5)潜時 母親(児)が児(母親)に続いて発声した時の潜時については,母児対に相関はみ られなかった。. (6)応答率 母親の応答率(児の発話の総数/児に続いた母親の発話の数)と,児の発話の数に は相関はみられなかった。 次に, FOとピッチの幅,発話の長さについて,各母児間で,月齢毎に,. FOは30HZずつ, ピッチの幅も30HZ,発話の長さは0.2秒の間隔で全発話の度数分布表を作成し,その度 数の分布についてスピアマンの順位相関で検討した(表3, 表3. 4,. 5,. 6)0. 3カ月群の順位相関. 母児対 A. FO. ピッチの幅. 0.84**. 0.83*. D. E. 0.85***. 0.92** 0.82*. 0.79*. G. 0.92**. H. 0.88**■. *P<0.05. 表4. 発話の長さ. **P<0.01. 0.76**. ***P<0.001. 4カ月群の順位相関. 母児対. FO. ピッチの幅. A. 0.76*. 0.86*. D. 0.82***. 0.96*** *P<0.05. 表5. 発話の長さ. **P<0.01. ***P<0.001. 5カ月児群の順位相即. 母児対. FO. A. 0.81■*・. B. 0..78-*. C. 0.86**. ピッチの幅. ・O・二68* ̄・ ■0.76** 0.94**. D. 0.75**. 0.88**. E. 0.73*. F. 0.81*. 0.84*. 0.85*** 0.74**.. 0.76*. pH *P<0.05. 表6. 発話の長さ. **P<0.01. ***P<0.001. 6カ月群の順位相関. 母児対. FO. ピッチの幅. B. 0.83*. 0.78*. F. 0.81*. 0.86* *P<0.05. **P<0.01. 発話の長さ 0.83***. ***P<0.001. 次に,発話の交替について検討したが,ここでまず,乳児が発する音声に,単発のも.
(9) 289. 乳児の母児開音声相互作用に関する研究. のと連続的に発声されるものがあることに気づいた。それに対して,母親は,. 0.4秒から. o.8秒ほどの間隔で連続して発声される音声のひとつひとつに,丁寧に反応する母親とそ うではない母親とに分けられた(図2).L母親の反応率の平均は,. 56.2%であり,それに よって反応率が平均より高い母児対と低い母児対4組ずつの2群に分けられた(相づち の多い群:D,. G,. ど,. 変化を追えるように,. C,. E)。その中で,縦断的に. 3カ月と5カ月のデータが揃っている4組で,それぞれ2組ずつ. B;A,. E)に分けた。 の群(D, 有意な差がみとめられた(t-4.37, 高い群)とB群. B,. H,相づちの少ない群:A,. この2群の平均値の差を検定(片側検定)した結果,. (反応率の低い群). p<o.o5)。そこで,今後この2群をA群(反応率の として,検討を加えて行くこととした。.  ̄転● I. 毎観. 皆. 繁く. 蘇,i. 戦司. さ.叶. 磨. ち.,. ・ltl.. ソ-. ア. ウ. 7-〟 ンーーー. ノー〟. }. 蝿I. -・執. *!L・・. iit昔,・. & ,.. ㌔恥∴E.Lf..L心,,!Li搬i.:i;..:i,, i.i.i,I,i.i,.4.?・5t:i・・.勺 7. 図2. 7-. ・--・・一一. ,.i. ”. 7-. サウンドスペタトログラム. 連続的な児の発話に相づちをうつ母親の場合(上)とそうでない場合(下). 4.考察 8組の母児対において,. FOとピッチの幅において高い相関が認められた。母親の乳児. に対しての発話(motberese)の特徴を示したものと考えてよいだろう。母親は,通常ょ り高いピッチで発話し,より大きな抑揚で話そうとする。母親の音声が高いものである.
(10) 290. 瀬戸口裕二・林部英雄. と児も高いピッチで反応している。ピッチの幅に関しても同様であり,それぞれの母児 対で母親と児が,並行している。この時期の乳児が,音声的な聞き分けができているこ とを示す研究(Eimasetal.,1971)と照らし合わせて,本研究においても,その能力が 示唆されたものと考えられる。さらに,母親が,物理的要因によっても高くなりがちな 児のピッチに同調しているだけでなく,児の側からも母親の特徴に同調する傾向が指摘 される。. 8組の母児対についての相関とは別に,それぞれの母児対で多くの相関が認められた。 この時期の非叫喚発声が循環的な音声による遊びとしてだけでは位置づけられない相互 作用が存在する。 FOでは,. D対とH対で相関がみられなかったが,この母親は,共に,相づちが多い母 親であった。相づちは,母親の他の発話と異なり,ピッチが低い傾向があり,成人に対 しての発話に近いものであることが概観されるものである。同様に,この2対は,発話 の長さでも他に比して相関がなかった。これも相づちによることが考えられる。つまり, 相づちは,児の発話の短い間隔に割って入って行くものである。したがって,相づちは, しばしば児によって重なることがみられる。母親は,児が重なるとすぐに発話をやめる 傾向があるようで,それによって必然的に,母親の発話は極めて短いものとなる。それ に対して,話しかけたり,注意を喚起するときの発話は長くなる。母親の発話の長さに は,極めて大きな個人差があり,これによって相関はみとめにくくなるものだろう。こ の発話の長さは,発話の交替にも影響しており,互いに,短い発話で,単発的な反応の 多い場合には, FO,発話の長さとも高い相関が認められる(C, ど)。また,相づちが少 ない場合は,児の連続的発話が長い発話とみなされる場合があり,発話の長さに関して は,相づちの少ない群に有意な相関が認められた。 このように,相互作用を概観してみると,確かに母親の音声行動が,児の音声行動に 影響していることが指摘され,さらに,乳児も何らかの調整を経て,母親に同調してい る。この時期の乳児は,ランダムな循環的遊びとしてだけでなく,.  ̄発声しているようで ある。ここでは,それが意図的なものであるかどうかを論議するよりも,乳児に同調す る傾向があることが重要である。これは,はからずもひとつの社会的な機能であり,言. 語行動にとっては,やりとりを成立させる最も重要な機能である。この早期に乳児が持 つ機能によって,乳児はすでに,母親との間で個々の有機体として自らの発声を調整し ていることが予測されるのである。. 相互作用においては,発話の交替は重要な機能である。双方が,ランダムに発声して, 互いに調整の無い音声行動をとっているとすると,その後の音声行動もランダムなもの といわざるを得ないであろう。しかし,結果から,互いの発話の重なりが少ないことが 指摘されるだろう。児の発話に対して母親が重ならないように留意していること,母親 の発話に児が重なってきた場合に,母親が発話をやめようとする事などがこの要因とし てあげられようが,一定の文構造をもった発話の場合には,母親もすぐに発話をやめる ものではないようである。長い重なりは,そのほとんどが,そのような言葉かけの時に.
(11) 291. 乳児の母児間普声相互作用に関する研究. 起こっている。つまり,母親語(motberese)の特徴のひとつである発話の短さは,発話 の重なりを防ぐ機能を合わせもっているということもできよう。発話の交替時の重なり は,成人の場合にも多く存在する。相手の発話の終りにはもう次の発話が始まっている ことが多いのである。これは,互いに発話の終了が予測できるためであろう。そこには,. 文の構造や,発話の機能,Gさらには;それぞれの発話の特徴などによる経験則も作用し ているだろう。それらの規則や経験則の乏しい乳児との間での発話の交替では,母親の (1987)が指摘するように,ここには とる態度が重要となってくる。 RutterandDurkin 注視やうなづきなどの視覚的情報が作用するものではあろうが,もっと重要なのは,こ の時期の乳児の特徴である非叫喚発声が,短い間隔でリズミカルに行われていることで はないかと考える。つまり,相づちの多い母親の場合,そのリズムを予測し,極めて短 い発話の間隔に相づちをはさむのである。これが,後に児の連続的発声の間隔をのばす 要因として作用していると考えられるのである。必然的に児の薄暗も同様に長くなる傾 向を持ち,同様のことを実験的に指摘した正高(1991a. ;. 1991b)の研究からも,これを,. 児の側で母親の発話を聞き取ろうとする傾向として指摘できよう。 本研究においては,潜時をとりあえず3.0秒以内とした。しかし,結果から,母親も乳 児もそのほとんどが,1.0秒以内に集中し,発話の重なりも減少する傾向がみとめられた。 しかし,リズミカルな発声が続いている間は,相づちが存在すると潜時は極めて小さな ものか,あるいは重なりが生じて,マイナスを示す。・応答の機能を考えるとこの潜時の 定義は極めて重要なものとなっていくる。乳児は,この後1対1の発話の交替を持つよ うになり,ある意味においては,そうなってはじめて応答については論議されなければ ならないかもしれない。しかし,本研究だけでなく,初期言語獲得を検討しようとする 多くの研究がそれ以前の発達過程を探っていこうとしている以上,この潜時についての 定義は,避けられないものであるし,正確を期さなければならないものである。これに は,すでに応答という機能をもっていると考えられる母親の薄暗が手がかりとなってく ることは疑う余地の無いものであろう。児の潜時が,母親のものと一致してきたときに 児の潜時もー定の確立を得たと考えてもよいものだろうと考える. この応答の機能は,模倣を検討していく際にも重要であり,応答機能が定義されては じめて,模倣しているのか否かが論議されるものであろう。この応答機能の上に,学習 要因が成立し,その後の発達についてそれぞれの相互作用の対を抽出した研究がなされ ていくものであると考えるo本研究の目的のひとつは,このことを定義するための材料 を探っていくことでもあった。. 本研究の結果では,母親の潜時はそれぞれの違いがあまり指摘されなかった。 児の結果から,. 5カ月. 1.0秒以内に潜時が集中し,母親の場合との差が小さくなってきている。. つまり,応答機能についての詳しい論議はできないまでも,乳児は,先行する母親の発. 声に対して,あまり大き卑タイムラグをおかずに発声して,hることが指摘できる.母親 からの作用である相づちに関わらず,両群で同様のことが指摘される以上,これは,児 が作用していることをうかがわせるものであろう。今後相互作用を検討していく上で,.
(12) 292. 瀬戸口裕二・林部英雄. 本研究では言及できなかったが,これをひとつの指針として,周波数曲線の特徴や,育 韻などの乳児の模倣する機能についての検討を進めていきたいと考えている。 以上により,今後,乳児の相互作用については,様々な方向から検討されていくべき ものであろうと考えるし,その価値も大きなものであると思う。また,相互作用の特性 に鑑みて,マターナルデイブリベーションや言語発達遅滞を持つ障害児での検討を進め ていく必要があるものであり,多くの資料の検討する必要があるだろう。さらには,言 語発達遅滞や自閉症などの発見が,他に比して遅れがちなことを考慮すると,早期発見 と早期介入の必要性も高く,さかのばった資料の収集が困難であることから,ハイリス クの乳幼児から収集される資料の必要性も高い。今後,それらの検討をしていきたいと 考えるものである。. 本研究にあたっては,東京大学の正高信男先生と埼玉大学の志村洋子先生に多大なご 助言を賜った。動物行動と幼児教育の立場からの視点を与えて項いたことに,深謝の意 を表するものである。 また,調査にあたっては,横浜市南保健所の土屋久子氏と横浜市南部地域寮育センタ ーの大西祐好氏にご協力項き,ご助言を項けたことに感謝する. 最後に,調査資料を与えて項いた多くのお母様方と,録音に際して,ご配慮を項いた ご家族に感謝し,そのお子様方の健全な発達を心から祈るものである。 5.参考文献 ブライト1986. 動物達の哀し声 熊田清子訳,動物社 Bruner,. ∫.S.1974. The. of speech. ontogenesis. Curtis. S., Fromkin, An. on. update. Theo町and. A. and. Expanded Garnica, Some. infants. Simon,. T.. intonation. of. Genie,. (Ed.) Georgetpwn. Develo?mental Univ.. Pskycholingistics:. Press.. ∫.1971. prefer. listen. to. to. motherese.. Infant Behavior. and. Develop-. 1984 contours. in mother's. speech. to newborns・. Developmental. Pwchol-. (1),104-113. 20. 0. 1977 prosodic and C・ A・ Fergason. and Cambridge Irwin,. Dato. 2, 1-19. S. 1975. 8, 181-191. ment,. oBy,. development. D. P.. LanguLqe・. 1985. Four-month-old Fernald,. Krashen,. E.R., Jusczyk, P. and Vigorito, in infants, Seience, 17l, 303・306. perception. A.. of Child. Jo-al. D. and. linguistic. the. Siqueland,. Speech Fernald,. V., Rigler,. Applications,. P.D.,. Eimas. act,. 0.C.. 1952. Uni*.. paralinguistic. features. (Eds・) Talking. Press.. io. in C. E. Sno∇ to you喝Children. of speech Childym: LanguLqe Zn?ut and Acquisitiosn,.
(13) 293. 乳児の母児間音声相互作用に関する研究. speech. in. development. of Speech. child, Joumal. young. and. 17,. D由oyden,. He-'ng. 269-279 I.. Kalnins,. Bruner,. and. 1973. J. S.. The. observation. of visual coordination Percゆtion, 2, 307-314 Kaye,. K.. and. instnlmental. in earlyinfancy,. behavior. 1980. Why. ye don't. talk. to babies・. "babytalk”. Joumal. of Child. LanguLqe・. 7, 489-507. E. 冗. 1967. Lenneberg,. Biological. Foundation. LanguLqe,. of. John Wiley. Sons・. and. 正高信男1991a ことばの誕生,紀伊国屋書店 正高信男1991b 声がことばに変わるとき,月刊「言語+ N.. Masataka,. in. Motherese N,. Masataka, pitch 抑19, Early. a. language,. signed. Behavior. Infmt. of. Japanese. Development,. and. of vocal behavior 63, 1177-1185 Development,. Melzoff, A. N. and Moore, Imitation of facial and. infants,. to. maternalspeech. of. M.. Jounal. manual. Japanese. infants. in response. bythe. human. neonate.. gestures. Child. to maternal. and. Turn-taking. Durkin, ln. Develo9mental. speech,. Science, 198, 75-78. 3,ト10. 言語機能の形成と発達,風間書房 岡本夏木1968 言語機能の成立過程,児童心理学舌座3,言語機能の発達,金子書房5 岡本夏木1988 認執とことぱの発達心理学,ミネルヴァ書房. -. 6. 氏. 1987. interaction: mother-infant 23, 54-61 Pwcholog,. an. examination. of vocalizations. and. 志村洋子1987 母子相互作用における音環境としてのマザリーズと乳児の音声行動の関連,音声言語医学, 29,162-169. Schaffer,. H.. R.. 1984. The Snow,. Child's Enわinio C. E. 1972. Mother's. Lan-. 5,51-70. 聴覚障害児の音声発達,ろう教育科学, 村井潤一1970. D. R.. of. K. 1977. 村井潤一1961a 乳児の音声の記号化過程,心理学評論, 村井潤一1961b. Rutter.. 15, 453-460. 1992c. ontogeny. Child. 22-29. 1992b. characteristics 213・223 N.. Msataka,. 21,. 1992a. speech. a. Soc由I. to children. World,. learning. Academic. language.. Press・ Child. Development,. 43, 549-565. gaze・.
(14)
関連したドキュメント
音節の外側に解放されることがない】)。ところがこ
わが国において1999年に制定されたいわゆる児童ポルノ法 1) は、対償を供 与する等して行う児童
TV会議やハンズフリー電話においては、音声のスピーカからマイク
攻撃者は安定して攻撃を成功させるためにメモリ空間 の固定領域に配置された ROPgadget コードを用いようとす る.2.4 節で示した ASLR が機能している場合は困難とな
※ 硬化時 間につ いては 使用材 料によ って異 なるの で使用 材料の 特性を 十分熟 知する こと
本学級の児童は,89%の児童が「外国 語活動が好きだ」と回答しており,多く
児童について一緒に考えることが解決への糸口 になるのではないか。④保護者への対応も難し
いしかわ医療的 ケア 児支援 センターで たいせつにしていること.