+LNHU/RFDWLRQ0DSSLQJ6\VWHPE\:LUHOHVV*36&RPPXQLFDWLRQ1HWZRUN
尾 藤 章 雄
$NLR%,72
1 本研究の目的 本研究は,ハイカーなど山間地移動者の安全確保のため,*36を利用した位置情報の無線伝送によ るリアルタイムの地図表示を行うシステム,およびこのシステムを用いた運用実験の成果を紹介する ことを目的としている. 近年の登山ブームにより,山梨県内の富士山,南アルプス,および秩父連山には多数のハイカーが 訪れている.これらハイカーの中には携帯電話を持参するものも多いが,深い谷筋はもちろん,尾根 筋など標高の高い場所であっても,山間地では携帯電話のサービスエリア外となる場合が多い.また 固定電話の設置も山小屋などごく一部に限定されている.このためハイカーの事故・遭難と言った緊 急事態が発生し,救護活動が必要となった場合に,そのハイカーの位置を把握することは大変困難と なっている. 都市部では,徘徊老人や子どもの通学路をみまもる,携帯電話ネットワークを利用した有料サービ スがすでに存在しており,*36機能を搭載した機器を持った特定個人の位置情報を,あらかじめ契約 した者が取得することができる.しかし山間地では,これを可能にする携帯電話の基地局整備が,電 力確保やコスト面から難しい. 山間地においては,ハイカーの多くは徒歩移動が主であるため,常時持ち運ぶことが出来る機材は 可能な限り小型であることが求められる.またその機材は一般のだれもが利用可能で,低コストで提 供されることが求められる.さらに取得されたハイカーの位置情報は,携帯電話会社の有料サービス のように,あらかじめ契約した者のみが取得できるのではなく,可能な限りオープンな形で提供され ることが望ましい. 本研究はこれら諸点を考慮して,山間地における移動者の位置情報をリアルタイムでインターネッ ト上の地図に表示できる無線伝送システム−$356($XWRPDWLF3DFNHW5HSRUWLQJ6\VWHP)−を利用して, 『山間地移動者見まもりシステム』の構築を目指している.試行段階であるので,運用実験はアマチュ アバンドの周波数帯を送受信できる機器を,相応の無線従事者免許所持者が操作して行ったが,将来 的に機材およびシステム全体の汎用性を高めることにより,ハイカーにとどまらず,携帯電話のサー ビスエリア外となる地域の様々な移動者の,安全監視システムとして役立てることが期待される.キー ワードは「位置情報,リアルタイム,無線伝送,地図化」の4点である. 本研究は,平成22年9月11日,我が国初の国産*36衛星(準天頂衛星初号機)「みちびき」の打ち上 げに際して,財団法人衛星測位利用推進センター(63$&)が募集した利用実証推進プロジェクトに, 筆者も加わる「難アクセス地行動者のネットワーク型 みまもり システム開発可能性の実験的検証 (代表者:山梨大学工学部,近藤英一教授)」が採択されたことに伴い,従来の*36衛星における位置 情報の精度検証を兼ねて行われたものである.$356は,アメリカの%RE%UXQLQJDが提唱した無線パケッ トの応用で,*36を利用して行われるトラッキングシステムの一つである. 2 システムの概要 本研究で構築するシステムの概要を図1に示した.このシステムは,①*36受信機による移動者の位置情報の取得,②位置情報の無線ネットワークを利用した送受信,③インターネット上の地図への 位置情報の表示,という3段階から構成されている. ①については,前述の通り移動者が容易に持ち運ぶことが出来る軽量小型で,安価な機材を利用し たものであることが求められる.そこで,携帯用の位置情報取得・送信装置を図2の仕様で作成した. *36受 信 機 は,%<21,&6社 製 の*362 (価格はインターネット上の直販サイトで 69ドル),$356のシステムで推奨されてい るターミナルノードコントローラー(71& は,同じく%<21,&6社の7LQ\7UDN3(同42 ドル)を使用した.また送信機は,アマチュ ア無線の周波数帯である1450+z帯で送信 周波数を可変出来る,9HUWH[6WDQGDUG 社製 の9;−3を使用した. 移動者の持参する装置はバッテリーを装 填しても十分小形で軽く,重さは約500J, 1辺約10センチ程度の立方体に収納可能で ある.なお位置情報は,アメリカ空軍の管 理する1$967$5衛星31基(いわゆる*36 衛星,2009年12月当時)の中から,天空に 位置する数基から取得する. この装置では*36受信機から71&へ,時刻及び その瞬間の位置情報(緯度経度)が10($0183 形 式 で 受 け 渡 さ れ る.71&がこれを$)6.準拠 1200ESV(1秒当たり1200バイト)のパケット信 号に置き換えて約1分ごとに送信機に送り込み, 送信機からはこれが音声信号として約3:出力で 無線伝送により送出される. なお,*36受信機および71&機能を内蔵した $356対応の送信機(以下*36内蔵送信機)が 9HUWH[6WDQGDUG社から一般向けに販売されている ので,この機種(9;−8*)も使用し,上記図2 の71&を使用したシステムとの比較検討も併せて行うこととした. ②についてはもう一度図1を参照されたい.送信機から無線伝送されたハイカーの位置情報は,近 傍にこれを受信するノード局がある場合は直接届くが,山間地のためにこれが無く,また移動者の持 参する送信機の出力が小さいためにそこまで届かない場合も想定される. そこで,ハイカーの移動ルートから電波の届く見晴らしの良い地点に,デジピーターと呼ばれる中 継局を設置して,いったんハイカーからの無線伝送を受信し,改めて50:程度の高出力で再送信する. このデジピーターによる送信内容はハイカーの送信機から送出されたものと全く同じで,その送受信 間隔も連動する. ③については,$356の既存の枠組みを利用する.$356のノード局は,人口稠密地区を中心に多数 設置されている.これらノード局で受信されたハイカーの位置情報は,音声信号から再び緯度経度情 報にデコードされ,接続されたパソコンからインターネット上の専用サーバーに送られ,*RRJOH0DS 図1 構築した『山間地移動者見まもりシステム』 図2 携帯用位置情報取得・送信装置
上に表示される.この部分は$356システムとしてすでに確立しており,どこのノード局で受信され てもよく,多数のノード局の存在や,デジピーターなどを経由したこれらノード局への安定した無線 伝送がこのシステムを支えている. 3 システム運用実験 研究目的で述べたように,『山間地移動者見まもりシステム』 の運用実験は,携帯電話など通常の連絡手段の利用が困難で, 移動者の位置情報が*36衛星からの緯度経度情報に限定される 場所で行うことが必要である.そこで,対象地域として甲府盆 地北東部にある西沢渓谷(山梨県山梨市三富地区)を選定した (図3). 西沢渓谷は富士川の支流,秩父山地の主峰である甲武信ケ岳 の南側,笛吹川源流部にあり,標高1100Pから1400Pに広がる 深い峡谷である.花崗岩で構成される谷壁や複雑に屈曲する谷 筋と,これに生い茂る広葉樹は美しく,紅葉シーズンには多数 のハイカーが訪れる有数の観光地である.しかし幅の狭い川沿 いの遊歩道には未整備の部分も多く,毎年のように滑落事故が 起きる危険な所でもある. 運用実験は山梨大学に所属する学生および教員により,平成22年10月11日,および11月3日に行わ れた.10月11日には予備調査として,機器の調整とデジピーター(中継局)の設置場所の選定を行っ た.最終的に,西沢渓谷中心部からほど近く,徒歩による観光ルートの入り口に位置し,長時間にわ たりデジピーター搭載車両の駐車が可能な「道の駅みとみ」に設置することとした(写真1). 学生5名と教員1名はグループを組み,上記の携帯用位置情報取 得・送信装置及び連絡用無線機,予備バッテリーや記録用紙,他の ハイカーへの注意を促す幟(『日本版*36衛星「みちびき」山間地測 位実験中』を明記)を持参して,徒歩で西沢渓谷の遊歩道を最奥部 まで往復した(写真2). 「道の駅みとみ」から国道140号を北に約600P進んだ地点で道は分 岐し,舗装されているが一般車の入れない林道に入る.さらに14㎞ 進んだ西沢山荘までは車の進入が可能だが,ここからは幅90センチ ほどの遊歩道のみとなる.直ぐに東沢を吊り橋でわたり,以後は西 沢の川筋を上流に左岸側で西へ進む.観光名所として名高い「七ッ 釜五段の滝」の手前で遊歩道は右岸側にわたり,最奥部の不動の滝 を最後に,川筋を離れて南の山腹を急登し,林産資源搬出用のトロッ コ路盤跡を整備した幅15Pほどの林道に合流する.ここまでが往路 である. 復路はこの整備された林道を山腹沿いに東に戻り,入口から約1 ㎞の地点で往路に合流する.「道の駅みとみ」からの往復距離はおよそ10㎞,徒歩で約4時間の行程で ある. 4 運用実験結果 携帯用位置情報取得・送信装置および*36内蔵送信機からの位置情報は,「道の駅みとみ」に設置し 図3 山梨県 西沢渓谷 写真1 「道の駅みとみ」に設 置されたデジピーター
たデジピーターを経由して,県内外のノード局に安定して送られたが,「道の駅みとみ」の標高が高かっ たためか,デジピーターで中継された移動者の位置情報は,東京都や神奈川県など遠方のノード局で 受信されたものが多かった.西沢渓谷を移動する学生グループの位置情報は約1分間隔でほぼ正確に *RRJOH0DS上に表示された(図4). この図では全行程が一度に表示されているが,移 動者が谷筋を進むにつれて,ほぼリアルタイムにそ の位置が地図上に表示され,軌跡が描かれていった. このプロセスこそが,本研究のみまもりという点で は重要である. 位置情報が移動者の送信機からデジピーターを介 してノード局に到達する時間は数秒であり,これが インターネットの専用サーバーにアップロードされ て地図表示されるのに要する時間は,長くても1分 である.このため,移動者の位置情報は,ほぼリア ルタイムで地図上に表わされる.このように,山間 地における移動者の位置が,ほぼリアルタイムにインターネット上で確認できることにより,山間地 における移動者の緩やかなみまもりが可能となり,安全確保につながるシステムの構築という,本研 究の目的は達成されたことになる. 写真2 西沢渓谷における運用実験 (平成22年11月3日) 図4 西沢渓谷における移動者の軌跡(インターネット上の *RRJOH 0DS上 に表示された画像) 図中の赤点は移動者の位置情報がデジピーターを介して、ノード局に無線で伝達されたポイント 茶色の線は 携帯用位置情報取得・送信装置を使用した軌跡、緑色の線は*36内蔵送信機を使用した軌跡
西沢渓谷の深い谷筋の移動者の位置情報を,直接受信できるノード局は近傍には存在しない.この ような軌跡が描けたのは,「道の駅みとみ」に設置したデジピーターの中継によるところが大きい.山 間地の移動者を見まもるシステムとしては,このようなデジピーターを,どこに,幾つ設置すれば良 いかという点がポイントになろう.多くの谷筋からの電波を受信できる見晴らしのよい場所で,遠方 のノード局まで再送信できることはもちろん,デジピーターが安定して稼働し続けるための電力確保, 風雨の影響を受けにくい設置場所を見つけることなどは今後の課題である. ところで,携帯用位置情報取得・送信装置と,*36内蔵送信機を持参した学生は,同じ幅の狭い遊 歩道を一緒に移動していることからみて,厳密には茶色の線と緑色の線とは完全に重なり,さらに遊 歩道のルートと完全に一致するはずである.図4に示されたように2つの装置による位置が一致せず, また実際の林道と両者の軌跡との間に誤差が生じるのは,それぞれの*36受信機の精度の違い,およ び,1分おきに送出された位置情報が何らかの原因でデジピーターに到達しなかったこと(データの 欠落)などに起因する.移動者の安全確保という観点から,この誤差は可能な限り小さいことが求め られるので,以下で検証することにした. 5 位置情報の誤差 グループが実際に移動した遊歩道と表示された軌跡 との誤差について,ここでは実際に緯度経度情報が送 受信できた(地図上で赤点で表示された)位置につい て検証を行った.前述したようにデータの欠落による 誤差もあり得るので,ここでは電波の到達状況による 誤差ではなく,装置の*36受信機が取得した位置情報 の誤差を検証したことになる. 図4で赤点の位置から実際に移動した遊歩道の位置 を推定し,両者の誤差を図上で計測したものが図5, および図6である.往路ではほとんど川の左岸側を移 動していたが,地図で右岸側に赤点が表示されている ところについて誤差を測定し,青線の長さで示してい る.これによると携帯用位置情報取得・送信装置で最 大約818P,*36内蔵送信機の場合でも最大688Pの誤 差を生じている. 本研究の目的である安全確保や事故・遭難と言った 緊急時の救護に際し,この程度の誤差は問題ではない. しかし,今後は準天頂衛星初号機「みちびき」の利用 によって,さらに精度を向上させて行くことが望まれ よう. 謝辞 本研究は平成22年度千葉大学環境リモートセンシン グ研究センター共同利用研究(一般研究)「山梨県の電 子媒体による地域統計情報の統合」の予算配分を受け て行ったものである. 本研究を進めるにあたり,千葉大学環境リモートセンシング研究センター教授の近藤昭彦氏にご指 図5 位置情報の誤差 青線は実際の遊歩道の位置との誤差 (携帯用位置情報取得・送信装置) 図6 位置情報の誤差 青線は実際の遊歩道の位置との誤差 (*36内蔵送信機)
導をいただいた.ここに記して感謝申し上げます. 調査に使用した送信機9;−8*及びデジピーターに使用した70−'7106の2機種については,い づれも千葉大学リモートセンシング研究センター共同利用研究(プロジェクト研究 32010−4)の配 分経費で購入した. また,その他の各種装置の入手に要する費用は,文部科学省の平成21年度「理数学生応援プロジェ クト」に山梨大学が申請し,採択された『統合能力型高度技術者養成プロジェクト−自発リーダー(学 大将)を生む環境作り−』のマイハウスプラン・キャリアハウス「1C 宇宙と通信」への配分経費 を使用した. 参考:文部科学省 理数学生応援プロジェクト KWWSZZZPH[WJRMSDBPHQXMLQ]DLNRXER06122815KWP 参考:山梨大学 統合能力型高度技術者養成プロジェクト KWWSZZZHQJ\DPDQDVKLDFMSULVXLQGH[KWPO 無線機器運用に関わる免許及び機種ならびに使用画像について (1)無線機器を持参・操作する学生,またデジピーター(中継局)を設置・操作する教員については,すべ て総務省の定めるアマチュア無線従事者免許証(第一級∼第三級アマチュア無線技士)及び,無線局免許状を 保持しており,法の定める運用方法に基づいて識別番号の交換等を適宜・正確に行いながら運用実験を進めた. さらに全員が山梨大学アマチュア無線部に所属することにより,無線部の識別番号 -$1<)/(デジピーター に設定)を介した運用も行った. 参考 総務省無線従事者資格一覧 KWWSZZZWHOHVRXPXJRMSMUHIPDWHULDOFDSDFLW\LQGH[KWP (2)運用実験に使用した携帯用位置情報取得・送信装置の送信機は,いづれも国内で市販されているもので, 携帯用に9HUWH[6WDQGDUG社製の9;−3及び9;−8*の機種(定格出力はそれぞれ3:,5:),またデジピーター (中継局)用には,.(1:22' 社製の70−'7106(定格出力は50:)を使用した.いずれも上記(1)で示 した無線従事者免許の保持者が,無線局免許状で許可された周波数帯・出力等を遵守して運用した. (3)図4の画像は*RRJOH0DSV$356(KWWSMDDSUVIL)の表示画像を切り取って,必要部分をペイントプロ グラムにより加工したものである.