複素余次元
1
葉層のFATOU-JULIA
分解について 足助太郎 ABSTRACT. 京都数理解析研究所で開かれた研究集会「葉層の微分幾何と ベルグマン核」 における講演「複素余次元1葉層の Fatou-Julia 分解に ついて」に基づいて, 葉層構造の Fatou-Julha分解と関連する事項について 概説する. 序横断的に複素解析的な葉層構造は余次元の高い
(2以上の) 葉層構造の特別な 場合と考えることや,複素力学系の一般化と考えることができる
.
実余次元1の 実葉層構造はよく研究されていて理解も進んでいるが,
一般の余次元の高い葉層構造については大雑把な結果しか知られていない
.
直接的な理由のーつに 挙げられるのは, 実余次元1
の葉層構造の研究では $\mathbb{R}$ の局所的な微分同相 写像を扱うことになる一方,
余次元の高い葉層構造の研究では $\mathbb{R}^{n_{i}}n\geq 2$, の 局所的な微分同相写像を扱うことになり,
自由度が高くなりすぎることで ある. そこでここでは何らかの意味で余次元が1
の場合の振る舞いに近くなることが期待できそうな複素余次元が
1
の葉層構造を考えることにする
.
実 余次元1
の葉層に関する深い結果のーつに,
Duminy の定理 (定理2.1) が 挙げられる.
この定理は葉層構造の力学系的な性質と特性類を結びつけていて 重要である.
一方,複素余次元 1 の葉層構造に関してこれに直接対応する
結果は今のところまだ知られていないと思われる.
これは, 実余次元1の葉層 構造については, 極小集合の性質と特性類の振る舞いが共によく理解され, 深く Date: 2009年5月18日.2000 Mathematics Subject
Classification.
Primary $57R30$; Secondary $58H05,37F75$.Key words and phrases. 葉層構造, Fatou集合, Julia集合, Duminyの定理.
本研究は日本学術振興会科学研究費補助金若手研究 (A) (No. 19684001) の補助を得て行
関連づけられているのに対し,
複素余次元
1
の葉層構造については極小集合の
性質がよくわからないためである. 複素余次元
1
の葉層構造についても特性
類は定義され, その振る舞いはそれなりに理解されている.
そこで, ここでは 特性類と相性の良い,極小集合の代わりとなる集合を探してみる
.
複素余次元 1 の横断的に複素解析的な葉層構造は,横断方向の力学系に注目する場合には
$\mathbb{C}$の開集合への擬群の作用と考えることができる
.
これは群作用の一般化で ある. このように考えると, 例えばKlein 群における極限集合に当たるものが定義できて有用なのではないかと期待できる
.
また, 安直にいわゆる複素 力学系の類似と考える, あるいはSullivan
の辞書を意識するのであれば,Julia
集合にあたるものが定義できて有用であることが期待される.
葉層構造についてこのような
Fatou-Julia
分解を最初に考えたのはGhys,
Gomez-Mont
とSaludes
[12]
である\dagger 1. 彼らの分解は葉層構造の変形と密接に結びついた形で定義され, 例えば葉層構造の変形の空間を記述するのに有用であると考えられるが, 一方でDuminy
の定理のように葉層構造の力学系的な性質と特性類を結び つけるために用いるのには難点がある. そこでここでは[3]
に従って別なFatou-Julia
分解を導入し, いくつかの性質について概説する.
本稿は京都数理解析研究所で開かれた研究集会「葉層の微分幾何と ベルグマン核」における講演「複素余次元1
葉層のFatou-Julia
分解について」 (2008,Dec.
15,16) に基づいたものである. 証明の詳細や, 更に詳しい結果は[3]
を参照されたい. 最後に, 研究集会を主催され, 講演の機会および本稿の 執筆の機会をくださった大沢健夫先生に謝意を表する.
1. FATOU-JULiA
分解 葉層構造の一般論については田村一郎[20],
Godbillon
$- Vey$類に代表される 葉層構造の二次特性類についてはBott
$[$6
$]$ を参照されたい. また,Fatou-Julia
分解については
Ghys, Gomez-Mont, Saludes
$[$12
$]$ およびAsuke
$[$3
$]$ を, 葉層構造とホロノミー擬群の基礎的な事項に関しては
Hae且iger $[$14
$]$ を参照のこと.
定義 1.1. $M$ を多様体とし, 簡単のため $M$ は境界を持たないとする
.
$M$ のはめ込まれた部分多様体の族 $\{L_{\alpha}\}$ が $M$ の葉層構造であるとは, $M$ の開被覆
$\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ と, $\mathbb{R}^{q}$ の開集合族
$\{V_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$, 沈め込み (submersion) の族 $\{p_{\lambda}:U_{\lambda}arrow$
$\ovalbox{\tt\small REJECT}\}$
が存在して以下の条件を充たすことをいう
.
1
$)$ $\lambda,$$\mu\in\Lambda$ について, 賑の開集合から$V_{\mu}$の開集合への微分同相写像
$\gamma_{\mu\lambda}$が
存在し, $U_{\lambda}$から $U_{\mu}$への変換函数を
$\varphi_{\mu.\lambda}$ とすれば $U_{\lambda}\cap U_{\mu}$上で$p_{\mu}o\varphi_{\mu\lambda}=$
$\gamma_{\mu\lambda}op_{\lambda}$ が成り立っ
.
つまり, 図式$U_{\lambda}\cap U_{\mu}\subset U_{\lambda}arrow^{p_{\lambda}}V_{\lambda}$
$\varphi_{\mu\lambda}\downarrow$ $\downarrow\gamma_{\mu\lambda}$
$U_{\lambda}\cap U_{\mu}\subset U_{\mu}arrow^{p_{\mu}}V_{\mu}$
が可換となる
.
2
$)$ $\lambda,$$\mu,$ $\nu\in\Lambda$ について$\gamma_{\nu\mu}0\gamma_{\mu\lambda}=\gamma_{\nu\lambda}$ が成り立っ.
3
$)$ $L_{\alpha}$ 口 $U_{\lambda}$ の連結成分は $p_{\lambda}$ のファイバーの連結成分である.
$L_{\alpha}$ は $\mathcal{F}$ の葉と呼ばれる.
上の条件を豚
$\subset \mathbb{C}^{q}$ に置き換え, $\gamma_{\mu\lambda}$ は複素解析的な同相写像 (biholomor-phicdiffeomorphism)
であるとしたものを横断的に複素解析的な葉層構造と 呼ぶ.
このとき, $q$を葉層構造の余次元と呼ぶ.
また, 上のような $M$のatlas
をfoliation atlas
と呼ぶ. 以下では原則として横断的に複素解析的な複素余次元1の葉層構造を考える. まず
Ghys,
Gomez-Mont,Saludes
によるFatou-Julia
分解の定義について簡単に述べる (詳しくは原論文
[12]
を参照のこと).定義1.2. $\mathcal{F}$ を $M$ の横断的に複素解析的な葉層構造とし, $\{U_{\lambda}\}$ を
foliation
$\mathcal{F}$
の複素法束と呼び
$Q(\mathcal{F})$ あるいは $\nu^{1,0}$で表す
.
ここで $D\gamma_{\mu\lambda}$ は $\gamma_{\mu\lambda}$ の微分で ある. 定義 13. $C(\nu^{1,0})$ で, $\nu^{1,0}$ の連続な切断 $X$ であって, $X$ の超函数としての微分(distributional derivative) が局所 $L^{2}$ であり, さらに $\overline{\partial}X$
が本質的に有界で あるようなもの全体を表す
.
言い換えれば, $C(\nu^{1,0})$ の元は $\overline{\partial}X$がベルトラミ
係数となるような連続な切断全体である
.
$C_{F}(\nu^{1,0})$ で, 局所的には $V_{\lambda}$ 上の ベクトル場の引き戻しであるような $C(\nu^{1,0})$ の元全体を表す.
定義 1.4 (Ghys, Gomez-Mont,
Saludes [12]).
$M$ を閉多様体とし, $\mathcal{F}$ を複素余次元1の横断的に複素解析的な $M$ の葉層構造とする
.
$F_{GGS}(\mathcal{F})=\{x\in M|\exists X\in C_{F}(\nu^{1_{2}0}), X(x)\neq 0\}$ ,
$J_{ccs}(\mathcal{F})=M\backslash F_{ccs}(\mathcal{F})$
と定め, それぞれ$\mathcal{F}$ の
Fatou
集合Julia
集合と呼ぶ.定義から $F_{GGS}(\mathcal{F})$ は開集合であり, 葉の和集合である
.
$\mathcal{F}$は$F_{GGS}(\mathcal{F})$ 上では$\mathcal{F}$ は $F_{GGS}(\mathcal{F})$ 上では
Lie-G
葉層と呼ばれる,Lie
群の作用を用いて記述できる葉層構造となることが知られている. ここでは詳しくは述べないが,
Lie-G
葉層は葉層構造としては比較的単純な部類と考えることができる
.
一方, $\mathcal{F}$ の $J_{GGS}(\mathcal{F})$ での振る舞いは必ずしも複雑であるとは限らない.
例1.5. $f_{\theta}$ を $\mathbb{C}P^{1}\cong S^{2}$ のある軸に関する $\theta$-回転とし,
$\mathcal{F}_{\theta}$ を $f_{\theta}$ の $S^{1}$ 上の懸垂
(suspension)
とする. すなわち, 次のように $\mathcal{F}_{\theta}$ を定める. まず, $\mathbb{R}\cross \mathbb{C}P^{1}$ の,葉が $\mathbb{R}\cross\{p\},$ $p\in \mathbb{C}P^{1}$, で与えられるような横断的に複素解析的な葉層構造を
考える. これは $(t,p)\mapsto(t-1,$ $f_{\theta}(p))$ で与えられる $Z$の作用で不変であるので,
$(\mathbb{R}\cross \mathbb{C}P^{1})/Z\cong S^{1}\cross \mathbb{C}P^{1}$ の横断的に複素解析的な葉層構造が得られる
.
$s^{1}\cross\{p_{\infty}\}$ が成り立つ
.
ここで$p_{0}$ と $p_{\infty}$ はそれぞれ回転軸と $\mathbb{C}P^{1}$
の交点で
ある. 一方, 後で定義する $J(\mathcal{F})$ については $I(\mathcal{F})=\otimes$ が成り立っ
.
定義から
Ghys,
Gomez-Mont, Saludes
によるFatou-Julia
分解は葉層構造の
変形と直接的に関連し
,
その意味ではすぐ後で述べる分解よりも優れている
.
一方, 上の例が示すように,
単純に葉層構造の振る舞いを見るという観点では
必ずしも望ましい性質を持たない
.
また,Fatou-Julia
分解は一般には正規族を 用いて定義されるので,直感的な類似とはやや異なるのも気になるところで
ある.実は葉層構造の場合にも正規族を用いた定義が導入できる
.
以下では これについて[3]
に沿って述べる.
こちらの定義についても少し用意が必要である
.
$M$ を多様体, $\mathcal{F}$ を $M$ の複素余次元
1
の横断的に複素解析的な葉層構造とする
.
このとき, 定義1.1に おいて$\bullet$ $V_{\lambda}=p_{\lambda}(U_{\alpha}),$ $U_{\lambda}\approx O_{\lambda}\cross V_{\lambda}$ (同相), ただし $O_{\lambda}$ は $\mathbb{R}^{n}$ の開集合, $V_{\lambda}$ は $\mathbb{C}$ 内の開円板である
.
$\bullet$ 上の同一視の下で
$p_{\lambda}$ は狐への射影である
.
$\bullet$ $\lambda\neq\mu$
であれば砿口
$V_{\mu}=\otimes$.
が成り立っとして良い
.
定義1.6. $T=\cup V_{\lambda}$ と置く
.
$\Gamma$ で次の条件を充たすような $\mathbb{C}$ の局所的な複素 解析的な微分同相写像の集合で最小のものを表す.
1
$)$ $\gamma\in\Gamma$ は $T$ の開集合から $T$ の開集合への複素解析的な微分同相写像である.
2
$)$ $U$ を $T$ の開集合とすれば, $U$ の恒等写像は $\Gamma$ に属する.3
$)$ $\gamma\in\Gamma$ であれば $\gamma$ をより小さい開集合へ制限したものも$\Gamma$ の元である.
5
$)$ $\gamma,$ $\gamma’\in\Gamma$ であって, $\gamma$ の値域と$\gamma’$ の定義域が共通部分を持つとする
.
このとき, 定義できる範囲で $\gamma’0\gamma$ を考えるとこれも $\Gamma$
の元である
.
6
$)$ $\gamma,$ $\gamma’\in\Gamma$ とし, これらの定義域が共通部分を持ち, その上で $\gamma=\gamma’$ が成り立つとする. このとき $\gamma \text{と^{}\prime}\gamma’$ を自然に貼り合わせて得られる写像が 微分同相写像であるならば, これも $\Gamma$ に属する. このように得られた $(\Gamma,$$T)$ を $\mathcal{F}$ の ($T$ に関する) ホロノミー擬群と呼ぶ
.
$(\Gamma,$$T)$ をしばしば$\Gamma$ と略記する.
意味としては, $\mathcal{F}$ の葉に沿った平行移動を $T$ 上で観察したときに現れる 写像を全て集めたものが $\Gamma$である. $M$ を閉多様体としたのは, $\Gamma$ についてコンパク ト生成(compactly
generated)
と呼ばれる性質が必要だからである.
まず $\{U_{\lambda}\}$ の適当な有限部分被覆 $\{U_{i}\}$ を取る
.
すると, $\{U_{i}\}$ を少し縮めた $M$ の開被覆 $\{U_{i}’\}$ であって,以下の性質を持つようなものが取れる.
1
$)$ $\overline{U_{i}’}$ を $U_{i}’$ の閉包とすると $\overline{U_{i}’}\subset$鵜が成り立っ
.
2
$)$ $U_{i}’$ は $O_{i}’\cross V_{i}’$.
ただし $O_{i}’$ は $\mathbb{R}^{n}$ の開集合, $V_{i}’=p_{i}(U_{i}’)$,と同相である
.
ここで $T’=\cup V_{i}’$ と置けば $\Gamma$ と同様に $\mathcal{F}$ のホロノミー擬群が得られる.
これを $\Gamma’$ とする. $\Gamma’$ の元は $\Gamma$ の元で定義域と値域が共に $T’$ に含まれる
もの全体となっている. この意味で $\Gamma’$ は $\Gamma$ の制限となっている. 一方,
$\gamma\in\Gamma$ とし, $\gamma$の定義域を $W$, 値域を $V$ としたとき, $W,$ $V$ は $T’$ には一般には
含まれない. しかし次のように考えることができる. まず $x_{\lambda}\in O_{\lambda}$ を予め
選んでおく. ただし, $\lambda$ がいずれかの $i$ と一致する時には
$x_{i}$ は $O_{i}’$ から選んで
おく. そして $T$や $T’$ は $\cup\{x_{\lambda}\}\cross$ 鷲あるいは俺 $\{x_{i}\}\cross V_{i}’$ との自然な同一視に
より $M$ に埋め込まれていると考える. ここで $W=\cup W_{l}$ と $W$ をの開被覆を
取り, $W_{l}$ は多様体で見ればある $U_{i}’$ に含まれているようにすることができる.
いるようにすることができる
.
すると $\gamma$を隅に制限したものは
$\Gamma’$ の元と
なるので, この意味で $\Gamma$ の元は一見小さい $\Gamma’$ の元で全て記述することが
できる.
擬群の言葉で言えばこれは次のように述べられる
.
命題1.7. $(\Gamma,$$T)$ と $(\Gamma’,$ $T’)$ は擬群として同値
(equivalent)
である.$(\Gamma’,$ $T^{l})$ は次のような著しい性質を持っている
.
1
$)$ $T’$ は相対コンパクト.
2
$)$ 有限個の写像が存在し, $\Gamma’$ の元はそれらから, 制限や貼り合わせなどに よって得ることができる.
具体的には定義1.1 における $\{\gamma_{ji}\}$から全ての 元を得ることができる.
定義 18. 上のような性質を持つような擬群と同値な擬群をコンパクト生成 擬群と呼ぶ.
従って閉多様体上の葉層構造のホロノミー擬群はコンパクト生成擬群である.
定義 19. $(\Gamma,$$T)$ がコンパクト生成擬群である時, 上のようにして $T$ を縮めて得られた擬群 $(\Gamma’, T’)$ を $(\Gamma, T)$ の簡約 (reduction) と呼ぶ.
これらの準備の下で
Fatou-Julia
分解は次のように定まる.定義
1.10
$([$3
$])$.
$M$ を閉多様体とし, $\mathcal{F}$ を $M$ の横断的に複素解析的な複素余次元
1
の葉層構造とする.
$(\Gamma,$$T)$ を $\mathcal{F}$ のホロノミー擬群, $(\Gamma’,$ $T’)$ をその簡約とする.
1
$)$ $T^{l}$ の連結開集合 $U\subset T’$ がFatou
近傍であるとは, 任意の $\Gamma’$ の元の,任意の $U$ の点における芽が実際にほ $U$ 上で定義された $\Gamma$ の元の芽で
あることを言う. 言い換えれば, 任意の $\Gamma’$ の元の芽は $\Gamma$ の元としては
2
$)$Fatou
近傍の和集合 $F’(\Gamma’)$ を $(\Gamma’, T’)$の
Fatou
集合と呼ぶ.
3
$)$ $F(\Gamma’)$ の $\Gamma$ による像$F(\Gamma)=\{x\in T|$ ある $x’\in F(\Gamma’)$ と $\gamma\in\Gamma$ について $x=\gamma x’\}$
を $(\Gamma, T)$ の
Fatou
集合と呼ぶ.
また, $J(\Gamma)=T\backslash F(\Gamma)$ を $(\Gamma, T)$の
Julia
集合と呼ぶ.
$J(\Gamma)$ は $J(\Gamma’)$ の $\Gamma$による像としても同じことである
.
4
$)$ $F(\Gamma),$ $J(\Gamma)$ は定義から $\Gamma$の作用で不変であることに注意して
,
$F(\mathcal{F})=\{x\in M|x\in U_{\lambda}$ であるならば$p_{\lambda}(x)\in F(\Gamma)\}$
,
$J(\mathcal{F})=\{x\in M|x\in U_{\lambda}$であるならば $p_{\lambda}(x)\in J(\Gamma)\}$
と置き, それぞれ$\mathcal{F}$ の
Fatou
集合,Julia
集合と呼ぶ
.
$F(\mathcal{F}),$ $J(\mathcal{F})$ の連結成分をそれぞれ
Fatou
components,Julia
components と呼ぶ.なお, $J(\mathcal{F})=M\backslash F(\mathcal{F})$ としても同じことである
.
注
1.11.
定義を見ると容易に想像されるように
, Fatou-Julia
分解は $\mathbb{C}$ の局所双正則微分同相写像からなるコンパクト生成擬群について定まる
.
Fatou
com-ponents,
Julia
components は[12]
においても定義されているが,Julia
compo-nents
の定義は大きく異なる.
一方Fatou
components の定義はFatou
集合の定義の差を除いて同じである
.
定義
1.10
には表だっては正規族は現れないが,
実際には正規族は本質的な 形で現れる.
つまり, $U$ を Fatou近傍とし,$\Gamma_{U}=$
{
$\gamma\in\Gamma|\gamma$ は $\Gamma’$の元の芽を拡張して得られる
}
と置けば
Montel
の定理により $\Gamma_{U}$ は正規族となる. 葉層構造のホロノミーを扱う際に常に問題となることの一つに, ホロノミーの定義域が一定ではない
(特にどんどん小さくなってしまう) ことが挙げられる
.
このような状況では 正規族を定式化することは非常に困難であるので,
まず定義域が確保できる状況を考え, そのときに通常の意味で正規族になるような多様体の一部分を
Fatou
集合と呼ぶというのが元々の発想である.
定義を一通り述べてしまったが, いくつか保証しておくべき点がある. 補題1.12.
1)
$F(\Gamma)$ は簡約 $()$ の取り方によらない.
2
$)$ $F(\mathcal{F})$ はホロノミー擬群 $(\Gamma, T)$ の取り方によらない. 証明は $(\Gamma, T)$ がコンパクト生成であることと,
$\Gamma_{U}$ が正規族であることを組み 合わせて行う. 大雑把に言えば, 簡約やホロノミー擬群を取り替えることは何らかの意味で $\Gamma’$ の共役を取ることにほぼ対応する. 例えば$(\Gamma, T)$ と $(\Delta, S)$ を
同じ葉層構造のホロノミー擬群とすると, 座標変換に相当する局所双正則微分
同相の族 $\Psi=$
{
$\psi_{\alpha}|\psi_{\alpha}$ は $T$ の開集合から $S$の開集合への双正則微分同相
}
が存在して,
$\Delta=\{\psi_{\alpha}0\gamma 0\psi_{\beta}^{-1}|\gamma\in\Gamma,$ $\psi_{\alpha},$$\psi_{\beta}\in\Psi\}$
が成り立つ. $U$ を Fatou近傍とすると $\Gamma_{U}$が正規族であることから, $\gamma\in\Gamma_{U}$ に
ついて $\gamma(U)$ の大きさを $\gamma$ に依らず制禦することができる. このこと
から, 一定の大きさの定義域 (Fatou近傍) が取れるという性質が変わらない
ことを示すことができて, これから補題が従う.
Ghys, Gomez-Mont,
Saludes
によるFatou-Julia
分解とここで言う分解は次のような関係にある.
命題1.13. $F_{GGS}(\mathcal{F})\subset F(\mathcal{F})$
.
ここで包含関係は等号のことも, そうでないこともある.
略証. $x\in T’\cap F_{GGS}(\mathcal{F})$ とすると, 定義から $X\in C_{\mathcal{F}}(\nu^{1_{1}0})$ であって $X(x)\neq 0$
なるものが存在する. $X$ はホロノミー不変であるので, $T$上のベクトル場で$\Gamma-$
作用で不変なものを誘導する
.
これを再び $X$ で表すことにする. $X$ は一意的に得られる
.
ここで $D$ は $\mathbb{C}$ の小さな開円板であるが,必要であれば $D$ を小さく
取り直して, $U=\phi(D, x)$ としたとき $U\subset T’$であるとしてよい. すると主張は
$X$が$\Gamma$
-
同変に一斉に積分できることから次のように従う.
$y\in U$ とし, $\gamma\in\Gamma’$ は$y$ のある開近傍で定義されているとする. $z\in U$ とすると $z=\phi(t, x),$ $t\in D$, と
表すことができる. $\phi(t, x)$ を $\phi_{t}(x)$ で表すこととし, $y=\phi_{s}(x),$ $s\in D$, と
すると $\gamma(y)=\gamma(\psi_{s}(x))=\gamma(\psi_{s}(\psi_{-t}(z)))$ が成り立つ. $X$ は $\Gamma$-不変であった から, $\gamma(z)=\psi_{t}(\psi_{-s}(\gamma(\psi_{s}(\psi_{-t}(z)))))$ と置けばこれは
well-defined
となり, 求めるような拡張が得られる. 従って $U$ は $x$ のFatou
近傍であるから $F_{GGS}(\mathcal{F})\subset F(\mathcal{F})$ が成り立っ. 口 $F(\mathcal{F})$ の構造もFGGS
$(\mathcal{F})$ の構造と同様に調べることができる.
詳細な分類も 可能であるが, ここでは全体の議論の要となる次の定理の紹介にとどめる.
定理 1.14. $F(\mathcal{F})$ にはホロノミー不変な横断的なエルミート計量が存在する. 証明の概略.
$F(\Gamma’)\subset T’$ 上に $\Gamma’$-
不変なエルミート計量を作ればよい.
ここで は話を見やすくするためにノルムを作る.
まず単純に次のように考えてみる. $T’\subset \mathbb{C}$ であることに注意して, $T’$ に標準的なエルミート計量を入れ, それに関するノルムを $\Vert\cdot\Vert$ で表す
.
$v_{x}\in T_{x}T’$ の時, $\Vert v_{x}\Vert_{x}^{rh}$ を$\Vert v_{x}\Vert_{x}^{\prime h}=\sup_{\gamma\in\Gamma}\Vert\gamma_{x}’v_{x}\Vert_{\gamma x}$
で定める. ここで $\gamma$ は $x$ のある近傍で定義されているような $\Gamma’$ の元全体を 走る. また, $\gamma’$ は通常の意味での$\gamma$ の微分である. すると $\Vert\cdot\Vert^{1\{)}$ はファイバー ごとにはノルムであって, $\Gamma$’-不変となる. $\Vert\cdot\Vert^{m}$ は下半連続になることは容易に わかるが,
-
般にはこれ以上の連続性を得るのは難しい.
下半連続性の証明から 上半連続性を得るために必要な修正がわかるので, ここで簡単に証明を述べる.$\gamma\in\Gamma’$ であって$\gamma x$ は定義されているとし, $\Vert v_{x}\Vert_{x}^{\prime h}-\Vert\gamma_{x}’v_{X}\Vert_{\gamma x}<\epsilon$が成り立つと
する. ただし, $\epsilon$ は充分小さい正の数である. $U$ を $\gamma$ の定義域とする. $y\in U$, $v_{y}\in T_{y}T’$ とし, $v_{y}$ は $v_{x}$ に充分近いとすると, $\Vert\gamma_{x}’v_{x}\Vert_{\gamma x}-\Vert\gamma_{y}’v_{y}\Vert_{\gamma y}<\epsilon$ として
良いから $\Vert v_{x}\Vert_{x}^{rh}-\Vert\gamma_{y}’v_{y}\Vert_{\gamma y}<2\epsilon$ が成り立つ
.
従って $\Vert v_{x}\Vert_{x}^{\phi}$一 $\Vert v_{y}\Vert_{y}^{rh}<2\epsilon$ が
成り立っ
.
ここでこのような評価がうまくいくのは, $\gamma$ を $\Vert v_{y}\Vert_{y}^{rh}$ を近似するために用いて良いからである. 同様の方法で上半連続性を示そうとすると, 例えば$x$ に $y_{n}$ が近づく時の $\Vert\cdot\Vert_{y_{n}}^{rh}$ の挙動を調べる必要が生じる
.
そこで $\gamma_{n}$ を $\Vert\cdot\Vert_{y_{n}}^{!h}$ を上のように近似するような$\Gamma’$ の元の列としても, 今度は $\gamma_{n}$ の定義域は 一般には $x$ を含まないため, これらの $\gamma_{n}$ は $\Vert\cdot\Vert_{x}^{\phi}$ を評価するのに用いることができない. 今は $x\in F(\Gamma’)$ であるから, $U$ を Fatou近傍に取れば, $\gamma_{n}$ は $U$ 上に
拡張されるからこの問題は解決されるように思えるが, 実はこれだけでは まだうまくいかない. というのは, $\gamma_{n}$
登拡張して得られるのは
$\Gamma$ の元である ので, $\gamma_{n}x\in T’$ かどうかは一般には保証されず, 従ってやはり $\gamma_{n}$ を $\Vert\cdot\Vert_{x}^{rh}$ の 近似に用いることができないからである. しかし, 逆に言えばこのような状況で $\gamma_{n}x\in T’$であることがわかるのであれば, 上の方針で上半連続性を示すことが できる. それを保証するために, 標準的なエルミート計量を, $T’$の各連結成分の 端の方では $0$ に近づくようなものに取り替える.
$\gamma$ を $x$ の近傍の恒等写像と すれば $|\gamma_{x}’|=1$ であるから, このような計量を用いて $\Vert\cdot\Vert^{rh}$ を定めると, $\gamma$ が 充分 $\Vert\cdot\Vert_{x}^{rh}$ を近似するのであれば $\gamma x$ は ($x$ に依存する) $T’$ のコンパクトな 部分集合に含まれることが示される. このことを用いてFatou
近傍 $U$ を充分 小さく取れば, 上のような状況で現れるような$\gamma_{n}$ の拡張に関しては$\gamma_{n}(U)\subset T’$ であることが示され, 上半連続性が従う. これらの議論をKoebe
の定理などを 用いてもう少し精密に行うことにより, $\Vert\cdot\Vert^{t\dagger)}$ は局所Lipschitz
連続であることが わかる. 構成から,適当な正値局所
Lipschitz
函数
$f$ を用いて $\Vert\cdot\Vert^{\Uparrow}=f^{2}\Vert\cdot\Vert$ と 表すことができる (ここで $\Vert\cdot\Vert$は再び標準的なエルミート計量から定まる
ノルムを表す). $\Vert\cdot\Vert^{rh}$ の $\Gamma$’-不変性から $f\circ$$\gamma=|\gamma$
’
げが成り立っ
.
これを $\gamma$ に関する微分方程式と見れば, 等長写像の時と同様の議論によって, $\gamma$ は l-jet に
より決定されることがわかる. このような状況では,
H.
Cartan
の古典的な擬群を $\overline{\Gamma}$ ($\Gamma$ の閉包
[14]
と一致する.) とすると, $\overline{\Gamma}$ の元で $x\in F(\Gamma’)$ の 近傍 $U$をあまり動かさないもの全体は
$T’$ に実解析的に作用する実解析的な 局所Lie
変換群であることを示すことができる. ここまでくれば, あとは Ghys, Gomez-Mont,Saludes
の議論[12]
([13],
[18] も参照のこと) とほぼ同様の 議論を繰り返すことにより, $F(\Gamma’)$ の構造をほぼ決定することができる. その結果から, $F(\Gamma’)$ 上に滑らかなエルミート計量で $\Gamma$‘-不変なものが存在 することがわかる. 口このように得た $F(\Gamma’)$上の計量を $\Gamma$の作用で拡張することにより $F(\Gamma)$ 上の
$\Gamma$-不変なエルミート計量が得られる. 定理 1.14 の逆もおおよそ正しい. $M,$ $\mathcal{F}$は 今までと同様とする. 定理 1.15. $F$ を $M$ の開集合で, $\mathcal{F}$ の葉の和集合になっているようなものと する. もし $F$ 上に, 横断方向のエルミート計量であって, 境界に近づくと 発散するようなものが存在すれば, $F\subset F(\mathcal{F})$ が成り立つ. ここで, 境界に近づくと発散するような計量とは, 例えばポァンカレ計量の ようなものを考えている.
さて,
FGGS
$(\mathcal{F})$ と $F(\mathcal{F})$ の差異は次のように生じると考えられる.
$F(\Gamma)$ 上に$\Gamma$-不変なエルミート計量を入れ, 横断方向の単位接ベクトル束 $UF(\Gamma)$ を 考える. $\overline{\Gamma}$ の作用は $UF(\Gamma)$ の葉層構造で, 自然な射影により葉が $F(\Gamma)$ の $\overline{\Gamma}$
-軌道に写されるようなものを定める
(Molino[18])
.
射影を $UF(\Gamma)$ の葉に 制限したときに, それが1) 単射になっているか, あるいは2) 被覆写像や $S^{1}-$ 束になっているかによって場合が分かれ, 1) の時には当該の葉はFGGS
$(\mathcal{F})$ に 属し, 2) の時にはそうではない. 実際, 1) の時には適当に $\Gamma$-不変なベクトル場を構成することができる
.
2) の時に $\Gamma$-不変なベクトル場 $X$であって, $x\in F(\Gamma)$ に逆像が二点以上存在することから
,
適当な $\overline{\Gamma}$ の元$g$ について $g_{*}X(x)\neq X(x)$ が 成り立っ.
これは $X$ の不変性に反するので $X(x)=0$ となり, $x\not\in F_{GGS}(\mathcal{F})$が 成り立っ.2.
DUMINY
の定理Duminy の定理は実余次元
1
の実葉層構造についての深い結果のーつである
.
定理2.1(Duminy
[11],
[8]).
$M$ を閉多様体とし, $\mathcal{F}$ を $M$の実余次元1
の実葉層 構造であって, 横断方向に向き付け可能であるとする (後で述べる). もし $\mathcal{F}$のGodbillon-Vey
類$GV_{1}(\mathcal{F})$ が非自明であれば $\mathcal{F}$ にはresilient
葉が存在する.
$\mathcal{F}$の葉 $L$がresilient葉であるとは, $L$ にあるループが存在し, そのループに 関するホロノミーにより $L$のあるエンドが$L$ 自身に引き寄せられていることを 言う (正確な定義は [8] などを参照されたい). 一方
Godbillon-Vey
類は次の ように定まる特性類である.
$\mathcal{F}$ を実余次元 $q$ の葉層構造とする (念頭にある のは $q=1$ あるいは $q=2$ の場合である). $T\mathcal{F}$ で $\mathcal{F}$ の葉に接するベクトル からなる $TM$ の部分束を表し, $Q_{\mathbb{R}}(\mathcal{F})=TM/T\mathcal{F}$ と置く. $\mathcal{F}$が横断的に複素解析的であれば $Q_{\mathbb{R}}(\mathcal{F})\otimes \mathbb{C}\cong Q(\mathcal{F})\oplus\overline{Q(\mathcal{F})}$ が成り立っ.
定義22. $\mathcal{F}$が向き付け可能であるとは, $\wedge^{q}Q_{\mathbb{R}}(\mathcal{F})^{*}$ が自明であることを言う.
$\mathcal{F}$向き付け可能な葉層構造とし, $\omega$ を $\wedge^{q}Q_{\mathbb{R}}(\mathcal{F})^{*}$ の自明化とする. $\omega$ を自然な
射影 $TMarrow Q_{\mathbb{R}}(\mathcal{F})$ との合成で $q$-形式とみなすと,
Frobenius
の定理により$d\omega=2\pi\eta\wedge\omega$ がある l-$\dagger$
r
$\nearrow\nearrow$式について成り立っ
.
定義
2.3.
$\eta\wedge(d\eta)^{q}$ が表す $H^{2q+1}(M;\mathbb{R})$ の元をGodbillon-Vey,
類と呼び$GV_{q}(\mathcal{F})$ で表す.
GV
$q(\mathcal{F})$ は$\omega$ や $\eta$ の取り方によらず定まることが知られている.
Duminy の定理はこのように定まる代数的な不変量と葉層構造の力学系的な性質を結び
横断的に複素解析的な複素余次元
1
の葉層構造は実余次元2
の葉層構造なので,
Godbillon-Vey
類としては $GV_{2}(\mathcal{F})\in H^{5}(M;\mathbb{R})$ を考えることになる.
しかし, 横断的に複素解析的な葉層構造と
Godbillon-Vey
類は以下のような 理由であまり相性が良いとは言えない.1
$)$ 次数が高すぎて自然な例について役に立たない. 例えば$S^{3}$ の横断的に 複素解析的な葉層構造を例 3.1と似た方法で作ることができるが, 当然 $H^{5}(S^{s_{;}}\mathbb{R})=\{0\}$ である.2
$)$ そもそもGodbillon-Vey
類が非自明であるような例があまり知られて いない. (非自明であるような例については[19], [5]
を参照のこと.)3
$)$ 葉層の変形に対してGodbillon-Vey
類は連続的に変形するが, 横断的に 複素解析的な葉層についてはGodbillon-Vey
類は剛的である[5], [4].
言い換えれば Godbillon-Vey 類は横断的に複素解析的な葉層の変形を あまり反映しない. 横断的に複素解析的なカテゴリーではBott
類と呼ばれる特性類が基本的で ある. 一般の場合の定義はやや技術的になるのでここでは複素余次元1
であって $Q(\mathcal{F})$ (定義 12) が自明である場合に定義を述べる
.
$\omega$ を $Q(\mathcal{F})^{*}$ の自明化とすると, やはり
Frobenius
の定理から伽 $=2\pi\sqrt{-1}\eta\wedge\omega$がある $\mathbb{C}$-値
1-形式について成り立つ.
定義 2.4. $\eta\wedge d\eta$ が表す $H^{3}(M;\mathbb{C})$ の元を Bott 類と呼び
Bottl
$(\mathcal{F})$ で表す.また, $Bott_{1}(\mathcal{F})$ の虚部の $(-2)$ 倍を $\xi_{1}(\mathcal{F})$ で表し
Bott
類の虚部と呼ぶ.$\xi_{1}(\mathcal{F})$ は $Q(\mathcal{F})$ が自明でない場合も定義されて次の定理が成り立っ
.
定理 2.5
([19], [1]).
GV2
$(\mathcal{F})=2\xi_{1}(\mathcal{F})c_{1}(\mathcal{F})$, ここで $c_{1}(\mathcal{F})$ は $Q(\mathcal{F})$ の第 1Chern類を表す.
従って
GV2
$(\mathcal{F})$ を調べるに当たっては $\xi_{1}(\mathcal{F})$ を調べることが大事である. $\xi_{1}(\mathcal{F})$ については上述の Godbillon-Vey 類に関するような問題はないので,その意味でもこちらの方が重要である
.
特に,Duminy
の定理の類似を定式化 したいのであれば,GV2
$(\mathcal{F})$ よりも $\xi_{1}(\mathcal{F})$ を用いるのが良いと考えられる.
(尚, 実余次元2(以上) の実葉層構造に対する Duminy の定理の一般化も考察され ていて, このときには $GV_{2}(\mathcal{F})$ が重要である. [15], [16], [17]
などを参照の こと.) 注2.6. 定理 25 はGV
$2(\mathcal{F})$ が非自明であるならば$Q(\mathcal{F})$ が非自明であることを 示している. 以上の用意の下で,Duminy
の定理の弱い類似を以下のように定式化する ことができる. 元の定理を証明する方針の一つに, まず $GV_{1}(\mathcal{F})$ の非自明性 から極小集合の可能性を絞り込み, さらに極小集合をよく調べるというものが 挙げられる.
ここでもまず $\xi_{1}(\mathcal{F})$ の非自明性から Julia集合が空でないことを 示し, 更に Julia集合の性質を調べるという方針をとる. 一般に, $\mathcal{F}$ を $M$ の横断的に複素解析的な複素余次元1の葉層構造とし, $\mathcal{F}$の葉の和集合であるような$M$の開集合$F$ であって, $F$上にホロノミー不変なエルミート計量が存在するとする. このとき
Bott
類の虚部 $\xi_{1}(\mathcal{F})$ の $M\backslash F$ における留数 (residue) $res\xi_{1}(\mathcal{F})$ が $H_{c}^{3}(U;\mathbb{R})$ の元として定まり, 自然な写像 $H_{c}^{3}(U;\mathbb{R})$ $arrow$ $H^{3}(M;\mathbb{R})$ による像は $\xi_{1}(\mathcal{F})$ である $\check{}$ とが知られている $[$
2
$]$.
ここで $U$ は $M\backslash F$ の任意の開近傍とする. ただし, $U$ は葉の和集合とは限ら
ない. $F=F(\mathcal{F})$ と置くことで次を得る.
定理 2.7.
1)
$\xi_{1}(\mathcal{F})$ のJulia
集合 $J(\mathcal{F})$ における留数 $res\xi_{1}(\mathcal{F})$ が定まり,自然な写像 $H_{c}^{3}(U;\mathbb{R})arrow H^{3}(M;\mathbb{R})$ による像は $\xi_{1}(\mathcal{F})$ である. 特に
$J(\mathcal{F})=\emptyset$ であれば $\xi_{1}(\mathcal{F})$ は自明である.
2
$)$GV
$2(\mathcal{F})$ が非自明であれば $J(\mathcal{F})\neq\emptyset$ である.略証. 1)
の前半は定理の直前に述べた一般論から従う.
後半も前半から直接 従うが, あるいは次のようにも言える. $J(\mathcal{F})=\emptyset$ であれば$F(\mathcal{F})=M$ なので $\mathcal{F}$ は $M$上でホロノミー不変な横断的なエルミート計量を許容する
.
この ような場合に$\xi_{1}(\mathcal{F})$ が自明になることはよく知られている.
また, 定理25に よりGV2
$(\mathcal{F})$ が非自明であれば$\xi_{1}(\mathcal{F})$も非自明なので
1)
と合わせれば 2)
が 従う. 口Julia
集合の性質については未だ多くは知られていない.
今のところ次が 知られている.
定理 2.8. $x\in T$ とすると以下は同値である.1
$)$ $x\in J(\Gamma)$.
2
$)$ $x$ に収束する点列 $x_{n}$ と, $x_{n}$ の近傍で定義された $\gamma_{n}\in\Gamma$ の列であって, $|\gamma_{x_{n}}’|$ が$narrow\infty$のとき無限大に発散するものが存在する. ただし, 全ての $n$ について $x_{n}=x$ であることもあり得る. 上の条件については注意が必要である.
例えば $\mathbb{C}P^{1}$ の, $z\mapsto z+1$ で与え られる放物的(parabolic)
な変換を考え, これの $S^{1}$ 上の懸垂を例1.5と同様に 取る. Julia集合は無限遠点に対応する葉のみからなるが, これに対応する $T$ の 点を $x$ とすると, $\gamma\in\Gamma$ について常に $|\gamma_{x}’|=1$ が成り立っ.
しかし2) の条件を充たす $\{x_{n}\},$ $\{\gamma_{n}\}$ は容易に見つかる. ここで $x_{n}\not\in J(\mathcal{F})$ であることにも注意
しておく. 現時点では
Duminy
の定理の類似としては次が得られたことになる.
定理 2.9. $M$ を閉多様体, $\mathcal{F}$を複素余次元1
の横断的に複素解析的な葉層構造と する. もし $\xi_{1}(\mathcal{F})$ が非自明であるならば, 微分の大きさが発散するような反発 的(repelling)
なホロノミーの列で, ある葉に収束していくようなものが存在 する.注2.10. Deroin,
Kleptsyn
の最近の結果[10]
を用いると, $\mathcal{F}$ がいかなる横断 的な不変測度も持たない (従って, 例えば閉葉は存在しない) 場合には更に 強い類似が成り立っことがわかる.
注 2.11. 有理写像の Julia集合や, 極限集合に関するいくつかの概念や結果を
葉層の
Julia
集合を用いて「輸入」することができる.
例えばPatterson-Sullivan型の共形的測度 (conformal measure) が構成できる
[3].
また, 葉層のJulia
集合, 有理写像の反復合成の
Julia
集合とKlein
群の極限集合の類似を, 単に対応する事実の辞書が存在するという以上にある程度定式化することが
できる. こちらについては現在論文を準備中である.
3.
いくつかの例例3.1. $(z, w)$ を $\mathbb{C}^{2}$ の通常の座標とし, $X$ を
$X= \lambda z\frac{\partial}{\partial z}+\mu w\frac{\partial}{\partial w}$
で与えられる $\mathbb{C}^{2}$
上の正則なペクトル場とする. ただし, $\lambda,$
$\mu$ は $0$ でない複素.
数とする. $X$ の特異点は原点$0$ だけであるので, $X$ の積分曲線は $\mathbb{C}^{2}\backslash \{0\}$ の
横断的に複素解析的な葉層構造を定める (実際には更に強く, 複素解析的な葉層
構造を定める). $X$ は $\mathbb{C}^{2}$全体を
2
倍する写像 $f:\mathbb{C}^{2}arrow \mathbb{C}^{2},$ $f(z, w)=(2z, 2w)$,で不変であるので,
{
$f\rangle$ は $f$ で生成される群を表すことにすると $M=\mathbb{C}^{2}/\langle f$}
$\cong$$S^{1}\cross S^{3}$ に葉層構造が定まる. これを $\mathcal{F}_{\lambda_{i}\mu}$ とする. 局所的には $\mathcal{F}_{\lambda_{2}\mu}$ は元の
葉層構造と同一であるので, これも複素解析的な葉層構造である
.
$X$ の積分曲線で, $(z_{0}, w_{0})\in \mathbb{C}^{2}$ を通るものは
$\{(z_{0}e^{\lambda t}, w_{0}e^{\mu t})|t\in \mathbb{C}\}$
で与えられる. 従って $\lambda/\mu$が有理数でないとすると $\mathcal{F}_{\lambda,\mu}$ は二つのコンパクトな
葉を持ち, 他の葉はこれらの葉に巻き付くような形になっている
.
ここで $\mathcal{F}_{\lambda,\mu}$ を多くの (実際にはもう一つのコンパクト葉以外の全ての) 葉が集まってきて いるため, 状況はそれなりに複雑である
.
一方, コンパクト葉を除いた部分は, 元の $X$ の積分曲線の様子から予想されるように比較的単純である.
実際, $\mathbb{C}^{2}$ の $z$-軸, $w$-軸から充分離れたところでは $\mathbb{C}^{2}$ は $X$ の積分曲線と $\mathbb{C}$ の直積の 形をしているが, $X$ の積分曲線は $\mathbb{C}^{2}$ の ($0$ でない) 定数倍で不変である から, 実際には $z$-軸, $w$-
軸の近くでも状況は同様である.
従って $\mathcal{F}_{\lambda_{2}\mu}$ に関しては $F(\mathcal{F}_{\lambda_{r}\mu})=$ M $\backslash${
コンパクト葉
},
$J(\mathcal{F}_{\lambda_{r}\mu})=${
コンパクト葉
}
であることが 期待されるが, 実際そうなっている. この例においては $J_{GGS}(\mathcal{F}_{\lambda,\mu})=J(\mathcal{F}_{\lambda,\mu})$が 成り立っ.
例
3.2
(Ghys,Gomez-Mont
and
Saludes
[12]).
PSL
$(2;\mathbb{R})^{n},$ $n\geq$ $2$, のココンパクトな離散部分群 $\Gamma$ であって, 第1成分への射影による像を $\Gamma_{1}$ と
すると, $\Gamma_{1}$ が
PSL
$($2;
$\mathbb{R})$ において稠密であるようなものが存在することが知られている. 上半平面を $\mathbb{H}$ で表すこととし, 葉が $\{p\}\cross \mathbb{H}^{n-1},$ $p\in \mathbb{H}$, で
与えられるような $\mathbb{H}^{n}$の葉層構造を考えると, これは $\Gamma$の対角作用で不変なので
$\mathbb{H}^{n}/\Gamma$ の葉層構造が得られる. これを $\mathcal{F}$ とする. $\mathcal{F}$ の横断的な構造は $\Gamma_{1}$ の $\mathbb{H}$への作用で記述されるが, $\Gamma_{1}$ が
PSL
$($2;
$\mathbb{R})$ で稠密であることからこの作用は複雑である. この意味で$\mathcal{F}$ は力学系としては確かに複雑である. しかし, 一方で この作用は $\mathbb{H}$のボアンカレ計量を保ち, その意味では比較的単純である (特に, 特性類の観点からはこのような作用は単純であると考えられる). このこと からほぼ直接に $J(\mathcal{F})=\emptyset$ であることがわかる. 一方,
JGGS
$(\mathcal{F})=M$ で あって, 二つの定義は異なる. このことは次のように確かめることができる. もしホロノミー不変であって連続なベクトル場はが存在すれば, それは $\mathbb{H}$上の連続なベクトル場で $\Gamma_{1}$-不変なものを誘導する. しかし, $\Gamma_{1}$ は
PSL
$($2; $\mathbb{R})$ で稠密であったからこのようなベクトル場は自明でなければならない
.
例 33. 例3.1において $\lambda_{1}/\lambda_{2}\not\in \mathbb{R}$ とする. すると $X$ は $\mathbb{C}P^{2}$ の葉層構造で,
小さい近傍を取り去ったもののコピーをいくつか用意しておき
,
ダブルを取る 要領で境界を貼り合わせると仮定から貼り合わせた多様体上に特異点のない,
横断的に複素解析的な複素余次元1
の葉層構造が得られる.
この葉層のJulia
集合は有限個の連結成分からなることが容易に示されるが, 連結成分の個数は コピーの貼り合わせ方次第で3個以上の幾つにでもできる. これはKlein
群の 極限集合や有理写像の反復合成に関するJulia
集合とは異なる性質である. 連結成分の個数はホロノミー擬群から定まるあるコホモロジー群の次元で 評価できることが知られている[14]
が, 多様体を固定した場合に一定の評価が できるかどうかは恐らく知られていない.例 3.4. $\Gamma\subset$
PSL
$($2;
$\mathbb{C})$ をKlein
群とする. $(\Gamma, \mathbb{C}P^{1})$ はコンパクト生成擬群と 考えることができて, $J(\Gamma)$ は $\Gamma$ の極限集合と一致する. 葉層構造で言うのであれば, $(\Gamma, \mathbb{C}P^{1})$ の懸垂を適当な多様体上で考えると, $J(\mathcal{F})$ は $\Gamma$ の極限集合の
懸垂と一致する. 一方,
JGGS
$(\mathcal{F})$ は $\Gamma$ の極限集合と, 位数有限な $\Gamma$ の元の固定点全体の和集合の懸垂と一致する.
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[20] 田村一郎, 葉層のトポロジー, 岩波書店, 1976.
〒 153-8914東京都目黒区駒場3–8–1, 東京大学大学院数理科学研究科