論 文 内 容 の 要 旨
論文提出者氏名 下田 義晃 論 文 題 目
Diabetes-Related Ankyrin Repeat Protein (DARP/Ankrd23) Modifies Glucose Homeostasis by Modulating AMPK Activity in Skeletal Muscle
論文内容の要旨 骨格筋はインスリン応答性に糖を取り込み、血糖を調節する最大の臓器であり、糖尿病患者において、 耐糖能障害は骨格筋糖取り込み低下と密接に関わることが知られている。私達の研究グループは以前に、 骨格筋において高い発現を示す新規核タンパクを発見し、DARP と名付けて報告した。DARP は筋アンキ リンリピート蛋白の一つで、肥満ラットの骨格筋で発現が亢進し、絶食条件下にすると発現が低下するこ とを以前報告した。これら結果より、DARP は骨格筋のエネルギー代謝調節に関わる可能性が示唆された が、詳細なメカニズムは不明であった。骨格筋エネルギー代謝は糖尿病の病態に深く関わっており、DARP による骨格筋エネルギー代謝調節機構の解明は、未知の糖尿病分子機構の発見につながると考え、検討を 行った。
DARP は骨格筋で最も高い発現を示し、in vitro においても C2C12 筋芽細胞から筋管細胞への分化が 進むほど、DARP の発現が上昇することがわかった。 生体内におけるDARP のエネルギー代謝機能を検討するために、DARP ノックアウトマウスを用いて、 体重や耐糖能の解析を行った。野生型マウスに比べ、DARP ノックアウトマウスでは体重がやや重い傾向 にあった。糖負荷テスト行ったところ、DARP ノックアウトマウスは野生型マウスに比べ、高い耐糖能を 有することがわかった。一方、インスリン負荷テストでは血糖の低下に有意な差を認めず、DARP-KO マ ウスはインスリン感受性に差がないにも関わらず、耐糖能が優れていることが明らかとなった。 続いて糖取り込みのトランスポーターであるGLUT1、GLUT4 と DARP の関連について検討を行った。 GLUT4 は骨格筋や脂肪細胞においてインスリン依存性に糖取り込みを行い、また運動時には AMPK パ スウェイを介してインスリン非依存性の糖取り込みを制御している。一方GLUT1 は様々な組織に発現し ており、インスリン非依存性の糖取り込みに関与している。骨格筋においてGLUT4 の発現は DARP ノ ックアウトマウスと野生型マウスに差を認めなかったが、GLUT1 は DARP ノックアウトマウスで発現が むしろ低下していた。筋管細胞に分化させたC2C12 細胞中の DARP を siRNA によりノックダウンし、 GLUT1、GLUT4 の発現を検討したところ、コントロール群と有意な差を認めなかった。以上の結果より DARP は GLUT1, GLUT4 の発現調節に直接的には関わっていないと考えた。
次にインスリン非依存性糖取り込みを制御するシグナル伝達経路であるAMPK パスウェイについて検 討を行った。その結果、DARP ノックアウトマウスの骨格筋において AMPK のリン酸化が有意に亢進し、 AMPK パスウェイの下流遺伝子である ACC のリン酸化も有意に亢進していることがわかった。これら結 果から、DARP を欠損したマウスの骨格筋では、AMPK パスウェイが活性化し、骨格筋糖取り込みが亢 進する結果、全身の耐糖能が改善している可能性が示唆された。またC2C12 筋管細胞中の DARP をノッ クダウンすると、AMPK や ACC のリン酸化が有意に亢進することも見出した。さらに DARP をノック ダウンした C2C12 筋管細胞では細胞内への糖取り込みが有意に増加していることも明らかとなった。 AMPK を活性化させる化合物である AICAR を C2C12 筋管細胞に投与すると、AMPK や ACC のリン酸 化が誘導され、DARP ノックダウンによる AMPK、ACC のリン酸化亢進はキャンセルされた。同様に DARP ノックダウン細胞とコントロール群との糖取り込みの差も AICAR 負荷により消失した。さらに RI でラベルしたグルコースを用いた検討では、DAPR をノックダウンすることで C2C12 筋管細胞のグル コース酸化が増加することがわかり、その増加はAICAR 負荷により消失した。逆に C2C12 筋芽細胞に DARP を過剰発現させたところ、AMPK のリン酸化は有意に低下した。以上の結果より DARP は AMPK パスウェイを負に調節し、その結果、骨格筋の糖取り込みを抑制している可能性が強く示唆された。 最後に、AMPK パスウェイの活性化が DARP ノックアウトマウスで認められた耐糖能亢進に寄与して いるかどうか検討した。AICAR を 5 日間腹腔内投与した後に糖負荷テストを行ったところ、DARP ノッ クアウトマウスと野生型マウスの間で認められた耐糖能の差が消失しており、また骨格筋におけるAMPK やACC のリン酸化レベルにも差を認めないことがわかった。よって DARP 欠損による全身の耐糖能亢進 はAMPK パスウェイの活性化により引き起こされることが明らかとなった。
DARP による AMPK パスウェイ活性化のメカニズムを検討するに当たり、AMPK リン酸化の主要な上 流キナーゼであるLKB1 の発現に注目した。DARP ノックアウトマウスの骨格筋および DARP をノック ダウンしたC2C12 筋管細胞の両方で LKB1 の蛋白発現が有意に上昇していた。一方、mRNA レベルでは LKB1 の発現に差を認めず、DARP は蛋白レベルで LKB1 の発現を調節していると考えられた。 上記の結果より、DARP は骨格筋における LKB1 の発現調節を介して AMPK パスウェイを制御し、糖・ エネルギー代謝の調節を行う核蛋白であることが明らかになった。糖尿病患者では骨格筋における糖取り 込みが低下していることが知られており、DARP は糖尿病治療における全く新しい標的遺伝子になり得る と考えられた。