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フィンランドのネウボラにおける母子保健活動と保健師・助産師の教育プログラム

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Academic year: 2021

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フィンランドのネウボラにおける母子保健活動と

保健師・助産師の教育プログラム

神 﨑 光 子

1 .緒   言

 わが国では1975年以降合計特殊出生率は低下の一途をたどり、少子化が深刻化している。そ の一方で児童相談所における虐待の相談対応件数や子どもの引きこもり件数は、急増の一途を 辿っている。また2000〜2014年の「健やか親子21」総括では、10代の自殺率の割合と低出生体 重児の割合が悪化していることが明らかとなっている。生まれる子どもの数が少ない上にその 子育てや成長発達に課題が多い現状は、まさに国家の存亡の危機であるといえよう。このよう な状況から、わが国では子育て期にあるすべての女性とその家族が子どもを産み育てやすい仕 組みを整備することは、喫緊の国家的課題となっており、2015年からスタートした「健やか親 子21」第 2 次では「切れ目ない妊産婦・乳幼児への保健対策」「学童期・思春期から成人期に 向けた保健対策」「子どもの健やかな成長を見守りはぐくむ地域づくり」を基盤課題とし「す べての子どもが健やかに育つ社会」の実現を目指している。特に「切れ目ない妊産婦・乳幼児 への保健対策」の内、「妊娠期からの児童虐待防止対策」「育てにくさを感じる親に寄り添う支 援」は重点課題となっている。国は、2016年には児童福祉法、母子保健法の一部を改正して、 各自治体に子育て世代包括支援センターの設置を法制化(2017年 4 月施行)し、2021年 3 月まで の全国展開を目指している。  このような国の法制化や制度改革の動向は、フィンランドの「ネウボラ」を中心とした母子 保健施策をモデルとしている。「ネウボラ」とは、フィンランド語で「アドバイスの場」を意 味し、妊娠期から就学前までの子どもと家族を支援する地域におけるワンストップのサービス 拠点となっている。ネウボラには保健師が常駐しており、原則として妊娠期から子育て期(就 学前)まで受持制で継続的な家族への支援を展開している。わが国の「子育て世代包括支援セ ンター業務ガイドライン(1)」に示されている目指す姿は、まさにネウボラの活動をモデルとす るものであり、すべての妊産褥婦とその家族が健康に子育て期を過ごせるようきめ細やかな継 続的支援を展開するとしている。今後、わが国においてフィンランドのネウボラのようなポ ピュレーションアプローチ(すべての子育て期家族を対象とする)による母子保健活動を展開する ためには、その役割を担う保健師や助産師の役割と教育をどのようにしていけば良いか検討す る必要がある。筆者は、2019年度学外研究員としてフィンランドのタンペレ大学に出向し、ネ

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ウボラ保健師(助産師)の活動の実際や教育制度および教育方法ついて調査を行ったので、ここ にその概要を報告し、今後、わが国の地域母子保健を担う人材の育成のあり方について考察す る。

2 .方   法

 フィンランド、タンペレ市の母子保健課に紹介されたネウボラを訪問し、施設の視察、子ど も健診および家族教室への参加観察を行った。また看護専門職教育を担っているタンペレ応用 科学大学(Tampere University of Applied Sciences)の助産師教育課程及び保健師教育課程担当教 員への聞き取り調査を行った。

3 .結   果

1 )ネウボラにおける保健師の母子保健活動と出産施設との連携

(1)タンペレ市のネウボラの概要

 フィンランド第二の都市であるタンペレ市の人口は238,140人(2019)で、15箇所のネウボラ

(Maternity and Child Welfare Clinic)が設置されている(2)。ネウボラの多くは小学校に隣設してい るがコミュニティーヘルスセンターの一部として設置されている場合や、住宅街に単独で設置 されている場合もある。地域によりその規模は異なるが、 2 〜 8 名の保健師が常駐し、原則、 担当制で妊娠および子育て期の家族を受け持っている。一人の保健師が担当する家族は、多い 場合は100家族を超えることもある。対象家族の転居や保健師の移動がなければ、原則として、 同一の担当者による継続的な支援が行われる仕組みとなっている。ネウボラで妊娠期・育児期 家族のケアを担当するのは、保健師であり、助産師資格で勤務している場合もあるが、保健師 資格を併せ持つことが求められる。医師は常駐ではなく、近隣のヘルスケアセンターから妊婦 健康診査がある時にネウボラを訪問する形態をとっている。また医師は、産科専門医ではなく、 一般内科医または小児科医であることが多い。 (2)妊婦健康診査と出産  フィンランドでは、女性は妊娠すると通常、妊娠 5 〜 7 週時点で最寄りのネウボラに電話し て予約をとり妊娠 8 〜10週で初回の妊婦健康診査を受診する。産婦人科専門医によるクリニッ クも存在するが、費用が有料で高額となる為、ほとんどの一般市民は、ネウボラで妊婦健康診 査を受ける。出産は、タンペレ大学病院 1 箇所に集約されており、タンペレ市内全域(523.4k㎡) の出産がここで行われている。フィンランドの母子保健サービスを Fig. 1(3)に示す。妊婦は、 妊娠中 8 〜11回ネウボラ(Maternity Clinic)において定期的に妊婦健康診査を受け、うち 2 〜 3 回は医師による診察となる。保健師は、妊婦健康診査時には、検尿、血圧、腹囲、子宮底長、

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胎児心拍数の測定、採血とその結果の説明も行う。超音波検査は妊娠中 2 回、妊婦健康診査と は別に出産施設である大学病院で受ける。また妊娠期の内診は、基本的に医師によって妊娠末 期健診時に行われるのみである。妊婦健康診査の他に、保健師は妊婦とその家族を対象とした 教室を 2 〜 3 回(出産準備や育児技術)を企画運営しており、その内 1 回は、近隣の教会職員が行 う家族教室となっている。  タンペレ大学病院の分娩病棟では年間約5,000件の分娩があるが、2019年は4357件と近年減 少傾向にある。そのうち双胎は55件、帝王切開率は14%で、95%の産婦が分娩体験を肯定的に 評価していた(4)。分娩病棟には、分娩室が19室(すべて LDR)あり、約50名の助産師が 3 交代で 勤務している(Fig. 2 〜 5 参照)。 1 日平均10〜15件の分娩が行われ、出産は入院時点から助産師 によってケアが行われる。正常であれば分娩第 2 期に医師の立ち会いは不要であり、助産師の 判断によって分娩介助と必要時には会陰縫合も自律的に行われる。妊婦健康診査時のデータお よび分娩時のデータ、産後の母子のデータは全て「IPANA(フィンランド語で乳幼児の意味)」と 呼ばれるオンラインシステムを活用することによりネウボラと大学病院のスタッフで情報共有 されている。その為、保健師は受持妊婦の入院日時だけなく入院後の CTG(分娩監視装置)のモ ニター所見もリアルタイムで閲覧することができる。また分娩時間、産褥経過や退院日時など、 「IPANA」にアクセスすることによって情報を得ることができる仕組みとなっている。その 一方で、タンペレ大学病院が分娩を担う範囲は、タンペレ市内全域に渡る為、時には病院まで 間に合わずに車中で出産することもあるとのことであった。また、妊娠期の異常が増加してい ることから、異常の予防や出産の安全性には課題があるとのことであった。助産課程担当教員 によれば、妊娠期のケアの提供者が主に保健師であるというフィンランドの母子保健システム は、ヨーロッパにおいても特異的なものであり、助産師の立場からは、対象の利益を鑑みても、 十分納得がいくものではないとの考えが示された。その理由は、妊娠、分娩、産褥期のケアに 関する専門教育は助産師課程で行われており、保健師課程ではその内容に関する十分な教育が Fig. 1  フィンランドの母子保健サービス

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行われていないと考える為であり、妊娠期から助産師が継続的ケアを担うことによって、より 適切な個別的援助が可能となるとの考えが示された。また、フィンランドにおいても少子化の 進行や虐待の問題は発生しており、より充実した周産期ケアを行う為にネウボラスタッフには 保健師資格に加え助産師資格を合わせ持つことが近年推奨されているとのことであった。 (3)産後の母子と家族のケア  産後の在院日数は、正常分娩で平均 2 〜 3 日、母子のいずれかに問題がある場合(例:出血多 量、児の体重減少が著しい等)は延長となるが、帝王切開後でも異常がなければ手術日を 0 日とし た術後 3 日目には退院となる。分娩病棟とは別フロアに産褥病棟があるが、隣接しているホテ ルも産褥病棟となる。基本的に入院中は母子同室で、ファミリールームで家族と共に過ごすこ とができる。入院中は、母子の身体的変化の観察や母乳栄養の指導、育児技術(沐浴、オムツ交 替、児の観察方法等)の指導などが助産師によって行われる。保健師は、受け持ち褥婦の入院中 の経過と退院の時期を「IPANA」により把握すると褥婦とコンタクトをとり、産後 1 〜 2 週 間の間に家庭訪問を行い、母児の健康状態の把握と個別保健指導を行う。フィンランドでは、 基本的にその時期、男性は育児休業をとっているので、父親を含めた育児指導も可能である。 その後は、生後 1 ヶ月時点でネウボラにおける健康診断が再開し、以降は子どもネウボラ(Child Welfare Clinic)として、子どもの発育・発達の評価が中心の介入となる。健康診査の記録は、

Fig. 2  分 室(LDR:Living & Delivery Room) Fig. 3  分 室(LDR)( 2 )

※家族で過ごせるようソファなども完備 Fig. 4  分 室(LDR)( 3 ) ※スケール等は引き出しの中に収納 Fig. 5  新生児室 ※ どこにいても胎児心拍・陣痛波形が見れるようディスプ レイを配置

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日本の母子手帳と同じように、家族が携帯する手帳サイズの物が活用されており、毎回健診の データと保健師のコメントが記録される(Fig. 6 )。子どもネウボラの定期健康診査は、生後 6 ヶ 月までは毎月、それ以降は 8 ヶ月、10ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、 2 歳、 3 歳、 5 歳、 6 歳まで保 健師によって行われる。医師による健康診査は、生後 1 ヶ月、 4 ヶ月、 8 ヶ月、18ヶ月、 4 歳 に行われる(Fig. 7 )。また定期健康診査以外でも、利用者はいつでも電話またはメールで自分 の担当の保健師に連絡し、予約をした上でネウボラを訪問して相談することができる。健康診 査や相談によって子どもの発達や発育異常、疾患疑い、家族の問題が生じた場合は、さらなる 検査やケアの為に、カウンセラー、小児科医、歯科医師や行政などの関連機関に保健師が連絡 をとり紹介するシステムとなっている。妊婦定期健康診査や超音波検査、出産費用、家庭訪問、 保健師への個別相談費用についてはすべて無償である。 2 )フィンランドの保健師・助産師教育 (1)フィンランドの教育システムと看護教育  フィンランドの教育制度を Fig. 8 に示す(5)。わが国と同様に 7 歳から 9 年間の基礎教育(義 務教育)が始まり、基本的に居住地域の学校(Comprehensive Schools)に通学するが、学校によっ ては独自の特色あるカリキュラム(例えば、芸術に特化したプログラムなど)を設けている場合があ り、希望に応じて居住地域とは別の学校に入学することも可能である。基礎教育を終えると高 校(General Upper Secondary Schools)または職業学校(Vocational Institution)に進学するが、高校入

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試はなく、本人の希望と適性によって決められる。その後は、高等教育に相当する大学

(University)または応用科学大学(University of Applied Sciences)と呼ばれる職業訓練の為の大学 に進学することになる。大学進学時には入試が行われ、進学率は、50%程度とされている。大 学教育は、学部教育は 3 年間、修士課程 2 年間、博士課程で構成される。いずれも単位制で、 必要単位を習得し、卒業認定試験に合格して修了となる。義務教育から大学院に至るまで、学 費は無償である。看護教育は、大学および応用科学大学で行われるが、主に研究者育成を行う Nursing Academic University は、University of Helsinki, Tampere University, University of Turku, University of Oulu, University of Eastern Finland の 5 校、実践者を育成する応用科学 大学(University of Applied sciences)は、全国に24校あり、その内、助産師教育プログラムがあ るのは 7 校である。本稿では、保健師・助産師プログラムを併せ持つ Tampere University of Applied Sciences(通称 TAMK)の教育プログラムについて述べる。TAMK では、 7 つの専門 職高等教育の学部があり、看護専門教育は School of Health Care and Social Services に属し、 看護師、助産師、保健師の教育プログラムを提供している。看護学専攻の学生は毎年300名程 度入学し、そのうち助産師・保健師プログラムの入学者は、各20名程度である(Table. 1 参照)。 教育課程は、EU 加盟国間の教育機関において単位の移行が可能な共通の専門職の教育課程を 定めた法律(Directive 2005/36/EC)を遵守して規定されている。単位としては、ECTS(European

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Credit Transfer and Accumulation System)が用いられ、1ECTS は、25〜30時間(講義・演習前後の 自己学習を含む)に相当し、年間60単位を修得することを標準としている(6)。学生は、入学時点

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でプログラムを選択しているので、保健師および助産師の教育プログラムには看護基礎教育科 目(Basics of Nursing Profession, Holistic Nursing, Operative Nursing Family Nursing, Nursing in Changing Environments)が含まれる。なお、小児看護、周産期および婦人科看護、老年看護に 関する講義・演習は、Family Nursing に含まれている。 (2)保健師教育プログラム  保健師教育プログラムは、看護基礎教育および卒業研究と選択科目を含む240 ECTS の修得 が求められる。 2 年半の看護基礎教育に加え、その後 1 年半保健師関連科目の単位を修得し、 最終試験に合格することによって修了と認定される。不合格となった場合は、再履修のため修 了延期となる。実習単位は看護基礎教育の実習を含み83 ECTS で、ネウボラやコミュニティー ヘルスセンターなどが実習施設となり、乳幼児から高齢者まで、多様な世代の地域看護に関す る実践的実習を行う(7)。その内、ネウボラでの実習は10 ECTS である。実習施設での指導は、 現場の保健師が行い、教員は実習施設を訪問して学習の進捗を確認し、スーパーバイズする方 式で行われている。実習前の学内演習では、特に相談場面の対話スキルのシミュレーション演 習に力を入れており、学生間で何度もロールプレイと場面に関するディスカッションを重ねて 技術を訓練したのちに実習に出るとのことであった。この教育方法に関しては、教育・実践セ ミナー(子どもと家族の「関係性支援」研修)として日本にも紹介されている(8) (3)助産師教育プログラム  助産師教育プログラムでは、看護基礎教育科目および卒業研究を含む270 ECTS の修得が求 Fig. 9  豚の舌を用いた会陰縫合演習 ※ ウレタンフォームでの縫合練習の後、リアリティを体感する為に豚の舌を用いて縫合 演習を行う

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められる(9)  履修は、男子学生も可能であるが、修了者は全国で10名程度と少ない。20名/年の学生に対 し、 5 名の専任教員で教育を行っている。実習施設は、隣接するタンペレ大学病院分娩病棟お よび外来病棟と市内にあるネウボラである。実習期間は約16週間で妊婦健診事例100例、分娩 第 1 期40例、第 2 期40例、産後母子健診各100例、分娩経過などに関する集団指導を 2 回以上 実践することが求められる。実習前の学内演習では、妊婦健診の個別指導、分娩介助の実技演 習の他、豚の舌を用いた会陰縫合の実技演習(Fig. 9 )等が行われていた。実習では、ネウボラ の保健師および大学病院の外来および分娩病棟の助産師の協力により、マンツーマンの直接指 導体制が取られている。教員は、週 1 回程度施設を巡回し、実習の進捗を確認し、記録をもと に助産過程のスーパーバイズを行う。卒業前の最終試験では、ペーパー試験に加え、実習にお ける経験事例のプレゼンテーションおよび助産過程に関する口頭試問により、アセスメント能 力、実践力の評価を 2 日間かけて行い、単位修得状況と最終試験で総合的に修了判定が行われ る。

4 .考   察

1 )フィンランドの周産期医療システムとわが国の今後の課題  フィンランド、タンペレ市のネウボラにおける母子保健活動と出産施設であるタンペレ大学 病院の視察、タンペレ応用科学大学の教員との面談による調査から、フィンランドの周産期母 子保健の実際と仕組み、教育プログラムの実際を概観することができた。フィンランドの母子 保健の根底には、妊娠から出産、育児期を通して、ケアの対象を母親に偏重することなく家族 という視点で捉え、家族中心の看護が展開されていた。またどの家族でも、ネウボラの担当保 健師を通じて必要なケアにアクセスすることができる仕組みが構築されていた。さらに周産期 に関わる保健師、助産師、産科医師、小児科医など他職種が患者情報を共有することのできる 1 本化したデータ管理システムが活用されていた。これらの仕組みは、周産期、子育て期にあ るすべての家族が、もれなく継続的支援を受けられるものであり、問題の早期発見や予防に寄 与するものと考えられる。また妊娠出産の母子保健サービスが全て無償であることも不安の軽 減につながっていると考えられる。また医療者側にとっても、情報共有が可能となっているこ とにより家族の背景や状況、各時期の経過の情報が迅速に得られる状態を実現しており、多職 種との連携や協働が無駄なくスムーズに行うことができていると考えられる。しかし、分娩施 設が 1 ヵ所に集約されているによる出産の安全性の担保や助産師や産婦人科医が妊娠期からか かわっていないことによる妊娠期の異常の早期発見や予防に向けた個別指導の質に関しては、 課題があることも浮き彫りとなった。現在、わが国は、子育て世代包括支援センターを全国展 開し、フィンランドのように全ての家族に切れ目のない支援を実践するポピュレーションアプ ローチの実現を目指しているが、周産期医療は産科医と助産師を中心に病院で行われているた

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め、保健師が妊娠期から妊婦健診を行う役割を担うことは、マンパワーやその教育課程の面か らも無理があると考える。現にネウボラをモデルとしている子育て包括支援センター設置への 取り組みは、幾つか報告がなされているが、人材の確保やシステムの構築、他職種との連携に 苦慮している実態が窺われる(10)(11)(12)。わが国において、周産期医療の安全性や質を維持しな がら、妊娠期から育児期まで継続的な支援を提供するためには、子育て世代包括支援センター がネウボラの役割を担うのではなく、地域の産婦人科クリニックがその役割を担うのがポピュ レーションアプローチを実現する近道であると考える。その為には、助産師の乳幼児健診のス キルや家族への継続的支援の看護技術を獲得する教育課程の強化や卒後研修等の学習機会を提 供することが必要であると考える。  高橋(13)は、ネウボラの切れ目ない子育て支援の実践をいち早く我が国に紹介し、「切れ目な い」支援という表現は、支援サイドの部署間や他職種間の連携に限定するのではなく、むしろ 利用者(子育て家族)にとっての支援の一貫性・整合性として理解することが重要であり、支援 サイドは、医療、母子保健、児童福祉等の領域や利害を超えて利用者支援のために協力するこ との重要性を指摘している。今回の国の動きを受け、行政による経済的支援と母子保健事業を うまく連携するシステムを構築することによって、産婦人科クリニックのマンパワーと母子保 健機能を充実させることができれば、妊娠期から育児期まで全ての家族へのケアの提供は可能 であり、フィンランドを超える質の高い母子保健システムの確立も不可能ではないと考える。 その為には、あくまでも家族中心の視点から、現行の周産期母子保健システムの良いところを 残しつつ、専門職の役割と業務分担を自治体ごとに包括的に見直すことが必要であり、今まさ に専門職の領域を超えて真に連携するべき時期が来ているのではないかと考える。 2 )フィンランドの看護師・保健師・助産師教育プログラムからの示唆  フィンランドでは、看護職は国家資格ではなく、専門職教育を修了することによる認定資格 となっているため、修了時点でその実践力を担保する必要がある。その為、タンペレ応用科学 大学の教育プログラムにおいても実践力に重点を置いた教育プログラムとなっていた。特に実 習の単位数は多く、また臨床スタッフによる協力的な教育への指導体制が得られている中で、 個々の学生に個別指導が行われていた。看護基礎教育では、小児看護、母性看護、老年看護は、 家族看護学の中に領域別看護として構成されており、家族看護学の理論や考え方が浸透してい ると考えられた。保健師教育プログラムでは、実践現場での必要性から対象者との対話スキル の向上に重点を置き、信頼関係構築や家族関係の介入にも役立つような効果的な対話スキルの 修得を目指す教育方法の工夫がなされていた。しかし、保健師専門科目としての Public Health Nursing for a Child and a Family は、12単位であり、助産師教員が指摘するように妊 婦健診の担い手としての教育は、助産師課程に比べ手薄であり、助産師の資格を併せ持つこと が推奨されることにつながっていると考える。

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あるが、分娩期のケアでは医師の立ち合いが必要なく、自律的に判断や処置をすることが求め られている為、教育課程においてもより実践力を高める為にロールプレイによるシミュレー ションやリアルな素材を用いて感覚なども含めて技術を修得することができるよう教育方法の 工夫がなされていた。また教育方法では、一方向の講義形式ではなく、アクティブラーニング を用いて常に活発に学生の考えを引き出す双方向のやり取りの中で、講義演習が展開されてい た。このことは、わが国の教育の近年流れと一致しており、さらに豚の舌を用いた縫合の演習 などは、よりリアルな感覚を修得でき、視覚的にも触覚的にもインパクトがあり、学習効果と して有効な工夫であると考えられた。今後、わが国の保健師、助産師が実践で求められる能力 もより自律的な実践ができる方向へと変化していくと考えられることから、このようなフィン ランドの看護教育における実践力を強化する教育方法の工夫は、わが国の看護教育課程にも大 いに応用できるものと考える。

5 .研究の限界と今後の課題

 今回、フィンランドの母子保健の拠点となっているネウボラにおける保健師の活動や大学病 院における助産師の活動、さらに保健師・助産師教育課程について参加観察や聞き取りによる 調査を行った。しかし、調査場面が限定されていることから、母子保健の実践の実際として一 般化してとらえるには限界があると考える。また看護教育の実際についても看護教育課程の概 要を把握することはできたが、その詳細については十分に情報が得られたとは言えない。学外 研究で得た看護教育・研究者とのつながりによって今後、実践力を高める学内教育の具体的工 夫について更なる知見を得たいと考える。

6 .結   論

 本研究により、以下の結論を得た。 1 ) フィンランドでは、すべての家族を対象とした受け持ち制による継続的な母子保健サービ スが展開されていた。 2 ) IT システムの活用により、母子保健サービスにおける多職種間の連携は有効かつ、より スムーズとなっていた。 3 ) 母子保健サービスを担う保健師、助産師の教育プログラムでは、専門職としての自律と卒 業時点の実践力を保証するように学内教育の工夫がなされていた。 4 ) わが国において子育て期の全ての家族への継続的支援を実現する為には、産婦人科クリ ニックがネウボラの役割を担い、産科医、助産師、保健師等による官民協働の医療体制を 検討することが期待され、その為には、助産師の実践力を強化する教育方法の工夫と卒後 研修等、学習機会の提供が必要である。

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謝辞

 本稿は、2019年度京都橘大学教員学外研究費助成制度による学外研究成果の一部をまとめたものです。 学外研究員として派遣頂いた京都橘大学および看護学部教員の皆様に深く感謝申し上げます。また快く調 査にご協力いただいたネウボラスタッフの皆様、タンペレ応用科学大学 Mari Laaksonen 講師、Arja Halkoahos 主任講師、タンペレ大学の Eija Paavilainen 教授に心より感謝申し上げます。

引用・参考文献 ( 1 ) 厚生労働省「子育て世代包括支援センター業務ガイドライン」(2017)  https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/kosodatesedaigai dorain.pdf ( 2 ) Tampere city:  https://www.tampere.fi/en/social-and-health-services/services-for-families-with-children/maternity-and-child-welfare-clinics/maternity-clinics.html

( 3 ) Ministry of social affaires and health,stm.fi/en

( 4 ) Tampere University Hospital: https://www.tays.fi/en-US/Pregnancy_and_childbirth/Childbirth ( 5 ) https://www.minedu.fi

( 6 ) The European Qualifications Framework (EQF) for Professional: Directive 2005/36/EC  https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32013L0055

( 7 ) TAMK Degree Program in Nursing and Health care, Public Health Nursing(19Th(2019)  https://opinto-opas-ops.tamk.fi/index.php/en/167/en/49597/19TH/year/2019

( 8 ) 子どもと家族の「関係性支援」研修:公益社団法人母子保健推進会議共催,2019:jp-fi-leaflet.pdf ( 9 ) TAMK Degree Program in Nursing and Health care, Midwifery and Nursing(19Th(2019)

 https://opinto-opas-ops.tamk.fi/index.php/en/167/en/49593/19KL/year/2019 (10) 岸田久代:豊中市における母子保健の取り組み〜切れめのない妊娠・出産・子育て支援〜,大阪府 立大学看護学雑誌 第14巻,pp.40-42,2018 (11) 木内恵美:文京区版ネウボラ事業における親子の包括的支援〜文京区版ネウボラ〜:小児保健研究, 第78巻 第 2 号,pp.103-107,2019 (12) 山谷奈奈子:ちとせ版ネウボラ〜子育て包括支援センターの経験からみえたこと〜小児保健研究, 第78巻 第 4 号,pp.285-288,2019 (13) 高橋陸子:ネウボラーフィンランド発祥の妊娠初期からの切れ目ない子育て支援,日本小児科医会 報,pp.147-148,2017

Fig. 2  分娩室 (LDR:Living & Delivery Room) Fig. 3  分娩室 (LDR) ( 2 )
Fig. 6  フィンランドの母子手帳 Fig. 7  小児科医による 4 ヶ月児診察
Fig. 8  フィンランドの教育制度

参照

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