腫瘍血流量の選択的低下によるマイクロウェーブ温
熱療法の効果増強の研究
著者 堀 勝義
【研究課題]腫疲血流量の選択的低下による
マイクロウェーブ温熱療法の効果
増強の研究
【課題番号】 09670912 平成9- 10年度文部省科学研究費補助金【基盤研究(C)(2)】研究成果報告書 平成11年3月 研究代表者 堀 勝義 東北大学加齢医学研究所 腫痘循環研究分野はしがき 切除不能な固形腫癌に対し、化学療法、放射線療法、免疫療法等を組み合 わせた集学的治療が行われているが、十分な効果が得られるには至っていな い。最近、マイクロウエーブ(MW)を用いた温熱療法を組み入れた集学的治 療法が、ある種の癌患者の予後を改善したと報告された。また、肺癌の気道 狭窄病変部に対し、経気管支鏡的にMWプローブを挿入到達させ、温熱療法 を施行し、有効であったとする報告もなされている。しかし、一般的に、温 熱療法は深達度の深い痛には効果不十分の場合が多く、再発が高率であると されている。このことから、 MWによる加温の効果を、腫癌深部にまで及ぼ すための研究を進める必要がある。 深達度の大きい癌に効果が不十分な場合が多いのは、加温しても血流によ り熱が運び去られ、腫疹内部に十分な熟が蓄積されないことが大きな原因の ひとつと考えられている。もしそうであれば、腫癌組織血流量を下げ、腫癌 からの熱クリアランスを低下させることにより、温熱療法の効果が増強でき る可能性がある。これまでに、腫疹組織血流量を減少させることのできる薬 剤がいくつか報告されてはいるが、その薬剤の多くは全身血圧の著しい低下 を伴うことが知られている。臨床で使用する場合には、極端な血圧低下を生 じない薬剤が必要である。我々は、本研究の準備段階で、全身血圧や正常臓 器血流量に大きな変化を与えることなく、腫癌組織血流量のみを選択的に低 下させることができる薬剤を見出した。 本研究では、この薬剤を用い、腫癌組織血流量を低下させることで、 MW 温熱療法による抗腫癌効果が増強できるかどうかを基礎的に検討し、温熱療 法の効果に腫癌組織血流量がどの程度関わっているかを解明することを目的 とした。そして、同時に、我々の血流測定システムを用いて、全身への影響 が少なく、しかも腫癌組織血流量をより効果的に遮断できる薬剤を見出すこ とを、もう一つの研究目標として本研究が企画された。
研究組織
研究代表者 研究分担者研究経費
平成9年度
平成10年度 計 堀 勝義(東北大学加齢医学研究所 助教授) 斎藤祥子(東北大学加齢医学研究所 助手) 1,200千円 900千円 2,100千円研究発表
【学会誌等】
1・ B9LK, Li H-C,旦由吐良, Sato Y: Increased growth and incidence of lymph node metastases due to the ang10geneSis inhibitor AGM-1470・ Brit J Cancer,
75: 1730-1734, 1997.
2・塩塵義:AII昇圧による抗癌薬の腫療血管外移行の増強.医学のあゆみ, 184:
3817-3821, 1998.
3・ Kohzuki M, TandaS, Hori KタYoshida K, Kamimoto M, Wu XM, Sato T:
Endothelin receptors and angiotensin II receptors in tumor tissue. J
Cardiovasc Pharmacol. 31 Suppl 1: S531-3, 1998.
4・ Li H-C, Sasano Y, Hori K, Kagayama M, Zbang Q-H, Saito S, Suzuki M:
Hypercoagulable state and disseminated intravascular coagulation followlng an effective Chemotherapy in tumoトbearing rats・ Chinese Medical Journal, 111:
951-955, 1998.
5・ KubotaK, TadaM? YamadaS, HoriK, SaitoS, IwataR, Sato K, FukudaH,
Ido T: Comparison of 18F-fluoromisonidazole, deoxyglucose and methionine in tumour tissue distribution・ Eur ∫ NucI Med, 1999 (in press).
6・ Kanno S, OdaN, AbeM, SaitoS, HoriK, HandaY, TabayashiK, SatoY:
Establishment of a simple and practical procedure applicable to therapeutic
angiogenesis・ Circulation, 1999 (in press)
【口頭発表】
1・堀勝義,斎藤祥二王,高橋博人,佐藤靖史:腫療組織血流量の薬剤によるコント ロールー癌の治療効果増強に関連して.ビデオオーガナイズドセッション
「微小循環」第36回日本エム・イ-学会大会.松本, 1997年4月
2・塩塵塵,斎藤祥子,高橋博人,前田浩,佐藤春彦,佐藤靖史: angiotensin
converting enzyme阻害薬temocapril bydrochlorideによる腫疹組織血流量の選
択的減少・第56回日本癌学会総会.京都, 1997年10月
3・ NiheiY, Suzuki MタOkano AタAkiyamaYタHori K, Saito S, Sato Y:
Anti-vascular effects of AC-7700 0n solid tumors; Comparison with other tubulin binding agents・ 89th Annual Meeting American Association for Cancer
ReSearCb, New Orleans, LA, 1998. 3
4・堀勝義,斎藤祥子,佐藤靖史:腫癌微小循環動態計測法のパッシブタ-ゲッテ
ング解析への応用・特定セッションⅠⅠI 「パッシブタ-ゲッテング」第14回日 本DDS学会.横浜, 1998年7月
5・塩度量,斎藤祥子,二瓶幸夫,鈴木学,佐藤靖史: CombretastatinA-4の新規誘 導体AC7700の抗腫疾効果:腫癖組織血流量の不可逆的遮断による効果発現. 第57回日本癌学会総会.横浜, 1998年9月 6・二瓶幸夫,鈴木学,岡野明,秋山由紀雄,塩塵義,佐藤靖史:tubulin重合阻害剤 を用いた固形腫疹血流阻害による癌治療の可能性一新規tubulin重合阻害剤 AC-7700と既存薬との比較から・第57回日本癌学会総会.横浜, 1998年9月 【出版物】 1・佐藤春彦,現像量,杉山克郎,丹田滋:肝癌と腫癌血管, SANCS動注療法検討 会(宿)油性抗癌剤を用いた肝細胞癌の治療. pp. 1-ll,東北大学出版会, 1998年
研究成果 本研究によって得られた成果は大きく2つに分けることができる。ひとつ は腫癌組織血流量を下げる薬剤の探索に関する成果であり、もう一つは腫癌 組織血流量を下げた条件のもとにMW加温をすると、腫癌内に熱が効果的に 蓄積されるかどうかという問題の解明である。以下に、本計画期間内に行っ た研究結果について述べる。 Ⅰ.腫癌組織血流量を低下させる薬剤の探索 腫癌および正常組織(肝臓、腎臓、骨髄、脳)の組織血流量への各種薬剤 の影響を水素クリアランス法で測定し、腫疹組織血流量を低下させることの できる薬剤をスクリーニングした。スクリーニングの対象となる薬剤として、 1)血管透過性に関係する薬剤、 2)高血圧治療薬、 3)抗血管作用物質に目標 を絞った。 1)の薬剤としては、ブラジキニン、ブラジキニン括抗薬であるCP-0597,同
じくブラジキニン括抗薬のHOE 140, NOS inhibitorであるLNAME, NO scavengerであるPTIO, kininase II inhibitorであるenalapril maleate, enalapril
maleateの活性体であるMK-422の効果を検討した。 2)の薬剤としては、
angiotensin converting enzyme (ACE)阻害薬のtemocapril hydrochloride,
angiotensin II type 1 receptor antagonistであるlosartanの効果を検討した。また、
3)の薬剤として、抗血管新生作用物質であるフマギリン誘導体、 tubulin重合
阻害作用を有し、同時にantivasculaT効果のあるvinca alkaloids, combretastatin
化合物を検討した。
その結果、 HOE 140に軽度の腫癌血流低下作用、ブラジキニンに一過性の
腫疾血流低下作用があり、 temocapril hydIOChloride, losartan, vinca alkaloid
であるvincristineに、強力な腫癌血流低下作用があることがわかった。特に、
temocapril、 losartanは、全身血圧を大きく下げることなく腫疹組織血流量を
マギリン誘導体には、腫癌組織血流量の低下作用はなかった。この物質には、 ある種の癌のリンパ節転移を促進する作用があることを偶然に見出した。こ
のことについて別刷を添付する。さらに、最近、 combretastatin化合物に腫癌
組織血流量を不可逆的に遮断する作用があることを見出した。以下に、
temocapril hydrochloride, losartan, combretastatin化合物が及ぼす腫癌、および
正常組織の組織血流量への影響を示す。
A・ tenocapril hydrochloride
すべての動物実験は、 25 mgkgのpentobarbital sodiumを筋肉内投与し、 1% のenfluraneを吸入させるという麻酔条件下で行った。腫疾(吉田腹水療LY80) あるいは正常組織(肝臓、腎臓、骨髄、脳)に水素電極を挿入し、 7-9%の 水素を吸入させ、組織に飽和させた後吸入を停止し、そのwashoutカーブから 組織血流量を求めた。全身血圧は大腿動脈にカニューレを挿入することによ り測定した。 各組織の平常血圧時の血流量を測定した後、 temocapTilを尾静脈内に投与 し、それによる血圧、血流変化を測定した。 temocapril投与開始後 (temocapTilは約5分で投与完了) 30分、 1時間、 2時間(腫癌は4時間まで)の組 織血流量変化を測定した。 1) temocaprilの全身血圧への影響 temocapril (4・5 mgkg)の全身血圧に及ぼす影響を図1に示す。 temocapril 投与後約30分の間に、血圧は107・9±11.5から98.1±11.3 mmHg(n = ll)にまで 軽度であるが有意に低下し(P< 0.0001)、その後その状態が維持された。 2) temocaprilの組織血流量に及ぼす変化 正常組織と腫癌の組織血流量に及ぼすtemocapril (4.5mgkg)の影響を図2 に示す。 temocapril投与前、投与後30分、 1時間、 2時間の肝組織血流量(n = ll)は、それぞれ69・4±14・4、 68.5±9.0、 70.0±11.2、 66.9±13.1 ml/min/100g
であった(図2A)0 temocapril投与前、投与後30分、 1時間、 2時間の腎皮質の 血流量(n = 10)は、それぞれ157.8±37.0、 164.4±42.8、 165±46.1、 165.6± 44・5 ml/min/100gであった(図2B)。骨髄では(n = 6)、 temocapril投与前、投与 後30分、 1時間、 2時間の血流量は、それぞれ69.0±18.1、 61.2±13.9、 69.8± 13・9、 75・4±11・2 ml/min/100gであった(図2q。また、脳(n ≡ 8)のtemocapril 投与前、投与後30分、 1時間、 2時間の血流量は、それぞれ48.8±12.3、 41.0 ±13・4、 56・6±16・6、 54・5±14・2 ml/min/100gであった(図2D)。正常組織では、 temocaprilによる組織血流量変化は軽度であった。 これに対し、腫癌組織血流量はtemocaprilにより著明に低下した。平常血 圧時に25 ml/min/100g以上の血流量を有する腫疹(a = 6)では、 temocapril投与 前、投与後30分、 1、 2、 3、 4時間の腫癌組織血流量は、それぞれ31.4±8.6、 9・7±3・4、 16・3±5・9、 15・4±3・4、 16.9±3.4、 16.3±4.2 ml/min/100gであり、 投与後のいずれの時間帯でも血流は投与前の約半分に低下した。その低下は 薬剤投与前と比べて高度に有意の差があった(P< 0.0001)(図2E)。また、平 常血圧時に20 ml/min/100g以下の血流量を有する腫癌(n = 10)では、 temocapril投与前、投与後30分、 1、 2、 3、 4時間の腫癌組織血流量は、それ ぞれ16.9±3.9、 3.0±2.1、 3.1±1.9、 3.0±2.1、 2.6±1.7、 3.0±2.3 ml/min/100gであり、薬剤投与後、血流は著しく低下し(P< 0.0001)(図2F)、 ほとんどゼロになる部位も測定された。
この研究成果は、現在、英語論文(Hori K, Saito S et al: Selective decrease in
tumour tissue bloodflow due to angiotensin converting enzyme inhibitor)として雑
誌に投稿中である。 B. losartan 1) losartanの全身血圧への影響 losartan (10 mg/kg)を尾静脈内投与すると、 5分後に血圧は106.4±9.8から 92.2±11.8 mHg (孤 = 45)に低下し、 2-6時間後は投与前の約80%の状態が維 持された。
2) losartanの組織血流量に及ぼす変化 losartan (10 mgkg)投与前、投与直後、 1、 2、 4時間の肝組織血流量(n = 14) は、それぞれ76.2±14.0、 75.5±19.5、 76.0±18.1、 68.1±12.3、 66.1±7.2 ml/ min/100gであった。腎臓では、 losartan投与前、投与直後、 1、 2、 6時間後の 組織血流量(n ≡ 19)は、それぞれ209.9±54.4、 216.0±50.3、 229.0±47.7、 230・5±50・3、 202・6±41・7 ml/min/100gであった。骨髄では、投与前、投与直 後、 1、 2、 6時間後の組織血流量(n= 12)は、それぞれ65.5±13.3、 61.4±20.1、 71・4±26・8、 76・1±32・3、 68・5±20・3 ml/min/100gであった。脳では、投与前、 投与直後、 1、 2、 6時間後の組織血流量(n= 14)は、それぞれ46.8±15.2、 42・7±13・1、 41・9±12・1、 42・7±9・1、 34・7±9.6 ml/min/100gであった。正常組 織では、いずれもlosaTtanによる血流量変化は軽度であった。 これに対し腫癌では、組織血流量は25.8±14.4 ml/min/100gであったが、 losartan (10 mg/kg)を尾静脈投与すると、 30分後には、 12.4±7.8 ml/min/100g とほぼ半減し、 4時間後でも10.8±9.3 ml/min/100gと減少のまま維持された。 投与6時間後もその減少は持続し、回復しなかった。 C. combretastatin化合物AC7700
combretastatin A-4はPettitらがcombretum caffrumの樹皮から抽出した物 質であり、 in vitroで強力なtubulin重合阻害と癒細胞増殖抑制作用があること が報告されている。本研究で我々はAjinomoto C0., Inc. (Yokohama, Japan)で
合成されたcombretastatin A-4化合物の水溶性誘導体AC7700を用いて実験を 行ない、この化合物に腫疹組織血流量を不可逆的に遮断する作用があること を見出した。 1) AC7700の全身血圧への影響 1 mgkg, 3 mg化g, 10 mgkgのAC7700溶液をinfusion pumpにより尾静脈投与 した時の、平均動脈血圧の変化を図3に示す。 10 mgkg (図3A)のAC7700に より、平均動脈血圧は103.3±11.2から74.8±11.9 mmHgと一過性の減少をし
た後、 145.1±9.7 Ⅱ皿Hgにまで上昇した.その上昇値は約2時間維持され、 約4時間経過した後、血圧はほぼ元の値に復した。 3 mgkg(図3B)では平均 動脈血圧は106・3±6・4から128.9±8.7 mmHgにまで徐々に上昇し、その上昇値 は約2時間維持された。そして約4時間経過後、血圧はほぼ元の値に復した。 1 mgkg(図3C)では、薬剤投与中、平均動脈血圧の変化はほとんどなかった. しかし、薬剤投与終了後約30分から平均動脈血圧は105.2±10.9から115.0± 13.9 InmHgにまで徐々に上昇した。その上昇値は約4時間後に完全に元に戻っ た。 2) AC7700の組織血流量に及ぼす変化 1 mgkg、 3 mgkg、 10 mgkgのAC7700溶液を尾静脈投与した時の、 LY80腫 癌、佐藤肺癌(SLq腫癌の腫癌組織血流量に及ぼす影響をそれぞれ図4、図 5に示す。 LY80腫癌およびSLC腫癌の血流は、 AC7700の濃度に依存して 低下した. 1 mgkg、 3mgkgの投与では、血流は著明に低下するが、それぞ れ約2時間後、 4時間後にやや回復する傾向があった。しかし、 10mgkgの投 与では、腫癌血流はほぼ完全に遮断され、最長8時間の観察時間中、回復し なかった。この遮断は24時間後も回復しないことも確かめられた。 肝臓と腎臓の組織血流量に及ぼすAC7700の影響を図6に示す. 10 mgkgの AC7700を投与すると、肝臓では組織血流量は約50%にまで低下したが、約8 時間後には完全にもとの値に戻った。腎臓では、組織血流量の変化は認めら れなかった。脳の組織血流量に及ぼすAC7700の影響を図7に示す。 10 mgkg のAC7700で脳の組織血流量は約35%の低下を示した(図7A)。しかし、 AC7700投与24時間後、脳の組織血流量は全例もとの値に戻った(図7B)0 骨髄の組織血流量に及ぼすAC7700の影響を図8に示す。 10 mgkgのAC7700 で骨髄の組織血流量は約70%の低下を示した(図8A)0 1 mgkgのAC7700では、 投与後30分で血流量は約50%に低下したが、 2時間後に回復した(図8B)。正 常および腫癌の組織血流量に及ぼす各濃度のAC7700の影響のまとめを、表1 に示す。
3) AC7700の微小増殖巣の腫癌血流量に及ぼす変化 ラット透明窓法を用い、腫疹微小増殖巣の血流のAC7700による変化を生 体観察したo図9は10 mg化gのAC7700投与前、投与後10分、 30分および22時 間後の血流量変化の観察所見である。腫癌血流量はAC7700投与直後から低 下しはじめ、投与後30分で完全に停止した。その腫癌血流停止は22時間後も 回復しなかった。 まとめとして、 AC7700は10 mgkgの用量で、腫癌の多くの領域の組織血流 量を完全に遮断し、しかもその遮断は不可逆的であった。一方、正常組織で は血流量が低下しても、多くの場合、可逆的であった。 AC7700は腫疾血流 を不可逆的に遮断し、腫癌への栄養補給を断つことにより、強い抗腫疹効果 (腫癌増殖抑制効果、リンパ節転移に対する効果、組織学的効果、生存延長) を発現する新しい抗癌物質であることを明らかした。
この研究成果は、現在、英語論文(Hori K, Saito S et al: Antitumor effects due to irreversible stoppage of tumor tissue blood flow: evaluation of a novel combreta-statin A-4 derivative, AC7700)として雑誌に投稿中である。
ⅠⅠ.腫癌組織血流量低下のマイクロウエーブ加温への影響 本研究では、約5cm3の腫癌を用い、まず、マイクロウェーブ(MW)によ る腫癌組織への加温が、腫癌組織血流量により影響を受けるかどうかについ て検討した。図10に示すように、 MW発信源から平行に5 mmと10mm離れた 位置にそれぞれ熱電対温度センサーを設置し、 5 mm離れた位置を40-41℃に 加温した。そして、無処置の場合(N)、 temocaprilを投与した場合(ACE)、 屠殺により腫癌血流を完全に止めた場合(D)の温度変化を比較した。 その結果、 MWによる加温では、熱伝導による加温とは異なり、目標温度 に達するまでの時間は、 (N)、 (ACE)、 (D)の間に差はなかった。しかし、 MW停止後の腫癌組織の温度低下は、 (N)がもっともはやく、血流の存在しな い(D)がもっとも遅かった(図11)。しかし、その差はわずかであり、治療効
果に影響すると思えるような差ではなかった。 実際に、 LY80腫癌移植11日目(体積約5 cm3の腫疾)に、 temocapril+MW (42℃, 30分)による加温(n=4)、 vehicle+MW(n= 4)、 Vehicle(n=4)の3群 を設け、抗腫疹効果をみる実験を行った。組織学的にはMWの効果はあった が、腫癌縮小効果には腫癌血流低下による差は認められなかった(図12)。こ こでMWの加温そのもので、腫疹血流が停止しないかどうかを検討した。温 度センサーの位置に水素電極を置き、腫癌組織血流量の変化を測定した。加 温前、腫癌組織の温度は33.4±0.5℃(n = 18)、血流量は24.4±16.8ml/min/ 100gであった。 MWで43℃に上げても腫癌血流量は28.9± 15.5ml/min/100gと 有意の変化はなく、その後も低下することはなかった。すなわち、本実験条 件下では、 MWの加温が腫癌血流量に影響することはなかった。 体積約5 cm3の腫癌に腫癌組織血流量低下による効果があらわれない理由 を解明するために、図13に示すようなinvitroシステムで実験を行った。 MW 発信源から正確に5 mm、 10mmの位置に温度センサーを置き、 5mmの位置 の温度をMWにより40-41℃に加温した。そして、同時に、ポンプで37℃の水 の流量を変化させ、加温に対するnowの影響を検討した。流量がゼロの場合、 0.03 ml/minの場合、 0.12 ml/minの場合の影響をみると、腫癌を測定した時の ように、ほとんど流量の影響が認められなかった(図14)。我々は以前の実験 で、体積約5 cm3以上の腫癌では、腫癌組織血流量はほとんどの部位で20 ml/min/100g以下であることを計測している。一方、流量を0.5 ml/min、 2 ml/minに上げた場合には、加温に対するflowの影響が顕著にあらわれた(図 15)。flowが十分に多い場合には、熱クリアランスが大きく変化することが確 かめられた。 以上の結果から、我々は、温熱療法が体積約5 cm3の痛に対して効果が不 十分であるのは、熱の到達距離に限界があることが主な理由であり、腫疹血 流が熟を運び去ることによるという可能性は小さいと考える。大きな腫癌の 場合、もともとflowは少ないため、そのflowを下げても熱クリアランスへの 影響はわずかでしかないからである。現在のMW温熱療法で、腫疹血流量を 下げることが有効に作用する可能性があるのは、径2cm以下で血流が豊富な
癌に限られると結論した。
今後の展開
本研究により、固形腫癌の循環特性を考えると、径が3cm以上の大きさの 腫癌では、組織血流量を低下させても、温熱療法にそれほど大きな治療効果 増強は期待できないということがわかった。しかし、本研究を企画した副産
物として、 ACE阻害剤のtemocapril, angiotensin II type 1 receptor antagonistの
losartan, tubulin重合阻害剤combretastatin A-4化合物のAC7700に、腫癌組織血
流量を著明に低下、あるいは遮断させる作用があることを見出したことは夫 きな成果であった。本研究成果に基づいた癌治療対策として、具体的には、 癌治療物質を投与した後、これらの薬剤を用いて腫癌血流を止めることによ り、腫癌内に治療物質を長時間停留させる研究へと発展させるつもりである。 この方法は抗癌剤などの低分子のみならず、抗体を含めた高分子、あるいは 遺伝子治療におけるベクターの腫癌組織への停留にも利用できる可能性があ り、今後の幅広い展開が期待できる。
0 30 60 90 120 150 180 210 240 270
Time a触r dmg administration (min)
図1. temocaprilの全身血圧への影響 O hに薬剤を投与 0 o o o o o o o o 0 0 0 0 2 1 0 9 8 7 6 5 4 3 2 1 1 1 1 ( 叫 H u t U ) a J t l S S a J d p o o T q P ! ! L a t t ! t J d a M
90 80 70 60
0 30 60 90 120 150
The也r drug adninis也don (min)
C
二三二二
0 30 60 90 120 150 Thc血r drug血血tntion (mh) Eド
0 1 2 3 4TiJnC血r drug administration (叫
L」⊥」 B
0 30 60 90 120 150 Tine血drug adminis血on (mill)
D
■■● ■
0 30 60 90 120 150
Tine血r drug administradon (min)
ド
0 1 2 3 4
Tine after drug administration P)
図2. temocaprilの組織血流量に及ぼす変化 A,肝臓; B,腎臓; C,骨髄; D,脂; E, LY80腫疹(25 ml以上の血流を持つ 腫癌); F, LY80腫疹(20 ml以下の血流を持つ腫癌) O hに薬剤を投与 川 卯 的 Ⅷ 釦 5 0 仙 3 0 加 1 。 0 畑 ( 3 き T P P r r L t r ) J K O t l F N n T q O t t S S ! 1 ( 3 o o T P J P f P ) A O t l P W l q O T t S S u ( a o o T P ! t V T t t T ) J y L O U で 害 ︼ q J O t m 一 ↑ 5 0 叫 3 0 加 1 0 0 3 0 か 訓 1 5 1 0 5 訓 加 畑 畑 川 ∽ 畑 釦 の 仙 加 o 畑 9 ・ 旬 o o t p ) p f T t t r ) A O t l P 等 T q e n S S ! 1 約 m 仰 5 0 仙 3 0 加 1 0 0 ( 叫 暮 T P T P n t J J ) J h O t J F N q q 9 n S S ! 1 ( 細 事 t P ! t t l J T t J 1 ) き O t J P W T q J O u n ↑ S 3 2 0 1 8 1 6 1 4 1 2 1 0 8 6
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M c a n a r t e r i a l b l 邑 p r c s s u r e ( m m H g ) T l t T L T -o ∝ J L o o 9 鵬 o o ∝ 帥 o M c a n a r t e r i a l b l o d p r e s s u r e ( n n H g ) ▼ 一 t t ▼ 1 o ∝ 帥 0 9 0 9 0 0 ∝ 帥 0 9 M c a n a r E e r i a l b l o o d p r e s s u r e ( r n m H g ) T l T L l ▼ l T l ' レ ム ア 凸 7 9 O t J L ア ○ ′ g 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
0 60 120 180 240 300 360
Time血r drug a血山地ion (min)
0 60 120 180 240 300 360 Tinc血r drug administration (min)
C.
0 60 120 1 80 240 300 360
mme血drug administradon (nil)
図4. AC7700の腫疹(LY80)組織血流量に及ぼす変化 A, 1 mgkg; B, 3 mgkg; C, 10 mgkg O hに薬剤を投与 Ⅷ 6 0 5 0 4 0 3 0 加 l ( 叫 o o T P T P n t T ) J V L O t l F N q q a n S S ! ↑ 6 0 5 0 0 0 3 0 加 1 0 0 ( 叫 o o T P P n t E ) N L O t l F N n f q 3 n S S ! 1 6 0 5 0 仰 3 0 加 1 0 0 @ o o T 毒 H t D ) A t O t l F N X ) f q O n S S ! L
0 60 120 180 240 300 360 0 60 120 180 240 300 360 Tine血r drug adzmiidndon (叫 Tine血drug a血inisbation (min)
0 60 120 1 80 240 300 360
Time血r drug adminisbdon (a)
図5. AC7700の腫癌(佐藤肺療)組織血流量に及ぼす変化 A, 1 mg/kg; B, 3 mgkg; C, 10 mgnig O hに薬剤を投与 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 8 7 8 7 ′ 0 5 4 3 2 1 1 ( 叫 o o T P P q n t D ) J h O t J P 享 T q O n S S ! L 8 0 m 6 0 5 0 0 0 3 0 加 1 0 0 ( 叫 o o T P P n t U ) J k O t l F K X ) T q 9 n S S ! 1 3 0 訓 1 0 0 0 9 0 8 0 m 仙 5 0 4 0 3 0 加 1 1 1 1 旬 o o T P P n t P ) J h O t T 下 寺 T q 9 n 切 S ! 1
0 60 120 180 240 300 360420 480
Time after drug adminisbdon (mid)
0 60 120 180 240 300 360
Tinc血r drug administration (min)
図6・ AC7700 (10 mg/kg)の肝臓と腎臓の組織血流量に及ぼす変化 A,肝臓; B,腎臓 O hに薬剤を投与 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 一 1 0 9 8 7 ′ 〇 一 ヽ 一 4 3 2 1 1 1 1 ( 叫 o o T P P n t t T ) N L O t l F X X ) T q 9 n S S ! 1 別 加 1 5 0 1 0 0 5 ( 叫 o o T P P n t t T ) N L O t l P 暮 T q g T ] S S ! L
0 60 120 180 240 300 360
Tine after drug administratiozL (min)
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24
Tinc after drug adWtion Ol)
図7. AC7700 (10 mg/kg)の脳の組織血流量に及ぼす変化 A,薬剤投与後6時間までの経過; B, 24時間後の変化 O hに薬剤を投与 0 0 9 0 8 0 m 6 0 5 0 4 0 3 0 加 1 0 0 1 ( 叫 o o T P T q n t t T ) J h O U 勺 等 T q 3 n S ! ↑ 0 0 9 0 8 0 7 0 6 0 5 0 4 0 3 0 加 1 0 0 1 ( 叫 o o T P P n t U ) J V L O t l P O O T q a n S S ! 1
0 60 120 180 240 300 360
Tine after drug administratioJl (min)
0 60 120 180 240 300 360
Tine aRcr drug administration (mid)
図8・ AC7700の骨髄の組織血流量に及ぼす変化 A, 10 mgkg; B, 1 mgkg O hに薬剤を投与 0 0 9 0 8 0 m 6 0 5 0 0 0 3 0 2 0 1 1 ( 叫 o o T P ) P n t t T ) J h O t J t X K ) t q O n S S ! L 4 0 加 0 0 8 0 6 0 4 0 訓 o 1 1 1 ( 叫 o o T P P n t t T ) J V L O t l F X q q O n S S ! L
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0 300 600 900 1200 1500 1800
Time after MW generation (scc)
図11・ MW加温に対する腫癌血流変化の影響 腫癌は㍑80を使用した。 5 mm離れた位置を40-41℃に加温した。 ○, MWのみ(5 mm); ●, MWのみ(10 mm); 口, temocapril + MW (5 mm);∫, temocapril + MW (10 mm); ▽,屠殺+MW(5 mm); ▼,屠殺+ MW(10mm) temocaprilは4・5 mgkgを尾静脈内投与した. 3 6 3 5 3 4 3 3 ( a ) 巴 T t l C J 9 d t E [ O L
0 2 4 6 8 10 12 14 16
Days after tumor iznplaJltadon
図12・ MW加温の腫疹増殖への影響
○, Vehicleのみi・Ⅴ・; △, Vehicle + MW;口, temocapril + MW LY80腫癌移植11日目に治療を行った。 ( c t q 9 ) a t m P A J O t m . ( . 8 ′ 0 4 つ 一 0
SZ o管官立tHtH Ol:?tHtH ;判鴻瑚Q)与tq革労¥
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7壬Y<-o叩A TIT OQQ=19土地堵専妙幽ひ亭箪?懲叩瓜N ・eT図
0 60 120 180 240 300 360
Timc after MW seneration (see)
図14.流量と熟クリアランスの変化 5 mmの位置の温度をMWにより40-41℃に加温した。 ポンプで37℃の水の流量を変化させた。 ○, 0 ml/min (5 mm); ●, 0 ml/min (10 mm); △, 0・03 ml/min (5 mm); ▲, 0・03 ml/min (10 mm); 口, 0,12 ml/min (5 mm); ■, 0,12 ml/min (10 mm) 4 3 4 2 4 1 4 0 3 9 3 8 3 7 3 6 3 5 3 4 3 3 3 2 3 1 3 0 ( 3 . 7 3 J t L T t F J a d t t T a . ) .
0 60 120 1 80 240 300 360
Time after MW gcnaration (scc)
図15.流量と熱クリアランスの変化
5 mmの位置の温度をMWにより40-41℃に加温した。
ポンプで37℃の水の流量を変化させた。
○, 0 ml/min (5 mm); ●, 0 ml/min (10 mm); ▽, 0・5 ml/mim (5 mm); ▼, 0・5 ml/mi凪 (10 mm); ◇, 2・O ml/min (5 mm); ◆, 2・O ml/min (10 mm)
( 3 . J a J t L 7 t u a d t d r a ト 7 ′ 0 5 3 3 3 4 3 3 3
Tissue bloodflow (mi/min/1 00g) Tissue AC7700 n (mgn喝) Time (min) 0 30 60 120 240 360 480 A l 16 3 12 10 12 28.4±18.2 ll.3±9.1C 9.9±8.5C 10.5±9.1C 15.8±10.9C 19.6±13.8b 32.5±14.4 10.1土6,4C 8.4±4.6C 6.4土3.5C 6.7j=3.8C 13.5±8.5C 27.2±14.9 3.6土2.9C 1.6±2.2C o.9±1.OC o.6土0.2C o.5±0.2C
B l 14 3 14 10 18 44.7±30.1 10.0土10.1CIO.8±12.3C 23.1±26.Ob34.4土24.Oa 29.1±21.1b 46.5土26.3 4.5土1.4C 2.6±1.1C 2.5土1.4C 6.5±8.8C 18.3士18.5b 55.2±34.1 8.4土7.3C 6.3±7.3C 5.6±6.3C 4.8±5.2C 4.2±5.3C c 10 IO 84.5土19.6 67.9土27.9a47.0士15.2C45.4土7.7C 41.4±12.2C 48.4±13.1C 79.8±24.1 D 10 IO 144.5±46.5 128.6土38.5 129.9±38.5 143.7土43.7 130.1±55.2 134.6±33.6 E 0 IO 72.1±39.9 81.8土45.6 84.0±42.6 81.4±42.0 79.9±37.0 79.3土38.7 Nomal 1 8 64.4±17.9 35.2±13.4C 34.6±15.8C 67.7±32.3 77.6±33.4 80.5±33.0 10 9 68.9±14.3 32.8±11.9C23.3±12.6C 20.0士8.6C 15.2±9.8C 15.4±11.1C F O 15 54.2±26.9 58.1±30.8 58.2土29.3 54.3士29.6 55.1±31.9 53.1±34.9 3 10 58.0±26.1 42.9±20.9a40.9±15.1a 48.4±25.Oa 48.6±25.4 10 10 61.9土15.6 57.2土13.7 48.9±17.Ob 39.3土14.lb 46.3土17.3a 40.3±13.5b
A, LY80 tumor; B, Su: tumor; C, Liver; D,Kidney cortex; E, BoJle marrow; F, Brain Values, mean±S.D.
Drug or vehicle was iq'ected i.V. at Omim
asignificantly different血om time 0 (p < 0.05)
bsignificantly different from time 0 (P < 0.001)
csigmificantly different from time 0 (P < 0.0001)
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