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薬物相互作用 (11―抗がん剤の薬物相互作用)

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319 はじめに  最近開発されたモノクローナル抗 体や分子標的治療薬は従来の核酸合 成阻害の抗がん剤と比較して,安全 性は向上されている.しかしながら 核酸合成阻害の抗がん剤は現在にお いても化学療法の重要な位置を占め ており,多くのがん患者に使用され ている.このような抗がん剤は,腫 瘍細胞だけではなく,正常細胞にも 影響を及ぼすため,それに起因する 副作用を免れることはほとんどでき ない.  がん患者は,がん以外にも種々の 疾患をもつため抗がん剤とそれらの 疾患に対する薬剤も併用されてい る.ある調査によると,405人のがん 患者のうち,109人(27%)が何らか の相互作用の可能性をもつ薬剤の投 与を受けていたという報告がなされ ている1).特に抗がん剤においては, 治療域と中毒域が狭く,重篤な細胞 毒性を有していることから相互作用 による致死的な副作用の危険性を孕 んでいる.  がん化学療法においては,単剤で の治療効果には限界がある.そこで 薬理作用の異なる抗がん剤を併用す ることによって,治療効果の増強を 図ることが一般的に行われている. 従って,抗がん剤同士の相互作用, ならびに抗がん剤と他剤との相互作 用について熟知しておくことは非常 に重要なことである.そこで本稿で は,現在臨床で使用される主な抗が ん剤の相互作用について概説する. パクリタキセル 1. シスプラチンとの投与順序  シスプラチンとパクリタキセルの 投与順序に対する研究がなされてい る.Rowinsky らによるとシスプラ チン投与後にパクリタキセルを投与 した場合と,その逆のパクリタキセ ルを投与した後シスプラチンを投与 した場合での,好中球の比較を行っ た.その結果,前者で好中球減少が より誘導されることを報告してい る2).これは,パクリタキセルのク リアランスが25%低下することによ ると考えられている(図1).すなわ ち,シスプラチンによりパクリタキ セルのクリアランスが低下し,パク リタキセルの血中濃度が上昇し骨髄 抑制が増強するおそれがあると考え られ,パクリタキセル投与後にシス プラチンを投与するよう添付文書に 記載されている.一方,シスプラチ ンとドセタキセルの投与順序に対す る検討がなされたが,両者に有意な 変化は観察されていない3) 2. ドキソルビシンとの投与順序  乳がんの患者に対してドキソルビ シンとパクリタキセルの投与順序に 対する検討がなされている.パクリ タキセル投与後にドキソルビシンを 投与した場合,ドキソルビシンの最 高血中濃度が,ドキソルビシン投与 後にパクリタキセルを投与された場 合に比べて70%高かったと報告され ている4).すなわちパクリタキセル の先行投与はドキソルビシンの先行 投与に比べ血液障害や粘膜障害が増 強するおそれがある.従って,パク リタキセルとドキソルビシンを併用 する場合にはドキソルビシン投与後 にパクリタキセルを投与するよう添 付文書に記載されている(図2).

薬物相互作用

(11―抗がん剤の薬物相互作用)

松 永   尚,千 堂 年 昭

岡山大学医学部・歯学部附属病院 薬剤部 岡山医学会雑誌 第119巻 January 2008, pp。 319-322 平成19年9月受理 *〒700ン8558 岡山市鹿田町2ン5ン1 電話:086ン235ン7641 FAX:086ン235ン7641 Eンmail:sendou@md。okayama-u。ac。jp ためになる薬の話 0 100 200 300 400 500 PTX→CDDP CDDP→PTX Paclitaxel Clearance (ml/min/m 2) 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 Dose (PTX/CDDP) mg /m2 PTX→CDDP CDDP→PTX

Paclitaxel Clearance rate

(ml/min/m

2 )

110/50 135/50 110/75 135/75 170/75 200/75

図1 投与順序による PTX クリアランスの変化 PTX:Paclitaxel,CDDP:cisplatin

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320 CYP を介した相互作用  CYP は最も重要な薬物代謝酵素 であり,この酵素を介して起きる薬 物相互作用は,臨床上重要なものが 多い.抗がん剤の中にも CYP の中 の一つである CYP3A4 が関与する 薬剤が知られている(表1)5).特に 添付文書に記載があり汎用されてい る抗がん剤としては,シクロホスフ ァミド,イリノテカン,ビンクリス チン,ビノレルビン,ビンデシン, ビンブラスチン,ドセタキセル,パ クリタキセル,タモキシフェン,ト レミフェン,アナストロゾール,レ トロゾール,イマチニブ,ゲフィチ ニブ,などが挙げられる6).またテ ガフールは CYP2A6 によりフルオ ロウラシルに変換される.前述した ように抗がん剤は併用して使用する 場合が多く,体内の CYP3A4 の量 には限りがある.これらの抗がん剤 が併用された場合には,代謝過程に おいて相互作用による副作用の発現 に繋がることも考慮しなければなら ない.  マ ク ロ ラ イ ド 系 抗 生 物 質 は CYP3A4 を阻害することが知られ ており,併用により抗がん剤の血中 濃度が上昇する可能性がある.一方, リファンピシン,カルバマゼピン, フェニトインなどは CYP3A4 を誘 導するため,抗がん剤の代謝や排泄 過程が誘導され,期待する効果が得 られない可能性もある.特にカルバ マゼピンやフェニトインはがん患者 の疼痛コントロールの鎮痛補助剤と して使用され,抗がん剤との併用の 可能性も高い.  抗がん剤投与時に問題となる副作 用の一つである悪心・嘔吐に対して 5ンHT3受容体拮抗薬が併用され, 予防薬として汎用されている.その 中でグラニセトロン,オンダセトロ ン,ラモセトロン,トロピセトロン などは CYP により代謝される.ま た,新しいタイプのアプレピタント は NKン1受容体拮抗薬であるが, CYP3A4 の基質であるため併用さ れる抗がん剤と相互作用を示す可能 性がある.Gilbert らによると,オン ダセトロンとシクロホスファミドの 併用によりシクロホスファミドの AUC の変化,およびオンダセトロ ンの有害事象(頭痛)がコントロー ルに比べて高く認められたことを報 告している7).一方,Miyata らはド セタキセルの体内動態に及ぼすグラ ニセトロンの影響についてアジア人 の肺がん患者を対象に検討してい る8).その結果,ドセタキセルの体 内動態について,単剤と併用群にお いて明らかな有意差は認められない と報告している.すなわち,添付文 書に記載している CYP のデータは in vitro の結果が多く,CYP が関与 するすべての薬剤が影響を受けると は限らない.しかしながら,CYP を 介した薬剤同士の併用には相互作用 を誘導する可能性は否定できず注意 が必要である. イリノテカン  イリノテカンは主に肺癌,子宮頸 癌,卵巣癌,胃癌,大腸癌,乳癌な どに使用される抗腫瘍剤であり,そ の作用機序として,Ⅰ型 DNA トポ イソメラーゼを阻害する制限付時間 依存性の薬剤である.イリノテカン と併用される抗がん剤としては,白 金製剤とフルオロウラシル系薬剤が 知られている.イリノテカンは,主 にカルボキシルエステラーゼにより 活性代謝物(SNン38)に変換される が,一部 CYP3A4 により無毒化さ れる.従って,CYP3A4 阻害剤や誘 導薬によって SNン38の生成が増減 する.一方,CPTン11とフルオロウ ラシルとの併用により,CPTン11の AUC は増加するが,SNン38の AUC は有意に減少することが報告されて 表1 CYP で代謝される主要な抗悪性腫 瘍剤 薬 物 名 CYP 分子腫 シクロフォスファミド 3A4 2A6 2B6 2C8 2C9 イリノテカン 3A4 ビンクリスチン 3A4 ビノレルビン 3A4 ビンデシン 3A4 ビンブラスチン 3A4 ドセタキセル 3A4 パクリタキセル 3A4 2C8 タモキシフェン 3A4 2D6 トレミフェン 3A4 アナストロゾール 3A4 1A2 2C9 レトロゾール 3A4 2A6 イマチニブ 3A4 2D6 ゲフィチニブ 3A4 2C9 0 10 20 30 40 50 60 70 PTX→DOX DOX→PTX Doxorubicin Cmax (ng/ml ) 0 50 100 150 200 250 300 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Patient No Platelet Nadia (×10 3 /サ l) PTX→DOX DOX→PTX 図2 投与順序による Doxorubicin Cmax の変化と血小板の変化 PTX:Paclitaxel,DOX:Doxorubicin

(3)

321 いる9).また,フルオロウラシル系 薬 剤 の TSン 1 と CPTン 11 と の 併 用 も同様な結果が報告されている.  イリノテカンの重篤な副作用とし て下痢が報告され,臨床上大きな問 題となっている.イリノテカン誘発 の遅延性下痢は,胆汁中に排泄され た SNン38グルクロン酸抱合体が腸内 に到達すると,腸内細菌のβングルク ロニダーゼにより加水分解され,再 び活性体の SNン38に変換され,これ が腸管細胞に障害を引き起こし下痢 を発生すると考えられている.半夏 瀉心湯にはグルクロン酸抱合体のバ イカリンが含まれており,これが SN ン38グルクロン酸抱合体の身代わり となって代謝され,その結果加水分 解が阻害され下痢を予防するとされ ている. テガフール・ギメラシル・オテラシ ルカリウム配合カプセル剤(TSン1)  TSン1の対象疾患としては,胃癌, 結腸・直腸癌,頭頸部癌,非小細胞 肺癌,手術不能または再発乳癌,膵 癌に使用されている.TSン1はフル オロウラシル(5ンFU)のプロドラ ッグであるテガフール,5ンFU の解 毒代謝の律速酵素の DPD(ジヒドロ ピリジン・デヒドロゲナーゼ)を抑 制するギメラシル(CDHP),および 消 化 管 組 織 に 分 布 し て orotate phosphoribosyltransferase(OPRT) を選択的に拮抗阻害し,5ンFU から 5ンフルオロヌクレオチドへの生成 を 選 択 的 に 抑 制 す る オ テ ラ シ ル (Oxo)を配合している経口抗悪性 腫瘍薬である.すなわち,CDHP に より5ンFU の代謝を抑制すること から5ンFU の血中濃度を上昇させ, 一方 Oxo により消化管での5ンフル オロヌクレオチドへの活性化を抑制 することで,5ンFU の強い抗腫瘍効 果を損なうことなく消化管毒性が軽 減される薬剤である.  TSン1は CDHP を含有している ため,他のフッ化ピリミジン系抗悪 性腫瘍剤,またはそれらの薬剤との 併用療法(ホリナート・テガフー ル・ウラシル療法(UFTⓇ・ユーゼ ルⓇ)など),あるいは抗真菌剤フル シトシンとの併用により,5ンFU の 異化代謝が阻害され,著しく血中5 ンFU 濃度が上昇する.従って,それ らの薬剤との併用は重篤な血液障害 や下痢,口内炎等の消化管障害等が 発現するおそれがあり,併用禁忌と なっている.また,本剤投与中止後 においても少なくとも7日間以上の 休薬期間を設ける必要があると添付 文書に記載されている.  CDHP は腎排泄型であるため,腎 障 害 時 に は CDHP が 排 泄 さ れ ず DPH 阻害作用が遷延する.そのため 5ンFU の代謝が抑制され,血中5ン FU 濃度が高濃度に維持され,有害 事象が増強する可能性がある(図 3).従って,腎障害時には TSン1 の投与量を減量することが添付文書 に記載されており,血清クレアチニ ン値のモニタリングも必要である. ワルファリン10)  R。 P。 Riechelmann らは405人の がん患者の処方せんを調べたとこ ろ,109人(約27%)の患者に薬物相 互作用が誘導される薬剤が処方され ていたことを報告している1).その 中で最も多かった薬剤は,抗がん剤 とワルファリンの相互作用であっ た.さらに,静脈血栓症を有するが ん患者は,がんでない患者と比較し て抗凝固療法中に再発性血栓塞栓症 および大出血を発症する確率が高い と報告されている11).またワルファ リンは相互作用が起きやすい薬剤で あり,抗がん剤との併用時には特に 注意が必要である. 1. フルオロウラシル系抗がん剤  フルオロウラシル,カペシタビン, フトラフールおよびフルオロウラシ ル系配合剤(UFT®,TSン1)との併 用により,ワルファリンの作用が増 強され,出血症状を呈した症例が報 告されている.特にカペシタビンと の併用においては死亡例も報告され ており9),併用される場合には,血 液凝固能検査を定期的に行うことが 必要である.詳細な機序は不明であ るが,Sンワルファリン(光学異性体 のS体)は CYP2C9 で代謝されるこ とから,カペシタビンが CYP2C9 の 酵素活性を低下していると考えられ ている. 2. ゲフィチニブ,イマチニブ  分子標的治療薬であるゲフィチニ ブ,またはイマチニブの併用により, ワルファリンの作用が増強され, INR が上昇した症例が報告されて いる10).作用機序としてイマチニブ は CYP2C9 を阻害することが知ら れているが,ゲフィチニブについて は不明である. 3. タモキシフェン,トレミフェン  乳がんの治療薬であるタモキシフ ェン,およびトレミフェンとの併用 によりワルファリンの作用が増強し 出血症状を呈した症例が報告されて いる12)  他にもメルカプトプリンやフルタ ミドにもワルファリンとの相互作用 0 10 20 30 40 50 60 70 80≦ Clcr 50≦ Clcr <80 30≦ Clcr <50 Clcr <30 基準値投与 減量投与 (%) クレアチニンクリアランス(ml/min) 添付文書より 図3 TSン1投与時における腎障害時の grade 3以上の副作用発現率

(4)

322 が報告されている.メルカプトプリ ンにおいてはワルファリンの作用を 減弱することが知られており,これ らの薬剤との併用時には血液凝固能 検査の推移を見ながらワルファリン の投与量を決めていくことが必要で ある. おわりに  臨床で繁用されている抗がん剤の 相互作用について概説した.本文で も述べたように抗がん剤は併用され て使用される場合が多く,また使用 される対象患者には高齢者も多い. 1993年,抗ウイルス薬のソリブジン と5ンFU との相互作用により,重篤 な骨髄抑制が誘導され死亡に至る事 件が起きた(ソリブジン事件).この 薬剤は発売当初から添付文書には, 両者の併用を避けることの記載があ ったにも関わらず,不幸な結果をも たらした13,14)  医療従事者,特に薬剤師はこのこ とを肝に銘じ癌化学療法における薬 物間相互作用に対してより一層の注 意を払うとともに,適正な情報の収 集に努めるべきであろう.また抗が ん剤投与中の患者に対しては,症状 の変化や臨床検査値に対して注意深 くモニタリングを行い有害事象の早 期発見に努めなければならない. 文 献 1) Riechelmann RP、 et al。:Potential drug interaction and duplicate prescriptions among cancer patients。 J Natl Cancer Inst (2007) 99,592ン 600.

2) Rowinsky EK、 et al。:Sequences of taxol and cisplatin:a phase I and pharmacologic study。 J Clin Oncol (1991) 9,1692ン1703.

3) Pronk LC、 et al。:Phase I and pharmacologic study of docetaxel and cisplatin in patients with advanced solid tumors。 J Clin Oncol (1997) 15,1071ン1079.

4) Holmes FA、 et al。:Sequence-dependent alteration of doxorubicin pharmacokinetics by paclitaxel in a phase I study of paclitaxel and d o x o r u b i c i n i n p a t i e n t s w i t h metastatic breast cancer。 J Clin Oncol (1996) 14,2713ン2721.

5) 吉村力勇:チトクロームP450(CYP) を介した薬物相互作用と制吐剤―特 に化学療法での薬物相互作用につい て―.医薬の門 (2004) 44(3),50ン55. 6) Baumhakel M、 et al。:Screening for

inhibitory effects of antineoplastic agents on CYP3A4 in human liver microsomes。 Int J Clin Pharmacol

Ther (2001) 39,517ン528.

7) Gilbert CJ、 et al。:Pharmacokinetic interaction between ondansetron and cyclophoshamide during high-dose chemotherapy for breast cancer。 Cancer Chemother Pharmacol (1998) 42(6),497ン503.

8) Miyata M、 et al。:The influence of granisetron on the pharmacokinetics and pharmacodynamics of docetaxel in Asian lung cancer patients。 Cancer J (2006) 12(1),69ン72.

9) Sasaki Y、 et al。:Simultaneous administration of CPTン11 and fluorouracil:alteration of the pharmacokinetics of CPTン11 and SN ン38 in patients with advanced colorectal cancer。 J Natl Cancer Inst (1994) 86,1096ン1098.

10) ワルファリン添付文書

11) Prandoni P、 et al。:Recurrent venous thromboembolism and bleeding complications during anticoagulant treatment in patients with cancer and thrombosis。 Blood (2002) 100,3484ン 3488.

12) Carabino J、 et al。:International normalized ratio fluctuation with warfarin-fluorouracil therapy。 Am J Health Syst Pharm (2002) 59,875. 13) 有吉範高,他:抗がん剤の薬物間相互 作用.薬局 (2004) 55(3),1468ン1480. 14) 水谷佳代,他:癌化学療法領域.臨床

参照

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