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JAIST Repository: 事前標準を前提としたビジネスモデル

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Academic year: 2021

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JAIST Repository

https://dspace.jaist.ac.jp/ Title 事前標準を前提としたビジネスモデル Author(s) 内田, 康郎 Citation 年次学術大会講演要旨集, 25: 256-259 Issue Date 2010-10-09

Type Conference Paper Text version publisher

URL http://hdl.handle.net/10119/9290

Rights

本著作物は研究・技術計画学会の許可のもとに掲載す るものです。This material is posted here with permission of the Japan Society for Science Policy and Research Management.

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1H02

事前標準を前提としたビジネスモデル

○内田康郎(富山大学) 1.はじめに 標準化への戦略的な取り組みが一企業の競争優位のために極めて重要であるという認識はすでに 一般化されたと言えるだろう。近年では標準化をもとにどのように収益化に至らせるかというビジネ スモデルの研究が多くなってきている。 競争戦略の一環として標準化を捉えれば、デファクト標準を目指す戦略が有効とされてきた。それ は、市場での競争の結果.....として標準化が進められるわけであり、標準化までの過程だけでなく標準化 後に展開される市場での競争ルールも基本的に標準策定企業が有利になるように進められたからで ある。要するに、標準化を競争戦略と結びつけるためには、標準化までのプロセスをマネジメントで きるかどうかが重要であり、さらに標準化後の展開もプランニングできるかという点が極めて大きい ということになる。事後標準であるデファクト標準の場合はこの標準化の前後の企業間競争において、 一企業の思惑通りに進めやすいという戦略上の大きな利点があった。 ところが、近年では後述するように業際化が進んでおり、またこれに伴って事前標準化が一般化し てきている。事前標準の場合、標準化づくりに必要なのは競争ではなく、原則として標準策定のため の協議ということになる。換言すれば、標準化までのプロセスにあるのはデファクト標準のような『企 業間競争』ではなく『企業間調整』である。経営学的視点で言うならば、この調整の場におけるマネ ジメント能力が標準策定に重要な意味を持つということにもなる。つまり、事前標準の場合には、標 準化と競争戦略を結びつけるためには、この調整の場において自社の思惑通りに展開されるどうかが 標準化後の収益性に大きな意味を持つようになる。 こうした事前標準の場合、その多くは他社との共同作業を通じて標準を作り込むため、特定企業だ けが大きな利益を得られるような標準はつくれない。そのため、中には知財を収益源に見出す企業も 少なくない。他社と共同で標準化された技術そのものは自社のもとに専有できないため、逆に専有で きる知財による収益化が事前標準にとっては極めて重要となる。 こうしたメーカー間における企業間調整が求められることが、事前標準と事後標準との間に大きな 違いをつくり出し、これにより競争戦略の内容も両者を大きく分けるものとなってきている。 だが、このことに加えて近年では、こうしたメーカー間で行われる調整だけでなく、メーカーとユ ーザーとの間で調整が行われるパターンも見られるようになってきた。本報告が注目しているのは事 前標準の中でもこうしたパターンである。 近年、事前標準の中にはユーザー企業による主導的な標準づくりをするSDO(標準化組織)が見られ るようになってきている。中には、W3C、Bluetooth.SIG、IPTV フォーラム、EPC グローバルなど のように、知財の実施無償許諾を強く求めるSDO も見られる。 この場合、特許を持つベンダー企業にとっては標準化に必要な技術を専有できないため、たとえ普 及したとしても、他社からも同じ技術を備えた製品が出されることも有り得ることになる。つまり、 技術を提供した企業にとってそのことが自社の収益化に貢献するかどうかが不透明となるばかりで なく、知財による収益化も見込めないことを意味するものとなる。換言すれば、技術を開発した企業

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であっても、こうした状況下にあっては、その技術をもとに展開する収益化までのプロセスにおいて 多くの不確実性と向き合わなければならないことになるのである。 本報告では、まずこうしたSDO がみられるようになった背景について整理し、次いで実際にベン ダー企業の持つ知財の無償提供を求めるSDO について紹介する。その内容を通じ、こうした状況が ベンダー企業にとっては何を意味するかという点について報告する予定である。 2.事前標準化への動き 国際標準化を目指す場合、近年ではまず有力なSDO を通じて標準化の作業が進められることが一 般的となってきている。ISO や IEC といった国際標準化機関が認証する際、デファクト標準となっ た規格を事後的に認証することもあるが、国際標準までのプロセスをより確実なものにする上では有 力なSDO が活用されるようになった。後述する RFID の分野では、かつて実際に日立を中心に開発

した技術で国際標準化を目指しISO に提案したところ、この分野で有力な SDO である EPC グロー

バルから出された規格に敗れたというケースがある1)。その後、日立は方向性を見直し、EPC グロー バルのメンバーとして同SDO のルールに則った RFID の開発を続けることとなるのである。今日、 国際標準化を目指す上では、あらかじめ有力なSDO を活用せざるを得ない状況が確認されるように なってきているといえよう2) また、このことに加えて業際化が進展してきていることも、SDO の活用が積極化されることの理 由に挙げることができる。業際化とは、事業領域が業界の枠を超えて拡大することを言うが、これは 近年ユーザーの求める製品やサービスにおいては、その効用が特定の業界においてだけでは完結され にくくなっており、それに応えていくためにはさまざまな業界の企業の持つ技術を連携させながら創 り出していかなくてはならない状況が背景にある。こうした状況を進めているのが機器のデジタル化 やインターネット化に見出せる。 家庭用TV においてソニーが異業種のグーグルと提携したり(インターネット TV)、あるいは自動 車の電子化によって業界を超えた連携が見られるようになった事例などはこのことを示すものと言 えよう。このように、つくり出される製品やサービスの効用範囲が拡大する状況では、標準をつくる 場合においても、さまざまな業界の企業が利用しやすい仕様でなくてはならない状況となってきてい るのである。 このことから、業際化の進展に見合った製品を作る場合には、企業や業界の枠を超えてさまざまな 分野から技術を集める必要があり、当然のことながらそこで開発された技術はさまざまな業界におい ても使える仕様でなくてはならないため、汎用的であることが求められることになる。この使う側の 立場に立つという「ユーザーサイドの視点」が、業際化の中における標準開発には極めて重要なポイ ントとなるのである。 業際化の中で進められる標準開発においては、もう一つ確認すべき重要なポイントがある。それは、 標準化後に実際に普及するかどうかといった不確実性の問題である。本稿冒頭において、デファクト 標準が競争の結果として決まると述べたが、これとは異なりあくまで事前標準の場合には標準化され た時点ではまだ普及されたわけではない。つまり、標準化後に普及するかどうかはまだ標準化された 時点では分からないということが、事後標準との間で決定的に異なるということになる。逆に言えば、 標準化を進めたSDO は、その後普及させなくてはならない使命を帯びることになる。今日、ISO 等 においては、同一技術分野において複数規格を国際標準として認めている、いわゆるマルチスタンダ ード化も見られることもあり、場合によっては当該 SDO で進めた標準化が使われない場合も無いわ 1) この事例について詳細は内田(2008)を参照。 2) 情報通信技術委員会が毎年発行する『フォーラム活動の調査』最新版においてもSDO が増加傾向にあることが報告されている。

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けではない。こうした事態を避けるためにも、将来的に国際標準化を目指すSDO においては普及に 向けての確実性を上げることに注力することになる。そして、実はそのことがSDO における IP ポリ シーにも大きく影響することになる。 メンバーを多く抱える SDO では、外形的には普及に向けて近づくことになる。だが、当該メンバ ーが標準化された規格を利用する義務を負っているわけではない。より多くのメンバーが利用する側 として抵抗の少ない状況を優先すると RF(ロイヤリティフリー)という選択肢が現実味を帯びてく るのである。 このように、業際化の進展の中で標準開発を進める場合には、ユーザーサイドの視点を重視せざる を得ないという現実があることを確認しておかなくてはならないと言えるだろう。以下では、実際の SDO における標準開発プロセスについて、EPC グローバルを例に紹介する。 3.知財の無償実施許諾を求める SDO(EPC グローバルの場合)

EPC グローバルは、RFID(Radio Frequency Identification、無線タグ)の国際標準化を目指す SDO として、2003 年秋に米国に設立された非営利法人である。これまで国際物流システムの国際標準化 を進めるGS1 の傘下として位置づけられていたが、2010 年 4 月には GS1 に統合され、現在は GS1 内部の一機関として活動が続けられている。

RFID 技術で国際標準化を目指す場合、この EPC グローバルを通さずに提案するという方法もあ るが、EPC グローバルは ISO とも密接な関係となっているため、EPC グローバルで標準化された規

格が実質的には国際標準に近づくことを意味することになる。また、同SDO のメンバーになるには、 所定の会費や規則を遵守すれば誰に対しても開かれたものとなっており、現在のメンバー数はおよそ 1,500 社と世界中からの多くの企業によって構成されている3) EPC グローバルにおける標準開発は、主に次のよ うなプロセスを辿ることになる。まず、最初にあるの がディスカッション・グループ(DG)と呼ばれるもの で、すべての標準開発の第一歩がこのDG から始めら れる。興味深いのは、このDG は EPC グローバルの メンバー企業でなくても参加が可能であるという点 だ。ここでは、EPC グローバルに関連する何らかの 技術分野において標準化が必要であると感じた有志 が集まり、EPC グローバルに対する要望をまとめて いくことが目的となる。EPC グローバルに聞いたと ころによれば、その際には技術を持つベンダー企業が 中心となってグループを形成することは認めておら ず、あくまでもユーザー企業による要望であるかどう かが重視されているとのことだった。その理由は、前 述したように広く普及させること目指しているため、 特定の企業に限定されるような狭い範囲でしか利用 されないような技術は除外しているとのことである。 この活動を通じて、要望が具体的なものとなればEPC グローバルの認可のもと、インダストリー・ アクション・グループ(IAG)が組織され、各業界の要求仕様がまとめられていく。その後、その要求 仕様を正式な文書にするのがジョイント・リクワイヤメント・グループ(JRG)、そしてその要求書を 3) ただし、この数値にはメンバーの関連会社や子会社が含まれてないため、これらを含めるとさらに多くの数となる。 Discussion Groups(GS) Industry Action Groups (IAG) Joint Requirement Groups (JRG) Technical Action Groups (TAG) EPCグローバルにおける標準開発プロセス

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もとに実際に標準開発が行われるのがテクニカル・アクション・グループ(TAG)となる。IAG までは メンバーでは無くても活動が認められている。つまり、それだけユーザー側の意向が反映されるよう な仕組みとなっていることがわかる。 実際の標準化づくりに深く関係してくるのが JRG と TAG であるため、これらの作業においては EPC グローバルのメンバーでなくてはならない。ただ、単にメンバーであるということだけでは作業 に加わることはできず、メンバーはさらにEPC グローバルの掲げる IP ポリシーの同意書にサインす ることが義務づけられている4)。この同意書へのサインが無ければこうした活動に参加できないだけ でなく、開発された標準に自社の特許が含まれていたとしても主張できないルールにもなっている。 また、このIP ポリシーで謳われている内容のうち、技術を持つメーカー側にとって重要なのが IPR

に対する規定である。EPC グローバルでは、他の多くの SDO と同様に RAND による IP の運用も認 めてはいるものの、実質的にはロイヤリティフリー(RF)によって IP が提供されることを強く求める ことでも知られている。 実際、EPC グローバル側にヒアリングしたところによれば、これまで RAND 宣言をした企業はわ ずか数社しかないという。そして、これらの企業もすべてその後 RAND 宣言を取り下げたとのこと である。 従って、EPC グローバルにおいて IP ポリシーに同意するということは、特許を持つ企業は標準化 に必要な技術を実質的に無償提供することに同意することと同じ意味を持つ。 以上が EPC グローバルの標準開発に関する考え方であるが、近年このような標準開発までのプロ セス、そしてIP ポリシーが、この EPC グローバルだけではなく、他の有力な SDO においてもみら れるようになってきている。 4.業際標準とビジネスモデル 標準化を競争戦略の一環として捉えた場合、そのビジネスモデルはいくつかのパターンに整理する ことができる。デファクト標準のように、競争の結果として標準化されるタイプであれば、はじめか ら自社の競争戦略としてのシナリオをつくることも可能となる。 その点、事前標準の場合には多少事情が異なってくる。標準を開発するために、他社との共同作業 が必要となるためである。だが、この共同作業も技術を持つ企業による主導的なマネジメントが可能 であれば、ある程度収益化までのシナリオを描くことができるため、その意味ではデファクト標準と 同じように自社の収益に対する効果を予測することも可能となるだろう。 しかしながら、本報告で紹介した事例のような場合、つまり業際化に対応しながらさまざまな業界 の企業との連携が求められ、その上さらにRF が求められるような場合には、どこで儲けていけば良 いかシナリオを描くことが難しい。今後、一層の業際化が進展することが予想される中、標準開発と 収益化の問題は難しい問題を抱えることになる。ここで、こうした標準を『業際標準』と呼ぶことに すれば、業際標準のビジネスモデルについては、これまで議論されてきた標準化のビジネスモデルと は質的に異なる部分も多く含まれるため、そのために今後もさらに深く検討していくべき課題が多く 残されているものと感じられる。 主要参考文献 内田康郎(2008)「コンセンサス標準を活用したビジネスモデル」、新宅純二郎・江藤学編著『コンセンサス標準戦略』 日本経済新聞出版社

Francesca Carrieri , Vihang Errunza and Sergei Sarkissian (2004), “Industry Risk and Market Integration”,

MANAGEMENT SCIENCE, Vol.50, NO.2, pp.207-221.

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