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マイクロ波アシスト磁気記録においてFGL表層に印加されたスピントルク磁界が発振磁界に及ぼす影響

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Academic year: 2021

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(1)

マイクロ波アシスト磁気記録において

FGL

表層に印加されたスピン

トルク磁界が発振磁界に及ぼす影響

古賀

理樹

赤城

文子

a)

吉田

和悦

††

Effects of Spin Torque Field Applied to Surface of FGL on Oscillation Magnetic

Field for Microwave Assisted Magnetic Recording

Riki KOGA

, Fumiko AKAGI

†a)

, and Kazuetsu YOSHIDA

††

あらまし 近年,磁気ディスク装置の高記録密度化のために,磁界発生層 (Field Generation Layer:FGL) とスピン注入層 (Spin Injection Layer:SIL) から構成されるスピントルク発振素子 (Spin Torque Oscillator: STO) を用いたマイクロ波アシスト磁気記録が研究されている.シミュレーションによるこれまでの研究では, SIL から FGL へ注入される偏極スピンによるスピントルク磁界は,FGL 全体に印加されると仮定してきた.し かし,反射のスピントルク効果によるスピントルク磁界は,FGL の界面近傍にしか印加されない可能性がある. 既報告では,安定な発振磁界を得るためのスピントルク磁界は,FGL の膜厚方向の印加深さに反比例することが わかったが,物理的背景の解明には至っていない.本研究では,追加検討としてスピントルク磁界が FGL 表層 に印加された場合について,FGL の磁化と交換スティフネスの関係を明らかにするとともに,FGL とヘッド・ 媒体間の磁気的相互作用を考慮した場合において,安定な発振を得るための,スピントルク磁界,FGL のダンピ ング定数と異方性定数を検討した結果について示す. キーワード マイクロ波アシスト磁気記録,スピントルク発振素子,スピントルク磁界,FGL Landau-Lifshitz-Gilbert 方程式

1.

ま え が き

近年,磁気ディスク記録装置ではテラビット級の 高記録密度化の研究が進められている.しかし,高 記録密度化を阻む問題に,媒体雑音,熱ゆらぎ,記 録ヘッド磁界不足のトリレンマ問題がある.そこで, これらの問題のうち,記録ヘッド磁界不足を解消し, 高記録密度化を図る方法として図1に示すマイクロ 波アシスト磁気記録(Microwave-Assisted Magnetic Recording:MAMR)方式が提案され研究されてい る[1]∼[17].記録時には,図1に示すコイルに電流を 流すことで,単磁極(Shingle Pole Type:SPT)ヘッ

工学院大学大学院工学研究科電気・電子工学専攻,東京都

Graduate School of Electrical Engineering and Electron-ics, Kogakuin University, 1–24–2 Nishisinjuku, Shinjuku-ku, Tokyo, 163–8877 Japan

††工学院大学,東京都

Kogakuin University, 1–24–2 Nishisinjuku, Shinjuku-ku, Tokyo, 163–8877 Japan a) E-mail: [email protected] ドのメインポールから磁界が発生し,それが記録媒体 に印加されることで記録が行われる.これまでの磁 気記録装置は,強く急しゅんな磁界を得るために,リ ターンポール,トレーリングシールド,及び記録媒体 図 1 マイクロ波アシスト磁気記録モデル

(2)

の軟磁性下地層(Soft Under Layer:SUL)を工夫す ることで,記録密度を向上させてきた.記録媒体に関 しては,記録層上部を軟磁性材料,下部を硬磁性材料 とし熱安定性の向上と記録に必要な磁界を低下させ るECC (Exchange-coupled composite)媒体などが 用いられてきた.しかし,前記したように,近年はト リレンマ問題に阻まれて記録密度の向上が鈍化して いる.MAMR方式は,同図に示すように,磁界発生 層(Field Generation Layer:FGL)とスピン注入層

(Spin Injection Layer:SIL)からなるスピントルク発 振素子(Spin Torque Oscillator:STO)をメインポー ルとトレーリングシールドの間に設ける.STOから 高周波の発振磁界を発生させると,媒体磁化のスイッ チング磁界が低下するため,低ヘッド磁界でも記録が 可能となる.したがって,結晶粒が小さく,高い異方 性磁界をもつ媒体が使用可能となり,雑音と熱揺らぎ 問題も解決することができる.STOから高周波の発 振磁界が発生するメカニズムは以下となる.ヘッド磁 界がSTOに印加されるとSILとFGLの磁化は同じ 方向を向く.そこに,FGLからSILに向かって電子 が流れるように注入電流を流すと,SILの磁化と反対 方向にスピン偏極した電子がSILによって反射され る.そのスピン偏極した電子によるスピントルク磁界 によってFGLの磁化が歳差運動を始めるため,高周 波の発振磁界が発生する.したがって,SILからの反 射のスピンによるスピントルク磁界がFGL全体に印 加されるか否かは重要である.これまでは,スピント ルク磁界をFGL全体に印加させてシミュレーション 解析を行ってきた[7], [9].そしてスピントルク磁界を, 次章の式(2)に示すように,FGLの膜厚(d)に反比 例させて求めてきた.しかし,SILで反射した電子は FGLの磁化と逆向きであるため,FGL内部にまで届 かず,スピントルク磁界はFGLの界面近傍にしか印 加されない可能性がある.その場合,式(2)のdは, FGLの膜厚方向に印加されるスピントルク磁界の印 加深さとなるため,発振磁界及び注入電流密度に大き な影響を及ぼすと考えられる.既報告[1]では,FGL 単体のモデル(以後FGL孤立モデルと呼ぶ)を用い て,安定な発振磁界を得るためのスピントルク磁界が FGLの膜厚方向の印加深さに反比例することがわかっ た.本研究では,その追加検討として,スピントルク 磁界がFGL表層に印加された場合のFGLの磁化と 交換スティフネスとの関係を検討するとともに,FGL とヘッド・媒体間の磁気的相互作用を考慮した場合の 発振特性の検討を行った.

2. FGL

孤立モデルの検討

2. 1 シミュレーション手法と計算モデル 図2に,本シミュレーションの計算モデルを,表1に 磁気特性を示す.計算モデルは,図のようにFGLのみ とし,SILは省略した.SILは,例えば1.0 × 106A/m

程度の異方性磁界をもった硬磁性膜を仮定すれば,外 部磁界(Hex)の印加方向(ダウントラック方向:x方 向)に安定して磁化が向くことを確認している[11].す なわち,FGLの静磁界がSILに及ぼす影響は小さい と考えられる.一方,SILの磁化が安定してダウント ラック方向を向いているならば,SILからの静磁界は FGLに作用し,発振周波数を増大させるが,発振磁 界強度及び発振の安定性には影響を与えない[11].す なわち,SILの磁化が安定してダウントラック方向を 向いているならば,FGLの膜厚方向に印加されるス ピントルク磁界の印加深さと発振磁界の関係は相対的 図 2 FGL孤立モデル Fig. 2 FGL stand-alone model.

表 1 FGLの磁気特性

(3)

には変わらないと考えられる.したがって,本研究で はSILを省略しスピントルク磁界は理想的にダウント ラック方向を向いていると仮定した.また,FGLの 異方性定数は1.0 × 103 1.0 × 105J/m3,飽和磁化が 2.0 T程度とすると,安定した発振を得られることを 確認している[13].FGLの大きさは10×30×30 nm3 とし,1辺2.5 nmの立方体セルで離散化した.図にお いてThstは,スピントルク磁界のFGL印加領域(ス ピントルク磁界が印加されるFGLの膜厚方向の深さ と定義)であるが,Thstは2.5 nm (計算セルの最小サ イズ)からFGLの膜厚全領域10.0 nmまで仮定した. 実際のThstは界面の乱れを考慮すると原子数個分の 厚さ程度の可能性もある.そこで,試みにセルサイズ を2.5 nmの半分の1.25 nmとし,Thstが1.25 nm の発振特性を計算した.その結果,Thstが1.25 nmの 場合は,2.5∼10.0 nmの発振特性の外挿予測値に一致 することを確認した.したがって,本検討では,計算 時間との兼合いでセルサイズ2.5 nmを最小Thstとし た.また,同図のHexは外部磁界(800 kA/m固定), Hstはスピントルク磁界である. 磁化挙動は,式(1)で示すLandau-Lifshitz-Gilbert (LLG)方程式を用いて計算した[7].



1 + α2



dM dt =−γM × (Hteff − αHst) − γ MsM × {M × (αHteff +Hst)} (1) M は磁化ベクトル,γはジャイロ磁気定数2.21 × 105 s−1T−1αはダンピング定数,Msは飽和磁化, Hteffは静磁界,交換磁界,異方性磁界及び外部磁界の 和で示される実効磁界ベクトルである.Hstは,STO へ電流を流すことでSILからFGLに注入される偏極 スピンによる磁界ベクトル(スピントルク磁界ベクト ル)である.ただし,上記したようにSILは省略し, 式(2)によってHstを求めた[7] Hst= ηJ 2eMsFdMp (2) MsF はFGLの飽和磁化,はプランク定数を で割った値,Jは注入電流密度,eは電気素量である. スピン分極率ηは0.5とした.dは,これまでの解析 ではFGLの膜厚であったが,本検討ではThstとな る.MpHstの方向ベクトルであるが,SILの磁 化が理想的にダウントラック方向に向いているとして Mp= (1, 0, 0)とした. 発振時間は1 nsとし,磁界の観測面は図1に示すよ 図 3 発振磁界例とサンプリング点

Fig. 3 Example of oscillation magnetic field and sampling points.

図 4 <Hy> と σHy/<Hy> の Thst依存性 (文献 [1] より)

Fig. 4 Thstdependences of<Hy> and σHy/<Hy> of oscillation magnetic field. (reference [1])

うにFGL直下9 nmの領域とした.アシスト記録に有 効なクロストラック方向の発振磁界の例(0∼0.2 nsの み表示)を図3に示す.図の○印で示したピーク値の 磁界の絶対値をサンプリングし,その平均<Hy>と 変動係数σHy/<Hy>,及び周波数fST Oを評価した. 2. 2 スピントルク磁界のFGL印加領域が発振磁 界に及ぼす影響 本節では,スピントルク磁界HstのFGL印加領域 Thstが発振磁界に及ぼす影響について,既報告[1]か ら抜粋した結果を用いて説明する.図4は<Hy>σHy/<Hy>Thst依存性である.Hstは過去の報 告より比較的安定した発振が得られる20 kA/mとし た[12].これよりThstが7.5 nm以上では50 kA/m 程度の磁界強度が得られるが,それ以下になるとThst の減少とともに減少する.また,Thstが7.5 nm以上 では,σHy/<Hy>は10%以下の安定した発振が得ら

(4)

図 5 Thstを変化させた場合のσHy/<Hy> の Hst依 存性 (文献 [1] より)

Fig. 5 Hstdependence ofσHy/<Hy> with changing

Thst. (reference [1])

図 6 Thstと最適Hstの関係 (文献 [1] より) Fig. 6 Relation betweenThstand optimumHst.

(reference [1]) れるが,それ以下ではThstの減少とともに急激に増大 する.これは,外部磁界(800 kA/m)がスピントルク 磁界よりも強いために,FGLの歳差運動が減衰して, 磁化が外部磁界方向を向くためである.そこでThstを パラメータとして,σHy/<Hy>Hst依存性を計算 した.その結果を図5に示す.この図より,Thstを狭 くすると,σHy/<Hy>が最小となるHstは徐々に大 きくなる(図中,右にシフトする)ことが明らかになっ た.そこで各ThstにおいてσHy/<Hy>が最小にな るHstを最適値とすると,Thstと最適Hstの関係は 図6のようになる.これよりThstHstは反比例の 関係にあることがわかった.すなわち,Thstが1/4に なればHstは4倍必要になる.したがって,式(2)よ り,注入電流密度は1.82 × 1012 A/m2 一定となり, Thstに依存しないことが明らかになった.また,図7 図 7 Thstが 2.5 nm と 10 nm における発振磁界の磁界 強度分布の比較

Fig. 7 Comparison of contours of oscillation magnetic fields betweenThsts of 2.5 and 10 nm.

に,Thstが2.5 nm ((a)図)と10.0 nm ((b)図)の場 合において,最適Hstを印加したときの発振磁界の磁 界強度分布(コンター図)を示す.これより,両磁界強 度分布ともFGL中心からx方向に±5 nmy方向に ±7.5 nmの範囲において磁界強度が強く,ほぼ同じ磁 界強度分布が得られたと言える.以上より,印加領域 Thstがいずれの場合においてもHstを最適化するこ とにより,同程度の発振磁界の磁界強度分布が得られ ることを確認した. 2. 3 交換スティフネスが発振磁界に及ぼす影響 前節より,Thstが狭くなっても,スピントルク磁界 Hstを強くすることで安定した発振磁界が得られ,変 わらない磁界強度分布が得られた理由は,膜厚方向の 強い粒間交換相互作用のためと推測される.本節では, FGL面内(y-z面)の交換スティフネスは十分強く働い ている(2× 10−11J/m)という条件のもと,膜厚方向

(5)

図 8 磁化サンプリング領域 Fig. 8 Magnetization sampling regions.

図 9 交換スティフネスが 0 における A 及び B 領域の y 方向の磁化の比較

Fig. 9 Comparison of time evolutions ofy-component of magnetization between A and B regions for exchange stiffness constant of 0.

図 10 交換スティフネスが 2.0 × 10−11J/mにおける A 及び B 領域の y 方向の磁化の比較

Fig. 10 Comparison of time evolutions ofy-component of magnetization between A and B regions for exchange stiffness constant of 2.0×10−11J/m.

の交換スティフネスと発振磁界の関係を明らかにする 目的で検討した結果を示す.Thstは2.5 nm,Hstは 前節より最適な磁界60 kA/mとし,図8に示すHst 印加領域(A領域)と印加領域から最も離れている領 域(B領域)について,FGLのクロストラック方向の 磁化(My)の時間変化を比較した.図9は,膜厚方向 (x方向)の交換スティフネスが0の場合おけるA領 域((a)図)とB領域((b)図)の比較,図10は交換ス ティフネスが2.0 × 10−11 J/mの場合の同比較であ る.ここで,膜面(y-z面)における交換スティフネス は2.0 × 10−11J/mとした.図9より,交換スティフ ネスが0の場合,Hstを印加しているA領域のみ磁化 の歳差運動がみられ,磁界を印加していないB領域は

(6)

ほとんど発振をしていないことがわかる.一方,交換 スティフネスを2.0 × 10−11 J/mとした場合,図10 より磁化はA領域B領域ともに位相差がほぼなく安 定した歳差運動をしている.以上の結果から,FGL表 層にHstを印加した場合,表層の磁化の歳差運動は, 膜厚方向の強い交換磁界によって,FGL全体に伝搬 するため,安定した発振磁界が得られると考えられる.

3.

ヘッド・媒体統合モデルの検討

3. 1 シミュレーション手法と計算モデル 前章では,FGLのみをシミュレーションするFGL 孤立モデルを用いた.実際にはFGLの磁化挙動は記 録ヘッドや媒体間との磁気的相互作用を無視できず, これらを考慮して検討すべきである.すなわち,記録 ヘッドに隣接してFGLを設け,更に媒体を記録ヘッ ド下に配置した計算モデル(これを統合モデルと呼ぶ) におけるシミュレーションが必要である.本章では, このヘッド・媒体統合モデルを用いてスピントルク磁 界のFGL印加領域Thstが2.5 nmにおける発振磁界 について検討した結果を示す.図11に計算モデルの 概略図をx-z断面図とy-z断面図(メインポールのみ) を示す.また,表2,3にそれぞれヘッドと媒体の磁 気特性を示す.SULの容易軸方向はy軸を長軸とし た以下に示す回転だ円体で分布させている. x2+ z2 a2 + y2 b2 = 1 (3) ここで,aは短軸径,bは長軸径である.FGLのサイ ズと磁気特性は孤立モデルと同じとした.トレーリング シールドとリターンポールの幅はそれぞれ540 nmと 1000 nmとした.記録層はECC媒体を用い,中間層 を挟んでSULを配置した.記録密度は,1.075 Tbpsi (トラック幅= 30 nm,ビット長= 20 nm)とし,ヘッ ド・媒体間の相対速度は20 m/secとした.FGL,ヘッ ド及び媒体(ECC媒体とSUL)の磁化挙動は前章と 同様にLLG方程式を用いて解いた.ただし,全ての モデルを一体で解くとメモリと計算時間が膨大になる ため,計算はFGL,ヘッド,媒体に分けて行うが,そ れぞれの磁気的相互作用を計算に取り込む工夫を行っ た.詳細は参考文献[7]を参照されたい.SPTヘッド 及び記録媒体は1辺10 nm,FGLは孤立モデルと同 様に2.5 nmの立方体セルで離散化した. 発振磁界の計算は,図12の電流波形に示すように, 電流の立ち上がり時間を0.2 nsとして1 ns間マイナ スの電流を流した後,電流を反転させて1 ns間プラス 図 11 計算モデルの断面概略図 (単位: nm) Fig. 11 Schematic illustration of cross sectional view

of calculation model (unit: nm).

表 2 ヘッドの磁気特性

Table 2 Magnetic characteristics of head.

表 3 ECC媒体と SUL の磁気特性 Table 3 Magnetic characteristics of ECC medium

and SUL.

図 12 発振磁界及び電流波形とサンプリング点 Fig. 12 Example of sampling points and coil current.

(7)

図 13 ヘッド・媒体統合モデルにおける発振磁界のx 成分

Hxy 成分 Hyの時間変化 (Hst= 60 kA/m) Fig. 13 Time evolutions of x-component Hx and

y-component Hy of oscillation magnetic field for head-medium integrated calculation model (Hst= 60 kA/m).

図 14 <Hy> と σHy/<Hy> の Hst依存性 Fig. 14 Hstdependence of<Hy> and σHy/<Hy>.

の電流を流した.発振磁界は,前章と同様に,FGL直 下9 nmに観測面を設け,アシスト記録に有効な発振 磁界のクロストラック方向成分の平均値<Hy>と変 動係数σHy/<Hy>を用いた.同図に発振磁界の一例 を示す.発振磁界は図から明らかなように,電流の反 転時に波形が乱れ,完全な周期関数とならない.そこ で図の○印で示した0.5 ns–1.0 ns及び1.5 ns–2.0 ns 間の振幅値をサンプリングした. 図13に,Thstが2.5 nmにおける発振磁界のx成 分Hxy成分Hyの時間変化を示す.ここで,Hst は前章の結果から,最適値60 kA/mを用いた.これ より,Hyは激しく減衰しHx成分が強くなった.これ は,FGLの磁化が,メインポールとトレーリングシー ルドのギャップ空間に漏れるヘッド磁界(以後,単に 図 15 ダンピング定数 0.05 における<Hy> と σHy/ <Hy> の Hst依存性

Fig. 15 Hstdependence of<Hy> and σHy/<Hy> for damping constant of 0.05.

ヘッド磁界と呼ぶ)方向に時間とともに向くことを意 味する.この原因は,ヘッド磁界がHstより強いため, Hstによるトルクが十分働かなかったためと考えられ る.したがって,Hstを100 kA/mから190 kA/mま で増加させた.図14に<Hy>σHy/<Hy>Hst 依存性を示す.図より,<Hy>σHy/<Hy>ともに Hstに対して非常に不安定な値を示した.既研究[10] から,ダンピング定数を0.05にすると,安定した発 振磁界が得られるという知見を得ている.そこで,ダ ンピング定数を0.05とした場合の発振状態について 検討した.図15にダンピング定数を0.05とした場 合の<Hy>σHy/<Hy>Hst依存性を示す.こ れより,Hstを増加させることで<Hy>が増大し, σHy/<Hy>が低下することがわかった.しかし,最 もσHy/<Hy>が低くなる最適Hstは孤立モデルの3 倍高い180 kA/mのときである.孤立モデルよりも3 倍高いHstが必要な理由は,FGLとヘッド・媒体間の 磁気的相互作用が関与していると考えられるが,詳細 な検討は今後の課題である.しかし,Hstを180 kA/m まで高くしても,σHy/<Hy>は20%と高く,安定な 発振とはいえない.したがって,σHy/<Hy>を低減 させることを目的に,Hstは180 kA/m一定の条件 で,FGLの異方性定数を変えて発振磁界を検討した. その結果を図16に示す.この結果より,異方性定数を 5.0 × 105J/m3から2.0 × 105∼3.0 × 105J/m3の範囲 に低減させることでσHy/<Hy>を20%から12%程 度に低減でき,安定した発振が得られた.これは,異 方性定数を低減することでスイッチング磁界が下がり, 磁化が歳差運動しやすくなったためである.このとき,

(8)

図 16 <Hy> と σHy/<Hy> のの異方性定数依存性 (Hst= 180 kA/m)

Fig. 16 Anisotropy constant dependence of<Hy> andσHy/<Hy> (Hst= 180 kA/m).

図 17 Ku = 3.0 × 105J/m3における発振磁界Hyの時 間変化

Fig. 17 Time evolutions ofy-component of AC-filed forKuof 3.0 × 105J/m3. <Hy>は45 kA/m,fST Oは16 GHzとなった.こ こで,異方性定数Ku= 3.0 × 105 J/m3発振磁界の 時間変化を図17に示す.以上より,FGLとヘッド及 び媒体間の磁気的相互作用を考慮した場合,Hstは孤 立モデルの3倍必要であり,すなわち注入電流密度は 5.46 × 1012 A/m2 となることが明らかになった.し たがって,注入電流密度を下げるための検討が今後必 要になる.また,FGLのダンピング定数は0.05,異 方性定数は2.0 × 105から 3.0 × 105 J/m3 程度にす べきであることも明らかになった. ただし,本検討では,ヘッドと媒体間の磁気的相互 作用の影響を分離した検討を行えなかった.これに関 しても今後の課題としたい.

4.

む す び

マイクロ波アシスト磁気記録において,スピントル ク磁界がFGL表層のみに印加された場合の発振特性 を検討し,以下の結論が得られた. (1)スピントルク磁界Hstを最適化することで,FGL 全体に印加された場合と同程度の発振磁界の磁界強度 分布が得られる. (2)最適なHstにおいて,安定した発振磁界が得られ る理由は,膜厚方向の強い交換スティフネスにより FGL全体に歳差運動が伝搬するためである. (3) FGLとヘッド及び媒体間の磁気的相互作用考慮し た場合,Hstは180 kA/m,ダンピング定数は0.05, 異方性定数は2.0 × 105から 3.0 × 105 J/m3の条件 で安定な発振磁界が得られる.ただし,注入電流密度 は5.46 × 1012A/m2と高く,今後検討を要する. 謝辞 本研究の一部は,情報ストレージ研究推進機 構(ASRC)の助成を受けて行った. 文 献 [1] 古賀理樹,赤城文子,吉田和悦,“マイクロ波アシスト磁 気記録におけるスピントルク磁界の FGL 印加領域の検 討,”信学論(C),vol.J99-C, no.10, pp.476–482, Oct. 2016.

[2] Y. Tang and J.-G. Zhu, “Narrow Track Confinement by AC Field Generation Layer in Microwave-Assisted Magnetic Recording,” IEEE Trans. Magn., vol.44, no.11, pp.3376–3379, Nov. 2008.

[3] M. Shiimoto, M. Igarashi, M. Sugiyama, Y. Nishida, and I. Tagawa, “Effect of effective field distribution on recording performance in microwave assisted mag-netic recording,” IEEE Trans. Magn., vol.49, no.7, pp.3636–3639, July 2013.

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[5] M. Igarashi, K. Watanabe, Y. Hirayama, and Y. Shiroishi, “Feasibility of Bit Patterned Mag-netic Recording With Microwave Assistance Over 5 Tbitps,” IEEE Trans. Magn., vol.48, no.11, pp.3284– 3287, Nov. 2012.

[6] M. Igarashi, Y. Suzuki, and Y. Sato, “Oscillation fea-ture of planar spin-torque oscillator for microwave-assisted magnetic recording,” IEEE Trans. Magn., vol.46, no.10, pp.3738–3741, Oct. 2013.

[7] S. Asaka, T. Hashimoto, K. Yoshida, and Y. Kanai, “Effect of Magnetostatic Interactions between the Spin-Torque Oscillator and the SPT Writer on the Oscillation Characteristics of the Spin-Torque

(9)

Os-cillator,” IEICE Trans. Electron., vol.E96-C, no.12, pp.1484–1489, Dec. 2013.

[8] 松原正人,椎本正人,長坂恵一,西田靖孝,田河育也,城石 芳博,“マイクロ波アシスト磁気記録用スピントルクオシ レータの実現可能性,”信学技報,MR2011-11, 2011. [9] K. Yoshida, “Influences of magnetic interactions

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[10] 古賀理樹,赤城文子,吉田和悦,“マイクロ波アシスト磁 気記録におけるヘッド・媒体系のダンピング定数及びスピ ントルク磁界が STO の発振特性に及ぼす影響,”信学論 (C),vol.J98-C, no.6, pp.138–143, June 2015. [11] 川上祐司,赤城文子,吉田和悦,古賀理樹,“マイクロ波 アシスト磁気記録におけるスピン注入層が発振磁界に及ぼ す影響,” 2016信学総大,C-7-1, March 2016. [12] 高橋達明,石川勇磨,吉田和悦,金井 靖,“垂直磁化膜 を発振層に用いたマイクロ波発振素子の研究,”信学技報, MR2010-21, 2010. [13] 朝香壮太,高橋達明,吉田和悦,金井 靖,“マイクロ波 発振層の磁気異方性が発振特性に与える影響,”信学技報, MR2011-8, 2011.

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表 1 FGL の磁気特性
図 4 &lt;H y &gt; と σH y / &lt;H y &gt; の T hst 依存性 (文献 [1]
図 5 T hst を変化させた場合の σH y /&lt;H y &gt; の H st 依 存性 (文献 [1] より)
Fig. 9 Comparison of time evolutions of y-component of magnetization between A and B regions for exchange stiffness constant of 0.
+4

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