九州大学学術情報リポジトリ Kyushu University Institutional Repository 動 静脈血管モデルシミュレーターにおける PCI カテーテル操作のシミュレーション 廣浦, 学 出版情報 : 九州大学,

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

動・静脈血管モデルシミュレーターにおけるPCIカ

テーテル操作のシミュレーション

廣浦, 学

https://doi.org/10.15017/4060081

出版情報:九州大学, 2019, 博士(学術), 課程博士 バージョン: 権利関係:

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動・静脈血管モデルシミュレーターにおける

PCI カテーテル操作のシミュレーション

九州大学大学院 歯学府

口腔顎顔面病態学講座

歯科麻酔学分野

廣浦学

指導:横山 武志 教授

九州大学大学院 歯学研究院

口腔顎顔面病態学講座

歯科麻酔学分野

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目 次 学会報告 ・・・・ⅰ 発表論文 ・・・・ⅱ 1.要 旨 ・・・・1 2.緒 言 ・・・・2 3.実験方法 (1) 3D 心臓モデル(左心を中心にしたモデル)の製作 ・・・・3 (2) カテーテル挿入荷重値と模擬液温度の関係 ・・・・4 (3) 動静脈循環シミュレーターの作製 ・・・・5 (4) 血行動態再現と冠動脈造影のシミュレーション ・・・・6 (5) 造影剤の中和除去法の開発 ・・・・7 (6) 5種類のカテーテル操作のシミュレーション ・・・・8 (6-1)ガイディングカテーテル操作のシミュレーション ・・・・8 (6-2)DCA カテーテル操作のシミュレーション ・・・・8 (6-3)NSE ALPHA バルーンのカテーテル操作のシミュレーション ・・・・9 (6-4) Vival stentTMの操作シミュレーション ・・・・9 (6-5)RebirthTM血栓吸引カテーテルの操作シミュレーション ・・・・9 4. 結果 (1) 3D 心臓モデル(左心を中心にしたモデル)の製作の結果 ・・・・11 (2) カテーテル挿入荷重値と模擬液温度との関係の結果 ・・・・14 (3) 動静脈循環シミュレーターの作製の結果 ・・・・16 (4) 血行動態再現と冠動脈造影のシミュレーションの結果 ・・・・19 (5) 造影剤の中和除去法の開発の結果 ・・・・21 (6) 5種類のカテーテル操作のシミュレーションの結果 ・・・・22 (6-1)ガイディングカテーテル操作のシミュレーションの結果 ・・・・22 (6-2)DCA のカテーテル操作のシミュレーションの結果 ・・・・23 (6-3)NSE ALPHA バルーンのカテーテル操作のシミュレーションの結果・・・・24 (6-4) Vival stentTM留置の操作シミュレーションの結果 ・・・・25 (6-5)RebirthTM血栓吸引カテーテルの操作シミュレーションの結果 ・・・・26 5.考察 ・・・・27 6.結論 ・・・・30 7.謝 辞 ・・・・31 8.参考文献 ・・・・32

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i 学会報告 本研究一部は下記の学会で発表した。 「循環型透析シミュレーターにおける穿刺およびカテーテル操作の再現性について」 廣浦学、廣田徹、富永佑太、向井純平、正木涼子、直木洋介、川口晃、増田利明 日本バイオレオロジー学会誌(B&R)(0913-4778)32 巻2号 page93 (2018.06)

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ii 発表論文 本論文の一部は下記の学術雑誌に掲載された。

Construction of arteriovenous circulation system to gain of

the close feeling to insert a catheter into human vessel

Manabu Hiroura

1,3

, Tooru Hirota

2,*

, Jumpei Mukai

1

, Ryoko Masaki

1

, Yosuke

Naoki

1

, Yuta Tominaga

1

, Hiroshi Date

2

, Takeshi Yokoyama

3

1 Institute for Medical Practice, Nipro corporation, 3023 Nojicho, Kusatsu, Shiga, Japan

2 Goodman Medical Innovation Center, Goodman Co., Ltd, 277-1 Idogane-cho, Seto, Aichi, Japan 3 Department of Anesthesiology, Faculty of Dentistry, Kyushu University, Japan

J Biorheol (2018) 32(2):56–64 DOI 10.17106/jbr.32.56

Received: 25 March 2018 / Accepted: 12 July 2018 © Japanese Society of Biorheology 2018

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1.要旨

近年、社会の高齢化に伴い循環器疾患を有する患者が増加している。それに伴い治療薬や治療 方法の進歩も著しい。特に、冠状動脈血管内治療は広く普及し、様々なデバイスが開発されてい る。しかし、医療者が技術を習得するためのシミュレーションシステムでは実際の臨床と近い状 態が再現できているとは言い難い。本研究では、医療従事者の理解を深めかつ技術を向上させる ために、冠状動脈血管内治療に対するカテーテル操作のシミュレーションやデバイス評価を可 能とする補助循環心臓ポンプを駆動機とした動静脈循環型シミュレーターの開発を目的とした。 はじめに CT 画像から 3D モデルを作製しヒトの正常心臓の左心中心の心臓モデルと模擬血 液を開発した。さらに冠動脈内でのカテーテルの挿入荷重値と溶液温度(溶液粘度)との関係を 検討した。その結果、溶液粘度が低い(溶液温度が高いとき)場合、カテーテルの挿入荷重値が 低くなることが示され、25~37℃が最適であることが示唆された。続いて、市販の血管モデルを 利用して動静脈循環型シミュレーターを作製し、補助循環心臓ポンプと末梢血管抵抗再現装置 を繋げることで血行動態を再現することができた。また、この動静脈循環型シミュレーターを用 いて血管造影のシミュレーションも可能であった。このとき、造影剤の蓄積による透視時の模擬 血液の黒色化を軽減するために、イオン性造影剤の中和除去方法も開発した。作製した動静脈循 環型シミュレーターにおいて、DCA カテーテル、バルーンカテーテル、ステントデリバリーシ ステム、血栓吸引カテーテルの操作シミュレーションも可能であることが明確になった。また医 療従事者(循環器内科専門医3名)によるカテーテルの挿入感覚の評価では、ヒト血管内でのカ テーテル挿入感に近い感覚を再現できているという意見が得られた。

今後、この動静脈循環型シミュレーターを用いた医療従事者の off the job training やカテーテ ル開発者の評価系として使用できることが示唆された。

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2.緒言

現在、高齢化に伴って循環器疾患を有する患者が増えている。特に虚血性心疾患は、動脈硬化 症が主な原因で血管の内側が狭窄して心筋への血液の供給が減少し、血流が途絶える疾患であ る。心筋が必要とする酸素需要量と動脈血からの酸素供給量のバランスが崩れ虚血状態となる ために心筋は酸素不足となり、適切な治療が行われないと、生命予後に関わる。そのような背 景から、冠状動脈血管内治療が広く普及し、血管内治療目的に冠動脈まで挿入するカテーテル などの様々なデバイスが開発されている。しかし、血管内治療の技術は簡単に習得できるもの ではない。実際に穿刺行為によって人体に障害を伴う事例報告があり、少なからずリスクが存 在している。現在では患者の権利意識の高まりなどから医療関係者養成学校での穿刺訓練の実 施は困難であり、また学生同士での相互訓練も同様に難しい状況になりつつある。そのため、 十分な冠状動脈血管内治療の技術の習得がより難しくなっている。人ではなく動物を対象とし て技術を磨くこともできるが、動物愛護の観点から、それも難しい状況である。このような問 題を解決するにはシミュレーションシステムでのトレーニングが有効である。しかし、現行の シミュレーターで実際の臨床に近い状態が再現できているとは言い難い。そのため実際の臨床 の感覚に近いシミュレーターの開発が求められている。本研究では、より臨床の手技に即した 穿刺モデルを併用出来る動静脈循環型シミュレーターの開発を試みた。実際には、血管内治療 のトレーニングに有用であることを第一に、実際の臨床と比べて違和感が少ない人体を模擬し たシミュレーターの作製を目指した。実際の皮膚・血管への穿刺に加えて、臨床の感覚に近い カテーテルの操作感を再現することを念頭に置き、循環・腕型の透析シミュレーターと模擬血 液を開発し、血圧再現、穿刺、透析機器接続、バルーンカテーテル操作のシミュレーションが できることを目指した。 一般にカテーテルは胸腔内や腹腔内などの体腔、消化管や尿管などの管腔部もしくは動脈・静 脈血管内などに挿入し、体液の排出、薬剤・薬液や造影剤などの注入点滴等に用いられる。治療 や手技用途によりカテーテルの太さや材質は様々である。出来るだけ人体に近づけることを目 指し、現状の問題点について呈示し、それらを解決しながら研究を進めた。

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3.実験方法

(1)3D 心臓モデル(左心中心の心臓モデル)の作製 初めに、心臓の冠動脈内へのカテーテル挿入における荷重値と温度との関係を明らかにするた めに、テストモデルとして左心中心の心臓モデルの作製を試みた(表1)。健康成人の心臓に東 芝メディカル社 X 線 CT 装置を用いて撮影した。この CT 画像を基に 3D CT モデルを作成し、 心臓モデルの原型とした。さらに、得られた 3D CT モデルから左心部分を分割し、クロスメデ ィカル社に依頼し真空注型法で、3D プリンター(光造形)を用いシリコーン製の鋳型を製作した。 そしてこれにポリウレタン樹脂を流し込み、心臓モデルを作製することにした。 樹脂製の心臓・血管モデル内のカテーテルの挿入において、これまでは摩擦抵抗が大きいとい う問題があった。そこでより円滑なカテーテル操作のシミュレーションを可能にするために、カ テーテルの滑り性と液粘性を付与するための模擬血液を開発した。 表1:3D 心臓モデル(左心中心のモデル)の作製と模擬血液の開発 (本体装置) ・X線CT装置 全身用 X 線 CT Asteion TM 型式: 128 列 東芝メディカル (3D 心臓モデル) ・ニプロ向け心臓、大動脈(材質:ポリウレタン、株式会社 クロスメディカル(CrossMedical, Inc.) ・水槽(材質:市販用アクリル板盤で作成) ・連結チューブ(材質:市販塩化ビニル状の筒型 12mmφ) (模擬血液) ・水槽内はグリセリンと潤滑剤を混合した模擬血液で満たした。有効性成分と濃度は以下のとお りである。模擬血液の粘度は粘度測定装置で測定した。

(MARS Ⅲ Rheometer, Thermo Fisher Scientific) ①0.05 mM トリメチルステアリルアンモニウムクロリド (グレード:表記なし、メーカー:ワコーケミカル、製品コード:323-27722, 容量:25g) ②0.05 mM テトラデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩 (グレード:生化学用、メーカー:東京化成、製品コード:T2653, 容量:25g) ③0.05 mM ツイーン 20 (グレード:1級、メーカー:米山薬品(他メーカーの代替も可)、 容量:500ml) ④0.61 % (W/W) 塩化マグネシウム (グレード:1級、メーカー:和光純薬、製品コード:132-00175, 容量:500g) ⑤20% (W/W) グリセリン (グレード:1級、メーカー:米山薬品(他メーカーの代替も可)、 容量:22kg)

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4 (2)カテーテル挿入荷重値と模擬血液温度の関係 動静脈循環型のシミュレーター(AVCS)において、実際のカテーテル操作感覚に近いシミュ レーションを行うためには、カテーテルと血管モデル基材との摩擦抵抗を低減する必要がある。 作製した左心冠動脈走行の心臓モデルを潤滑液に浸漬した後、液中温度を自動温度調節器で 15, 20, 22, 25, 30, 35, 37℃に変化させた。このときのバルーンカテーテル(NSE alpha, φ2.25 x 13 mm, グッドマン) の左主冠動脈内での挿入荷重値を測定した。大腿動脈穿刺経由で左冠動 脈入口部にガイディングカテーテル(Profit-plus, JL-7Fr, Goodman)を固定した。続いて、左主 冠動脈内へバルーンカテーテルを挿入し、冠動脈入口部から主冠動脈末端側へ 7cm 進めるまで の挿入荷重値を測定した。入口部から主冠動脈末端までの距離は 14.7cm であり、奥に進むにつ れて血管径が 1mm まで細くなるため、カテーテルの挿入長は 7cm に設定した。 表 2:測定に用いたデバイス ・ガイドワイヤー(SionBlue, 0.014ich, 朝日インテック) ・ガイディングカテーテル(Profit, 7Fr, JL, グッドマン) ・バルーンカテーテル(NSE ALPHA, φ2.25x13mm, グッドマン) ・インデフレーター(グッドマン社製) (荷重測定装置)

・荷重測定装置(Load measurement equipment, Machine solutions company) (模擬血液)

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5 (3)動静脈循環型シミュレーターの作製 血管内治療のカテーテルアプローチとして市販の血管モデルを利用し大腿動脈または橈骨動 脈・上腕動脈を経由する動静脈循環システム(AVCS)の作製を試みた。このシステムは、心臓 モデル(ニプロ-グッドマン)、動脈静脈モデル(ニプロ-グッドマン)、末梢血管抵抗調整装置・ 模擬血液タンク(ニプロ)、循環ポンプ(VAD, ニプロ)、血流制御プログラム(ニプロ)で構成 するようにした(表3)。 AVCS において、温度調節により血液の粘性に近づけた模擬血液を循環ポンプで循環させる ことで血行動態の再現シミュレーションを行った。このとき、末梢血管抵抗の圧格差の再現は、 末梢血管抵抗調整装置を用いて、動脈に送液される血圧を末梢側で各圧力を分散させることで 再現した。心拍数を 60 回/分に設定し、血圧計測機(Bedside Monitor BSR-6000, Japan Photoelectric)と血圧トランスデューサ―(圧力モニタリング用チューブセット, 51-001 Logical MX9604J, Nipro)を用いて模擬血圧を測定した。 表3:動静脈循環型シミュレーターの作製 (心臓・血管モデル) ・心臓モデル ニプロ仕様(材質:ポリウレタン、クロスメディカル社製) ・血管モデル ニプロ仕様(材質:シリコーン、ジャストメディカルコーポレーション社製) ・疑似肺(材質:塩化ビニル製 ニプロ社製自作機) ・ハイブリッド弾性瞬間接着剤 (東亜合成社製) (圧格差調整器) ・圧格差調整器(詳細は社外秘、ニプロ社自作機) (循環ポンプとコンプレッサー、ポンプ制御プログラム) ・VAD 補助人工心臓(詳細は社外秘、ニプロ社製) ・コンプレッサー(ニプロ社試作機) ・ポンプ制御プログラム(詳細は社外秘、ニプロ社製自作機)

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6 (4)血行動態再現と冠動脈造影のシミュレーション(血圧測定装置) (3)で作製した AVCS において、血液の粘性に近づけた模擬血液を循環ポンプで循環させ ることで血行動態の再現シミュレーションを行った。このとき、末梢血管抵抗の圧格差の再現は、 末梢血管抵抗調整装置を用い、動脈に送液される血圧を末梢側で各圧力を分散させることで圧 格差を再現した(表4)。

補助人工心臓の心拍数を 60 回/分に設定し、血圧計測機(Bedside Monitor BSR-6000, Japan Photoelectric)と血圧トランスデューサ―(圧力モニタリング用チューブセット, 51-001 Logical MX9604J, ニプロ社製)を用いて疑似血圧を測定した(表4)。 続いて、AVCS における血管造影のシミュレーションを行うために、模擬血液を循環させ、血 圧を 120 / 80 mmHg に設定した。血管挿入用シース(7Fr, グッドマン)を大腿動脈へ挿入し、 続いてガイドワイヤー(0.035 inch, グッドマン)とガイディングカテーテル(7Fr, ProfitJL / -JR, グッドマン)を用いて、左冠動脈あるいは右冠動脈入口部へ Profit-JL / -JR を固定する。 Profit へYコネクター(グッドマン社製)を装着させた後、イオン性造影剤(Hexabrix, Guerbet LLC)を用いて左冠動脈及び右冠動脈の造影を行うように計画した。 表4:血行動態再現と血管造影に用いた機器 (血圧測定機器) ・トランスデューサ―(圧力モニタリング用チューブセット, 51-001 Logical MX9604J, ニプロ) ・血圧モニター:生体監視モニター MU-671R ベットサイドモニター BLM6000(日本光電) (造影剤とカテーテル) ・イオン性造影剤(Hexabrix, Guerbet LLC) ・ガイディングカテーテル(Profit, 7Fr, JL/JR, グッドマン) (シネアンギオ装置) ・X 線循環器診断システム:シネアンギオ装置(INFX-8000C/N1 東芝メディカル株式会社) (模擬血液) ・グリセリンと潤滑剤を混合した模擬血液(グッドマン・ニプロ)

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7 (5)造影剤の中和除去法の開発

シミュレーションを実施しながら造影剤を用いて透視を繰り返すと、AVCS の循環模擬血液中 での造影剤の蓄積によって透視時に模擬血液が黒色化する。そのため、カテーテルデバイスの X 線透視に影響を及ぼす可能性が懸念された。そこでイオン性造影の中和・除去法を検討した。

イオン性造影剤(Hexabrix, Serial No.15HJ031, Guerbet LLC)の希釈溶液(×1, ×5, ×10 希 釈)を調製し、それぞれの希釈溶液の造影性を確認し、酸と中和することで造影剤を除去できな いか検討した(表5)。 AVCS における造影シミュレーション後、造影剤が含まれる模擬血液から造影剤を除去するた めに、造影剤の中和剤として酸(ex. 塩酸)を 1:1 モル比、室温で添加して造影剤の白色沈殿物 を生成させて除去することを試みた。 表5:造影剤の中和除去法に用いた機器 (造影剤)

・イオン性造影剤(Hexabrix, Serial No.15HJ031, Guerbet LLC)の希釈溶液 (×1, ×5, ×10 希釈)

・中和剤として酸(ex. 塩酸)を 1:1 モル比 ・造影剤の沈殿物を濾紙で濾過フィルタ

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8 (6) 5 種類のカテーテル操作のシミュレーション AVCS は成人の心臓モデル(ポリウレタン製)と動静脈の血管サーキット(シリコーン製) から構成される。循環ポンプとしての補助人工心臓(VAD, ニプロ)と末梢血管抵抗の圧格差 調整装置を組み込むことにより生体に近い循環動態と動静脈の血圧差を再現できるかどうか検 討した。模擬血液の温度はカテーテル挿入荷重値が少なくなるよう 30℃に設定した。 AVCS の大腿部に設置したシ-スより以下のカテ-テル類の操作を行った。まず、ガイディ ングカテーテル(Profit-JL / Side-hole(+/-), グッドマン)を左冠動脈入口部へ挿入し、実際に 近い冠動脈造影が行えるか検討した。続けて DCA カテーテル(DCA, φ3.5-3.9mm 冠動脈 用、ニプロ社製)を左冠動脈入口部へ挿入し、操作シミュレーションを試みた。5種類の治療 用カテーテル(ニプロ社製の DCA、グッドマン社製のバルーン(NSE / LAXA)、ステント (Vival stentTM)、吸引カテーテル(RebirthTM))を左冠動脈内へ挿入し、操作シミュレーシ ョンを試みた。ここでは、脂質が心臓内に固着した心臓モデル(病態モデル)において、人工 血栓を冠動脈内に留置することで血栓閉塞させた際の血栓吸引カテーテルによる血行再建シミ ュレーションも試みた。シミュレーション中は模擬血液を循環させるようにし、血圧を 120 / 80 mmHg に設定した。これらの各種カテーテルのイメージ図は図1に表示した。

(6-1)ガイディングカテーテル操作のシミュレーション

AVCS におけるカテーテル操作のシミュレーションでは、ガイドワイヤー(Abyss, 0.014inch, ニプロ社製)を穿刺部からに左冠動脈入口部まで進め、さらにガイディングカテーテル (Roadmaster TH, 8Fr, グッドマン社製)も左冠動脈入口部まで進めて固定した後、イオン性造 影剤を用いて左冠動脈の造影を試みた。 (6-2)DCA カテーテル操作のシミュレーション DCA カテーテル操作のシミュレーションでは、左冠動脈入口部へガイディングカテーテルを 固定した後、DCA カテーテルを左冠動脈内に進めて操作シミュレーションを行った(表6)。 表6:DCA カテーテル操作のシミュレーションに使用したデバイス ・ガイドワイヤー(Abyss, 0.014inch, ニプロ社製) ・ガイディングカテーテル(Roadmaster TH, 8Fr, グッドマン社製) ・DCA カテーテル(DCA, φ3.5-3.9mm 冠動脈用、ニプロ社製) ・インデフレーター(グッドマン社製)

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9 (6-3) NSE ALPHA バルーンカテーテル操作のシミュレーション NSE ALPHA バルーンカテーテル操作のシミュレーションでは、左冠動脈入口部へガイディ ングカテーテルを固定した後、バルーンカテーテルを左冠動脈内に進めて操作シミュレーショ ンを行った(表7)。 表7:NSE ALPHA バルーンカテーテルの操作シミュレーションに使用したデバイス ・ガイドワイヤー(SionBlue, 0.014ich, 朝日インテック社製) ・ガイディングカテーテル(Roadmaster TH, 8Fr, グッドマン社製) ・バルーンカテーテル(NSE ALPHA, φ3.00x13mm, グッドマン社製) ・インデフレーター(グッドマン社製) (6-4) Vival stentTM留置の操作シミュレーション Vival stentTM留置の操作のシミュレーションでは、左冠動脈入口部へガイディングカテーテル を固定した後、カテーテルを左冠動脈内に進めて Vival stentTM留置の操作シミュレーションを 行った(表8)。 表8:Vival stentTM留置の操作シミュレーションに使用するデバイス ・ガイドワイヤー(SionBlue, 0.014ich, 朝日インテック社製) ・ガイディングカテーテル(Roadmaster TH, 8Fr, グッドマン社製) ・ステントデリバリーシステム(Vival stentTM, φ3.5x15mm, グッドマン社製) ・インデフレーター(グッドマン社製) (6-5) RebirthTM血栓吸引カテーテルの操作シミュレーション RebirthTM血栓吸引カテーテルの操作のシミュレーションでは、初めに左冠動脈内に脂質(脂 肪酸)を固着させた心臓モデルを組み込んだ AVCS を組み立てた。左冠動脈入口部へガイディ ングカテーテルを固定した後、RebirthTM血栓吸引カテーテルを用いた血栓除去のシミュレーシ ョンを行った(表9)。 表9:RebirthTM血栓吸引カテーテルの操作シミュレーションに使用するデバイス ・ガイドワイヤー(SionBlue, 0.014ich, 朝日インテック社製) ・ガイディングカテーテル(Roadmaster TH, 8Fr, グッドマン社製) ・バルーンカテーテル(RebirthTM, 6Fr, グッドマン社製) (模擬血栓) ・模擬血栓(グッドマン・ニプロ)

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10 図1:各種カテーテルのイメージ図

A:DCA カテーテル(DCA, φ3.5-3.9mm 冠動脈用、ニプロ社製) B:ガイディングカテーテル(Roadmaster TH, 8Fr, グッドマン社製)

C:NSE バルーンカテーテル(NSE ALPHA, φ3.00x13mm, グッドマン社製) D:ステントデリバリーシステム(Vival stentTM, グッドマン社製)

E:血栓吸引カテーテル(RebirthTM, 6Fr, グッドマン社製), φ3.5x15mm, グッドマン社製) ※製品用パンフレットは(ニプロ株式会社・株式会社グッドマンの許可を得て引用)

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11 4.結果 (1) 3D 心臓モデル(左心中心の心臓モデル)の作製の結果 健康成人の心臓 CT 画像から心臓モデルを作成した。そのイメージ図を図 1 に示す(図2: 3D プリンターで使用する 3D 心臓モデル構築図)。 図2:CT 画像でデータ構築した心臓モデルの 3D 構成図

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12 得られた 3D CT イメージを基にして、真空注型法で、3D プリンター(光造形)を用いシリコ ーン製の鋳型を製作した。この鋳型にポリウレタン樹脂を流し込み、心臓モデルを作製した(図 3, 4)。作製した心臓モデルをクロスメディカル社のマイクロ CT(社外秘)で撮影し、冠動 脈の走行だけでなく、内径なども精密に再現できたことを確認した。 図3:水没型の左心中心の心臓モデル作成行程の概要

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13 図4:水没型の左心中心の心臓モデルの左冠動脈入口部へのカテーテル挿行程図 A:水槽内に水没型させた全体図 B:側面図から見た C:左冠動脈入口部へのガイディングカテーテル挿入 D:ガイドワイヤーが左冠動脈内走行

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14 (2) カテーテル挿入荷重値と模擬血液温度との関係の結果 作製した左心冠動脈走行の心臓モデルを模擬血液に浸漬した状態で、NSE バルーンカテーテ ルを挿入した際の挿入荷重値を測定した。挿入荷重値は低温 15℃・20℃・22℃で高値を示し、 25℃以上では 40g程度に収束することが示された(図5,表 10)。 模擬血液温度(15, 20, 22, 25, 30, 35, 37℃)で心臓モデルの主冠動脈(図 3-D)へのバルーン カテーテル(NSE alpha, φ2.25x13mm, グッドマン)の挿入荷重値を示す(図5)。 その結果、25℃から生体温度の 37℃まではカテーテルの挿入荷重値が低いことが明らかにな り、この温度範囲がカテーテルの評価条件として最適と考えられた。 図5:左主冠動脈内へのカテーテル挿入荷重値と模擬血液の温度 (前下行枝と回旋枝の分岐部から前下行枝方向へ進んだ冠状動脈内を走行の移動距離) 表 10 : カテーテル挿入荷重値と模擬血液温度との関係

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15 模擬血液の温度変化における溶液粘度への影響 作製した潤滑剤水溶液の各温度における粘度(in・Ps・s)を検討した(図6)。この結果から、 グリセリン水溶液の粘度は 25℃から 37℃の範囲で低下したことが明らかになった。同様に模擬 血液の粘度も低いことが認められた。 図6:グリセリン溶液と模擬血液の溶液温度変化による粘度の関係 20%(W/W)グリセリン溶液と模擬血液についての 15, 22, 25, 30, 37℃における水溶液の粘 度を示す。

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16 (3) 動静脈循環型シミュレーターの作製の結果 3D 心臓モデルの作製・評価に続いて、血管内治療のカテーテルアプローチとして大腿動脈ま たは橈骨動脈・上腕動脈を経由する動静脈循環システム(AVCS)を作製できた(図7)。その回 路図を図8に示す。 心臓モデルと血管モデルとの接続法については、各種接着剤(アクリル系、ウレタン系接着剤) を検討した結果、東亜合成社製のハイブリッド弾性瞬間接着剤が良いことが明らかになった。 これは接着剤の瞬間接着剤の高速接着性と弾性接着剤の柔軟性を併せ持った新しいタイプの二 液型接着剤で血圧の上昇にも耐えうる材質として選択した。これにより長時間の耐久性と接続 部からの血液漏れ防止に効果を発揮し、異なる材質の接着を可能とした。実際の耐久試験では約 5 時間連続運転が可能であった。 血圧・循環動態の再現では生理的な微調整が難しく常時調整を必要とし、動脈側の血液量と静 脈の血液量のバランスが崩れると、血圧の上下変動を起こすことも明かになった。

A E

B C

D

図7:動静脈循環型シミュレーター(AVCS)の構成

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17 A: AVCS の全体図 B,:心臓モデル(ニプロ・グッドマン社製) C,:末梢血管抵抗装置・模擬血液タンク(ニプロ社製) D,:循環ポンプ(ニプロ社製) E,:ポンプ制御プログラム(ニプロ社製)

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18

図8:動静脈循環型シミュレーターの血液循環の回路図

心臓モデルの右心(RV)へ補助人工心臓ポンプ(VAD1)にて循環、左心(LV)へ補助人工 心臓ポンプ(VAD2)で循環させた。血圧の圧格差調整装置(Peripheral vascular resistance regulatore)で末梢血管抵抗を調整した。両腕には Brachial approach, Radial approach の穿刺部 位(カテーテル挿入部位)を設け、両足には Femoral approach 部位を設けた。

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19 (4) 血行動態再現と冠動脈造影のシミュレーションの結果 (3)で作製した AVCS において、生体の血液粘性に近づけた模擬血液を循環ポンプで循環 させることで血行動態の再現シミュレーションを行った。血圧トランスデューサ―(圧力モニタ リング用チューブセット, 51-001 Logical MX9604J, ニプロ社製)を用いて血圧を測定した。そ の結果、血圧(動脈圧:収縮期圧と拡張期圧)として図9―Aのモニターに表示された数値(120/76 mmHg 平均 98 mmHg)が得られ、また補助人工心臓から駆出される血流量として 4L/min を確 保でき、実際にカテーテル検査実施時間を約 1 時間と仮定して安定した血行動態を得ることが できた。また末梢血管抵抗器の調節により血圧を変更できることも確認できた。このことにより 実際のカテーテル検査時に起きえるトラブル(血圧低下等)のシミュレーションにも対応できる ことが確認できた。 血管造影のシミュレーションを行うために、模擬血液を循環させ、血圧 120 / 80 mmHg に設 定した。血管挿入用シース(7Fr, グッドマン社製)を大腿動脈へ挿入し、続いてガイドワイヤ ー(0.035 inch, グッドマン社製)とガイディングカテーテル(7Fr, Profit-JL / -JR, グッドマン 社製)を用いて、左冠動脈あるいは右冠動脈入口部へ Profit-JL / -JR を固定し、Profit へYコネ クター(グッドマン社製)を装着させた後、イオン性造影剤(Hexabrix, Guerbet LLC)を用い て左冠動脈及び右冠動脈の造影を行った。その結果、左冠動脈及び右冠動脈造影のシミュレーシ ョンが可能であることが明らかになった(図9-B)。

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図9:動静脈循環型シミュレーターにおける血圧再現及び冠動脈造影 A:120 / 72 mmHg の血圧再現の写真

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21 (5)造影剤の中和除去法の開発の結果

イオン性造影剤(Hexabrix, Serial No.15HJ031, Guerbet LLC)の希釈溶液(×1, ×5, ×10 希 釈)の造影性が透視により確認できた(図 10-A)。 AVCS における造影シミュレーション後、造影剤が含まれる模擬血液から造影剤を除去するた めに、造影剤の中和剤として酸(ex. 塩酸)を 1:1 モル比、室温で添加して造影剤の白色沈殿物 を生成させた(図 10-B)。このとき、造影剤の沈殿物を濾紙で濾過することで、模擬血液から造 影剤を除去できた(図 10-C)。造影により濾過液から造影剤が除去できていることが確認できた (図 10-D)。 図 10:造影剤の中和除去法の開発 A:イオン性造影剤(Hexabrix, Guerbet)の×1(原液), ×5, ×10 希釈した X 線透視像 B:造影剤溶液への塩酸添加による白色沈殿物精製 C:沈殿物の濾過・除去 D:造影剤を中和除去した濾液の X 線透視像

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22 (6)5 種類のカテーテル操作のシミュレーションの結果 医療従事者(循環器内科専門医3名)によるカテーテルの挿入感覚の評価では、ヒト血管内で のカテーテル挿入感に近い感覚を再現できていると意見を頂くことができた。 血行動態を再現した AVCS において、各種カテーテル(図 1:ガイディングカテーテル、DCA カテーテル, バルーンカテーテル、ステントデリバリーシステム,血栓吸引用カテーテル)の操 作シミュレーションを行った。その結果、カテーテルの一連の手技が可能であることがわかった。 最後に、血栓吸引カテーテルの操作シミュレーションも行った結果、模擬血栓の吸引シミュレー ションが可能であることが明らかになった。 (6-1) ガイディングカテーテル操作のシミュレーションの結果 動静脈循環システム(AVCS)におけるカテーテル操作のシミュレーションを行うために、模 擬血液を循環させ、血圧 120 / 80 mmHg に設定した。大腿動脈の穿刺部位からガイディングカ テーテルを進め、左冠動脈入口部へガイディングカテーテルを固定した。そこで、イオン性造影 剤を用いて左冠動脈の造影を行った(図 11)。ガイディングカテーテルの挿入には問題なく、回 転トルクをかけた際も、大きな摩擦抵抗は無く、滑らかにカテーテルを進めることができた。ガ イディングカテーテルの X 線視認性も問題なく、左冠動脈入口部に固定することができた。 図 11:ガイディングカテーテル

A, Profit(JL, 7Fr)with side hole (-) / (+)ガイディングカテーテルを用いた左冠動脈造影を示 す。造影剤は水と 1:1 で混合した。

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23 (6-2) DCA カテーテル操作のシミュレーションの結果 動静脈循環システム(AVCS)におけるカテーテル操作のシミュレーションを行うために、模 擬血液を循環させ、血圧を 120 / 80 mmHg に設定した。大腿動脈の穿刺部位からガイディング カテーテルを進め、左冠動脈入口部へガイディングカテーテルを固定した。さらに、DCA カテ ーテルの操作シミュレーションを行った。ガイディングカテーテル内を DCA カテーテルが通過 する際、特に、屈曲部での抵抗が大きく感じられた。このとき、ガイディングカテーテルの冠動 脈入口部への固定がしっかり行われていない場合、ガイディングカテーテルが外れることが確 認された。再度、ガイディングカテーテルの固定後、DCA カテーテルを冠動脈内へ挿入させ、 挿入抵抗に大きな変化がないことを確認した。DCA を用いたプラーク切除術においては、バル ーンを拡張させた際のプラークを切除するカッターが格納されている DCA のハウジング部分 とプラーク部との密着が重要になる。その操作には習熟が必要だと考えられた。 AVCS において、ガイディングカテーテルを左冠動脈入口部へ固定した。さらに DCA カテー テルを左冠動脈へ挿入してデリバリー性を確認した後、ハウジング部の向きを合わせるために、 X線透視撮影を用いて適切な位置にあることを確認した(図 12)。 図 12:DCA カテーテル 左冠動脈へ Roadmaster (8Fr, グッドマン社製)ガイディングカテーテルを固定した後、DCA カテーテル(φ3.5-3.9 mm, ニプロ社製)を挿入した際のシミュレーションを示す。 DCA のデリバリー DCA の左冠動脈 への挿入 DCA の左冠動脈 への挿入と回転操作

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24 (6-3) NSE ALPHA バルーンカテーテル操作のシミュレーションの結果 動静脈循環システム(AVCS)におけるカテーテル操作のシミュレーションを行うために、模 擬血液を循環させ、血圧 120 / 80 mmHg に設定した。大腿動脈の穿刺部位からの挿入によって ガイディングカテーテルを進め、左冠動脈入口部へガイディングカテーテルを固定した後、バル ーンカテーテルの操作シミュレーションを行った。 バルーンカテーテルの挿入時、並びに回転トルクをかけた際に、大きな摩擦抵抗は無く、比較 的円滑にカテーテルを進めることができた。バルーンカテーテルは透視で確認でき、インフレー ションデバイスによるバルーン拡張・縮形もできることを確認した。また、バルーンの拡張・縮 形後のカテーテル抜去においても問題ないことを確認した(図 13)。 図 13:バルーンカテーテル

左冠動脈内への NSE alpha balloon (φ3.00×13mm, グッドマン社製) カテーテルの挿入から Balloon inflation (6 atm) / deflation のシミュレーションを示す。

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(6-4) Vival stentTM留置の操作シミュレーションの結果

動静脈循環システム(AVCS)におけるカテーテル操作のシミュレーションを行うために、模擬 血液を循環させ、血圧 120 / 80 mmHg に設定した。大腿動脈の穿刺部位からの挿入によってガ イディングカテーテルを進め、左冠動脈入口部へガイディングカテーテルを固定した後、Vival stentTM留置の操作シミュレーションを行った。Vival stentTMデリバリーシステムの挿入時、並 びに回転トルクをかけた際に、大きな摩擦抵抗は無く、比較的円滑にカテーテルを進めることが できた。Vival stentTMデリバリーシステムの X 線視認性も問題なく、インフレーションデバイス によるバルーン拡張・縮形によって Vival stentTMを冠動脈内に留置できることが確認できた(図 14)。

図14:ステントデリバリーシステム

左冠動脈内への Vival stentTM (φ3.50×15mm, グッドマン社製)の 挿入から balloon inflation (10 atm) / deflation (stent implantation)によるステント留置のシミュレーションを示す。

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26 (6-5) RebirthTM血栓吸引カテーテルの操作シミュレーションの結果 冠動脈の虚血の病変には、主に血管狭窄と血栓閉塞がある。血栓閉塞治療では、カテーテルの 先端に吸引口をもつ吸引カテーテルが使用される。 動静脈循環システム(AVCS)におけるカテーテル操作のシミュレーションを行うために、 初めに脂質(脂肪酸)が固着した心臓を組み込んだ AVCS を組み立てた。大腿動脈の穿刺部位 からの挿入によってガイディングカテーテルを進め、左冠動脈入口部へガイディングカテーテ ルを固定した後、RebirthTM血栓吸引カテーテルの操作シミュレーションを行った。初めに、模 擬血栓を冠動脈内へ充填させた後、血栓吸引カテーテルを進めて模擬血栓の吸引を起こった結 果、ほとんどすべての模擬血栓を吸引することが確認できた(図 15)。冠動脈は末梢側へ進むに ついてれ血管径が細くなるため、AVCS の冠動脈内に注入された人工血栓によって閉塞して血 流が途絶えることも確認した(data not shown)。

図 15:血栓吸引カテーテルのシミュレーション

寒天製の人工血栓(赤色色素で染色した)を作製し、左冠動脈に吸引カテーテルを用いて注 入した。続いて、Rebirth-pro(6Fr, グッドマン社製)血栓吸引カテーテルを左冠動脈内へ挿入 し、模擬血栓を吸引した際のシミュレーションを示す。

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5.考察

冠動脈内に挿入するカテーテル治療では、まず血管穿刺操作が必須になる。穿刺によるリスク として、不適切な位置への穿刺による痛みや神経障害などの発生、想定していない血管への誤穿 刺が挙げられる。それ以外にも穿孔などによって大きな合併症を引き起こす可能性がある。その ため、患者に対して安全な医療行為を実施するためには、医療手技の訓練が必須である。医療訓 練には動物を使用することもできるが、研究に使用される動物の福祉は尊重されなければなら ないとヘルシンキ宣言で述べられている。そのため今日では動物愛護の観点から、動物ではなく シミュレーターを用いて医療手技を習得することが求められている。 実際に臨床に繋がる正しい医療手技技術を学ぶためには、出来る限り生体に近いシミュレータ ーを用いることが理想的である。しかし、現行のシュミレーターは十分生体に近い状態を再現で きているとは言い難い。そのため正確な解剖を反映し、かつ生理的な血行動態を忠実に再現でき るシミュレーターの開発が急務である。 本研究の対象である血管内治療で用いられるカテーテルは、ワイヤーメッシュで補強され、ト ルク伝達性を高めている。このカテーテルを通じて、血管内拡張用のステント・バルーンや閉塞 用のコイルを送り込み治療を行う。 このカテーテルを使用した血管内治療手技の特徴は、カテーテル操作の際にはガイドワイヤー が必ず先行し、ガイドワイヤーに導かれてカテーテルが進入する。穿刺用の針からまずワイヤー を通し、血管内や管腔内にカテーテルを挿入する方法をセルジンガー法という。本法のシミュレ ーターとしてはすでに人体の一部を模擬した簡単なものが作製されている。しかし、たとえ外観 が人体に近い形状であったとしても感触やカテーテル等の操作感覚が異なる。その理由は、シミ ュレーターを構成する材料の多くが人工的なポリマーで作られているためである。 近年、心臓血管外科手術に対しては生体組織に近い弾性を有する樹脂が開発され、3D プリ ント技術によって心臓や血管などの精密な人工臓器の模型がつくられるようになってきた。実 際に作製された心臓模型が心臓血管外科手術のトレーニングモデルとして利用されている。し かし、循環器内科分野では低侵襲的なカテーテル治療が主流となっているが、現在のシミュレ ーターではヒト血管への挿入感を再現するまでには至っていない。これまでのシミュレーター に関する研究では、心臓の冠状動脈を模擬した血管モデルや腕の動静脈循環モデル、小児冠動 脈循環シミュレーターなどが報告されている[11-15]。これらのシミュレーターは、腕や心臓の 血液循環や血行動態を模擬したものであるが、血管内治療を目的とした医療従事者によるカテ ーテル操作のシミュレーションやデバイス評価系としての機能は十分に備えていない。近年、 Virtual reality simulation[8-10]に関する研究報告もなされているが、これもカテーテルの挿入 感や長さの感覚まで再現できるものではない。

このように生体を模擬した循環モデルシミュレーターや病変モデルの開発が進んでいないた め、未だブタやウサギなどの動物における血管内治療のデバイス評価やシミュレーションに関 する研究が、多く報告されている [1-7]。動物倫理や生命倫理の観点からも動物を使用しない

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28 生体を模擬した循環モデルシミュレーターや病変モデルの開発は重要である。 そこで本研究では、生体に近いカテーテル挿入感が得られる模擬血液の開発並びに血行動態を 再現する装置(シミュレーター)の開発を行なった。また、本研究における模擬血液の血行動 態やカテーテル挿入抵抗を定量的・数値化することにより、シミュレーター自体の感覚的評価 から数的評価実施した。 3D 心臓モデル(左心を中心としたモデル)の製作 本研究の心臓モデルは健常な成人男性の CT 画像を基に製作した。この CT 画像から 3D モデ ルを作製し、必要な部位のイメージを分割することで、ヒトの正常心臓の左心中心の心臓モデル のイメージが作製できた。このイメージから 3D プリンターを使用してシリコーンの鋳型を作成 し、ポリウレタン樹脂を注入して、シミュレーターの核となるヒトの正常心臓の左心中心の心臓 模型を完成させた。さらにマイクロ CT 撮影で、冠動脈の管形状や走行が忠実に再現できている ことを確認した。 今回の模型作製では、必要な部位の 3D イメージを分割して取り出すことで、模型を左心だけ ではなく、用途別に必要な部位を製作することが可能になった。現在では疾患別(冠動脈・弁・ 先天性・動脈瘤等)の手術手技に関係する模型も製作できる。ポリウレタン以外の素材も使用可 能であるため、今後は心臓以外の臓器も作ることが可能になると考えられた。また、今回作製し た模型は、透明な樹脂で作製した。そのため、通常では視認できないカテーテルの動きを直接見 ることができるようになっており、実際の臨床以上に治療操作についての理解がより深められ ると考えられた。 カテーテル挿入抵抗軽減のための模擬血液の調製とカテーテル挿入荷重値の定量化 AVCS におけるカテーテル操作のシミュレーションを行うために、カテーテルと血管モデル 基材との摩擦抵抗を低減する必要があった。さらに、循環液は雑菌等の繁殖も懸念されるため、 菌の繁殖を防ぐ成分が良いと考えられた。 本研究では既に我々が調製している、陽イオン系の Trimethylstearylammonium Chloride, 双 生イオン系の Tetradecyldimethyl (3-sulfopropyl)-ammonium Hydroxide Inner Salt, ノニオン系 の Polyoxyethy Sorbitan Monolaurate (Tween)を主成分とした模擬血液を用いた。

これら 3 成分が含まれることで、pH 変化のある水溶液中でも潤滑性を発揮できる構成とした。 さらに、これらの 3 成分を主とした模擬血液は、室温で 1 年以上菌が繁殖しないことも確認し ている(長期保存のために)。この模擬血液を用いた AVCS におけるカテーテル操作において、 カテーテルと血管モデル基材との摩擦抵抗は温度によって変化することが明らかになり、スム ースなカテーテル挿入感を実現することができた。 他方、国内特許公報では、超音波診断装置のフローファントム用の模擬血液の粘度を、水溶性 多価アルコールで調製している報告がある(特開 2013-235094)。さらに、この報告では 25℃の 室温でグリセリン溶液の粘度が血液の粘性に近づくと報告されている。

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29 そこでわれわれは、開発した模擬血液の粘性を血液粘性に近づけるために、水溶性多価アルコ ールとしてグリセリンを水溶液に添加することで粘度調整を行った。調製した模擬血液の粘度 を測定した結果、模擬血液のニュートン粘度(in・Pa・ s)は、25~ 37℃では低いことが明ら かになった。同様に左主冠動脈内へのカテーテル挿入荷重値が 25~ 37℃で低下していることか ら、この粘度の低下が操作感覚に影響していることが考えられた。これによりカテーテルの挿入 時抵抗が軽減でき、実際に循環器内科専門医がカテーテル挿入の感覚を評価したところ、ヒト血 管内での挿入感覚に近いという意見が得られている。将来的に、医療従事者のカテーテル挿入感 覚をカテーテルの挿入荷重値などの形で定量化できれば、デバイスの研究開発における評価基 準となり得るため、今後もさらなる研究が必要である。 血行動態再現と冠動脈造影のシミュレーション 臨床現場と同等に近い手技感覚で操作を実施出来たが、生体内のように造影剤を排出できな いため、多量に造影剤を使用した場合に、その残像画像が起こる可能性があった。そのため、造 影剤の吸着除去に、国内の透析器を用いた非イオン性造影剤の吸着を試みたが効果は認められ なかった。 そこで、われわれはイオン性造影剤(Hexabrix)[20]が塩基性溶液であることに着目し、酸 性溶液の中和剤を添加することで中和除去できる仮説を立てた。仮説の通り、イオン性造影剤 に塩酸や酢酸のような酸性溶液を添加することで造影剤の白色沈殿が生成し、造影剤を濾過・ 除去できることを初めて明らかにした(図7)。この方法を例えば、造影剤を多量に使用する循 環型シミュレーターに応用することで、連続的な造影剤添加による溶液黒色化を低減すること ができる。つまり、造影剤中和除去システムの構築も可能であると考えられた。 動静脈循環型(AVCS)におけるカテーテル操作のシミュレーション 本研究において構築した AVCS は、血管内治療における基本的なシース及びワイヤー挿入か らガイディングカテーテルのエンゲージ(固定化)、DCA カテーテル、バルーンカテーテル、ス テントデリバリーシステムの一連の操作シミュレーションを可能にした。さらに、寒天を赤色色 素で染色して作製した人工血栓を注入した冠動脈において、血栓吸引カテーテルによる人工血 栓の吸引シミュレーションも可能であることがわかった。 しかしながら、本研究で開発した AVCS は正常なヒト心臓・血管の CT データに基づいたモ デルであるため、異常な血管走行や血管内狭窄、石灰化病変など、様々な病変モデルに対応した システム構築は今後のさらなる研究が必要である。

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6.結論

われわれは、カテーテルの挿入感覚をヒト血管内の感覚へ近づけるために、血行動態を再現 した動静脈循環型シミュレーター(AVCS)を開発した。模擬血液は、温度を調節することで カテーテルと血管モデル基材との摩擦抵抗を大きく低減させることができ、より実際の臨床に 近い感覚を再現できるカテーテル操作のシミュレーションを可能にした。また、イオン性造影 剤の中和条件を見出すことで、AVCS における循環液中の造影剤の中和・除去法も開発した。 今後、医療従事者の AVCS におけるカテーテル操作のシミュレーションやデバイス評価系とし ての利用が期待される。

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7.謝辞

本研究にあたり、親切丁寧なご指導ご鞭撻を頂きました九州大学大学院歯学研究院口腔顎顔 面病態学講座歯科麻酔学分野 教授 横山武志 先生に厚く御礼申し上げるともに深く感謝の 意を表します。 また、本研究にあたり共同研究者として実験データ取得にご協力いただいた、株式会社グッド マンの廣田徹様・伊達博様、ニプロ株式会社医療研修施設の向井純平様・正木涼子様・直木洋 介様・冨永裕太様。そして研究に関わる関係各位に深く感謝申し上げます。 本研究に対し、有益な示唆を頂き学位取得に向けご助言頂きました、ニプロ株式会社常務取 締役総合研究所 所長 増田利明様・ニプロ・ライフサイエンスサイトメディカルセンタ-長 川口晃様に深く感謝の意を表します。 最後に、心の支えとなり、応援し続けた家内や家族・職場のスタッフに感謝致します。

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8.参考文献

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図 15:血栓吸引カテーテルのシミュレーション

図 15:血栓吸引カテーテルのシミュレーション

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参照

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