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システム同定を用いた非観測階の地震応答推定手法 ー多点参照・多自由度偏分反復法によるシステム同定の適用ー

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U.D.C 624.07

システム同定を用いた非観測階の地震応答推定手法

―多点参照・多自由度偏分反復法によるシステム同定の適用―

千葉 一樹

豊嶋

* 要 約: 大地震発生後,迅速に拠点建物の被害状況を把握するため,地震観測を利用した被災度判定システムの社会的 需要が高まっている。本研究では,観測装置導入にかかるイニシャルコストを抑えるため,観測階を厳選しセン サ台数を減らし,解析的に非観測階の地震応答を推定する手法を提案している。前報では,単点参照による多自 由度偏分反復法を利用したシステム同定手法について報告したが,同定精度及び収束計算の安定性,同定したパ ラメータが対象階ごとに出力されるなどの課題があった。そこで本報では,システム同定手法を単点参照から多 点参照に拡張することで,対象システムのモーダルパラメータを高次モードまで,高精度かつ安定的に同定する ことが可能になり,また同定したパラメータも一意に決定されるように改善した。なお前報と同様に,鋼製 5 層 試験体による振動台実験結果を利用して本手法の有効性を確認した。 キーワード: 地震観測,被災度判定,周波数応答関数,伝達関数,モード重合法,固有振動数,減衰定数,刺激関数 目 次: 1.はじめに 2.多点参照・多自由度偏分反復法への拡張 3.建物全体の地震応答推定解析 4.鋼製 5 層試験体振動台実験結果を用いた検 証解析 5.まとめ 1.はじめに 1.1 研究の背景と目的 これまで構造物の地震時挙動把握などの学術的な利用や 構造設計照査に用いられてきた地震観測技術は,近年,観 測装置・記録媒体・通信機器などの技術革新により高機能 化かつ低価格化が実現され,一般設備としての供給が可能 となりつつある。こうした背景を受け,地震観測技術は一 般ユーザーを対象とした防災システムとしての役割も期待 されるようになってきた。 最近では,専門家以外でも理解しやすいように観測結果 をシステム内で自動分析し,リアルタイムに画面上に表示 する「視える化」を組み込んだアプリケーション開発が加 速している。既に商品化されているものもあり,超高層建 物や公共的な重要施設へ採用され始めている。 こうした社会的需要を受け,本研究では地震発生後に事 業者や建物所有者が拠点建物の被害状況を迅速に把握し, 「建物外避難要否」や「建物継続使用可否」を判断するた めの支援情報を提供する被災度判定システムの開発を行っ てきた。本研究で提案している被災度判定システムでは, 各階の層間変形角,絶対加速度を評価対象として被災度判 定することを基本としている。また観測階を厳選してセン サ台数を減らすことで,観測装置の導入にかかるイニシャ ルコストを抑えることをシステムの基本方針としている。 そのため,観測階の地震観測記録を活用して,非観測階の 地震応答を解析的に推定する仕組みが不可欠であり,本研 究では,システム同定を用いた推定手法を提案している。 1.2 前報1)との関連性と解決課題 前報では,非観測階を含めた建物全体の地震応答推定手 法として,単点参照による多自由度偏分反復法を適用した システム同定と,モード重合法による地震応答解析を組み 合わせた解析手法を提案した。地上 13 階建 SRC 造建物で の地震観測と,鋼製 5 層試験体の振動台実験結果から得ら れた実測データを用いて検証解析を行い,中小地震程度の 範囲で非観測階を含めた建物全体の地震応答を推定可能な ことを報告した。しかし提案手法には,高次振動数域での 同定精度及びシステム同定計算の安定性,地震応答推定解 析時における刺激関数行列の補正方法,強非線形領域への 適用可能性など,いくつかの課題を残していた。 そこで,上記課題から特に実用上重要となる同定精度向 上とシステム同定計算の安定化に対応して,偏分反復法に おける単点参照から多点参照への拡張を行った。多点参照 への拡張により,複数階の伝達関数と位相差スペクトルを 相互に補間することが出来るため,高精度かつ安定的にシ ステム同定が可能となる。また多点参照では複数の同定対 象階を同一振動系として扱うため,各次の固有振動数・減 衰定数を一意に求めることができる。 本報では,1 入力多出力のせん断系質点モデルによる多 自由度偏分反復法2)を多点参照に拡張するために関連式を 整理し,一般解法を示した。また前報と同様に,鋼製 5 層 試験体による振動台実験結果を利用して手法の有効性を確 認した。なお本報は,既報3)に加筆修正を加えまとめたも のである。 *技術研究所 振動・音響グループ

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2.多点参照・多自由度偏分反復法への拡張 多点参照に拡張しても,多自由度偏分反復法の基本解法 は変わらない。同定対象階の伝達関数のベクトル配列が拡 大することや,同定対象階すべてのモーダルパラメータを 列配列するため,ヤコビ行列が複雑化する部分に注意が必 要となる。 2.1 同定対象階の伝達関数(理論・実測) 前報同様に,1 入力多出力のせん断系質点モデルを理論 モデルに仮定し(図 1),解析モデル j 階における多自由 度周波数応答関数を理論モデルによる伝達関数 H(ω) と して式( ),式( )により表す。 H(ω)= ∑ ( H (ω)× β ⋅ U ) ( ) H (ω)= ωω −ω+2 h ⋅ ω ⋅ωi +1 ( ) ( H (ω): 次 周 波 数 応 答 関 数,ω:外 力 円 振 動 数, β ⋅ U : 次 階刺激関数, ω : 次固有円振動数, h : 次モード減衰定数) 一方,センサを設置した同定対象階と建物最下階の加速 度波形から,実測による伝達関数H (ω) を求める。なお 算出手順詳細については前報1) を参照されたい。 理論モデルによる伝達関数 H(ω) と実測による伝達関H (ω) を式( ),式( )のように表し,偏分反復法に 適用するため,それぞれ式( ),( )のように実部,虚部 に分けて列ベクトルとして配列する。 ここまでは単点参照と同じだが,多点参照に拡張するた めには,各同定対象階にまとめた配列をさらに式( ), ( )のように配列し,同定対象階すべてを含んだ理論・伝 達関数ベクトル R と実測・伝達関数ベクトル E として扱 う。ここでは同定対象階を j=1~n として示す。 H(ω)=R (ω)+R (ω) ( ) H  (ω)=E (ω)+E (ω) ( ) R={{R(ω)} , {R (ω)} } ( ) E={{E(ω)} , {E (ω)} } ( ) R={{R}, ⋯, {R} } ( ) E={{E}, ⋯, {E} } ( ) ここで外力円振動数 ω の周波数点数が ω=ω~ω個あ るとすると,式( ),( )は 2m 個の列ベクトルとなり, 式( ),( )はさらに j=1~n 階分の配列を並べた 2m× n 個の列ベクトルとなる。 2.2 モーダルパラメータベクトルの設定 前報同様に固有円振動数 ω ,減衰定数 h ,各次各階の 刺激関数 β ⋅ U を同定するモーダルパラメータとして式 ( )∼(12)に示す。このとき同定次数は s=1~r,同定対 象階は k=1~n とする。ここでモーダルパラメータ a は 2r +r ×n 個の列ベクトルとなる。 a={{ ω } , { h } , { β ⋅ U } } ( ) ω ={ ω, ⋯, ω } (10) h ={ h, ⋯, h } (11) β ⋅ U ={( β⋅ U , ⋯, β ⋅ U), ⋯, ( β⋅ U, ⋯, β ⋅ U )} (12) 2.3 偏分反復法の適用 偏分反復法の基本的な算定方法としては,理論・伝達関 数 R にモーダルパラメータ a を代入し,実測・伝達関数 E との誤差が最小となるモーダルパラメータ a の値を同 定することになる。 具体的には,まずモーダルパラメータに初期値 aを設 定し,式(13)により求められる変動量 δaを与えながら式 (13)∼(16)の計算を i=1~ p 回繰返して aの収束値を求 める。ここでモーダルパラメータ aを代入した理論・伝 達関数 R を R(a) と表す。 a=a+δa (i=1~ p) (13) δa=[A]  ×{b} (14) [A]=

∂R(a) ∂a

W

∂R(a) ∂a

(15) {b}=

∂R(a) ∂a

W {E−R(a)} (16) ここでは重み関数であり,本報では式(17)に示す実測・ 伝達関数絶対値の逆数を適用し,式(18),(19)のように配 列する。なお初期値を適切に設定した場合には単位行列を 適用して同定する。生成される重み関数 W は,2m×n 個 を要素に持つ行列となる。 W(ω)= 1 H (ω) (17) W={{W(ω)} , {W(ω)} } (18) W =dia ({W}, ⋯, {W} ) (19) 式(20)に示す

∂R(a)∂a

は,式( )をモーダルパラメー タ a により偏微分して求められるヤコビ行列である。 2.2 節で示した通りモーダルパラメータ a を設定し,外 力円振動数 ω の周波数点数が ω=ω~ω個,同定次数を s=1~r 次,また刺激関数の該当階を k=1~n 階,同定対 象階数を j=1~n 階として構成した場合,ヤコビ行列は (2m×n) 行 (2r+r×n) 列の行列となる。 図 1 建物モデル概要図

(3)

∂R(a) ∂a

=

∂R (ω) ∂ ω ∂R (ω) ∂ h ∂R (ω) ∂ β⋅ U ∂R (ω) ∂ ω ∂R (ω) ∂ h ∂R (ω) ∂ β⋅ U

=

∂R) ∂ ω ⋯∂R ) ∂ ω ∂R) ∂ h ⋯∂R ) ∂ h ∂R) ∂ β⋅ U  ⋯∂R ) ∂ β ⋅ U  ⋯ ∂R ) ∂ β⋅ U∂R ) ∂ β⋅ U ⫶ ⫶ ⫶ ⫶ ∂R(ω) ∂ ω ⋯∂R (ω) ∂ ω ∂R(ω) ∂ h ⋯∂R (ω) ∂ h ∂R(ω) ∂ β⋅ U  ⋯∂R (ω) ∂ β ⋅ U  ⋯ ∂R (ω) ∂ β⋅ U∂R (ω) ∂ β ⋅ U ∂R) ∂ ω ⋯ ∂R) ∂ ω ∂R) ∂ h ⋯ ∂R) ∂ h ∂R) ∂ β⋅ U ⋯ ∂R) ∂ β ⋅ U  ⋯ ∂R) ∂ β⋅ U∂R) ∂ β⋅ U ⫶ ⫶ ⫶ ⫶ ∂R(ω) ∂ ω ⋯∂R (ω) ∂ ω ∂R(ω) ∂ h ⋯∂R (ω) ∂ h ∂R(ω) ∂ β⋅ U  ⋯∂R (ω) ∂ β⋅ U  ⋯ ∂R (ω) ∂ β⋅ U∂R (ω) ∂ β⋅ U ⋯ ⫶ ⫶ ⫶ ⫶ ⋯ ∂R (ω) ∂ ω ⋯∂R (ω) ∂ ω ∂R (ω) ∂ h ⋯∂R (ω) ∂ h ∂R (ω) ∂ β⋅ U  ⋯∂R (ω) ∂ β ⋅ U  ⋯ ∂R (ω) ∂ β⋅ U∂R (ω) ∂ β⋅ U ⫶ ⫶ ⫶ ⫶ ∂R (ω) ∂ ω ⋯∂R (ω) ∂ ω ∂R (ω) ∂ h ⋯∂R (ω) ∂ h ∂R (ω) ∂ β⋅ U  ⋯∂R (ω) ∂ β ⋅ U  ⋯ ∂R (ω) ∂ β⋅ U∂R (ω) ∂ β ⋅ U ∂R (ω) ∂ ω ⋯∂R (ω) ∂ ω ∂R (ω) ∂ h ⋯∂R (ω) ∂ h ∂R (ω) ∂ β⋅ U  ⋯∂R (ω) ∂ β ⋅ U  ⋯ ∂R (ω) ∂ β⋅ U∂R (ω) ∂ β⋅ U ⫶ ⫶ ⫶ ⫶ ∂R (ω) ∂ ω ⋯∂R (ω) ∂ ω ∂R (ω) ∂ h ⋯∂R (ω) ∂ h ∂R (ω) ∂ β⋅ U  ⋯∂R (ω) ∂ β⋅ U  ⋯ ∂R (ω) ∂ β⋅ U∂R (ω) ∂ β⋅ U

(20) 本手法におけるヤコビ行列の各要素は式(21)∼(26) の ように示される。 ∂ R (ω) ∂ ω =−2( β ⋅ U ) ω ⋅ω( ω−ω−2 h ⋅ω)( ω−ω+2 h ⋅ω) {( ω−ω)  +(2 h ⋅ ω ⋅ω)  } (21) ∂ R (ω) ∂ ω =2( β ⋅ U ) h ⋅ω(3 ω)( ω−ω)+(2 h ⋅ ω ⋅ω){( ω−ω )+(2 h ⋅ ω ⋅ω)  } (22) ∂ R (ω) ∂ h =−8( β ⋅ U ) h ⋅ ω⋅ω( ω−ω) {( ω−ω)  +(2 h ⋅ ω ⋅ω)  } (23) ∂ R (ω) ∂ h =−2( β ⋅ U ) ω ⋅ω( ω−ω−2 h ⋅ ω ⋅ω)( ω−ω+2 h ⋅ ω ⋅ω) {( ω−ω)  +(2 h ⋅ ω ⋅ω)  } (24) ( j=k) のとき ∂ R (ω) ∂( β ⋅ U ) = −ω+ ω⋅ω( ω−ω)  +(2 h ⋅ ω ⋅ω)  (25) ( j≠k) のとき ∂ R (ω) ∂( β ⋅ U ) =0 (25) ( j=k) のとき ∂ R (ω) ∂( β ⋅ U ) = −2 h ⋅ ω ⋅ω( ω−ω)+(2 h ⋅ ω ⋅ω)  (26) ( j≠k) のとき ∂ R (ω) ∂( β ⋅ U ) =0 (26) 3.建物全体の地震応答推定解析 非観測階を含めた地震応答推定解析は,前報と同様にモ ード重合法による解析手法を採用している。改めて以下に 計算手法を概説する。 q +2⋅ h ⋅ ω ⋅ q+ ω⋅ q =−  (27) 式(27)に地震動 = A  cc(t) を入力し,Newmark β 法 に よ り 応 答 解 析 を 行 っ て モ ー ド 座 標 系 地 震 応 答 q (t), q (t), q (t) を算定する。式(28)∼(30)により各階の空間 座標系地震応答 (t),(t),Y(t) を求める。 (t)= ∑ { β ⋅ U }⋅ q (t) (28) (t)= ∑ { β ⋅ U }⋅ q(t) (29) Y (t)= ∑ { β ⋅ U }⋅ ( q(t)+ (t)) (30) ここで各次各階の刺激関数 β ⋅ U が,地震応答推定精 度に関わる重要な因子となる。現段階では初期設定時から モード形状が変わらないものと仮定して,設計資料や事前 の振動測定等を元に設定する。 4.鋼製 5 層試験体振動台実験結果を用いた検証解析 前報と同様に鋼製 5 層試験体振動台実験結果を利用して 多点参照に拡張した多自由度偏分反復法と,地震応答推定 解析結果の精度について確認する。 4.1 試験体と振動台実験概要 試験体には,1 軸加振用の鋼製 5 層試験体を使用した (図 2)。柱に板バネを使用し,4∼5 階間には後揺れを抑え るためのオイルダンパーを設置している。試験体製作時に 確認した各階質量,剛性を表 1 に示す。各階加速度測定に サーボ型加速度計を 6 台,また各階層間変位測定にレーザ ー変位計を 5 台設置した。 検証解析には,前報でも使用した El Centro 波 NS 成分 (1940 年 Imperial Valley 地震)10 kine 基準化入力(図 3)

の加振結果を使用した。 図 2 鋼製 5 層試験体 振動台実験測定概要 表 1 試験体各階質量・剛性 図 3 分析対象 振動台加振波 4.2 システム同定によるモーダルパラメータ推定 振動台加振の加速度測定結果から 1 階入力に対する各階 の伝達関数を算出し,多点参照に拡張した多自由度偏分反 復法によるシステム同定を行った。 同定次数は 5 次に設定,モーダルパラメータの初期値に は,表 1 に示す構造資料から算定した。また同定対象階に

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ついては,すべての階を同定対象とした場合(CASE 1) と R 階と 3 階のみを同定対象とした場合(CASE 2)に分 けて検証解析を行った。 各 CASE における伝達関数・位相差スペクトル比較を図 4,図 5 に示す。図 4 に示す各階の伝達関数から,階によっ ては卓越が明瞭化しない帯域があることが読み取れる。こ うした場合,単点参照では高次振動数域での収束計算が発 図 4 システム同定結果(CASE 1:全階対象) 図 5 システム同定結果(CASE 2:RF・3F 対象) 表 2 システム同定結果 固有振動数・減衰定数比較 図 6 刺激関数 同定結果比較

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散してしまうが,多点参照では卓越が明瞭化している階の 伝達関数により振動特性情報を補間するため,高次の伝達関 数・位相差を高精度かつ安定的に同定出来るようになった。 また図 4 と図 5 の比較から,R 階と 3 階を厳選して同定 対象階に設定した CASE 2 でも,すべての階を同定対象階 に設定した CASE 1 とほぼ同程度の結果が得られているこ とが読み取れる。 表 2 に示した固有振動数・減衰定数から,固有値計算結 果と CASE 1,CASE 2 と比較して,数値的にも,ほぼ一 致していることが確認できる。また刺激関数の同定結果に ついては,図 6 より CASE 1,CASE 2 ともに固有値計算 結果と比較して若干の誤差が見られるが,ほぼ同形状のモ ードを再現できていることが分かる。 4.3 地震応答推定解析結果の精度比較 システム同定により求めたモーダルパラメータ(固有振 動数・減衰定数・刺激関数)をモード重合法による地震応 答解析に適用し,各階地震応答(絶対加速度・相対変位・ 層間変形角)を推定する。 ここで地震応答推定解析の推定精度は,モーダルパラメー タの同定精度に依存することになるが,固有振動数・減衰定 数については,多点参照に拡張した多自由度偏分反復法に より高精度に同定できていることを前節にて確認した。刺 激関数行列に関しては,固有値解析結果と比較して,同形状 のモードを再現できているが,微小な誤差が認められてお り,地震応答推定解析結果に影響する可能性が考えられる。 そこで本節では,ⅰ)全階を同定対象階として同定した 刺激関数行列を採用した場合と,ⅱ)試験体の構造設計資 料による固有値解析から求めた刺激関数行列を採用した場 合に分けて,地震応答推定解析の精度検証を行った。 図 7,図 8 に代表階の応答波形(絶対加速度・層間変位) 比較図を示した。2 階の絶対加速度波形については高次の 応答波形を捉えきれていないが,その他の応答波形は測定結 果と良く整合しており,概ねの傾向は再現できている。しか しながら,応答波形のピーク付近では,若干ではあるが解析 結果が下回っており誤差が認められる。また刺激関数行列 による違いを比較したⅰ)とⅱ)から,応答波形のピーク付 近では固有値解析から求めた刺激関数行列を採用したⅱ) の方が,測定結果との整合性が良好であることが分かる。 ii)構造設計資料から求めた刺激関数行列を使用した場合 i)全階同定対象時に得られた刺激関数行列を使用した場合 図 8 層間変位応答波形比較(R 階・4 階・2 階) ii)構造設計資料から求めた刺激関数行列を使用した場合 i)全階同定対象時に得られた刺激関数行列を使用した場合 図 7 絶対加速度応答波形比較(R 階・4 階・2 階)

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図 9,図 10 に採用した刺激関数行列の違いによる各階最 大応答値分布(絶対加速度・相対変位・層間変形角)を示し た。ⅰ),ⅱ)ともに測定結果の傾向を捉えているが,ⅱ)の 固有値解析から求めた刺激関数行列を採用した方が,測定 結果と整合している様子が読み取れる。ⅰ)とⅱ)の刺激関 数行列の差異は,図 6 に示す中ではごく僅かであったが, 図 9,図 10 より微小な誤差が地震応答推定解析に影響を与 えていることが分かる。そのため,刺激関数行列の同定精度 や補正方法について改めて精査しなければならない。 5.まとめ 非観測階を含めた地震応答推定手法において,システム 同定計算を高精度かつ安定的に実行するため,1 入力多出 力のせん断系質点モデルによる多自由度偏分反復法を多点 参照に拡張した。そこで,観測対象建物の同定対象階や同 定次数を汎用的に設定できるように関連式を整理し,一般 解法を示した。 多点参照への拡張したことにより,同定対象階によって は励起されにくい高次モードも高精度かつ安定的にシステ ム同定ができるように改善された。 一方で,モード重合法を利用した地震応答推定解析にお いて各次各階の刺激関数行列の同定結果が,微小な差異で あっても推定結果に影響することが分かった。 今後,地震応答の推定精度向上のため,非観測階におけ る刺激関数行列の設定方法を精査しなければならない。ま た,強非線形領域における推定精度検証も含め,より精度 高く地震応答を推定できるよう改善する。 図 9 各階最大応答値分布 図 10 各階最大応答値分布 参考文献 1) 千葉一樹,豊嶋学:システム同定を用いた非観測階の地震応答推定手法―単点参照・多自由度偏分反復法とモード重合法によ る地震応答解析―,東急建設技術研究所報 No. 41, pp. 37-42, 2016.3 2) 吉村卓也,長松昭男:モード解析に関する研究 第 9 報 多点加振に対応した最尤法に基づく曲線適合方法の提案 その 1,日 本機械学会論文集(C 編)56 巻 523 号,pp. 527-536, 1990.3 3) 千葉一樹,豊嶋学:非観測階の地震応答予測手法に関する研究 その 2 多点参照・多自由度偏分反復法によるモーダルパラメ ータ推定,日本建築学会大会学術講演梗概集,構造Ⅱ・B-2, pp. 961-962, 2016.8

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