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組織構築への寄与に関する研究

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マウス大脳皮質における細胞接着因子カド ヘリンの発現制御機構と機能領野特異的

組織構築への寄与に関する研究

Research on gene regulatory machinery for cadherin-6 and the role of classic cadherins

for elaboration of area- specific cytoarchitecture in the mouse

cerebral cortex

2016 年 3 月

江草 早紀

Saki EGUSA

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マウス大脳皮質における細胞接着因子カド ヘリンの発現制御機構と機能領野特異的

組織構築への寄与に関する研究

Research on gene regulatory machinery for cadherin-6 and the role of classic cadherins

for elaboration of area- specific cytoarchitecture in the mouse

cerebral cortex

2016 年 3 月

早稲田大学大学院 先進理工学研究科 電気・情報生命専攻 光物性工学研究

江草 早紀

Saki EGUSA

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目次

目次・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 第1章 序章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

1.1 脳領域と大脳皮質の基本構造 1.2 神経系の発生機構

1.3 大脳皮質の発生機構

1.4 大脳皮質機能領野の形成機構 1.5 細胞接着因子クラシックカドヘリン 1.6 本研究の目的と論文の概要

第2章 マウス大脳皮質における細胞接着因子カドヘリン6遺伝子発現制御機構の解明 2.1 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

2.2 実験手法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

2.2.1 LacZレポーター遺伝子カセットを有するBAC#1からゲノム領域Iの削除

2.2.2 トランスジェニックマウス系統の作出

2.2.3 脳スライスにおけるレポーター遺伝子発現解析

2.2.4 大脳皮質各層マーカー及び内側膝状体領域分けマーカーと、レポーター遺伝子

β-galとの共免疫染色

2.3 実験結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30

2.3.1 作出したトランスジェニックマウス系統

2.3.2 大脳皮質VI層、およびII/III層におけるカドヘリン6遺伝子発現調節様式

2.3.3 大脳皮質V層聴覚領域(A1)および視床内側膝状体(MGB)におけるカドヘリン6

遺伝子発現調節様式

2.4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37

2.4.1 大脳皮質領野や層に特異的な転写調節領域の特定

2.4.2 大脳皮質以外の脳領域での特異的なカドヘリン6遺伝子転写調節領域の特定

2.4.3神経接続に対応したカドヘリン6遺伝子発現調節領域の生理的意義

2.4.4 各脳領域特異的カドヘリン6遺伝子転写調節領域を用いた大脳皮質組織構築過

程の解明

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2

第3章 マウス大脳皮質機能領野組織構築における細胞接着因子カドヘリンサブクラスの発現 バランスの役割の解明

3.1 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41

3.2 実験手法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 3.2.1 実験動物

3.2.2 In situ hybridization法 3.2.3 抗体と免疫染色

3.2.4 子宮内エレクトロポレーション法を用いた生後大脳皮質IV層神経細胞に限局

した遺伝子過剰発現

3.2.5 画像取得と大脳皮質IV層組織構築及び神経細胞形態の解析

3.2.6 出生直後マウスの頬ひげの焼灼

3.2.7 解析サンプル数と統計解析方法

3.3 実験結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51

3.3.1 接線平面次元に沿ったP7の大脳皮質IV層のS1BF領域内でのクラシックカド

ヘリンの発現パターン解析

3.3.2 生後S1BFでのカドヘリン6遺伝子発現様式を可視化する

Cdh6::nlsEGFP-BACトランスジェニックマウス系統の作出

3.3.3 大脳皮質S1BF領域におけるカドヘリン6陽性神経細胞の発生期のダイナミク

3.3.4 生後大脳皮質S1BF領域IV層に限局したクラシックカドヘリン過剰発現による

バレル領域特異的組織構築への影響 3.3.4.1 比較対称実験

3.3.4.2 カドヘリン6過剰発現 3.3.4.3 カドヘリン2過剰発現

3.3.4.4カドヘリン6の接着機能を阻害しない変異分子カドヘリン6Δ過剰発

3.3.4.5 カドヘリン接着機能阻害分子cN390Δ過剰発現

3.3.5 大脳皮質S1BF IV層の棘状星状神経細胞の樹状突起の長さ及び配向性における

カドヘリン過剰発現の影響

3.3.6 大脳皮質S1BF IV層組織構築及び神経細胞における刺激入力または神経活動の

影響

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3.4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74 3.4.1 実験結果まとめ

3.4.2 接線軸平面から見た大脳皮質でのカドヘリンを介したS1BF IV層神経細胞配置

パターンの制御機構

3.4.3 S1BF領域特異的細胞組織構築を形成するバレル神経細胞の樹状突起の配向性

を決める細胞・分子機構

第4章 総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78

引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・83 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・97 研究業績・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・98

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第1章 序章

1.1 脳領域と大脳皮質

私たちヒトを含む脊椎動物の脳は、組織上の特徴から、終脳・間脳・中脳・橋・小脳・延髄 に区分され、脊髄とともに中枢神経系を構成する。また、脳神経と脊髄神経、さらには自律神 経を合わせて末梢神経系が構成される。中枢神経系と末梢神経系とは複雑なネットワークを構 成し、多様な運動制御と感覚受容を司っている。さらに、中枢神経系の脳領域はそれぞれ相互 に連絡し、記憶・学習・認知・思考・言語などの高次神経機能を発動することがわかっている。

種の進化に伴い、脊髄に対して脳が、脳の中では終脳が相対的に増大した。例えば、鳥類のニ ワトリでは脊髄の割合が脳部位全体に対して約半分を占めるが、哺乳類のヒトではわずか数%

に過ぎない。また魚類では、終脳と言えば嗅球(嗅脳)と基底核に相当する部分が大きな視蓋や小 脳の前方に位置する程度であるのに対して哺乳類のヒトでは、終脳が間脳や中脳のほとんどを 被いつくし、脳の85%を占めている(図1-1)。また、ヒトは、終脳の中でも連合野と呼ばれる皮 質領域の拡大が著しく、この領域は感覚情報の高度な統合による認知機能、複数の感覚の統合、

随意運動、情動行動、言語機能、精神機能などより高次な機能を担っていることが知られてい る。以上のことから、終脳の皮質領域は高次機能を担う物理的基盤であることが示唆される。

終脳は、嗅球、大脳を含んでいる。このうち大脳は皮質と基底核からなり,皮質は新皮質、

原皮質,古皮質からなるが、新皮質は哺乳類のみが進化の過程で獲得した領域である。なお、

原皮質は海馬、帯状回を含む領域である。この哺乳類に特異的である大脳新皮質(以後、大脳皮 質と呼ぶ)では多種多様な神経細胞が規則的に並び、特徴的な6層構造を形成している(図1-2A)。

これらの層構造は細胞形態などから区別することができ、I 層から VI 層までそれぞれ分子層 (molecular layer)、外顆粒層(outer granular layer)、外錐体細胞(outer pyramidal cell layer)、内顆 粒層(inner granular layer)、内錐体細胞層(inner pyramidal cell layer)、多形細胞層(multiform cell layer)と名付けられている。最上層は線維層、それ以外は細胞層で、各層はそれぞれ固有の神経 結合を持つ。第VI層には視床へ投射する細胞が、第V層には上丘、下丘、線条体などの皮質下 核へ投射する細胞が主に存在し、第IV層では視床からの入力を受ける細胞が、第II及びIII層に は皮質内へ投射する細胞が主に存在している(図 1-2A)。皮質の部位によっては、顆粒層が発達 した顆粒皮質(体性感覚野など)や、内顆粒層の顆粒細胞が少ない無顆粒皮質(出力が中心となる 運動野など)、皮質内に有髄線維が目立つ線条皮質(一次視覚野など)などがある(図 1-2B)。

Brodmann(1909)は、このようなヒト大脳皮質のそれぞれの皮質の層全体の厚さ,個々の層の厚 さや密度、細胞の数の違いや線維の配列の違いによって区分しうるところに番号をつけ、47領 野に分けた(図1-2C)。後にこの層の厚さなどの違いは、fMRIやPETなどの脳の活動域の計測技 術の発達により、領域特異的な層構造の違いが機能的な違いに非常に良く反映されることがわ かった。これら機能単位は現在、大脳皮質『機能領野』と呼ばれている。

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1.2 神経系の発生機構

上に述べたような脊椎動物の精緻で複雑な三次元構造を有する脳の高次機能は、そこに組み 込まれた無数の神経回路網によって司られている。この高次機能を担う脳神経回路網の発生に は、多種多様な神経細胞・グリア細胞の分化と、精密に制御された形態形成が不可欠である。

脊椎動物の神経系はまず、単純な一層の上皮細胞からなる神経板から生じる。その際、形成体 領域からの情報伝達分子の分泌により、前後方向、背腹方向の決定付けがなされる。その後、

神経板は両側端が巻き上がって融合し、神経管に形を変える。この過程では、背腹軸に沿った ソニックヘッジホッグ(Sonic Hedgehog: 以下Shh)や、Bone morphogenetic proteins(以下BMP) などの分泌因子が重要な役割を果たしていることが知られている。そして、様々な領域特異的 な転写因子が発現し、その転写因子によって制御される細胞接着分子などの表面分子が発現す ることにより神経上皮細胞の移動に制限が生じ、神経管は区画化、領域化される(Rubenstein et al., 1998)。例えば、神経管の吻側部では前脳胞、中脳胞、菱脳胞という3つの脳胞が形成され る。前脳胞はその後、終脳と間脳になる。菱脳胞はその後、菱脳節(Rhombomere)という分節構 造をとるようになる。以上のように区画化された個々の領域は、それぞれの区画・領域に応じ て個性を持った神経細胞群が分化し、同じ性質を持った細胞同士が集合して神経核や層構造を 形成する(Redies C. 2000)。さらに、各々の神経細胞群が標的に向かって軸索を伸長し、区画・

領域特異的な転写因子の下流で発現する軸索誘導分子を手がかりにシナプスが形成され、機能 的な神経回路が形成されてゆく(Yu and Bargmann., 2001, Chilton, 2006)。以上の過程を経て、

一つの神経板から複雑な細胞構造・神経回路を有する中枢神経系の各組織が形成される(図1-3)。

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( 前脳 )

( 中脳 ) ( 菱脳 ) ( 脊索 ) prosenceohalon

mesencephalon rhombencephalon

notochord tel

diencephalon (間脳)

diencephalon (間脳) telencephalon

(終脳)

telencephalon (終脳)

PCP

PCP (脊索前板)

NEURAL PLATE

E8.5 NEURAL TUBE

E10.5

A B

1-3; 中枢神経系の発生機構

(A) 胎生8.5日。 神経板の概略図。 矢印の方向へと 畳み込ま れて 神経管が形成さ れる 。

(B) 胎生10.5日。 神経管が閉じ た後の図。 こ れ以後、 分泌因子や領域特異的な 転写因子によ り 、 領域化が徐々に進む。

その結果、 個々の領域において独自の発生様式が進行し 、 各領域で 多様な 組織が形成さ れる 。 PCP; prechordal plate=脊索前板

(Role of Hedgehog and Gli Signaling in Telencephaloic Development 参照)

1.3 大脳皮質の発生機構

一般に脊椎動物の中枢神経系では、個々の神経前駆細胞がそれぞれ異なる領域で分化し、異 なる移動様式を経て集合体を形成する。ヒトを含む哺乳類で終脳の大部分を占めている大脳皮 質も、“inside-out” と呼ばれる神経細胞の行動様式によって形成される。例えばマウスにおいて は、発生期のより早い時期(胎生期(embryonic day: E)10-11日)、神経管は神経上皮細胞のみが等 分裂によって増殖している。それらのうちの一部が不等分裂を起こして分裂を終えた神経細胞 が産まれ始め、その最初の細胞群が放射状に上へ移動し、プレプレート(図1-4A PP)を形成する。

その後発生が進むと(E12-13)、新生した分裂を終えた神経細胞が垂直方向に上方移動して、プレ プレートを表層辺縁帯(図1-4A MZ)とサブプレート(図1-4A SP)に分割し、その間に皮質板(図1-4 CP)を形成する。その後さらに発生が進むと(E13-18)、後から誕生した神経細胞が先に誕生した 神経細胞を乗り越えて上方へ移動しながら皮質板内で6層構造を形成する。この6層構造は、

生後(postnatal: P)7日目までには完成される(図1-4A)。

この放射状移動する神経細胞は主に興奮性である。この興奮性の神経細胞に対して大脳皮質 には抑制性の神経細胞も存在しており、これらは大脳皮質の脳室帯(図1-4A VZ)ではなく大脳皮 質と同じ終脳領域内で隣接した領域である基底核腹側の脳室帯に由来している。基底核から放 射状移動ではなく脳表面に平行に、接線方向へと移動して大脳皮質へ進入する。大脳皮質に進 入した後は、脳室帯由来の興奮性の神経細胞と同じく放射状の移動を経てinside-out様式で最終 配置部位まで移動する(図1-4B)。この特徴的な層構造を形成するために不可欠な遺伝子として、

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Reelin タンパク質の役割がよく知られている。マウスにおいて reelin 遺伝子が欠損すると、ま

ず、プレプレートの中に神経細胞が侵入できないことから辺縁層とサブプレートの分離が起き なくなる。また、新生神経細胞が”inside-out”様式をとることができなくなるため、皮質の II 層 からIV層が逆転するという現象がおきる。このreelin遺伝子がコードするReelinタンパク質を 始めとして、最終的に細胞骨格の集合体を制御する分泌分子とそのレセプターは放射状の細胞 移動様式を誘導するための重要な役割を果たしていると 考えられている(Frotscher, 2010;

Sekine et al., 2014)。

これまでに述べてきた神経系に存在する様々な細胞は、複雑であるが規則的に細胞同士を結 合させて回路をつくり、情報伝達を行っている。この神経回路の形成は、神経細胞の軸索伸長・

経路及び標的の選択・シナプス形成によってなされる。まず、最終分裂を終え分化した神経細 胞は軸索を伸長させる。軸索は伸長の過程で接着分子や誘因分子、反発分子など実にさまざま な誘導因子を手がかりに伸長経路を決定する。その後伸長した軸索の末端は目的領域に到達し、

領域内で回路を形成すべき標的を選択し、その相手とシナプス結合を形成することで神経回路 が完成する。マウスでは、大脳皮質の層構造形成と同時期に、外界からの刺激の入力を受け取 る視床核と皮質間の視床−皮質神経軸索回路形成が始まる。具体的には、E13頃から視床軸索の 伸長及び皮質からの軸索投射が始まり、E15に視床軸索末端が皮質板下まで到達する。そして、

E18頃には皮質下神経細胞の投射が視床に達するのと共に視床軸索が皮質板への伸長を開始し、

大脳皮質層構造が完成するP7には標的層へと到達して視床−皮質神経経路をほぼ完成させる(図 1-5A)。こうして、細胞の組織構築と時期を同じくして外界の情報が皮質内に送られるようにな る(López-Bendito and Mólnar, 2003)。このあらゆる感覚情報を大脳皮質へと伝達する視床皮質 神経軸索は、機能領野ごとに個々の回路を形成している(López-Bendito and Mólnar, 2003)。例 えば、網膜から入る視覚情報は視床外側膝状核(図1-5B dLGN)を経由して大脳皮質の一次視覚野 へ送られる。またげっ歯類における頬ヒゲの体性感覚情報は、視床後腹側核(図1-5B VPM)を経 由して大脳皮質の一次体性感覚野へ送られる。さらに、運動情報は、視床の前腹側核(図1-5B

VA/VL)を経由して大脳皮質運動野へ送られている。これら視床−皮質軸索回路の形成は、Slitや

Semaphorin、Eph/Ephrinシグナルを始めとする複数の軸索誘導分子の濃度勾配発現によって制

御されていることが知られている(図1-5C; Garel and López-Bendito, 2014) 。

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caudal lateral

rostral medial Th

Ncx caudal

rostral

E13-E14 V1 E18

S1

M1 dLGNVPM

VA/VL M1

S1 V1

E12 E15 E18

Th

Ncx

DTB PSPB Th

Ncx

DTB PSPB

Th

Ncx

DTB PSPB

Th d

v

m l

L1(MZ) L2/3

L4

L5

L6a

L6b(SP)

WM MZ

CP SP IZ

VZ

MZ

CP

SP SVZ/IZ SVZ VZ

EphrinA5

Netrin-1 Sema 3A/3F

Slit1

E15 E18 P8

A

B

C

MGE LGE

SuP St

L6a

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1.4 大脳皮質機能領野の形成機構

以上のような大脳皮質の組織構築及び神経回路形成過程において、先に述べた機能領野の領 域特異性も表出される。この機能領野の領域特異性を決定するメカニズムをめぐっては当初、

内因的な“protomap”仮説(Rakic, 1988; Rubenstein and Rakic, 1999; Sur and Leamey, 2001;

Mallamaci and Stoykova, 2006; Rakic et al., 2009)と、外因的な”protocortex”仮説(O’Leary, 1989;

O’Leary et al., 2007)とを唱えるグループに二分されていた。現在では、Protomap仮説のような 内因性の遺伝的プログラムとProtocortex仮説のような神経活動入力依存的な回路機構双方が重 要であると考えられている(図 1-6)。例えば遺伝的プログラムに関しては、マウス大脳皮質の原 基前部に高濃度に発現している分泌分子Fibroblast growth factor(以下Fgf) 8が領域特異性を決 定する形態形成因子として働き、Fgf8 の発現パターンを実験的に操作して変化させることによ って皮質の領域特異性にも変化が見られることが知られている(Fukuchi-Shimogori and Grove, 2001; Grove and Fukuchi-Shimogori, 2003; Shimogori and Grove, 2005)。また、Fgf8以外にも、

WntやBMPシグナルが形態形成因子(Morphogen)として働いており、それら遺伝子の下流では、

Pax6やEmx2、COUP-TF1などの転写因子がFgf8の制御を受けて濃度勾配を保った発現様式

を示すこともわかっている(O’Leary and Sahara, 2008)。また、これら濃度勾配を保って発現し ていた転写因子の制御を受けて、大脳皮質層ではCTIP2、Fezf2、Tbr1などの転写因子が明瞭な 境界を持った発現様式を保ち、それに伴って機能領野の領域境界および特異性も形成されてい く。以上のように、皮質の機能領野を形成するために、脳室帯から皮質層に至るまで多くの転 写 因 子 が 形 態 形 成 因 子 の 支 配 下 で 発 現 し て い る こ と が 知 ら れ て い る (O’Leary and Sahara,2008; Tiberi et al., 2012; Greig et al., 2013)。一方、神経活動入力依存的な回路機構に関 しても、発生後期のマウス大脳皮質における領域特異的な遺伝子発現にとって重要な役割を果 たしている (Senft and Woolsey, 1991; Lokmane et al., 2013) 。例えば、視床後腹側核は一次体 性感覚野と、外側膝状核は一次視覚野と視床皮質回路を形成し、それぞれの領野特異的な遺伝 子発現を誘導しており、それぞれの領野における特異的な遺伝子の発現は明瞭な境界を保って いる。しかし視床特異的に転写因子Gbx2をノックアウトしたマウスでは、視床皮質軸索が欠損 し、その結果、領野特異的な遺伝子発現が乱れ、近隣の領野との境界が不明瞭になる。さらに、

視床核の大きさを変化させると、視床皮質軸索投射領域が変化し、その結果、投射先の機能領 野のパターンにも変化が見られることがわかっている(Vue et al., 2013)。以上のような知見か らこのそれぞれの機能領野における領域特異的な差異は、転写因子や視床皮質回路接続など、

実に多くの要因が複雑に組み合わさることによって成り立っていることが予想されるが、その 詳細なメカニズムに関しては不明な点が多いのが現状である。

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1.5 細胞接着因子クラシックカドヘリン

以上のように、複雑な大脳皮質組織構築様式は、各領野、層の細胞群の緻密に制御された形 態形成運動によるところが多いのは明白である。このような秩序を産み出す分子機構を解明す る手がかりとして、細胞の動態を大きく転換することが可能な接着分子の一つであるカドヘリ ンの関与が考えられる。クラシックカドヘリンは、カドヘリンスーパーファミリーの一種で、

サブクラス特異的な細胞接着性を持つ細胞膜タンパク質である(Nose et al., 1988; Takeichi, 1988)。その分子構造は、1つの細胞内ドメインと細胞膜ドメイン、5つの繰り返し構造からな る細胞外ドメインが連なる形である。そして2細胞間でトランス2量体を形成した細胞外ドメ イン同士が強固な結合を作る。また、クラシックカドヘリンの最大の特徴として、細胞内で細 胞内ドメインがカテニン分子群と結合し、カテニン分子群が細胞骨格であるアクチンと結合す ることによって細胞接着の安定性を保っていることが挙げられる(図 1-7A)。クラシックカドヘ リンはひとつの動物種あたり異なる遺伝子にエンコードされた20種類以上のサブクラスが同定 されており、細胞外ドメインどうしの認識に関わるHAVというモチーフの有無によってタイプ

I(カドヘリン2、カドヘリン 4など)と、タイプII(カドヘリン6、カドヘリン8、カドヘリン 11

など)に分類される(図 1-7B)。それぞれのクラシックカドヘリンサブクラスは異なる接着性を持 ち、質的、量的な発現差異によって細胞選別がなされる。(図1-7C;Steinberg and Takeichi, 1994)。

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クラシックカドヘリンはこのように細胞種特異的に独自の接着性を細胞に与えることにより 様々な役割を担うことが知られている。例えばニワトリの神経発生初期においては、カドヘリ ンサブクラスの発現が切り替わるタイミングと細胞分化の時期及び場所が非常によく一致して いることがわかっている (図1-8A; Hatta and Takeichi, 1986; Nakagawa and Takeichi, 1995, 1998)。また、この時期にこれらカドヘリンサブクラスの発現の切り替わりを乱すように外来性 カドヘリン遺伝子の異所的な発現を強制したり、内在性カドヘリン遺伝子の機能阻害分子を強 制発現させたりすると、神経管の分離が不完全になることが示されている(Fujimori et al., 1990;

Nakagawa and Takeichi, 1998)。さらには、マウス脳の原基においても複数のサブクラスのカド ヘリンが領域特異的に発現していることが知られている(図1-8B)。例えば終脳部では、将来の 皮質原基と外側基底核原基においてカドヘリン6がカドヘリン4と相補的な発現様式を示して おり、その発現が細胞系譜を限定する境界維持に重要であることが実証されている(Inoue et al., 2001)。これらのことから、神経発生における形態形成や分化による形態変化の過程や領域化の 維持に時空間特異的なクラシックカドヘリンの発現が非常に重要であることが示唆される (Gumbiner, 2005; Inoue et al., 2001; Takeichi, 2007; Redies, 2000; Rieger et al., 2009)。

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クラシックカドヘリンは形態形成や領域化のみならず、神経発生においては細胞移動や神経 回路網の形成・維持、シナプス可塑性など多様な役割を担うことが知られている(Hirano and

Takeichi; 2012)。大脳皮質の発生時期においては、カドヘリン2が神経細胞の移動及びその細胞

の最終位置決定に重要であることが示されている(Kawauchi et al., 2010)が、カドヘリン2以外 にも、個々の神経回路形成において多サブクラスのカドヘリンが重要な働きをしていることも わかっている。例えばカドヘリン7は小脳苔状線維の下流神経細胞とのシナプス形成や軸索伸 長制御に必須である(Kuwako et al., 2014)。また、海馬におけるカドヘリン9が発生期の海馬に おけるシナプス結合特異的な分化を制御していることも知られている(Williams et al., 2011)。さ らに、カドヘリン6のノックアウトマウスでは網膜に属する特定のカドヘリン6を強発現して いる細胞群に限局して軸索投射様式の異常が認められている(Osterhout et al., 2011)。このよう なことからも、クラシックカドヘリンサブクラスの時空間特異的発現は機能的に極めて重要で あることがわかる。

興味深いことに、発生後期である生後マウスの大脳皮質において、体性感覚野、聴覚野では カドヘリン6、運動野、視覚野ではカドヘリン8、というように様々なクラシックカドヘリンサ ブクラスが機能領野特異的に異なる発現量で発現していることが示されている(図 1-9)。また、

大脳皮質と共に複雑な神経回路を形成している他の脳領域でも、複数のサブクラスのカドヘリ ンが領域特異的に発現している。これらのことから、未だ不明な点が多い大脳皮質の機能領野 形成においてクラシックカドヘリンは重要な役割を果たしていることが予想される(Suzuki et al., 1997)。

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1.6 本研究の目的と論文の概要

大脳皮質は、進化の過程で哺乳類のみが獲得したとされる高次な機能を司る脳領域である。

その組織構築様式は様々な種類の神経細胞及び他の脳領域からの入力及び出力線維が複雑に絡 み合い放射状に6層をなすとともに、接線方向には層構造に大きな差異が認められる。この領 域による層構造の違いはその領域が司る機能の差異を反映しており、機能領野と呼ばれている。

大脳皮質層構造形成や、皮質視床神経回路形成過程については徐々に明らかになりつつあるも のの、大脳皮質機能領野形成の原理や遺伝的プログラムについては現在ほとんど不明である。

細胞接着分子クラシックカドヘリンは大脳皮質やその他脳領域において層・領域特異的に発 現する分子ファミリーである。多数のサブクラスが、発生初期から成体期に至るまで時空間特 異的に発現しており、その独特な発現様式から、大脳皮質組織構築、機能領野形成や神経回路 形成において重要な役割を果たすと考えられてきた。実際、神経発生初期における将来的な分 化領域の区画化や、一部の神経回路形成におけるシナプス結合などにおいて不可欠であること が報告されている。一方で、カドヘリン遺伝子のサイズは平均的な分子の遺伝子サイズと比較 して巨大であることや、発現様式が複雑であることなどから、それら発現様式がどのように調 節されているのかは殆ど不明である。また、単一サブクラスのカドヘリンノックアウトによる 解析が進められているものの、大脳皮質には多数のサブクラスが同時に発現しているために相 補性が発生し、顕著な表現型は認められていないため、それら機能的意義は不明瞭なままであ る。本研究は、この細胞接着分子クラシックカドヘリンの複雑な発現様式の調節機序および機 能的意義を明らかにし、それを足がかりとして大脳皮質機能領野形成原理を解明する事を目的 としている。

そのためにまず、第2章では、複雑な発現様式を持つカドヘリン 6分子の遺伝子転調節領域 の解析を行ったのでその結果を述べる。方法としては、細菌人工染色体(Bacterial Artificial Chromosome: BAC)を解析単位とした体系的な発現調節モジュール絞り込み技術を用いた。具体 的には、大脳皮質VI層、II/III層、聴覚野V層、視床内側膝状体それぞれにおける特異的なカド ヘリン6遺伝子発現に関わる転写調節領域を解析するために、これら領域でのカドヘリン 6遺 伝子発現転写調節領域を保有しているBAC#1のセグメントI解析のため新たに分割設計した。

セグメントIを解析するために作成した新しいBACをもとにトランスジェニックマウスを作出 し、それぞれのBACがもつゲノム領域が担うカドヘリン6遺伝子転写調節領域をレポーター発 現によって可視化し、それらを解析した。その結果、それぞれの脳領域でのカドヘリン 6 遺伝 子発現に関わる複雑な転写調節領域の候補を、数十 kb の範囲にまで絞り込むことに成功した。

また、大脳皮質VI層では層特異的に、II/III層については、同一層内でも機能領野によって異な る転写制御を受けていることもわかった。さらに、聴覚回路としてカドヘリン 6 を介してシナ プス接着を形成している大脳皮質聴覚野V層と背側部内側膝状体MGBdでは、同じ転写調節メ カニズムを持っている事実が今回初めて明らかになった。また、おなじ視床内側膝状体内でも、

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転写調節メカニズムが細分化されていることも確認された。以上によって、カドヘリン 6 遺伝 子の大脳皮質各層や領野特異的な発現様式は、発生のさまざまな過程の細胞・シナプス間接着 を動的に制御するべく、別個の遺伝的プログラムによって厳密に規定・制御されている可能性 が初めて示唆された。

次に第 3 章では、大脳皮質組織構築における複数のカドヘリン発現のバランスの重要性につ いて自ら改変した先進的遺伝子導入技術を用いて解析した結果について述べる。まず、マウス において特徴的な構造を持つ体性感覚野バレル領野(S1BF)における内在性のクラシックカドヘ リン発現様式をin situ hybridizationや免疫組織化学法により明確にした。次に、体性感覚野に 限局して強く発現しているカドヘリンサブクラスの1種であるカドヘリン6に着目し、BACを 基盤とするゲノム操作技術を用いてカドヘリン6を発現している大脳皮質S1BF IV層細胞の核 を標識するトランスジェニックマウスを作成した。そのトランスジェニックマウスを用いて大 脳皮質発生過程を解析することで、P5までに起こるS1BFの接線面上での細胞のバレル構造へ の集積過程を明らかにした。さらに、S1BF神経細胞や視床皮質軸索におけるカドヘリン発現の 意義を探るため、S1BF神経細胞や視床皮質軸索に発現しているカドヘリンやカドヘリンの接着 機能を阻害する分子を用いて解析を行った。従来の子宮内エレクトロポレーション法にTol2ト ランスポゾン法を合わせて用いることによって目的の外来遺伝子を安定的にゲノムに取り込ま せ、かつ生後時期に限定してS1BF IV層神経細胞に過剰発現させ、S1BF の組織構築やIV層神 経細胞の形態を観察した。その結果、S1BFにおける細胞体配置や IV層の組織構築、さらには S1BF神経細胞の樹状突起伸長や配向性に変化が見られた。また、生後マウス仔の頬ひげを焼灼 して外界からのS1BFへの刺激入力を遮断すると、バレル構造及びIV層カドヘリン6遺伝子発 現細胞の配置にも変化が見られた。さらには、細胞の活動を阻害するKir2.1分子をTol2トラン スポゾンと合わせて子宮内エレクトロポレーション法で発現誘導すると、S1BF神経細胞の樹状 突起の配向性に変化が見られた。これらの結果から、クラシックカドヘリンを介した神経細胞 の選別や視床皮質軸索集積やバレル神経細胞樹状突起の配向性が、神経活動依存的に制御され ている可能性が示された。以上のことから、大脳皮質の領域特異的な組織構築や神経細胞の形 態形成には、各サブクラスの発現バランスが重要であることが初めて明らかになった。

第 4 章では、本研究で明らかになった事実のまとめと、それらをふまえた総合的な議論及び 今後の展望について述べる。

(21)

19

2章 マウス大脳皮質における細胞接着因子カドヘリン6遺伝子発現制御機構の解明 2.1 序論

大脳皮質は、進化の過程で哺乳類のみが獲得したとされる脳領域で、思考や言語、運動制御 の高次な機能を司る部分である。また、サルやヒトなどの高等な哺乳類(霊長類)ほどより大きく 発達した大脳皮質を有していることが知られている。この構造は大脳皮質全体で一様ではなく 場所によって各層の厚さに違いが見られることが知られるが、fMRI、PET などによる脳の活動 領域の計測技術によりこの領域特異的な層構造の違いが機能的な違いに非常によく反映される ことがわかっている。これら機能単位は現在大脳皮質『機能領野』と呼ばれているが、大脳皮 質機能領野の形成原理については今のところほとんど不明である。

細胞接着分子クラシックカドヘリンは大脳皮質やその他脳領域において層・領域特異的に発 現する分子ファミリーである。多数のサブクラスが、発生初期から成体期に至るまで時空間特 異的に発現しており、その独特な発現様式から、大脳皮質組織構築、機能領野形成や神経回路 形成において重要な役割を果たすと考えられてきた。実際、神経発生初期における将来的な分 化領域の区画化や、一部の神経回路形成におけるシナプス結合などにおいて不可欠であること が報告されている。その一方でカドヘリン遺伝子のサイズが平均的な分子の遺伝子サイズと比 較して巨大であることや、発現様式が複雑であることなどから、その発現調節メカニズムの解 析は不十分である。

本研究で解析に用いているカドヘリン6は、タイプII型クラシックカドヘリンの一種である。

これまでの解析によって、発生期において、時期及び領域特異的な発現様式が明らかになって おり、個体の形態形成や組織構築におけるその特異的発現の役割が様々に報告されている。例 えばマウスの神経発生初期においてはrhombomere(菱脳分節)特異的な発現様式で区画の境界を 規定していることや、将来大脳皮質と線条体になる領域の境界を維持する役割を担うことなど が報告されている(Inoue et al., 1997, 2001)。マウス大脳皮質発生期には、E14前後から脳室帯 及び皮質板で勾配上の発現が見られはじめ(Inoue et al., 2008a)、P2マウス大脳皮質では聴覚野、

体性感覚野に発現が限局し始めるという知見がある (Suzuki et al., 1997; Inoue et al., 1998)。さ らにP7には明瞭な発現境界を形成しはじめ、将来の体性感覚野や聴覚野に対応するような強い 発現が見られる。また、大脳皮質だけでなく視床核にも発現しており、体性感覚及び聴覚系の 神経回路に限定して発現していることも知られている(Inoue et al., 1998; Suzuki et al., 2007,

Inoue et al., 2008b)。さらに最近、生後脳においてカドヘリン6遺伝子の発現境界が、大脳皮質

機能領野間の形態的な境界を規定することも示された(Terakawa et al., 2013)。また、カドヘリ ン 6 のノックアウトマウスでは網膜に属する特定の細胞群の軸索投射様式に異常が見られ、軸 索ガイダンスによる神経回路構築におけるカドヘリン 6 の重要性も示唆されている(Osterhout et al., 2011)。

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20

ある特定の遺伝子の機能を調べる場合、まずその遺伝子の発現メカニズムを解析するのが一 般的である。遺伝子の発現メカニズムを制御しているのは遺伝子配列内の転写調節領域で、染 色体上の様々な領域に散在している。これら領域を同定するための解析方法として、トランス ジェニックマウスを利用したレポーター遺伝子発現解析がおこなわれてきた(図 2-1)。これは、

プラスミドベクター上で標的の遺伝子の転写調節領域にレポーター遺伝子を連結し、その修飾 したベクターをもとにトランスジェニックマウスを作成するものである。ここでレポーター遺 伝子の発現様式と目的遺伝子の内在性発現とを比較すれば、その遺伝子の発現に重要な転写調 節領域を同定することができる。しかしながらプラスミドベクター内で扱えるゲノム断片の長 さは限られており、かなり巨大な遺伝子座をもつクラシックカドヘリンの解析には不向きであ っ た(Asami et al., 2011)。 そ こ で 本 研 究 で は 、 細 菌 人 工 染 色 体(BAC; Bacterial Artificial Chromosome)を用いて解析を行った。

受精卵採取

DNA 顕微注入

DNAを 顕微注入し た受精卵を 偽妊娠状態の雌マウスの卵管に移植

2-1 : ト ラ ン ス ジ ェ ニッ ク マ ウス作成過程

作成し たコ ン スト ラ ク ト を 用いて 、 ト ラ ン ス ジ ェ ニッ ク マ ウス系統を 作出し た。 作製し たコ ン スト ラ ク ト を 精製し たも のを 受精卵前核へ顕微注入し 、 仮親の卵管へ移植する こ と によ っ て 行う 。 得ら れた遺伝子改変マウス は系統化し 、 その 仔を 用いて レ ポータ ー発現を 解析する 。

受精卵前核

系統化し て解析

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21

BACは、100 kb以上のゲノム配列を安定的に保持することができ、カドヘリンのような巨大

な遺伝子座の解析に適している。また、各生物種ゲノム配列解読プロジェクトのために作成さ れたBACライブラリーが存在し、当該生物種の全染色体が網羅されている。このためそれらデ ータベース上から目的の遺伝子座を包括するBACを容易に入手することができる。これらBAC クローンを用いて転写調節領域を解析するために、プラスミドベクターの場合と同じようにレ ポーター遺伝子を当該ゲノム領域内へ挿入する。このとき、BACが標的遺伝子の翻訳開始コド ンを含んでいる場合は相同組換えによって、BACが標的遺伝子の翻訳開始コドンを含まない場 合はレポーター遺伝子を含むトランスポゾンを大腸菌間の接合を介して転移させることでレポ ーター遺伝子挿入を行う。これら修飾済みのBACクローンを用いてトランスジェニックマウス を作出し、そのマウスでレポーター遺伝子が発現することによって標的遺伝子の発現様式が再 現されることになる。

このような解析方法を用いて、カドヘリン6遺伝子発現様式の制御機構を明白にするために、

5’側及び3’ 側で数100 kbに渡るカドヘリン6遺伝子座を網羅的にカバーするBACを用いた体

系的解析が現在進行中である (Inoue et al., 2008; Inoue YU et al., 2008; 図2-2)。具体的には、

LacZレポーター遺伝子カセットによって修飾を施したBAC#1〜#5がカバーする遺伝子座の領 域の違いによって、カドヘリン6遺伝子転写調節領域を便宜的に10のセグメントに分割し、こ れらの修飾したBACクローンを有するトランスジェニックマウスを作出すると、BACに含まれ ているセグメントの違いに応じてレポーター遺伝子が発現し、特定の細胞群が標識されること がわかっている(図 2-2)。それらのレポーター発現様式を見比べることによって、空間特異的な 遺伝子転写調節領域の働きを推測することができる。ちなみに、聴覚野Ⅳ層でのカドヘリン 6 遺伝子転写調節領域は10のセグメントのうちBAC#1のみが持つ約85kbのセグメントIにある ことが確認されている(図 2-2)。さらには、聴覚系の神経回路である内側膝状体、皮質 II/III 層、

V/VI層でのカドヘリン6遺伝子転写調節領域も、BAC#1のみが持つセグメントIが担っている ことが予測されている(図2-2)

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22

E

2- 2: カ ド ヘリ ン6遺伝子の転写調節領域と 生後大脳皮質で のカ ド ヘリ ン6発現様式のレ ポータ ー遺伝子によ る 可視化 (A-D) マ ウス カ ド ヘリ ン 6 遺伝子と その前後数300~400 kbにわたる ゲノ ム領域を 上図で 表し て いる 。 こ のゲノ ム領域は、

LacZレ ポータ ー遺伝子カ セッ ト によ っ て 修飾さ れたBAC#1#6がカ バーする 遺伝子座の領域の違いによ っ て 、 便宜的 10のセグメ ン ト に分割さ れて いる 。 こ れら の修飾さ れたBACク ロ ーン を 有する ト ラ ン ス ジ ェ ニッ ク マ ウス を 作出す る と 、 個々のク ロ ーン に含ま れて いる 遺伝子転写調節領域に従っ て レ ポータ ー遺伝子が発現し 、 特定の細胞群が標識さ れる 。 それら のレ ポータ ー発現様式を 見比べる こ と で 空間特異的な 遺伝子転写調節領域の働き が推測で き る 。 こ れらBA Cク ロ ーン を 有する ト ラ ン ス ジ ェ ニッ ク マ ウス のP7の大脳皮質の前額断面切片における レ ポータ ー遺伝子発現の様子を 下に並べた。 こ れら のレ ポータ ー発現様式を 見比べる と 、 空間特異的な 遺伝子転写調節領域の働き が推測で き る 。 (Inoue et al., 2008引用)

(E)BAC#1を も つマ ウス 脳で のみレ ポータ ー発現の様子。 転写調節領域は10に分割さ れたセグメ ン ト のう ち 、BAC#1 みがカ バーし ている Ⅰのセグメ ン ト (左上図の遺伝子座のう ち 一番左の赤い部分)内には、 聴覚野 V 層、 聴覚神経回路で ある 内側膝状体、 大脳皮質Ⅱ/Ⅲ層、Ⅵ層で のカ ド ヘリ ン 6 転写調節領域がある こ と がわかっ て いる 。

VP: 視床後腹側核 MG: 視床内側膝状体 IC: 中脳蓋下丘 DC: 腹側蝸牛神経核 ECu: 外側楔状束核 Sp5: 三叉神経脊髄路核

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本章では、先に述べた大脳皮質VI層、II/III層、聴覚野V層、視床内側膝状体それぞれにおけ るカドヘリン6遺伝子発現に関わる転写調節領域を解析した結果を述べる。これら領域でのカ ドヘリン6遺伝子発現転写調節領域を保有していることがすでにわかっているBAC#1のセグメ ントI解析のため、セグメントIを分割設計し、新たなBACを3種合成した。それら作成した 新しいBACをもとにトランスジェニックマウスを作出した。その後、それぞれのBACがもつ 遺伝子座が担うカドヘリン6遺伝子転写調節領域をレポーター発現によって可視化し、さらに、

各種大脳皮質層や領域特異的なマーカーとの共免疫染色などによって解析した。その結果、そ れぞれの脳領域でのカドヘリン6遺伝子発現に関わる複雑な転写調節領域の候補を、数十kbの 範囲にまで絞り込むことに成功し、大脳皮質VI層では層特異的に、II/III層については、同一層 内でも機能領野によって異なる遺伝子転写制御を受けていることがわかった。また、聴覚回路 としてカドヘリン6を介してシナプス接着を形成している大脳皮質聴覚野V層と視床の背側部 内側膝状体MGBdでは、同じ転写調節メカニズムを持っている事実も今回初めて明らかになっ た。さらには、おなじ視床内側膝状体内でも、転写調節メカニズムが細分化されていることも 確認された。以上の結果から、カドヘリン6遺伝子の大脳皮質各層や領野特異的な発現様式は、

発現部位特異的に個々の遺伝的プログラムによって厳密に規定・制御されている可能性が初め て示唆された。

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24

2.2 実験手法

2.2.1 LacZレポーター遺伝子カセットを有するBAC#1からゲノム領域Iの削除

これまでの BAC のレポーター解析により、聴覚野におけるカドヘリン 6 転写調節領域は BAC#1のSegment I(mm9 chr15:13264737-13177888; 86849 bps)に存在することが示されてい る(図2-2; Inoue et al, 2008)。このSegment Iから聴覚野におけるカドヘリン6遺伝子発現の転 写調節領域を絞り込むため、ECR Browser (http://ecrbrowser.dcode.org/) というバイオインフォ マティクスツールを参照しながら、3種類の新しいコンストラクトを作成した(図 2-3)。それぞ れのコンストラクトは、BAC#1からSegment I – i(35738 bps)、ii(35501 bps)、iii(35113 bps)の 転写調節領域を削除したものである。なお、これらの削除した領域はそれぞれが重なりを持っ ているので、3つのdeletion seriesによってSegment Iを5分割(a~e)したことになる(図2-3)。

それぞれのコンストラクトは、削除した領域をもとにΔSegment I - i、ΔSegment I - ii、ΔSegment

I - iiiと名付けた(図2-3A)。これらのコンストラクトは、BAC内での相同組換えの原理を応用し

てアンピシリン耐性遺伝子カセット(Amp-r)の挿入を以下の方法で行うことにより作成した。

まず、BAC#1に対して長い領域であるSegment I - i~iiiを削除するために、それぞれの標的領 域の両外側(5’側、3’側)に対する相同領域(5’homology arm, 3’homology arm)を順に有するコンス トラクト Rec; HA(homology arm)を作成した(図2-3B)。これらのコンストラクトは、それぞれ の相同領域をBAC#1をテンプレートにしてPCR法で増幅し、ライゲーションによって接続し たものである。以下にそれぞれのコンストラクトを作成するためのプライマー配列を記す。下 線部は、プライマー配列に付加したEcoRV制限酵素認識部位であり、結果として5’側相同領域

の3’末端と3’側相同領域の5’末端にEcoRVの認識部位が付加されることになる。この酵素は平

滑末端で塩基配列を切断するため、双方の相同領域に平滑末端化した任意の遺伝子を挿入する ことができるという利点を有している。

PCR Primer

Segment I - i: 5arm-F; 5’-TGCCTGTATTGCTGCATTTCTGGGATC-3’

5arm-R; 5’-GATATCTTAGACTCTTTCGTCCAGGGC-3’

3arm-F; 5’-GATATCATCCAGCTTCACAGATAATAG-3’

3arm-R; 5’-AGGTCCAGGTTTGGTGACACACAAAAA-3’

Segment I - ii: 5arm-F; 5’-TACCATACTCAGAAGGCAGCATTTCAT-3’

5arm-R; 5’-GATATCGTATACATACTTACGAGCTTG-3’

3arm-F; 5’-GATATCGTATACATACTTACGAGCTTG-3’

3arm-R; 5’-TAACTTGGGTTTTAAATGTTTGCCCTC-3’

Segment I - iii: 5arm-F; 5’-GTTGCAACAACAGAGCTTTTTTGTCAC-3’

5arm-R; 5’-GATATCATCTGGCTGGGCTTATAGAAA-3’

3arm-F; 5’-GATATCGTTGTGTCCTGAAAAACCTCT-3’

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3arm-R; 5’-GGTTATGCCAGCAAAGGTTTTGAGAAA-3’

次に、それぞれのコンストラクトの相同領域の Homology arm 間に Amp-r を挿入し、Rec;

Amp-r→HAを作成した(図2-3C)。このとき、EcoRV制限酵素処理を施して開いた相同領域間に、

SmaI制限酵素処理によって平滑末端化したAmp-rを接続した。

最後に、BAC#1に対してRec; Amp-r→HA断片を用いて相同組換えを行い、ΔSegment I-i~iii のコンストラクトを完成させた(図2-3D)。具体的に相同組換えを受けるBAC#1は予め大腸菌株 EL250(Lee et al., 2001)にエレクトロポレーション(1 mm幅電極キュベット、電圧1.5 kV)により 導入した。1.5 kVの電圧付加後、BACベクター上のクロラムフェニコール耐性遺伝子によりBAC が導入された大腸菌クローンのみを選択した。この菌株を、薬剤を含まないL-ブロス50 ml、32℃ で濁度(OD600)が0.5に達するまで培養し、そのうち15 mlに42℃、15分間の熱処理を加え、

さらに別の15 mlをコントロールとして熱処理を加えずに32℃に維持した。これら2種の培養 菌液を氷上で15分間冷却後、遠心により菌体を集め、氷冷水で洗浄してエレクトロポレーショ ン時に高い形質転換効率を持つ状態(エレクトロコンピテントセル)に保った。前述のコンストラ クトを精製し、これらエレクトロコンピテントセルに200 ~ 300 ngをエレクトロポレーション

(1 mm幅キュベット、電圧1.8 kV)により導入した。エレクトロポレーション後の培養菌液を2

時間、32℃の用件下のもとSOC培養液1 mlで培養後、クロラムフェニコール12.5 μg/ml及び アンピシリン20 μg/ml含有L-ブロス寒天培地上で培養して相同組換えによってAmp-rが挿入さ れたBACを含む大腸菌のみを選択した。熱処理を施した菌体からは 50個程度のコロニーが得 られ、熱処理をしていないコントロールではまったくコロニー増殖は見られなかった。選択し た大腸菌からBACを精製し、数種類のプライマーの組み合わせによるPCR増幅を行ない、相 同組換えが正しく起こっていることを確認した。以下に、確認PCRに用いたプライマー配列を 示す。

PCR Primer

Amp-FR : 5’-AAAGGATCTAGGTGAAGATCC-3’

Amp-RR : 5’-CGAAAAGTGCCACCTAAATTG-3’

Segment I - i 3arm-RR : 5’-ATGCCACGTCAGTCTAGAGGAATCAGT-3’

Segment I - ii 3arm-RR : 5’-CTTTGGGGAGTCAGGAACAGAAAGTTA-3’

Segment I - iii 3arm-RR : 5’-AAGAAGAACAGAGGCCACTAATGTCCA-3’

PCRによる検証に加え、パルスフィールド電気泳動(PFGE, 6 V/cm, 18.5時間)を行い、これら 検定の結果、適切にBACコンストラクトを作成できていることを確認した。

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2.2.2 トランスジェニックマウス系統の作出

受精卵に顕微注入するDNAは以下のように調整した。BACコンストラクトを有する大腸菌株

を、1500 mlの液体培養で増殖させ、塩化セシウム密度勾配を用いた超遠心分離法により、BAC

DNAを精製した。BACベクター上に一カ所のみ存在するメガヌクレアーゼPI-SceI認識部位の 切断によって線状にし、フィルター膜(ミリポア VMWP2500、0.05 μm孔径)を用いて顕微注入 用緩衝液に対して透析を行なった。その後、最終濃度1 ~ 2 ng/μlとなるように顕微注入用緩衝 液で希釈した。BAC DNAはパルスフィールドゲル電気泳動法(BioRad)により、大きさと質に問 題がないことを確認した。顕微注入用緩衝液の組成は、10 mM Tris-HCl緩衝液pH 7.5、0.1 mM EDTA、100 mM NaCl、100 mM Polyamines Mixとした。

全ての動物実験は、日本学術会議ガイドライン及び国立研究開発法人 国立精神・神経医療 研究センター小型実験動物管理委員会(プロジェクト2007022)の指針に従って行った。マウスは、

B6C3F1(日本チャールズ・リバー)を使用し厳密にコントロールされた照明下(午前8時点灯、午

後8時消灯)で飼育した。交配後、膣栓を確認した日をE0.5として、胚の正確な発生段階はTheiler に準じて決定した(Theiler, 1972)。

トランスジェニックマウス系統の樹立は、受精卵前核へのDNA顕微注入,仮親卵管への移植 によって行った。受精卵採取用の野生型雌マウス(4週齢)には、卵採取の3日前の午後3時に10 単位(international units; IU)のPMSG(セロトロピン、あすか製薬)を腹腔内投与し、さらに前日正

午に10単位のhCG(ゴナトロピン、あすか製薬)を投与することによって過排卵を誘発した、過

排卵誘発後の野生型雌マウスを野生型雄マウスと交配して受精卵を得た。偽妊娠状態の仮親は、

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28

野生型雌マウス(8 ~ 12週齢)を、精管結紮処置を行った野生型雄マウスと交配することによって 準備し、Avertin(2,2,2-Tribromoethanol、シグマアルドリッチ)による麻酔下で DNA を顕微注入 した受精卵を卵管内に移植した。

遺伝子判定は、トランスジェニックマウス個体の尾を採取し、100 μg/mlプロティナーゼK(和 光純薬)を含む緩衝液(10 mM Tris-HCl緩衝液pH 7.5、100 mM NaCl、1 mM EDTA、1 % SDS) で55℃、数時間溶解した検体を用いた。これらは95℃、15分間加熱して酵素を失活させた後、

フェノール/クロロホルムによる蛋白抽出を行い、PCRの鋳型として用いた。遺伝子型判定は、

レポーター遺伝子カセット(LacZSV40polyA)の3’末端を以下のプライマーを用いてPCR増幅に よって行った。

(LacZstopF : 5’-CAAAAATAATAATAACCGGGC-3’) (SV40-R : 5’-AGACATGATAAGATACATTGA-3’)

また、BACトランスジェニックマウスの場合、染色体に挿入されたBACに欠失が起こる場合 があるので以下の2組のプライマーを用いて BAC ベクターの PI-SceI 切断部位の両端配列を PCRによって増幅し、その存在を確認した。

プライマーセット1 : pBAC-3 : 5’-GCGCGCCAATAGTCATGC-3’

: pBAC-2 : 5’-GCCGCAAATTTATTAGAGCA-3’

プライマーセット2 : pBAC-F1 : 5’-ACAGCAGCAAAACGAAAAAT-3’

: pBAC-R1 : 5’-CTGAACGTTCTGATATGTTT-3’

得られた初代トランスジェニックマウス、または第1世代、第2世代トランスジェニックマ ウスを野生型B6C3F1マウス(日本チャールズ・リバー)と交配し、その仔を解析に用いた。出産 日をP0とした。

2.2.3 脳スライスにおけるレポーター遺伝子発現解析

解析に用いた初代〜第2世代トランスジェニックマウスはヘミ接合体であるので、野生型マ ウスとの交配によって 50%の確率で外来遺伝子を持つ仔が得られると予想される。外来遺伝子 を持つ仔の脳だけを効率よく切片にするために、P6のマウス仔から尾を採取し、100 μg/mlプ ロティナーゼK(和光純薬)を含む緩衝液(10 mM Tris-HCl緩衝液pH 7.5、100 mM NaCl、1 mM

EDTA、1% SDS)100 μlを加え、55℃に保ちながら1 ~ 1.5時間程度で溶解させた。溶解した尾

部サンプルは、95℃、15分間加熱後、フェノール/クロロホルムにより蛋白質除去抽出を行い、

PCR の鋳型として用いた。遺伝子型判定は、先ほどの 2.2.2 で述べた通り、レポーター遺伝子 カセット(LacZ SV40 polyA)の3’末端をPCR増幅することによって行った。

PCR による遺伝子型判定で外来遺伝子を持つことが確認された仔は P7 に氷冷麻酔下で頭部 を分取し、氷冷したタイロード溶液中で脳を取り出した。それらを、1 %パラホルムアルデヒ

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ド、0.1 %グルタルアルデヒド、2 mM塩化マグネシウム、5 mM EDTAを含むリン酸緩衝生理食

塩水(PBS;pH 7.4)中で80分間、氷上固定した。固定後の脳はPBSを用いて洗浄した。

固定後、よく洗浄した脳サンプルを、2 %アガロース/PBS に包埋後、マイクロスライサー

(DTK-3000、DSK)を用いて、500 μm厚のスライスを作製した。スライスは、染色液(5 mMフェ

リシアン化カリウム、5 mMフェロシアン化カリウム、2 mM塩化マグネシウム、0.01 %デオキ シコール酸ナトリウム、0.1 % X-gal(和光純薬))に浸し、37℃で染色反応を行って、β-ガラクト シダーゼ活性を検出した。染色後の切片は、PBSで洗った後に5 mM EDTA、1 %パラホルムア ルデヒド、0.1 %グルタルアルデヒドを含むPBSに浸し再び4℃で固定した。染色した切片は、

PBSを満たした2 %アガロースゲル上に置き、カバーガラスをかけてCCDカメラ(Leica FX300) を装着した双眼実体顕微鏡(Leica MZ8)で観察、写真撮影を行った。

2.2.4 大脳皮質各層マーカー及び内側膝状体領域分けマーカーと、レポーター遺伝子β-galとの

共免疫染色

本研究で使用した一次抗体とその濃度は、抗 β-gal(1:6000; chick; Abcam)、抗 Tbr1(1:6000;

rabbit; Chemicon)、抗 Cux1(1:6000; rabbit; Santa Cruz)、抗 Ctip2(1:6000; rat; Abcam)、抗 Calretinin(1:1000; mouse; Chemicon)である。二次抗体については、Alexa-Fluor 488(1:600; chick;

Molecular Probes; #A11039)、Alexa-Fluor 594(1:600; rabbit, rat; Molecular Probes; #A21207,

#A21209)である。染色手法は以下に示す。マウスは氷上麻酔を施し、4%PFA/PBS(pH7.4)溶液 によって環流固定した。灌流固定したマウスを解剖して大脳皮質を取り出し、4 % PFA/PBS(pH

7.4)溶液中で2時間半、氷上固定した。固定後PBS溶液によって洗浄したサンプルを、10 %、

20 %、30 % Scrose/PBS 溶液それぞれに 4℃下で一晩ずつ浸して Sucrose 置換した後、

Tissue-Tek OCT compound(SAKURA)によって包埋して凍結した。次にこれらサンプルを用いて、

厚さ16 μm厚の氷結切片を作成した。作成した切片は、2 % Skim Milkを含む0.1 % Triton-X100 溶液(=Blocking Buffer)で4℃下1時間Blocking処理を施し、1次抗体を含んだ前述のBlocking

Bufferで4℃下1日間静置した。1次抗体処理したサンプルはPBS溶液にて洗浄し、2次抗体

を含む0.1 % Triton-X100/PBS溶液によって室温下で2.5時間処理した。このサンプルを再び

PBS溶液で洗浄した後、PermaFluor Aqueous Mounting Medium(Thermo)を用いてスライドグラ ス上で標本にした。サンプルの蛍光画像はLeicaDM5000Bによって取得した。

(32)

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2.3 実験結果

2.3.1 作出したトランスジェニックマウス系統

トランスジェニックマウス系統作出のため、各BACコンストラクトについて、それぞれ2回 ずつ顕微注入実験を行った。その際に採られた受精卵のうち、正常に受精していて前核がはっ きり見えるものに BAC コンストラクトを顕微注入し、顕微注入後に仮親の卵管内に移植した。

生まれてきた仔のうちトランスジェニックマウスであったファウンダー(F0)の数はそれぞれ、5 匹(ΔSegment I - i)、12匹(ΔSegment I - ii)、9匹(ΔSegment I - iii)であった。得られたトランスジ ェニックマウスは全て系統化し、野生型B6C3F1(日本チャールズ・リバー)と交配した仔F1を 以下の解析に用いた。

2.3.2 大脳皮質VI層、およびII/III層におけるカドヘリン6遺伝子発現調節様式

大脳皮質VI層においては、ΔSegment I – i / iiiトランスジェニック系統では強いレポーター遺 伝子発現及び大脳皮質層マーカーTbr1とβ-galの共発現が確認され、ΔSegment I - iiトランスジ ェニックマウス系統では確認されなかったので、Segment I – iiがもつ転写調節領域内にあり、

かつSegment I - i/iiiにはないSegment I “c”が大脳皮質VI層特異的なカドヘリン6遺伝子発現調 節領域であることが推測された(図2-4,5)。

大脳皮質II/III層については背側部での発現について、ΔSegment I-i/iiトランスジェニックマウ ス系統では強いレポーター遺伝子発現及び大脳皮質II/III層のマーカーであるCux1とβ-galとの 共発現が確認され、ΔSegment I - iiiトランスジェニックマウス系統では確認されなかったこと から、Segment I - iiiがもつ転写調節領域内にあり、Segment I - i/iiにはないSegment I “e”が大

脳皮質II/III層特異的なカドヘリン6遺伝子転写調節領域であることが予測された。一方で、II/III

層側部でのレポーター遺伝子発現及びCux1とβ-galとの共染色は、どのトランスジェニックマ ウス系統でも確認できた。このことから、大脳皮質II/III層側部におけるカドヘリン6遺伝子転 写調節領域は、Segment I以外の部分にあることが示唆された(図2-4,5)。

(33)

31

P7

Segment I - i Segment I - ii Segment I - iii BAC #1 Tg

Lac Z P7

Postnatal Day7

LayerⅡ/Ⅲ Layer Ⅵ Rostral

a b c d e

Segment I - i

10kb

Segment I

SS

BGZ40

SS

BGZ40

SS

BGZ40

f

++

A B C

2- 4: BAC#1およ び ト ラ ン ス ジ ェ ニッ ク マ ウス の大脳皮質層特異的なLacZレ ポータ ー遺伝子発現 様式

LacZレ ポータ ー遺伝子カ セッ ト を 挿入し たBAC#1およ び を 安定に保持し て いる ト ラ ン ス ジ ェ ニッ ク マ ウス 系統を 用いてP7の脳の前額断面切片を 作製し 、X-gal染色によ り 大脳皮質層における レ ポータ ー遺伝子発現を 調 べ、 切片の片側面を 観察、 撮影し た。

(A) BACを 持つト ラ ン ス ジ ェ ニッ ク マ ウス で は、 大脳皮質II/III層側部及び背側部、VI層で のLacZ発現 が確認さ れた。 全5系統を 解析し た内、 系統#4を 代表例と し て示し た

(B) BACを 持つト ラ ン ス ジ ェ ニッ ク マ ウスで は、 大脳皮質II/III層側部及び背側部で のLacZ発現が確認 さ れた。 全9系統を 解析し たう ち 、 系統#3を 代表例と し て 示し た。

(C) BACを 持つト ラ ン スジ ェ ニッ ク マウス では、 大脳皮質II/III層背側部及び大脳皮質VI層でのLacZ 発現が確認さ れた。 全12系統を 解析し たう ち 、 系統#6を 代表例と し て 示し た。

+: 強いレ ポータ ー発現、  ー; レ ポータ ー発現は検出限界以下、

++

Dorsal

Lateral

(34)

32

Original BAC Segment I - i Segment I - ii Segment I - iii

Lac Z P7

Scale Bar; 50

Tbr1

Postnatal Day7

Rostral

b c d e

10kb

SS

BGZ40

SS

BGZ40

SS

BGZ40

f

Cux1

A B C

D E F

f e c

G

参照

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