• 検索結果がありません。

「早稲田漫画文庫」の設置について

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "「早稲田漫画文庫」の設置について"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

−4−

早稲田大学図書館では、このほど「早稲田漫画 文庫」を設置して、漫画とその関係資料を収集し てゆくこととした。

発案者は浦川前図書館長で、以前、総長室を通 して『手塚治虫全集』が図書館に寄贈された際に もその構想をもらされていたが、2002 年 2 月ごろ から、創部 50 年の歴史を持つ「早稲田大学漫画研 究会」OB有志の方々のご協力を得て、文庫設置 の本格的検討に入った。

早稲田大学図書館には「稲門ライブラリー」と いう特殊コレクションがある。稲門出身の作家・

詩人・評論家など、主として文芸の分野で傑出し た業績をあげた人々を顕彰し、その著作や関係資 料を収集するというもので、濱田館長時代に発足 し、収集をはじめてから現在まで十数年の間に、

きわめて内容の充実したコレクションになってき ている。その擁する資料の多くは、たとえば井伏 鱒二氏が生前ご寄贈下さった貴重な初版本のコレ クションをはじめ、寄贈によって集まったもので ある。

「早稲田漫画文庫」もほぼこの「稲門ライブラリ ー」の収集方法を踏襲し、早稲田大学出身のマン ガ家さんたちに、まず資料の寄贈を呼びかけるこ とから始めた。2002 年 6 月、漫画研究会の主だっ た OB ・ OG のみなさんに宛て、つぎのような設立 趣意書を発送した。

「早稲田漫画文庫」設置にあたって 現代文化の中で、漫画(マンガ)はきわめ て大きな存在です。それは単なる子ども向け の娯楽、若年層におけるサブカルチャーの域 にとどまらず、世代を超えてメッセージを伝 える表現手段となっています。今や、マンガ は、印刷媒体のみならずアニメーション映画 の手法によって、日本発の文化として世界に も大きな影響を与えつつあります。

こうした、現在にいたるまでのマンガ文化

の中で、稲門に関わる作家および雑誌編集者 たちがこれまで果たしてきた役割は、きわめ て大きなものがあったと思います。

しかし、残念ながら、マンガやアニメーシ ョンに関わる資料を体系的に収集し、保存し ようとする機関はきわめて少なく、このまま では、世界に誇るわが国のマンガ文化に関す る資料が散逸し、消滅する危険もなしとしな いと言わざるを得ません。

そこで、早稲田大学図書館では、この度、

「早稲田漫画文庫」を設置して、マンガ文化の 発展に大きな役割を果たした稲門にかかわる マンガ・アニメーション作家やマンガ雑誌編 集者等の関係資料を中心に、新たにコレクシ ョンを形成し、後世の研究に資することを期 したいと考えます。

早稲田大学図書館では、さきに、稲門の作 家・詩人の著作を収集する「稲門ライブラリ ー」というコレクションを発足させており、

現在も収集構築が進行中です。「早稲田漫画文 庫」もこれに準じ、収集を進めてまいりたい と存じます。

この趣旨にご賛同くださる方々の積極的な ご協力を期待します。

ここにある趣旨を要約すれば、漫画(マンガ)

は、現代日本を特徴づけるすぐれた文化のひとつ であり、その散逸をいくらかなりと防いで収集・

保存し、後世の研究資料となるようなコレクショ ンを構築しようということである。

たしかに『パリ・シャリヴァリ』(Paris  Cha- rivari)や『パンチ』(Punch)のように、また、わ が国明治初年の『団団珍聞』(まるまるちんぶん)

やビゴーの絵のように、漫画は政治諷刺や世相風 俗をとどめる貴重な同時代資料として得がたいも のであるが、また、粗製濫造され、消耗品のよう に扱われる出版物でもあるため、散逸の危険も大

「早稲田漫画文庫」の設置について

松 下 眞 也 (図書課長)

(2)

きい。新刊書店や BOOKOFF にならぶ百花繚乱の マンガ本たちも、十年後、二十年後にはいかほど 残っているかとなるときわめて心もとない。

漫画文庫の収集対象として次の8項目をあげた。

1 早稲田大学出身および関係の漫画家の作品

(単行本)

2 漫画史上重要な作品(単行本、雑誌)(和 洋)

3 漫画の原画(原稿、絵コンテ)

4 著名な漫画家の色紙、関係資料、伝記資料

5 アニメの原画(セル画)

6 アニメ映画ポスター、プログラム等関係資

7 マンガに関わる雑誌編集者等の保有する関 係資料

8 その他関係資料(キャラクター商品など)

反応はすぐにあった。漫研草創期の作家・紫藤 甲子男さん、遠間昌平さんなどから「趣旨に賛同 します」というお手紙とともに著書などが送られ てきた。『ビッグコミック・スピリッツ』に連載さ れていた『おごってジャンケン隊』の作者現代洋 子さん、『ひみつな奥さん』などの星崎真紀さんな ど、比較的若手の漫画家からも、著作のご寄贈が 相次いだ。雑誌『ガロ』数十冊の寄贈や、コレク ターの間では「全揃いは垂涎の的」といわれてい る季刊誌『コミックばく』全巻の寄贈もあった。

浦川館長も漫研 OB の三木さんたちとともに故 福地泡介さん、故園山俊二さんのご遺族を訪問し て、協力を依頼した。松下・岩佐が東海林さだお さんの仕事場をお訪ねして、早稲田漫画文庫の趣 旨を説明しご協力をお願いしたところ、東海林さ んは、氏が漫研に入った大学一年、昭和 32 年のこ ろの貴重な漫研部員の寄せ書き帖(原本)を寄贈 して下さった。

10 月 28 日、大学の広報課より、プレスリリース として「早稲田漫画文庫設置」を流し、また大学 の HP にも掲載したところ、毎日、日経、読売、共 同はじめ問い合わせと取材が相次ぎ、新聞報道も された。なかでも、11 月 14 日(木)の読売新聞朝 刊「顔」というコラムには、浦川道太郎館長が笑

顔の写真つきで登場したので、読まれた方も多い かと思う。

マンガを研究資料としてとりあげる研究者がふ えているのは事実で、京都精華大学には「漫画学 科」があるし、川崎市民ミュージアムなど、資料 として漫画の収集を本格的に行っているところも ある。しかし、日本全国からみればまだまだ数は 少なく、すでに質量ともに巨大な文化遺産となっ ているマンガを体系的に資料として整理している ところはほとんどないと言ってもよい。一般の認 識もまだ低く、一部の熱心なコレクターはオタク 化しており、総体として、まだマンガはサブカル チャーとしての位置づけから脱却しきれていると は言いがたいことも、また現実といえるのである。

「早稲田漫画文庫」は、今、収集の長い道のりに 踏み出したばかりである。これが稲門ライブラリ ーのように、質量ともに誇れるコレクションに成 長するには、まだまだ時間をかけねばならないと 思っている。新聞記事をみた人の中には早合点し て、早稲田大学図書館のなかにまんがコーナーが できたのかと考える人もいるようだが、当分の間、

研究目的以外での公開はせず、収集に専念するつ もりである。

どんなものでも時間がたてば、その時代という ものを証言する得がたい資料となりうる。将来、

漫画文庫の収集資料が、いま貴重書庫にならんで いる江戸時代の草双紙と同じくらいたいせつな研 究資料とされる日がくる可能性も、おおいにある といえるのである。

−5−

参照

関連したドキュメント

の傾向は他変数 Y,Z の時間変化について も見られた.図 5 は各⊿t に対応する変数 X,Y,Z の時間平均値である.⊿t が異なると各変数の平均値が異な

日本に限定した歴史上の沿革からすれば,道理 にかなわない謬説であると片付けられる[伊藤 博文 1940 : 103 -

これまでにも、漫画の教材化を試みた国語科の実践は数多く存在する。特に四コマ漫画

法案第4条 (注2 3) では賃料を2 5パーセントも上 げてよいことになっている。バーザールの動

「こそあど」 、3課が「なさい」

4 まとめ 本研究では JPEG 画像を対象とし、原画像を参照しな い画質評価手法の提案を行った。通常原画像を用いて 評価する 2 つの手法 PSNR と SSIM について、DCT 係

追想録 大野陽男さんを偲ぶ 大野さんが逝ってから 3

容でも十全には表現しきれないような代物である。 「娩曲語法が非常に豊富」などという彼自身の