自由再生における背景色文脈依存効果
自然科学系教育部
情報科学専攻
55845011 酒井徹也
博士論文公聴会 2011/1/18論文の構成
序論
第1章:エピソード記憶と環境的文脈
第2章:視覚的文脈研究
実験的検証
第3章:背景色エピソードの広がり
第4章:背景色変化様式の影響
第5章:総合的考察
0.2 情報処理とその場
認知的 情報処理 情報処理 内容 偶発的情報 情報処理者 の状態 心理的 状態 生理的 状態 環境 視覚的情報 場所 におい BGM0.3 本研究の目的
情報処理体験と一緒に符号化された偶発的環境情報が 情報処理体験の想起をどのように規定するのかを検証する 具体的には PC画面の構成情報の1つである背景色が ・どのようなときに記銘項目の検索手がかりとなるのか ・定義するエピソードはどのような範囲なのか第1章
1.1 記憶過程
符号化 • 意図学習 • 偶発学習 貯蔵 検索 想起 • 再生 • 再認 • プライミング 学習の意図の有無 再生:想起した内容を再現・表現 再認:過去経験と現在経験の異同を判断 プライミング:過去経験が現在経験に非意図的に影響1.1.1 Tulvingの記憶分類
記憶 手続き記憶 命題記憶 意味記憶 エピソード 記憶 認知/行動レベルでの情報処理手順についての 記憶 一般的な知識としての記憶 個人的な経験に関する記憶1.2 エピソード記憶
エピソード記憶
個人の経験した事象,他者,事物などに関する自伝的記憶標準的な記憶実験の場合・・・
学習
保持期間
テスト
学習体験エピソードの検索1.3 文脈と焦点情報
焦点情報 想起の対象となる情報 文脈 焦点情報とともに存在していた 焦点情報以外の情報 焦点情報と文脈はエピソードの中に一緒に符号化され 文脈は焦点情報を検索する手がかりとなる1.4 文脈の分類
文脈の変動性からの分類
時間的変動性 低 い 高 い グローバル文脈 実験セッションを通じて 変化しない 局所的文脈 項目の継時的提示とともに 急速に変動 項目全体と連合 文脈が持続している間の 数項目と連合 場所 BGM 匂い 背景色 背景画像 単純視覚文脈 実証的研究は まだ少ない1.5 環境的文脈研究
環境的文脈依存効果
学習時の文脈とテスト時の文脈が
一致した場合の方が,不一致な場合よりも
記憶成績が促進される現象
学習 テスト>
第2章
2.1 背景色文脈効果
背景色文脈効果
テスト時に学習時と同じ背景色を提示(復元)された場合 その背景色が手がかりとなり記憶成績を向上させる現象=
>
学習 テスト 学習≠
テストSC
DC
2.1.1 対連合学習
すべての対の背景色が異なる場合
文脈依存効果○
Dulsky (1935); Weiss & Margolius (1954)
部屋 ― room 車 ― car 海 ― sea
学 習 部屋 ― ??? 車 ― ??? 海 ― ??? SC 部屋 ― ??? 車 ― ??? 海 ― ??? DC
>
テスト 対連合学習 刺激項と反応項の結び付きの学習後, 刺激項を手がかりに反応項を再生すべての対の背景色が同じ場合
文脈依存効果×
Dulsky (1935); Petrich & Chiesi (1976)
部屋 ― room 車 ― car 海 ― sea
学 習 部屋 ― ??? 車 ― ??? 海 ― ??? SC 部屋 ― ??? 車 ― ??? 海 ― ??? DC
≒
テスト2.1.2 文章記憶
文章全体を一枚の紙に印刷
学習―想起間での紙の色の異同
⇒
記憶成績に影響なし
≒
学 習 テスト SC DC 手続き上の問題 ・手がかり過負荷 (60英単語) ・背景色の差が不十分 (白 vs. カナリア色)Pointer & Bond (1998)
手がかり過負荷
ある刺激に連合する項目の数が多すぎるとき, その刺激が手がかりとして機能しなくなる現象
2.1.3 自由再生
項目提示ごとにランダムに背景色が変化
→ 文脈依存効果○
5項目以上連続して同じ背景色を提示
→ 文脈依存効果×
⇒成立するのは各画面での背景色と項目の1対1の連合
群化:「頭の中で結び付いている言葉同士は,再生でも続け て出てくる。」という前提のもとで,再生順序のなかで同じカテ ゴリーの言葉がどれだけ連続しているかを分析する指標 背景色 項目 背景色 項目 背景色 項目 背景色 項目 項目 項目 項目 いずれも 背景色にもとづく群化は生じないランダム
5項目連続
2.2 背景色研究まとめ
① 背景色が項目ごとに変化したとき 文脈依存効果○ ② 背景色が変化しないあるいは5項目以上持続 文脈依存効果× ③ 同一背景色で提示されていても 異なった画面の項目同士は一緒に記憶されない実験的検証の目的
• 1画面に5項目以上を同時提示したとき 背景色文脈依存効果は生起するのか否か • 1画面あたりの記銘項目数によって 文脈依存効果の生起を規定する背景色変化様式は 異なるのか • 背景色文脈が定義するエピソードの範囲は 各記銘項目なのか,あるいは各記銘項目提示画面なのか 以上の目的について5つの実験によって検証第3章:実験的検証Ⅰ
背景色エピソードの広がり
Sakai, T., Isarida, T. K., & Isarida, T. (2010). Context-dependent effects of background colour in free recall with spatially grouped words. Memory, 18, 743-753.
3.1 第3章の目的
(1) 1画面に記銘項目を6個ずつ同時提示したときに
文脈依存効果は生じるのか?
(2) 背景色の変化様式(ランダム/単純交替)は
文脈依存効果を規定するのか?
(3) 背景色による群化と画面による群化を
分離して測定する
3.2 実験1:6項目の1回提示
実験参加者 静岡大学学部生23名 実験計画 1要因参加者内計画 文脈条件:SC vs. DC 記銘材料 熟知価が90以上のカタカナ2音節綴り24個 (林, 1976) 背景色 薄赤-薄緑,薄青-薄黄 いずれかの対を参加者ごとにランダムに選出 ヨコ キミ イシ ヒナ ヘヤ ネコ 24秒 514 ?? ?? ?? ?? ?? ?? 実験終了3.2.2 結果
0 1 2 3 4 5 6 SC DC Number of W or ds Corr ec tl y R ec al led 0 1 2 3 4 5 6 7 screen color Ob serv ed an d Ex pect ed V al ues observed expected 平均再生率 SC≒DC 文脈効果× 群化 画面・背景色ともに 期待値<実測値 (chance level) 背景色の意図的利用 1人3.2.3 考察
文脈効果が生じなかった要因として
(1) 6項目を同時提示した
背景色は同一画面上に同時提示された複数項目の検索を 促進することはできない? ※同一背景色が連続して提示した場合文脈効果×(Isarida & Isarida, 2007)
(2) 背景色が単純交替であった
単純交替は次画面の背景色を予測しやすい? 次背景色に対する予測可能性
→慣化
画面・背景色いずれもが群化を生じさせた
Isarida & Isarida (2007)と一致しない結果2画面/背景色
3.3 実験2:6項目の2回提示
背景色の予測可能性が
文脈依存効果を規定するか否かを検証
予測可能性:背景色の変化様式によって操作
(ランダム/単純交替)
ランダムな背景色変化:4画面では不可能
⇒各記銘画面を2回ずつ提示
3.3.1 方法
実験参加者 静岡大学学部生46名 実験計画 2要因混合計画 背景色変化(ランダム vs. 単純交替;参加者間) ×文脈条件(SC vs. DC;参加者内) 記銘材料 熟知価が90以上のカタカナ2音節綴り30個 (林, 1976) A B C D E F 12秒 G H I J K L ??? 429 提示1回目 提示2回目3.3.2 結果
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 Random Alternate Number of W or ds Corr ec tl y R ec al ledSequence of Background color
SC DC 0 1 2 3 4
Screen Color Screen Color
M ea n Ob ser ved and Ex pect ed V al ues Observed Expected 平均再生率 ランダム:SC>DC 単純交替:SC≒DC 群化 単純交替・ランダム共に 画面 :期待値<実測値 背景色:期待値≒実測値 背景色の意図的利用
3.3.3 考察
・文脈効果
ランダム○;単純交替×
⇒次背景色に対する予測可能性が文脈効果の成否を
規定
・群化
画面○;背景色×
⇒項目群はそれが提示された画面とだけ連合
同一背景色で異画面の項目群同士は連合しない
3.4 実験3:6項目の1回提示+計算
実験2の追試
⇒記銘項目の提示回数が1回でも
実験2の結果が再現されるのか?
背景色のランダム変化:10画面前後必要
6項目×10画面?←手がかり過負荷の危険
10画面⇒項目画面6+計算画面4
3.4.1 方法
実験参加者 静岡大学学部生46名 実験計画 2要因混合計画 背景色変化(ランダム vs. 単純交替;参加者間) ×文脈条件(SC vs. DC;参加者内) 記銘材料 熟知価が90以上のカタカナ2音節綴り30個 (林, 1976) A B C D E F 24秒 ??? 429 計算画面5+2-3
1 2 3 4 5 6 7 8 9 03.4.2 結果と考察
0 1 2 3 4 5 random altnate Numbe r of W or ds Corr ectl y R ec all edSequence of Background color SC DC 0 1 2 3 4 5
Screen Color Screen Color
Mean Ob se rv ed and Expect ed V alues Observed Expected 平均再生率 ランダム:SC>DC 単純交替:SC≒DC 群化 単純交替・ランダム共に 画面 :期待値<実測値 背景色:期待値≒実測値 背景色の意図的利用
実験2の追試に成功した
3.5 第3章のまとめ
① 複数の記銘項目を同時提示しても 背景色文脈依存効果が生起する ② 背景色は項目提示画面ごとに ランダムに変化したときに文脈手がかりとして機能 ③ 背景色は非意図的に関与する ④ 背景色記銘項目全体の手がかりにはならず, 画面ごとの項目に対して手がかりとして機能第4章:実験的検証Ⅱ
1画面あたりの提示項目数が少ない時の
背景色変化様式の影響
実験4 酒井徹也・漁田俊子・漁田武雄. (2008). 複数項目の同時提示における 背景色の文脈効果(2). 日本認知心理学会第6回大会発表論文集, p.44. 実験5 酒井徹也・漁田俊子・漁田武雄. (2010). 自由再生における文脈依存効 果におよぼす背景色の変化様式の影響. 日本心理学会第74回大会発 表論文集, p.803.4.1 第4章の目的
1画面あたりの提示項目数が少ない時
背景色の変化様式は文脈依存効果を
規定するのか否かを検証
実験4:1項目/画面
実験5:3項目/画面
ハシ キタ アキ サカ4.2 実験4:1項目×20画面
実験参加者 静岡大学学部生46名 実験計画 2要因混合計画 背景色変化(ランダム vs. 単純交替;参加者間) ×文脈条件(SC vs. DC;参加者内) 記銘材料 熟知価が90以上のカタカナ2音節綴り20個 (林, 1976) 30s 60s 4.0s ランダム変化4.2.2 結果
0 1 2 3 4 5 Random Alternate Numb er o f W o rd s Corr ec tly R ec al ledSequence of Background color
SC DC 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 M ea n Ob ser ved and Ex pected V al ues Observed Expected 平均再生率 ランダム:SC>DC 単純交替:SC>DC 群化(背景色) ランダム :期待値≒実測値 単純交替:期待値>実測値 背景色の意図的利用
4.2.3 考察
単純交替条件においても文脈依存効果が生じた ⇒第3章の実験と異なる結果
実験2・3との相違点
群化(単純交替):期待値>実測値
実測値が高くならなかった点では第3章・Isarida & Isarida (2007)と 一貫した結果 項目数 /画面 提示画面数 (学習セッション) 提示時間 /画面 実験2・3 6個 10画面 10秒以上 本実験 1個 20画面 4秒 隣接した項目(必ず異なる 色)との連合が強まった結果
4.3 実験5:3項目×10画面
1画面あたりの項目数を3個にして実験4を追試する
変更点
項目数/画面:3個
提示画面数:10画面 :3項目/画面×10画面 提示時間/画面:12秒 :4秒/項目×3項目4.3.1 方法
実験参加者 静岡大学学部生46名 実験計画 2要因混合計画 背景色変化(ランダム vs. 単純交替;参加者間) ×文脈条件(SC vs. DC;参加者内) 記銘材料 熟知価が90以上のカタカナ2音節綴り30個 (林, 1976) A B C 12 秒 D E F ??? n1 n2 n3 429 30秒 60秒4.3.2 結果と考察
0 1 2 3 4 5 6 random alternate Nu mber of W or ds Corr ec tl y R ec al ledSequence of Background color
SC DC 0 1 2 3 4 5 6
Screen Color Screen Color
Mean Ob ser ved and Expect ed V al u es Observed Expected 平均再生率 ランダム:SC>DC 単純交替:SC>DC 群化 単純交替・ランダム共に 画面 :期待値<実測値 背景色:期待値≒実測値 背景色の意図的利用
実験4の追試に成功した
4.4 第4章のまとめ
(1) 項目/画面が少ない時,
2色の背景色が項目提示ごとに変化するだけで
背景色文脈依存効果は生起
(2) 背景色は非意図的に関与する
(3) 背景色は記銘項目全体の手がかりにはならず
画面ごとの項目に対して手がかりとして機能する
第5章
5.0 結果のまとめ
(1) 1画面に6項目を同時提示したとき 2色の背景色が ランダムに変化 文脈依存効果○ 単純に交替 文脈依存効果× (2) 1画面あたりの同時提示項目数が3個以下のとき 2色の背景色が変化するだけで 文脈依存効果○ (3) 背景色は非意図的に関与する (4) 背景色はその色で提示された項目全体とは連合しない 各画面において同時に存在した背景色と項目(群)が連合5.1 同時提示における背景色文脈依存効果
5項目以上が連続して同一背景色で提示されたとき
文脈依存効果× (Isarida & Isarida, 2007)
6項目が同一背景色の下で同時提示されたとき 文脈依存効果○ (第3章実験2・3) ◎視覚的環境情報である背景色の場合 空間的に集中提示した項目に対しては 文脈手がかりとして機能する 時間的に集中した項目に対しては 文脈手がかりとして機能しない A B C D E F G H I J K L A B n 場所やBGMの場合 実験セッションを通じた 項目全体に対して文脈手がかり として機能
5.2 背景色の非意図的利用と慣化
背景色の非意図的利用
⇒背景色文脈効果は非意図的過程によって生起 非意図的過程は慣化の危険を内含
(Dbbets et al., 2001; Isarida & Isarida, 2007)
刺激の予測可能性による脱慣化(e.g., Herry et al., 2007)
慣化 背景色変化 慣化維持 文脈依存効果 消失 文脈依存効果 低 予測可能性
5.3 項目負荷と変化様式の相互作用
背景色文脈依存効果は2つの相互作用によって規定される 画面あたりの 提示項目数 背景色変化の 予測可能性 項目負荷/画面 予測可能性 慣化 文脈効果 高い → 高い → 維持 → 消失 ↳ 低い → 解除 → 生起 低い → 高い/低い → 解除 → 生起 Alternate Random5.4 背景色の定義するエピソードの範囲
背景色はその色で提示されたすべての項目に対し 検索手がかりとなりうる 背景色と項目は グローバルなエピソード記憶痕跡としては符号化されず 同時に存在していた画面ごとに局所的なエピソード記憶痕跡 として符号化される A B C D E F G H I J K L n1 n2 n3 n4 n5 n6 独立したエピソード 個別に検索 画面内で完結した エピソード5.5 まとめ
視覚的環境情報の1つである背景色文脈は 各画面における情報処理を別個のエピソードとして定義 ⇒背景色以外の視覚的環境情報も同様の機能である可能性 画面を構成する情報が持続 →連続的に行われている情報処理エピソードの一貫性を保持 画面を構成する情報を変化 →変化前後の情報処理体験の弁別性を高める本研究の結果は 背景色文脈が局所的文脈である実証的な証拠を提出する 我々の生活環境は単独の環境情報のみで 構成されているわけではない ⇒さまざまな環境情報を組み合わせた文脈の機能を 解明していくことが重要