1 December 27, 2013
1. 2013 年インド会社法改正のポイント (第 3 回) 「企業の社会的責任」(CSR)
2. インドネシア~外資 15 年ルール対応譲渡株式の買い戻しが可能に
3. 政治・経済・産業トピックス
4. 主要国の経済指標
1. 2013 年インド会社法改正のポイント (第 3 回) 「企業の社会的責任」(CSR)
本年 8 月、57 年振りに改正された 2013 年インド会社法(新会社法)の解説第 3 回目(最終回)は、「企業の社 会的責任」(CSR=Corporate Social Responsibility)について取り上げる。なお、公表されている 2013 年会社法 規則案(Draft Rules under Companies Act 2013、規則案)や現地における最新の議論についても紹介するが、 現在行われているパブリック・コメントの結果を受けて変更される可能性がある点、ご留意頂きたい。■CSR制度(新会社法第 135 条)
CSR は、旧会社法には規定がなく、新会社法において新たに設けられた制度である。日本における CSR とイン ド新会社法上の CSR との決定的な差異は、前者が企業の自主性に委ねられているのに対し、後者は、一定の 要件を充たす会社に対して CSR 活動が法的に義務付けられる点である。以下、その詳細を解説する。 (1) 新会社法 (a) CSR 活動が義務付けられる会社 CSR活動が義務付けられる会社は、①純資産が 50 億ルピー以上、②総売上高が 100 億ルピー以上、③純利 益(Net Profit)1が 5,000 万ルピー以上、という三つの要件のうち、少なくとも一つを充たす「すべての会社」で ある(新会社法第 135 条 1 項)。すなわち、上記の要件を充たす会社(対象会社)は、公開会社・非公開会社を 問わず、CSR活動が義務付けられることになるのである。 (b) CSR 委員会上記に該当する対象会社は、社内に CSR ポリシーの策定等を行う「CSR 委員会(The Corporate Social Responsibility Committee)」を設置しなければならない。新会社法第 135 条 1 項は、CSR 委員会は 3 名以上 の取締役によって構成され、そのうち少なくとも 1 名は社外取締役でなければならない旨、規定している。 i. 非公開会社の CSR 委員会にも社外取締役を入れる必要があるか ここで問題となるのは、社外取締役設置義務を規定する新会社法第 149 条 4 項との関係である。同条項と
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規則案では、純利益(Net Profit)とは会計帳簿に従って税を控除する前の純利益で、インド国外の支店から発生した利益を含まない旨定義 されている。
2 同条項を受けた規則案においては、社外取締役の設置は、上場会社及び一定の規模を有する公開会社2 についてのみ義務付けられ、非公開会社には設置義務が課されていない。他方、CSRに関する新会社法第 135 条 1 項においては、公開会社か非公開会社かを問わず、CSR委員会を構成する取締役のうち少なくとも 1 名は社外取締役でなければならないとされ、明文上は非公開会社につき例外を認めていない。 この点、①新会社法第 135 条 1 項の規定を優先させ、「非公開会社にも CSR 委員会に社外取締役を入れる 必要がある」という見解と、②新会社法第 149 条 4 項を優先させ、「非公開会社については CSR 委員会に社 外取締役を入れなくても良い」という見解が対立している。 あくまでも私見であるが、両規定を総合的に解釈すれば、原則規定は新会社法第 149 条 4 項であるものの、 CSR 義務が課せられるほどの規模を有する非公開会社は、一般の非公開会社とは区別され、CSR 義務を 適正に履践するべく、社外取締役の選任と CSR 委員会への組み込みが要求されるという解釈(上記①説) も、十分に成り立つように思われる。 現時点においては明確な結論は出ていないが、非公開会社においても CSR 委員会に社外取締役を入れな ければならない解釈、司法判断がなされるうることを踏まえた対応をされることをお勧めしたい。 (c) CSR 活動 CSR 活動に関しては、新会社法別表 7(ScheduleⅦ)において具体的な活動内容が列挙されている。詳細は 末尾の一覧表を参照されたい。 (d) 支出義務 対象会社は、直近 3 会計年度の純利益の平均 2%以上を、CSR ポリシーの実行に支出することが義務付けら れている。 i. 直近 3 会計年度の純利益の計算方法 ここで注意しなければならないのは、「直近 3 会計年度の純利益」の計算方法である。特に、3 会計年度中 に純利益がマイナス(損失)となった年度がある場合、その損失額を、純利益を計上した会計年度利益額と 相殺計算することが認められるか否かが問題となっている。この点、現地公認会計士らから聴取したところ によると、現時点においては、上記のような相殺計算を認めず、損失計上年度は「純利益ゼロ」として計算 することになるであろうという見解が多数のようである。例えば、3 会計年度の純利益または純損失がそれ ぞれ「純利益 1 億ルピー」「純損失 1 億ルピー」「純利益 5,000 万ルピー」の場合、「純利益 1 億ルピー」の会 計年度は純利益ゼロとして取り扱われる結果、3 会計年度の純利益の合計は 1 億 5,000 万ルピーとなる。 ii. CSR として支出した費用に対する税務上の取扱い CSR として支出した費用に対する税務上の取扱い、端的には「損金算入されるのか」という点については、 規則案中のガイドラインに、Central Board of Direct Tax(CBDT)が発する別途通達で明確にされるインド所 得税法に従って処理される旨、規定されている。直接明言されていない点にもどかしさを感じるが、現地公 認会計士らから聴取したところによると、現時点では、上記 CSR 支出につき損金処理を認める方向で検討 されているようである。 (2) 改正の影響 CSRが義務付けられる会社には非公開会社も含まれ、また適用要件のうち「純利益が 5,000 万ルピー以上」とい
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社外取締役の設置は、①払済株式資本が 10 億ルピー以上、②売上高が 30 億ルピー以上、③未弁済ローン、借入金、社債等の総額が 20 億 ルピー超の少なくとも一つに該当する公開会社に義務付けられる(規則案)。
3 う要件は、それほど高いハードルではなく、これに該当する現地日系企業も決して少なくない。規則案中のガイド ラインにおいては、2014 年会計年度3からCSR制度の施行を予定しており、該当可能性のある日系企業について は、迅速な対応が求められるであろう。 とはいえ、以上に述べたとおり、非公開会社における CSR 委員会への社外取締役設置義務の有無、直近 3 会計 年度の純利益の計算方法、具体的な CSR 活動の内容等、まだまだ不明確な部分も多いことから、該当可能性の ある日系企業については本制度の解釈及び運用について、継続的に注視していく必要がある。 ( 表 ) 新 会 社 法 第 1 3 5 条 、 C S R制 度 に 関 する 概 要 一 覧 以 下 ① ~ ③ の い ずれ か に 該 当 する 会 社 ① 純資産が50億ルピー以上 ② 総売上高が100億ルピー以上 ③ 純利益が5,000万ルピー以上 人 数 と構 成 ・ 3名以上の取締役(うち1名は社外取締役) 新 会 社 法 、 別 表 7 ( S c h e du le Ⅶ ) に 規 定 され る 活 動 内 容 ・ 飢餓及び貧困の根絶 ・ 教育の促進 ・ 男女平等及び女性の地位強化の促進 ・ 子供の死亡率減少・母性保健の改善 ・ HIV・AIDS・マラリア等の疾病の根絶 ・ 環境保護 ・ 職業訓練 ・ ソーシャル・ビジネス
・ Prime Minister's National Relief Fund(PMNRF)への 寄付、または中央政府・州政府によって設立された 指定カースト・特定部族、未成年、女性のための福祉 基金等への寄付 ・ 別途規定されるその他の活動 C S Rポ リ シー の 実 行 に 関 わ る 支 出 額 ・直近3会計年度の会社の純利益の平均2%以上 C S R活 動 が 義 務 付 け ら れ る 会 社 C S R委 員 会 C S R活 動 の 具 体 的 内 容 C S R活 動 の 数 値 目 標 (以上) 記事提供:弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 弁護士 坂元 英峰/弁護士 山下 昌彦(インド・デリー駐在) 弁護士法人マーキュリー・ジェネラル:平成 15 年 3 月 1 日開設、平成 19 年 12 月 19 日法人化。 国内の日系法律事務所としては唯一インド共和国法外国法事務弁護士が所属、日印両国にお いて、インドに進出する日本企業をサポート。
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会計年度については、旧会社法上は附属定款において任意の会計年度を選択することが可能であったが、新会社法においては、原則として 4 月 1 日から翌年 3 月 31 日とすることが義務付けられている(新会社法第 2 条 41 項)。
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2. インドネシア~外資 15 年ルール対応譲渡株式の買い戻しが可能に
■ 概要
インドネシアに進出した日系企業にとって長年の懸案であった「外資 15 年ルール」において、インドネシア株主 に譲渡した株式の買い戻しが可能になりました。同ルールについて解説します。■ 15 年ルールの概要~これまでの動き
外資 15 年ルールとは、従来、外資企業がインドネシアへ進出するには出資比率が外資 80%、内資 20%でなけ ればならなかったのが、スハルト元大統領時代の 1994 年政令 20 号により、外資 100%でも投資が可能となり、 ただし商業生産開始(事業許可取得)時から 15 年以内に、株式の一部をインドネシア株主に譲渡(ダイベストメ ント)することが義務付けられたものです。これがいわゆる外資 15 年ルールの由来です。 2007 年 4 月には、1967 年制定の外国投資法と 1968 年制定の内国投資法をまとめる形で新投資法が制定さ れ、1967 年制定の外国投資法と 1968 年制定の内国投資法は廃止されました。従って、外資 15 年ルールの根 拠となる外国投資法ではなく新投資法に基づいて設立され、新投資法制定以降に投資承認を受けた企業は、 外資 15 年ルールの対象外となります。 こうした経緯からインドネシア投資調整庁(BKPM)は、2010 年大統領令 36 号にある「ネガティブ・リスト」(外国 投資不可・制限リスト)に対し、グランド・ファザリング(既得権が認められる)条項を考慮しています。従って、上 述の大統領令で新たに制限を設けられた業種でも、その発布以前に投資承認を受けた外資企業には適用が 遡及(そきゅう)されないとしています。BKPM としては、外資 15 年ルールの順守と新外資比率規制からの適用 除外は、妥当な「取引」であるとの立場を取っていました。 ところが、従来は BKPM の投資許可申請窓口での(外資 15 年ルールの順守に対する)規制は緩やかでしたが、 2013 年 5 月 27 日の BKPM 長官令 2013 年第 5 号(以下、2013 年第 5 号)施行に伴い、その第 108 条第 1 項 で外資 15 年ルールが明文化されると、操業後 15 年経過した企業はインドネシア株主への株式の譲渡義務を 果たさない限り、増資・増設・輸入ライセンス(API)など BKPM へのいかなる申請書も受理されなくなり、多くの 外資企業がその対応策に頭を悩ませることになりました。なお前記の 2013 年第 5 号において外資企業の株主 最低払込額が明記されたことから、必要な株式譲渡額は 1,000 万ルピア(外貨はその相当額)と明示されまし た。■ BKPM 長官令(2013 年第 12 号)~15 年ルールによる譲渡済み株式買い戻し制限条項削除
今回、2013 年 9 月 18 日に施行された BKPM 長官令 2013 年第 12 号では、その背景はよく分かりませんが、 2013 年第 5 号の第 108 条第 5 項(すでにダイベストメント義務を履行している投資会社の場合、会社が営業/ 生産している限り、インドネシア人および/あるいはインドネシア法人の株式保有はそのままとすること)が削 除されました。従って、一度外資 15 年ルールに対応してインドネシア株主に株式を譲渡すれば、その譲渡株式 の買い戻しが可能となりました。5 これまで、法的には会社運営には影響のない 1,000 万ルピア(外貨はその相当額)とはいえ、インドネシア株主 への株式譲渡をためらっていた多くの日系企業の皆さんも対応しやすくなったことは間違いありません。 なお、この手続きには、インドネシア株主への株式譲渡に 2、3 カ月、その買い戻しに 2、3 カ月かかります。12 月決算の企業では、2014 年 5~6 月に年次株主総会が開催されるのではないかと思いますので、速やかに手 続きを開始されることをお勧めします。 (以上) 記事提供:カルティニ ムルヤディ法律事務所 Marketing Advisor 柳田 茂樹 インドネシアに銀行時代を含め 4 回、計 19 年駐在。「インドネシア新会社法」、「インド ネシア経済法令集」をはじめ主な経済法令を翻訳。幅広い業務経験に裏付けられた アドバイスを行っている。
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3.
政治・経済・産業トピックス
【経済・産業】
■ (ASEAN)-日ASEAN首脳会議開催~経済、安全保障等の協力強化
13 日から 3 日間の日程で、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)10 カ国の首脳らが東京で首脳会議を開催し た。安倍首相はベトナムに 960 億円、インドネシアに 630 億円等、アセアン諸国のインフラ整備等に総額 2 兆 円規模の ODA 供与を表明した。成長著しいアセアン諸国からのインフラ受注は、日本政府が掲げる 2020 年 にインフラ輸出を約 30 兆円まで増強する目標を達成する上で、大きな鍵となっている。このほかインドネシア、 フィリピンとの通貨スワップ協定拡充、シンガポールとの同復活等、域内諸国の経済発展、金融市場安定を 強力に支援する姿勢を示したことに加え、安全保障面でも日本とアセアンの協力強化が協議された。■ (マレーシア)-ナジブ首相、ETPの効果強調~3 年間の投資総額 2,200 億リンギット
16 日、ナジブ首相は政府が推進する経済改革プログラム(ETP)導入から 3 年で、民間投資の承認額が合計 2,200 億リンギット(≒7 兆円)に達し 43 万 5,000 人の雇用創出が見込まれると述べ、その効果を強調した。 ETP は 2020 年の先進国入りを実現するための大型投資プロジェクト群で、第 1 号案件は 2010 年 10 月にス タートしている。■ (タイ)-2 兆バーツのインフラ整備事業、借入法案違憲審査で遅延
インラック政権の目玉の経済政策である 2 兆バーツ(6.4 兆円)規模の交通・輸送インフラ整備事業に関し、必 要な資金の借入法案が違憲であると最大野党・民主党が憲法裁判所に訴えているため、実施が遅延する見 通しとなっている。また、憲法では議会を通過した法案は 20 日以内に国王に奏上することを定めているため、 法案が時間切れで無効となる可能性も指摘されている。対象となるインフラ整備事業には、核となる高速鉄 道 4 路線の建設のほか、主要な国道の拡幅、都市間高速道路の建設等が含まれている。【政策・制度・規制】
■ (タイ)-下院総選挙立候補受付開始~反タクシン派は妨害活動
23 日、下院解散に伴い来年 2 月 2 日に行われる総選挙の立候補受付(27 日締切)が開始された。しかしなが らインラック首相の即時退任を要求する反タクシン派の妨害活動により、多くの受付会場で立候補が受理で きない事態が発生している。インラック首相は政治改革のための国民評議会を総選挙後に設置するとして譲 歩の姿勢を示しているが、反タクシン派の中心、最大野党民主党は 21 日の幹部会議で総選挙のボイコットを 決定するなど、政局は混迷の度合いを深めている。■ (インド)-インド準備銀、政策金利据置き
インド準備銀行(RBI=中央銀行)は、18 日の金融政策会合で政策金利を 7.75%に据置いた。物価上昇が続い ており、前々回、前回の会合に続き利上げが実施されるとの見方が強まっていた。ラジャン総裁は「インフレ は依然として高水準だが、短期的な不確定要素が多く、経済成長が弱含んでいることから様子を見る必要が ある」と、金利据置きの理由を説明した。7