はじめに
2000年ころから北ヨーロッパを中心に術後の早期回復 をめざした総合的なアプローチをEnhanced Recovery After Surgery(以下、ERAS®と略)と呼んで検討さ
れてきた1)。本邦では近年になって ERAS®の普及や、独
自のプログラムであるESsential Strategy for Early Normalization after Surgery with patient’s Excellent satisfaction(ESSENSE)を日本外科代謝 栄養学会が中心に活動を開始している。しかし、これま で術後の回復を早める努力をしてこなかったかというと そうではなく、先人達が多くの努力をしてきた。筆者が 20年以上前に当時勤務していた病院における幽門側胃 切除後の術後在院日数について調べたことがあったが、 およそ30日であった。しかし、現在ではかなり短縮され、 退院可能と判断可能な時期は術後10日程度となってい る。これは手術術式の変化以上に、麻酔方法、術前後の 管理方法の進歩によるものと思われる。早期の回復が図 られるとき、最も恩恵を被るのが高齢者であろう。予備 能の少ない高齢の患者にとって侵襲の軽減が図られるこ とは手術適応の拡大にも繋がっている。高齢者手術症 例が増加しているのは急速な高齢者社会を迎えたのみ ならず、以前より安全に手術を行うことが可能になった 結果である。当院では2003年に胃がん手術例129例の
特集:高齢者の術後早期回復はどこまで可能か? 現実と課題
-高齢者胃がん患者の術後早期回復のための課題
—当院で行っている周術期管理—*
keywords:胃がん、早期経腸栄養、シスチン・テアニン
土屋 誉1) Takashi TSUCHIYA 高橋 誠1) Makoto TAKAHASHI 本多 博1) Hiroshi HONDA
及川昌也1) Masaya OIKAWA 柿田徹也1) Tetsuya KAKITA 小山 淳1) Atsushi OYAMA
大石英和1) Hidekazu OISHI 小村俊博1) Toshihiro KOMURA 小櫃 保1) Tamotsu OBITSU
赤澤直也1) Naoya AKAZAWA 長塚大毅1) Motoki NAGATSUKA 市川英孝1) Hidetaka ICHIKAWA
坪井基浩1) Motohiro TSUBOI 平嶋倫亮1) Tomoaki HIRASHIMA 菊池直彦1) Naohiko KIKUCHI
佐藤敦子2) Atsuko SATO 阿部尚美2) Naomi ABE 柴崎 忍3) Shinobu SIBAZAKI
◆仙台市医療センター仙台オープン病院 消化器外科1) 栄養管理室2) NST3)
Department of Gastrointestinal Surgery1), Department of Nutrition2), Nutrition Support Team3), Sendai City Medical Center,
Sendai Open Hospital
ERAS®の概念がクリニカルパスに組み込まれて周術期管理が行われるようになっ たが、すべての症例への適応は難しく逸脱例が生じる。その逸脱例の多くは高齢者で はないだろうか?高齢者を置き去りにした周術期管理は早期回復をますます遠ざける ことにはならないだろうか?ただ在院日数を減らすことが目標ではなく、高齢者にも実 施可能な管理を行うことによって、その延長線上に早期の回復は見えてくるものではな いだろうか。高齢者に配慮した管理こそすべての症例に対して早期回復をもたらすもの であると考える。本稿では当院での胃切除症例への取り組みを中心に紹介したが、経 腸栄養もサプリメントの使用も高齢者でも可能であるというコンセプトで行っている。 もっともわかりやすい指標でいえば CRPをあまり上げない手術方法を用いて、CRPを できるだけ早く正常化するような周術期管理をめざすというのが目標である。それが短 期的な手術成績のみならず長期的な予後まで決定すると考えており、真の ERAS®とい えるのではないだろうか。
hospital-うち、75歳以上の症例は24例(18.6%)、80歳以上は6例 (4.7%)であったが、2013年には112例のうち75歳以上 は42例(37.5%)、80歳以上17例(15.2%)と高齢者の割 合が10年間で飛躍的に増加している。本稿では、高齢 者の胃切除術症例が増加している現状のなかで必要と される周術期管理のポイントについて、当院で行ってい る取り組みを中心に述べたい。
手術適応について
手術を考慮する場合、QOL改善が望めない症例を除 外して手術適応症例を慎重に決めることがまずは重要で ある。臓器予備能のチェックなどに加え、認知症の有無、 術後の QOLの保持が可能であるか、社会的要因はどう かなどを考慮すべきである。当院において90歳以上の超 高齢者の手術をみると悪性疾患では大腸がんに比べて 胃がんは少なかった。これは、胃がんでは大腸がんに比 して狭窄症状を呈することが少なく、また術後の体力の 低下が著明である事などが考慮されている結果、手術ま で至らない症例が多い事を示している。当科では客観的 な指標は取り入れていないが、患者の術前状態と手術侵 襲の程度から手術リスクを予想するE-PASSスコアや POSSUMスコアなどが提唱されており2)3)、これらを用い て手術適応や手術術式を決めている施設もみられる4)5)。術前の栄養評価
高齢者では栄養不良患者が多いといわれており、術 前のスクリーニングが重要である。2013年の当科での胃 がん手術症例の血清アルブミン値は75歳未満で3.91g/ dLであったが、75歳以上の症例では3.60g/dLと有意 に低値であった(表1)。栄養評価には血清アルブミン値 の他にも、主観的評価である Subjective Global Assessment(SGA)や検査値から求めるPNI(血清 アルブミン、リンパ球数から計算)、CONUT(血清アル ブミン、リンパ球数、コレステロールから計算)などが簡 便なことから使われることが多い6)~ 8)。栄養不良と判断 された場合、欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)のガイド ラインでは、手術を遅らせることが可能であれば10-14日 の栄養サポートを勧めている9)。胃がんの場合、幽門狭 窄症状のある場合は経口摂取不可であるため、TPNを 行うことも推奨されている。Fujitaniらが行った胃全摘 症例における術前 immunonutritionの効果をみる臨 床研究では、合併症の発生率などアウトカムに差はみら れなかったが、5%以上の体重減少症例のサブ解析では 合併症の発生に差がみられ、栄養不良症例における術 前の immunonutritionの有効性の可能性を示した10)。当科における surgical site infection(SSI)発生をみ ても術前アルブミン値が低い症例で発生率が高く、術前 の栄養状態が術後の経過に影響を及ぼしている11)。鉄 欠乏性貧血が見られた場合は鉄剤投与などで貧血の改 善を図り、可及的に輸血を回避するが、ヘモグロビン値 が8.0g/dLまで回復しない場合は輸血も考慮する。
周術期口腔ケア
要介護高齢者では通常の生活において口腔ケアをす ることにより肺炎の発生率が低下することが報告されて おり12)、口腔内の衛生状態と肺炎の発生には密接な関係 がある。周術期には必ず口腔の衛生状態は悪化し、誤嚥 性肺炎を併発する危険は更に高まる。食道がん手術症 例においては歯垢の培養にて病原菌が検出された症例 で術後肺炎の発生が高いことが報告されている13)。近年、 口腔ケアの重要性がようやく認識され、平成24年度の診 療報酬改定では周術期の口腔機能管理(口腔ケアという ≧75歳 <75歳 症例数(例) 42 70 年令(歳) 79.6 62.4 胃全摘(例) 7(16.7%) 26(37.1%) 身長(cm) 156.7 164.8 体重(kg)(術前) 54.6 63.5 体重(kg)(退院前) 51.7(94.7%) 59.5(93.7%) Alb値(g/dL)(術前) 3.60 3.91 Alb値(g/dL)(14POD) 3.11(87.2%) 3.34(84.8%) CRP(mg/dL)(1POD) 7.92 9.36 CRP(mg/dL)(14POD) 1.42 1.70 術中出血量(g)(開腹例) 223 420 手術時間(分)(開腹例) 366 387 30日以内死亡例(例) 0 0 在院死亡例(例) 1(2.4%) 1(1.4%) 術後在院日数(日) 21.2 18.2 表1 2013年の胃がん手術症例の概要言葉は商標登録されている)に点数がつけられた。当院 でも入院患者を対象とした歯科を平成24年に新設し、が ん患者においては全例、歯科医による口腔内のチェック を行っている。また、以前より口腔ケア認定看護師を中 心とした口腔ケアチームも活動しており、周術期ケアチー ムとして手術室の看護師との連携も行い、効率的な口腔 ケアを目指している。
絶食期間の短縮
術前の絶食期間を可及的に少なくすることも ERAS® のひとつである。当科では前日夕食まで提供し、当日は OS-1Ⓡなどの経口補水液を午前中の手術症例には1本、 午後手術症例には2本飲用するように指導するとととも に2時間前までの飲水を励行している。したがって手術 室には経口摂取可能な症例では年令に関係なく原則とし て点滴なしで入室することとしている。病棟で点滴を開始 しないことは医療側の業務軽減に加え、高齢者では点 滴にまつわる事故も防止できるメリットがある。手術術式および術中管理
高齢者における術式はリンパ節郭清の程度がまず問題 となる。通常の郭清をするという意見もあるが、高齢者で は R0手術を目指し、郭清範囲もやや縮小することも考慮 されるべきであろう。手術時間が短く、出血量の少ない 手術が求められる。Surgical Apgar Score(SAS)は 手術中の出血量、最低心拍数、最低平均血圧から計算さ れ、術後30日以内の合併症と死亡の発症を予見するとし て提唱されたが、出血が多ければ高リスク群となる14)。 SASの有用性について報告されているが、自験例でも 200例以上の検討で、同様な傾向が見られた15)。低侵襲 を考慮すれば、やや時間はかかるものの腹腔鏡での手 術も選択されている。2013年の当科での75歳以上の胃 切除42例の内、15例(35.7%)が腹腔鏡手術で行われた。 ERAS®では過剰な輸液は消化管の浮腫につながるた め、過剰な輸液を避けることもエレメントのひとつである。 また、切開の長さ、不要なドレーンを入れないようにとも 述べている。術後せん妄
高齢者手術症例におけるせん妄の発生頻度は4-87% との報告があるが16)、若年者に比して発生率が高く、発 生が特に夜間帯に多いため、看護体制、医療事故の面か ら多くの問題を含んでいる。発生した場合はハロペリドー ル5-15mg/500mL 生食 /4-6時間、ハロペリドール 5-15mg/100mL生食 /15-30分投与などが行われるが、 効果は限定的でその予防方法も確立していない。昼間 になるべく眠らないように刺激を与えたり、経口摂取の開 始などでなるべく日常生活のリズムに近づけるなどの対 応をしているのが現状である。術後せん妄はいまだ解決 されない問題であるので、今後の課題である。早期離床
早期離床は術後静脈血栓症、筋力低下、呼吸合併症な どの予防効果があり、積極的に行われる必要がある。高 齢者においても、循環動態の変化に注意を払いながら ベッド上での上半身の挙上、端座位、起立、歩行訓練と個 別の状態に応じて徐々にステップアップしていく。早期 離床を計るためにも十分な疼痛除去も重要である。リハ ビリスタッフとの連携が不可欠である。早期経腸栄養
当院では2000年まで胃切除患者は全例に TPNを施 行していたが、2001年より幽門狭窄などで術前の経口 摂取ができない症例以外は1PODからの早期経腸栄養 を行うこととしており、すでに2000例以上に施行してい 図1 EDチューブの挿入部位 高齢者の胃全摘症例には腸瘻を造設、入院期間を通じて使用している。用いて腸瘻を造設している(図1)。早期経腸の利点の1つ として、1990年代には Mooreや Kudskらが手術や外 傷患者などの症例で術後炎症性合併症の発生が少ない ことを報告している18)19)。また、消化管手 術症例のメタ解析では Lewisらは術後の 絶食のメリットはないと述べている20)。当 科での投与方法は幽門側胃切除症例では 当初200kcalから開始し、800kcalまで 増量し6日間行っていたが、最近では 4PODからの食事開始が高齢者でも可能 なことから経腸栄養を1-3PODまでとして いる(図2)。投与量も200、400、400kcal と少なくしたため膨満感などの発生を少な くすることができ、ほぼ全例に完遂可能と なっている。早期経腸栄養により排ガスが 早まり、退院直前の経口摂取量も非経腸 栄養群に比して多く、また、リンパ球数の 回復も早い結果が得られている(図3)21)。 さらに、早期経腸栄養の利点の1つは術後 のエネルギー消費量の亢進を抑制する、つ まり手術侵襲を軽減できるということであ る。Mochizukiらは熱傷モルモットモデル を用いて、早期経腸栄養群と晩期経腸栄 養群を比較すると受傷後亢進するエネル ギー消費量が早期経腸栄養群で低下した ことを報告している22)。この結果をうけて 筆者らも幽門側胃切除症例を1-3PODま での早期経腸栄養群と、経腸栄非施行群 に背景を揃えて分けて検討した。両群ともに4PODから 経口での食事を開始した。簡易熱量計を用いて REE (Resting Energy Expenditure)を測定すると、早期 経腸栄養群では非施行群に比して REEの増加が抑制 され、動物実験と同様の結果が得られた(図4)23)。 以上の知見から筆者らは胃切除後の早期経腸栄養の 重要性を認識した。近年、食事開開始時期を早めて開始 する施設も多くみられる。しかし、個人差が大きく、特に 高齢者では1PODからの予定カロリー摂取は難しい。し たがって、若年者から高齢者まで同一のパスを用いて確 実にエネルギー投与が可能な経腸栄養は逸脱例が少な いことから意義があると考えている。胃全摘症例では る17)。チューブは6.5Frの細径を使用し、術中に空腸ま で誘導し留置している。高齢者の胃全摘症例には事故 (自己)抜去の防止と長期間の経腸栄養を目的に Y脚を 図2 幽門側胃切除、胃全摘症例における経腸栄養の投与スケジュール 図3 幽門側胃切除症例における経口摂取量とリンパ球数の推移 幽門側胃切除症例で1PODから経腸栄養を開始し、800kcalまで増量、6PODまで継続 する早期経腸栄養群と経腸栄養はせずに5PODから経口摂取する経口摂取群に分け、前 向き試験を行った。末梢静脈を含め投与熱量、蛋白は両群でほぼ同一になるよう設定した。 図4 早期経腸栄養が幽門側胃切除症例における 安静時エネルギー消費量に及ぼす影響
ルタミン酸を供給し、グリシンと供にトリペプチドである グルタチオンの基質となっている24)。グルタチオンは体内 に存在する最も強力は抗酸化物質のひとつである。運動 負荷時や手術侵襲によりグルタチオン濃度が低下するこ とが知られており25)26)、このような状況ではグルタチオン の要求が高まっていることが推定される。これまでシスチ ン700mg・テアニン280mgを摂取することにより、強運 動負荷時の免疫低下の防止作用、炎症の軽減作用などが アスリートを対象とした研究で報告されており27)~ 29)、さら には老人においてインフルエンザワクチンの抗体価産生 能を高めることや30)、冬期の風邪予防作用などがあるこ とも報告されてきた31)。当科では周術期においても同様 の効果が期待できると想定し、胃切除患者を対象に臨 床試験を行ったところ、IL-6、CRP、リンパ球比、顆粒 球比の術直後の反応からの回復が、プラセボ群より早い ことが示された(図5、図6)32)。それぞれの変化のグラフ 1.67kcal/mLの半消化態の濃 厚流動食を用いて 1260kcalまで増量し、6PODより経口摂取を開始して いる(図2)。これは早期に経腸栄養を開始し、侵襲を低 下させると同時に必要熱量を摂取困難である胃全摘症 例に対して可及的に経腸栄養で栄養補給する目的で 行っている。高齢者胃全摘症例においては高率に嚥下障 害を来し、経口摂取の回復が遅れるため、嚥下リハビリ 期間も腸瘻から経腸栄養を行っている。
術後嚥下リハビリ
高齢者の全麻症例では術後嚥下障害を来す症例が多 い。術前の口腔ケアに引き続き、術後早期から口腔ケア に努め、嚥下機能の評価で低下が見られる症例には早 期から間接、直接訓練を行い、嚥下に介入することが重 要である。当院では言語聴覚士(ST)によるリハビリを3 年前より導入したが、年々介入症例は増加 し、嚥下リハビリの必要性は益々高くなっ ている。術前後の絶食期間を短くすること も重要である。アミノ酸サプリメントを
用いた栄養療法
免疫調整栄養剤(immuno-modulating diet)といわれるようなエネルギー補給以 外に特殊な栄養素を組み入れた製品も周 術期に多く使われているが、当科では1-3g で簡単に摂取できるアミノ酸サプリメント を使用している。侵襲軽減アミノ酸:
シスチン・テアニン
シスチンは含硫アミノ酸であるシステイン が S-S結合で2分子が繋がった構造で、毛 髪、爪などに多く含まれている。テアニンは 茶の旨味成分で体内に吸収された後にグ ルタミン酸とエチルアミンに分解される。シ スチンとテアニンは細胞内にシステインとグ 図5 シスチン・テアニン投与が幽門側胃切除後の IL-6および CRPに及ぼす影響 図6 シスチン・テアニン投与が幽門側胃切除後の顆粒球比およびリンパ球比に及ぼす影響回復に結びついている結果であると考えている。現在、 臨床においても活動性に及ぼす影響について客観的な 指標を用いて検討中である。 欧米の研究では栄養療法のアウトカムを術後合併症 の発生頻度や術後在院日数で判定することのみにこだ わっているが、今回の結果のように検査結果が早期に回 復することを示すことも重要であると考えている。すなわ ち、合併症を発生しなくても、多くの症例で検査データ が早く良くなることはすべての症例が恩恵にあずかるこ とになり、このような管理の積み重ねが安全な術後管理 の確立に繋がっているからである。侵襲軽減効果はすべ ての症例で考慮されるべきであるが、特に高齢者におい てその意義は大きい。当科では胆嚢摘出術以外のほとん どの消化管手術症例にシスチン・テアニンを術前後で連 続10日間摂取している。用量はわずか1g 程度であるため、術直後の高齢者でも容 易に摂取可能であり、臨床でも使い勝手が 良い。肝切除症例においても後ろ向き試 験ではあるが、シスチン・テアニン摂取症 例では体温の上昇が非摂取例に比して低 いことも明らかとなって、胃切除以外の高 侵襲手術でも効果が期待できる。
創傷治癒促進アミノ酸:
BCAA、グルタミン
創傷治癒には必要エネルギーをみたす 栄養の他にビタミンA、B、Cや鉄、亜鉛な どの微量元素に加え、アルギニンを初めと するアミノ酸が特に必要とされている。当 科では周術期にビタミン、亜鉛などを含ん だ補助食品をルーチンに使用しているが、 SSIを発生した症例には、創傷治癒促進を 目的に BCAA、グルタミン、超低分子コ ラーゲンを含んだアミノ酸サプリメントを 追加して使用している。使用の根拠となっ た実験はラットの低栄養、褥瘡モデルにお いて、血中BCAAとグルタミンの低下がみ られ、低下しているBCAAとグルタミンを 投与した場合、褥瘡の治癒が促進されると を比較すると左に移動していることがわかる。つまり、1-数日間回復が前倒しになっていると考えられた。また、体 温に関してもシスチン・テアニン投与群は早期に解熱する ことが示された(図7)。侵襲が大きくなると上昇するとい われているREEについても、術後の上昇が抑制され、前 述の早期経腸栄養と同様の結果が得られた(図7)。 これらの抗炎症作用や体温上昇抑制、REE上昇抑制 効果はマウスまたはラットを使った消化管手術モデルで も確認されている33)。侵襲によって炎症反応が惹起され、 術後は身体活動が低下し、その後回復とともに活動性も もとに戻るとされているが、マウスモデルにおける検討で はシスチン・テアニン投与により術後の活動量の回復が コントロール群に比して、有意に早くなったことが示され た(図8)。これは検査データの改善が身体活動の早期 図7 シスチン・テアニン投与が幽門側胃切除後の体温および安静時エネルギー 消費量に及ぼす影響 図8 シスチン・テアニン投与が術後の活動量に及ぼす影響(マウス) 消化管手術を摸した小腸擦過モデルを作成し、術前5日間シスチン・テアニンを投与。活動 量の変化を赤外線センサーを用いて測定し、対照群と単開腹群と比較した。化器手術症例ではひろく使用されることが推奨される。 特に高齢者では創傷治癒遅延傾向がみられるため、早 期回復にむけて有用であると思われる。投与量も約3gで あるので摂取も容易であり、経腸栄養チューブからの投 与も可能である。
手術成績(表1)
2013年に行った胃がん手術症例は前述の如く42例 (37.5%)が75歳以上の症例であったが、退院時のアルブ ミンは術前の86.4%まで回復しており75歳未満症例の 85.4%と遜色なかった。また、体重の変化も高齢者で術 前の94.7%。75歳未満で93.7%と同程度であった。 CRPの推移についてみても高齢者では75歳未満症例に 比して、1および14PODにおいて低値で推移しているこ とは手術適応を含めて可及的に侵襲の軽減を計った結 果であると考えており、出血量、手術時間からも裏付けら れる。30日以内の直接死亡症例は両群ともになかった。 術後在院日数については75歳以上で21.2日と75歳未満 の18.2日であったが、平均年令で17歳以上の差があるこ とを考慮すれば、ほぼ満足できる結果であった。まとめ
今後ますます増加すると予想される高齢者胃がん症 例の管理について、当科で行っていることを中心に述べ た。手術適応については、他の消化器手術と異なり、食 事摂取量の低下が終生持続し、QOLの低下を来しやす いことを十分に説明し、社会的背景も考慮したうえで決 めることが重要である。術前には栄養アセ スメントを十分に行い、可能であれば補正 し、最も重要な経口摂取のための歯科治 療を含めた口腔ケアを行う。術前後には腸 管を使用しない期間を可及的に短くし、手 術は出血量、手術時間を考慮し、郭清度は やや低めても侵襲を低く抑える。腹腔鏡の 手術も考慮されるべきである。術後1POD からの早期経腸栄養は REEの増加を抑 制するため、開腹症例では全例に施行して いる。高齢者の胃全摘の症例には腸瘻を いうものである34)。臨床例で難治性の SSI発生症例に BCAA1321mg、グルタミン179mg、超低分子コラーゲ ン1000mgを含むサプリメント(BCAA/Gln/Collagen) を使用したところ、ラットの実験と同様に肉芽の形成が 明らかに促進された。そこで、直腸がん術後で回腸瘻造 設症例がストーマ閉鎖の際、皮膚欠損部を直径2cmに 環状縫縮し、これらの症例を対象に BCAA/Gln/ Collagenを術前1週間から3週間連続投与した症例とし なかった症例において創面の面積の変化を術後2週間観 察する臨床試験を実施した35)。図9は創面積を1PODと の割合で示したが、BCAA/Gln/Collagen投与症例で は非投与症例に比して、有意に創面積の縮小が早くみら れた。採血結果をみると、血清アルブミンの上昇が早く、 CRPの低下も早くみられた(図10)。この結果から、創 傷の2次治癒が BCAA/Gln/Collagenにより促進され ることが臨床でも確かめられたが、1次治癒においても 治癒促進効果が期待できるため、消化管吻合を伴う消 図9 CAA/グルタミン/コラーゲン投与がストーマ閉鎖後の 創傷治癒に及ぼす影響 回腸瘻閉鎖後、直径2cmになるように環状皮膚縫合を行い、創面積 の変化を1PODと比較した。 図10 BCAA/グルタミン/コラーゲン投与が血清アルブミン値、CRPに及ぼす影響参考文献
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造設し、入院中を通じた、場合によっては退院後も使用 できる経管栄養を行うことが非常に有用である。術後は 早期離床、早期リハビリに努め、通常の生活パターンに 早く戻すことが必要である。高齢者では手術後高頻度で 嚥下障害が発生するため、嚥下機能のチェック、間接、直 接の嚥下訓練が重要である。当科で使用している炎症 反応を軽減するアミノ酸(シスチン・テアニン)や創傷治 癒を促進するアミノ酸(BCAA/Gln/Collagen)も有用 である。侵襲は手術そのものに大きく左右されるが、重 要なことは周術期管理によっても侵襲を軽減可能である ことである。そのためには医師、メディカルスタッフを含 めた総合的なアプローチが必要である。
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