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―誰もが楽しく取り組む保健体育の授業を目指して―
内田 善弘
本論の要旨
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本研究は 生涯にわたって運動やスポーツに親しむ資質や能力を育てる という目標の実現に向けて より多くの生徒が主体的,自発的に取り組む授業内容を確立しようとしたものである。生涯にわたって 運動やスポーツに親しむという力を身につけさせるためには,運動の特性に触れる楽しさを実感させ,
基礎的な運動の技能を向上させながら,自己の動きを的確に把握し,課題解決に向けて適切な練習の方 法を工夫したりする能力を育てなければならない。そのために合理的な運動の実践を通して,身体能力 を身につけるとともに,集団での活動や身体表現などを通してコミュニケーション能力を育成したい。ま た筋道を立てて練習方法や作戦を考えさせることを通して論理的思考力を育みたい。
キーワード 基礎的基本的技能の習得 運動の楽しさ コミュニケーション能力
1.研究主題に寄せて
21世紀は新しい知識・情報・技術が社会のあらゆ る領域で,活動の基盤として飛躍的に重要性を増す
「知 識 基 盤 社 会 」 と 言 わ れ て い る 。 こ の よ う な 知 識 基 盤 社 会 化 や グ ロ ー バ ル 化 が 進 む 状 況 に お い て , 確 か な 学 力 , 豊 か な 心 , 健 や か な 体 の 調 和 を 重 視 す る 「 生 き る 力 」 を 育 む こ と が ま す ま す 重 要 に な っ て く る 。 こ の こ と を 受 け て 平 成 2 4 年 度 か ら 完 全 実 施 の 保 健 体 育 科 学 習 指 導 要 領 の 改 訂 に お い て 「 生 涯 に わ た っ て, 健 康 を 保 持 増 進 し , 豊 か な ス ポ ー ツ ラ イ フ を 実 現 す る こ と を 重 視 し 改 善 を 図 る 」 と し て い。 る 。 ここ数年,保健体育の授業を担当していて強 く感じることがある。それは生徒の体育が好き・嫌 いという運動に対する気持ちの面や,できる・でき ないといった能力面での二極化が大きくなっている ということである。低学年から塾に通う,室内でゲ ーム機で遊ぶといった生活習慣が広がり,外で体を 動かして遊ぶ,仲間と一緒に遊ぶという経験が少な くなった。そのため,運動したい子供はスポーツ少 年団や社会体育のチームに所属して特定の場で,特 定の種目しか取り組めないという環境が広がってい る。この対策として学習指導要領では体力の向上や 精神的ストレスの発散など,心身の両面にわたって 健康の保持増進に資するために,保健体育科の究極 の目標である「生涯にわたって健康を保持増進し,
豊かなスポーツライフを実現することを重視し改善 を図る」ことを掲げている。
中学校においてスポーツに取り組むというと,一 番に思い当たるのは部活動に参加するという方法が 一般的である。その他に,社会体育のチームに所属 する方法もあるが,いずれにしてもその参加は本人 の希望によるものであり,運動・スポーツが嫌い・
苦手な生徒は積極的には参加しない。そういった生 徒が「生涯にわたって運動やスポーツに親しむ」こ とができるようにするためには,保健体育の授業で いかに運動・スポーツの楽しさを実感させることが
。 ,
できるかが重要となる 合理的な運動実践を通して 仲間と協力して課題解決に取り組む授業展開を工夫 したい。
2.研究仮説
①仲間が互いに積極的に参加しようとする授業は,
互いに自分の意見を言い合える場が提供されるとき である。画像遅延装置を用いて自己の動きを認識さ せたり,DVD や実技の教科書,上手な生徒などパ ートナーやグループの仲間の動きを見て互いに指摘 し合ったりしながら学習を展開することにより,よ り高度で幅広い思考力・判断力を高める授業が展開 できるだろう。
そのために自分たちの「今」持っている力を生か しながら,仲間と作戦やルールを工夫することが運 動技能の習得や,コミュニケーション能力を高め,
運動の楽しさを感じさせることにもつながると考え る。
キーワード 基礎的基本的技能の習得 運動の楽しさ コミュニケーション能力
②自分の動きや今持っているイメージを理解させる ことができれば,生徒に身につけさせたい運動技能
・能力を習熟させ,高められるだろう。
そのために自己観察や他者観察を通して,正しい 動きを知ると同時に,なぜできないのか,どうすれ ば上手に技能習得につながるのかを体感させること ができるであろう。
③シンキングツールを用いて考える姿勢・態度を身 につけさせれば課題を解決する方法を自分で探ろう とするだろう。
「書く」ためには,何を書くか,どんなことを書 くか,どんな視点が必要か(シンキングツールやワ ークシートの活用)を見極める必要がある。また,
「話す」ためには,相手に伝える内容を精選し,ま とめる必要がある。
3.研究方法
・仲間が互いに積極的に関わろうとする授業展開を 取り入れる。
・今持っている技能や動きを自分で知る方法を取り 入れる。
①男女混合のグループを作成したり,男女がペアに なったりする授業展開にする。
②男女の,力強さや柔軟性や気持ちの違いを考えさ せながら,互いの技能を高めさせるための練習方法 を取り入れる。
③見本となる教材や仲間から正しい動きを知るため に,視聴覚機器を利用する。
④見たこと・頭に浮かんだことをまとめさせたり,
文章化させるためにシンキングツールを用いる。
4.研究内容
①生徒の実態把握,幅広い資料収集
②授業展開の検討,授業用資料の作成・準備
③授業の分析と記録,生徒観察
④考え方をまとめるワークシートの活用
⑤互いに教え合う場面設定
⑥ビデオカメラの活用 5.授業実践
ルにスピードを維持して走り,タイムを短縮した り,競走したりする」ことである。ここで言われ ている「リズミカルな走り」とはインターバルに おける素早いピッチの走りのことであり 「滑らか, にハードルを越す」とはインターバルで得たスピ ードで踏み切って,余分なブレーキをかけずその ままのスピードでハードルを走り越えることであ る。ハードル走の記録の向上には,基本的な運動
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能力に加えて 身長や体重といった体格の問題や ハードルを越える際の柔軟性や巧緻性の要素が大 きく影響する種目である。基本的な運動能力や体 格の問題は,生まれつきの資質やこれまでの運動 経験によるところが大きい。しかし,保健体育の 授業において,ハードリングフォームを身につけ る練習,スタートから第1ハードルまで,インタ ーバルの走り方と場面を分けて学習を進めること で,無駄のない効率的な動きを身につけることが できれば,記録の向上は十分期待できる。場面ご とに走り方や姿勢をどのようにするとより効率よ くハードルを越えていけるのか,無駄のないスム ーズなハードリングとはどのようなものか,自分 や他人の動きを分析し互いに情報交換しながら正 しい技能の習得につながるように授業展開を工夫 したい。
③学習目標
自分や他人の動きを様々な方法で分析し,ワー クシートを通して,適切にアドバイスしたり,新 たな課題を発見する。
④評価規準
・仲間と協力して記録の向上や競争を楽しみなが ら,積極的に技術を身につけようとしている。
【関心・意欲・態度】
・ハードル走の特性や技術のポイントを理解し,課 題解決に向けた練習方法を工夫している。
【思考・判断】
・スピードを維持した走りからハードルを低く走り 越すことができる。
・インターバルを3~5歩でリズミカルに走りきる ことができる。
【技能】
み切りの位置,上半身を前傾させる、抜き足から1 歩踏み出すところまでの練習をする。ハードルを越 える様子を動画撮影し,モニタを見て互いにアドバ イスしたり課題を発見したりする。
図1
図2
図1~図2:ディジタルカメラで撮影した ハードリングフォームを確認
第2次
「スタートから第1ハードルまでの歩数を合わせよ う」
クラウチングスタートから第1ハードルまでを練 習する。自分の踏み切り足が合うように、スタート の足を決め、スタートダッシュの歩幅を合わせるよ うに練習する。
図3:ハードリングの様子を動画撮影
第3次
「スピードを維持してインターバルを3~5歩で走 ろう」
50mのコースで、クラウチングスタートからイ ンターバルをスピードを維持して3~5歩でリズミ カルに走る練習をする。その様子を動画撮影し、モ ニタを見て互いにアドバイスしたり課題を発見した りする。
図4:インターバルを体格や脚力に合わせて3 種類準備し、自分の体格や脚力に合わせて コースを選択させた。
第4次
「記録に挑戦しよう」
最終の記録計測。学習してきた技術のポイントを 意識しながら、記録をとる。
図5:仲間と役割分担しながら,自分の選択した インターバルのコースでタイムを計測 第2次
第3次
第4次
第2次
第3次
第4次
第2次
第3次
第4次
⑥学 習 展 開 (第 5 時 )
学習内容と学習活動 指導上の留意点,★思・判・表を伸ばす方策,◆評価
1.集 合・ 整 列・ 挨 拶 ,出 欠 ・ 健康 ・ 自分 の 場 所 に姿 勢 を正 し て 整列 す る よう に 指示 す る 。 導
確 認 本時の課題の確認をする。
入
スト レ ッチ 体 操 ・補 強 運 動 ・ 自他 の 健 康 安全 に 留意 さ せ ,意 識 を 高め さ せる 。 2.前時までの復習をする。
展
ス ター ト から 第 1 ハー ド ル まで ・ 示範 等 情 報 を提 供 する 。 開
の 歩 数 を 確 認 し , ハ ー ド リ ン グ の 姿 勢 を 意 識 し な が ら , 踏 み 切 り 位 置 を 合 わせ る 。
第 2 ハ ー ド ル を 越 す ま で の 練 習 を す る 。
★ デ ィ ジ タ ル カ メ ラ を 使 っ て 技 術 の 課 題 の ポ イ ン ト を 見 つ 3 . 5 0 m の コ ー ス で , ク ラ ウ チ ン
け させ る 。 グ ス タ ー ト か ら イ ン タ ー バ ル を 3
◆ [思 考・ 判 断 規 準 ② : 観察 ま た は 5 歩 で リ ズ ミ カ ル に 走 る 。 ]
そ し て そ の 様 子 を 撮 影 し た り , 振 ・ 仲 間 の 意 見 を ふ ま え , 自 他 の 課 題 の ポ イ ン ト を 考 え さ せ り 返 り な が ら 意見を交流し て 課 題 を る 。
◆ [技 能]規 準 ③: 観 察 見 つ け ,そ の 解 決方 法 を 考 える 。
・ インターバルをスピードを維持して3~5歩でリズミカルに最 後まで走りきらせる。
4.見つけた課題のポイントを意識しなが
。 。
ら練習する 試しにタイムを計ってみる
ま 5.本 時 の 反省 ・ 次 時 の課 題 の 確認 を ◆ [思 考・ 判 断]規 準 ② : ワー ク シ ート
と す る 。 ・ 練習 中 に 気 づい た こと や 考 えた こ と を振 り 返ら せ る 。
・ 本 時 を 振 り 返 り , ワ ー ク シ ー ト め
に 記 入 する 。 6.整列・挨拶・解散
(2)球技領域(ゴール型)
①題材名,対象学年,授業時間
バスケットボール,第2学年男女共修,
全9時間
②主題に寄せて
球技のうち 「ゴール型」に含まれるバスケット, ボールは,ボールを手で操作し,相対するチームが 3 05m cm の高さに設置されたゴールに,限られた時 間内にどれだけ多くのシュートを決められるか,個 人技能・集団技能による攻防を展開して勝敗を争う ところに楽しさや喜びを味わうことのできるスポー ツである。種目特有の個人技能として,シュート、
から突き指や捻挫などのけがも起こしやすいことが 考えられる。そこで本単元では基礎的・基本的な技 能の習熟をドリルゲームによって保証しつつ、アウ トナンバーを中心とするタスクゲームにおいて,シ ュートチャンスをつくるためのオフボールでの動き 方(サポートの仕方)を理解させ,その動きを身に つけさせることに重点を置き,誰もがゲームの楽し さを味わうことができるよう学習を行わせたい。
本単元では「情報の授業」で学習したことを活用 して,生徒たち自身で基本的なデータをとり,均等 な技術レベル(グループ内異質・グループ間等質)
になるようグループ編成を行わせた。そして2対1
自分や他人の動きを様々な方法で分析し,ワー クシートを通して,適切にアドバイスしたり,新 たな課題を発見する。
④評価規準
・仲間と協力してタスクゲームを楽しみながら,
積極的に技術を身につけようとしている。
【関心・意欲・態度】
・オンボール・オフボールでの動きを理解し,自己 やチームの課題に応じた練習方法を工夫している。
【思考・判断】
・パスを投げた後,素早く良い位置に動いてボール をもらい,シュートに結びつけようとしている。
【技能】
・味方にパスを出した後,ディフェンスを破っても う一度ボールをもらう動きを理解している。
【知識・理解】
⑤学習計画(過程)とその様子 第1次
ボールハンドリング,パスとキャッチ,ゴール付 近でのシュートのボール操作の練習。一定時間内に どれだけできるかを競争しながら,グループ編成の ためのデータをとる。
図1:ゴール下付近でのシュート練習
第2次
2対1や3対2のアウトナンバーでのタスクゲー ムで,空いている場所に走り込む味方にパスをつな
, 。 ,
ぎ シュートチャンスをつくる 動きを動画撮影し タイミングやコースの取り方について分析する。
図2:3対2の練習
図3:ステージの上の高いところからコート全体 を撮影。ディフェンスの動きによってオープンスペ ースができる場所やタイミングが見つけやすい。
図4:コート全体を見渡せるよう、大きな画面の モニターで確認。
第3次
パスを中心としたゲームで、オープンスペースを 見つけて,タイミング良く走り込み,そこにパスを つないでシュートチャンスをつくる。
図5:ゲームの様子。ディフェンスが戻るより早 く、パスをつないでノーマークでゴール下付近での シュート。
⑥ 学 習 展 開 ( 第 6 時 )
学習内容と学習活動 指導上の留意点,★思・判・表を伸ばす方策,◆評価
集 合 ・ 整 列 ・ 挨 拶 , 出 欠 ・ 健 康 ・ 自 分 の 場 所 に 姿 勢 を 正 し て 整 列 す る よ う に 指 示 導 1.
確 認 す る 。
入
ス ト レ ッ チ 体 操 ・ 補 強 運 動 ・ 自 他 の 健 康 安 全 に 留 意 さ せ , 意 識 を 高 め さ せ る 。 ウオーミングアップとして基本的な動
展 2.
きの練習をする。
開
・パスを受けてシュートの練習
・パスアンドランでシュートにいく練習
本時の課題を知 る 。 ・3 対 2 で パ ス を つ な い で シ ュ ー ト に 結 び つ け る 攻 撃 の 練 3.
習 に つ い て 理 解 さ せ る 。
デ ィ フ ェ ン ス の 約 束 と し て 、 ボ ー ル マ ン に 必 ず 一 人 が マ 意見を交流する。 ー ク す る こ と を 伝 え る 。
4.
◆ 思 考 ・ 判 断 規 準 ② : ワ ー ク シ ー ト
・動きのパターンを考えどのタイミングで [ ]
制限区域に走り込むと良いか話し合う。 ・ 動 き の パ タ ー ン を 図 に 記 入させる。
・動きのパターンをワークシートに記入す
◆ 運 動 の 技 能 規 準 ③ : 観 察
る。 [ ]
★ デ ジ タ ル カ メ ラ を 使 っ て 課 題 を 確 認 さ せ る 。
3対2の練習をしながら,動き方やパ ・ グ ル ー プ 内 で 順 番 に 役 割 を 交 代 し て , 取 り 組 む よ う に 5.
スの出し方について考える。 指 示 す る 。
・順番を待つ生徒がチャンスを見つけた ・ 気 づ い た こ と は ど ん ど ん 言 わ せ る 。 ら外から声をかける。
◆ 思 考 ・ 判 断 規 準 ② : ワ ー ク シ ー ト 6.本 時 の ま と め を す る 。 [ ]
・ 本 時 を 振 り 返 り 、 ワ ー ク シ ー ト ・ 練 習 し な が ら 気 づ い た こ と や 考 え た こ と を 振 り 返 さ せ
に 記 入 す る 。 る 。
ま と
整 列 ・ 挨 拶 ・ 解 散 め 7.
6.成果と課題
本年度は,昨年度の研究で課題とした,ディジタ ルカメラで動画撮影し,自分たちの動きをより正確 に分析させることに焦点を置いて研究を進めてき た。誰もが楽しく取り組める体育授業を目指しなが ら,小グループに分かれての活動時間をできるだけ 多く取り,互いに動きを観察させ,アドバイスやコ メントをワークシートに記入するという学習活動に 継続的に取り組むことにより,技術の構造をより正 確に理解し,それぞれの課題を見つけ,練習方法を 工夫する力が少しずつ定着してきた。ディジタルカ メラを使って自分たちの動きを動画撮影し,モニタ ーで動きを確認することで,より正確な分析ができ た。特にバスケットボールの授業では,ディジタル
り,互いにアドバイスできる内容もより具体的にな った。また互いにアドバイスしながら練習方法を工 夫することで,生徒の自主的な活動につながり、技 術の向上をさせることができた。的な取り組みがさ らに活発にできるようになった。
今後の課題としては,より正確な技術のイメージ を持たせるために,教師の示範だけでなく画像や映 像の提供の仕方を工夫することが必要であると考え る。そして生徒が技術の理解を深め,高まるような 授業展開ができるように,研鑽を積んでゆきたい。
また,生徒同士のコミュニケーション能力を高め,
体育における思考能力の向上につながる学習展開を 工夫するために,より有効な思考ツールの活用方法 の研究も今後の課題である。これらの成果と課題を