日機連20先端-1
平成20年度
新素材の産業化を促進する計測・
分析技術の動向調査報告書
平成21年3月
社団法人 日本機械工業連合会 社団法人 日本分析機器工業会
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
http://ringring-keirin.jp/
序
我が国機械工業における技術開発は、戦後、既存技術の改良改善に注力することか ら始まり、やがて独自の技術・製品開発へと進化し、近年では、科学分野にも多大な 実績をあげるまでになってきております。
しかしながら世界的なメガコンペティションの進展に伴い、中国を始めとするアジ ア近隣諸国の工業化の進展と技術レベルの向上、さらにはロシア、インドなどBRI Cs諸国の追い上げがめざましい中で、我が国機械工業は生産拠点の海外移転による 空洞化問題が進み、技術・ものづくり立国を標榜する我が国の産業技術力の弱体化な ど将来に対する懸念が台頭してきております。
これらの国内外の動向に起因する諸課題に加え、環境問題、少子高齢化社会対策等、
今後解決を迫られる課題も山積しており、この課題の解決に向けて、従来にも増して ますます技術開発に対する期待は高まっており、機械業界をあげて取り組む必要に迫 られております。
これからのグローバルな技術開発競争の中で、我が国が勝ち残ってゆくためにはこ の力をさらに発展させて、新しいコンセプトの提唱やブレークスルーにつながる独創 的な成果を挙げ、世界をリードする技術大国を目指してゆく必要があります。幸い機 械工業の各企業における研究開発、技術開発にかける意気込みにかげりはなく、方向 を見極め、ねらいを定めた開発により、今後大きな成果につながるものと確信いたし ております。
こうした背景に鑑み、弊会では機械工業に係わる技術開発動向調査等のテーマの一 つとして社団法人日本分析機器工業会に「新素材の産業化を促進する計測・分析技術 の動向調査」を調査委託いたしました。本報告書は、この研究成果であり、関係各位 のご参考に寄与すれば幸甚です。
平成21年3月
社団法人 日本機械工業連合会 会 長 金 井 務
はしがき
この報告書は、社団法人 日本分析機器工業会が平成20年度事業として、社団法人 日本機械工業連合会より受託(競輪補助事業)を受けて実施した「新素材の産業化を促進 する計測・分析技術の動向調査」の実施内容をまとめたものです。
ソフトマテリアル(機能性高分子材料、無機
/
有機複合化材料、バイオマテリアル 等)など新素材は、情報通信、ライフサイエンス、医療・製薬、食品、環境、エネル ギーなど多くの産業分野から要望されています。機能性新素材を開発することがその 産業分野の発展に必要不可欠になっているからです。微量に含まれる成分や原子・分 子スケールにおける複雑な構造が、これら素材の機能に大きな影響を与えます。した がって、新素材の構造・物性および多機能デバイスなどの機能応用を評価するための 計測・分析技術が、新素材の開発において鍵を握ることが指摘されています。また、新素材の製造プロセスにおいて材料の安定性、動的挙動などの評価、および製品とし て構造安定性、信頼性、安全性などの評価が求められます。新素材にかかわる計測・
分析技術は広範にわたるため、どの分野でどのような対象にあるか現状の問題点と将 来ニーズを抽出し、あわせて解析技術開発の動向と要望を調査しました。
新素材の産業化を促進する計測・分析技術の動向調査において、計測・分析技術に 関する現状と動向についてアンケート調査、ヒアリング調査により実施し、技術開発 の動向について文献調査により実施しました。最後にこれらの調査をもとに新素材に かかわる計測・分析技術の課題と提言という形で纏めました。
この調査研究事業の実施に当たって、委託事業として取り上げていただきました社 団法人 日本機械工業連合会に深く感謝申し上げますとともに、この調査研究事業にご 協力を戴きましたアンケート先、面接調査先各位、及び社団法人 日本分析機器工業会 内に設置しました「新素材の産業化を促進する計測・分析技術の動向調査委員会」に 参加して、貴重なご意見とご審議を戴きました委員長をはじめとする各委員のご尽力 に対し、厚くお礼申し上げます。
平成21年3月
社団法人 日本分析機器工業会 会 長 堀 場 厚
目 次
序
はしがき
調査の概要
...1
第 1 章 新素材にかかわる計測・分析技術に関する現状とニーズの把握
...5
1.1 はじめに...5
1.2 新素材への関心度...6
1.3 新素材開発に使用される機器の現状
...8
1.4 使用機器に対する評価と方向性
...11
1.5 ヒアリング調査から見た新素材にかかわる計測・分析技術の現状と期待
...18
1.6 まとめ
...23
第2章 新素材にかかわる計測・分析技術に関する開発の動向...25
2.1 分野ごとの新素材にかかわる計測・分析技術に関する開発の動向...26
2.2 まとめ
...39
第3章 新素材にかかわる計測・分析技術に関する課題と提言
...41
添付資料
...43
添付資料1.アンケート調査
...45
添付資料2.調査文献リスト
...89
調査の概要
1.事業の目的
ソフトマテリアル(機能性高分子材料、無機 / 有機複合化材料、バイオマテリアル等)
など新素材は、広範な産業分野から要望されており、例えば次世代ロボットやアクチュエ ータ、センサの機能を有する材料としても注目されている。新素材の産業化を促進するた め、新素材の構造・物性や機能応用を評価するための計測・分析技術の実用化・高機能化 が期待されている。
ラボ用分析機器を新素材の構造・物性や機能応用評価に活用するため、国内外の新素材 にかかわる計測・分析技術に関する現状および研究開発動向を調査する。ソフトマテリアル など新素材の産業化を促進するための計測・分析技術は、我が国のものづくりのイノベー ションを創出する。
ソフトマテリアルなど新素材開発の現状と新素材の構造・物性や機能応用評価にかかわ る計測・分析技術の状況を調査する。そして、計測・分析技術に関する現状の問題点と研究 開発動向、および将来ニーズを抽出することにより、将来開発が期待される分析機器の要 求項目を明確にする。
2.事業の内容
(社)日本分析機器工業会に学識経験者、分析機器メーカー関係者を中心とした委員会を
設置し、その総括運営のもとに事業を行った。①新素材にかかわる計測・分析技術に関する現状とニーズの把握
新素材にかかわる機関、分析機器メーカーなどを対象にアンケート調査とヒアリング 調査を実施して、新素材にかかわる計測・分析技術に関する現状課題を明確にし、ニー ズを把握して将来展望を考察した。
②新素材にかかわる計測・分析技術に関する開発の動向
国内外の文献調査と大学・国立研究機関・民間研究機関などのヒアリング調査より、
新素材にかかわる計測・分析技術に関する開発の動向を調査した。
③新素材にかかわる計測・分析技術に関する課題と提言
新素材にかかわる計測・分析技術に関する現状把握と開発動向の調査を基に、課題と 将来展望を提言した。
3.事業の実施組織
社団法人日本分析機器工業会内に、本事業を運営と事業計画作成、調査研究遂行、事 業の取りまとめ等を実施するために「新素材の産業化を促進する計測・分析技術の動向 調査委員会」、及びその下に実作業を行う「WG」を設け、当初の目的を達成すべくこれ を推進した。
4.委員会
4.1 委員会の構成
委員会委員構成(順不同・敬称略)
委員長 宮村 一夫 東京理科大学 内山 一美 首都大学東京 山下 俊 東京理科大学 大塚 英典 東京理科大学 古川 良知 京都電子工業㈱
小島 建治 日本電子㈱
池田 賢仁 ㈱パーキンエルマージャパン 松本 博司 ㈱堀場製作所
大野 慎介 ㈱三菱化学アナリテック 高橋 貞幸 ㈱リガク
多田 芳史 ㈱リガク
柾谷 榮吾
(社)日本分析機器工業会
幹 事 松岡 広和 アジレント・テクノロジー㈱幹 事 後藤 良三 東亜ディーケーケー㈱
幹 事 長谷川勝二 日本分光㈱
幹 事 小川 茂 ジーエルサイエンス㈱
幹 事 小森 亨一 ㈱島津製作所
ワーキンググループ委員構成(順不同・敬称略)
古川 良知 京都電子工業㈱
小島 建治 日本電子㈱
池田 賢仁 ㈱パーキンエルマージャパン 松本 博司 ㈱堀場製作所
大野 慎介 ㈱三菱化学アナリテック 高橋 貞幸 ㈱リガク
多田 芳史 ㈱リガク
幹 事 松岡 広和 アジレント・テクノロジー㈱
幹 事 後藤 良三 東亜ディーケーケー㈱
幹 事 長谷川勝二 日本分光㈱
幹 事 小川 茂 ジーエルサイエンス㈱
幹 事 小森 亨一 ㈱島津製作所
幹 事 時永 大三 ㈱日立ハイテクノロジーズ 事務局 戸野塚房男
(社)日本分析機器工業会
4.2 委員会の活動状況
委員会 5回 ワーキンググループ 2回
第 1 章 新素材にかかわる計測・分析技術に関する現状とニーズの把握
1.1 はじめに
ソフトマテリアル(機能性高分子材料、無機・有機複合化材料、バイオマテリアル等)
など新素材は、広範な産業分野から要求されており、次世代の産業を支える根幹となるも のの一つと考えられ、多方面にわたる実用化が望まれている。この新素材の産業化を促進 するために、新素材の構造、物性及び機能応用を評価するための計測・分析技術の実用化・
高機能化が期待されている。
そこで、まずその現状と把握するため、新素材の構造、物性及び機能応用に関わる計測・
分析技術の状況を調査し、計測・分析技術に関する現状の問題点と将来ニーズを抽出する ことを目的として、アンケート及び研究者へのヒアリングを実施した。本調査では研究従 事者を主として、化学工業、医療、電機などの分野の民間企業及び大学や国公立研究所な ど、
538
カ所を2008
分析展来場者などで工業会からの連絡に同意を得られた人の中から無 作為に抽出し、108の回答を得ることができた(回収率20.1%)。回答者の所属事業所、機
関の回答状況を図1-1
に、また、民間企業の事業所、機関の業種・分野に関して図1-2
に 示す。回答者の83%は民間企業からの回答であるが、その中の業種は化学工業・石油化学
及び電気・電子・半導体がともに全体の20%強であった。民間企業の中での回答者の主業
務については、60%弱が研究開発であり、分析・評価解析を加えると、両者で90%を占め
る結果となっている。計107件 国公立研究機
関(独立行政法 人を含む)
7%
大学・大学院 9%
民間企業(財・
社団法人を含 む)
83%
その他 1%
図
1-1
所属事業所、機関の回答状況8 6 4
1 1
24 22 12
10
2
1
0 5 10 15 20 25 30
化学工業・石油化学 電機・電子・半導体 その他 食品・バイオ 創薬・医薬・医療 分析機器・測定機器 分析・試験・検査 機械・精密機械 鉄鋼・非鉄金属 情報・通信・制御 電力・エネルギー
件数
図
1-2 民間企業での事業所、機関の業種・分野
1.2 新素材への関心度
新素材に関しての関心は、回答者の
91%が「おおいにある」あるいは「すこしある」と
回答しており、多くの人が関心を持って回答してきてくれたことがわかる。関心の度合い は、「創薬・医薬・医療」が75%、「食品・バイオ」が 80%で、平均より低かった(付属資
料参照)。そこで、各研究者の関心のある新素材に関してまとめてみた。図1-3
は、回答者 数に対して、「国公立研究機関/大学・大学院」、「民間企業」及び「全体」の関心の割 合を示している。複数回答を可としたために、回答者数に対する割合の合計が100%を越
えている。「国公立研究機関/大学・大学院」では、複数の新素材に興味を持つ人が多い。回答者全体では、「機能性高分子」が総回答数の
41%、「無機・有機複合材料」が 34%、
「バイオマテリアル」が
21%であった。「機能性高分子」は「国公立研究機関/大学・大
学院」、「民間企業」が共に50%を越えており、多くの研究者が関心を寄せている。しか
し、「無機/有機複合材料」では「民間企業」が40%を越える関心があるのに対し、「国公
立研究機関/大学・大学院」では33%に過ぎなかった。逆に「バイオマテリアル」では「国
公立研究機関/大学・大学院」が50%、民間企業が 25%と関心の度合いが逆転している。
これは、「バイオマテリアル」が、用途を含めまだ研究段階であるのに対し、「無機/有機 複合材料」が、用途を含め実用段階に入っていることを示唆する。
55.6
51.1
51.9
33.3
43.3
41.7
50.0
21.1
25.9
16.7
2.2
4.6
0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 120.0 140.0 160.0 180.0 国公立研究機関/
大学・大学院
民間企業
全体
機能性高分子 無機/有機複合材料 バイオマテリアル その他
18人
90人
108人
図
1-3 機関毎の関心のある新素材の割合(各回答者比率、複数回答)
力、省エネルギー)、高吸水性高分子(生活用品)などがあげられている。「無機/有機複 合材料」では、ナノ
Si(発光素子)、炭素繊維/ガラス繊維(軽量化、高強度)、熱電/熱
光変換材料(CO2対策)、耐高温材料(高精細露光)などであった。また、「バイオマテ リアル」では、再生可能資源からの新材料(循環型社会)、生分解性プラスチック(環境)、等であり、将来の貢献を見据えた新素材の開発姿勢がうかがわれる(詳細は参考資料参照)。
今回の回答者の仕事と新素材の関係では、回答者の
61%が研究に従事し、29%が機能評
価に従事していた(図1-4)。
61.1
28.7
17.6
5.6
13.0
0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 研究・開発
機能評価
応用
製造/品質管理
その他
従事者の割合(%)
図
1-4 回答者の新素材に関わる業務割合(回答者比率、複数回答)
また、新素材を使用する分野では、電気・電子分野が回答者の
42%、医療・診断・生体
材料が
24%、次いで資源・環境 21%、エネルギー20%と続く。発光素子や燃料電池、再生
医療・細胞医療など、先端技術に結びついた新素材の開発が行われていると考えられる。
図
1-5
に新素材を使用する分野の回答者に対する割合を示す。41.7 24.1
21.3 20.4 11.1
5.6 10.2
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 電気・電子
医療・診断・生体材料 資源環境 エネルギー 食品 セキュリティー その他
使用する分野の割合(%)
図
1-5 新素材を使用する分野(回答者比率、複数回答)
1.3 新素材開発に使用される機器の現状
実際に新素材の開発に使用される機器としてはどのようなものがあるかを調査してみた。
機器を電気化学分析装置、光分析装置、X線分析装置、質量分析装置、磁気共鳴装置、分 離分析装置、分解・蒸留・分離・濃縮・抽出装置、熱分析・熱測定装置、専用測定装置、
医用検体検査装置、流れ分析装置、バイオ関連機器、その他の
13
分野に分け、また、用途 を「構造」、「物性」、「機能」の3
カテゴリーに分けてみた。現在使用している、あるいは使用したい機器の分野を図
1-6
に示す。0 10 20 30 40 50 60 70
電気化学分析装置 光分析装置
X線分析装置 質量分析装置
磁気共鳴装置 分離分析装置
濃縮・抽出装置 分析・熱測定装置
専用測定装置 医用検体検査装置
流れ分析装置 バイオ関連機器
その他
件数
光分析装置及び質量分析装置が共に
60
件を越え、次いで分離分析装置、X
線分析装置、熱 分析・熱測定装置が50
件以上であった。1
ないし2
分野にわたる回答をした人は多いもの の、全体の1/3
程度にとどまっており、3
分野以上から5
分野の重複選択をした人が1/3
程 度、6 分野以上の重複選択がやはり1/3
程度であった。新素材の開発の場合、多側面から みる必要があり、ひとつの機器のみではなく、いろいろな機器を使用する必要があると考 えられる。これらの機器分野の使用状況を用途のカテゴリーで解析してみた。用途のカテゴリーは 大きく「構造」、「物性」、「機能」の3っつに区分した。また、「構造」はさらに構造解析を 主とする「構造」、界面状態の解析を主とする「界面」、空間的あるいは時間的な解像度を 主とする「解像度」に細分した。「物性」は各々の特性に応じ、「力学的(物性)」、「熱的」、
「光学的」、「電気的」、「磁気的」、「化学的」の
6
区分に細分した。「機能」は新素材の「反 応性」、分子等の「配向性」、「結晶性」の3
区分に細分した。大きな区分での結果を図1-7
に示す。「構造」では磁気共鳴装置、光分析装置、質量分析装置が多く使用され、「物性」では光 分析装置、熱分析・熱測定装置、質量分析装置、分離分析装置と続く。また、「機能」では 光分析装置、質量分析装置、磁気共鳴装置の順で多かった。
0 50 100 150 200 250 300
電気化学分 析装
置 光分析装置
X線分析 装置
質量 分析装
置
磁気共鳴 装置
分離分析装 置
分解
・蒸留
・分離
・濃縮
・抽出装置 熱分析
・熱測 定装置
専用 測定装
置
医用検体検 査装
置
流れ分析装 置
バイ
オ関連機器 その 他
合計
×1/10
件数
構造集計 物性集計 機能集計
図
1-7 用途別機器の使用状況
図
1-8
に機器全体に対し、各大区分毎に小区分用途の割合を示す。グラフは各大区分を各々100%とし、小区分項目の占める割合を示している。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
構造
構造 界面 解像度 その他
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
物性
力学的 熱的 光学的 電気的 磁気的 化学的 その他
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
機能
反応性 配向性 結晶性 その他
図
1-8 各用途(大区分)毎での具体的目的(小区分)の割合
「構造」では「構造」解析が
60%以上を占めており、「解像度」及び「界面」がほぼ同
じで
12%程度であった。具体的な機器として走査電子顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡
(TEM)、フーリエ変換赤外分光計、X線回折装置などが使用されている。「物性」の場合
は約
50%が「化学的」物性の測定に使用されており、
「熱的」物性が約16%、
「光学的」及び「電気的」物性が各々約
10%であった。具体的な機器として紫外・可視吸光光度計、示
差走査熱量計、熱重量測定装置、フーリエ変換赤外分光光度計、液体クロマトグラフ(LC)などが使用されている。特に、「化学的」物性では液体クロマトグラフ(LC)やガスクロ マトグラフ(GC)などの分離分析装置が多く使用されている。
「機能」では「反応性」が約
45%であったが、その他が約 25%と多く、「反応性」、「配
向性」、「結晶性」の枠に入らない目的が多いことがわかる。具体的な機器は、機能全体で はX
線回折装置、フーリエ変換赤外分光光度計、走査電子顕微鏡(SEM)などが多いが、「反応性」に限るとやはり液体クロマトグラフ(LC)やガスクロマトグラフ(GC)など
全体で非常によく使われているのに対し、「物性」や「機能」目的では使用の頻度は落ちる。
フーリエ変換赤外分光光度計は、「構造」の中の「構造」解析では高かったものの、「界面」
ではさほど使用頻度は高くない。しかし、「物性」、特に「化学的」物性に関しては多く使 用されている。これらに対し、X線回折装置は「構造」で、ほぼフーリエ変換赤外分光光 度計と同じであったが、「機能」、特に「結晶性」や「配向性」で非常に多く使用されてい る。これをみると、研究者は目的に応じてうまく使い分けていることがわかる。また、多 くの研究者が新素材の研究・開発をする際に複数の機器を使用していることがわかる。「構 造」解析では回答者平均で一人あたり
15
台の機器を使用していることになり、また、「化 学的」物性では13
台、「反応性」でも6
台が使用されている。このように現状は様々な機 器を使用して、研究開発を進めていることが推定される。図
1-9 使用機器の使用目的(使用頻度上位 3
機種)1.4 使用機器に対する評価と方向性
使用機器に関する現状の満足度に関して、各研究者がどのように評価しているかを調べ た。機器の種類によって異なるが、全体では「満足」及び「やや満足」が半数であった。
「不満」、「やや不満」が
40%であったのを考えると、何とか機器を使いこなしながら、研
究・開発を進めているのが現状と推測される。現状の機器に対する満足度を図1-10
に示す。満足 4%
やや満足 46%
わからない 11%
やや不満 29%
不満 10%
図
1-10 現状の機器に対する満足度(全体)
次に、使用機器の分野毎での満足度に関して図
1-11
に示す。分野毎では医用検体検査装置並びにバイオ関連機器の満足度が高かった。これらの機器 は比較的目的がはっきりした専用装置が多く、使用する方も十分に理解した上で使われて いると考えられ、満足度が高かったと推測される。専用装置分野は逆に満足度が低かった が、この分野に粘度計や水分計などが分類されており、これらの機器の適用範囲が狭く、
研究者の広範な目的と必ずしも一致していないためではないかと思われる。
X
線分析装置や磁気共鳴装置においても不満の度合いが高かった。これは後に出てくる 価格面や、応用性などに不満があると考えられる。全体的にみると、半数以上が満足していると答えてはいるが、逆にほとんどの分野で
40%
あまりが満足をしておらず、新素材開発に対する機器の開発要素は多く、発展途上にある と考えて良い。
0% 25% 50% 75% 100%
電気化学 分析装 光分析装置置 X線分析装置 質量
分析 磁気 装置 分離共鳴装置分析装置 分解
・蒸留
・分離
・濃縮
・抽出装置 熱分
析・
熱測定装 置 専用 医用検体測定装置
検査装置 流れ分 バイ 析装置
オ関連機 その器 他
満足 やや満足 わからない やや不満 不満
図
1-11 使用機器(分野)と満足度
使用目的毎にもう少し細かく調べてみた。結果を図
1-12
に示す。0% 25% 50% 75% 100%
構造 界面 解像度 その他(構造) 集計(構造) 力学的 熱的 光学的 電気的 磁気的 化学的 その他(物性) 集計(物性)
反応性 配向性 結晶性 その他(機能) 集計(機能)
満足・やや満足 わからない やや不満 不満
図
1-12 使用目的別の満足度(全体)
各カテゴリーともに、「満足」及び「やや満足」がおおむね半数を超えているが、一方で は「不満」、「やや不満」も多い。特に、各大分類の「その他」に不満が大きく、目的によ っては使用機器がないという現状も読み取れる。
また、対象新素材ごとの満足度を調べた。結果を図
1-13
に示す。0% 20% 40% 60% 80% 100%
機能性高 分子
無機/
有機複 合材
料
バイ オマ
テリア ル
その他
満足 やや満足 わからない やや不満 不満
図
1-13 対象新素材ごとの使用機器に対する満足度
機能性高分子では比較的満足度が高かったが、有機・無機複合材料において満足度が低 かった。複合材料では、表面状態の解析だけでなく、深さ方向の解析も必要になるために、
現状の機器では簡単に解析するまでには至らず、不満が多くなっていると思われる。
次に不満の具体的な内容について調べてみた。図
1-14
に示す。目的達成ができない理由として解析の能力不足や分解能などがあげられている。また、多 くの機器の使用を必要とするこの分野では、価格、特に特殊な機器になればなるほど価格 が高くなることに阻害要因を挙げている人も多い。
0 2 4 6 8 10 12
感度 分解能 選択性 応答性 その
他の性能
拡張性 価格
操作性試料状態
解析 その 他
件数
図
1-14 目的を達成できない理由
このような現状を踏まえ、開発・研究者が分析機器・分析技術に何を期待するかを調べ てみた。結果を図
1-15
に示す。結果を見ると、簡単操作、低価格、高感度化、解析サポートに関して期待が大きい。今 までの結果からみると、新素材開発には多くの機器を使用しなければならず、分析機器が 開発コストを引き上げることにつながる場合も多い。そのため、機器の低価格化を望む声 が大きいと考えられる。また、複数の機器を使いこなすためには多くの機器に熟知するこ とが必要であり、操作の簡易化、解析サポートの充実を望む声が強いと思われる。また、
小型化への期待もあり、一人でも複数の機器を取り扱えるような工夫やスペースの確保が 必要となる。その他に分類される要望も多く、使用者のニーズに合わせたカスタマイズ化 や微小な変化を捉える時間的な分解能、環境への配慮など、具体的な要望も回答者から寄 せられていた。
0 5 10 15 20 25
高感度 化 分解
能向上 小型
化 高速応
答
リサイク ル性 ラインア
ップ
低価格簡単操 作
インライ ン分析
安定 性向上
省エ ネ
機器のサ ポート
自動 化
解析サポート 試料前
処理 その
他
件数
えているか探ってみた。図
1-16
は分析機器・技術を創成するための仕組みに関してどのよ うに考えているかを示している。0 10 20 30 40 50 60 70
機器 メーカー
との共同開発 補助金
・助成金
産学官連携体制
人材確保 その
他
件数
図
1-16 分析機器・技術を創成するための仕組み
機器メーカーとの共同開発を望む声が多く、回答者の約
60%(65
件)が望んでいる。ま た、産学官の連携体制や人材確保など、人や情報についても約30%の人が必要と考えてい
る。しかし、反面、」補助金等は20%にも満たず、必要な金銭面は自前で調達する姿勢が
みえる。新素材では開発競争が激しく、非公開の部分も多いため、公開を嫌う傾向にある ことも関係しているのかもしれない。以上、新素材の開発・研究に対する現状を、アンケート結果を基に解析した。これらの ことから、分析機器メーカーと開発・研究者が協力をし、カスタマイズされた機器開発が 必要である。一方、コスト面を考えると市場の台数規模が大きいほど低くなるため、この 両者を満足するような機器開発のための仕組みと方法を考える必要がある。例えば、機器 を構成する各要素を共通モジュール化し、モジュールの組み合わせによって機器を安価に 押さえることも一つの方法と考えられる。アンケート結果の詳細は添付資料にまとめた。
1.5 ヒアリング調査から見た新素材にかかわる計測・分析技術の現状と期待 新素材の研究開発に携わっている下記の研究機関を訪問した。
1)信州大学 繊維学部
化学・材料系 機能高分子学課程 谷口彬雄 教授
2)東京理科大学
グリーン光科学技術研究センター 中井 泉 教授(センター長)
3)東京理科大学
理学部化学科 宮村 一夫 教授 宮村 一夫 教授
4)東京理科大学 理学部応用化学科
大塚 英典 准教授
調査概要を以下に示す。
1)訪問先:信州大学 繊維学部
化学・材料系 機能高分子学課程 面談者:谷口彬雄 教授
訪問者:松岡、松本、大野、時永、田口、戸野塚(事務局) 日 時:平成
20
年11
月11
日A
)訪問先の概要「新素材の産業化を促進する計測・分析技術の動向調査」のヒアリング調査として、信州大 学 繊維学部 谷口教授を訪問した。谷口教授は、1980年代半ばに、21世紀においては「有 機エレクトロニクス材料」が学問的にも、実用的にも、産業化の点でも大きく発展することを
一端を現すものである。谷口研究室で研究内容の主なものは以下の通りである。
・有機発光ダイオード(有機
EL
)有機発光ダイオードは、カラー液晶ディスプレイに代わるフラットパネルディスプレイ への応用が期待されており、既に車載用オーディオや携帯電話のマルチカラーディスプレイと して実用化されている。谷口研究室では、特に、有機発光ダイオードの低消費電力化に有効な 電子輸送材料の開発に取り組んでいる。
・有機トランジスタ
シリコン系材料に替わるトランジスタ用の有機材料の開発。
・有機半導体結晶の光・電子物性
有機半導体物理およびその材料科学の基礎研究。この研究の発展を通じ究極の有機デバ イスの1つと考えられる有機半導体レーザ実現の可能性を探る。
・有機薄膜太陽電池
コストパフォーマンスに優れる新しい太陽電池の開発。
・燃料電池関連
直接メタノール燃料電池用高分子電解質膜の研究。
また、谷口教授は有機エレクトロニクス材料研究会(JOEM)の会長や信濃乃蹴鞠の会の会長な ど幅広く活躍されている。
B
)所有する装置・機器等谷口研究室では、分子軌道法を用いた分子設計、有機材料合成、有機材料の薄膜化・デバイス 化、デバイス評価などの一連のプロセスすべてを研究室内で行っている。そのために、様々な 装置・機器を導入あるいは自作している。見せていただいた機器類は、
EL
特性評価装置(フェ ムト秒パルスレーザーを含む)、燃料電池評価装置、真空蒸着装置、スパッタ装置、昇華精製装 置、走査型電子顕微鏡である。他に、通常の分析機器(LCMS、GCMSなど)も使用しているとい う。上記の装置・機器と重複するが、谷口研究室のサイト(http://pec.shinshu-u.ac.jp/)に掲載され ている設備・機器類を以下に列挙するが、デバイスを製造するための設備と計測・分析用の設 備が多い。
・走査型電子顕微鏡 ・ラスタースキャン方式
EB
露光ユニット ・SNOM/AFM
複合装置 ・ 分光器 ・光電子スペクトルメータ AC-2 ・蛍光スペクトルメータ ・UV・可視スペクト ルメータ ・分光エリプソメータ ・示差走査熱量計 ・1GHz
デジタルフォスファオシロ スコープ(5GS/s 2CH) ・ファンクションジェネレータ(200MS/s 1CH) ・ディレイパルス ジェネレータ ・フォトマルチプライヤ・光電子増倍管・1GHz オシロスコープ ・EL 特性評価システム ・クライオスタット(Heガス冷却ユニ ット付き
)
・クライオスタット(真空チャンバー) ・N2
ガスレーザ ・YAG
レーザユ ニット ・Ti-サファイアレーザユニット ・ビデオ光学顕微鏡 ・He:Cdレーザ ・冷却CCD
分光器 ・マスクアライナ/UV
露光装置 ・インピーダンスアナライザー ・燃料電 池評価システム ・ECR スパッタ装置 ・真空蒸着装置 ・UV・オゾン洗浄装置 ・真空 製膜装置 ・O2/CF4
プラズマ装置 ・フロープログラマブルスピンコータ ・昇華精製装置C)有機 EL
の応用例の紹介谷口教授らの研究グループは他分野
(
農学部など)
と共に有機EL
光源を使った『野菜工場』の 開発を行っている。植物の栽培スペースとして冷凍貨物コンテナを使用することにより、保温 性、移動性(
必要に応じて、移動可能な畑のようなもの)
の良いものができるという。野菜工場 の良いところは、水耕栽培で土を用いず、害虫などの侵入を防げるため無農薬で栽培できるこ とである。また、植物の光合成は光の波長によって異なるということから、インターネットで の遠隔操作によって有機EL
の波長などを調整し、植物の育成により良い環境を設定できると いった工夫もなされている。D
)要求する分析機器等について研究開発を進めるうえで、各種の計測・分析が重要であり、特に有機エレクトロニクス薄膜
(厚さ
100nm
程度)の状態(構造、欠陥、平面均一性など)や分光特性の把握、有機エレクトロニクス材料の発光過程の把握が重要であるという。
谷口教授らは有機
EL
とCO
2測定器を組み合わせた光合成活動を確認できる測定装置を開発 している(平成20
年10
月頃の新聞に記載されている)。また、通常ラマンの発光レベルの差を みることによって有機EL
デバイスの温度測定を行う方式の分子温度計を自作して、動作時の 有機EL
デバイスの温度計測を行っている。このように研究に必要な計測・分析装置は市販品 がなければ、工夫して自作しているため、現段階で新たな機器の要望はないという。ただし、“有機物を精製し、それらの純度を分析できる装置”のような材料評価のための機器の必要性 はあるとのことであった。また、「実験室がすぐに手狭になってしまうのでなかなか大きな装置 は導入できない」とも語っておられ、計測・分析装置の設置スペースも気になるところなので あろう。
2)訪問先:東京理科大学 グリーン光科学技術研究センター 面談者:中井 泉 教授 (センター長)
訪問者:松岡、後藤、時永、戸野塚(事務局) 日 時:平成
20
年11
月27
日(木)A
)訪問先の概要グリーン光科学技術研究センターの研究概要について、センター長の中井教授から説明いた だいた。当センターは、文部科学省の私立大学学術研究高度化推進事業「ハイテク・リサーチ・
センター整備事業」により
2005
年度に設立された。環境にやさしい化学「グリーンケミストリ ー」を光の高度利用により総合的に取り組むため、光科学の研究者が結集して研究を推進して いる。3つの研究プロジェクトグループ(光環境解析グループ、太陽光エネルギー変換グルー プ、光応答物質創製グループ)があり、プロジェクトが相互連携して新しい評価技術、高性能 光受容性有機色素・光触媒の開発、光機能性材料、光デバイス、高効率太陽電池など環境持続 型社会の実現に寄与する研究を推進している。B
)実験施設設備グリーン光科学技術研究センターの主要な施設設備は、神楽坂校舎の
1
号館12
階に設 置されている。主な機器は、電界放射走査電子顕微鏡CL
装置、光電子分光装置(XPS
)、顕微レーザーラマン分光装置、1分子蛍光分析システム、LC/ESI-TOF質量分析装置、濃 厚系粒径アナライザー等である。
C
)中井研究室(光環境解析グループ)光を使って物質に潜在する物質史情報を高感度に引き出すための先端的分析手法の開発 と応用研究を進めている。ご紹介いただいた研究の一端を述べる。
・革新的次世代
X
線検出器を用いる電子顕微鏡EDS
分析システムの開発超伝導転移端温度計(
TES
)型マイクロカロリメータX
線検出器を用いるSEM-EDS
分析システムを開発し、FE-SEMに搭載。この検出器は、エネルギー分散(EDS)型X
線検出 器でありながら波長分散(WDS
)型検出器に匹敵する高エネルギー分解能を有する。・ポータブル
X
線分析装置の開発と考古学への応用ポータブル蛍光
X
線分析装置、X解回折装置をトルコやエジプトの遺跡に持ち込み、顔料や 彩文土器を分析し、考古学上重要な知見を得る。2)訪問先:東京理科大学 理学部化学科 面談者:宮村 一夫 教授
訪問者:松岡、後藤、時永、戸野塚(事務局) 日 時:平成
20
年11
月27
日(木)A
)訪問先の概要創立
127
周年を迎える東京理科大学の「理学の普及を以って国運発展の基礎となす」との建 学の精神から、現在の8
学部33
学科の理工系総合大学の概要について宮村 一夫 教授からご説 明いただいた。その後、研究施設を見学させていただいたが、先端的研究だけでなく次代を担 う若手の人材育成への寄与が印象的であった。真の実力を備えた人材を輩出する大学として世 に知られていることが良くわかった。B)実験施設設備
理学部の主要な施設設備は、5号館地下2階の化学系分析機器センターに設置されている。
主な機器は、単結晶X線回折装置、粉末X線回折装置、蛍光X線、NMR(固体、液体)、ESR、
GC/MS
(磁場型、四重極型)、和周波分光、ピコ・フェムト秒パルスレーザー時間分解測定装置、ICP-MS、ICP-OES、SEM-EDX、原子間力顕微鏡、走査トンネル顕微鏡、共焦点顕微鏡、
元素分析装置、その他汎用分析機器(
IR
、蛍光、吸光など)C
)宮村研究室金属イオンと有機物が化合した金属錯体を使って、新しい機能を持った材料の開発を目指し ている。原子を使って分子を組み立てるように、分子を使って新しい構造を持つ「超分子」を 組み立てて、今までにない電子物性や光物性を探求している。これら分子集合体の評価のため、
走査トンネル顕微鏡を用いて分子集合状態のナノ構造を直接観察、高さ方向の電子状態密度の 広がりを知ることができるトンネルギャップイメージング法の開発、光吸収スペクトルに相当 する情報をトンネル電流の変化として検出できる光照射型走査トンネル顕微鏡の開発などの研 究を進めている。
3)訪問先:東京理科大学 理学部応用化学科 面談者:大塚 英典 准教授
訪問者:松岡、後藤、時永、戸野塚(事務局) 日 時:平成
20
年11
月27
日(木)A
)訪問先の概要生体という特殊な環境下で高度な機能を発揮する材料を合成し、生体との界面現象を解明し、
さらに積極的に機能制御することを目指している。例えば、生体信号を的確に検知し、増幅す ることのできる分子インターフェース機能を有する材料界面を創出し、生体物質との応答機構 を明らかにすることによって高感度診断や組織工学への応用を目指している。細胞特異性材料 の創製と再生医療への展開、高感度ヘルスケアデバイス創製のための界面設計などの研究を進 めている。評価用ツールとして、
QCM
(Quartz Crystal Microbalance
)センサや表面プラズモン 共鳴(SPR)センサなどを活用している。1.6 まとめ
アンケート及びヒアリングを通して、新素材の構造、物性、機能応用に関わる計測・分析技 術に関する現状の問題点と将来ニーズが明らかになった。分析機器メーカーと開発・研究者が 協力をし、カスタマイズされた機器開発が必要である。一方、コスト面を考えると市場の台数 規模が大きいほど低くなるため、この両者を満足するような機器開発と仕組みを考える必要が ある。各要素を共通モジュール化し、要素を安価に押さえることも一つの方法と考えられる。
(1)ソフトマテリアル(機能性高分子材料、無機・有機複合化材料、バイオマテリアル等)
など新素材は多くの人が関心を持っており、新素材の構造、物性及び機能応用を評価す るための計測・分析技術の実用化・高機能化が期待されている。
(2)新素材の構造を評価するために走査電子顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)、フー リエ変換赤外分光計、
X
線回折装置などの分析機器が使用されている。これら既存の計 測・分析機器に対しては、満足度がほぼ半数である。使用者のニーズに合わせたカスタ マイズ化や微小な変化を捉える時間的な分解能など具体的な要望が寄せられている。(3)開発現場のヒアリングから、新素材の研究開発を進めるうえで計測・分析技術の重要性 が確認できた。構造、欠陥、平面均一性などの情報や分光特性の把握など研究に必要な 計測・分析装置は、市販品がなければ工夫して自作しているのが現状である。
第2章 新素材にかかわる計測・分析技術に関する開発の動向
第1章では、新素材にかかわる計測・分析技術に関する現状とニーズの把握についての 調査結果を記した。本章では、新素材にかかわる計測・分析技術開発の動向について、科 学技術文献調査、科学系雑誌調査などから関連する資料を収集し、環境、半導体、食品、
資源、エネルギー、電機、電子、バイオ、医療、医薬、生体材料の分野に分けてまとめた。
調査対象の科学技術文献については、科学技術振興機構(JST)の文献情報検索システ ム
JDream
Ⅱを利用して、科学技術文献データベースJSTPlus(から最新 10
年間について文献検索を行った。検索の関係上、キーワードを
A~C
群に分けた。キーワードは、今回のアン ケート調査の内容を考慮して取り上げた。A
:新素材、B:分析
C
:食品、環境、バイオ、創薬、医療、医薬、生体材料、資源、エネルギー、電機、電子、半導体
検索語
A
と検索語B
でAND
検索を行い、その検索結果(L3)と検索語C
とでAND
検索を 行った(L4
~L14)
。FILE
JSTPlus 検索式 件数L1
新素材/AL and(PY>=1999) 2,707
L2
分析/AL and(PY>=1999)946,616
L3 L1 and L2 197
L4
食品/AL and(PY>=1999) and L3 36
L5
環境/AL and(PY>=1999) and L332
L6
バイオ/AL and(PY>=1999) and L3 13
L7
医療/AL and(PY>=1999) and L34 L8
医薬/AL and(PY>=1999) and L38
L9
生体材料/AL and(PY>=1999) and L3 2
L10
資源/AL and(PY>=1999) and L310 L11
エネルギ-/AL and(PY>=1999) and 323
L12
電機/AL and(PY>=1999) and L3 1
L13
電子/AL and(PY>=1999) and L336 L14
半導体/AL and(PY>=1999) and L315
これらの中から絞り込んだ検索結果を巻末に文献リストとして添付した。調査した結果 を以下に述べる。
2.1 分野ごとの新素材にかかわる計測・分析技術に関する開発の動向 2.1.1 環境分野
環境分野における新素材と分析技術の係わりは、新素材そのものを分析するというより、新 素材そのものが環境等にどう影響を及ぼしているかを計測するといったことが見受けられる。
例えば、発育中のゼブラダニオ胚へのカーボンナノチューブの影響や担子菌によるダイオキシ ン類の分解の解析などあり、ここでは、その一例を取り上げてみた。
1)新素材・新工法を用いた防御工の開発(その3)1)
自然共生研究センターには、8 種類の侵食防止シートが設置されている。これらのシートの 材質は、プラスチックおよび化学繊維であり、一部には環境ホルモン物質と疑われている物質 が含まれており、それが河川水やシート上の土壌に溶出してくる可能性が考えられる。侵食防 止シートとは、土壌が充填でき、かつ植物が生育できる間隙を有した多孔質なシートである。
このシートを用いた侵食防止工とは、河岸や堤防に侵食防止シートを敷設することにより侵食 をくい止め、かつシート上に植物が生育することにより、成立した植生が持つ侵食防止機能を 活用する工法である。従来のコンクリートを使用した護岸に対し、ローコストで景観的にも生 理的にも良好な川づくりの推進に役立つことが期待されている。
侵食防止シートの実用性を評価する一環として、シートの材質に含まれる環境ホルモン物質 が溶出し、水質及び土質に影響を及ぼす可能性について検討する。
(1)研究方法
・実験河川における侵食防止シートの設置状況
自然共生研究センター実験河川
B
及びC
の最下流部にある河岸開発研究ゾーンの斜面には、表
2-1
に示す8種類の侵食防止シートが設置されている。表
2-1
河岸開発研究ゾーンに設置されている侵食防止シートの材質(メーカーからのアンケート結果)・採泥方法
実験河川
C
の河岸開発研究ゾーンにおいて、表1に示すシートに内、6種類のシート直上の 泥及びシートを設置していない1箇所の泥(対照試料)を採取した。・分析項目
水質分析項目を表2に、また、土質分析項目を表3に示す。有機溶剤によるシート片の溶出 試験結果により溶出が認められた物質・シートを分析対象とした。
表
2-2
水質分析項目・物質表
2-3
土質分析項目・物質・分析方法
環境ホルモン物質は、建設省「環境ホルモン調査・分析マニュアル(案)
[水質分析編]及び[底
質分析編]
」(平成10
年10
月)により分析した。(2)研究結果
・水質調査結果
環境ホルモン物質の水質調査結果を表4に示す。フタル酸系3物質とオクチルフェノール系 2物質及びアジピン酸ジエチルヘキシルは全く検出されなかった。ノニルフェノールとビスフ ェノール
A
の実試料の定量下限値は、検出下限値の5倍程度(ノニルフェノールで0.15
μg/L
、 ビスフェノールA
で0.05
μg/L
)と推測され、ノニルフェノールで、0.15
μg/L
以上の測定値は、3回目の午前のデータだけあるが、この場合は、上流より下流の方が低い値を示している。ビ スフェノール
A
については、全て定量下限値をはるかに下回っており、上下流のわずかな濃度 差を論ずるのは無理である。ノニルフェノールエトキシレートは、比較的高い濃度で検出され、下流側が高いケースが4回、逆が2回あり、平均では約
8
%高い。しかし、これも超微量分析 における分析誤差範囲内に過ぎない。また、ノニルフェノールエトキシレートは、工業用洗剤 の一種で、実験河川の水源の河川水から供給されたものと考えられる。結論として、今回調査した環境ホルモン物質の全項目について、侵食防止シートからの環境 ホルモン物質の溶出を示す水質変化は認められなかった。
表
2-4 侵食防止シート設置区間上下の水質調査結果一覧(二重測定値の平均値)(単位:μg/L)
・土質調査結果
環境ホルモン物質等の土質調査結果を表5に示す。シートの影響を全く受けない対照試料と シート上の試料との間には、有意な差は全く認められない。
表
2-5
侵食防止シート直上の土質分析結果 (単位:μg/L
)参考文献
1)
「新素材・新工法を用いた防御工の開発(その3)」島谷、薗田、皆川、土木研究所資料No.3753, p.158-161 (2000)
2.1.2 半導体分野
半導体分野では、新素材として、そのほとんどが無機物である。したがって、係わってくる 分析技術は、原子吸光分析、原子発光分析、
ICP
、X
線分光分析、赤外線分光分析、光電子分 光分析、オージェ電子分光分析などの元素分析、物性分析が主体となっている。1) 最近の表面分析技術について1)
表面分析法は、高機能材料を中心とした研究開発において重要な役割をはたしている。さらに、
新材料、素材開発等の分野では分子レベルの材料設計が求められるようになり、従来以上にミ クロなレベルでの分析が求められるようになってきている。以下に最近のおもな表面分析法の 特徴と応用例について紹介する。
・オージェ電子分光法(
AES,SAM
)オージェ電子分光法(
AES:Auger Electron Spectroscopy
)は、電子線を物質表面に照射するこ とにより放出されるオージェ電子を分析する方法である。このオージェ電子のエネルギーは、元素固有の値をもつため試料表面の構造元素を決定することができる。オージェ電子分光法の 特徴は励起源である電子線を絞ることができるため、非常に狭い領域の分析が可能になること である。また、電子線を走査して試料の組成の二次元的空間分布を求めることができるため、
SAM
(Scanning Auger Microscopy
)とも呼ばれている。この方法の弱点は、照射される電子ビームにより試料が帯電してしまうため、高分子等の絶縁物質に適用が困難なことである。した がって、金属、半導体に分野で広く活用されている。
・光電子分光法(
XPS
、ESCA
)この方法は、XPS(X-ray photo electron Spectroscopy)または、ESCA(Electron Spectro-
scopy for Chemical Analysis
)と呼ばれ最も広く利用されている表面分析法である。励起源として、従来
Mg-K
α(1253.6eV)
またはA
l-K
α(1486.6eV) X
線源を用いてきたが、最近は、エネル ギー分解能の向上を図るため、A
l-K
α線をモノクロメータにより単色化した光源が一般的であ る。XPS
は、AES
と異なり、帯電による試料の制約が少なく、はぼすべての固体試料に適用可 能である。XPSの空間分解能は、他の2法には及ばないが、状態分析が可能であること、定量 性が良いという特長を有しているため、広く応用されている。・2次イオン質量分析法(
TOF-SIMS
)この方法は、試料表面にイオンを照射した際放出されるイオン(これを二次イオンという)
の質量を分析することにより表面の情報を得る方法であり、表面分析法としては、
TOF-SIMS
(Time of Flight-Secondary Ion Mass Spectroscopy)として知られている。表面分析手段として注 目されるようになってきたのは、エネルギーの低い1次イオンビーム(
Ga,In
等)を照射するこ とが可能になり、表面を基本的には破壊せずにイオン化できるようになったことによる。この方法は、他の
2
法に比べて検出感度が圧倒的に優れているが、定量性は低いと言われている。もう一つの特長として、深さ方向の分解能が高いことで、他の
2
法より浅い表面分析が可能で ある。表
2-6
に各種表面分析法の特長を示す。表
2-6 各種表面分析法の特徴
・化学状態分析への応用
XPS
の状態分析と定量性の特徴を生かして、他の分析法との複合的な活用を含め、広く汎用 的に活用されている。図2-1,2
は、グラファイト化したポリエチレンの分析例である。図2-1
に示すようにグラファイトとポリスチレンのわずかなピークのシフト(0.4eV)の差を区別する ことにより、図2-2
に示すようなイメージ像が得られ、グラファイトとポリエチレンの空間分 布を得ることができる。図
2-1 C
1Sスペクトル 図2-2
イメージング像・極浅表面分析への応用
面の状態が活性を左右する系の分析においても、この技術は今後有用になるものと期待され、
注目していく必要 がある。
図
2-3 Si
表面2nm
程度浅くイオン注入されたB
をデュアル ビーム法によるTOF-SIMS
で測定した例参考文献
1)
「最近の表面分析技術について」 渋谷忠夫 出光技報Vol.44 No.1 p83-87 (2001)
2.1.3 食品分野
新素材に関する
36
件の文献検索結果から、分析に関連すると思われるものを6
件抽出した。食品分野においては、食品の機能改良のための添加物や、疲労回復、健康保持、疾病予防など に有効な成分の評価についての報告があった。その中から、食品機能改善と疲労回復に関する 報告についてまとめた。
1) ビートファイバーの利用1)
ビートファイバーは、ビート中の食物繊維成分であり、
ビート(甜菜)から砂糖を抽出した残渣を加工したもので、
ペクチン、ヘミセルロース、セルロース、リグニンから構 成され、便の量の増加、大腸がんの予防、血中コレステロ ール低下などの作用がある。食品加工性の改善にも効果が あり、めん類、パン類への添加効果が報告されている。
うどんへの添加例では、ビートファイバー2%添加の場合、
ゆで後経時的に増加する生地表面の付着性が抑制され、ほ ぐれ改善に効果がある。付着性の評価には、レオメーター
が使用されている。 図
2-4
ビートファイバー添加によるめんのほぐれ改善 パン粉への添加例では、生パン粉、乾燥パン粉ともに、
揚げ後の油分が低下する。油分はエーテル抽出物の重量を測定することで求められている。
食パンへの添加例では、ビートファイバーを添加 して作製した食パンは無添加のパンより硬くなりに くく、一般的にパンの硬化
(
老化)
防止に使用される 乳化剤を添加したパンと同等の柔らかさを保ったこ とが報告されている。ビートファイバーは白灰色粉 末であり、2%
程度の配合では、食パンのクラム色相 にわずかに影響する程度で、菓子パンやハードタイ プのパンでは無添加のものと差異はない。硬さの測 定には、クリープメーターが利用されている。図
2-5
油揚げ後のパン粉の油 2) 抗疲労食品2)ヘルスフード開発において、「抗疲労」も重要なテーマであり、疲労の数値化方法(測定方法)
やその生化学マーカーなどが確立されつつある。
過度の労働やスポーツによる疲労は、①細胞・組織にダメージを与え、血液中のタンパク質 の漏出、赤血球の破壊を引き起こす。②グリコーゲンの消耗を促し、エネルギーを消費・枯渇 させる。③これらの過程で、体内に乳酸などの代謝物質を産生・蓄積させる。疲労回復のため には、生体に生じたダメージを修復する必要があり、漏出した細胞・組織成分やエネルギー源 の再合成・補充、体内蓄積物質の分解・排出が必要である。
コロハ(フェンヌル)は、スパイスとしてカレーの原料に用いられる。近年、糖尿病、高コ レステロール血症、胃潰瘍などに効果があるとの報告がある。コロハの含有成分は、多糖類(ガ ラクトマンナン)、フラボノイド類、ステロイドサポニン類などである。コロハ種子エキスの抗 疲労作用について報告されている。
強度負荷時の評価として、体重の
10%の重りを尾部につけて遊泳運動を行わせ、頭部が完全
に水面下に沈むまでの時間測定を行っている。マウスの投与群はcontrol
群に対して有意な遊泳 時間の延長が認められた。軽度負荷時の評価として、重りを体重の
5%として遊泳時間を測定しており、この場合も投
与群は有意の効果が認められた。遊泳運動前・遊泳運動中・遊泳運動後の血液中の乳酸、グルコース、グリコーゲンの測定を 行った。投与群は