布の物性値が視覚的触感に与える影響
The Effects of Physical Properties of Clothes on the Tactile Sensation by Vision
佐々木和也*、清水裕子*
SASAKI Kazuya and SHIMIZU Hiroko
Abstract: With the progress of information technology, especially the ineternet, the market scale of electronic commerce is expanding and changing the life-style of consumers widely. The consumption in virtual space is taking a firm hold on the young men mainly. On the other hand, there is a marked decline in the children’s creativity caused by the lack of experience of them in their daily life. As information presented by information technology is in virtual space, consumers have to imagine real things from their visual information and empirical knowledge. As for clothes, tactile sensation has an influence on comfort to wear, however, it is difficult to evaluate the tactile sensation only by vision. We have been studying that the effects of empirical knowledge on the tactile sensation by vision. In this paper, we reported the experimental results to discuss the relationship between physical properties of clothes and tactile sensation by vision.
1 緒 言
衣服の着心地は肌触りのような触覚とファッションとしての視覚を中心に作用し、最終的に個々人 の価値観によって決定される。西松ら[1]は、人間が外界から情報を収集するとき、他の感覚系と 比べ視覚の影響が大きく、布の風合い評価においても視覚が大きく影響すると述べている。小林[2] も、風合いは狭義には触覚による評価量であるが、風合いを評価する場合には視覚と触覚を併用して 行うとしている。布に触れる前の視覚情報が布の第一印象を形成し、次に触れたときの触覚情報、そ して着用時の触覚の3つの感覚をもとに風合いを評価するとし、その中でも視覚の影響が大きいと結 論づけている。つまり、触覚的経験値が十分に蓄積されているという条件(以下、「体験的知識」とい う)のもと、布の視覚情報によって風合いを判断しているのではないだろうか。このように考えると、 生活体験が少なく、多種多様な布に触れる機会がない場合には体験的知識が十分ではなく、視覚のみ の触感判定が正しくできないのではないかと思われる。 そこで、筆者らは視覚的触感について検討してきており、布の2次元画像のみで手触りを評価する ことは難しいが、繊維や布の正しいイメージを予め持っている場合には、視覚のみでも触感を捉えや すくなることを示している[3]。さらに、視覚によるスカートの触感評価に関する官能検査結果から以下ことを明らかにしている[4,5]。1)スカートの形状が視覚のみでの素材の評価に大きく影響す る、2)フレア型スカートは素材のドレープ情報が伝わりやすいため、「しなやかさ」や「やわらかさ」 に関する評価が高くなる、3)画像のみでは触感を捉えにくいが、実物の場合は視覚だけの評価でも 手触りに近い評価が得られる、4)2次元画像よりも3次元画像の方が触感を評価しやすいが、触感 を過大評価しやすくなる。これらを受けて、本論文では素材は綿のみで、異なる構造をもつ布を6種 類とし、形状は視覚的触感が捉えやすい傾向があったフレア型スカートとし、視覚的触感と物性値の 相関関係を明らかにすることを目的とした。
2 実験方法
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繊維判定試験
体験的知識が布の視覚的触感に及ぼす影響について検討するために、繊維の判定試験を実施した。 被験者は健康な女子学生(19-23歳)30名である。試料布は表1に示す添付白布(JIS L 0803)を用い、 各々30㎝×30㎝に調整し、35㎝×35㎝の台紙に貼り付けた。これらを被験者にランダムに提示し、被 験者に視覚のみで繊維名を答えさせた。その後、再びランダムに提示し、手で触って同様に繊維名を 答えさせた。2.2 視覚的触感に関する官能検査
2.2.1 試 料
各試料の物性値をKES-Fシステムで測定した結果を表2に示す。素材はすべて綿とし、糸密度や織 り構造が異なる6種類である。これらの試料布を用いてフレア型スカートを作成した。なお、スカー トサイズは9ARの人台サイズとし、スカート丈を70cmとした。これを人台に装着した状態を実物試 料とし、デジタルカメラで撮影した後、画像処理ソフト(Adobe Photoshop)でスカート部分のみを切 り出したものを画像試料とした(図1参照)。2.2.2 実験方法
提示されるスカートの画像試料および実物試料に対して視覚のみで触感を5段階評価させた。評価 項目は表3に示す形容詞対とした。なお、調査は2006年12月から1月にかけて行い、被験者は繊維判 定試験と同一である。 次に実験手順について述べる。被験者をパソコンの前に着座させ、17インチ型の液晶ディスプレイに画像試料を提示して評価させた。次に、実物試料を触らずに同様の評価をさせた。各試料はランダ ムに提示し、画像判定と実物判定の間に10分の休息を設けた。
3 結果および考察
3.1 繊維判定試験の結果とグループ分け
図2、図3に繊維判定試験の結果を示す。被験者の繊維判定の正答数(全9種類)は平均2.5種と低 かった。全体の傾向として、天然繊維は比較的正答率が高いが、試料が添付白布であったことも影響 してか、ウールおよび絹の正解が低かった。また、シルクは日常生活で馴染みがないため、その光沢 性から合成繊維と間違える傾向がみられた。これに対して化学繊維ではポリエステル、ナイロンのよ うに身近な繊維については比較的正答率が高かったが、そうでないものは正答率が0%という繊維も あった。各繊維について以下省察する。(A)絹 「ナイロン」「ポリエステル」「レーヨン」と間違える被験者が多く、絹は高級素材であることから身 につけることが少ないためであろう。絹の視覚的特徴である光沢性が化学繊維と間違える情報源にな っていると考えられる。正答率は33%であった。 (B)綿 正答率は73%と最も高い正答率であった。日常的に最もなじみのある繊維であるため認知度が高い。 ただし、同じ天然セルロース系繊維である「麻」と間違う被験者が多かった。 (C)麻 正答率は53%と比較的高かったが、「綿」と間違うケースが多かった。 (D)ウール 正答率は13%で、天然繊維中で最も低く、「綿・麻」と間違うケースが多かった。試料がフラノでは なく梳毛糸使いのモスリンであったことが影響していると思われる。 (E)ポリエステル 「ナイロン」が比較的多く挙げられており、続いて「絹」という回答が多かった。化学繊維の中では 2番目に高い正答率(27%)であった。 (F)ナイロン 正答率は37%と化学繊維の中では最も高かった。「ポリエステル」「アセテート」などが挙げられてい た。ジャージなどに関わりが深い世代であるため判定しやすかったと思われる。 (G)アクリル 正答率は0%で、「絹」「ポリエステル」という回答が多くあげられた。「アクリル」は判定試験全体 を通して名前もほとんど挙がらず、女性用衣料としては多く利用されているにも関わらず認知度の低 い繊維のようである。 (H)レーヨン 正答率は10%と低く、「アセテート」「ポリエステル」「ナイロン」など様々な化学繊維名が挙げられ た。他の繊維判定において「レーヨン」が挙げられていることから、名前は知っているが実際のイメ ージは捉えきれていないようである。 (I)アセテート 正答率は3%と非常に低かった。主な回答は「絹」「キュプラ」「レーヨン」が挙げられていた。アセ テートは衣料用繊維としてよりも、産業用資材に用いられていることから体験的知識が少ないためで ある。「絹」「キュプラ」「レーヨン」は光沢性が共通しているため、アセテートの光沢性がそれらと 間違えたのであろう。
以上のように、本研究の被験者に体験的な知識があるかどうかは明らかではないが、官能検査の結 果において体験的知識が触感判定にどのような影響を与えるかの傾向を把握するため、次のように2 グループに分けることとする。繊維判定試験の正答率の結果の平均値を境界として、2グループに区 分し、これらの群間で視覚的触感の評価に違いがあるかどうかを次節で検討する(図3参照)。
3.2 官能検査の結果
3.2.1 提示情報の違いによる視覚的触感の評価
画像での評価においては繊維間に見られる差は全体的に小さいが、実物での評価ではこれらの差が 有意に広がる。画像では確認できない立体(奥行き)情報や繊維の表面テクスチュアなどが影響すると 考えられる。ブロード#120・コーマブロード#40・サテンは、画像と実物の視覚的触感の評価間に有 意差がないこと、一方、ブロード#160のような薄い試料やツイルやソフトデニムなどのような厚みの ある試料の場合は画像と実物の間で「かたさ」「厚さ」「重量感」「しなやかさ」に有意差が確認され た(図5参照)。 そこで、画像のみで捉えにくくなる厚さに着目する。画像評価と実物評価の官能量の差の絶対値と 厚さ(TO)の関係を図4に示す。図中のグレー領域に該当する試料は評価間に有意差が認められなか った。つまり、スカートの生地の厚さによって視覚的触感が伝わりにくくなる閾値が存在し、画像の みでは特徴が掴めずに中性評価になりがちである。3.2.2 体験的知識が視覚的触感評価に与える影響
3.1で述べた上位群と下位群が、ブロード#160とデニムに対して評価した結果をそれぞれ図6、7 に示す。他の素材でも同様であるが、今回のグループ分けでは評価に有意差は認められなかった。こ れは、繊維判別試験における平均正答数が2.5種と非常に成績が悪かったことから、グループ間に歴 然とした体験的知識の差がないことが原因と考えられる。筆者らは、布に対するイメージが確立して いる場合には、視覚のみでもその触感をある程度捉えることを確認しており[3]、体験的知識を表す 有効な量的な扱いを含めて今後さらに検討したい。3.2.3 布の物性値と視覚的触感の相関
KES-Fシステムで測定した試料布の物性値と風合い評価に関係する項目との相関性について考察 する。まず、剛軟性(かたそう−柔らかそう)について、曲げ剛性Bとせん断剛性Gとの相関を検討し た結果、図8に示すようにたて方向のBと実物評価の間に相関が見られた。布目方向の曲げ剛性がフレア型スカートの着用形状に影響することから、立体情報を捉えやすい実物でのかたさ評価との間に 相関が見られたと考えられる。 次に、図9、10に厚さ感(厚そう−薄そう)と重量感(軽そう−重そう)について、圧縮特性TOと質 量との相関を示す。実物評価の相関は物性値との相関が高いことが認められるが、画像評価において も弱い相関が見られる。最後に、しなやかさ(しなやかな−ごわごわした)について曲げ剛性B、せん 断剛性G、直線性LCとの相関を検討したが、高い相関はいずれも確認することはできなかった。 以上のように、いずれの評価項目においても画像評価との相関は低く、実物で得られる視覚情報が 画像では確認しにくくなり、正しく触感を評価することが難しいといえる。ただし、今回の被験者は 体験的な知識が豊富でないことも影響していると思われるが、この点については前節でも指摘した通 り、より詳細な実験が必要である。
4 結 言
情報化が進歩する現在、衣服の購入もオンラインショッピングの利用が増えているが、着心地や快 適性に影響を及ぼす手触りや肌触りなどの触感は視覚イメージだけではとらえにくい。衣服に限った ことではなく、情報社会における消費者は素材のイメージを知識や経験を元に確立すること、つまりものの本質を見抜く力が必要となる。家庭科教育において体験を伴う実践力の養成は重要であり、そ の役割は大きいことは明らかであるが、体験的知識の有無が生活における選択行為にどのような影響 を与えるかについては興味深い。 そこで、本研究では実物と2次元のスカートイメージが素材の視覚的触感に及ぼす影響、また体験 的知識との関連性、さらに視覚的触感と布の物性との関連性を明らかにするため、大学生を対象に官 能検査を行い検討した。画像によるスカート素材の視覚的触感評価については、素材のテクスチュア やドレープ形状などの3次元情報がつかみにくいため、特に薄い試料や厚みのある試料については触 感をとらえにくくなることが明らかになった。しかし、実物での視覚的触感評価では物性値と相関が みられ、特に厚さ感、重量感については視覚のみでも特徴を的確にとらえることができること、かた さ・しなやかさには曲げ剛性との相関がみられ、ある程度触感を捉えられることが確認された。なお、 今回の被験者は繊維に関する体験的知識が低いと思われ、それとの関連性を検討することができなか った。 今後は、体験的知識の量的な扱いについて研究し、視覚的触感との関係について実験を重ねる必要 がある。また、綿以外の素材についても検討が必要である。これらについては今後の課題としたい。
謝 辞
本論文は、森谷真紀氏の平成18年度家政教育卒業論文「スカートイメージが及ぼす素材の視覚的触 感の評価と物性値との関連性」の成果の一部を加筆修正したものである。ここに氏の膨大な実験とそ の成果に感謝の意を表する。参考文献
[1]西松豊典,酒井哲也:繊維学会誌,Vol.46, p.265(1990) [2]小林茂雄:繊維学会誌,Vol.46, p.253(1990)[3]Kazuya Sasaki, Naomi Ikeda, Hiroko Shimizu: “Handling evaluated by visual information to consider web-consumer by vision”, International Journal of Clothing Science and Technology, Vol.16, No.1/2, pp.153-162(2004)
[4]小林由美恵:“子どもの消費環境の情報化と衣生活教育の課題”,宇都宮大学大学院教育学研究 科修士論文(2004)
[5]小林由美恵,清水裕子,佐々木和也:“布の触感に関する基礎的データからみた衣生活教育の課 題”,映像情報メディア学会技術報告,Vol.29, No.59, pp.7-10(2005)