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大阪母子医療センターでの移行支援

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Academic year: 2021

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(1)

Ⅰ.は じ め に

当院での移行支援の取り組みは,2012年の院内組織

﹁移行期医療を考える会﹂での,年長患者の実態把握と,

移行に必要な支援の検討から始まった。2013年には移 行期医療についての院内向け講習会,研修を実施し,

2014年以降,その会は2つの目的別に分かれ,1つは 成人病院との連携を模索し移行環境を整える支援,も う1つは患者が病態や治療を理解し自律的な行動がと れるようにする支援,を目指して活動を開始した。

後者の活動の一部として,看護師と心理士からなる

﹁ここからの会(“からだと一緒にこころも大人に”,“こ こから始める移行期支援”の意)﹂が発足し,支援方 法の検討や事例検討,勉強会を開始した。2015年から は,厚生労働省のモデル事業に参加し,院内組織とし て,各科専門医師,看護師,心理士,事務職員等,さ まざまな職種で構成された﹁移行期医療支援委員会﹂

を立ち上げた。

2016年には,ここからの会の活動として﹁移行支 援シート﹂を作成し,移行支援看護外来を開設した。

さらに,子どもたちに身体の仕組みを教える﹁から だを知ろうセミナー﹂を始め,今年度に至るまで継 続されている。

本稿では,ここからの会による﹁ここからチェック﹂

と移行支援看護外来,﹁移行支援シート﹂について概 説し,さらに,発達心理学の中で用いられる﹁安全感 の輪﹂,﹁安心の基地﹂という視点から移行支援につい て検討する。

Ⅱ.﹁ここからチェック﹂と移行支援看護外来

1.﹁ここからチェック﹂の作成

移行支援プログラムの6つの領域1)で,より有効な 支援が行われるためには,個々の子どもの状況や特性 の把握が重要である。つまり,①病気や病状について 本人がどのように聞き,理解しているか,それをどの ように表現できるか,②基本的な言語能力はどの程度 獲得されているか,③服薬等病気以外のことの対処能 力はどうか,④一般的な社会生活能力はどの程度か,

⑤不安や危惧を訴えることができる人間関係を構築で きているか,⑥生活実態や趣味の有無,そして趣味を 持てる程のこころの余裕があるか,等に留意する必要 がある。

そのため,私たちは,子どもの現状を評価するツー ルとして,既存の成人移行チェックリスト2)を基に独 自のチェックリスト﹁ここからチェック﹂を作成した

表1)。生年月日,身長・体重,病気や薬,そして体 調不良時のこと,さらには,右側のような毎日どのよ うな生活を送っているかという,日常生活についても 聞く項目も設定し,小学生,中学生のパターンを用 意した。

作成にあたっては特に以下の点に留意した。

まず,子どもの言語能力や身体に関する知識量を考 慮した質問項目とすることである。学校の学習で身体 の仕組みを習う時期や,どの年齢でどの程度の理解が 可能なのかを考え,支援のとりかかりとしては,ごく 簡単な質問項目から開始することにした。そして,早 寝早起き,ごはんを食べる,勉強をする,遊ぶという,

病気以外の健康な生活への意識を持つことも,病気の 知識とともに重要と考えた。

65

回日本小児保健協会学術集会 シンポジウム

成人移行支援の現状と今後の課題

大阪母子医療センターでの移行支援

―赤ちゃんから始まる親と子への移行支援―

山 本 悦 代

(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター育・療支援部門)

(2)

﹁ここからチェック﹂はまず,子ども自身に記入し てもらう。それによって,子どものおおよその知的能 力を知ることができる。さらに,大切なのは,看護師 の聞き取りがその後に行われることである。設問への 回答を共有しながら,子どもの表情や表現の仕方を観 察することで,記載内容以上の子どもの現状や,気持 ちを把握することが可能となる。

2.移行支援看護外来の実施

移行支援看護外来は﹁/成人式外来﹂から始まり,

﹁ここからステップ外来﹂へと引き継がれる。

まず,10歳ごろを目安に,家族と子どもに,病気の ことを改めて知っていく必要性を伝え,そのための外 来として﹁/成人式外来﹂が紹介される。この外 来は,生まれてから10歳までを振り返り,﹁生まれて きてくれて,そして,大きくなってくれてありがとう﹂

と伝えられるような外来とも位置付けている。先述の

﹁ここからチェック﹂を用いて病識等のアセスメント を行い,それに基づいて主治医が,その子の理解度や 性格,家族の意向も考慮しながら,病気や薬について 子どもに説明をする。その後,看護師が子どもの理解 の程度を確認している。

以降,﹁ここからステップ外来﹂に引き継がれ,12歳,

15歳,18歳前後の社会生活の節目に,継続的に,年齢 に応じて病識の理解を深めていけるように支援してい く。

Ⅲ.移行支援シート﹁子どもの療養行動における自立 のためのめやす﹂

移行支援シート(表2)は,子どもの疾患と成長に 合わせ,病気を抱えながら自立できるよう支援するた めのものである。子どもの認知発達に応じて病気を理 解し,療養行動を親から子ども自身へ移していくため に必要な﹁めやす,目標﹂を示している3)

横軸は,支援対象となる年齢で,0歳から始まり,

成人期までである。縦軸には,支援される側の子ども と親,さらに,支援する側の医療スタッフ(医師,看 護師,心理士や保健師などのコメディカルスタッフ)

の欄を設けた。

子どもに関しては,療養行動における到達目標,各 年齢層の発達の特徴と課題,そして,病気 / 治療に関 すること,病気の捉え方等について記載し,各年齢層 での目標,めやすとなる状態,行動を示した。親に関 しては,子どもとの向き合い方,病気 / 治療に関する こと,セルフケア行動の促進,就学 / 就職などの項目 を設けた。

このシートの作成にあたっては﹁両親﹂の欄を重視 し,例えば,親が子どもの病気をどのように受け止め,

病気とともに生きていく子どもといかに向き合ってい くかの見通しやめやすを盛り込んだ。

子どもとの向き合い方とは,

・子どもの疑問や問いかけを受け止め,発達段階に即 1 ここからチェック

(3)

して,必要な事柄を伝えていく

・子どもが触れてはならないと感じる領域を作らない

・子どもの疑問や不安について,聞く姿勢を持ち,丁 寧に答えることができる

・子どもとなんでも話し合える関係を作ることができ

・病気に向き合う家族の姿勢が,子どもの病気への向 き合い方となる。家族が受け入れられない病気を子 どもが受け入れることはできない

・病気以外の子どもの世界を広げる(好きなこと,嫌 いなこと,友だち関係,将来の夢等…)

である。これらの基本姿勢は,どの年齢でも重視した いと考えている。

種々の医療スタッフの欄では,各年齢層でどのよう な支援をするかを記載している。すべての年齢層に共 通するものとして,医療者全員の子どもと家族への向 き合い方を示した。それは,

・子どもの疑問や問いかけを受け止め,発達段階に即 して,必要な事柄を伝えていく

・子どもが触れてはならないと感じる領域を作らない

・子どもを主体とした言葉のやりとりを重視する 等である。このように,私たち支援する医療スタッフ も,子どもの人生にどのように向き合っているのかを 絶えず自分自身に問うことが重要である。

この移行支援シートは,個々の発達レベルを考慮し,

現状を把握したうえで,次のステップへの目標を確認 するためのものである。そして,乳児から成人に至る までの長い成長過程の方向性,見通しを,時間軸に沿っ て親子と医療者が共有することができ,現在が,成長 過程の中の,どこに位置しているのかを把握できると ころに意味がある。

使用の際には,子どもができるところから,繰り返 し,ステップを踏んでいくことが大切である。支援者 が一方的に教え込む,また,支援したと思い込むこと なく,子どもの理解度,状況を絶えずモニターしてい く必要があろう。

Ⅳ.﹁安心の基地﹂からみた移行支援

最後に,発達心理学の﹁安心の基地﹂,﹁安心感の輪﹂

という考え方を通して,移行支援を考えてみたい。

子どもは出生直後からの親子の関係性を通じて,親 は自分を守り,気持ちを調整してくれるという安心感,

信頼感を有していく。そして,成長に伴い,赤ちゃん や幼児は外界への関心や興味を抱くようになり,﹁安 心の基地﹂である親の元から離れ,活動し,探索し始 める。子どもにとって,それは冒険であり,途中で,

何かにぶつかって痛い体験をしたり,思うようにいか ず,恐れや不安が生じたりするであろう。このように,

気持ちが崩れ,ネガティブな感情を抱き始めると,子 どもは,確実な避難所である親の元,つまり﹁安心の

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■学童期(小学生):

7歳〜9 10歳〜12歳

思春期(中学生):

13歳〜15歳

青年期:16歳〜19

■成人期:20歳〜

支援の対象年齢 到達目標/発達の特徴や支援項目

■子ども・療養行動における到達目標

・発達の特徴と課題

・病気/治療に関すること

・病気の捉え方

・受療行動

・セルフケア行動

・学校/生活など

■両親・子どもとの向き合い方

・病気/治療に関すること

・セルフケア行動の促進

・就学/就職

2 「子どもの療養行動における自立のためのめやす」(親・子ども用)

(4)

基地﹂に逃げ込むのである。子どもの日常は,こうし たことの繰り返しであり,これは﹁安心感の輪﹂と呼 ばれている(4)

ここにはアタッチメントという人間に生得的に備 わった機能が働いている。アタッチメントとは,危機 によって生じる,恐れや不安などのネガティブな情動 状態を,他の個体と﹁くっつく﹂ことによって低減・

調節しようとする行動制御システムである。そして,

不安が取り除かれることで,自らが安全であるという 主観的な意識を個体にもたらす機能を持っている5)

望ましい子どもの発達とは,この﹁安心の基地﹂か ら広がる﹁安心感の輪﹂が徐々に大きくなっていくこ とである6)。学校生活や友人関係の広がりの中で,心 配や不安になった時に,親など信頼のおける大人の元 に逃げ込み,助けを求め,安心感を得て,再度外界に 向かっていく。中学,高校生になると,実質“安心の 基地”には戻ってこないかもしれない。これは,必要 なくなったからではなく,﹁安心の基地﹂は自分を見 捨てないという見通しや信頼が,心の中にできている

(内在化)からこそであり,その結果として,一人で いろいろなことができていくのである。このような心 理学的なつながりを支えとして,子どもは,自律的に 独り立ちをして,一人で行動できるようになると考え られている。

このことは,病気とともに人生を歩む子どもたちも 同様である()。

新しい世界への挑戦の時に,病気の子どもは,より 不安や心配を感じ,さまざまな場面で安心感が揺らい でしまうことも多いかもしれない。

その子どもたちが,自律的に独り立ちしていくため に重要なのは,﹁困った時に助けを求めよう﹂,﹁大人 に聞いてみよう﹂,﹁そしたら,自分でできるかも﹂と 思い,親や病院・医療スタッフを﹁安心の基地﹂とし て活用してくれることである。

私たちが,子どもにとって﹁安心の基地﹂になるた めには,医療スタッフと子ども・親との間に,相互の 信頼に裏打ちされた関係があることが前提となる。﹁移 行支援シート﹂を一つの目安として,ともに,その子 どもの将来をみつめながら,時間をかけて行きつ戻り つすること自体がその関係構築の一助になる。

さらには,親にとっても﹁安心の基地﹂が必要であ る()。子どもの病気や将来への不安の高さや恐 れによって,親自身のアタッチメントも活性化されて いるからである7)。親を支え,親にとっての﹁安心の 基地﹂になれるのは,私たち医療スタッフであろう。

子どもにとって親が,その親にとって病院が,という ように,子どもを二重の構造で,情緒的に抱える環境 を提供していくことが望まれる。

成人の医療への移行は,この抱える環境が変化する ことで,親や子どもに安心感の揺らぎを生じさせてし まう。従って,移行支援の中で最も重要なのは,移行 先の病院が﹁安心の基地﹂になれるような準備と橋渡 Webpage:Circleofsecurity.org©2000Cooper,Hoffman,Marvin,&Powell/ 北川訳 (文献4)より一部抜粋)

1 安心の基地と安心感の輪

(5)

しをしていくことなのかもしれない。病院間の顔の見 える連携と情報共有があって,主治医が移行先の医師 を知っているという事実を伝えられるだけでも,親と 子どもに安心をもたらすことができるであろう。また,

子どもと家族の個別性に配慮し,心理的,社会的な側 面も含めて,多職種で検討・協働していくことが必要 である。

Ⅴ.お わ り に

移行支援は,病気であっても子どもは成長し大人に なるという,ごく当たり前のことを,家族と医療スタッ フが改めて共有することから始まる。そして,生後す ぐから,親への支援も含めて,段階的に時間をかけて 行われることが望ましい。

さらに,移行支援のプログラムは,病気や身体に関 する内容とともに,子どもの豊かな成長・発達の保障,

つまり﹁安心感の輪﹂の広がりといった視点が加わる ことで,より効果的な,そして充実したものになると 思われる。

文   献

1)丸 光惠.成人移行期支援看護師・医療スタッフの ための移行期支援ガイドブック(第2版).東京医科 歯科大学大学院保健衛生学研究科国際看護開発学.

東京.2012:1︲32.

2)東野博彦,石崎優子,他.小児期発症の慢性疾患患 児の長期支援について―小児 ︲ 思春期 ︲ 成人医療の ギャップを埋める﹁移行プログラム﹂の作成をめざ して.小児内科 2006;38(5):962︲968.

3)江口奈美,他.小児期発症慢性疾患の子どもの自立 に向けた多職種による支援~移行支援シート﹁子ど もの療養行動における自立のためのめやす﹂を作成 して~.大阪母子医療センター雑誌 2017;33(2):

67︲75.

4)北川 恵.養育者支援―サークル・オブ・セキュリ ティー・プログラムの実践.数井みゆき編著.ア タッチメントの実践と応用.ミネルヴァ書房,2012:

23︲43.

5)遠藤利彦.アタッチメント理論とその実証研究を俯 瞰する.数井みゆき,遠藤利彦編著.アタッチメン トと臨床領域.ミネルヴァ書房,2007:1︲58.

6)遠藤利彦,他.第80回公開シンポジウム 子育て・子 育ちの基本について考える~アタッチメントと子ど もの社会性の発達.子ども学 / 甲南女子大学国際子 ども学研究センター編 2012;(14):129︲156.

7)山本悦代,小杉 恵.小児医療における親と子ども の不安,危機感への対処.数井みゆき編著.アタッ チ メ ン ト の 実 践 と 応 用. ミ ネ ル ヴ ァ 書 房,2012:

86︲104.

困った時は助けを求めよう 大人に聞いてみよう 自分で解決できるかも 新しい世界へ

心配だけどやってみよう

2 子どもの発達と自立を支える「安心の基地」

参照

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