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アメリカ会社法における会社情報の収集権の調査対象 : 判例等の展開を中心に

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とされている。しかし,株主の会社情報の収集権は,特に合併との関係で 金銭的損害を申し立てるクラスアクションの提起に先立った行使が増加し てきているとの指摘もある11 もっとも,アメリカ会社法においては会社情報の収集権に関して活発な 議論がされてきたとは言いがたい状況にあるといわれるが,その少ない議 論の中でも株主と会社との利害関係の衝突の解消が問題と考えられてき た12。そこでは会社情報の収集権を行使するという状況は会社の企業秘密 の開示にほかならず,株式を保有しているという事実が会社経営陣への嫌 がらせや会社の事業戦略に係る確信的な情報を収集するという理由にはな らないと解されていた。 他方で,株主は会社業務について理解しておく必要がある。なぜなら, 取締役会ないし経営陣の間において会社の不祥事が生じた場合,在任中の 取締役等の解任を意図して他の取締役の選任を目指した委任状勧誘や自己 の投資の保護を目的とした株主代表訴訟等の責任追及訴訟の提起といった 監督是正権の行使が必要となってくるからである。 そこで重要な役割を担うのが株主の会社情報の収集権であるが13,1 年代以降,株主の会社役員に対する責任追及訴訟において tools at hand と 11 Ed Micheletti=Bonnie David=Alexis Wiseley, Trends in Books and Records

Litiga-tion, 38 DEL. LAW. 18, 18(2020). アメリカでは組織再編における株主の会社情報の 収集権の積極的活用が主張されている。その点につき,See James D. Cox=Kenneth J. Martin=Randall S. Thomas, The Paradox of Delaware’s ’Tools at Hand’ Doctrine :

An Empirical Investigation(March 18, 2019), European Corporate Governance Institute−Law Working Paper No. 498/2020, available at https : //ssrn.com/abstract =3355662.

2 See George S. Deis, Information Litigation in Corporate law, 71 ALA. L. REV. 407, 416―417(2019).

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呼ばれる判例法理によって株主と会社の利害関係を調整する新たなアプロ ーチが発展してきた。この判例法理の基礎となっているのは,会社情報の 収集権が会社から会社情報を請求する株主の義務的な権利という点にある とされている。tools at hand 理論は,派生訴訟において必要な事実を集め るための手段として会社情報の収集権の行使を促進した。この理論は派生 訴訟において株主が直面する種々の問題に株主と会社の利害調整を図った 対応策であると位置付けられている14 2.権利行使要件としての「正当な目的」 株主による会社情報の収集権につき,制定法ないし判例法の共通した理 解となっているのは株主ないし投資者としての利益に関連する「正当な目 的(proper purpose)」を有した権利行使であることが求められている点 である。こうした要件が課せられているのは,株主が会社役員等から会社 情報を知らされるという正当な権利と株主による会社への阻害行為を防止 するためである15。そのため,株主の会社情報の収集権の行使目的が株主 としての利益に合理的な関連があったとしても,会社の利益を害するもの であってはならないとされている16

4 Cox=Martin=Thomas supra note 11, 2−3. この点については,Stephen A. Radin,

The New Stage of Corporate Governance Litigation : Secution 220 Demands−Reprise, 28 CARDOZO L. REV. 1287, 1293―1314(2006)で詳細な分析がされている。ちなみに, JAMESD. COX& MELVINARONEISENBERG, BUSINESORGANIZATIONS−CASES ANDM ATERI-ALS, 400(12th ed. 2019)によれば,1990年代以降に会社情報の収集権に関する議論 が活発となったのは,1995年に制定された私的証券訴訟改革法(Private Securities Litigation Reform Act of 1995)の影響であるとする。

15 JAMES D. COX & THOMAS LEE HAZEN, BUSINESS ORGANIZATIONLAW, 339(4th ed. 2016), ARTHUR R. PINTO & DOUGLAS M. BRANSON, UNDERSTANDING CORPORATELAW, 130(5th ed. 2018).

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ただ,正当な目的か否かの画定が非常に困難な問題を生じさせていると 指摘される17。たとえば,会社役員の信認義務違反に関する調査は正当な 目的とされているが,株主はその不正行為であると疑う合理的な基礎を立 証しなければならない。そのような問題は委任状勧誘の局面でも生じうる。 すなわち,委任状勧誘を目的とした会社情報の収集権の行使は正当な目的 であると解されているが,会社への阻害行為の可能性という理由からその 請求は相当な制限がされなければならないとされている。 とはいえ,正当な目的の内容も含めた会社情報の収集権に係る諸問題は, 株主と会社との利害が正面から衝突する局面であるから非常に複雑で事実 関係ないしは主張立証内容に依拠せざるをえない。そうした理解を前提に, 正当な目的という要件はそれ自体の決定的な立証は困難であって,結局の ところ,主観的な動機という問題に収斂されると指摘される18。なぜなら, 裁判所は正当な目的の判断にあたって,株主の会社情報を調査するという 権利と会社の株主による証拠漁り(fishing expedition)から逃れる権利と の調和を図る必要があると考えているからである19 もっとも,アメリカ会社法において,こうした理解は会社情報の収集権 に関する紛争解決をする裁判所ではかねてより支配的であったと考えられ

7 Dibadj, supra note 13, at 704―705.

18 これとの関係で株主の会社情報の収集権を行使する様々な目的のうち,1つが不 当な目的であった場合の権利行使の認否が争われた事案として,たとえば,1972年 の Credit Bureau Reports, Inc. v. Credit Bureau of St. Paul, Inc. 事件がある。これは 委任状勧誘を目的とした株主名簿の調査を求めた事案であるが,委任状勧誘は株主 としての利益に合理的に関連する目的であり,株主名簿の調査を求める更なる目的 あるいは副次的な目的は関係がないとする(290 A.2d 691(Del. Ch. 1972))。See COX & EISENBERG, supra note 14, 402.

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る。たとえば,1956年の Nodana Petroleum Corp. v. State ex rel. Brennan 事件20において,裁判所は株主の知らない不当な取引が行われているかど うかを知るためになされた会社の全ての帳簿及び記録の調査請求は理由と して不十分であるとした。その場合は株主の請求が単なる証拠漁りでない と立証する必要があった。そのうえ,裁判所は株主の会社情報の収集権の 行使請求について合理的な根拠も要求していたとされている21

この裁判所の理解は1987年の Helnsman Management Services, Inc. v. A

& S Consultants, Inc. 事件22から明確に示されるようになり,同事件がその

後の判例に影響を及ぼしているとされている23。同事件において,裁判所 は「単に可能性のある一般的な不正行為を調査する目的との申立てでは, 株主に広範な(筆者注:デラウェア州会社法において会社情報の収集権を 規定する)220条の救済の権限は付与されない。更なる問題の調査は十分 な理由となる可能性のある不正行為又は会社財産の浪費に関する証拠がな ければならない」と述べていた24 その後,2000年代以降の判例の蓄積によってそうした理解は一層緻密に なりつつある。すなわち,株主は会社情報の収集権の行使に際して正当な 目的を主張する場合,裁判所が不正行為を推認できる「信頼できる根拠 (creable basis)」といわれる証拠を示さなければならず,株主の推測的な 主張のみでは不十分であるとされている。この理解に基づき,2006年の

Seinfeld v. Verizon Communications, Inc. 事件25以降,デラウェア州の裁判

20 123 A.2d 243(Del. 1956).

1 See Michael D. Goldman, Delaware Corporation Law−Shareholder’s Right to Make

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所においては株主が会社情報の調査する法的価値の立証の基準が厳格と なっていった26

そして,2011年の Espinoza v. Hewlett−Packard Co. 事件27において,裁

判所は株主によって正当な目的が立証されたとしても,会社の保有するす べての会社情報を調査できるわけではないとする。株主が調査をできる会 社情報は調査目的の達成のために必要不可欠な会社情報のみであるとして 調査の対象となる会社情報を画定した28。ここにいう不可欠性とは,ある 文書が株主の閲覧目的の核心部分を扱っており,当該文書に含まれる重要 情報が他の情報源から入手できないことを意味すると述べている29 こうした会社情報の収集権の行使に係る「信頼できる根拠」に言及する 近時の事案として,2019年の High River Ltd. P’ship v. Occidental Petroleum

Corp. 事件がある。同事件は委任状勧誘の実施を目的とした会社情報の収 集権を行使した事案であるが,裁判所は「信頼できる証拠」という最低限 の立証責任は課すという判例法理が確立されているとして,不正行為に関 する証拠の提供を株主に要求していると述べている30。裁判所はこの理解 を前提に会社情報の収集権の行使した株主は証拠漁りが目的であり,当該 25 909 A.2d 117(Del. 2006). 同事件を検討する論稿として,前原信夫「株主の帳簿 ・記録の閲覧権と正当な目的の立証における『信頼できる証拠』という基準」近藤 光男=志谷匡史編著『新・アメリカ商事判例研究(第2巻)』303頁(商事法務, 2012年)〔初出2009年〕がある。「信頼できる証拠」に関する判例の動向については, 釜田・前掲(注23)153頁以下を参照。

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目的は必要不可欠であるとはいえないとして株主の請求を斥けている31 この判決は会社に不正行為の証拠もなく,単に株主が会社の経営方針に反 対意見を有する場合に他の株主との意思疎通が必要であるという理由だけ で会社情報の収集権の行使を認めなかった点に意義があるとされている32 3.会社情報の調査対象の特徴 前述のように,アメリカにおいては会社情報の収集権が責任追及におけ る証拠収集手段としての機能を果たしている。その特徴は会社経営陣の請 求を追及する場合においても,会社情報の収集権の行使により得ようとす る会社情報の範囲は個別具体的な会社情報ではない点にある33 もっとも,制定法上で会社情報の収集権が認められている場合であって も,その対象には理解の分かれる点も多い。州の制定法によっては株式原 簿(stock ledger)や株主名簿(list of shareholder)といった一定の会社

情報の収集のみに限定している34。たとえば,州会社法の模範として機能 することを目的として公表されている2016年改正模範事業会社法16.02条 (b)項やアメリカ会社法の発展において極めて重要な役割を果たしている デラウェア州会社法220条(b)項1号ではそうした一定の会社情報の調査 を認める規定がされている35 ただ,制定法上の株主の会社情報の収集権には会社の行っている実際の 30 2019 WL 6040285, at*11(Del. Ch. Nov.14, 2019). 同事件を検討する論稿として, 木村真生子「会計帳簿閲覧請求権は情報収集権か−アクティビストによる請求権行 使から考える−」Disclosure & IR Vol.1474頁(2020年)がある。

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運営(physical operation)や日常業務の調査ないし監督はできない。それ ゆえに会社の工場等に株主が直接調査に行く権限は有していないとされて いる36 もとより,会社情報の収集権がコモン・ロー又は制定法のいずれに基づ いて行使されるかによってもその対象が異なる。コモン・ロー上の会社情 報の収集権の対象は会社のすべての帳簿,記録,附属定款(bylaw),書類, 契約書,台帳(ledgers),仕訳帳(journal),会計帳簿,議事録その他の

証書(instrument),あるいは納税申告書(tax return)や制定法では認め

られていない会社の物的設備(physical plant)も対象となる37。したがっ て,制定法で規定されている以外の会社情報の収集についてはコモン・ロ ー上の権利を会社情報の収集手段としていた38

三.会社情報の収集権を行使できる株主の範囲と調査対象

1.代理人による行使と権利行使をできる株主 株主の会社情報の収集権は代理人による行使が認められている。代理人 による会社情報の収集権の行使が可能であることは1917年の Pfirman v.

Success Mining Co. 事件39等においても明確に述べられていた。ただし,

法の位置付けにつき,伊達竜太郎「会社の設立準拠法主義の機能」沖国42号31―33 頁(2013年),拙著・前掲(注4)80頁等を参照。

6 See RICHARD D. FREER, THE LAW OF CORPORATION IN A NUTSHELL, 144(7th ed. 2016); FREER=MOLL, supra note 19, 237.

37 F. HODGE O’NEAL & ROBERT B. THOMPSON, 2 O’NEAL’S OPPRESSION OF MINORITY SHAREHOLDERS, 228(2d ed. 2003); HARRYG. HENN& JOHONR. ALEXANDER, LAWS OF CORPORATIONS ANDOTHERBUSINESSENTERPRISES, 537(3d ed. 1983). この点について は,1920年の Otis−Hidden Co. v. Scheirich 事件での判示も参照されたい(See 219 S.W. 191, 194(Ky. 1920))。

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会社情報の収集権が株主以外の者によって請求されたとき,会社はその者

が株主のために行為する権限を有しているという証明を要求しうると1969

年の Henshaw v. American Cement Corp. 事件で言及されている40

それとの関連で,会社情報の収集権を行使できる株主は名義株主にとど まらず,株式の実質的保有者や議決権信託(voting trust)の委託者のよう

な株式の法的権限を譲渡している者にも認められている。たとえば,2016

年改正模範事業会社法では16.02条(h)項で会社情報の収集権を行使でき

る株主を『名義株主(record owner),実質的な所有者(beneficial owner)

及び制限されていない議決権信託の実質的な所有者を意味する』と規定し ている41 デラウェア州会社法でも220条(a)項(1)号において,会社情報の収集権 を行使できる株主の範囲について『株式会社の株式の名義株主(holder of record of stock),又は議決権信託あるいは名義人(nominee)のいずれか によって保有されている株式の持分の実質的保有者(beneficial owner of

shares of such stock)』と定義している42。ただ,どの範囲の株主まで当

該権利行使が認められるかが問題となる。

この点につき,裁判所は2005年の Deephaven Risk Arb Trading Ltd. v.

UnitedGlobalCom, Inc. 事件において,デラウェア州会社法220条(a)項(1) 号で規定されている実質的所有者について次のように解釈している。同事

0 Sparkman, supra note 10, 152.

1 See FREER, supra note 36, 144 ; FREER=MOLL, supra note 19, 237. 実質的保有者に 当該権利を付与していなかった模範事業会社法に対する問題点を指摘するものとし て,See ALFREDF. CONARD, CORPORATIONS INPERSPECTIVE, 300―301(1976).

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件は売り持ち(short position)の株主が会社情報の収集権を行使できるか

が争点となった。この事案において裁判所は2003年にデラウェア州会社法

が改正されて株式の実質的保有者にも会社情報の収集権が認められた点に 言及しつつ,ここにいう実質的保有者には売り持ちの株主が含まれると判 示した43

あるいは1994年の Holtzman v. Gruen Holding Corp. 事件がある。同事 件は株主である会社の最高業務執行役員(chief executive officer)がその 職を退任したため,株主間合意(shareholder’s agreement)に従って自己 の保有する株式の会社への売渡しを要求されたが,退任を根拠とする株式 の売渡しを阻止するための訴訟を提起していた。ただ,この株主は当該訴 訟の帰趨により,株主としての地位を失う可能性があったため,会社情報 の収集権の行使を求めた事案である。裁判所は会社情報の収集権の行使の 時点で株式原簿に当該株主の名前が記載されており,明確に株主としての 地位を有するとして当該権利行使を認めている44 もっとも,会社情報の収集権を行使する者は自身が名義株主あるいは実 質株主であるという株主としての地位を有していることを立証しなければ ならない45。たとえば,21年の Central Laborers Pension Fund v. News

Corp. 事件では,株主が会社に会社情報の収集権を行使するに際して,当

該株主が当該会社の株主であるという立証等をその手続において履践して

いなかったため,会社情報の収集権の行使が認められなかった46

2.会計帳簿の範囲

次いで問題となるのが,会計帳簿及び記録(books and records of

ac-43 2005 WL 1713067, at*6(Del. Ch. Jul.13, 2005)4 See 1994 WL 444756, at1―2(Del. Ch. Aug.5, 1995). 45 CUNNINGHAM, supra note 16, 322.

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count)の射程である。1975年の Mayer v. Ford Industries, Inc. 事件では会 計帳簿及び記録という言葉の意味は自明ではないとしつつ,その立法意図 が明確にされているのであれば文言の意味に拘らずその意図を含んだ解釈 がされるべきであるとして,株主の請求した全ての会社情報の調査を認容 している47。15年の Bank of Heflin v. Miles 事件では,アラバマ州会社法

における株主の会社情報の収集権は,わずかな例外があるものの,コモン ・ロー上の権利を成文化したものとしたものであると明言したうえで,調

査目的に関連のある帳簿及び文書に限定されないとしている48

他方で,1979年の Riser v. Genuine Parts Co. 事件においては,ジョージ ア州会社法は株主による会社情報の収集権の行使に係る訴訟において裁判 所が裁量権を行使できる略式意思決定手続(summary decision−making process)を採用しているゆえに,正当な目的を有していると立証した株 主の請求した文書について,裁判所が命令しうる制限を前提とした会社情 報の調査が認められるとする。そのうえで,会計帳簿及び記録という文言 は会社の有する全ての文書を含むという解釈はできないと判示している49 ちなみに,この論点との関係では株主が財務諸表を請求できる権利は制 限のない権利であるともいわれた50。こうした理解は10年の O’Brien v. O’Brien 事件の影響を受けているものと考えられる51。ちなみに,財務報 告書(financial reports)の透明性の調査を目的とする会社情報の収集権の 行使は正当な目的であるとされている52。こうした判例の動向を踏まえる7 See 538 P.2d 353, 356―358(Or. 1975). 48 See 318 So.2d 697, 701(Ala. 1975). 49 See 258 S.E.2d 184, 187(Ga. Ct. App. 1979).

50 ALFREDF. CONARD& ROBOERTL. KNAUSS& STANLEYSIEGEL, CORPORATIONS– CASES, STATUTES ANDANALYSIS, 295(2d ed. 1982).

51 同事件については,拙著・前掲(注4)151頁を参照されたい。

2 Dibadj, supra note 13, at 704―705. そのような事案として,See Dobler v.

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と,アメリカにおいては株主の定期的な財務諸表の入手を会社情報の収集 手段として重視していることが窺われる。

ただ,財務諸表であっても,中間財務諸表(interim financial

state-ment)の調査は認められないとするのが判例の立場である。たとえば,1983

年の Bitters v. Milcut, Inc. 事件では,中間財務諸表は「会計帳簿及び記

録」という文言に含まれないとする判示をしている53。さらに,12年の

State ex rel. Jones v. Ralston Purina Co. 事件でも暫定的な(preliminary)

損益計算書等についても会社内でのみ利用されうる機密文書としての性質 を有しているから会計帳簿には含まれないとする54 3.株主名簿との関係 会社情報の収集権の対象となる範囲は株主名簿についても問題となる55 すなわち,アメリカの公開会社においては,株式保有形態のほとんどは銀 行やブローカーの名義のいわゆるストリートネームで保有されている。証 券会社等に預託された株式は Depository Trust Company(DTC)といった 預託機関に証券会社等が開設した口座で保管されており,公開会社の株主 名簿にはアメリカにおけるストリートネームである CEDE & Co. が記録 されている。CEDE & Co. と記録されている株式については DTC 等の株 券の預託機関が株式を保有している証券会社等の一覧表である CEDE List と Non−Objecting Beneficial Owners List(以下,「NOBO List」という) と呼ばれる自身の開示に異議を唱えない実質的保有者の名簿が会社情報の 収集権の対象となるかが問題となる。

し,See Thomas & Betts Co. v. Leviton Manufactuying Co., 685 A.2d 702, 712(Del. 1996).

53 343 N.W.2d 418, 419(Wis. 1983). 54 358 S.W.2d 772, 778(Mo. 1962).

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まず,CEDE List については会社情報の収集権の対象となることが判例

上確立しているといわれる56。そのような事案として,たとえば,14年

の Scott v. Multi−Amp Corp. 事件はニュージャージー州会社法の規定する 会社情報の収集権の対象になるかが争われた。この争点に対して,裁判所 は会社情報の収集権を規定するニュージャージー州会社法の規定は文言解 釈をすると会社情報の調査のために会社の作成した会社の記録として株主 名簿が位置付けられるとする。しかし,会社は月に1度は CEDE List を 受領しているから会社経営陣は株主に対しても同様の情報を利用できるよ うにすべきであり,それによって会社と株主が同等の期間で委任状勧誘を 行うことを可能にするとして CEDE List の調査を認めた57

さらに,1979年の Giovanini v. Horizon Corp. 事件で次のように述べら れている。すなわち,会社情報の収集目的が他の株主との意思疎通を図る ためであり,CEDE List を会社が難なく利用できることを株主が証明した 場合,株主は CEDE List を利用できると判示している。そこでも委任状 勧誘の局面において株主と会社が対等(equivalent)である必要性が強調 されている58。この点は11年の Hatleigh Corp. v. Lane Braant 事件でも

同様の判示がされている59

その一方で,NOBO List につき,裁判所は株主の会社情報の収集権の 対象とすることに躊躇しているとされる。もっとも,多くの裁判所では会 社がすでに NOBO List を保有している場合には会社情報の収集権の対象 としている60。そのような判示をした事案として16年の Shamrock

Associ-ates v. Texas American Energy Corp. 事件がある。同事件で裁判所は上述の

56 柳明昌「株式振替制度における株主情報の入手可能性」西南37巻4号29頁(2005 年)。

7 See 386 F. Supp 44, 51(D. N.J. 1974).

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Hatleigh Corp. v. Lane Braant 事件判決を引用しつつ,CEDE List と NOBO

List で異なる取扱いを要求されていないとして,NOBO List を会社がすで に保有して難なく利用できる場合には会社情報の収集権の対象になると判 示する61

それに対して,前述の Scott v. Multi−Amp Corp. 事件ではストリートネ ームで保有している株主の氏名の開示を認めなかった。この判断はプライ バシーの保護を期待してストリートネームで保有している株主には配慮し なければならないとともに会社がその情報を有していなかったことを理由 とする62。ただし,ニュージャージー州会社法における会社情報の収集権 の対象となる株主名簿は制限的に解すべきであるという会社の主張を排斥 している。

もとより,株主名簿については,上述の CEDE List や NOBO List が会 社情報の収集権の対象となるかどうかはかねてから議論のあったところで あるが,それに関連した近年の動向として2017年のデラウェア州会社法の 改正でいわゆるブロックチェーン技術を用いて株主名簿の作成が認められ た。すなわち,会社情報の保存形式について規定しているデラウェア州会 社法224条が改正され,分散台帳技術を使っての会社情報の管理が条文で 明確に認められるに至った63。この改正のメリットやデメリットについて

60 COX& HAZEN, supra note 15, at 476.1 See 517 A.2d 658, 661(Del. Ch. 1986). 62 See Scott, 386 F. Supp. at 51.

63 小出篤「会社法・証券法における分散台帳の利用―デラウェア州会社法改正など を参考にして」金融商品取引法研究会研究記録71号9頁(2020年)。なお,改正前 後の規定につき,同・70―71ページを参照。同法の株主名簿に係る改正については,

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は不透明な部分も多いが,今後の動向に注視していく必要がある。

四.弁護士依頼者間秘匿特権との関係

1.弁護士依頼者間秘匿特権の意義等 会社情報の収集権の行使対象として近時問題となったのが,弁護士依頼 者間秘匿特権(attorney−client privilege)で保護された文書の調査の可否 である。そもそも,弁護士依頼者間秘匿特権とは次のようなものである64 アメリカの民事訴訟において開示義務から除外されるものの1つとして 秘匿特権があり,そのなかに弁護士依頼者間秘匿特権が位置付けられてい る。この特権は法的助言を得ることを目的とした弁護士とその依頼人間の 意思疎通の開示を保護するものである。すなわち,依頼者が弁護士を信頼 して全てのことを話してくれないと的確な法的助言が困難になるとともに, 合法な行為とはっきりしていてもプライバシーに関わるために依頼者が話 しにくい場合もありうる。そのため,違法行為との評価やプライバシーの 公表をおそれて,依頼者が合法な行為に関する重大な情報を秘匿する可能 性がある。 そうした事態は弁護士が事件の全体像の把握を困難にし,依頼者の合法 的活動を担保するための弁護士の助言ができなくなってしまい,法秩序全

4 弁護士依頼者間秘匿特権の概要につき,See Sabrina M. Hendershot, Broads

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体にとって悪影響をもたらしかねない。そこで弁護士と依頼者間のコミュ ニケーションは保護されてしかるべきであると考えられた。この秘匿特権 は,犯罪や詐欺を行うために弁護士の助言を求められた場合のような限ら れた例外を除いて絶対的な保護を与えられている。

弁護士依頼者間秘匿特権の目的は,1981年の Upjohn Co. v. United States 事件によれば,弁護士とその依頼者の間での十分かつ自由な意思疎通を促 進するためとされている65。このような特権の本質的な理念は依頼者が率 直に法的助言を求めることを促進し,それに対して弁護士は提供しうる法 的サービスを実現するために十分かつ詳細な情報を依頼者から得る必要が あるからと主張されている66 2.会社による弁護士依頼者間秘匿特権の主張の可否 弁護士依頼者間秘匿特権の権限が付与されている主体としては会社にも 認められていることが前述の Upjohn Co. v. United States 事件で明らかと

されている67。なぜなら,秘匿特権の目的は依頼者に弁護士への完全な情 報提供を促すためであって,この要請は会社であっても異ならないからで ある。もとより,会社は法人であるから誰がこの権利を主張できるのであ ろうか。会社の外部者が会社内部の情報を求める場合は会社役員が弁護士 依頼者間秘匿特権を主張しうる。 しかし,会社が株主から訴訟を提起された場合に会社,とりわけ会社役 員がこの権利を主張できるかが問題となる。すなわち,株主は会社資本の 出資者であって会社の所有者であるから,会社役員はその株主に対して信 認義務を負う。それゆえに会社役員は当該会社における個人的利益のため 65 449 U.S. 383, 389(1980).

6 See Stephan A. Saltzburg, Corporate and Related Attorney−Client Privillege Claims :

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ではなく,会社の最善の利益となるような行為をしなければならず,弁護 士依頼者間秘匿特権もその義務に従って行使しなければならないとされて いる。ただ,株主が派生訴訟の提起を検討している段階において,会社が 弁護士依頼者間秘匿特権を主張しうるかが問題となる。 この問題については,1970年の Garner v. Wolfinbarger 事件68において, 会社情報の調査を求める株主が次の9つの要素(factor)から構成されて いる十分な理由(good cause)を立証した場合,会社役員が株主に対して 弁護士依頼者間秘匿特権を主張できず,株主は会社情報の調査が認められ ると述べている。その9つの要素とは,第1に株主の持株数及び持株比率, 第2に株主の善意(bona fide),第3に株主の主張の性質とその主張が明 らかに偽り(obviously colorable)であるか否か,第4に情報を入手する 株主の明らかな必要性ないし願望と他の情報源からの入手可能性,第5に 株主の主張が会社による不正行為(wrongful action)である場合,当該会 社行為が刑事罰の対象となる行為又は違法ではあるが刑事罰の対象となら ない行為,もしくは違法行為であるか否か,第6に過去又は将来の訴訟に 関連する意思疎通であるかどうか,第7にその意思疎通が訴訟に関連する 法的助言であるかどうか,第8に株主が開示を求める意思疎通が特定され ているのか証拠漁り(fishing)であるか,第9に開示を求める情報が企業 秘密又は会社が独自の理由で利益を有している機密情報の暴露の危険性が あるかどうかという9つの要素の立証が必要であると判示した69 3.会社情報の収集権との関係 このガーナー原則が会社情報の収集権に関する訴訟において適用される か否かが定かではなかったところ,2014年の Wal−Mart Store, Inc. v.

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ana Electrical Workers Pension Trust Fund IBEW 事件において,ガーナー 原則の適用の是非が争われた。同事件では,会社情報の収集権に係る訴訟 においてガーナー原則が適用されるか否かについて検討する前に,同原則 がどのような位置付けにあり,それ以前の会社情報の収集権に関する判例 においても言及していたことを明らかにしている70 まず,弁護士依頼者間秘匿特権の位置付けを判示した1993年の Zirn v. VLI Corp. 事件71がある。同事件において,弁護士依頼者間秘匿特権は絶 対的な権利ではなく,十分な理由の立証によって制限又は拒絶されうると 判示していた。同事件ではそのような理由の例示として,弁護士の会社に 対する法的助言が株主の会社に対する訴訟の対象となっている問題に関連 している場合を挙げている。

次いで,1996年の Grimes v. DSC Communications Corp. 事件72で衡平法

裁判所はガーナー原則の適用にあたって要求されている十分な理由につい て検討しており,特に他の情報源からの入手可能性と過去又は将来の訴訟 に関連する点を重要視した判示をしている。すなわち,同事件で裁判所は 株主は弁護医依頼者間秘匿特権の例外であるガーナー原則が適用されるた めの十分な理由を立証しているという前提のもと,その立証された理由の 特に重要な点として調査の対象となっている文書が他の情報源からの入手 が不可能であるという理由を挙げている。

そして,2011年の Espinoza v. Hewlett−Packard Co. 事件73がある。同事

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請求した文書が正当な目的を達成するために必要であると立証できなかっ たからである。

こうした判例の展開の検討を踏まえて,Wal−Mart Store, Inc. v. Indiana

Electrical Workers Pension Trust Fund IBEW 事件で裁判所は,会社情報の

収集権の行使に係る訴訟においてもガーナー原則が適用されることを前提 として,会社情報の収集権の行使に適用される基準は当該権利行使をする 正当な目的の達成のために会社情報が必要不可欠であることが強調されて いる74。そのうえで,株主が調査を求めている文書が請求目的の核心に影 響を及ぼし,その情報が他の情報源から入手できない場合には当該文書が 必要不可欠なものであるとする。そうした理解を前提にガーナー原則の適 用にあたって裁判所は,弁護士依頼者間秘匿特権で保護されている文書が 会社情報の収集権の行使目的に必要不可欠である場合,その必要不可欠で ある範囲が会社情報の収集権の対象となる会社情報の範囲を画定するから 弁護士依頼者間秘匿特権に優越しなければならないとしている75 さらに,同事件では会社情報の収集権の対象となる会社情報の特定の正 確性(rifles precision. ライフルのように正確に)についての言及されてい る。すなわち,裁判所は,株主による会社情報の調査対象の画定にあたっ て,正確性をもって調査を認める命令を制限しなければならないとする。 そのうえで,正確という言葉の意味するところは問題とされている事実に ついて請求された文書を定性的(qualitative)に分析することを裁判所に 要請しているとし,正当な目的を達成するために必要不可欠である全ての 文書を定量的(quantitative)な制限を課すものではないと解している76

(24)

五.電子的記録の調査

1.電子的記録と会社情報の収集権 現代の株式会社では印刷された文書から電子的記憶装置での会社情報の 保存へと移行している。さらに,近時はそうしたデータの利用に加えて, E メールを用いた意思疎通が一般的である。その結果として,株主は紙媒 体の会社情報の調査は激減し,電子的に保存された文書の調査という新た な局面を迎えているとされている77。もとより,学説においては現代社会 では事業に係る文書90%以上が電子的記録によって作成されており,近年 の情報技術の飛躍的な発展により帳簿等と呼ばれていた紙媒体の会社情報 はその役割を終える可能性が指摘されていた78 そのため,会社情報の収集権については,現代社会に適応させて電子的 記録についてもその対象とする権利に改めなければならないと主張されて いた79。そこではディスカバリーにおいて議論が展開されて発展してきた

合理的入手可能性(reasonably accessible standard)を会社情報の収集権 の行使に係る訴訟においても援用すべきであるとする。そのうえで,合理 的入手可能性という基準は会社の有する電子的記録が利用可能な形式で保 存されているのか否かを判断するにあたって有益な表現であると述べてい る。この理解は電子的記録の作成する会社の負担と密接に関連させた表現

をしているとされている80

7 Joshua A. Manning, “Rifled Precision” : Using E−discovery Technology to Streamline

Books and Records Litigation, 22 VAND. J. ENT. & TECH. L. 663, 690(2020). 78 Francis G.X. Pileggi=Kevin F. Brady=Jill Agro, Inspecting Corporate “Books and

Re-cords” in a Digital World : The Role of Electronically Stored Information, 37 DEL. CORP. L. 163, 165(2012).

(25)

こうした状況と相俟って,デラウェア州の裁判所は電子的文書の一定の 類型につき株主又は取締役による会社情報の収集権の対象としていること を明確にしている81。ただ,近時の判例においては,さらに踏み込んで, 個人のアカウントの E メール及び個人のデバイスに保存された文書が会 社情報の収集権の対象となるかが争われた事案が見受けられる。 そうした事案のリーディング・ケースと位置付けられているのが2016年

の Amalgamated Bank v. Yahoo! Inc. 事件82である。もっとも,同事件以前

は電子的記録が会社情報の収集権の対象となるかが直接問題とならなかっ たものの,電子的記録の調査を求める事案は既にいくつか存在していた。 たとえば,2012年の Paul v. China Mediaexpress Holdings, Inc. 事件では, 会社情報の収集権はディスカバリーよりもその対象が狭いというのは明ら

かであると指摘して E メール等の調査を認めなかった83

他方で,弁護士依頼者間秘匿特権で保護された法的助言の閲覧の認否が 争われた2015年の In re Lululemon Athletica Inc.220 Litig. 事件でも株主に よる E メールの調査が問題となった。同事件では調査の対象となる会社 情報が弁護士依頼者間秘匿特権で保護されており,その中には E メール

0 Id. at 170. 熊代拓馬「DGCL220条(b)項における『帳簿および記録』の範囲」商 事2129号49頁(2017年)も参照。

1 Micheletti=David=Wiseley, supra note 11, 19.

82 132 A.3d 752(Del. Ch. 2016). 同事件の検討として,熊代・前掲(注80)44頁が ある。

83 2012 WL 28818, at*8(Del. Ch. Jan.5, 2012). 会社情報の収集権とディスカバリ ーの関係につき,1997年の Security First Corp. v. U.S. Die Casting and Development

Co. 事件において会社情報の収集権とディスカバリーは同じではなく,混同すべき

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が含まれていた。裁判所は使用人ではない取締役の E メールの調査につ いては認めなかったが,弁護士から会社への法的助言等は株主の会社情報 の収集権の行使目的のために必要不可欠であり,他の情報源からの入手が 不可能であるとして,ガーナー原則を適用して E メールの調査を認めて いる84 このように判例の見解が錯綜している状況にあって,Amalgamated Bank v. Yahoo! Inc. 事件の特筆すべき重要な点は,デラウェア州会社法が近時 の企業実務に沿うように発展しなければならないとの認識していることに あると指摘されている。同事件では会社記録の保存実務に関する前述の学 説を引用しつつ,電子的記録が会社情報の収集権の対象となると明示して いる85 同事件で株主は E メールを含む電子記録の調査を求めたが,会社は電 子的記録が会社情報の収集権の対象ではないと反論した。それに対して, 裁判所は会社の会社情報の保存形式を規定するデラウェア州会社法224条 が電子的記録での会社情報の保存を認めたことに言及しつつ,E メールが 調査対象になるか否かは株主が会社情報の収集権を行使した目的に必要か つ十分であるかどうかを判断基準とした86 2.判例の動向 近時,会社情報の収集権の対象に E メールその他電子的コミュニケー ションが含まれるか否かについて言及している判例がいくつか見受けられ

4 See 2015 WL 1957196, at11―15(Del. Ch. Apr.30, 2015). 同事件については,釜 田・前掲(注63)55―56頁も参照。なお,弁護士依頼者間秘匿特権によって保護さ れる対象に E メールが含まれるか否かついては,真嶋理恵子「米国の弁護士・依 頼者間秘匿特権は E メールにも及ぶのか」NBL689号15頁(2000年)も参照。 85 熊代・前掲(注79)49頁。

(27)

る。まず,2019年の KT4 Partners LLC v. Palantir techs. Inc. 事件87がある。 株主が会社の潜在的な不正行為を調査するために E メールが必要との十 分な証明がされたとして閲覧を認めている。同事件で裁判所は会社が株主 の大規模な E メールの調査請求を拒絶する裁量権を濫用したと述べてお り,そのなかでも次の点を強調している。すなわち,取締役会議事録のよ うな伝統的な会社情報はその調査請求を充足するにも関わらず,会社が非 公式な電子的媒体を用いて事業を行う場合は,そうした電子的媒体も会社 情報の収集権の調査対象として利用できると述べている88

これに続く事案として,2019年の Inter−Local Pension Fund GCC/IBT v.

Calgon Carbon Corp. 事件でもこの点についての判示をしている。同事件

では上述の Wal−Mart Store, Inc. v. Indiana Electrical Workers Pension

Trust Fund IBEW 事件,Amalgamated Bank v. Yahoo! Inc. 事件の判示を

引用したうえで,会社情報の収集権の対象に電子的文書や E メールが対

象となると述べている89

さらに,2019年の Bucks Cty. Emples. Ret. Fund v. CBS Corp. 事件があ る。この事件で会社は前述の判決を限定的に解釈すべきと主張したが,裁 判所はその主張を排斥した。ここでもやはり株主には会社情報の収集権の 行使目的の達成に必要不可欠である全ての会社情報を調査する権限が与え られるとの前提に立っている90。また,In re Facebook, Inc. Section 220

Litig. 事件でも,会社役員間の E メールを含む電子的記録の調査が正当な

目的のために必要不可欠であるとしてその調査が認められている91

87 203 A.3d 738(Del. 2019). 同事件の評釈として,楠元純一郎「会計帳簿・記録等 の検査権の範囲と電子メール」商事2237号47頁(2020年)がある。

8 Manning, supra note 77, 690.

(28)

他方で,電子的記録を会社情報の収集権の対象とするのに対して消極的 な判例もある。そのような事案として,2020年の Leb. Cty. Employees’ Ret.

Fund v. Amerisourcebergen Corp. 事件がある。この事件で裁判所は正式な

取締役会の文書に会社情報の収集権の行使の対象を限定した。裁判所はそ の理由として,取締役会で作成されるような文書は取締役間での審議とい う公的な証拠が適切な会社情報の収集権の対象となり,株主は最初に取締 役間で送付された E メールやその他の電子的コミュニケーションのよう な非公式の取締役会文書の調査が正当であるという証明をしなければなら ないと述べている。そうした理解を前提に裁判所は株主がそうした証明を していないため,非公式の取締役会の文書を調査する権限を付与せず,会 社が保存している会社情報についても調査対象を制限した92 3.電子的記録の調査に係る課題 アメリカ会社法においては取締役にも会社情報の収集権が認められてい るところ93,株主である設立時取締役が個人のアカウント及びデバイスか ら E メール及び文書等を対象として会社情報の収集権を行使した2019年

の Schnatter v. Papa John’s Int’l, Inc. 事件がある。同事件で裁判所は現代 社会においては多岐広範な手段でコミュニケーションが図られており,そ こでのコミュニケーションはこれまでよりも容易でかつ実効性の高いもの となっているとする。ただ,会社情報の収集権の対象として個人のアカウ ントやデバイスの情報が請求された際は,制定法の想定する会社が会社情 報を作成する負担を考慮した情報の必要性と他の情報源からの入手可能性 の比較という観点を基礎に事案毎に裁量権を行使して調査対象を画定すべ

2 See 2020 WL 132752, at24−25(Del. Ch. Jan.13, 2020).

(29)

きであるとしている。そうした理解のもとで,個人のデバイスを通した E メール等の調査を認めている94 このように E メールを含む電子的コミュニケーションの調査を認めた 近時の判例は,取締役会の構成員が非公式に電子的手段を用いて事業を展 開している場合にそうした電子的コミュニケーションの作成を命令しうる かを説明する。株主は一定の類型の会社情報を調査する権利が付与されて いるから,適切な場合には会社情報が株主の権利行使目的の達成に必要で あるかどうかという基準によって,会社情報の収集権の対象が拡大されて いるとする。このような規範は電子的コミュニケーションが限定された会 社情報の収集権の適切な対象となりうるものであり,これは正式な取締役 会議事録のような伝統的な情報源を通して得られる情報を複製したものと は異なることを意味していると指摘されている95 もとより,電子的記録が会社情報の収集権の対象となるか否かという紛 争類型は当然に予想された事態であって,今後の会社情報の収集権に係る 紛争の中心になっていくといわれる96。それゆえに裁判所がそうした情報 をどのような範囲まで作成させて事案を解決させていくのかが今後の課題 であるとされている。そうした事情も相俟って,今後の会社情報の収集権 の行使を巡る訴訟は一層時間を要し,複雑なものとなっていくことが予想 されている。ただ,こうした状況は会社情報の収集権の行使に係る紛争の 迅速な解決を意図した立法意思に反する事態でもあるとの批判97や,電子 的記録による会社情報の保存実務は会社情報の収集権の行使に対するハー ドルを上げるものであるとも指摘されている98

4 See 2019 WL 194634, at16(Del. Ch. Jan.15, 2019).5 Micheletti=David=Wiseley, supra note 11, at 2.6 Deis, supra note 12, at 432.

7 Manning, supra note 77, 690. ちなみに,会社情報の収集権に係る迅速な紛争解 決の意義等については,拙著・前掲(注4)142―146頁を参照されたい。

(30)

こうした指摘は株主が会社情報の収集権の行使により得られた会社情報 の不正利用の恐れに起因しているものといえる。そうした問題を解決する 方策としては,会社が会社情報を開示する前に株主に対して秘密保持合意 (confidentiality agreement)の締結を求めることが一般的な実務として確 立しているようである99。こうした実務は12年の CM &M Group, Inc v.

Carrol 事件100を嚆矢として発展してきたとされている101。制定法において

もその傾向を窺えることができ,たとえば,2016年改正模範事業会社法に

おいては,株主の入手した会社情報に対して裁判所が課しうる合理的な制

限に秘密保持が加えられている102

この点に関する近時の事案である2019年の Tiger v. Boast Apparel Inc.

事件103では次のような判示がされている。すなわち,裁判所は会社情報の 収集権の行使について合理的な秘密保持命令の締結を命令しうるが,それ は会社情報の収集権の行使の前提条件となるものではないとする。そのう えで秘密保持の程度や継続期間を決定する命令につき,裁判所は全ての事 案で株主と会社の利害を評価しなければならず,反射的に秘密保持契約の 必要性が明白であるという結論は出せないとする104。秘密保持契約の締結 も,会社情報の収集権の行使目的による制限と同様に,株主の会社情報の 収集権の根本問題である株主の権利実現を確保しながら会社の被りうる損 害を調整する手段として機能している点が重要な観点であろう。

9 See Michael Greene, Delaware Companies Placing More Limits on Books and

Re-cords Inspections, 31 CORP. COUNS. WHLY.(BNA)265(Aug.31, 2016). 秘密保持合意 の締結のような裁判所が株主に対して課す制限につき,Browning Jeffries,

Share-holder Access to Corporate Books and Records : The Abrogation Debate, 59 DRAKEL. REV. 1087, 1102(2011)は会社の利益の保護を目的としているとする。

100 453 A.2d 788(Del. 1982). 101 Radin, supra note14, at 1388. 102 拙著・前掲(注4)235―237頁。 103 214 A.3d 933(Del. 2019).

(31)
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参照

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