九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
凍結含浸法を用いた介護食品の開発に関する研究
中曽, 沙弥香
https://doi.org/10.15017/1441309
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(農学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
凍結含浸法を用いた介護食品の開発に関する研究
中曽 沙弥香
2014
目次
‐I‐
目 次
第1章 緒 論
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
第2章 植物素材の軟化に適した含浸溶液組成の解明
第 1 節 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
第2節 実験材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・8
第1項 試料調製・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
第2項 含浸溶液・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
第3項 酵素活性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
第4項 凍結含浸および酵素反応・・・・・・・・・・・・9
第5項 実験材料の含浸効率・・・・・・・・・・・・・・11
第6項 硬さ測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
第7項 カルシウム含有量・・・・・・・・・・・・・・・12
第8項 統計解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
第3節 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・12
第1項 凍結-解凍処理の含浸効率に及ぼす影響・・・・・ 12
第2項 ゴボウの軟化に及ぼすクエン酸の影響・・・・・・15
第3項 ゴボウの硬さとカルシウム含有量の関係・・・・・25
第4項 他の根菜類の軟化に及ぼすクエン酸の影響・・・・27
第4節 研究成果を活用した商品開発・・・・・・・・・・・29
第5節 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
目次
‐II‐
第3章 軟質フィルムパウチを用いた凍結含浸法
第 1 節 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 第2節 実験材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・33 第1項 試料調製・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 第2項 含浸溶液・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 第3項 凍結素材の解凍・・・・・・・・・・・・・・・・33 第4項 バッチ方式の減圧酵素含浸・・・・・・・・・・・35 第5項 真空包装機による減圧酵素含浸・・・・・・・・・35 第6項 硬さ測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 第7項 統計解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 第3節 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・37 第1項 真空包装機による凍結含浸法・・・・・・・・・・ 37 第2項 酵素濃度、減圧度および減圧保持時間の硬さに及ぼす
影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39 第3項 解凍から酵素失活までを軟質フィルムパウチで行う凍
結含浸法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
第4節 凍結含浸専用調味料「とろん 2」の利用 ・・・・・・45
第5節 真空調理システムにおける実用化・・・・・・・・・48
第6節 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
目次
‐III‐
第4章 軟化素材の離水防止技術の開発
第 1 節 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 第2節 実験材料および方法(予備実験)・・・・・・・・・ 49
第1項 試料調製・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 第2項 含浸溶液・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 第3項 増粘剤・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 第4項 粘度の測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・51 第5項 粘稠性が付与された酵素溶液による凍結含浸・・・51 第6項 硬さ測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 第7項 統計解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 第3節 結果および考察(予備実験)・・・・・・・・・・・ 52 第1項 酵素反応による増粘剤溶液の粘度変化・・・・・・52 第2項 粘稠性が付与された酵素溶液で減圧処理したタケノ
コの硬さ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54 第4節 実験材料および方法(本実験) ・・・・・・・・・・・54
第1項 試料調製・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54
第2項 含浸溶液・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56
第3項 増粘剤・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56
第4項 未糊化デンプンの凍結含浸・・・・・・・・・・・56
第5項 硬さ測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56
第6項 離水率の測定・・・・・・・・・・・・・・・・・58
第7項 デンプン粒子の顕微鏡観察・・・・・・・・・・・58
目次
‐IV‐
第8項 統計解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58 第5節 結果および考察(本実験) ・・・・・・・・・・・・・59 第1項 未糊化馬鈴薯デンプンと酵素の減圧含浸・・・・・59 第2項 加工デンプン「デリカ SE」と酵素の減圧含浸・・・61 第3項 デンプン粒子の顕微鏡観察・・・・・・・・・・・61 第6節 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64
第5章 軟化素材の食物繊維量と消化性
第 1 節 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66 第2節 実験材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・ 67
第1項 試料調製・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67
第2項 含浸溶液・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67
第3項 凍結含浸および酵素反応・・・・・・・・・・・・68
第4項 硬さ測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68
第5項 食物繊維およびオリゴ糖の測定・・・・・・・・・68
第6項 人工消化試験・・・・・・・・・・・・・・・・・69
第7項 不溶性固形物量・・・・・・・・・・・・・・・・69
第8項 ラット試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・70
第9項 統計解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71
第3節 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71
第1項 食物繊維およびオリゴ糖・・・・・・・・・・・・71
第2項 人工消化試験・・・・・・・・・・・・・・・・・71
目次
‐V‐
第3項 ラット試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・74 第4節 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78
第6章 軟化素材の物性解析
第 1 節 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82 第2節 実験材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・ 84
第1項 試料調製・・・・・・・・・・・・・・・・・・・84
第2項 含浸溶液・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85
第3項 酵素活性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85
第4項 凍結含浸および酵素反応・・・・・・・・・・・・86
第5項 2 バイトテクスチャー試験 ・・・・・・・・・・・86
第6項 繊維感の評価・・・・・・・・・・・・・・・・・89
第7項 筋電位測定 (Electromyography: EMG)・・・・・・91
第8項 統計解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・96
第3節 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96
第1項 2 バイトテクスチャー試験・・・・・・・・・・・ 96
第2項 繊維感の評価・・・・・・・・・・・・・・・・・104
第3項 筋電位測定(Electromyography: EMG)・・・・・・107
第4項 筋電位変数と力学パラメータの関係・・・・・・・113
第5項 食べ易さの考察・・・・・・・・・・・・・・・・115
第4節 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・116
目次
‐VI‐
第7章 総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・118
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・123
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・125
第 1 章 緒論
‐1‐
第1章
緒 論
凍結含浸法は、2002 年に広島県立食品工業技術センターで開発され、2005 年 に特許化された食品製造技術である 1)。本法は、食品素材を凍結-解凍して組織 を弛緩することで、減圧含浸工程において素材を膨張し易くして素材内部への 含浸効率を高める製法である2)3)。凍結過程での氷結晶の生成速度が遅いほど、
氷結晶が大きく成長して細胞内や細胞間隙がより膨張するため4)5)、解凍後の組 織の空隙が大きくなり、素材の結合組織が弛緩することが知られている6-10)。減 圧含浸自体は、本法が発明される以前から食品加工の手法として、様々な用途 で活用されている。実例として、野菜や果物に対してカルシウムとペクチンメ チルエステラーゼを一緒に含浸させて加熱時の型崩れを防止11)、野菜の pH 低下 の改善 12)、果物への糖の浸透を促進 13)、果物への分解酵素の含浸により果汁の 収量を増加させるなどが挙げられる。凍結含浸法は、減圧含浸工程の前に素材 を凍結-解凍することで、含浸しにくい高分子の酵素を食品素材組織の内部まで 急速導入させることを可能にし、これを新規加工技術として新たな用途を見出 した点に新規性がある。本法における凍結工程において、含浸効率を高めるた めには緩慢凍結がより好ましく、減圧工程においては厚さ 1 ㎝の素材であれば 10 kPa で 5 分間、酵素溶液に浸漬することで中心部まで酵素含浸できることが 明らかにされており3)、この 2 つの工程の組み合わせで含浸効率が飛躍的に向上 する1)3)。一口大程度の大きさの食品素材に対して本法により軟化酵素を含浸す ると、素材内部の組織も表層と同じ程度に軟らかくすることが可能である 14)。 この発見から本技術の実用化研究として、まずは軟化酵素を用いた介護食品の 開発が進められた。現在では、素材内成分を由来とした機能性成分の増強技術
第 1 章 緒論
‐2‐
15)16)、食感改良および新食感の付加技術の研究開発も進められており、その他に
も様々な活用法を創造し得る技術である17)。
凍結含浸法が介護食品の製造技術として先行して開発が進んだ理由に、社会 背景がある。本技術が開発された当時、既に日本の高齢化は進んでいたが、現 在では超高齢社会に突入し、2013年には65歳以上の人口は25 %となった18)。人口 の高齢化は今後も続き、40年後の日本社会は、2.5人に一人が65歳以上の高齢者 であると予測されている18)。食品市場の規模は人口と密接な関係があり、今後大 幅な市場の縮小は避けられない状況にある。一方、高齢者人口は増加すること が予測されていることから、食品製造業者は高齢者を対象とした食品開発、特 に新しい介護食品の開発をターゲットとして重要視している。2013年の介護食 市場は1000億円規模とまだ特定のニーズを対象とした小さいものであるが、今 後の拡大と発展が期待されている数少ない成長市場である19)。今後の介護食品に は、様々な摂食能力に対応した商品開発、低コスト化や大量生産による安定供 給など、消費構造の変化に対応した価値やサービスの向上と変革が求められて いる。農林水産省では、2013年にこれからの介護食品をめぐる論点を整理し、
有識者や製造業者を構成員とする「介護食品のあり方に関する検討会議」を設 置し、具体的な議論を進めている20)。その中で、介護食品に対する抵抗感・拒否 感を払拭するイメージ作りや、介護食品をうまく利用して健康で豊かに生きる ための社会システムの構築の必要性が論じられている。このような国の取り組 みからも、少子高齢社会の抱える課題に向き合うことの緊要性がわかる。
本研究で対象としている植物素材は、様々な生体調節機能に寄与することで 知られている食物繊維やビタミン類の主要な供給源である。中でもゴボウやレ ンコン、タケノコなどの根菜類は、食物繊維が豊富である他に、独特の香りや 味を有しており、日本の食文化を形成する素材でもある。これらの素材は、長 時間の加熱や圧力処理でも軟らかくなりにくいため、咀嚼や食塊形成機能が低
第 1 章 緒論
‐3‐
下した人には提供が不向きな素材とされてきた21-23)。これらに軟化酵素を凍結含 浸処理して酵素反応により軟化させることによって、素材本来の外観を保ちつ つ舌と上顎でつぶせる程度に軟らかくすることが可能となった14)。食物繊維は高 齢者が不足しがちな栄養素の一つであり、不足分は栄養補助食品から補うこと が多い。本来、生体機能の維持に必要な栄養成分は、日々の食事から摂取する ことが望ましい。このような理由から、凍結含浸法による酵素利用技術は、新 しい介護食品の製造技術として有望視されている。
本法による介護食品の商品化と普及が進む中で、食事を提供する病院や介護 施設、あるいは在宅で介護を行う消費者からは、どの程度の摂食機能を有する 人に適した食品であるかを判断するための知見が求められるようになった。凍 結含浸法によって作製される食品素材は、硬さの値で4つに区分されている日本 介護食品協議会が定義するユニバーサルデザインフード(UDF)のカテゴリーⅡ である「歯茎でつぶせる」を満たすように設計されている24)。しかし、本素材は、
その形状を壊さないまま軟化しているため、同等の硬さの値であっても素材の 種類によってその他の物性が大きく異なる。そのため、人が摂食したときの評 価を根拠に、食感および物性について詳細に解析する必要があった。一方、わ が国では、介護食品の統一された規格が存在せず、病院などの各機関で独自の 名称や規格が混在しているのが現状である。既存の規格において、UDFと並んで 認知度が高いのが「嚥下食ピラミッド25)」であり、2009年に消費者庁が制定した
「えん下困難者用食品の許可基準26)」もこれを基盤にしたものである。介護食品 に関して、病院、施設、在宅などの広い範囲で食べ易さの目安が必要とされて いるなか、統一規格や名称がないことは利用者および提供者の不利益となって いる。こういった状況において、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会では、
国内の病院・施設・在宅医療および福祉関係者が共通して使用できることを目 的として、食事形態、必要な咀嚼能力、他の規格との対応などを示した5段階に
第 1 章 緒論
‐4‐
設定された学会分類2013を提唱した27)。凍結含浸法による軟化食品についても、
このような動きを注視しつつ、その咀嚼や嚥下に関する評価事例を蓄積しなが ら、食べ易い物性であることを目標として、力学特性の研究を進めていく必要 がある。
本研究では、凍結含浸技術を介護食品の製造技術へと改良・高度化すること を目的に取り組んだ。製造技術の研究では、素材独特の外観を保ちつつも、安 定的に軟化させるための基礎的かつ応用的研究を行った。また、凍結含浸法を 利用した介護食品は、既存に無い商品となるために、製造業者と消費者の双方 から物性や栄養成分などの品質評価や臨床評価の情報を必要とされている。そ のため、力学特性を始めとする品質特性の解明に関する研究にも取り組んだ。
第2章では、植物素材を対象にした製造プロセスの最適化と軟化素材の品質 安定化に関する研究について述べる。実際の介護食品の製造において、原材料 となる野菜の鮮度、含まれるミネラルや多糖類等の成分は一定でない。さらに 水煮などの一次加工の処理条件も製品によって異なる。それでも出来上がる軟 化素材は、一定の範囲内に収まる品質であることが求められる。当初、一次加 工処理の異なる原材料を同じ条件で酵素含浸処理しても、出来る軟化素材の硬 さが大きく異なった。逆に、同一条件の原材料を塩や有機酸等の組成の異なる 酵素溶液で処理しても、それらの硬さは大きく異なった。この原因解明と解決 策の提案は、製造プロセスの確立に不可欠であった。安定的な品質の軟化素材 を製造するためには、減圧含浸に適した状態に予め処理した素材を用いること、
その素材に適した酵素溶液を用いる必要があった。よって第2章の研究では、
酵素溶液に含まれる塩や有機酸等の植物素材の軟化に及ぼす影響を解明し、こ れを制御することで軟化の安定化を試みた。この作用機序の解明は、組織構造 を形成する多糖類の組成が異なる様々な種類の植物素材について形状保持軟化 素材に加工することを可能にし、技術の汎用性の確立に繋がった。この研究で
第 1 章 緒論
‐5‐
得られた知見は、凍結含浸専用調味料「Vgとろん」の商品開発にも貢献した。
本商品は、広島県内の企業の立案によるもので、共同研究により開発され、本 製品一つで様々な種類の野菜について凍結含浸法による軟化素材を製造するこ とが可能である。
第3章では、凍結含浸法を真空調理へ応用するための実用化技術の開発につ いて述べる。従来のバッチ方式の減圧酵素含浸処理を改変し、真空包装機を用 いて軟質フィルムパウチ内で含浸処理し、軟化素材を作製するための必要条件 を明らかにした。真空包装機は、介護施設や病院の厨房内において汎用機器で あり、これを用いて調理する真空調理法を実施する施設もある。パウチ内での 含浸処理は、包装も同時に行うことになるため、製造工程の簡略化や衛生面に おいても都合が良い。なお、上記の凍結含浸専用調味料「Vg とろん」は、介護 施設や病院の厨房で形状保持軟化素材が作製できるように設計された商品であ る。
第4章では、軟化素材の離水防止技術の開発について述べる。凍結含浸法に 限らず他の手法を用いても、軟らかくされた食品素材は組織構造が脆弱なため に離水し易い。特に野菜は元来水分の多い食品素材であるため、タンパク質を 多く含む魚や肉などの素材に比べて、軟化による離水量が多い傾向にある。咀 嚼過程で食品素材から水分が遊離すると、嚥下反射時に喉頭閉鎖のタイミング がずれて気道に入り込む「誤嚥」につながることが懸念される。誤嚥は肺炎の 原因となる。このリスクを低減するためには、軟化素材の水分に適度な粘稠性 を付与する処置が必要であると考えた。そのため、酵素と増粘剤を同時に素材 内部に導入し、植物素材の軟化と離水抑制をそれぞれに制御できる含浸技術を 検討した。
第5章では、軟化根菜類の品質として、食物繊維量と消化性を評価した結果 を述べる。本法で作製された軟化素材の栄養成分や消化性に関する情報は、介
第 1 章 緒論
‐6‐
護食品としての信頼と理解を獲得するために必要である。介護食品を必要とする 人の多くは、咀嚼や嚥下機能だけでなく、胃以降の消化器官の機能も低下して いることが多い。摂食・嚥下、消化に関わる一連の器官に対する負担の軽減は、
喫食量の増加を促し、体調回復や健全な身体の維持に必要な栄養成分の摂取に 貢献する。
第6章では、凍結含浸法による軟化素材の物性に関する一連の研究について 述べる。凍結含浸法により作製される食品素材は、新しい製造方法で作製され た軟化素材である。すなわち、介護食品として新しい商品となるため、これら の軟化素材がどのような物性であり、人の口腔中でどのように処理されるのか、
その知見を得る必要がある。物性に関する知見は、素材の品質改良および品質 管理にも重要である。これまでに介護施設と病院での臨床評価を実施し、介護 施設では主に感覚による評価、病院では主に嚥下造影検査による評価を行って きた。それらによって、本法による軟化素材の提供に適する対象者がどういう 人であるのか、素材によって摂食・嚥下にどのような特徴の違いがあるのかと いった基礎的知見を得た。素材によって摂食・嚥下のされ方に違いが認められ るのは、それらの力学特性の違いに起因していると考えられた。本研究では、
物性面からの安全性を解析するという観点から、本法による軟化素材について、
機材を使った力学特性の解析と健常成人による咬筋および舌骨上筋群の筋電位 測定を行った。得られたデータをもとに、食べ易さに関連する力学特性のパラ メータについて考察した。
第7章の総括では、本研究の成果による凍結含浸技術の実用化の視点からの 考察と、現時点での技術普及の状況、今後の取り組みについて述べる。
第2章 植物素材の軟化に適した含浸溶液組成の解明
‐7‐
第2章
植物素材の軟化に適した含浸溶液組成の解明
第1節 緒言
凍結含浸法は、研究当初、その目的が植物素材の単細胞化であった28)。植物 素材を対象として、ペクチナーゼ等の細胞間結着物質を分解する酵素を植物素 材内へ効率的に含浸することが目標であった。その後、この技術は素材の形状 を保持したまま軟化できることが明らかとなり、形状を壊さなくても軟らかく て食べ易い、新しいタイプの介護食品を製造する技術として期待されるに至っ た。減圧含浸に用いる酵素製剤は、酵素反応の最適化のために至適 pH に調製し た緩衝液に溶解したもので研究が進められたが、実用化の段階において、緩衝 液以外の溶液を用いて酵素含浸する必要性が出てきた。しかし、同じ至適 pH に調製した同濃度の酵素溶液であっ ても、従来までの研究に用いてきた
McIlvaine
緩衝液と調味液では、出来上がった植物素材の軟らかさに大きな違 いがあり、調味液で処理したものはMcIlvaine
緩衝液に比べて有意に硬かった。これまでの研究から、含浸された酵素による素材の軟化は、含浸溶液や素材内 部の pH 以外の要因に影響を受けていることが示唆された。
McIlvaine
緩衝液は、クエン酸とリン酸による緩衝液であり、ここに含まれるクエン酸、リン酸また はナトリウムが軟化に影響を及ぼしていると考えられた。この作用機序を解明 し、安定的に軟らかくするための解決方法を提案する必要があった。
本研究においては、ペクチン質およびセルロース含有量の異なる 4 種類の根 菜類を実験材料として用いた。含浸処理には、複数種類の緩衝液や調味液を用 いた。各種塩類を含む酵素溶液について、それぞれの酵素活性を測定した。ま
第2章 植物素材の軟化に適した含浸溶液組成の解明
‐8‐
た、実験材料の含浸効率を測定し、溶液含浸後の素材の pH 変化を考察した。作 製された実験素材は、硬さとカルシウム含有量を測定し、その関係性を解析し た。これらのデータを総合的に解析することで、含浸された酵素や有機酸およ びナトリウムによる植物素材の軟化メカニズムを考察した。
第2節 実験材料および方法
第1項 試料調製
ゴボウ、ニンジン、レンコン、タケノコを実験材料として使用した。ゴボウ は、青森県産の生鮮品を使用した。剥皮後、繊維方向に対して垂直に厚さ 1 ㎝ の輪切りにカットした後、10 分間煮沸処理した。ニンジンは、北海道産の生鮮 品を使用した。剥皮後、繊維方向に対して垂直に厚さ 1 ㎝の半月切りにカット した後、スチームコンベクションオーブン(TSCO-2EB、タニコー)で 100 ℃、
10 分間加熱した。レンコンは、中国産水煮レンコン(清家食品)を使用し、繊 維方向に対して垂直に厚さ 1 ㎝の半月切りにカットした。タケノコは、熊本県 産水煮タケノコ(清家食品)を使用し、円錐形の接線に沿って厚さ 1 ㎝の輪切 りにし、それを 1 辺 2~3 ㎝の台形にカットした。これらの試料を-20 ℃の冷 凍冷蔵庫(CT-3213、日本フリーザー)で凍結処理した。
第2項 含浸溶液
酵素製剤を溶解する含浸溶液として次のものを用いた。具体的には、クエン 酸ナトリウム緩衝液(pH 4.0、4.5、5.0、5.5、6.0;濃度 0.5、5、15、50、100、
150 mM)、50 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)、50 mM 乳酸ナトリウム緩衝液
(pH 5.0)、pH 6.0 リン酸ナトリウム緩衝液(濃度 50、100、150 mM)、6.0 % の糖類と 0.9 %のナトリウムを含む市販調味液(pH 5.0)(ミツカン)であった。
第2章 植物素材の軟化に適した含浸溶液組成の解明
‐9‐
酵素製剤には、ペクチナーゼとセルラーゼの両方の活性を有する
Aspergillus
niger
由来の食品添加物(天野エンザイム)を用いた。第3項 酵素活性
酵素製剤に含まれるペクチナーゼおよびセルラーゼ活性は、次のように測定 した。各酵素活性の 1 ユニット(U)は、40 ℃、10 分間基質溶液中で酵素反応し たときに溶液粘度を半分に減少させるために必要な酵素量と定義した。酵素活 性を測定するための酵素溶液は、pH 5.0 の 50 mM クエン酸ナトリウム緩衝液に 酵素製剤を溶解させて作製した。ペクチナーゼ活性を測定するための基質溶液 は、pH 5.0 の 50 mM クエン酸ナトリウム緩衝液に 3~7 %のメチル基を有する 50~70 %のガラクツロン酸から成るシトラスペクチン(関東化学)を 1.0 %(w/v) となるように溶解させて作製した。セルラーゼ活性を測定するための基質溶液 は、pH 5.0 の 50 mM クエン酸ナトリウム緩衝液にカルボキシメチルセルロース
(和光純薬)を 1.0 %(w/v) となるように溶解させて作製した。1 mL の酵素溶 液を 10 mL の基質溶液に添加して 40 ℃、10 分間酵素反応させ、反応後の溶液 粘度をコーンプレート型粘度計(DVM-E2、東機産業)で測定した。本研究で用 いた酵素製剤のペクチナーゼ活性は 400 U/g であり、セルラーゼ活性は 6300 U/g であった。
第4項 凍結含浸および酵素反応
本研究における実験素材の作製手順を Figure 2-1 に示す。凍結-解凍した素 材を含浸溶液中に 10 分間浸漬した後、浸漬状態のまま 5 分間 10 kPa の減圧状 態を保持し、10 秒を要して常圧に復帰させた。その後、溶液から取り出した素 材を 50 ℃、1 時間恒温器(MOV-212S、サンヨー電機)内に静置して酵素反応 を行った。酵素反応後、スチームコンベクションオーブン(TSCO-2EB、タニコ
F
Figure 2-1
第2
1. Procedu
章 植物素
‐10‐
ure for sa
素材の軟化に
ample prep
に適した含浸
paration.
浸溶液組成のの解明
第2章 植物素材の軟化に適した含浸溶液組成の解明
‐11‐
ー)で 100 ℃、10 分間加熱して酵素失活させた。
第5項 実験材料の含浸効率
含浸効率は、含浸後の実験材料内部の pH の値に影響を及ぼす。そのため、素 材の凍結-解凍処理によって、含浸効率がどの程度変化するかを調べた。含浸効 率は、実験素材を pH 5.0 の 50 mM クエン酸ナトリウム緩衝液に浸漬させた状態 で減圧含浸処理したときに導入されたナトリウム量から算出した。ナトリウム 量は、フレーム分析により 589.00 nm の発光強度を測定して算出した(SAS7500A、
セイコーインスツルメント)。ナトリウム量の測定には、20 g を秤量した含浸 処理後の素材に 1 %の塩酸 100 mL を加えて粉砕し、150 回/分の頻度で 30 分間 振とう(BT220、ヤマト科学)した後、2290×g で 20 分間遠心分離して(6200、
クボタ商事)得られた上清を用いた。実験材料の力学特性は、20 ℃の環境下に 1 時間以上静置した材料を用いて、クリープメーター(RE-33005B、山電)によ り剛性率と破断歪率を測定した。剛性率と破断歪率は、直径 3 mm の円柱型プラ ンジャーを用いて、10 mm/s の速度で素材の厚さ 70 %まで貫入させたときに得 られる応力-歪曲線から算出した。破断点は、応力-歪曲線における最初のピー クとした。破断歪率は、素材表面から破断点までの距離を素材の厚みで除した 値とした。剛性率は、破断歪の 20 %までにおける応力-歪曲線の接線の傾きと した。
第6項 硬さ測定
硬さは、上記含浸効率と同じ機器および測定条件を用いて測定したときの最 大応力とした。測定方法の詳細は、2011 年に改正された日本介護食品協議会ユ ニバーサルデザインフード(UDF)の基準に準じた24)。UDF 基準には 4 つのカテ ゴリーがあり、本研究においてはカテゴリーⅡの「歯茎で潰せる」硬さとされ
第2章 植物素材の軟化に適した含浸溶液組成の解明
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ている 5.0×104 N/m2以下を目標の硬さとした。
第7項 カルシウム含有量
20 g の試料に 100 mL の精製水を添加して粉砕後、遠心分離機(6200、クボ タ)により 2290×g で 20 分間処理して水溶性画分と水不溶性画分に分離した。
水溶性画分については、105 ℃に設定した恒温器(MOV-212S、サンヨー電機)
内で完全に乾燥させた。水不溶性画分については、電気マッフル炉(AT-S13、
いすゞ製作所)内で 550 ℃、16 時間の条件で灰化させた。乾燥させた両画分を 3.0 mg/mL のストロンチウムを含む 1.0 %の塩酸 100 mL に溶解し、これを測定 用試料として、フレーム分析により 422.67 nm の発光強度を測定した(SAS7500A、
セイコーインスツルメント)。
第8項 統計解析
硬さの値は、Tukey-Kramer の多重比較検定および Student のt検定により有 意差検定した。
第3節 結果および考察
第1項 凍結-解凍処理の含浸効率に及ぼす影響
Figure 2-2 の(□)および(○)は、含浸前の実験材料の応力-歪曲線を示 したものである。凍結-解凍処理された材料は、組織が柔軟になり、凍結-解凍 処理されない材料に比べて剛性率が 1/3~1/10、破断歪率が 2~3 倍であった
(Figure 2-3a,b)。また、減圧処理における素材組織へのナトリウムの含浸量 は、凍結-解凍処理されない材料の 5~9 倍であった(Figure 2-3c)。これまで の実験から、本研究で用いた減圧処理条件で、素材内部を表層と同等に軟化さ
Figu With free (aft defo spee at t coef stra
ure 2-2. Ty h freeze- eze-thawin ter inact ormation;
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第2
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章 植物素
‐13‐
in curves impregna nation pr ating enz inder typ ng strain by the or slope of
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素材の軟化に
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章 植物素
‐14‐
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efficient egnation w mples by t
素材の軟化に
and impr freeze-th . (b) Brea was calcu the vacuum
に適した含浸
egnation hawing,
aking stra lated fro m impregna
浸溶液組成の
rate ab
■: With ain. (c) R om the sod
ation.
の解明
bout hout Rate dium
第2章 植物素材の軟化に適した含浸溶液組成の解明
‐15‐
せる酵素量を含浸できることを明らかにしている14)28)。Figure 2-2 の(×)は、
酵素反応後の軟化素材の応力-歪曲線で、どの歪率においても十分に小さい値を 示した。このことは、内部も表層と同等に軟化していることを示した。軟化酵 素は高分子のタンパク質であり、組織内部への吸着性や浸透性は低分子のナト リウムと同じではない。しかし本結果は、ここで記載する含浸処理方法によっ て、目標とする軟らかさを達成するために必要な酵素量を素材の中心部まで導 入できたことを示唆するものであった。
第2項 ゴボウの軟化に及ぼすクエン酸の影響
Figure 2-4 は、酵素濃度 1.0 %(w/w)で pH 5.0 の有機酸および塩類組成の異 なる 4 種類の溶液を用いて軟化処理したゴボウの硬さの値を示す。用いた酵素 の至適 pH は 4.0~5.0 であった。4 種類の含浸溶液のうち、50 mM クエン酸ナト リウム緩衝液で調製された酵素溶液で処理したゴボウの硬さの値がもっとも小 さかった。その値は 4.1×104 N/m2であり、4 種類のゴボウの中で唯一 UDF のカ テゴリーⅡの硬さ基準である 5.0×104 N/m2以下を満たした。この 4 種類の酵素 溶液のペクチナーゼおよびセルラーゼ活性には有意な差がなかった(Figure 2-5a)。これら 4 種類の酵素溶液を含浸させた直後のゴボウの pH の値は、調味 液を除いて溶液の pH に近似の pH 5.0~5.1 で、調味液を含浸させたゴボウだけ が pH 5.4 と酵素活性の至適 pH の範囲から外れた(Table 2-1a)。よって、調味 液で調製した酵素溶液を用いたゴボウの軟化度が他に比べて低かった理由の一 つとして、含浸後の pH が酵素反応の最適条件から外れていたことが考えられた。
しかし、他の酵素溶液に関しては、この理由が当てはまらなかった。これらの 結果は、クエン酸ナトリウム緩衝液で調製した酵素溶液には、pH の緩衝作用以 外の何らかの軟化を促進する要因があることを示唆した。
次いで、ゴボウの硬さに及ぼす含浸溶液に含まれるクエン酸濃度の影響につ
Figu solu cont Valu diff comp
ure 2-4. Fi utions co tained 1.0 ues repres ferent let parison te
irmness of ntaining 0 % (w/v) sent mean tter are s est (
P
< 0第2
burdock r the mace maceratin
± stand significan 0.05).
章 植物素
‐16‐
roots prepa erating e ng enzymes dard error ntly diffe
素材の軟化に
ared with enzymes.
s and thei r (n = 10)
erent by T
に適した含浸
different Impregnate ir pH valu
). Mean v Tukey-Kram
浸溶液組成の
impregnat ed soluti ues were 5 values wit mer' multi
の解明
ting ions 5.0.
th a iple
第2章 植物素材の軟化に適した含浸溶液組成の解明
‐17‐
50 mM sodium citrate buffer
50 mM sodium acetate buffer
50 mM sodium lactate buffer
Seasoning solution
3.1 4.8 3.9
pKa (25℃) 4.8
6.4 pH value of burdock roots
(following impregnation) 5.0 5.0 5.1 5.4
100 mM sodium citrate buffer
50 mM sodium citrate buffer
15 mM sodium citrate buffer
5 mM sodium
citrate buffer
0.5 mM sodium citrate
buffer
pH value of burdock roots
(following impregnation) 5.0 5.0 5.1 5.3 5.6
50 mM sodium citrate buffer
50 mM sodium citrate buffer
50 mM sodium citrate buffer
50 mM sodium citrate buffer
50 mM sodium citrate
buffer
50 mM sodium phosphate
buffer pH 4.0 pH 4.5 pH 5.0 pH 5.5 pH 6.0 pH 6.0 pH value of burdock roots
(following impregnation) 4.4 4.8 5.0 5.6 5.8 6.0
Enzymatic solution
Enzymatic solution
Enzymatic solution
pH 5.0
pH 5.0
Table 2-1. pH Values of burdock roots following impregnation of each enzymatic solution
Supernatant was obtained from the homogenized samples by centrifuging. pH value of the supernatant was measured. Burdock roots showed a pH value of 6.1 before impregnation process.
(a)
(b)
(c)
Figu Pect cell the
ure 2-5. Va tinolytic lulolytic assay met
alues of t activity, activitie thod descr
第2
the enzyma □: Cell es of the m ribed in t
章 植物素
‐18‐
atic activ lulolytic maceratin the “enzy
素材の軟化に
vities in v activity.
g enzymes yme assay”
に適した含浸
various so The pect were dete
” section
浸溶液組成の
olutions.
tinolytic ermined us n.
の解明
■:
and sing
第2章 植物素材の軟化に適した含浸溶液組成の解明
‐19‐
いて調べた。クエン酸ナトリウム緩衝液として、クエン酸濃度が 0.5、5、15、
50、100 mM のものを用いた。これら緩衝液の pH は、いずれも 5.0 に調製され た。酵素含浸処理したゴボウの硬さの値は、酵素溶液中に含まれるクエン酸濃 度に影響し、クエン酸濃度が高いほど小さくなった。UDF のカテゴリーⅡの硬 さ基準を満たすためには、酵素溶液に 15 mM 以上のクエン酸が必要であった
(Figure 2-6)。酵素溶液のペクチナーゼおよびセルラーゼ活性は、pH 5.0 で あってもクエン酸濃度が 15 mM より低くなると濃度依存的に低下した(Figure 2-5b)。これらの結果から、酵素溶液中に含まれるクエン酸濃度が 15 mM 以下に なると溶液の緩衝能力が低下して、含浸処理後のゴボウの pH が酵素の至適範囲 から外れ易くなり(Table 2-1b)、酵素活性が低下した(Figure 2-5b)と考えら れた。それ以外に、一定濃度以上のクエン酸あるいはナトリウムが軟化を促進 している可能性も考えられた。
続いて、50 mM のクエン酸ナトリウム緩衝液の pH がゴボウの軟化に及ぼす影 響について調べた。本研究に用いた酵素に含まれるペクチナーゼとセルラーゼ の至適 pH である pH 4.0~5.0 の酵素溶液で処理したとき、得られたゴボウの硬 さは 5.0×104 N/m2以下を満たした。溶液の pH が 5.5 以上になると、酵素反応 による軟化効果の減少が認められた(Figure 2-7)。Figure 2-5c のペクチナー ゼとセルラーゼの酵素活性の結果においても、pH 6.0 で低下した。特にセルラ ーゼ活性において顕著であった(Figure 2-5c)。本研究において、凍結含浸処 理によるゴボウへの含浸率は 18 %となっており(Figure 2-3c)、含浸後のゴボ ウの pH は、含浸前の pH 6.1 から含浸溶液の pH に近い値となった(Table 2-1c)。 Figure 2-7 の結果は、酵素溶液の pH が酵素の至適範囲(pH 4.0~5.0)であっ たとき、クエン酸との相乗的な軟化促進効果が観察されることを示唆した。
さらに、同じ pH 6.0 のクエン酸ナトリウム緩衝液とリン酸ナトリウム緩衝液 を用いて処理ゴボウの硬さを比較した(Figure 2-8a)。これら処理ゴボウの硬
第2章 植物素材の軟化に適した含浸溶液組成の解明
‐20‐
R
2= 0.98 0
10 20 30 40 50 60 70
0.1 1 10 100 1000
Citrate concentration (mM) F ir m ne ss ( × 1 0
4N/ m
2)
Figure 2-6. Firmness of burdock roots prepared with sodium citrate buffer solution (pH 5.0) at different concentrations. Values represent mean ± standard error (n = 10).
■: Containing macerating enzymes (1.0 % (w/v)),
■: Without macerating enzymes.
Figu solu stan
■:
sign 0.05
ure 2-7. E ution on ndard erro
Without m nificantly 5).
Effect of the firmn r (n = 10) macerating y differen
第2
pH value ness of bu
.
■: Cont
g enzymes.nt by Tuke
章 植物素
‐21‐
e of impr urdock ro taining ma Mean val ey-Kramer'
素材の軟化に
egnating oots. Valu
acerating ues with a multiple
に適した含浸
sodium ci ues repre
enzymes ( a differen e comparis
浸溶液組成の
itrate buf sent mean (1.0 % (w/v nt letter son test
の解明
ffer n ± v)), are (
P
<Figu phos erro With the solu diff repr
ure 2-8. F sphate buf or (n = 10 hout macer
solution ution was 1 ferent by resents si
Firmness o ffer solut
0).
■: C
rating enz were 50, 100mM. Mea Tukey-Kr ignificant第2
of burdock ions of pH Containing
ymes. (a) 100 and an values w ramer' mu t differen
章 植物素
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k roots p H 6.0. Va g macerati
Citrate a 150 mM. ( with a dif ultiple co
nces by St
素材の軟化に
repared w lues repre ing enzyme and phosph (b) Sodium
fferent le omparison tudent's
t
に適した含浸
with sodiu esent mean es (1.0 % hate conce m concentr
tter are s test (
P t
test (P
浸溶液組成の
um citrate n ± stand
% (w/v)), entrations ration in significan
P
< 0.05)< 0.05).
の解明
e or dard
■:
s in the ntly . *
第2章 植物素材の軟化に適した含浸溶液組成の解明
‐23‐
さは、いずれも UDF のカテゴリーⅡの基準である 5.0×104 N/m2以下を満たせな かった。酵素活性自体は、酵素製剤を溶解させた緩衝液がクエン酸であっても リン酸であっても同等であったが(Figure 2-5c)、処理後のゴボウの硬さは有 意に異なった(Figure 2-8a)。pH 6.0 のクエン酸ナトリウム緩衝液を用いた場 合、含浸溶液に含まれるクエン酸濃度が高くなるほどゴボウの硬さの値は小さ くなり、酵素反応は軟化に寄与していないように見える結果となった。逆に pH 6.0 のリン酸ナトリウム緩衝液を用いた場合、酵素溶液で処理されたゴボウは、
緩衝液のみで処理されたゴボウの硬さの値に比べて有意に小さかった。野菜の 軟化には、含有するペクチン質の可溶化が重要な役割を果たすことが知られて いる29)。また、pH 6.0 以上の条件で野菜を加熱すると、ペクチン質のβ脱離反 応が起こることが知られている 30)。本実験において pH 6.0 のクエン酸あるい はリン酸緩衝液で含浸処理されたゴボウの pH は、それぞれ 5.8 と 6.0(Table 2-1c)であり、β脱離反応を起こす pH 条件としては同等であるといえる。この ことから、クエン酸緩衝液とリン酸緩衝液で硬さが異なった主な原因は、β脱 離反応以外であるといえた。pH 6.0 の条件で含浸されたクエン酸あるいはナト リウム自体がゴボウを軟化させていると考えられた。渕上ら31)は、野菜の煮熟 による軟化に及ぼすイオンの影響として、塩化ナトリウムがペクチン質の溶出 と組織の軟化を促進したことを報告している。そこで、酵素製剤を含まない、
同じ 100 mM のナトリウムを含む pH 6.0 のクエン酸緩衝液とリン酸緩衝液を用 いて処理ゴボウの硬さを比較した。その結果、クエン酸緩衝液で処理されたゴ ボウが有意に軟らかかった(Figure 2-8b)。よって、pH 6.0 の条件で含浸され たクエン酸自体がゴボウを軟化させていることが明らかになった。
ここまでの結果から、本法によるゴボウの軟化において、いくつかの作用機 序が関与していると考えられた。具体的には、酵素によるペクチン質やセルロ ースの分解反応、ペクチン質のβ脱離反応、クエン酸によるペクチン質間を架
第2章 植物素材の軟化に適した含浸溶液組成の解明
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橋結合するカルシウムのキレート化(クエン酸とカルシウムのキレート錯体の 安定度定数:log Kstab = 10.9、 8.4、 3.5)、ナトリウムによるペクチン質の可 溶化である。これらのうち軟化への寄与が大きいのは、酵素反応とキレート作 用であると考えられた。すなわち、クエン酸と酵素の相乗効果による軟化促進 の作用機序として以下のことが考えられた。ペクチン質間を架橋結合するカル シウムのキレート化による軟化は、ペクチナーゼとセルラーゼによる組織構造 を形成する多糖類の加水分解の程度と、素材内の pH に大きく影響を受けると思 われた。カルシウムによるペクチン鎖の架橋結合は、植物素材を硬くすること が 知 ら れ て い る 32)33)。 ク エ ン 酸 に よ る 架 橋 結 合 の 開 裂 は 、 今 回 用 い た
Aspergillus niger
由来の酵素に含まれるペクチナーゼによるペクチン質の加 水分解によって促進された可能性が考えられた。すなわち、pH 4.0~5.0 のク エン酸ナトリウム緩衝液を用いてゴボウを軟化処理したとき、クエン酸の水素 イオンの解離はそれほど大きくないことから、含浸されたクエン酸のキレート 生成能力もさほど高くないと考えられた34)。実際、酵素製剤を含まない pH 4.0~5.0 のクエン酸ナトリウム緩衝液を含浸処理しても、軟化作用は認められず
35)(Figure 2-7)、ペクチナーゼによるペクチン質の加水分解作用の無い状態で は、ペクチン鎖を架橋するカルシウムをキレートできないと考えられた。一方、
ポリガラクツロナーゼのようなペクチナーゼは、pH 4.0~5.0 の条件において 高い活性を有したことから(Figure 2-5c)、加水分解によって多糖類がいくら か低分子化あるいは組織が軟化したことによって、クエン酸とペクチン質の接 触機会が増え、架橋結合していたカルシウムとのキレート化が促進されたと考 えられた。Figure 2-4 のクエン酸以外の有機酸塩の緩衝液は、クエン酸よりも カルシウムとのキレート安定度定数が小さいため(酢酸:log Kstab = 0.5、乳酸:
log Kstab = 1.4)、酵素と併用させても相乗的な軟化効果が認められなかったと 考えられた。一方、pH 5.5~6.0 のクエン酸ナトリウム緩衝液を用いてゴボウ
第2章 植物素材の軟化に適した含浸溶液組成の解明
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を軟化処理したとき、含浸されたクエン酸のキレート生成能力は、軟化に貢献 できる程度に向上していたと考えられた34)。しかしながら、本試験で用いた酵 素製剤に含まれるペクチナーゼとセルラーゼの活性が pH 6.0 で大幅に低下した ため(Figure 2-5c)、目標とする硬さにまで軟化できなかったと考えられた
(Figure 2-7)。よって、クエン酸と酵素の相乗効果による軟化促進は、UDF の カテゴリーⅡの硬さ基準である 5.0×104 N/m2 以下を満たすために極めて重要 と考えられる。
第3項 ゴボウの硬さとカルシウム含有量の関係
ゴボウに含まれるカルシウム含有量の測定には、硬さの異なる 4 種類のゴボ ウを用いた。ゴボウの硬さの値は、ゴボウ中に含まれる水不溶性のカルシウム 含有量と正の相関性を示した(Figure 2-9a)。水溶性カルシウム含有量や水溶 性と水不溶性を足した総カルシウム含有量では、硬さとの相関性が認められな かった(Figure 2-9b)。この結果は、ペクチン質のような組織構造の結着物質 の分解が酵素分解によってだけでなく、架橋結合しているカルシウムの可溶化 によっても促進されることを示した。
ポリガラクツロナーゼは、植物細胞間の結着物質であるペクチン質を加水分 解する酵素であり、果物や果菜類の成熟過程において活性化し、ペクチン質間 を架橋するカルシウムの可溶化を促進することが知られている36-38)。マンゴー では、成熟過程の後期においてクエン酸含有量が急速に減少し、急激に軟らか
くなる39-41)。果物や果菜類の成熟は、ポリガラクツロナーゼによる反応とクエ
ン酸によるカルシウムの可溶化の相乗効果によって促進されると考えられ、こ れらの研究報告から、本研究におけるゴボウの軟化は、果物や果菜類の成熟過 程の作用機序を人工的に引き起こしたものであると説明できるかもしれない。
Figu root firm is p root
ure 2-9. R ts. Firmne mness and plotted on
ts. ■: Wa
elationsh ess repres
water-ins the logar ater-solub
第2
ip between sents mean
oluble ca rithmic sc ble calciu
章 植物素
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n the firm n (n = 10) alcium in
cale. (b) um, ■: Wa
素材の軟化に
mness and ). (a) Rel the burdoc
Calcium c ater-insol
に適した含浸
calcium in lationship
ck roots.
ontents in luble calc
浸溶液組成の
n the burd p between The firmn n the burd cium.
の解明
dock the ness dock