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『三玉挑事抄』注釈 恋部(上)

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(1)

『三玉挑事抄』注釈 恋部(上)

著者 岩坪 健

雑誌名 人文學

号 188

ページ 15‑68

発行年 2011‑11‑30

権利 同志社大学人文学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012588

(2)

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

岩 坪

﹃三 玉挑 事抄

﹄は

︑野 村尚 房著 で享 保八 年︵ 一七 二三 年︶ に刊 行さ れた

︒冷 泉政 為の

﹃碧 玉集

﹄︑ 後柏 原天 皇の

﹃柏 玉集

﹄︑ 三 条西 実隆 の﹃ 雪玉 集﹄ の三 玉集 を対 象に

︑鈴 木 健 一氏 に よ れば

﹁和 漢 の 故事 を 典 拠 とす る も の七 百 五 十余 首に つい て注 を付 した もの

﹂︵ 注 1︶ であ る︒ 本 書に つい ては

︑同 志社 大学 大学 院教 授の 岩坪 健に よる 大学 院文 学研 究科 国文 学専 攻の 講義 で輪 読し

︑各 々が 担当 し た箇 所 の 翻 刻お よ び 異同

︑出 典

︑口 語 訳を 木 村 能 章・ 森あ か ね・ 田 中佑 果 を 中 心に ま と め た も の で あ る

︒本 稿 で は︑

﹃ 三玉 挑事 抄﹄ 下﹁ 恋部

﹂冒 頭の 333か 379ら まで を掲 載す る︒ な お︑ 講義 の受 講者 は︑ 早川 広子

・木 村能 章・ 中村 香生 里・ 森あ かね

・佐 藤未 央子

・田 中佑 果・ 徳田 詠美

・栃 本綾

・趙 智英 の九 名で

︑す べて 本学 博士 課程 前期 課程 在学 者で ある

︒ま た︑ 各項 目末 尾の 丸括 弧内 には 該当 項目 の担 当者 を示 した

― 15 ―

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

(3)

1︑ 凡例 一︑ 旧漢 字は 新漢 字に 改め た

︒ま た︑ 異 同 調査 に 際 して

︑漢 字 の 新旧

︑﹁ ん

﹂と

﹁む

﹂な ど 同 じ読 み だ と考 え ら れる もの

︑踊 り字 など は対 象か ら外 した

︒ 一︑

﹇ 出典

﹈の 欄に は︑

﹃源 氏物 語﹄ は柳 井滋 ほか 校注

﹃新 日本 古典 文学 大系 19〜 23 源氏 物語 一〜 六﹄ 岩波 書店 一 九 九三 年

〜一 九 九 七年 の 頁 数︑

﹃伊 勢 物 語﹄ は堀 内 秀 晃 ほか 校 注﹃ 新 編 日 本 古 典 文 学 大 17系 竹 取 物 語 伊 勢 物 語﹄ 一九 九七 年 岩波 書店 の段 数︑

﹃ 狭衣 物語

﹄に つ い て は小 町 谷 照彦 ほ か 校注

・訳

﹃新 編 日 本 古典 文 学 全集 29 狭 衣物 語①

﹄小 学館 一 九九 九年 の頁 数

︑﹃ 日 本 書記

﹄に つ い ては 小 島 憲之 ほ か 校 注・ 訳﹃ 新編 日 本 古典 文 学 全集 2〜 3日 本書 記①

〜②

﹄小 学館 一 九九 四年

〜一 九九 六年 の頁 数を

︑そ れぞ れ用 いた

︒な お︑ 一度 だけ 使用 した もの につ いて は︑ 使用 箇所 に注 記す るこ とと する

︒ 一︑ 異同 調査 の対 校本 の中 で複 数回 使用 して いる もの を以 下に 挙げ

︑山 括弧 内に 略称 を示 す︒ なお

︑一 度だ け使 用し たも のに つい ては

︑使 用箇 所に 注記 する こと とす る︒

①﹃ 新編 国歌 大観

﹄編 集委 員会 監修

﹃新 編国 歌大 観C D

R OM

ver.2

﹄ 角川 書店 二

〇〇 三年

②池 田亀 鑑編 著﹃ 源氏 物語 大成 普及 版 校異 編 1〜 6﹄ 中央 公論 社 一九 八四 年〜 一九 八五 年︿ 大成

﹀な お︑ 各項 目後 の括 弧内 の漢 数字 は掲 載頁 を︑ 算用 数字 は掲 載行 を示 す︒ また

︑対 校し た諸 本の 略称 は﹃ 大成

﹄に より

︑記 号に つい ても 踏襲 した が︑ 左傍 線は 右傍 線に 置き 換え て処 理し た︒

③﹃ 承 応 版 源 氏 物 語

﹄は

︑国 際 日 本 文 化 研 究 セ ン タ ー の ホ ー ム ペ ー ジ

http : //shinku.nichibun.ac.jp/genji/index.html

︶ で公 開さ れて いる 米国 議会 図書 館蔵 書を 用い た︒

︿ 承応

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

― 16 ―

(4)

④﹃ 首書 源氏 物語

﹄に つい ては

︑一 九八 五年 以降 に和 泉書 院よ り発 行さ れた もの を用 い︑ 未出 版の 巻に つい ては

︑京 都大 学蔵 本を 用い た︒

︿ 首書

⑤北 村季 吟﹃ 源氏 物語 湖月 抄﹄ 日本 文学 古註 釈大 成9 11〜 巻 日本 図書 セン ター 一 九七 八年

︿湖 月抄

⑥堀 内秀 晃ほ か校 注﹃ 新編 日本 古典 文学 大系 17 竹取 物語 伊 勢物 語﹄ 一九 九七 年 岩波 書店

︿新 大系

⑦塚 本哲 三編

﹃狭 衣物 語﹄ 一九 二六 年 有朋 堂書 店︵ 底本

流 布の 十冊 本︶

︿ 有朋 堂﹀

⑧三 谷栄 一ほ か校 注﹃ 日本 古典 文学 大系 79 狭衣 物語

﹄岩 波書 店 一九 六五 年︵ 底本

内 閣文 庫蔵 本︶

︿ 大系

⑨松 村博 司ほ か校 注﹃ 日本 古典 全 書 狭 衣 物語 上

﹄朝 日 新聞 社

︵底 本

静 嘉堂 文 庫 蔵

﹁ 元和 九 年 五月 中 旬 心 也開 板﹂ の刊 記を 有す る古 活字 本︶ 一九 六五 年︿ 全書

⑩鈴 木一 雄校 注﹃ 新潮 日本 古典 集成 狭 衣物 語上

﹄新 潮社

︵底 本

旧東 京教 育大 学国 語国 文学 研究 室蔵 春 夏秋 冬四 冊本

︶一 九八 五年

︿集 成﹀

⑪小 町谷 照彦 ほか 校 注・ 訳﹃ 新 編 日本 古 典 文学 全 29集 狭 衣 物 語①

﹄小 学 館︵ 底 本

深川 本

︶ 一 九九 九 年︿ 新 編全 集﹀

⑫近 藤春 雄著

﹃長 恨歌

・琵 琶行 の研 究﹄ 明治 書院 一 九八 一年

⑬小 島憲 之ほ か校 注・ 訳﹃ 新編 日本 古典 文学 全集 2〜 3 日本 書紀

①〜

②﹄ 小学 館 一九 九四 年〜 一九 九六 年︿ 新編 全集

⑭坂 本太 郎ほ か校 注﹃ 日本 古典 文学 大系 67 日本 書紀 上

﹄岩 波書 店 一九 六七 年︿ 旧大 系﹀

― 17 ―

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

(5)

文 責

木村 能章 注

⑴ 鈴 木 健 一

﹁ 近 世 に お け る 三 玉 集 享 受 の 諸 相

﹂﹃ 東 京 大 学 教 養 学 部 人 文 科 学 科 紀 要

︵ 国 文 学 漢 文 学

︶﹄ 九 七 号 一 九 九 三 年 三 月 三玉

挑事 抄巻 下 恋 部 見恋 333あ らか りし 野分 の風 やさ そひ けん 身に しむ 秋の 花の 面影 野 分巻 云︑ 御屏 風と もゝ

︑風 のい たく 吹け れは

︑を した ゝみ よせ たる に︑ みと をし あら はな るひ さし のお まし に 居た まへ る人

︑物 にま きる へく もあ らす

︑け たか くき よら に︑ さと 打匂 ふ心 地し て︑ 春の 明け ほの ゝ霞 のま よ り︑ 面白 きか はさ くら の吹 みた れた るを みる 心ち す︒

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑六 六四 八番

︒源 氏物 語︑ 野分 巻︑ 三七 頁︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄ナ シ︒

﹃大 成﹄

︵八 六四 6︶

︻ 青表 紙本

︼﹁ 御屏 風と もゝ

│御 屏風 も﹂

︑﹁ ふ きけ れは

│ふ きぬ

︵け

︶れ は御

﹂︑

﹁ ゐ給 へる

│ ゐた 給へ る﹂

︑﹁ 高 けた かく

│け たか く三

﹂︑

﹁ かは さく ら│ かは さく らお 高﹂

︻ 河内 本︼

﹁に ほふ

│う ちに ほふ 河

﹂︑

﹁ あけ ほの ゝ│ 明ほ のに 河﹂

︑﹁ 面 白き

│ナ シ大

﹂︑

﹁ 吹み たれ たる を│ さき みた れた るに ほひ を河

﹂︻ 別 本︼

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

― 18 ―

(6)

﹁御 屏 風

│屏 風 麦

﹂︑

﹁ 吹 き け れ は

│吹 て 麦 阿

﹂︑

﹁ あ ら は な る│ あ ら は な る に 麦 阿﹂

︑﹁ ゐ 給 へ る

│ゐ た る 保 麦 阿

﹂︑

﹁ けた かく きよ らに

│い とけ たか くけ うら にて 麦阿

﹂︑

﹁ にほ ふ│ うち にほ ふ保

│ま ほふ 阿﹂

︑﹁ あ けほ のゝ

│ あけ ほの に別

﹂︑

﹁ かす みの ま│ かす みの ひま 麦﹂

︑﹁ 吹 みた れた る│ さき みた れた るに ほひ 陽麦 阿│ さき みた れ たる かほ り保

﹂︑

﹁ みる

│な かむ る麦 阿﹂

︒﹃ 承 応﹄ ナシ

︒﹃ 首 書﹄

﹁御 屏風 とも ゝ│ 御屏 風も

﹂︑

﹁ 打匂 ふ│ にほ ふ

﹂︒

﹃ 湖月 抄﹄

﹁ 御屏 風と もゝ

│御 屏風 も﹂

﹇ 訳﹈

見た 恋 荒 かっ た野 分の 風が 誘っ たの であ ろう か︒ 身に 染み た秋 の花 のよ うな 顔や 姿の あり さま を︒ 野 分巻 によ ると

︑隔 ての 御屏 風も

︑風 がひ どく 吹い てき たの で︑ 片隅 にた たみ 寄せ てあ るた めに

︑中 まで あら わ に見 通し がき く︑ その 廂の 間の 御座 所に すわ っ て い らっ し ゃ る方 は

︑他 の 誰と 見 ま ち がえ よ う はず も な く︑ 気 高く 美し く︑ さっ と映 え迫 るよ うな 感じ がし て︑ 春の 曙も 霞の 間か ら︑ みご とな 樺桜 が咲 き乱 れて いる のを 見 るよ うな 風情 であ る︒

︵ 趙智 英︶ 334ち るを のみ 思ひ なる へき 花に 先を らぬ 歎き のそ ふも わり なし 若 菜巻 上云

︑木 丁の きは すこ し入 たる 程に

︑う ちき 姿に て立 たま へる 人有

︒は しよ り西 の二 のま のひ んか しの そ はな れは

︑ま きれ 所も なく あら はに みい れら る云 々︒ まり に身 をな くる 若公 達の

︑花 のち るを おし みも あへ ぬ けし きと もを みる とて

︑人 々あ らは をふ とも え見 つけ ぬな るへ し云 々︒

― 19 ―

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

(7)

又 末の 詞に 云︑ その ゆふ へよ りみ たり 心地 かき くら し︑ あや なく けふ をな かめ くら し侍 る︒ なと 書て

︑よ そに 見 てお らぬ 歎き はし けれ とも 名残 恋し き花 のゆ ふか け

﹇ 出典

﹈柏 玉集

︑一 三一 七番

︒源 氏物 語︑ 若菜 巻上

︑二 九六 頁︑ 二九 七頁

︑三

〇一 頁︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄ナ シ︒

﹃大 成﹄

︵一 一一 四5

︑一 一一 九7

︶︻ 青 表紙 本︼

﹁二 のま

│二 ま国

﹂︑

﹁ まり に│ まり に池

﹂︑

﹁ 若公 達│ わか 君た ち

﹂︑

﹁ おし みお もあ へぬ

│ゝ

︵ヲ

︶し みて あへ ぬ横

│お しみ ても あへ ぬ池

│お しみ もも あへ ぬ肖

﹂︑

﹁ みた り心 地

│心 ち横 池﹂

︑﹁ け ふを

│け ふは 御横 陽池 国肖 三河 別│ けふ お︵ を朱

︶大

﹂︑

﹁ しけ れと も│ せし かと も池

│し け ゝ れ と 国﹂

︻河 内 本︼

﹁ けふ を

│け ふ は河

﹂︻ 別 本︼

﹁ 木丁 の き は す こ し 入 た る│ み き 丁 の す こ し 入 て の 阿﹂

﹁に しの

│に し保

│ナ シ阿

﹂︑

﹁ 二 の まの

│に け ん の阿

﹂︑

﹁ そ はな れ は まき れ 所 も なく

│は し な れは 阿

﹂︑

﹁ 身を な くる 若公 達の 花の ちる を│ 身を わか 君た ちも 花の ちる をは 阿﹂

︑﹁ 人 々│ 人

!

"

も 別﹂

︑﹁ あ らは をも ふと もえ 見 つ け ぬ

│あ ら は を は ふ と も み と か め ぬ 阿﹂

︑﹁ け ふ を

│け ふ は 別

﹂︑

﹁ な と

│と 阿﹂

︑﹁ か き て

│か き

!

"

て 保

﹂︑

﹁ しけ れと も│ しつ れと も阿

﹂︒

﹃ 承応

﹄ナ シ︒

﹃ 首書

﹄﹁ ひん かし のそ は│ ひん がし のす み﹂

︑﹁ け ふを

│け ふ は﹂

︒﹃ 湖 月抄

﹄ナ シ︒

﹇ 訳﹈ つ い散 るこ とば かり を思 って しま う桜 に対 して

︑ま っ先 に桜 の枝 を折 るこ とが でき ない とい う嘆 きが 増す のも 仕方 が ない こと よ︒ 若 菜巻 上に よる と︑ 几帳 の際 から 少し 奥に 入っ た所 に︑ 普段 着姿 で立 って いら っし ゃる 人が いる

︒階 段か ら西

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

― 20 ―

(8)

の 二つ 目の 柱と 柱の 間の 東の 端な ので

︑隠 れる よう な所 もな く︑ 公然 と見 るこ とが でき る︒ 鞠に 夢中 にな って い る若 い公 達が

︑花 が散 るこ とを 惜し みも しな い様 子を 見よ うと して いる ため

︑女 房が あら わに なっ てし まっ て いる こと をす ぐに 気づ くこ とが でき ない のだ ろう

︒ 又

︑巻 の末 によ ると

︑昨 晩か ら気 分が 乱れ て悲 し み に 暮れ

︑意 味 な く思 い 沈 みな が ら 今 日を 過 ご して い ま す︒ と 書き

︑あ なた をよ そに 見る ばか りで 嘆き が深 くな りま すが

︑夕 べぼ んや りと 見た あな たの お姿 も恋 しく て名 残 惜し いの です

︵田 中佑 果︶ 335し られ しな あや なく けふ の思 ひよ り俤 にの みな かめ わふ とも 伊 勢物 語云

︑む かし 右近 の馬 場の 日折 の日

︑む かひ にた てた りけ る車 に︑ 女の かほ のし た簾 より ほの かに 見え け れは

︑中 将な りけ る男 のよ みて やり ける

︒見 すも あら す見 もせ ぬ│

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑二 九一 一番

︒伊 勢物 語︑ 九九 段︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄ナ シ︒

﹃新 大系

﹄ナ シ︒

﹇ 訳﹈

︵こ の思 いは あの 人に

︶知 って もら えな いだ ろ う なぁ

︒わ け も なく

︑さ き ほ どち ら り と 見た 今 日 の思 い に より

︑面 影 のこ とば かり を物 思い して 過ご し悩 んで いて も︒ 伊 勢物 語に よる と︑ 昔︑ 右近 の馬 場の ひを り の 日︑

︵ 男が 見 物 して い る 場所 の

︶向 こ う 側に と め てあ る 車 の下

― 21 ―

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

(9)

簾 から 女の 顔が かす かに 見え たの で︑ 中将 だっ た男 が歌 を詠 んで 送っ た︒

︵ その 歌が

︶ 女 性の 顔を 見な かっ たと いう わけ でも なく

︑か とい って 見た とい うわ けで もな い│

︵森 あか ね︶ 見増 恋 336花 の色 を御 垣か 原の 夕よ りお らぬ なけ きの そふ もわ りな し 若 菜巻 上云

︑一 日の かせ にさ そは れて

︑み かき か原 を分 入て 侍し に︑ いと ゝい かに 見お とし 給け ん︒ 其ゆ ふへ よ りみ たり 心地 かき くら し云 々

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑二 一七 三番

︒源 氏物 語︑ 若菜 巻上

︑三

〇一 頁︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄﹁ わ りな し│ はか なし

﹃大 成﹄

︵一 一 一 九6

︶︻ 青 表 紙本

︼﹁ 一 日│ ナ シ国

﹂︑

﹁ 侍 しに

│は へ し に御 陽 池 三﹂

︑﹁ み た り 心地

│心 ち 横 池﹂

︻河 内本

︼﹁ みか きか 原│ みか きの

︵か

︶は ら鳳

﹂︻ 別 本︼

﹁一 日│ ひと つは 阿﹂

︑﹁ 分 入て

│わ けい り別

﹂︑

﹁ 侍し に

│侍 し阿

﹂︒

﹃ 承応

﹄﹁ み かき か原

│み かき のは ら﹂

︑﹁ 侍 しに

│は べし に﹂

︒﹃ 首 書﹄

﹁一 日の

│一 日﹂

︑﹁ 侍 しに

│ はべ しに

﹂︒

﹃ 湖月 抄﹄

﹁ 侍し に│ はべ しに

﹂︒

﹇ 訳﹈

見て 思い が増 す恋 花 の様 子を 見た 御垣 が原 の夕 べか ら︑ 手折 るこ との でき ない 深い 嘆き が身 にそ うの も仕 方の ない こと だ︒ 若 菜巻 上に よる と︑ 先日 風に 誘わ れて

︑御 垣 の 原 を分 け 入 りま し た が︑

︵女 三 の 宮 は︶ これ ま で にも ま し てさ

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

― 22 ―

(10)

ぞ やお 見下 げに なっ たこ とで あり まし ょう

︒そ の夕 べか ら気 分も すぐ れな くな りま した

︑と ある

︵ 栃本 綾︶ 伝聞 恋 337

忍 ふな よさ こそ はふ かき 窓の うち もい ひあ らは さん 便や はな き 長 恨歌

︑見 于春 部梅 歌註

帚 木巻 云︑ おひ さき こも れる 窓の うち なる 程は

︑た ゝか たこ とを きゝ 伝へ て

﹇ 出典

﹈柏 玉集

︑一 二六 六番

︒源 氏物 語︑ 帚木 巻︑ 三四 頁︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄﹁ 便

│た ぐひ

﹂︒

﹃大 成﹄

︵三 11七

︶︻ 青 表紙 本︼

﹁こ もれ る│ こも れる 池﹂

︑﹁ か たこ と│ かた 事︵ かと

︶松

﹂︻ 別 本︼

﹁き ゝ伝 へて

│ かき つ た へ つゝ 国

﹂︒

﹃ 承応

﹄﹁ か た こと

│か た か ど﹂

︒﹃ 首 書﹄

﹁ かた こ と

│か た かど

﹂︒

﹃ 湖 月抄

﹄﹁ か た こと

│ かた かど

﹂︒

﹇ 訳﹈

伝え 聞く 恋 あ の娘 を思 う気 持ち を耐 え忍 ぶ必 要は ない

︒い くら 深窓 の令 嬢で も︑ その 娘を 思う 私の 気持 ちを 伝え られ る方 法は あ るの だか ら︒ 長 恨歌 は︑ 春の 部の 梅の 歌の 註に 見え る︒ 帚 木巻 によ ると

︑女 性が まだ 若く て︑ 将来 性豊 かで 奥ま った 女子 の部 屋に 養わ れて いる 間は

︑そ の女 性の ほん

― 23 ―

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

(11)

の わず かな 一言 を人 づて に聞 いて

﹇ 参考

﹈ 19風

もま たお もへ や深 き窓 のう ち人 にし られ な梅 の匂 ひを

長 恨歌

︑楊 家有

女初 長成 養 在

深 窓

人 未

︵ 中村 香生 里︶ 聞恋 338お もふ こそ あた ちか 原の 道も あら し鬼 こも ると はよ そに しり ても 拾 遺集 云︑ 道の 国な とり の郡 くろ 塚と いふ 所に

︑重 之か 妹あ また 有と 聞て いひ つか はし ける 道 のく のあ たち か原 の黒 塚に 鬼こ もれ りと いふ は誠 か

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑五

〇〇 二番

︒拾 遺集

︑五 五九 番︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄ナ シ︒

﹃新 大系

﹄︵ 一 六

〇︶

﹁ あた ち か 原の

│安 達 の 原の

﹂︑

﹁ い ふは

│聞 く は

﹂︒

﹃ 八代 集 抄﹄

︵ 五〇 三 9︶

﹁あ た ち か原

│あ だち がは らの

﹂︑

﹁ いふ は│ いふ は﹂

︒﹃ 拾 遺和 歌集 の研 究 伝本

・校 本篇

﹄︵ 九 12六

︑五 二三 2︶

﹁な とり の 郡│ なと りの こほ りの

│な とり のこ ほり の﹂

︑﹁ い ひつ かは しけ る│ つか はし 侍り ける

│い ひつ かは しけ る﹂

﹁道 のく の│ みち のく の│ み ち のく に の﹂

︑﹁ あ た ち か原 の

│あ た ちの 原 の

│あ た ちの は ら の﹂

︑﹁ い ふ は│ きく は

│き くは

﹂︒

﹇ 訳﹈

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

― 24 ―

(12)

聞く 恋 あ なた をど んな に思 って も︑ 安達 ヶ原 への 道も ない だろ う︒ 安達 ヶ原 に鬼 がこ もる とは

︑他 の人 から 聞き 知っ てい て も︒

︵ あな たを 思っ ても

︑こ の思 いを あな たに 届 け る道 も な いだ ろ う︒ あ なた が そ こ にい る こ とは

︑他 の 人 から 聞 き知 って いて も︒

︶ 拾 遺集 によ ると

︑陸 奥国 名取 郡の 黒塚 とい う所 に︑ 源重 之の 姉妹 が大 勢い ると 聞い て詠 み贈 った 歌︒ 陸 奥国 安達 ヶ原 の黒 塚に 鬼が こも って いる と言 われ るよ うに

︑あ なた

︵重 之︶ の姉 妹た ちが 名取 郡の 黒塚 にこ も って いる とい うの は本 当か

※久 保田 淳ほ か校 注﹃ 新日 本古 典文 学大 系8 後 拾遺 和歌 集﹄ 岩波 書店 一 九九 四年 山 岸徳 平編

﹃八 代集 抄 上巻

﹄有 精堂 出版 一 九六

〇年

︵徳 田詠 美︶ 聞声 忍恋 339な く蛙 水の した なる もろ 声も 深き 思ひ のた くひ にそ きく い せ物 語︒ 女の

︑て あら ふ所 に︑ ぬき すを うち やり て︑ たら ゐの かけ に見 えけ るを

︑み つか ら︑ 我ば かり 物お も ふ人 はま たも あら しと おも へは 水の した にも 有け りと よむ を︑ こさ りけ る男

︑た ち聞 て︑ みな くち に我 やみ ゆ らん 蛙さ へ水 のし たに ても ろ声 にな く

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑三 九一 六番

︒伊 勢物 語︑ 二七 段︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄ナ シ︒

― 25 ―

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

(13)

﹃新 大系

﹄ナ シ︒

﹇ 訳﹈

声を 聞い て耐 え忍 ぶ恋 鳴 く 蛙 が 水の 下 で 声を 合 わ せて 鳴 い て いる 声 も︑ 私 の心 の 中 で泣 い て い る深 い 思 いと 同 じ よう だ と 聞 こえ る こ と よ 伊 ︒ 勢物 語︒ 女は

︑手 を洗 う所 で︑ 盥の 上に かけ る貫 簀が 取り 除け てあ って

︑自 分の 顔が 盥の 水に 映っ て見 えた の で︑ ひと りで

︑﹁ 私 ほど 悲し い思 いの 人は

︑ほ か に ある ま い と思 っ て いま す と︑ こ の 水の 下 に もい た の でし た よ﹂ と詠 んで 口ず さむ のを

︑来 なか った 男 が 物 陰で 立 ち 聞い て 詠 む︑

﹁水 の 下 の 泣く 人 と は︑ 水口 に 私 の姿 が あら われ たの でし ょう

︒田 の水 口の 蛙ま でも が︑ 水底 で声 を合 せて 鳴い てい るで はあ りま せん か︒ 私も あな た と声 を合 せて 泣い てい るの です よ﹂

︵ 趙智 英︶ 待恋 340ふ けぬ とも 只あ たら よの とは かり は猶 いひ やり て心 をや みむ あ か し の 巻︒ 十三 日 の 月花 や か にさ し 出 た るに

︑只 あ た らよ の と 聞 へ た り

︒君 は

︑す き の さ ま や

︑と お ほ せ と

︑御 なを し奉 りひ きつ くろ ひて

︑夜 ふか して 出た まふ 云々

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑五 二九 一番

︒源 氏物 語︑ 明石 巻︑ 七五 頁︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄ナ シ︒

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

― 26 ―

(14)

﹃大 成﹄

︵ 四六 三 10︶︻ 青表 紙 本︼

﹁ 十三 日 の 月│ 十三 日 の 月 の 底│ 十 二 三 日 の 月 の 横 陽

│十 二 三 日 の 月 の 月 の 池

﹂︻ 河 内本

︼﹁ 十三 日の 月│ 十二 三日 の月 御大

│十 二三 の月 の七 宮平 尾﹂

︑﹁ 只

│ナ シ御

﹂︑

﹁ 君は

│君 河﹂

︒﹃ 承 応

﹄﹁ 十 三日 の月

│十 三 日 の 月の

﹂︒

﹃ 首 書﹄

﹁十 三 日 の月

│十 三 日 の月 の

﹂︒

﹃ 湖 月抄

﹄﹁ 十 三 日の 月

│十 三 日の 月 の﹂

﹇ 訳﹈

待つ 恋 た とえ 夜が 更け てし まっ ても

︑た だ︑ 惜し むべ き素 晴ら しい 夜の しば しの 間は

︑さ らに 手紙 を送 って

︑あ なた の恋 心 を見 まし ょう か︒ 明 石の 巻︒

︵ 八月

︶十 三日 の 月 が花 や か に出 た こ ろ︑

︵入 道 は︶ た だ︑

﹁あ た ら 夜 の﹂ と申 し 上 げた

︒︵ 源 氏 の︶ 君 は︑

︵ 入道 が︶ 物好 きな 様子 だ︑ とお 思 い にな る も︑ 御 直衣 を お 召し に な り︑ 身 なり を と との え て︑ 夜 がふ け てか ら︵ 明石 の君 のと ころ へ︶ お出 かけ にな る︒

︵ 佐藤 未央 子︶ 逢恋 341世 をし らぬ 物と もみ えす 新枕 われ にと のみ はさ ため かた しや 夕 顔巻 云︑ 人の けは ひ︑ いと 浅ま しく やは らか にお ほと きて

︑物 ふか くお もき かた はを くれ て︑ ひた ふる にわ か ひた る物 から 世を また しら ぬに もあ らす

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑四 六〇 七番

︒源 氏物 語︑ 夕顔 巻︑ 一一 三頁

― 27 ―

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

(15)

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄わ れに との みは

│わ れに のみ とは

﹃大 成﹄

︵一 一四 2︶ ナシ

︒﹃ 承 応﹄ ナシ

︒﹃ 首書

﹄ナ シ︒

﹃ 湖月 抄﹄ ナシ

﹇ 訳﹈

会う 恋 世 間を まだ 知ら ない よう にも 見え ない あな たと の初 めて の逢 瀬は

︑私 だけ と定 める こと は難 しい なあ

︒ 夕顔 巻に よる と︑

︵ 光源 氏か ら見 て夕 顔の

︶し ぐ さ 様子 が

︑じ つ に驚 く ほ ども の 柔 ら かで お っ とり し て いる の に︑ 思慮 深さ や重 々し さに は乏 しく て︑ ただ ひた すら に若 々し く見 えな がら

︑ま だ男 を知 らな いと いう ほど で もな い︒

︵早 川広 子︶ 初逢 恋 342

ま てし はし 鳥た にな かて 明る よの 蓬の まろ ね露 もわ りな し

﹇ 出典

﹈柏 玉集

︑一 四二 二番

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄ナ シ︒

﹇ 訳﹈

初め て会 う恋 少 し待 って 下さ い︒ 鳥さ えも 鳴か ない で早 く明 けた 夜の

︑粗 末な 家で の仮 寝で す︒ この 恋は 全く 理屈 通り には なら な いこ とで す︒

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

― 28 ―

(16)

︵木 村能 章︶ 俄逢 恋 343雨 そゝ きか ゝる 蓬の まろ ねに もな らは ぬ夢 をい かに しの はん

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑一 八九 一番

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄ナ シ︒

﹇ 訳﹈

急に 会う 恋 雨 だれ が降 りそ そい でか かっ てく る︑ この よう な蓬 生の 仮寝 にも 馴染 んで いな い夢 のよ うな 恋に

︑一 体ど のよ うに 思 いを 馳せ よう か︒

︵木 村能 章︶ 旅宿 逢恋 344く ちさ らん 契を そ思 ふ露 霜の かゝ るよ もき のま ろね なり とも 東 屋巻 云︑ わす れぬ さま にの たま ふら んも 哀な れと

︑俄 にか くお ほし たは かる らん とは おも ひも よら す︑ 宵う ち 過 る 程 に︑ 宇治 よ り 人ま ゐ れ りと て

︑門 忍 ひ やか に 打 たゝ く

︒さ に やあ ら ん と お も へ は

︑弁 あ け さ せ た れ は

︑車 をそ ひき いる なる 云 々︒

さ の ゝ わた り に 家 もあ ら な くに な と 口す さ ひ て︑ さ とひ た る すの こ の はし つ かた にゐ たま へり

︒さ しと むる 葎や しけ き東 屋の あま り程 ふる 雨そ ゝき かな

︒又 末の 詞云 程も なう 明ぬ る心 地 する に鳥 なと はな かて 云々

︒か ゝる 蓬の まろ ねに なら ひた まは ぬ心 地に おか しう もあ りけ り︒

― 29 ―

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

(17)

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑七 九六 九番

︒源 氏物 語︑ 一七 五︑ 一七 七︑ 一七 八頁

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄﹁ か ゝる よも き│ かく るよ もき

﹂︒

﹃大 成﹄

︵一 八四 四5

︑一 八四 五9

︑一 八四 六6

︑9

︶︻ 青 表紙 本︼

﹁の たま ふら んも

│の たま ふら ん榊 三﹂

︑﹁ お ほ した はか るら んと は│ おほ した はか るら んと 底﹂

︑﹁ 弁

│弁 の底

﹂︑

﹁ ひき いる なる

│ひ きい るな り︵ る︶ 榊﹂

﹁口 すさ ひて

│く ち す さ みて 榊

﹂︑

﹁ 心地 に

│心 ち も底

﹂︑

﹁ お かし う も

│お か しく も 底﹂

︻ 河内 本

︼﹁ 弁│ 弁 のあ ま 河﹂

︑﹁ よ もき

│よ りき 鳳﹂

︻ 別本

︼﹁ 哀な れと

│あ はれ にお ほゆ れと 御保

│あ はれ にお ほゆ れは 池﹂

︑﹁ 俄 に│ さ すか に池

﹂︑

﹁ おほ した はか るら んと は│ おほ した はか るら んほ とは 陽│ おほ した はか らむ とは 図│ おほ した は かる らむ とも 池﹂

︑﹁ ま いれ り│ まい りた り図

﹂︑

﹁ とて

│ナ シ御

﹂︑

﹁ 打ち たヽ く│ たゝ く陽

﹂︑

﹁ さに やあ らん

│ さる にや 御│ さに や保

﹂︑

﹁ おも へお もひ て御 保│ 思に 陽│ 思給 へは 図﹂

︑﹁ 弁

│弁 のあ ま御 保│ ナシ 池﹂

︑﹁ あ け させ たれ は⁝ ひき いる なる

│ナ シ池

﹂︑

﹁ なる

│な るへ し御

﹂︑

﹁ あら なく に│ あら なん 御陽 図池

﹂︑

﹁ すの この は し つ か た│ す の こ 池﹂

︑﹁ ほ と も な う

│ほ と な く 陽 保│ ほ と に な く 国﹂

︑﹁ な か て

│な く て 陽

│な り て 保﹂

﹁か ゝる

│か く陽 国│ まこ と に 池﹂

︑﹁ 蓬 の まろ ね に│ き のま ろ と に御 保

│よ も き のま ろ ね 宮国

│ナ シ 池﹂

︑﹁ た ま はぬ 心地 に│ 給は ぬは 御保

│給 はぬ に宮 国﹂

︒﹃ 承 応﹄ ナシ

︒﹃ 首 書﹄

﹁心 地に

│こ ゝち も﹂

︒﹃ 湖 月抄

﹄ナ シ︒

﹇ 訳﹈

旅の 宿で 会う 恋 朽 ちる こと のな い契 りを 思っ てい ます

︒こ のよ うな 露や 霜が おく 旅先 での 仮寝 であ って も︒ 東 屋巻 によ ると

︑こ うし て︵ 弁の 尼や 浮舟 のこ とを

︶お 忘れ にな らず おっ しゃ って くだ さる とい うの もし みじ

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

― 30 ―

(18)

み あり がた く感 ぜら れる けれ ど︑ この よう にに わか にお 手配 をな さろ うと は思 いも よら ぬこ とで ある

︒宵 を過 ぎ る時 分に

︑﹁ 宇 治か ら人 がま いり まし た﹂ と 言 って

︑そ っ と 門を 叩 く 者が い る︒ 大 将 の使 者 で はな か ろ うか と 思う が︑ 弁が 門を 開け させ ると

︑車 を 引 き 入れ る 気 配で あ る︑ な どと い う︒ 薫 の 大将 は

︑﹁ 佐 野の わ た りに 家 もあ らな くに

﹂な どと 口ず さん で︑ 鄙び た簀 子 の 端 のほ う に 座っ て お られ る

︒﹁ 葎 が 生い 茂 っ て戸 口 を ふさ い でし まっ たの だろ うか

︑東 屋の 雨だ れに 濡れ て︑ あま りに 長い 間待 たせ られ るこ とよ

︒﹂ と

︒又

︑下 の句 は︑ ほ ども なく 夜が 明け てし まっ たと いう 心地 がす るけ れど

︑鶏 の声 など は聞 えず

︑な どと いう

︒こ のよ うな 蓬生 の 仮寝 には ご経 験の ない 心地 から 興を お感 じに なる のだ った

︵木 村能 章︶ 並枕 語恋 345た のむ そよ 枕な らへ て世 と共 にか はさ ん枝 にか くる こと の葉

長 恨歌

︒在

天願 作

翼鳥

地願 為

理 枝

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑七 九七

〇番

︒長 恨歌

︑白 氏文 集巻 一二 感傷 四︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新釈 漢 文大 系 白 氏 文 集 二下

﹄ナ シ

︒﹃ 長 恨歌

・琵 琶 行 の研 究

﹄作 一 作 爲︵ 全唐 詩

︶︑ 爲 一作 作

︵﹃ 文 苑英 華

﹄︶

︑ 爲︵

﹃ 太平 広記

﹄︶

﹇ 訳﹈

枕を 並べ て語 る恋 た のみ ます よ︑ 二人 で枕 を並 べて

︑永 遠に 誓い の言 葉を 交わ して いこ う

― 31 ―

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

(19)

長 恨歌

︒天 上に あっ ては どう か比 翼の 鳥と なり たい

︑地 上に あっ ては どう か連 理の 枝と なり たい

︵ ︒ 田 中佑 果︶ 途中 契恋 346小 車の わり なき 道や 飛鳥 井の やと りた つね し夕 闇の 空 狭 衣物 語云

︑あ すか ゐに 宿り とら せん とも

︑か たら ひに くゝ おほ さる れと

︑猶 いか なる 人の かゝ るめ はみ るそ と ゆか しけ れは

︑ひ きか へし

︑あ の車 にの りう つり て見 たま へは

︑い とた と

!

"

し き程 なれ と︑ きぬ 引か つき て なき ふし たる 人あ りけ り︒ 下略

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑三 九二 七番

︒狭 衣物 語︑ 巻一

︑七 八頁

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄﹁ 夕 闇﹂

│﹁ 夕暮

﹂︒

﹁宿 り と ら せ ん と も

│宿 り せ ん︵ 新 編 全 集︶

│宿 り と ら せ ん も

︵大 系

︶﹂

︑﹁ お ほ さ る れ と

│思 せ ど︵ 大 系

︶﹂

﹁人 のか ゝる めは みる そと

│人 の身 にか と︵ 新編 全集

︶│ 人に かと

︵大 系︶

﹂︑

﹁ ひき かへ し│ 御車 引き 返し

︵新 編 全集

︶│ 御車 引き 返し て︵ 大系

︶﹂

︑﹁ あの 車に

│か れに

︵新 編全 集︶

│か の車 に︵ 大系

︶﹂

︑﹁ の りう つり て│ 乗 りて

︵大 系︶

﹂︑

﹁き ぬ引 かつ きて

│ひ き被 きて

︵新 編全 集︶

︵大 系︶

﹂︑

﹁な きふ した る│ 伏し たる

︵大 系︶

﹇ 訳﹈

道中 で契 る恋 車 の中 で出 会う とは

︑ど うし よう もな い恋 の道 だな あ︒ 飛鳥 井に 宿を と尋 ねた 夕暮 れの ぼん やり した 空の 下で の出 会 いで あっ た︒

︵ 車が そこ にな けれ ば︑ 飛鳥 井に 宿を と尋 ねる こと もな く︑ あな たに 出会 うこ とも なか った

︒︶

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

― 32 ―

(20)

狭 衣物 語に よる と︑ 狭衣 が女 君に 飛鳥 井の 自邸 に 宿 を 泊ま ら せ よう と 思 うが

︑︵ 女 君 の 身に 起 き たこ と を 考え る と︶ 話し にく くお 思い にな るが

︑や はり どの よう な身 柄の 人が この よう な目 にあ うの かと 興味 がお あり にな っ て︑ 引き 返し て︑ あの 車に 乗り 移っ て御 覧に なる と︑ 本当 に薄 暗い 夕暮 れ時 でよ く見 えな かっ たが

︑布 をか ぶ って 泣き 伏し てい る人 がい たの であ った

︒下 略︒

︵田 中佑 果︶ 後朝 恋 347い かに ねて なら ふ心 そけ さの 程け ふの ひる まを たへ し物 とは 夕 顔巻 云︑ あや しき まて

︑け さの 程ひ るま の隔 もお ほつ かな く

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑七 四三 七番

︒源 氏物 語︑ 夕顔 巻︑ 一一 三頁

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄ナ シ︒

﹃大 成﹄

︵一 一三 13︶︻ 青表 紙本

︼﹁ ひる ま│ ひる ませ 肖﹂

︻ 河内 本︼

﹁あ やし き│ いと あや しき 河﹂

︑﹁ ひ るま

│ひ る 大﹂

︑﹁ 隔 も│ へた てを も河

﹂︻ 別 本︼

﹁隔 も│ へた てを も﹂

︒﹃ 承 応﹄ ナシ

︒﹃ 首 書﹄ ナシ

︒﹃ 湖月 抄﹄ ナシ

﹇ 訳﹈

後朝 の恋 ど のよ うに 寝て なじ んだ 心な のか

︒今 日の 朝の 間︑ 昼の 間も 耐え られ ない もの とは

︒ 夕 顔巻 によ ると

︵光 源氏 は︶ 不思 議な ほど に︑ 今朝 の間

︑昼 間の 間も

︵夕 顔の こと が︶ 気に 掛か り︑

︵森 あか ね︶

― 33 ―

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

(21)

348立 かへ りた のむ 夕も ひを 虫の たく ひか なし きけ さの 空哉 蜉 蝣詩 註見 于秋 部

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑二 九一 三番

︒毛 伝︑ 曹風

︑蜉 蝣︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄ナ シ︒

﹇ 訳﹈ 繰 り返 しあ てに する 夕べ も︑ ひお むし のよ うに 哀し い今 日の 空だ な︒ 蜉 蝣詩 の注 は︑ 秋の 部に 見え る︒

﹇ 参考

﹈ 虫怨 174露 霜に 恨る 虫よ くる ゝま をま たぬ たく ひも あれ は有 世に

毛 詩︑ 曹風 蜉蝣 詩註 云︑ 蜉蝣 渠略 也︒ 朝生 暮死 云云

︵森 あか ね︶ 後朝 隠恋 349お もほ えす 入さ の山 をた とる 哉お き出 しあ との しの ゝめ の月 花 宴の 巻の はし め終 を見 るへ し︒

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑三 六三 一番

︒源 氏物 語︑ 花宴

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄ナ シ︒

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

― 34 ―

(22)

﹇ 訳﹈

後朝 を隠 す恋 思 いが けず

︑月 が入 る入 佐の 山を さま よっ たな あ︑ 私が 起き 出し た後 の明 け方 の月 のも とで

︒ 花 宴の 巻の はじ め︑ 終わ りを みる こと

︵森 あか ね︶ 後朝 切恋 350き えぬ まは 夢う つゝ とも 今宵 たに さた めん 程を また しと やす る︒ い せ物 語云

︑つ とめ て︑ いふ かし けれ と︑ わか 人を やる へき にし あら ねは

︑い と心 もと なく て待 をれ は︑ あけ は なれ てし はし 有に

︑女 のも とよ り︑ 言葉 はな くて

︑君 やこ し我 や行 けん おも ほえ す夢 かう つゝ かね てか さめ て か︑ おと こ︑ いた うな きて よめ る︒ かき くら す心 の闇 にま とひ にき 夢う つゝ とは 今宵 さた めよ

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑一 九一 二番

︒伊 勢物 語︑ 六九 段︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄﹁ き えぬ まは

│き えぬ 身は

﹂︒

﹃新 大系

﹄﹁ いた う│ いと いた う﹂

﹇ 訳﹈

後朝 の切 なき 恋 自 分の 身が 消え ない 間は

︑夢 か現 実の 出会 いな のか

︑せ めて 今夜 だけ でも 決め たい と思 うの に︑ あな たは 待っ てく れ ない ので しょ うか

― 35 ―

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

(23)

伊 勢物 語に よる と︑ 翌朝

︑気 がか りで あっ たが

︑こ ちら から の使 いを やる もの でも なか った ので

︑た いそ う待 ち 遠し く思 って いる と︑ 夜が 明け はな れて しば らく たつ と︑ 女の もと から

︑手 紙の こと ばは なく て︑ あな たが お いで にな った のか

︑私 が伺 った のか

︑は っき りと いた しま せん

︒い った いこ れは 夢で しょ うか

︑目 覚め ての こ とで しょ うか

︒男 は︑ ひど く泣 いて 詠ん だ︒ 悲し み に く れて 真 っ 暗に な っ た私 の 心 は 思い 乱 れ てし ま っ た︒ 夢 か現 実か は︑ 今夜 お決 めく ださ い︒

︵ 栃本 綾︶ 憑媒 恋 351言 の葉 をあ たに なす なよ みか は水 終の よる せの ため しや はな き

書 言 故 事 曰︑ 紅

葉 良

媒︑ 唐 于

祐 歩

︑見

溝 流一 紅

︒ 二 句云

︑慇

懃謝 紅 葉

︑好 去 到 人 間

︒祐

一 葉

︑曽

聞葉

上題 紅 怨︑ 葉 上題 詩 寄 阿誰

︒放

︑ 宮

女 韓

人 拾

之︒ 祐 後託 韓 泳 門館

︒帝 禁

出 宮女

︒泳 以

人 同姓

作伐

︑嫁

︒韓 於

祐 笥

紅 葉

︑驚 曰︑ 吾所

作吾 亦得

︒想

君所

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑一 八六 二番

︒書 言故 事︑ 子集

︑媒 酌類

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄ナ シ︒

﹃京 本音 釋註 解書 言故 事大 全﹄ ナシ

﹇ 訳﹈

仲立 ちを 頼む 恋

︵私 の恋 心を 書い た︶ 言の 葉を 無駄 にす るな

︑御 溝水 よ︒ 最後 に流 れ着 く浅 瀬の 故事 はな いだ ろう か︑ いや

︑あ る︒

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

― 36 ―

(24)

書 言故 事に よる と︑ 紅葉 良媒 とは 以下 の故 事で ある

︒唐 の于 祐は 禁衢 を歩 いて いる と︑ 御溝

︵宮 中の 庭を 流れ る 溝︶ の流 れか ら一 枚の 紅葉 を見 た︒ その 紅 葉 に 書か れ て いた 二 句 は︑ こう で あ っ た︒

﹁丁 寧 に 紅葉 に 別 れを 告 げる

︑こ こを 去り 人の 世へ 到れ

︒﹂ 于 祐は 一枚 の葉 に詩 を書 いた

︒﹁ 以前

︑紅 葉の 葉に 怨み を書 いた とい うの を 聞い た︑ 葉に 詩を 書き 誰に 寄せ たの だろ う か︒

﹂ そ の葉 を 上 流に 放 し たと こ ろ︑ 宮 女 の韓 夫 人 がこ れ を 拾っ た

︒于 祐は 後に

︑韓 泳の 館に 身を 委ね てい た︒ 帝は 宮女 を禁 じて いた が︑ 解放 した

︒韓 泳は 夫人 と同 姓で ある た め仲 介と なり

︑韓 夫人 を于 祐に 嫁が せ た︒ 韓 夫 人は 于 祐 の箱 に 紅 葉が あ る の を見 て

︑驚 い て言 っ た︒

﹁ 私が 詩 を書 いた 葉が あな たの もと に届 き︑ あな たが 詩を 書い た葉 もま た︑ 私が 得た

︒私 が思 うに

︑こ れは あな たが 詩 に書 いた 通り だろ う︒

※故 継宗 集・ 陳玩 直解

﹃京 本音 釋註 解書 言故 事大 全﹄ 伊吹 権兵 衛 一六 四六 年︵ 正保 三年 刊本

︵徳 田詠 美︶ 352は かり なき 底の みる めの しる へま て我 まと はす なあ まの 釣舟 い せ物 語云

︑む かし

︑男

︑狩 の使 より かへ りき ける に︑ 大淀 のわ たり に宿 りて いつ きの 宮の わら はへ にい ひか け ゝる

︒み るめ かる かた やい つく そ棹 さし て我 にを しへ よあ まの 釣舟

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑三 六二 六番

︒伊 勢物 語︑ 七〇 段︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄ナ シ︒

﹃新 大系

﹄﹁ いつ くそ

﹂│

﹁い づこ ぞ﹂

﹇ 訳﹈

― 37 ―

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

(25)

は かり 知れ ない ほど 深い 海の 底に 生え てい る海 松布 では ない が︑ あの 人を 見る ため の手 引き まで も私 を動 揺さ せる な

︑海 人の 釣船 よ︒ 伊 勢物 語に よる と︑ 昔︑ 男が

︑狩 の使 いか ら帰 って きた 時に

︑大 淀の 渡し 場に 泊っ て︑ 斎宮 の御 殿に 奉仕 する 童 女に 歌を 詠み かけ た︒ 人を 見る 目と いう 名の 海松 布︑ それ を刈 る潟 はど こで しょ うか

︒海 人の 釣船 よ︑ 船に 棹 をさ して 私を 連れ て行 って

︑そ の場 所を 私に 教え てく ださ い︒

︵ 趙智 英︶ 憑誓 恋 353わ すれ すは 何か かは らん 川の 石の のほ りて ほし と成 世有 とも

日 本紀 神功 皇后 紀︒ 曰則 重誓 之曰

︑非 東日 更出 西︑ 且除 阿利 那礼 河返 以之 逆流

︑及

河石 昇 為

星 辰

云云

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑三 三三 一番 歌︒ 日本 書紀

︑巻 第九

︑四 二八 頁︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄﹁ 憑 誓恋

│憑 誓言 恋﹂

﹃新 編全 集﹄ ナシ

︒﹃ 旧大 系﹄ ナシ

﹇ 訳﹈

誓い を頼 む恋 忘 れな けれ ば︑ 何が 変わ るで しょ うか

︒川 の石 が天 に昇 って

︑星 に変 わる よう な世 界で あっ ても

︒ 日 本書 紀︑ 神功 皇后 紀︒

︵ 新羅 王が

︶重 ねて 誓っ て言 うに は︑

﹁東 から 出る 太陽 が西 から 出る こと はな く︑ また 阿 利那 礼川 が逆 流し

︑川 の石 が天 に昇 って 星に なる よう なこ とが ない 限り

﹂云 々︒

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

― 38 ―

(26)

︵ 佐藤 未央 子︶ 憑誓 言恋 354枝 をか はし はね をな らふ る誓 あら は只 花鳥 の世 をも たの まむ

長 恨歌

︒詞

中有

誓 両

心 知 七

月 七

日長 生殿 夜

半 無

人私

語 時在 天願

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑七

〇四 五番

︒長 恨歌

︑白 氏文 集巻 一二 感傷 四︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄ナ シ︒

﹃ 白氏 文集

﹄ナ シ︒

﹃長 恨歌

・琵 琶行 の研 究﹄ ナシ

﹇ 訳﹈

誓い の言 葉を 頼む 恋 連 理の 枝を かわ し︑ 比翼 の鳥 とし て羽 を並 べる 誓い があ るな ら︑ ただ 花と 鳥の 世に なっ ても 信じ てい るよ

︒ 長 恨歌

︒︵ 楊 貴妃 が皇 帝に 宛て た伝 言の

︶詞 の 中 に︑ 楊貴 妃 と 皇帝 の 二 人だ け が 知 る誓 い の 言葉 が あ った

︒そ れ は︑ 七月 七日 の長 生殿 で夜 半︑ 誰も いな い 中 で︑ ひ そや か に 二人 き り で語 ら っ て いた 時 の こと

︑﹁ 天 に 在り て は願 う⁝

﹂と

︵早 川広 子︶ 契久 恋 355よ そに のみ いつ まて 思ひ つゝ 井筒 むす ひし まゝ の影 をた にみ ん 伊 勢物 語云

︑む かし

︑ゐ なか わた らひ しけ る人 のこ とも

︑井 のも とに 出て あそ ひけ るを

︑お とな にな りに けれ

― 39 ―

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

(27)

︑男 も女 もは ちか はし てあ りけ れと

︑男 はこ の女 をこ そえ めと おも ふ︒ 女は この おと こを と思 ひつ ゝお やの あ はす れと もき かて なん あり ける

︒さ て︑ 此隣 の男 のも とよ り︑ かく なん

︑つ ゝゐ つの

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑一 八六

〇番

︒伊 勢物 語︑ 二三 段︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄﹁ 井 筒│ 井つ の︒

﹃新 編全 集﹄ ナシ

﹇ 訳﹈

約束 が長 い恋 他 人の よう にば かり いつ まで 思い つつ

︑筒 井筒 で約 束し た幼 い当 時の まま の面 影だ けを 見て いる のだ ろう か︒ 伊 勢物 語に よる と︑ 昔︑ 田舎 暮ら しの 境遇 にあ った 人の 子ど も達 が︑ 井の とこ ろに 出て 遊ん でい たの だが

︑大 人 にな って しま った ので

︑男 も女 も互 いに 恥ず かし く思 うよ うに なっ たけ れど

︑男 はこ の女 を妻 にし たい と思 う し︑ 女は この 男を 夫に と思 って いて

︑親 が他 の男 にめ あわ せよ うと して も︑ 承知 しな いで いた

︒そ うこ うす る うち に︑ この 隣の 男の とこ ろか ら︑ こう 歌を 詠ん でき た︒ 筒井 の│

︵木 村能 章︶ 祈恋 356と し月 の我 をこ とは る限 あれ な千 ゝの おも ひも 一言 の神

日 本紀

︑十 四︑ 雄略 天 皇︒ 四 年 二月

︑天 皇 射

猟 於 葛 城山

︒忽 見

長 人

︒ 来 望 丹谷

︒面

貌容 儀 相

似 天 皇

︒長 人次 称 曰

︑僕

是 一

事 主神 也︒

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

― 40 ―

(28)

﹇ 出典

﹈碧 玉集

︑八 三三 番︒ 日本 書紀

︑巻 十四

︑一 五九 頁︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄ナ シ︒

﹃新 編全 集﹄

﹁四 年二 月│ 四年 春二 月﹂

︑﹃ 旧 大系

﹄﹁ 四 年二 月│ 四年 春二 月﹂

﹇ 訳﹈

祈る 恋 長 年恋 の成 就を 祈っ てい る自 分の 思い が叶 うの かを 決め る期 限が あれ ばな あ︒ たく さん の思 いも

︑一 言主 の神 のよ う に︑ 一言 で解 決し てく れる 神様 がい てほ しい もの だ︒ 日 本書 紀巻 第十 四︑ 雄略 天皇

︒四 年の 二月 に天 皇は 葛城 山に 狩猟 に出 かけ られ た︒ 突然 背の 高い 人が 現れ

︑や っ て 来 て︑ 赤 色の 谷 の 間に し て 向き 合 っ た︒ 顔 や姿 が 天 皇に よ く 似て い た

︒背 の 高い 人 は 次 の よ う に 名 乗 っ て

︑私 は一 事主 の神 であ ると 仰っ た︒

︵田 中佑 果︶ 聞音 恋 357

わ りな しや 月な き空 のこ たへ のみ こす のひ まも る俤 に見 て 花 宴巻 云︑ 只時

! "

打嘆 くけ はひ する かた によ りか ゝり て︑ 木丁 こし に手 をと らへ て︑ 梓弓 入さ の山 にま とふ か なほ のみ し月 の影 やみ ゆる とな にゆ へか とを しあ てに のた まふ を︑ え忍 はぬ なる へし

︑こ ゝろ いる かた なら ま せは 弓は りの 月な き空 にま よは まし やは とい ふ声

︑只 それ なり

﹇ 出典

﹈柏 玉集

︑一 三〇 八番

︒源 氏物 語︑ 花宴 巻︑ 二八 三頁

― 41 ―

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

(29)

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄ナ シ︒

﹃大 成﹄

︵二 七八 8︶

︻ 青表 紙本

︼﹁ なに ゆへ かと

│な にゆ へと か陽 肖﹂

︑﹁ ま よは まし やは

│ま よは ま︵ 朱︶ しや は 大

﹂︻ 河 内 本︼

﹁け は ひ する

│け は ひ な る 河﹂

︑﹁ と ら へ て

│と ら へ 給 ひ て 河﹂

︑﹁ ま と ふ か な

│ま よ ふ 哉 尾 平 大

﹂︑

﹁ のた まふ を│ の給 に河

﹂︑

﹁ まよ はま しや は│ まと はま しや は宮

﹂︻ 別 本︼

﹁ま よは まし やは

│ま とは まし や は﹂

︒﹃ 承 応﹄ ナシ

︒﹃ 首 書﹄ ナシ

︒﹃ 湖月 抄﹄ ナシ

﹇ 訳﹈

音を 聞く 恋 仕 方が ない こと だな あ︒ 月が ない 空︵ 探し てい る恋 人は いな い部 屋︶ だと いう

︑そ っけ ない 空虚 な返 事だ けを 寄こ

し てく れる だけ で︑ 小簾 の隙 間か らち ょっ と見 える 姿を 面影 に見 て︒ 花 宴巻 によ ると

︑た だ時 折深 くた め息 をつ く気 配の する 方に

︑源 氏が 寄り かか りて

︑几 帳越 しの その 手を とら え て︑ いつ ぞや ちら りと 見た 有明 の月 の姿 が︑ 再び 見る こと がで きな いも のか と︑ 入る さの 山を うろ うろ と迷 っ てお りま す︒ なぜ この よう にと

︑当 て推 量に おっ しゃ るの を︑ 相手 も耐 える こと がで きぬ のか

︑お 心に かけ て くだ さる のな ら︑ 弓張 の月 のな い空 でも

︑お 迷い にな るこ とは あり ます まい に︒ と言 う声 は︑ 間違 いな くあ の 夜の 女君 その もの であ る︒

︵田 中佑 果︶ 隠恋 358あ らす なる 心の 色の 秋か けて 木の 葉ふ るえ をた れに かこ たん

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

― 42 ―

(30)

い せ物 語云

︑さ れは 此女

︑楓 の初 もみ ちを ひろ はせ て︑ 歌を よみ て︑ かき 付て おこ せた り︒ 秋か けて いひ しな か らも あら なく に木 の葉 ふり しく えに こそ 有け れと 書を きて

︑か しこ より 人お こせ は︑ 是を やれ とて いぬ

︒さ て

︑や かて

︑の ち終 にけ ふま てし らす 云々

﹇ 出典

﹈雪 玉集

︑六 一八 九番

︒伊 勢物 語︑ 九六 段︒

﹇ 異同

﹈﹃ 新編 国歌 大観

﹄﹁ あ らす なる

│あ かず なる

﹂︒

﹃新 大系

﹄ナ シ︒

﹇ 訳﹈

隠す 恋 嵐 で荒 れる とい う秋 にな れば 会お うと 約束 して いた のに

︑人 の心 を傷 つけ ると いう あな たは 私を 傷つ け︑ 私に 飽き て しま った

︒木 の葉 が降 って 浅く なっ た入 り江 のよ うな 浅い 縁だ と誰 に恨 みを 言お うか

︒ 伊 勢物 語に よる と︑ そこ でこ の女 は︑ 楓の 初 紅 葉 をひ ろ わ せて

︑歌 を 詠 み︑ それ に 書 き 付け て 男 によ こ し た︒ 秋 にな った らと 心を 言い 交わ した の に︑ そ れ が叶 わ ず︑

︵ 飽き た わ けで も な い のに

︑秋 が き て︶ 木の 葉 が 降り 敷 いて 浅い 江に なる

︑浅 い縁 であ った なぁ

︑と 書い て︑ 向こ うか ら人 を使 いに よこ した なら

︑こ れを 渡し なさ い とい って 去っ た︒ そし て︑ その まま

︑後 はと うと う今 日ま で女 の消 息は 不明 であ ると

︵森 あか ね︶ 359は かな しや 嵐吹 そふ 床夏 にを き所 なき 露の ゆく ゑは 帚 木巻 云︑ 打は らふ 袖も つゆ けき 床夏 にあ らし 吹そ ふ秋 も来 にけ りと はか なけ にい ひな して

︑ま め

!

"

し く恨

― 43 ―

﹃ 三 玉 挑 事 抄

﹄ 注 釈 恋 部

︵ 上

参照

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