日本語使役構文試論
著者 林 登美子
雑誌名 Core
号 3
ページ 32‑55
発行年 1974‑07‑10
権利 同志社大学英文学会Core編集部
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000016366
32
日 本 語 使 役 構 文 試 論
林 登 美 子
序 回
変形文法をつかって日本語の使役構文を記述しようとする試みは,いま までにもいくつか為されてきた.そこでいわれてきた「日本語の使役構文 は, ~補文構造~ (complement construction)をもっ。」という説には,意 味論的な根拠がある.ちなみに次の文の「あいまいさJ(ambiguity)は, 補文構造を想定すれば容易に説明できる.
r
a必死に1
(1) 太郎は~ bいつも} 息子を勉強させた.
I
cわざとl
aおよびbの副詞は, それぞれ息子の「勉強する」 という行為につくと も,或いは,太郎の 1"‑'させる」という行為につくとも考えられる.一方 cの副詞は,太郎の行為につくとしか考えられない.この事実は 1太郎 はさせる」という「主文J (matrix sentence)に 1息子が勉強する」と いう文が「埋めこまJ (embed)‑れているとすると説明できる. また,使 役構文にあらわれる「選択制限J(selectional restriction)を述べるのに,
この仮説は有効である. いままでの研究のほとんどは, この仮説をたて て,その上で, 次のような「統語上J(syntactic) の現象を説明しようと した.
ω 太郎は叶~}
勉強させた?を
1
(3) 太郎は息子 本を買わせた.
日本語使役構文試論 33 しかし,これで完全に記述されたとはいえない. この試論では,
r
格文法j(case grammar)を用いて,日本語使役構文における意味と構造をできる だけ記述してみたい.その過程でまた新たな問題もでてくるが,従来の研 究の不備をいくらかとりのぞくことができょう.しかも,この文法を用い ることで
r
表層構造J(surface structure)では異なっていながら, 同じ 意味をもっ文に対して,共通の「基底構造J(base structure)を想定する ことができる. このことが,格文法による記述の,ひとつの利点であると 考える.第1章では,この試論であらわれる「格J(case)を列挙し,次に, ζれ らの格が,表層構造でどのような格助詞(ここで扱うのは「がJ
r
をJr
に」 である〉をとるかという規則をあげてみる.第2章では,従来変形文法で あっかわれてきた使役構文を,格文法のモデルに従って記述する.第3章 では,その他の使役構文と,それに関連した他動詞文についてその構造を 考える.I
格 と 「 がJI
をJI
に」この章では, この試論で必要とされる格を列挙し,その意味論的な位置 づけを行なう.次に,それらの格をもった「名詞句J (noun phrase)が3
表層構造ではどのような状況のもとで, どのような格助詞 (1がJ 1を」
「にJ)を伴なってあらわれるかを定める 「変形規則J (transformational rule)を仮定する.格には次のようなものがある。
ergative:
r
動詞J(verb)によって想起される行為の意志的行為者をあ らわす.locative 動詞によって想起される行為あるいは現象が存在する場所.
nominative 動詞によって想起される行為の対象.
causative 動詞によって想起される行為の原因となるもの.
以後,上のような格をもった名詞句は,それぞれ[erg]NP, [loc] NP, [nom]
日本語使役構文試論 NP, [caus] NPというように記す.
次に iがJiをJiに」をつける変形規則を考える.まず「が」 だが,
「だれが学校がきらいなんですか」というような文は可能であるが, この 試論であっかうような文ではひとつの文に一度しかあらわれない. iが」
はつぎにあげる順位でそれぞれの名詞句につく.
① [subj] NP
② [erg] NP
② [1oc] Npあるいは [nom]NP
Vの支配する名詞句に①があれば①の名詞句が「が」をとり, もし①がな ければ②の名詞匂が,両方なければ③の名詞句が「が」をとる.
「を」はひとつの文では一回しかおこらない.二回以上は「非文法的」
(ungrammatical)として排除される.そして「を」をとるかどうかは動詞 の固有の性質によるので,たとえ「を」をとることのできる格をもった名 詞勾であっても, iを」と共にあらわれるとは限らない. iを」をとること のできる動詞,またとらなくてはいけない動詞を他動詞, とらない動詞を 自動詞というように分類しておくことは,後で使役構文を記述する際に有 効である. 1を」は, 1が」でのべた順位をひとつずつずらしたものにつく.
つまり,
① [obj] NPがあればまずこれが「を」をとる.
② [subj] NPが「が」をとっていたらいrg]NPが「を」をとる.
① [erg] NPが「が」をとるときには[1oc] NPあるいは, [nomJ NP
ヵ . ; r
をJをとる.④ もし①①にあてはまる名詞句がなく,しかも動詞が他動詞になれる ときは I::~~Ilerg I NPあるいは, IIOC I~~o~ml NPが「を」をとる.
日こ」はひとつの文でふつうは一回しかあらわれない. しかし,第2主主 であっかう例にみられるように,二回あらわれても非文法的というわけで はない. もっともこの場合,語順転換をしないという条件,あるいは,語
日本語使役構文試論 35 順転換しても Ifこは」という形にするという条件がある iに」は次の 順位でそれぞれの名詞句につく.
①[loc]
NP
②
[ : z n ] N p
あるいは[rjNp
この章では, 格の一部を紹介し, 格助詞をつける変形規則を考えてみ た.以下では使役構文,及び,それと関連した文における格をその意味か ら推測し,基底構造を組みたてる.そしてここであげた規則にあてはめて その構文を考えてみたい.
E
補 文 構 造 を も っ 使 役 構 文この章では,補文構造をもっと考えられる使役構文を,格文法をつかっ て記述してみる. ここであっかうのは,序言のところであげた(1)(2)(3)と同 じ種類の文で iだれかがだれかに何かをさせる」 という使役構文であ る. これは「だれか」の「させる」という意志的行為を表現している. こ れが補文構造をもっていることはすでに述べたが,その主文の主語は[erg]
NP
であるのでこれを ergative使役構文とよぶ. 先にふれた(2)(3)でみら れる統語上の制限を明らかにするために,自動詞文を埋めこまれた使役構 文,他動詞文を埋めこまれた使役構文,さらに場所などを示す名詞句をも っ文を補文とする使役構文にわけてみていく.まず,自動詞文を埋めこまれた使役構文だが,それには次のような文が ある.
仕) ジョンは
ビ ル { ~
}働かせた(1)は(1)'のような構造をもっていると仮定する [nom]
NP
は[erg]NP
の行為の対象である.また補文の中の [erg]NP
は iはたらく」という 動詞によって想起される行為の行為者である. (1)'は「変形J(transforma‑ tion)をうけて(1)"になる.日本語使役構文試論
r r
¥Pノ
寸t ム
/i¥
[ e r g ] r n o m l
/¥片」
可
Nジョγ が どノシ
( 2 l
f動かせる V一一一一一三~ン/l
)<p
[ e r g ]
N
/i
(J ヒノlノ
L
{ 工
r(1)'の
i d e n t i c a l
なNP
は「融合J( c o n f l a t e )
され9そこでおのおのの名詞句 に,変形規則が適用されて格助詞がつけられる.[ e r g ] N P
は「が」をとり,EZJNP
は 「 む を と る 他動詞にもなれるので,しかしこれらの名詞を支配している動詞は,
しかも他に「を」を優先的にとる名詞句がないの というひとつの動詞は,
一 方 ,
「働く」「を」がつくこともできる.
で,
とL
、
「働かせるJ そのとき支配している名詞句の格の組み合わせに従い,
う形をとって挿入される.
次に他動詞文を埋めこまれた使役構文を考えてみる.次の例でみられる この構文では「を」を入れることはできない.
ピル{長}本をかわせた
融合されさらに格助詞をふくめた語葉挿入がおわった ように,
ジ ョ ン は (序言の(3)と同じ〕
(2)
(2)'が基底構造で,
ところの構造が(2)"である.(2)"では,
[ e r g ] NP
がまず「が」をとる.そして
[ n o m ]NP
が「を」をとる そ こ で [ む ]NP
は,これらの格の組み合わせのもとで,
もはや「を」
「に」をとる.
をとることができず,
ついでに,すべて語業 としてもいい.
挿入がおわったあとで,語順転換して「本をピ、ルに」
最後に「買わせた」とL、う形で動詞が挿入される.
日本語使役糠文試論 (2)l
NP ~p y
h J Z ]
じ171xPJl
吋
;U J 1 1 1 1 ]
l i;!?iyi
(2)"
x
[erg]
1
1lom 1/ペヲ 1
」N l N i N 37
L γ
cJ~μÇ) 9
本 。i
ジ ョ ンF ヵ: ピノシにオょ を 工(1コjUコ
最後に,構造は(1), (2)と同じで, さらに多くの名詞句をもっ文を補文と する使役構文をみていく.例えば,
(3) ピルは臓の息子(詑}ニューヨークから東京まで旅行させた という文をみてみると, 構造を示すまでもなく,
1 1 0
歳の息子」というE r ] N P
は,他に優先的に恥をとる名詞句がないので, 「を」をと ることもできるし, また「に」をつけることもできる. あるいは,1 1 0
歳 の息子」を9語IJ演をかえて「東京まで」のうしろへもってきてもいい.次に,太 郎 は 息 子
i
Ib~引東京にすまわせた.
ド │(4)
という文をみてみると 1東京にj という場所を示す名詞句に優先的に
「に」がつく. しかも
E Z J N P
に「引をつけても非文法的でないと いうことから,第2章であげた規則の,る. (4)を語順転換すると次のようになる.
「に」の項の妥当性が明らかにな
(4)' 太郎は東京に
t r
ab
?息子に息子を1 j
すまわせた.(4)bと(4)'bをくらべると, (4)' bが「許容度J (acceptability)が低い.
これは, (4)bの場合,語IJ演が基底構造の格をしる情報を提供するからであ ろう. また(4)'aと(4)'bを比べると, (4)' aでは格助詞のちがいがあいま いさを消すからであろう.(4)' bで, 1東京には」 とすると許容度が増すの
38 日本語使役構文試論
は 1には」とすることでうまれるある種の休止が,心理的に何かの影響 を及ぼすのかもしれない.
次の文は, [loc] NPに「をJをつけて目的語にする性質のある動詞をも った文を補文にしている.
(5) 太郎は,息子{;」)京都をあるかせた
乙の場合,場所をあらわす名詞匂が「を」をとっているので9 他の他動詞 文の場合と同じように
E Z ] N p
は 恥 を と る こ と が で き な い以上,さまざまの使役構文について,その格助詞をみてきた. 自動詞文 の場合は「を」か「にJ, 他動詞文では「に」がつくという現象のみなら ず「に」についてもその許容度に多くの問題があることを示した. ここで は,格助詞を,従来のように構造の問題とするζとをやめ,語葉挿入のひ とつである格助詞をつける変形規則であつかった.そうすることで構造の 問題とすることから生じる実際にはあきらかでない意味論的なうらづけを 必要としないで,格助詞をあつかうことができたと考える.
m
Non‑ergative使役構文ここであっかう使役構文は,第2主主で扱った使役構文と同じ表層構造を 持っているが 1させるJという動詞によって想起される行為の行為者が,
「が」という格助詞をともなって主語になっているとは考えられない. こ のことから,ここであっかう使役構文を, non胃ergative使役構文とよぶ.
ergative使役構文と non‑ergative使役構文では選択制限が異なる.
ergative使役構文は, 次のように 1様態副詞J (manner adverb)とと もに,あるいは「命令文J(imperative)として用いられる.
(1) ジョンは,わざとピルにいらない本をかわせた.
(2) ジョン,ピルに木をかわせなさい.
一方, 1ジョンは母親にとって悩みの種であった.Jという意味でもちいら
日本語使役構文試論 39 れる non回目gative使役構文 (3)は (4),(5)という形では非文法的である.
(3) ジョンは母親を悩ませた.
(4) *ジョンは, (その非行のために〕母親をわざと悩ませた.
(5) *ジョン, (あなたの非行のために)お母さんを悩ませなさい.
さらに (3)については次のようにいうことはできない.
(14)
(3)' *ジョンは母親に悩ませた.
(3)の文は9 表層構造だけをみると,自動詞文を埋めこまれた ergative使 役構文と同じ形をしているのに1"に」をとることができない.しかも (3) には
1 1
こ」になることを阻む素性をもった名詞句はない.そこで,( 3 )
で「を」をつけた名詞句は I~~:n lLerg J NPでないかもしれない. この章では,
ergative使役構文と同じ表層構造をもちながら,選択制限及び格助詞につ いて異なった現象を示す non‑ergative使役構文の構造を記述したい. ま ず,意味をもとにして基底構造を仮定して,そこに第 l章でのべた格助詞 をつける変形規則をあてはめて,表層構造にあらわれる格劫詞を説明した いと思う.
始めに, (6)一(8)の文をみてみる.
(6) ジョンの病気がメアリーを悩ませた.
(7) 友人の暴言が太郎を怒らせた.
(8) 再びおそってきた不運が次郎を嘆かせた.
(6)一(8)でも「を」のかわりに「に」をつけることはできない. そこで,
「を」をとる名詞句は意志的行為者とは考えられない.同じように(9)一同 でも「を」をとる名調匂は [erg]NPではない.
(9) ジョンの病気がメアリーを京都へ行かせた.
同友人の暴言が太郎を退職させた.
同 再びおそってきた不運がジョンを旅立たせた.
「をJのかわりに「に」をとっても, (6)‑(8)のように非文法的というわけ
40 日本語使役構文試論
ではないが,同一同の ergative使役構文の場合と比べて許容度は低い.
同 ジョンはメアリ‑
{~}京都へ行かせた 同社長は,太郎{~}退職させた
同
ビルは,ジョン{~}旅立たせた
( 9 )
一何の場合,I
に」は同←帥の文からの「類推J(analogy)によるとも考え られる どちらにしても, (9)一 同 で , 加 を つ け た 名 詞 句 を[ 2 2 ] N P
だ とすることはできない. しかも, ζれらでは, (6)一(8)とは異なり erga・tiveという格が Iを」をとる名詞句にみとめられる.(9) 制は次のよう に「言い替えJ (paraphrase)することができる.
(9)' ジョンの病気のためメアリーは京都へ行った.
M '
友〆¥の暴言のため,太郎は退職した.。
1)' 再び襲ってきた不運のため,ジョンは旅立った.(9)一同で1"が」がつけられていた名詞句は,ここでは「のため」という 原因を示す句がつけられている.逆にいえば, (9)一(叫では,原因を示す名 詞匂,つまり [caus]
N P
が,主語になっているといえる.そして, (9)'‑ω r
でわかるように, (9)一伺で「を」をつけられている名詞句は, ergative という格だけをもっている.そこで(9)一帥,及び(9)'一例Fの基底構造は次 のようだと考えられる.NP :.callS:
/ ぺ
N
('.0 刀コ
日本語使役構文試論
=フモヲ r 1
VNP iNP¥
パ日 cjl
不
N七 をムよ さ込る
(9)'‑:Jγ
NP ::;rP INP [caus] 巴rg]
I l 1
0c 1子 /ペパケ i F iキ!
41
それぞれ変形規則に従って格助詞をとる. (9)' ‑ 帥Fの 基 底 構 造 に あ る [caus] NPは, その格表示である「ために」 という句をとる. 動詞は,
(9)一同の基底構造にある格の組みあわせでは 1"‑'さぜる」 という形をと り
, (9)' 叫Fにおける組み合わせでは
r r v
る」という形をとる. (9) 刷 の non・ergative使役構文では, 主語は [caus] NPなので, ammate でも inammate でも主語になれる. しかし ergative使役構文の場合は,仰
ergativeという素性のため, ammate に限られる.
次に(6)‑(8)の文について, その構造を考える.(6)‑(8)を言い替えると次 のようになる.
(6)' (7)' (8)'
ジョンの病気のため, メアリーは悩んだ.
友人の暴言のため太郎は怒った.
再び襲ってきた不運のため,次郎は嘆いた.
(6)'‑(8)'で,主語になっている名詞句は,その動詞との関係で[loc]NPだ と考えられる.そこで次の構造を, (6)‑(8), (6)'一(8)'についてそれぞれ仮 定する。
させる」
[ ; 3 ; ] N P 9 1 1 0 C I N p
という組み合わせのもとでは,動調は1 " ‑ '
という形で語業挿入される.
さらに(6)一(8)は(6)"ー (8)"のようにも言い替えられる.
│ で
! ω
(6)" メアリーはジョンの病気{ に}悩んだ.
l ?
をi
日本語使役構文試論
~6'.rー (8/
NP NP
[c叩 s] [l9(
N ~パ/:N
のため
(6)‑18)
N
icaus i [10
1 札 パ
N N
が ふ を さ ぜ る
次長[)は,友人の暴言{にト怒った.
l
をl
r ?
でl 次郎は,再びおそってきた不運{ に}嘆いた.i
をl
と 11嘆く」は「を」をとるが 1悩む」は,文では [loc]NPが主語になっているとき, [caus] NPは, (7)"
(8)月
これらの とらない.
「怒るJ
「のため!だ けでなく, (6)" ‑ (8)"でみられるような格助調をつけることができる.
(6γ‑(8)"の格助詞は変形規則のところで述べていない. ここでは例文を 示すだけにしておし
そこで示した基底構造 (6)‑(8)では,感情をあらわす文をあつかったが,
は次のような文にもあてはまる.
木がらしが木を枯れさせた.
内q A
四 ︐
dり
( ( (
(ω)
寒気が住民をふるえ上がらせた.
トムの失言がうわさをひろがらせた.
!のため│
木がらし jで
i
木が枯れた.Iのためl
寒気{で }住民がふるえあがった.
失苦~~ため i日 {~/~~--'~ うわさがひろがった.
同及び制は又次のようにも言い替えられる.
(15)' (16)'
( 1 カ
F木がらしが木を枯らした.
トムの失言がうわさをひろめた.
(15)"
同"
日本語使役構文試論 43
同I! 制"比その意味から考えて,
[:::;]Np
,IloclNp
という名詞句 をもち,同, (1カと同じ基底構造をもっていると仮定できる.従来の文法で は,伺,伺を使役文として, (l~ ぺ 制"を他動詞文であるとみなしてきた が,文法はこれらの文の間にある意味の同一性を記述できなくてはいけな い. ここでは,それらは同じ基底構造をもっているとし,表層の動詞の違 いは, 動詞の語業挿入の段階で, 違った形が挿入されたためにすぎない とする.同,制"で「ひろめるJIひろがらぜるj という形をとる動詞は9そ の 「 語 翻 録J
( l e x i c o n )
で,[:::;]Np
と[lo c ]NP
を支配した場合,「ひろめる」又は「ひろがらせる」という形をとるという情報をもってい る.聞と (17)"では,この選択が異なっている.また(l6)の「ふるえ上がらせ る」という動詞は,この名詞句を支配しているとき Iふるえ上げる」と いう形はもたず,同のようにしかいえない. これらの情報は,個々の動詞 が語実挿入する際に必要とする変形規則にあり,それぞれの動詞に「特有」
(i
d i o s y n c r a t i c )
な 規 則 で あ る . 同 も 同 制 と 同 じ 基 底 構 造 を も っ と 考 え られるが,凶Fは非文法的であり, この動詞に特有の変形規則で派生する のを担まれる.同 太 郎 は 本 を お と し た .
制)
(18)' ネ太郎は〔うつむいた拍子に〉本をおちさぜた.
それぞれの動詞が,どんな名詞句を支配したとき,どのような形をとるか という表を次ページにあげる.
同 , 納 と
M
ぺ(1'1)"が同じ基底構造をもつことはすでにのべたが, 制 は又,次のようにも言い替えられる.制附 トムは,その失言でうわさをひろめた.
同じようにして, (6), (7)もそれぞれ(6)川, (7)川に言い替えられる.
(6)'" ジョンは,その病気でメアリーを悩ませた.
(7)''' 友人は,その暴言で太郎をおこらせた.
同ぺ (6)ぺ (7)'"では, 主語は
a n i m a t e
に隈られ,しかも Iで」をつ44 日本語使役構文試論
│高司空
①[loc] NP ②i112JNP,[loc]NP1 ③i
[関口F
erg] N'
aru MmnM‑rmhirog‑a • ru 〔窮
(
(J A
広ま;b追Ls) る)〉 Mrhir岨og‑‑pe • ru ・m! l
eru kaw‑a • ru (ZJJ'"h 6 i ka‑e • ru
u tob‑u (飛ぶ(悩〉 ② む〕
; 2 2 7 2
・suasu Io1kay在oIIm1‑1(1おこる) {f a・悶S11U1J と eru 同
nIdI‑1a0Egya‑‑rer‑Lae1r‑lrl(1出1((燃流る〕れえる〕る〕 moy‑a ‑su dIl,aag・‑ l a ‑ S 1 1 1 )‑
asu su
i
叫 ( 届 く 〉 形u todok‑e・ru eru
IrU
obi‑ru(〔落起るる)〕 ok・0・su ot‑l・ru ot‑o・su osu
IrU nob‑i. ru (伸びる〕 nob‑a.su asu
紛
けられた [caus]
NP
と結びついた名詞句でなければならない. これらの 文について下のような構造が考えられる.(17)1/I (6)川 (7)1/1
NP lcausl LsubjJ
可
~寸ij
J
NP NP
jfsljl
~
N
で を ‑ さそる
しかしこれでは,ふたつの [caus]
NP
の関係が示されていない.また,どちらが animateであるか, いいかえれば,どちらが「の」をつけられ る名詞句であるかということを明示しなければ,次のような非文法的な文 をも記述してしまう.
(6)仰
4 5
あるいは, これらの [caus]
NP
は,基底構造ではもっと別の形で結ぼれて いて,変形によってこのような構造に導かれるのかもしれない.日本語使役構文試論
この問題 はここでは指摘するのにとどめる.
4 4
ページの表で,①の [erg]NP
,[ l o c ] NP
を支配している時,動詞は② を支配している場合と同じ形をとることになっマh v
みて
場
N
P合 を 考 ︑ ぇゴ の b
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N
肉寸4p
il
﹂l
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︑ し
w
の て
表から推察できるように,闘の そして③ あいまいである.
文は,③の場合にも①の場合にもあてはまり,
の場合のみ(18)"のようにもいえる。
太郎は本をおとした.
(18)
太郎は花子の前にわざと本をおとした.
同"
又,記述するに 同のあいまいさを,従来の文法では記述できなかったし,
その意味をのべなければなら ひとつひとつの動詞の形について,
しても,
なかったが,格文法によると,同には異なったふたつの基底構造があると される.だから,個々の動詞形についてのべるのでなく,構造で意味を記 述し,意味の同一性,あるいは相違性を明示するζとができる. (18)"と共 通性をもっ場合の同の構造は次のようである.
し
を ﹀ ﹂
1
本1
子 副
I4rill‑‑!三
il
ムρ
し /
/ げ 心
‑
N i l l
対
( 1 8)
さらに(18)"には意味のよく似ている同のような ergative使役構文がある.
この基底構造を次に考えてみる.
太 郎 は 附 と 〕 チ ョ ー ク { ?
~}落ちさせた
仕ゆ
日9
[NP ergJ
ド ! パ
大i1C り
日本語使役構文試論
V
NP
イ ;
与
omJ ̲̲̲̲̲̲づ
J/, NP / ' [locJ
/
~ぺヤ ! 中
hhF41;LJ
」でτ一一ナーで? φ>;:)' ìよヌムト f~
lclentlc乱 イ 」
同の基底構造は, いくつかの変形をうけて次のようになる.
U9)
一一一一三フグ
JNP NP
バ glJTl
N l N l i
丈J'!j; が デョ lー グ
( t j
(19)の文は ergativeという素性をもっている点で闘の場合と同じだが,意 味的にまったく同ーというわけではない.闘の;場合は [erg]NPの行為は,
[loc] NPと直接的に関わるが, (19)の場合間接的である. そういった点から,
同には補文構造が考えられる. この補文構造を仮定することは,第2章で ergative使役構文とも平行するし,又,同の意味との同 あつかった他の
‑,1生と相違性をともに記述できるという点で有効である. この構造は,感 情をあらわす動詞についての ergative使役構文にもあてはまる.
(
20) トムは, (悪意をもって)
{~}悩ま(せ l た
j させJ
色 骨
[NP erg]
/ イ
N
トム
。
日本語使役構文試論
NF
v/J
[nomJ ̲̲̲̲̲ イ !
ノイ NP
jiIioc]
γ つ
ジ
ト 3 1 ; L J F J
、L ー 」 悩ま l~せ r
tこそして変形をうけると次のようになる.
。
。
N
一一一一一一一二三 77
VJ 1 g l JV11
N N
ト ム が ジ ; 川 川ま(む)る
47
しかし同,側の日本語はまったく自然というわけではなく,特殊な状況 のもとでの表現である.が,そういった状況では,その意味を正しく理解 することも, またその意味でこのような文を発話することも可能である.
最後に,次のような使役構文を考える.
~1)
凶
トムは息子を死なせた.
花子は妹を自分のベッドにねさせた.
主語になっている名詞句の格は, ergativeではなく, 制 , 闘 は ergative 先にあつかった
[ 2 2 1 N p
を主語とnon噌rgative使役構文であるともいえない.そのことは次のような しかし側,闘は,
使役構文でない.
する
命令文が可能であることからわかる.
48 日本語使役構文試論
~1)' トム,息子を死なせ(てやり〉なさい.
倒F 花子,妹をお前のベッドでねさせなさい.
ここで主語になる名詞句は,制では「息子の死」に,闘では「妹がベッド でねる」という行為に何らかの形で関与した人物である.そのことから,
ζの名詞句は locativeという格をもっていると仮定できる.そうすると,
制,闘には次のような構造を考えることができる.
(2]) (2'7J
1 1
V
一一一一一一三二三戸==‑T
~p ::¥P
;‑!()C ‑ [!,叶 ()f[crg]
311)J/ イ
了 元
( 、 ノ ズJ
しかし制,闘は次のようにも言えることを考えると, ζの構造は妥当であ るとはいえない.
似y' トムは息子に死なれた.
~2)1/ 花子は妹に自分のベヅドでねられた.
(2])"ω"
[
NPl o C 1
subjJ
/ :
N
NP N
パ
JEなれる ねられる
。方ぺ ~2)1/ には,上の構造が仮に考えられる. しかしこれでは, ~1),闘の場 合との表層構造のちがいを記述することができない.また,倒,仰では主 語になる名詞句はanimateでなくてはいけないが,その制限をどのように 記述するかという問題も未解決である.あるいは補文構造を想定すれば,
日本語使役構文試論 49 制,倒とf2
1 ) "
f2Z ) "
との関係を記述できるかもしれないが, この文法の枠組 で animateでなければいけないという制限をどのように記述するかは,車場
以前として残る問題である.
結 論
日本語の使役構文を,巴r培g丘幻凶t討lV刊e使役構文, noω
∞
On.引 g伊a幻凶ti刊ve使役構文にわけ,格文法に基づづ、いてそれぞれの構造を分析した.構造を分析する際にもとに なるのは,意味である.意味をもとにして組みたてた基底構造に,仮定し た格助詞をつける変形規則をあてはめて表層構造にある格助詞を記述でき たとき,その基底構造を妥当とするというプロセスで分析した. この方法 で,いままで,同じ意味を認められながら,表層構造のちがいのためにま ったく別の構造分析をされていた文について,同じ基底構造を想定するこ とができた.そして,表層におけるちがいは,語委主挿入のときの変形のち がいによるとした. この分析が文の意味を記述するという点で,従来の分 析より可能性をもっていると思う. この試論では,一部の格しかあっかわ ず,しかも,それらが,普遍的な文法をめざす過程で,また,より完全な 日本語の文法をめざす過程で統合される可能性もある.さらに格助詞の変 形規則も, 日本語全体をあっかうときはるかに複雑であることはいうまで もない. この試論では,使役構文という日本語の一部をとりあげて,しか も使役構文全体を言い尽くしてはいないのであるが,格文法による分析の 有効性を示した.
〉王
(1) cf.井上 (1971. 11月λp.81,Nakau (1973), p.249では, 1"経済的」 (εcono‑ mical)に選択制限を記述できるということを補文構造を仮定する根拠としている.
しかし選択制限を経済的にのべるには,共通の「語蒙項目J(lexical item) とす るのもp ひとつの方法であろう.補文構造を仮定するには,まず, 意味論的なJ恨
50 日本語使役構文試論 拠がなければならない.
(紛例えば次にあげるような分析がある.大要を紹介し,それぞれの不備を考える.
(i) Kuroda (1965), pp. 164‑198.
ここでは次の二種類の構造が,使役構文のために仮定されている.
(
ド
a. NP 伊臥叫(何C叩 are) V‑Te印nb. NP‑ga NP・o(Comp‑sar巴)V圃fense
aでは,補文(Compと表記されている〕中の INP胆gaJが,補文一般に適用す る変形規則で, ["NP‑niJに変えられる.それで「に」の場合が説明できる.一方 bでは,補文中の ["NP‑gaJは,これも一般的な変形で「消去J(delete)され,
「を」をとる使役構文が生成される.この分析は,変形の「一般性J(generality) という利点をもっ.しかし「をjと「に」の場合に,それぞれ異なった基底構造 を仮定する意味論的な裏づけがない.もし「を」と「に」では違いがあり,前者 より後者で名詞句に強勢がおかれていると考えるにしても,上の構造をささえる 根拠とはならない.
(ii) Ishiguro (1968), pp. 124‑125.
この分析でば, ["を」と「に」の聞に意味論的な違いはみとめられていない.そ してどちらの場合も同じ構造をもっているとされている. そのために["をJ,
「に」を導く変形規則に比重がかかり,他の補文構造における変形との間の一般 性にかける.
(iii) 井上(1972. 1月入 p.71.
「をJ["に」についてそれぞれ a,bの構造を想定している.
a
一一一一寸一一 一一一「
NP NP Pr氏巴d
ぷ三 l
補文の中の「が」は「を」に変えられる.
b
l~三
させ:r‑Jロ ム 仏
HN
NI ll i‑
‑N
iこ
日本語使役構文試論 51 補文の中の,
r
が」をつけられた名詞匂は主文の「に」をつけた名詞匂と「同一」(identical)であるため,消去変形をうける.この論文では
r
に」と「を」のそ れぞれの構造について,他動詞文と自動詞文また他の檎文構造との対応関係から その妥当性を裏づけている.しかし,その対応関係の分析は精密になされている わけではなし他の可能性,例えばaで,あらかじめ「を」をつけた名詞句を主 文においておくという分析も,対応関係という点からは不自然とはいえない.ま た bについては「誰かが,誰かに何かを」 という関係との対応をいっている が,なぜaではこの対応関係があてはまらないか,つまり,r
誰かが,誰かに何 かを」という関係に含まれる意味という点ではr
を」の場合も「に」の場合も 変わりがないのに,なぜr
を」の場合にはこの関係があてはまらないか,また,そんな異った表層構造をもっているのに意味の同一性があるのはなぜであるかと いう点を記述していない.また,自動詞の場合には
r
を」と「に」の可能性が あるのに,他動詞の場合は「に」しかいけない.この事実はどのような要素のた めかを記述していない.(3) 格文法は Fillmore(1968 a)で提唱された. この試論で用いるのは, Ander・
son (1968, 1969, 1971) で修正されたモデ、ルである Fillmoreの場合, An幽 dersonのことばによれば a non‑loca1ist view"をとって2 統語的な面から の構造分析を行なうが, Andersonのモテ、ノレでは3 意味論的な分析をもとにして 基底構造を考察する aloca1ict view"をとる Andersonは次のようにいっ て,その文法の目ざすところを表明している.
… …
1 shal1 be concerned to formulate a grammatical framework within which to evaluate various sub‑parts of a loca1istic conception of functional relations. (Anderson (1971) p. 11.)まず意味をもとにして,名詞句の functionalr巴lations円 以後,
r
格J(case) とよぶーーを決定する.いいかえれば,意味をもとにして,文の基底構造を想定 する.表層の格表示(前置調・後置詞・語順など〕が必ずしも,意味をあらわし ていないこと一一基底構造に存在するものではないことーーは, Fillmore (1968 a)及び Hall(1965)によって明らかにされている. Andersonは,基底構造に おける格が表層では,あるときは,格をあらわした格表示をつけ,またあるとき は主語・呂的語としてあらわれるとする.そこで,文法の記述は,まず,意味を もとにして基底構造を想定し,そこに変形規刻を適用してみて,それが表層の構 造を記述できたとき,その基底構造を認めるという手順でおこなわれる.この文法でも,基底様造は「普遍的J(universal)であると主張されるが, そ こで,考えなくてはならないのは,普遍的である構造において,どのような格を もった名詞句があるかという問題である.それと同時に,個々の言語,またその
52 日本語使役構文試論
中でも個々の動詞について,その格が,統語上の格表示であれ,意味をあらわし た格表示であれ,表層ではどのような形をとるかとL、う変形規則がたてられなけ ればならない.
この試論では,日本語の使役構文における基底構造と変形規則を考察しようと した.Anderson (1971)のモデ、ノレにしたがうが,語1I頃などの点、で英語についての 分析である Anderson (1ヲ71)とは異なってくる.英語ではaの図のようになる が,日本語では bになる.そこでAndersonによる規則もそれそ、れ日本語にあう ように変えなければならないが,この試論では,一部の使役構文についてのみ考 察した.
n a V
NP
~寸 [三1
1¥! N
V
NfJ?¥NP
[ そ 三
l
i q
,J I ¥
j i N(他動ii~iJ文〕
b.
(
, T1'のJi文7 V
NP
~て,/ ぺ
[三]1:'1
(13 動 ~-m文〉
イ
l xh パ
[三N ~:
(他動詞文〉
実線、は「支配J(governing)と「依存J(depending)の関係を示している.(cf. Anderson (1971J, pp. 29‑32.)点線は, 1"語会挿入J(lexical insertion)を示
している. 語業挿入については, Anderson (1968)を参照されたい.日本語で はラ
NP
から垂直におりた点線の下に, 格助詞をつける変形規則によって格助 請が挿入される.(4) cf. Anderson (1971), p. 40.他 (5) cf. Ibidリ pp.81‑118.他 (6) cf. Ibid., p. 37.他.
(
の この試論で提唱される格である.さらに調べる過程でlocativ巴あるいは nom司 inativeと統合されるかもしれないが, ここでは, 原因をあらわしている名詞句 の格を caustiveとした. 井上(1973. 3月〉でも, 1"原因格」ということがい われるが,定義はなされていない.
日本語使役構文試論 53 (8) このような「が」については,久野 (1973),pp.27‑‑47を参照されたい.この
試論の例文では,
r
はjと「が」は,自然だと感じられるように適当に使いわけ る.(9) [subj] NPはsubjectivizedNPをあらわし, ergative, nominative, locative 以外の格をもった名詞句が, 主語になる場合にこのようにあらわず. [obj] NP は,目的語になる名詞句をあらわす. cf.注(紛.
倒助動詞・時制辞・法助詞・副詞などは考慮していない.
同 reference"の同じものをidenticalとみなす.identicalという概念にはまだ 未解決の多くの問題がふくまれているが3 この試論で identicalというときは,
主文と補文にある同じ名詞句についての関係をいっているにすぎない.以下の図 では,そのような名詞句を identicalと記して実線、でむずぶ.
同 「歩く」という動詞は,場所をあらわす名詞句に「を」をつけて用いる.
r
で」 をつけても用いられるが,両者の聞には意味のちがいがある.( 乱 京 都 抄 く
b 京都で歩く(この意味で「京都を歩く」とはいえない.)
bの場合
r
歩く」とL、う行為をいっているようである aはbより時間的にも 空間的にも幅が感じられる a,bの「歩く」はそれぞれ語葉項目を異とするの ではないだろうか.そしてaの場合,場所をあらわす名詞匂を目的語としてとる と考えられる.また,場所をあらわす名詞匂をとっても,r
住む」とし、う動詞は 目的語をとらない.(R * ち > )
京都
r ‑.
~~住む.lb にj
それぞれ,動詞の特性によって,表層構造が決定される.
(13)
山ン,あなたの非行{~~ために}お母さんを大いに悩ませてやりなさい」
とL、う意味でっかうときは可能である. このような意味で用いられるものは 46 ページであっかう.
(14) cf. p. 46.
帥 ここでいう言い替えられた文とは subjectivization,obj巴ctivizationという点 でのみ異なる文についていう.cf. Fi11more (1968).
任
。 動詞の「形態音素論J(morphophonemics)はあっかわないので
r
させる」のついた場合は,
r
'"させるJ,つかない場合はr
",る」というように便宜的に記 す.制 この格文法の枠組では, ergativeという格のために, animateに限るという制 l浪が自動的に記述される.使役構文における制限については井上(1971.12月入
日本語使役構文試論 pp.45‑47, (1972. 1月), pp.70‑71を参照されたい.
制 井 上 ( 1972. 1月)p.71では, (6)‑(紛および, その言い替えられた文につい て
r
",させる」という形の構文には,( 6 ) "
が補文として埋めこまれているとし ている.そして主文の名詞句と, f古文中の原因格 (cf.注(の〕がidenticalなとき,原因格が消去されて
r
させるJという文になり, identicalでなければr
ジョ ンが,彼の非行で家族セ悩ませたJ(cf. ibid., p. 71,注(6))という文になるとして いる.しかしこの分析は,変形という点ではいいが,補文構造を想定する意、味論 的な根拠が充分でない.この変形の利点は,補文構造の根拠とはならない.また たとえ補文構造であるということが裏づけられても,その主文に主語となる名詞 句をおくという分析の根拠は,他の使役構文で主語に必ず animateが要求され る場合には,その制限のためであったが, (cf.井上(1971.10月), p. 43, (1972.1月), p. 71.)この場合 animateでも inanimateでもよし従って制限のため とはいえない. ここの構造分析は, 消去変形で,うまく identicalな場合とそう でない場合を説明するためであり,構造分析に一貫性がかける.また, (6)ー(8)の 文は,英語では,ほぼ同じ意味を,他動詞文として表現する.この分析では,表 層構造の違いにもかかわらず存在する意味の同一性を構造的に記述することがで きない.普遍的な基底構造を想定する格文法の有効性のひとつはこの記述ができ ることにある.
<<9) 井上(1971.12月), p. 46から借りた例文である.
倒 cf.p. 45,例文
ω
(
訪 このような形は巴rgative使役構文にもみられる. しかしこの場合も,格助詞 は「を」でも「に」でもよい.
「そのピッチャーは,その威力ある球で,
バッター{~}きりきりまいさせ(てやっ〕た J
~ 一方 ergative使役構文なら,この制限はない.
r(わざと打ちあけて〕ジョンは,
メアリーの不幸でジム{~}悩まさせた
鱒 井 上 (1971.12月), p. 47, (1972. 1月), pp. 71‑72では, この場合の「さ せる」は,この試論で ergative使役構文とした文にあらわれる「させるJとは 異なった語業項目で, ・let"の意味をもち
r
悩まさせる」の場合と同じである としている。しかしB 2 ; ] N p
,[ l o c l N p
からなりたつ基底構造をもっ「悩ま させる」の;場合と同じであるとするのが無理なことは,いままでのべてきたとこ ろで明らかであろう.日本語使役構文試論 55 附記 *は「非文法的J (ungrammatical), は 「 不 自 然 、J(unnatural)な表現
であることを示す.
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