博 士 ( 理 学 ) 犬 飼 恵 一
学 位 論 文 題 名
粘土等層状無機化合物を疎水化することによる LB 膜作成法の開発とその応用に関する研究
学位論文内容の要旨
粘土鉱物はシリケートとアルミネートが重なり合った構造を有した層状無機 化合物である。本研究でとりあげたスメクタイ卜系粘土鉱物では、層構造中の 金属イオンの同型置換によって層自身は負に帯電しており、その結果大きな陽 イオン交換能を示す。本研究では厚さがナノメーターオーダーで均一でしかも 完全 に層 面が 配向 した薄膜をっくるためにラングミュア・ブロジェット法(L B法) を初 めて 適用 した。従来このような粘土薄膜は、水分散液をキャストす るかスピンコートする方法によって作製されて来た。しかしこの方法によって 初 め て 、 分 子 レ ベ ル で 膜 厚 制 御 さ れ た 膜 製 造 を 可 能 に し た 。 第1章で は、 粘土 薄膜の製造法や利用法にっいて概観している。粘土薄膜の 製造法として、キャス卜法、自己集積法および交互積層法について述ぺられて いる 。第2章で は、 疎水 性粘 土を 用い たLB法に よる 薄膜 製造法 の詳 細が 述べ られている。第ー段階として、長鎖アルキルアンモニウムを用いたイオン交換 によって疎水化したサポナイトをクロロホルム溶液ヘ分散した。疎水化粘土を 空気.水界面上に展開し表面積・面積等温曲線を測定した。得られた結果と計算値 と比較することによって、可逆的な粘土単一層膜が形成されることを確認した。
さらにこの膜を垂直累積法によって各種基板上に移し取ることで、人工的に積 層した粘土薄膜を製造することができた。この積層膜をエックス線回折スベク トル、赤外スペクトル、原子間力顕微鏡等により、均一な厚さを有した粘土単 一層 膜の 形成 およ び粘土層1層の単位で厚さが制御できる積層膜の製造を確認 した 。第3章で は、 疎水化粘土とアラギニン酸との混合膜形成について述べて いる 。す なわ ち、 アラギニン酸単分子膜中に粘土粒子が1個ずつ孤立した混合 膜が形成されていることを表面積・面積等温曲線を測定および原子聞力顕微鏡 の観 察お よび ブル スター角顕微鏡観察によって調べた。第4章では、この様に 得ら れた 粘土LB膜 の応 用と して、LB膜 法に より 製造 した 粘土 修飾 電極 (CME s)の 電気 化学 的挙 動をしらべた。その結果、水溶液中の希薄ルテニウム錯体 がCMEsに 効 率 よく 濃 集 で き る こ と、 さら に取 り込 まれ た錯体 の電 気化 学的
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挙 動から粘 土膜中での電荷移動機構についてのモデルを提出した。これは、従 来 のキャス ト法によっては明らかにできなかったことである。さらにもうーつ の 応用とし て、第5章 では、粘 土膜中で の光誘起電子移動反応における粘土膜 の絶縁性について調べた。これは光誘起電子給与性ルテニウム(II)錯体の単分子 膜と消光性電子受容性ルテニウム(III)錯体の交互累積膜をっくり、これら錯体 間で起こる電子移動反応に対する粘土層の効果を調べたものである。この結果、
ルテニウム(II)錯体とルテニウム〈III)錯体との問に粘土層1層を挾むだけで、両 者 間で効率 良くおこる電子移動が完全に遮断されることを示した。これは粘土 単 一層の絶 縁性を始めて示したものである。このような結果は、これからの高 密 度記憶性 薄膜を多層化するのに粘土膜膜を応用できる可能性を示したものと し て注目さ れる。最 後に第6章 では、LB法 による粘土薄膜製造の別の展開とし て 、ハイド ロタルサイトの疎水化による薄膜形成を試みた。ハイドロタルサイ ト は陰イオ ン交換体で、合成により結晶性の良好な試料をできる。自然界にお け る有害な 陰イオン除去剤としての応用が注目されている材料である。疎水化 は 、長鎖ア ルキル陰イオンの存在下でハイドロタルサイ卜を熟処理した混合酸 化 物を水和 することによって達成した(再構築法)。得られた疎水化ハンドロ タ ルサイト をクロロホルム中に分散して気体・液体界面に展開し、表面圧・面 積 曲線から やはり単一層からなる膜が形成されることをを確認した。この膜を 垂 直法によ って基板上に積層し原子間力顕微鏡による表面観察から均ーな単一 層 膜が形成 していることを確認した。これは結晶性ハイドロタルサイトから単 一 層を得た 始めての例である。2価3価の金属イオンの組み合わせで膜自身に電 気 伝 導 性を 付 与す る こ とが 出 来 るた め にCMEsと し て 大い に電気 化学的な 応 用が期待される。
こ れらの研 究は、ア メリカ化 学会等の 雑誌に6報の論文としてまとめられて い る。本論 文は層状粘土鉱物を用いた薄膜形成法の新規な開発によって、粘土 化学分野に対して貢献するところが大きい。よって著者は、北海道大学(理学)
の学位を授与される資格あるものと認める。
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学位論文審査の要旨
主 査 教 授 山 岸 晧 彦
副 査 教授 中田 允 夫 副 査 助教 授 佐 々 木直 樹
副 査 室長 渡村 信 治( 名 古屋 工 業技 術 研究 所)
学 位 論 文 題 名
粘土等層状無機化合物を疎水化することによる LB 膜作成法の開発とその応用に関する研究
粘 土 鉱 物 は 層 状 無 機 高 分 子 で あ る 。 一 つ の 層 は 厚 さ が 約Inmで あ り 、シ リ ケー 卜 とア ル ミネ ー トが 重 なり 合った構造 を有してい る。こ の よう な 層構 造 を持 っ ため に 、粘 土 鉱物 は高い配向 性をもった 薄膜に な りや す く、 セ ンサ ー や電 気 極修 飾 剤と して用いら れている。 特に粘 土薄膜修飾電極(CMEs:Clay Modified Electrodes)では、通常の電気化学 反 応で は 測定 困 難な 希 薄溶 液 中に 存 在す る化合物を ホスト‐ゲ スト反 応 によ り 取り 込 み、 電 極表 面 に濃 縮 する ことで電気 化学的に観 測する こ とが で きる 。 さら に 粘土 を 修飾 す るこ とによって 、電極反応 に種々 の選択性を付与することも可能となる。
従 来 この よ うな 粘 土薄 膜 は、 水 分散 液を キャス卜す るかスピン コー ト する 方 法に よ って 作 製さ れ て来 た 。し かしこの方 法では、膜 厚や粘 土 粒子 の 配向 を 十分 に 制御 す るこ と がで きない。本 研究ではこ の困難 を 克服 す るた め に、 従 来有 機 分子 の 単分 子層の製造 に適用され て来た ラングミ ュアー‐ブ ロージェッ ト法(LB法) による薄膜作成技術を適用 した。こ れによって 分子レベル で膜厚制御 された膜製造を可能にした。
LB法に よ る粘 土 薄膜 製 造 の第 一 段階 として 、単ー層ま でに分散し た 疎 水性 粘土 を合成した (第2章 )。そのた めに膨潤性 粘土鉱物の 代表で あ るサ ポ ナイ ト を選 ん だ。 サ ポナ イ 卜は 陽イオン交 換体として 応用が 広 く行 わ れて お り、 人 工合 成 の手 段 が確 立しており 安定した試 料が入 手 可能 で ある 。 長鎖 ア ルキ ル アン モ ニウ ムを用いた イオン交換 によっ て 疎水 化 した サ ポナ イ トを ク 口ロ ホ ルム 溶液ー分散 した。疎水 性粘土 を気‐液 界面上に展 開し表面積 ・面積等温 曲線を測定した。得られた結 果と計算 値と比較す ることによ って、可逆 的な粘土モノレイヤーが気‐
液 界面 上 に形 成 され る こと を 確認 し た。 さらにこの 膜を垂直付 着法に よ って 各 種基 板 上に 累 積す る こと で 、人 工的に積層 した疎水性 粘土LB 膜を製造 することが できた。こ の積層膜を エックス線回折スペクトル、
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赤 外ス ペ クト ル 、原 子 間力 顕 微鏡 等により、 均一な厚さ を有した疎 水 性 粘土 モ ノレ イ ヤー の 形成 お よび 疎 水性 粘 土層1層 の単 位 で厚 さが 制 御 でき る 積層 膜 の製 造 を確 認 した 。さらに疎 水性粘土と アラキジン 酸 を 混合 し て膜 形 成す る こと に よっ て、アラキ ジン酸単分 子膜中に粘 土 粒 子が1個ず つ 孤立 し た混 合 モノ レ イヤ ー が 形成 さ れて い るこ とを 表 面 積‐ 面 積等 温 曲線 を 測定 お よび 原子間力顕 微鏡の観察 によって確 認 した(第3章)。
こ の 様 に 得 ら れ た 粘 土LB膜 の 応用 と して 、 粘土 膜 中で の 光 誘起 電 子移 動反応にお ける粘土膜 の遮ーい効 果にっいて 調べた(第4章)。 こ れは光誘 起電子供与 体として働 くルテニウム(II)錯体の単分子膜と消 光性電子 受容体として作用するルテニウム(III)錯体の交互累積膜をつ く り、 こ れら 錯 体間 で 起こ る 電子 移動反応に 対する疎水 性粘土層の 効 果を調べたものである。 この結果、ルテニウム(II)錯体とルテニウム (III)錯体 との間に粘 土層1層を挟むだ けで、両者 問で効率良 くおこる 電 子移 動 が完 全 に遮 断 され る こと を示した。 これは粘土 単一層の遮 ー い 性を 初 めて 示 した も ので あ る。 このような 結果は、こ れからの高 密 度 記憶 性 薄膜 を 多層 化 する の に粘 土膜を応用 できる可能 性を示した も の とし て 注目 さ れる 。 もう ― つの 応用として 、シリル化 法による疎 水 化 によ り 陽イ オ ン交 換 容量 を 保持 したままの 疎水性粘土 を合成し、LB 膜法による粘土修飾電極(CMEs)の電気化学的挙動をしらべた(第4章)。
そ の 結 果 、 水 溶 液 中 の 希 薄 ルテ ニ ウ ム錯 体 がCMEsに 効率 よ く 濃集 で き るこ と 、さ ら に取 り 込ま れ た錯 体の電気化 学的挙動か ら粘土膜中 で の 電荷 移 動機 構 にっ い ての モ デル を提出した 。これは、 従来のキャ ス ト法によっては明らかにできなかったことである。
最 後 に、LB膜 法 に よる 粘 土薄 膜製造 の別の展開 として、ハ イドロタ ルサ イトの疎水 化による薄 膜形成を試 みた(第6章)。ハ イドロタル サ イ トは 陰 イオ ン 交換 体 で、 合 成に より結晶性 の良好な試 料をできる 。 自 然界 に おけ る 有害 な 陰イ オ ン除 去剤として の応用が注 目されてい る 材 料で あ る。 疎 水化 は 、長 鎖 アル キル陰イオ ンの存在下 でハイドロ タ ル サ イ ト を 熟 処 理 し た 混 合 酸化 物 を 水和 す るこ と によ っ て達 成 した
(再構築 法)。得ら れた疎水性 ハンドロタルサイ卜をクロロホルム中に 分散して 気体・液体 界面に展開 し、表面圧‐面積等温曲線からやはり単 一 層か ら なる 膜 が形 成 され る こと を確認した 。この膜を 垂直付着法 に よ って 基 板上 に 累積 し 原子 間 力顕 微鏡による 表面観察か ら均一な単 一 層 膜が 形 成し て いる こ とを 確 認し た。これは 結晶性ハイ ドロタルサ イ ト か ら 単 一 層 を 得 た 始 め て の例 で あ る。2価3価 の金 属 イオ ン の組 み 合 わ せ で 膜 自 身 に 電 気 伝 導 性を 付 与 する こ とが 出 来る た めにCMEsと して大いに電気化学的な応用が期待される。
以上 、 本研 究 で 開発 し たLB膜法による 粘土単一層 膜の開発は 、粘 土 粒子1個を 高 分子 と みな し た高 分 子科 学 と して 粘 土鉱 物 の化 学的 性 質 を研 究 する 端 緒と な った と 考え ている。さ らにナノメ ータースケ ー ル で厚 さ の制 御 でき る 無機 絶 縁層 膜を製造す る全く新し い方法とし て 応用面においても大きな意味を持っと期待される。
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