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曳繩漁具潜航板の振れ回り運動に関する研究 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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     博士(水産科学)江幡恵吾 学位論文題名

曳繩漁具潜航板の振れ回り運動に関する研究 学位論文内容の要旨

【目的】

   曳繩漁業は,小型の漁船を用いて,釣竿,道糸,擬餌針などから構成される漁具を 高速で曳き回して行う釣漁業である。釣漁業の中では最も積極的な漁業であり,主と してマグロ,カツオ,ブリ,シイラなどの遊泳カのある回遊性魚類を対象として行わ れる。道糸と擬餌針の問に潜航板が取り付けられ,この運動が擬餌針の動きに重要な 影響を及ぼしている。漁具の運動が定量的に把握されていないために,漁獲量に個人 差が 生じ たり, 漁獲 時に 魚体に 損傷 を与 えた りする など の問 題が 生じて いる。

   そこで本研究では,曳繩漁具の漁獲メカニズムを解明することを目的として,国内 で広く使用される先端が尖った船型の潜航板の運動を道糸結着点の運動と潜航板の回 転運動に分け,回流水槽実験によって,結着点の運動軌跡の推定,潜航板の運動測定,

流体力測定を行い,潜航板の振れ回り運動のメカニズムを考察した。さらに,操業時 における潜航板の振れ回り運動を推定するために運動モデルを用いた理論的な解析を 行った。

【結着点の運動軌跡の推定】

   道糸の固定点を原点 Cl とする固定座標系をC ユ‑ xl Yizi ,潜航板の重心位置G を原点 とする回転座標系をG ‑ X2Y222 とし,X2 Y2 22 軸まわりの回転角をそれぞれロール 角ジ,ピッチ角9 ,ヨー角ヅとした。回流水槽にて,潜航板(全長31.5 cm) を使用し,

道糸長さ70 cm ,流速80 cm/s として,三分力計を用いて道糸張力疋1 の3 軸成分(Txl ,

Tyl , Tz ・)をサンプリング周波数100 Hz で測定した。道糸張力Tq と疋1 Tyl Tz ユの

比と道糸長さの関係から結着点C2 の運動軌跡を推定した。結着点C2 の運動軌跡のXI

Yi , ZI 軸成分の振幅は0.02m ,O.llm ,0.021 ユ二1 ,周期は0.39 秒,0.78 秒,0.39 秒と

なった。結着点C2 の運動は3 次元的に振れ回る運動を繰り返し,その変位量はYi 軸

(2)

成分が最も大きく,8字のような軌跡を描くことが示された。

【潜航板の運動測定】

  潜 航 板 の 拡 大 模 型( 全 長66.0 cm)を製 作 し, そ の 中に 運 動計 測 ユ ニッ ト を内 蔵 さ せ,X2 Y2軸方向の加速度(ぬ,サ),ロール角ジ,ピッチ角ロの回転角,ロール角ジ,ピ ッチ角ロ,ヨー角ゾの角速度(p,g,′)を測定した。実験は回流水槽で行い,道糸長さを 2.5m,流 速 を1.10 m/sと し た。 加 速 度ぬ, ゛は正と 負の値を 交互に繰り 返し,周 期は それ ぞ れ約0.71秒 ,1.42秒で あ った 。 加速度゛ は,加速 度カの変化 と比べて 大きく,

土1.3g(g:重力加速度)で変化していた。加速度(め,サ)の結果を経過時間で積分する ことから ,速度(甜,v)を算出すると,速度甜はほば一定で約0.91 m/s,速度vは土0.32 m/sの 範 囲 で 変 化し て おり , 速 度vは速 度 甜と 比 較 して 約3分 の1以下 と な って い た。

角速 度p ′の 周 期 は約1.42秒 であ り , それ ぞ れ土183.7 deg/s, 土210.2 deg/sの範 囲で 変 化し て い た。 角 速度gの 周 期 は約0.71秒 で, ロ ー ル角 ジ ,ヨ ー角 ヅの角速 度と 比べ て ,周 期 が 約半 分 で変 化 量 が―16.3 ‑11.6 degsで小 さ い こと が示さ れた。角 速 度(Ag,′)の結果を経過時間で積分することから,.ロール角ジ,ピッチ角9,ヨー角ゾを 算出すると,それぞれ土42.6° ー1.7°〜1.40,土42.2°の範囲で周期的に変化し,

周期はそ れぞれ約1.42秒,O.71秒 ,1.42秒で あった。 運動中の 潜航板のピッチ角0は ほばo゜ で, ロール角 ジ,ヨー 角ヅを変 化させな がら運動を している ことが示 された。

【潜航板の流体カ測定】

  運 動 測 定 の 結 果 をも と に ,ロ ー ル角 ジ を ―40° 〜0°の 範 囲で10°毎 に5段 階に , ピ ッ チ 角 ロ を ―10゜〜10°の 範 囲 で10°毎 に3段 階 に, ヨ ー角 ヅ をO° 〜50°の 範 囲 で10° 毎 に6段 階に 変 化さ せ て ,潜 航 板( 全 長33.0cm)に 作 用す る 一 門 Z1軸 方 向の流体 力Cl ち1 ¢1を三分力 計で測定した。実験は回流水槽で行い,流速を70cm/s と し た 。 ら1の 大き さ は ,ピ ッ チ 角pがO° で ロ ール 角 ジが −20° 〜0° の とき に ,ヨ ー 角 ヅ が 大 き くな る にっ れ て 増加 し てお り , ヨー 角 ヅが40゜で 最 大 とな り50° で は 減少 し た。 ピ ッ チ角9がO° で ロー ル 角ジ が−40°〜 ―30°のとき には,ら .の大き さ は, ヨ ー角 ヅ に よる 変 化が 少 な くほ ば 一定とな っていた。 潜航板の 運動と流 体カを比 較すると ,潜航板の ッ1軸方向 の往復運 動におい て,結着 点C:が往復運動の端で折り返 した 直 後は 流 体 カが 小 さい が , 端に 来 る直前で は流体カが 大きく作 用してい た。運動 中の潜航 板に作用す る流体カ は時々刻 々と変動しており,潜航板の結着点C:の運動は,

(3)

単 振り 子 と は異 な る 性質 を 持っ た め に,3次 元 的な 振 れ 回り 運動と なり8字の ような 軌跡を描くことが明らかとなった。

【潜航板の運動モデルと運動推定】

  水槽 実験の結果 ,潜航板 の結着点C2の運動軌跡は,Yi軸方向の変化量が最も大きく,

ZI軸方 向 の変 化 量 は,yl軸 方 向 の変 化 量 と比 較 して 約5分 の1程度となっ ていたこ と か ら,潜航 板の3次元 的な運動 を2次元平 面上での 運動とし て運動モデ ルを構築 した。

漁船の速度を一定(び,O,O)として,潜航板のX2,比 22軸方向の運動方程式を線形化し た無次元化方程式で次式のように表した。

(m′+m:)ぬ′=XLu′2+ぞ

(m′十所;)サ′= Yvv′十孵一(所′十m:)甜′シ′―ぞ(¢′十ヅ )

J二 十 ゾ 二 ) チ ′=N:v+N;r′ − ロ ′ ぞ ( ¢ ′ 十 ヅ ′ )

  こ こ に , 所 は潜 航 板の 質 量 ,mx mッはX2軸,Y2軸方 向 の付 加 質 量,Xoは速 度 や に よ るX2軸 方 向 の 抵 抗 係 数 ,Tsは 道 糸張 カ ァ をxyi平 面上 ヘ 投 影し た 成 分,Eは 速 度vに よ る 此 軸 方 向 に 作 用 す る カ の 係数 ,Yは 角 速度rに よ るy軸方 向 に 作用 す るカ の係 数,Izz ん は22軸回り の慣性モ ーメント ,付加慣 性モーメン トの係数 ,Nいは速 度vに よるモー メントの 係数,Nア は角速度 ′による モーメント の係数で あり,係 数右 肩 の プラ イ ム は 無 次元 量 を 示し て いる 。

  運動 測定の結 果,速度 甜はほぼ 一定であ ったこと から,運動 方程式は ,次に示 すよ う な 道 糸 の 振 れ 角 口 ′ , 潜 航 板 の ヨ ー 角 ヅ ′ に 関 す る 微 分 方 程 式 で 表 さ れ る 。

  潜航板 の流体力 測定の結 果から弼 = ‑0.2090,F=―0.6270,ぞ=0.2090となり,潜 航 板の 形状 からm′=0.2046,m:=0.0205,m;,〓0.1432,匕=0.0134と なり,拡大 模 型潜航 板の運動測定の結果からゼ|〓3.6754,F=0.1526,N:=―0.8827,N;=一0.0117     −196―

      P I丿       II                         F               II       廿                      W                 U     

           

(4)

となった。

  実物潜航板(全長工: 33.0 cm,朋′〓0.1484,m:=0.0148,m;,〓0.1039,匕=0.0098) と 拡大 模型 潜航 板の形 状は同じであるため,流体カに関する微係数(xL,ソ,ぞ,F, N; ,N;) は拡 大模型 潜航 板と 同じ 値を 用い て, 実際 の操 業時 (船 速4ノ ット ,道糸 長 さ20 m)に おけ る道 糸の 振れ 角口 ,潜 航板 のヨー 角ヅ を推 定し た。 振れ 角¢ ,ヨー 角 ヅの 推定 値か ら潜航 板後 端のYi軸 座標C3ッ1の振 れ幅(C3ylの振幅の2倍と定義)を 求 めと ,結 着点 の位置C2が 先端 からO.lOL( 工:潜 航板の全長)では振れ幅が32.1 cm で ,0.30Lで は18.2 cmと なり ,結 着点 の位 置C2が先端 から 離れ るに した がっ て振 れ 幅 は減 少し ,結 着点の 位置C2に よっ て振 れ幅 を制 御できることが示された。結着点の 位 置C2が 先 端 か ら0.27L,船 速 が4ノ ッ ト で は , 道 糸 長 さ が5mか ら25mの 範 囲 で 変 化 し て も , 潜 航 板 後 端 の 振 れ 幅 は ほ ば 一 定 で 約 20.2 cmと な っ た 。

  本 研究 で得 られ た潜 航板 の運 動の 定量的 な把 握は,漁業者が長年の経験や勘を頼り に潜 航板 を用 いて いた こと に科 学的 な根拠 を与 えるものであり,潜航板の使用がこれ まで より 容易 にな ると 考え られ る。 また, 本研 究で把握することができた潜航板の運 動状 態を もと に, 潜航 板の 運動 が擬 餌針に 与え る影響を定量的に把握した上で,潜航 板や 擬餌 針の 漁具 の運 動と 漁獲 され る魚種 やサ イズの関係を明らかにできれば,対象 魚種 やサ イズ に適 した 漁具 の制 御方 法を漁 業者 に対して提案できる可能性がある。さ らに 漁具 の運 動状 態と 漁獲 の関 係か ら,対 象と する魚種やサイズの魚が好む運動状態 を推 定す るこ とが でき ,漁 具の 設計 に取り 入れ ることで,新たた漁具漁法の開発にも 寄与 でき ると 考え られ る。

(5)

学位論 文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教授 教授 教授 教授 助教授

山本勝 太郎 三浦汀 介 芳村康 男

不破  茂 (鹿児島大学)

平石智 徳

学 位 論 文 題 名

曳 繩漁具潜 航板の 振れ回り運動に関する研究

  曳繩漁業は,小型の漁船を用いて,釣竿,道糸,擬餌針などから構成される漁具を 高速で曳き回して行う釣漁業である。釣漁業の中では最も積極的な漁業であり,主と してマグロ,カツオ,ブリ,シイラなどの遊泳カのある回遊性魚類を対象として行わ れる。道糸と擬餌針の問には擬餌針に自然の魚に似せた運動を与えるために潜航板が 取り付けられており,この潜航板の動きが漁獲を左右すると言われている。しかし,

潜航板の運動が定量的に把握されていないために,漁獲量に個人差が生じたり,漁獲 時に魚体に損傷を与えたりするなどの問題が生じている。

  本研究は,曳繩漁具の漁獲メカニズムを解明することを目的として,国内で広く使 用されている先端が尖った船型の潜航板の運動を道糸結着点の運動と潜航板の回転 運動に分け,回流水槽実験によって,結着点の運動軌跡の推定,潜航板の運動測定,

流体力測定を行い,潜航板の振れ回り運動のメカニズムを明らかにし,さらに,操業 時における潜航板の振れ回り運動を推定するために運動モデルを用いた理論的な解 析 を 行 っ た も の で あ る 。 得 ら れ た 結 果 は 以 下 の よ う に 要 約 さ れ る 。   1)実物の潜航板(全長31.5 cm)を使用して回流水槽実験を行い,三分力計を用 いて道糸張カの3軸成分を測定し,道糸張カと3軸成分の比と道糸長さの関係から道 糸と潜航板の結着点の運動軌跡を推定している。その結果,結着点の運動軌跡の振幅 は左右方向成分が最も大きく,前後方向成分,上下方向成分は左右方向成分のほば1/5 程度であること,また前後方向,左右方向,上下方向の運動周期の比は1:2:1で あり,このため潜航板は左右方向に1往復運動する問に前後方向,左右方向には2往 復分の運動を行い,結着点は3次元的に振れ回る運動を繰り返しながら8字のような 軌跡を描くことを明らかにしている。

  2)潜航板の拡大模型(全長66.O cm)を製作し,その中に運動計測ユニットを内 蔵させ,振れ回り運動における潜航板の前後方向,左右方向の加速度と運動姿勢を測 定している。加速度から得られた左右方向の速度は前後方向の速度の約3分の1以下 で,左右方向速度の変動周期は前後方向周期の2倍となっている。また,潜航板の重 心軸回りの回転はピッチ角がほば0゜で,ロール角とヨー角は約40°の振幅で変動

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し て おり ,主 にこ の2つ の回 転角 の変 化に よっ て潜 航板 は流 れに 対す る姿勢 を時 々 刻 々 に 変 化 さ せ な が ら 振 れ 回 り 運 動 を し て い る こ と を 明 ら か に し て い る 。   3) 運 動姿 勢 測 定 の 結 果 を も と に ,ロ ール角 を‑40° `O° の範 囲で10° 毎に5段 階 に ,ピ ッチ 角を ー10°‑v10° の範 囲で10゜毎 に3段階 に, ヨー 角をO°‑50°の 範 囲 で10゜毎 に6段 階に 変化 させて,潜航板に作用する流体カを三分力計で測定してい る。その結果,潜航板の左右の往復運動において,潜航板が往復運動の端で折り返し た直後は流体カが小さく,端に来る直前では流体カが大きく作用している。このため 潜航板が両端に向かって運動する時には外向きの流体カが作用し,一方道糸張カは常 に内向きに作用するために潜航板を回転させるモーメントが発生し,潜航板の運動は 3次 元 的 な振 れ 回 り 運 動 と な り8字の よう な軌 跡を 描く こと を明 らか にして いる 。   4)次 に, 潜航 板の 重心 位置 にお ける 運動 を剛体 の6自由度運動方程式を基礎に,

水 槽実 験に おけ る潜航 板の 運動 計測 結果 から ,潜 航板 の3次元的な運動を2次元平面 上での運動として単純化した運動モデルを構築し,潜航板の運動を道糸の振れ角と潜 航 板の ヨー 角に 関する 無次 元化した連立2階線形微分方程式で表している。そして,

この運動方程式中の係数に運動計測によって得られた値と既知の値を代入して解き,

実 操業 時( 船速4ノッ ト, 道糸 長さ20m) にお ける 道糸 の振れ角と潜航板のヨー角を 推定している。その結果,擬餌針の結着点となる潜航板後端の振れ幅は道糸の結着点 が先端から離れるにしたがって振れ幅は減少し,結着点の位置によって潜航板後端の 振れ幅を制御できることを示している。

  本研究で得られた潜航板の運動の定量的な把握は,漁業者が長年の経験や勘を頼り に潜航板を用い.ていたことに科学的な根拠を与えるものと高く評価できる。また,本 研究で把握することができた潜航板の運動状態をもとに,潜航板の運動が擬餌針に与 える影響を定量的に把握した上で,潜航板や擬餌針の運動と漁獲される魚種や魚体長 の関係を明らかにできれぱ,対象魚種や魚体長に適した漁具の制御方法を漁業者に提 案できる可能性がある。

  よって,審査員一同は本論文が博士(水産科学)の学位を授与される資格のあるも のと判定した。

参照

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