博 士 ( 生 命 科 学 ) 赤 津 ち づ る
Development and characterization of a monoclonal antibody, a useful tool for the biosynthetic analysis of chondroitin sulfate/ dermatan sulfate found in the central nervous system
(脳神経系に存在するコンドロイチン硫酸ノデルマタン硫酸の 生 合 成 機 構 の 研 究 に 有 用 な 単ク ロ ー ン 抗 体 の 開 発 )
学位論文内容の要旨
グリ コサミノグリカン(GAG) は、動物細胞の細胞表面や細胞外マトリックスに普遍的 に存在する直鎖状の多糖鎖で、芯夕ンバク質と呼ばれる多種類のタンバク質に共有結合した プロ テオグリカ ン
(PG)の形で 存在し、様々な生理機能の発現に関与している。GAG は、
ウロン酸(グルクロン酸(GlcA) またはイズロン酸(IdoA) )とアミノ糖からなるニニ糖が長 く連なった基本骨格を有し、アミノ糖の種類により、コンドロイチン硫酸(CS) とへバラン 硫 酸(HS) に 大 別 され る 。CS は 、GlcA と
N‑ア セチルガ ラクトサ ミン(GalNAc) の二糖 単 位か らなり、HS は
GlcAとグルコ サミン(GlcN) か らなる。 両糖鎖は、
GlcAのIdoA への異 性化や硫酸基の付加といった修飾を不均一に受けるため、複雑な構造多様性を有する。GAG は、成長因子や神経栄養因子などのタンパク質と結合して、その機能を調節することにより 生理作用を発揮すると考えられているが、その際、夕ンバク質はGAG 鎖上の特定のオリゴ 糖配列を認識して結合する場合がある。したがって、GAG 鎖の生合成は厳密に調節されてい ると考えられ、生合成機構の解明は
GAGの機能を知る上で重要である。本研究では、特に
CSに着 目し、まず、脳における
CSの解析を行った。脳では、成人でも、海馬などで毎日
5,000 〜10 ,000 個の新しい神経細胞が生まれているが、その分子メカニズムの構造的基盤は不 明である。マウスの海馬細胞のin vitro の培養系を用いたこれまでの研究から、CS が神経再 生の一端を担う分子としてその役割が注目されている。
脳において
CSは、
CSとデルマタン硫酸(DS )とのハイブリッド型糖鎖を形成して存在 する 。DS は
GlcAが
IdoAに異性化したCS の構造異性体である。これまでに、脳が著しく発 達する胎生期のプタの脳のCS/DS 鎖は、成獣の脳に比べてDS 含量が高く、神経突起の伸長 促進活性や様々な増殖因子との結合能が有意に高いことが報告されている。さらに、生後の 発達期のマウス脳では、小脳における
DSの含量が高くなっており、DS ドヌインの生合成を 担う酵素群の発現も小脳に特異的であった。これらの知見から、CS/DS 鎖中のDS ドメイン の脳の発達における重要な役割が示唆された。そこで、DS の時間的空間的な発現に関する より 詳細な知見 を得るた め、DS 生合成で
GlcAの
IdoAへの異性化を司る
DS‑工ピメラーゼ
(DS‑epi)について、発現時期や発現領域を解析した。まず、DS‑epi の2 種類のアイソザイ ム、
DS‑epilと
DS‑epi2の
mRNAの発現を加ゴf 眦ハイブリダイゼーション法および定量
PCR‑ 318―
法 に よ り 調 べ た 。 マ ウ スUniGeneデ ー タ ベ ー ス 検 索 に よ り 得 ら れ た マ ウ スDS‑epilお よ び DS‑epi2の 塩 基 配 列 を 基 に 、 両 遺 伝 子 のcDNAを ク ロ ー ニ ン グ し 、 そ れ を 鋳 型 に35Sで 標 識 き れ た そ れ ぞ れ の 遺 伝 子 に 対 す るcRNAプ 口 一 ブ を 合 成 し 、 生 後 発 達 段 階 の マ ウ ス 脳 の 凍 結 切 片 を 用 い てin situハ イ プ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン を 行 っ た と こ ろ 、DS‑epilの 発 現 は ほ と ん ど 見 ら れ ず 、 一 方 、DS‑epi2は 脳 の 広 範 囲 に 発 現 が 確 認 さ れ た 。 次 に 、 各 発 達 段 階 の マ ウ ス 脳 を 嗅 球 、 大 脳 / 中 脳 、 小 脳 、 橋 / 延 髄 に 分 け 、 各 部 位 か ら 抽 出 し た 総RNAを 用 い てcDNAを 合 成 し 、 そ れ を 鋳 型 に 定 量PCR法 を 用 い てDS‑epilお よ びDS‑epi2遺 伝 子 の 発 現 量 を 定 量 し た 。 調 べ た 全 て の 部 位 お よ び 発 達 段 階 に お い て 、DS‑epi2の 発 現 がDS‑epilよ り 常 に 高 く 、in situハ イ プ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン の 結 果 と 一 致 し て い た 。 さ ら に 、 実 際 の 脳 組 織 中 のCS/DS鎖 の 二 糖 組 成 を 解 析 す る た め 、 マ ウ ス 脳 の 各 部 位 か らCS/DS鎖 を 抽 出 し 、 基 質 特 異 性 の 異 な る コ ン ド 口 イ チ ナ ー ゼ で 消 化 し て 産 生 し た 二 糖 を 螢 光 標 識 し 、 陰 イ オ ン 交 換HPLCに よ る 分 析 を 行 い 、 CS/DS二 糖 の 量 を 算 出 し た 。DS構 造 は 調 べ た 全 て の 部 位 に 存 在 し て い た が 、 特 に 小 脳 に お い て そ の 割 合 が 高 か っ た 。DS‑epi2の 発 現 は 脳 の 広 範 囲 に 渡 っ て お り 、 部 位 ご と の 発 現 量 の 差 は 見 出 さ れ な か っ た 。 し た が っ て 脳 に お け るDS構 造 の 生 合 成 で は 、 異 性 化 に 続 い て お こ る 硫 酸 化 が 律 速 で あ る こ と が 示 唆 さ れ 、 脳 に お け るCS/DSの 生 合 成 機 構 の 一 端 を 明 ら か に す ることができた。
脳 に お い て は 、CSだ け で な くHSも そ の 発 達 に 関 与 し て い る 。HSの 合 成 に 関 与 す る 酵 素 で あ るEXT1を 、 脳 で 特 異 的 に 欠 損 さ せ た マ ウ ス は 脳 の 著 し い 奇 形 が 認 め ら れ 、HSの 脳 の 発 達 に お け る 重 要 性 が 明 ら か に さ れ て い る 。 し た が っ て 、 両 者 の 発 現 部 位 や 時 期 の 特 異 性 を 調 べ る こ と は 、 脳 の 発 達 に お け る そ れ ぞ れ の 機 能 を 解 明 す る 上 で も 重 要 で あ る 。CSとHSは 、 そ の 構 造 の 大 部 分 を 占 め る 二 糖 繰 り 返 し 領 域 の 構 造 が 大 き く 異 な る に も か か わ ら ず 、 両 者 に 共 通 の 結 合 領 域 と 呼 ばれ る四 糖構 造GlcA‑Gal‑Gal‑Xyl (Gal, ガラ ク トー ス;Xyl,キ シ口 ース ) を 介 し て 、 芯 夕 ン バ ク 質 の セ リ ン 残 基 に 結 合 し て い る 。 生 合 成 の 過 程 に お い て 、 両GAG鎖 は 、 最 初 に 合 成 さ れ た 結 合 領 域 上 にCSま た はHS多 糖 鎖 が 生 合 成 さ れ る と い う 過 程 を 経 る が 、 共 通 の 構 造 上 に 異 な るGAG鎖 が 生 合 成 さ れ る 仕 分 け の ヌ カ ニ ズ ム は 解 明 さ れ て い な い 。 こ の こ と を 明 ら か に す る に は 、 結 合 領 域 の 詳 細 な 解 析 が 重 要 で あ り 、 こ れ ま で に 、CSとHSの 結 合 領 域 で は 微 細 修 飾 構 造 が 異 な る こ と が 報 告 さ れ て い る 。Xylの り ン 酸 化 はCSとHSの 両 者 に 見 ら れ 、Galの4位 ま た は6位 の 硫 酸 化 はCSの 結 合 領 域 に の み 見 出 さ れ て い る 。 こ の 修 飾 構 造 の 違 い がCSとHSの 仕 分 け 合 成 の シ グ ナ ル に な っ て い る 可 能 性 が あ り 、 結 合 領 域 の 微 細 修 飾 構 造 の 違 い を 識 別 す る 特 異 抗 体 が 開 発 さ れ れ ば 、 両GAG鎖 の 仕 分 け 合 成 機 構 を 解 析 す る 上 で 有 用 な ツ ー ル と な り 得 る 。 本 研 究 で は 、CSの 結 合 領 域 に 対 す る 単 ク ロ ー ン 抗 体 を 作 製し、その反応性 を解析した。
サ メ 軟 骨 由 来 のCS‑PGを プ 口 テ ア ー ゼ で 消 化 し て 調 製 し たCS‑ベ プ チ ド を コ ン ド ロ イ チ ナ ー ゼABCで 徹 底 消 化 し 、 二 糖 繰 り 返 し 領 域 を 分 解 、 除 去 し て 結 合 領 域 を 含 む 六 糖 − ペ プ チ ド 画 分 を 調 製 し た 。 さ ら に 、 酢 酸 水 銀 で の 処 理 に よ り 、 六 糖 ‐ ベ プ チド 画 分の 非還 元末 端の 不 飽 和 ウ 口 ン 酸 を 除 去 し 、 五 糖 − ベ プ チ ド 画 分 を 得 た 。 こ れ を キ ャ リ アタ ン バク 質に ぺプ チド 部 分 を 介 し て 結 合 さ せ た も の を 抗 原 と し て 、 マ ウ ス を 免 疫 し た 。 血 中 の 抗 体 価 が 十 分 に 高 値 を 示 し た 時 点 で 、 マ ウ ス か ら 脾 臓 を 摘 出 し 、 常 法 に 従 っ て ハ イ ブ リ ド ー マ を 作 製 し 、 単 ク 口 ー ン 抗 体 を 得 た 。 結 合 領 域 の 六 糖 − ベ プ チ ド 画 分 に 対 す る 反 応 性 を 基 にス ク リー ニン グし 、高 い 反 応 性 を 示 し た ク ロ ー ン4E1/D6に つ い て 、 詳 細 に エ ピ ト ー プ 構 造 を 探 索 し た 。 修 飾 構 造 や 長 さ の 異 趣 る 結 合 領 域 オ リ ゴ 糖 ― ベ プ チ ドと の 反応 性、 脱硫 酸化 酵 素や 脱1」ン 酸化 酵素 で処 理 し た 結 合 領 域 オ1」 ゴ 糖 − ベ プ チ ド ヘ の 反 応 性 の 変 化 な ど をELISA法 に よ り 解 析 し た 結 果 、 4E1/D6はGalNAc( 土6 ‑ O‑ sulfate) ‑ GlcA‑ Gal‑ Gal‑ Xylという糖鎖構造を認識していると示唆され た 。 一 方 、 結 合 領 域 オ リ ゴ 糖 ― ペ プ チ ド を ア ル カ り で 処 理 し て べ プ チ ド 部 分 を 除 去 す る と 、
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4E1/D6
との反応性が低下したことから、
4E1/D6はべプチド部分も認識していることが判明 した。抗原として用いた結合領域オリゴ糖−ベプチドの質量分析とアミノ酸組成分析の結果か ら、4E1/D6 は
Ser、
Pro、
Gly、
Gluの四アミノ酸残基をエピトープ構造に含むことが示唆さ れた。4E1/D6 は、フローサイトヌトリーで解析した結果、チャイニーズハムスター卵巣(CHO) 細胞には反応性を示したが、GAG 鎖を合成できな,い変異株に対する反応性は著しく低下した。
このように、申請者はCS 由来の結合領域に特異的に反応する抗体4E1/D6 を初めて開発した。
この抗 体は今後 、結合領 域の解析 に非常に 有用なツー ルとして の利用が期待される。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査 教 授 菅 原 一 幸 副 査 教 授 綾 部 時 芳 副 査 教授 西村紳一郎 副 査 教 授 幸 田 敏 明 副 査 教授 小布施力史 副 査 教 授 門 出 健 次 副 査 准教授 山田修平
Development and characterization of a monoclonal antibody, a useful tool for the biosynthetic analysis of chondroitin sulfate/ dermatan sulfate found in the central nervous system
( 脳 神 経系 に存 在す るコン ドロ イチ ン硫 酸ノ デル マタ ン硫 酸の
生 合 成 機 構 の 研 究 に 有 用 な 単 ク ロ ー ン 抗 体 の 開 発 )
グリコサミノグリカン(GAG) は芯タンパク質に結合したかたちで動物細胞の細胞表面 や細胞外マトリックスに普遍的に存在する直鎖状の多糖鎖である。近年、GAG 鎖が様々な生 理機能の発現に関与するので注目され、盛んに研究されているが、その生合成機構には不明 な点が多い。本論文は、このような状況にあるGAG 鎖のうち、特にコンドロイチン硫酸(CS ) に着目し、その生合成機構の一端を明らかにすることを目的として行われたものである。
本論文第二章では、生後発達期のマウス脳を用いて、CS 鎖の生合成過程において、その 構造異性体であるデルマタン硫酸(DS) ヘ異性化される過程を触媒するDS‑ エピメラーゼ
(DS‑epi)の発現の調査結果が報告された。DS‑epi の二種類のアイソザイムのうち、生後発 達 期の脳ではDS‑epil に比べDS‑epi2 の発現が常に高く、脳におけるDS 構造の異性化は
DS‑epilではなくDS‑epi2 によって担われていることが示唆された。第三章では、CS 鎖が、
もう1 種類の主要なGAG 鎖であるヘパラン硫酸(HS )鎖とどのように区別して生合成され るかを調べるために、CS 鎖の生合成過程において最初に生合成され、HS 鎖と共通の糖鎖骨 格を有するが異なる微細修飾構造を有するCS 鎖の、芯タンパク質への結合領域に対する単 ク ロ ー ン 抗 体 を 開 発 し 、 そ の エ ピ ト ー プ 構 造 を 決 定 し た と い う 内容 で あ っ た 。
審査員からは、開発された抗体はHS の結合領域には反応しないのかという質問があった。
この質問に対し、発表者からは、実際にHS の結合領域に対する反応性は確認できていない が、推定したエピトープ構造としてCS 鎖のみが有する〃.アセチルガラクトサミン残基を含
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んでいること、またペプチド構造としてCS 鎖の付加部位付近に見られるコンセンサス配列 を含んでいることから、CS のみに反応する可能性が高いという回答があった。さらに、この 抗体はCS 鎖の芯タンパク質への結合領域の糖鎖部分とペプチド部分両者を認識しているた め 、 芯 タ ン パ ク 質 の
CS多 糖 鎖 付 加 部 位 の 検 出 に も 有 用 で あ る と も 回 答 し た 。
この論文は、
CS鎖の生合成メカニズムを明らかにするための重要な手がかりを提起した 点で高く評価され、今後、CS 鎖の生理機能を解明し、さらに創薬の標的分子などとしての応 用にっながることが期待される。よって審査員一同は、これらの成果を高く評価し、申請者 が 博 士 ( 生 命 科 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る と判 定 し た 。
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