博 士 ( 地 球環 境 科学 )
赤 坂宗 光
学位論文題名
Characteristics of biological invasion by Larix kaeTnpfe7i (Lamb
. )
Carriere (Pinaceae) on Mount Koma,
Japan(渡 島 駒ケ 岳 にお け るカ ラ マツ の生 物 学的侵入の 特性)
学位論文内容の要旨
生物学的侵入は、非在来種が自然生態系において定着・拡大すること を意味し、特に撹乱地で顕著となると考えられている。したがって、生 物学的侵入の解明は、生態系動態の研究ばかりでなく、保全・修復生態 学上も重要である。本研究は、
1992年の噴火以降、現在でも強い撹乱と ストレスを受ける渡島駒ケ岳において、北海道非在来樹種であるカラマ ツの生物学的侵入をモデルに、特に群集発達初期段階の構造を大きく規 定 する実生段階 (樹高
0.3m以下)と 稚樹段階(樹 高
0.3‑1.3m)に注目 して研究を行なった。
カラマツの天然性実生は、在来優占樹種であるダケカンパより高密度 でみられ、特に高標高で相対優占度を増加させるミネヤナギバッチ中で よく定着していた。そこで、カラマツとダケカンバの種子を、標高別に
3生息地(裸地、ミネヤナギバッチ、カラマツ樹冠下)に播種し、発芽率、
生 存率を、
2000年春か ら2002 年秋までに記録した。2002 年秋に全個体 を掘り取り資源分配量、分枝頻度を測定した。発芽率は両種ともカラマ ツ樹冠下で高いが、標高間では差が見られなかった。生存率は、両種に おいて標高間・生息地間ともに有意な差はなかったが、カラマツはダケ カンバより高い生存率を示した。カラマッは地上部現存量/地下部現存量 比、樹高/地際直径比および分枝頻度が生息地や標高によって異なり、裸 地や高標高において、高さ成長を抑制し、多分枝形態を示し、かつ、よ り多くの資源を地下部に分配し、強風・貧栄養土壌環境に適した形態を 示していた。裸地よりも被陰を受けるミネヤナギパッチ等では、高さ成 長を優先し、細い樹幹であるとともに、あまり分枝しない形態を有し、
より高い位置で光を獲得するのに適した形態であった。一方、ダケカン
バは、生息地間での形態的差異があまりみられなかった。さらに、樹木
成 長に影響を与 えると考えられている外生菌根菌のカラマツにおける
定着状況を調査した。その結果、外生菌根定着頻度は標高および生息地 間で異なった。即ち、外生菌根定着頻度は、火山堆積物中の窒素含量と 対応し、窒素含量の最も多いミネヤナギパッチで最も低く、標高上昇に よる窒素量の減少に伴い増加していた。しかし、外生菌根菌の定着がカ ラマツの葉内窒素含有量および成長に与える影響は明瞭には検出でき ず、生息地環境の方が実生の成長にはより重要なことが示唆された。
稚樹段階での加入数、生存率、成長率をカラマツと優占する在来高木 性木本植物であるカパノキ属とハコヤナギ属の樹高
30cm以上の全個体 に 対 し て
1997年 か ら
2004年 ま で 標 高 に 沿 い設 置 し た
16の
20mX20m方形区の追跡調査結果をもとに解析した。カラマツは在来2 属よりも加 入数が多く、かつ生存率も高く、特に生存率は98 %以上であった。一方、
カバノキ属においては加入が稀であった。カラマツが主である林冠はカ ラマツの生存率とカバノキ属の成長率を除き、3 属の加入数、生存率、
成長率に負の影響を与えていた。以上のことからカラマツは稚樹段階へ の加入に成功すれば侵入定着が確実であることが示唆された。3 属とも に林冠が発達した低標高およびストレスの最も高い高標高において加 入数は制限されていた。カラマツは中程度に林冠が発達している中標高 において顕著な加入がみられた。
以上のことから撹乱・ストレスが強い環境下では、生物学的侵入種は
生息地の環境に応じた成長様式をとることで、高い生存率と成長率を示
すことが示唆された。特に、森林限界付近における群集動態は、生物学
的侵入に強く影響されると結論できた。
学 位 論 文 審 査の 要 旨 主 査
副 査 副 査 副 査
助教授 教授 教授 助教授
露 崎 史 郎 甲 山 隆 司 原 登志彦 春 木 雅 寛
学位論文題名
Characteristics of biological invasion by Larix kaeTnpferi (Lamb
.)
Carriere (Pinaceae) on Mount Koma,
Japan(渡 島駒 ケ岳 におけるカラマツの生物学的侵入の特性)
生 物学 的侵 入は 、非 在来 種が 自然生 態系 にお いて 定着 ・拡大することを意味 し、 特に 撹乱 地で 顕著 とな ると 考えら れて いる 。し たが って、生物学的侵入の 解明 は、 生態 系動 態の 研究 ばか りでな く、 保全 ・修 復生 態学上も重要である。
申請 者は 、1992年 の噴 火以 降、 現在で も強 い撹 乱と スト レスを受ける渡島駒ケ 岳に おい て、 北海 道非 在来 樹種であIるカラマツの生物学的侵入をモデルに、群 集発 達初 期段 階の 構造 を大 きく 規定す る実 生段 階( 樹高0.3m以下)と稚樹段階
( 樹 高0.3‑1.3 m)に 注 目 し た 研 究 を 継 続 的 に 行 な い 、 以 下 の 知見 を 得 た 。 カ ラマ ツの 天然 性実 生は 、在 来優占 樹種 であ るダ ケカ ンバより高密度でみら れ、 特に 高標 高で 相対 優占 度を 増加さ せて いる ミネ ヤナ ギパッチ中でよく定着 して いた 。そ こで 、カ ラマ ツとダケカンバの種子を、標高別に3生息地(裸地、
ミネヤナギパッチ、カラマツ樹冠下)に播種し、発芽率および生存率を、2000年 春か ら2002年 秋ま で追 跡し た。2002年 秋に 全個 体を 掘り 取り資源分配量、分枝 頻度 を測 定し た。 発芽 率は 両種 ともカ ラマ ツ樹 冠下 で高 いが、標高間では差が 見られなかった。生存率は、両種において標高間・生息地間ともに有意な差はな いが 、カ ラマ ツは ダケ カン バよ り高い 生存 率を 示し た。 カラマツは地上部現存 量/地下部現存量比、樹高/地際直径比および分枝頻度が、生息地や標高によって 異な るこ とを 明ら かに した 。即 ち、カ ラマ ツは 裸地 や高 標高において、高さ成 長を 抑制 し、 多分 枝形 態を 示し 、かつ 、よ り多 くの 資源 を地下部に分配し、強 風・ 貧栄 養土 壌環 境に 適し た形 態を示 して いた 。ま た、 裸地よりも被陰を受け るミ ネヤ ナギ パッ チ等 では 、高 さ成長 を優 先し 、細 い樹 幹であるとともに、あ まり 分枝 しな い形 態を 有し 、よ り高い 位置 で光 を獲 得す るのに適した形態であ った。一方、ダケカンバでは、生息地問での形態的差異をあまり示さなかった。
さらに、樹木成長に影響を与えると考えられる外生菌根菌のカラマツにおける 定着状況を定量化した。外生菌根定着頻度は標高および生息地間で異なり、外 生菌根定着頻度は、火山堆積物中の窒素含量と対応し、窒素含量の最も多いミ ネヤナギパッチで最も低く、標高上昇による窒素量の減少に伴い増加していた。
しかし、外生菌根菌の定着がカラマツの葉内窒素含有量船よび成長に与える影 響は明瞭には検出できず、生息地環境の方が実生の成長にはより重要なことが 示された。稚樹段階での加入数、生存率、成長率を、カラマツと在来高木優占 種群である カバノキ属とハコヤナギ属の樹高0.3m以上の全個体に対して1997 年から2004年まで標高に沿い設置した方形区の追跡調査結果をもとに解析した。
カラマツは在来2属より加入数が多く、かつ生存率も高く、特に生存率は98% 以上であった。一方、カバノキ属では加入が稀であった。カラマツが主である 林冠はカラマツの生存率とカバノ キ属の成長率を除き、3属の加入数、生存率、
成長率に負の影響を与えていた。以上のことからカラマツは稚樹段階への加入 に成功すれば侵入定着が確実であることが示された。3属ともに林冠が発達した 低標高およぴストレスの最も高い高標高において加入数は制限されていた。カ ラマツは中程度に林冠が発達している中標高において顕著な加入がみられた。
申請者は、以上の成果をもとに、撹乱・ストレスが強い環境下では、生物学 的侵入種は、実生・稚樹段階で既に生息地の環境に応じた成長様式をとること で、高い生存率と成長率を示し、特に、森林限界付近における群集動態は、生 物学的侵入に大きく影響されると推察していた。これらの知見は、これまで明 確にされていない稚樹・実生段階における生物学的侵入機構の一因を在来種と の比較により提示したものであり、その成果は、植物生態学研究を含めた地球 環境科学研究に大きく寄与するものと確信する。
審査員一同は、これらの成果を評価し、研究者として誠実かつ熱心であり、
大学院課程における研鑚や取得単位なども併せ、申請者が学位を受けるのに十 分な資格を有するものと判定した。