博 士 ( 農 学 ) 舟 根 和 美
学 位 論 文 題 名
デ キ ス ト ラ ン ス ク ラ ー ゼ の 活 性 部 位 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
デ キ ス ト ラ ン ス ク ラ ― ゼ (EC2.4.1.5,DSase) は 、Leuconostoc属 や Streptococcus属等 の細菌が 培養時に 生産する 菌体外酵 素で、スクロースのD‑グ ルコ シル基をa‑D‑グルカン に転移してデキス卜ランを合成する反応を触媒する。
デキ ストラン は古くか ら製糖工業においてパイプを詰まらせるなどの障害物とし て知 られてい た。1950年代 には代用血漿としての用途が開発され、1960年代以降 は、 虫歯の原 因として 注目されてきた。また、デキス卜ランを原料としたゲル瀘 過剤が開発され、生化学分野の研究に広く用いられている。
Leuconostoc属 菌 のDSaseは、 ス ク ロー ス によ り 生 産を 誘 導 され る酵素 で、
Streptococcus属菌 のDSaseは、グルコシル卜ランスフェラーゼ(GTFase)とも呼ば れ、 構成酵素 である。GTFaseの活性中心に、スクロースのグルコース部分が結合 する アスパラ ギン酸が 存在する ことがす でに報告 されている。Leuconostoc属菌 のDSaseでの活性中心のアミノ酸残基の検討については、ヒ、スチジンが酵素の活 性 発 現 に 関 与 し て い る と い う 報 告 が あ る が 、 詳 細 は 明 ら か で は な く 、 Streptococcus属 菌 の GTFaseと の 異 同 性 の 比 較 も 行 わ れ て い な い 。 本研究では、スクロースを分解し、グルコ―ス部分をa‑l,6‐結合でっなぎデキ ス卜ランを合成するL. mesenteroides NRRLB‐512株のDSaseの活性部位を明らか にす ることを 目的とし 、各種の化学修飾法を用いて活性発現に関与するアミノ酸 の検索を行った。
1.デキストランスクラ―ゼの構造
L. nresenteroides B‑512株よりDSaseの新規精製法を確立し、蛋白1mgあたりの デキストラン量Img (DSW)と0.Img (DSW−G)の標品を得た。また、B‑512Fの構成変異株 SH3002より、デキストランをまったく含まないDSase (DSM―G)を精製した。いずれ の 酵 素もNative―およ びSDS‑PAGEにおい て均一で 、それらの 移動度は 等しく、
SDS−PAGEで分子量約170kDaであることを示した。セファロ―ス6Bのグル瀘過にお いて 、デキス トランが 僅かでも 存在する とDSaseは分子 量数百万の会合体を形成 した が、デキ ストラン を全く含まない変異株の酵素では、分子量約170kDaのモノ マ― の状態を 維持した 。しかし、このモノマーを保存しておくと、時間が経過す るに っれて自 然に会合 体を形成 した。DSaseの 部分アミ ノ酸配列を調べるため、
DSW‑Gをり シルエン ドペプチ ダ―ゼま たは卜リ プシンで 分解した後、高速液体ク 口 マ 卜グ ラ フ ィ− (HPLC)に よ り 、C18逆相カラム を用いて ペプチド を分離し
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た 。 得 ら れ たフっ のべ プチ ドの アミ ノ酸 配列 を決 定し 、Streptococcus属 薗の GTFaseと比 較す ると 、5っ がGTFaseと約50‑ 70% の相 同性を示し、そのうち1つ が グ ル カ ン 結 合 部 位 の 繰 り 返 し 配 列 に 相 当 す る と 推 定 で き た 。 2.化学修飾法によるりシン残基の役割の解明
オルトフタルアルデヒド(OPA)によってアミノ基を化学修飾することにより、
DSaseのり シン 残基 の役割 を検討した。1.25mMのOPAによる30分の修飾反応によ り、ほとんどの活性を失ったが、基質であるスクロースとデキス卜ラン、および ス クロ ース のア ナ口 グで あるスクロースモノカプロン酸によって、OPAによる失 活 の抑 制効 果が みら れた 。基質または基質アナログを保護剤として加えてOPAに よ る修 飾を 行い 、こ れを 卜リプシンで完全分解してHPLCにより、C18逆相カラム を用いて分離した。スクロースに保護されるりシンを含むと考えられるぺプチド 2っを 分離 し、 アミ ノ酸配 列を決定し、GTFaseとのアミノ酸配列を比較すると、
いずれも活性中心よりN―末端側に相同性がみられた。これら2っのペプチドは、
デキス卜ランによっても修飾から保護された。デキス卜ランによって保護される り シン を含 むペ プチ ドは 、上 記のN一末 端側 のペ プチ ドの他に、2っ分離された が、これらは、活性中心より遥かC‐末端側の、デキス卜ラン結合部位(C‐末端か ら1/3の範囲)とされている繰・り返し配列に近い部分に相同性がみられた。分離 したペプチドに相同性のあるGTFaseの配列は、すべて、活性中心部位附近(N一末 端 から2/3の範 囲) に含ま れていたが、いずれも活性中心のアスパラギン酸から 離れた部位に存在した。以上の結果から活性中心よりN‑末端側のりシンが、スク ロ―スおよびデキストランとの結合に、活性中心部位のC‐末端に近いりシンがデ キ スト ラン の結 合に 関与 し、 活性 発現 に補 助的 な役割 を果たしていると推定し た。
3.化学修飾法によるイミダゾール基の役割の解明
ジエチルピロカ―ボネート(DEP)によってイミダゾ―ル基を化学修飾すること により、ヒスチジン残基の役割を検討した。DSaseをDEPにより化学修飾すると、
30mMのDEPによ り36分修飾 反応を行っても活性の低下は、65%であった。また、
2っの 基質 、ス クロ ースや デキ スト ラン を保 護剤 とし て加えてもDEPによる阻害 の抑制効果はみられなかった。残存活性と、修飾されたヒスチジン残基の数の関 係を調べた結果、10個のヒスチジンが修飾されても50%の失活レか起こらなかっ た 。こ のこ とか ら、DEPに よる活性の低下は、活性発現に非特異的なヒスチジン 残基の修飾による′ものと推定され、本酵素におけるヒスチジンは、リシンよりも 重要性が低いものと考えられた。
4.化学修飾法によるカルボキシル基の役割の解明
水溶性カルボジイミド(EDC)によルカルボキシル基を化学修飾することによっ て、これまでにGTFaseで知られている活性中心のアスパラギン酸以外の活性発現 に 必須 なア スパ ラギ ン酸 あるいはグルタミン酸の存在を明らかにした。DSaseを lOmMのEDCとlOOmMの グ リ シ ン エ チ ル エ ステル(GEE)に より 修飾 した とこ ろ、
24分の 反応 によ りほ ぼ完 全に 失活 した 。ま た酵 素1分 子に対し、1個のカルボキ シル基の修飾により完全に失活した。スク口一スにより失活は抑制されたが、デ キス卜ランを加えると、転移活性を僅かに保護し|スクラーゼ活性の失活を促進 した。
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スク口一スモノカプ口ン酸を保護剤として加えてEDCとGEEによるDSaseの修飾を 行った後、保護剤を取り除いて、EDCと反応して螢光を発するN‐(1‐ナフチル)
エチレンジアミン(EDAN)で再び修飾した。これをトリプシンで分解して、ベプ チドをHPLCによりCi8逆相カラムを用いて分離した。ラベルされたぺプチドを分 離し、アミノ酸配列を決定した(Leu‑Gln‐Glu‑Asp‑AsnーSer‑Asn‑Val‑Val‑Valー Glu‑Ala)。この配列をGTFaseと比較したところ、58%の相同性がある配列を見出 した。この配列は、触媒活性のあるアスパラギン酸を含む活性中心とは異なり、
それよりも25―35アミノ酸残基N‐末端側に位置していた。分離したべブチドは、
既知の活性中心のアスパラギン酸に次いで重要なカルボキシル基を含んでいると 推定した。以上の結果から、デキストランスクラーゼにおいては、カルボキシル 基が最も重要であり、活性発現に必要なカルポキシル基は、スクロースのグルコ ース部分と結合するアスバラギン酸のほかに少なくとも1つ以上あると考えられ た。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
デキストランスクラーゼの活性部位に関する研究
本論 文は 、和 文95頁、図19、表15、6章からなり、ほかに参考論文12篇が付さ れている。
デキストランスクラーゼは、Leuconostoc属やStreptococcus属等の細菌が生 産する薗体外酵素であり、aーグルコシル基転移反応によってショ糖からデキス卜 ランを合成する。デキストランは、主に。ー1、6−グルコシル結合からなる高分子多 槭 で あ る が 、 代 用 血 漿 や グ ル 漉 過 剤 の 原 料 と し て 広 く 利 用 さ れ て い る 。 最近Streptococcus mutansのデキストランスクラ―ゼの一次構造が明らかにさ れ たが 、Leuconostoc属細菌の本酵素の構造についてはほとんど解析がなされて いない。
本研 究は 、代 表的な実用菌株のLeuconostoc mesenteroides NRRLB―512F株の デキストランスクラ―ゼの活性発現に関与するアミノ酸残基を各種の化学修飾法 を用いて検索することを意図してなされたものであり、研究の結果は以下のよう に要約される。
1.L. mensenteroldes B‑512F株か らデキ ストランスクラ―ゼの精製法を確 立し、蛋白質Img当ルデキストランImgあるいはO.Imgと結合しているが蛋白質と し ては 均一 な2龝 の標品を得た。また、その変異株SH3002から、デキス卜ランを 念まない酵素を精製した。それらの酵素はSDSーPAGEにおいて分子量170kDaの値を 示した。デキストランを含む酵素は容易に分子量数百万の会合体を形成したが、
デ キ ス 卜 ラ ン を 全 く 合 ま な い変 異株 の酵 素は 、モ ノマ ーの 状態 を維 持した 。 2. リ シルエ ンドベプチダ―ゼまたはトリプシンによルデキストランスクラ
―ゼを消化後、Cl8逆相カラムを用いて7種のべプチド(アミノ酸数10〜20)、を 分離しそのアミノ酸配列を決定した。
それらのペプチドのアミノ酸配列をS. mutansのデキス卜ランスクラーゼのア ミノ酸配列と部分的に比較した結果、50〜70'Xの高い相同性がみられ、そのうち 1個 の べ プ チ ド は グ ル カ ン 結 合 部 位 の 繰 り 返 し 配 列 に 相 当 し た 。 3. オル 卜フタ ルア ルデ ヒド (OPA) を用い た化学修飾により、本酵素のりシ ン残基の役割を検討した。本酵素は1. 25mM OPA、30分の修飾反応によりほとんど
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哉 守
男
誠
房
葉 間
田
干 本
冨
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
活性を失 ったが、 基質であ るスクロ ースおよ びデキス卜ランによって、OPAによ る失活の 抑制効果 がみられた。基質によって修飾から保護されるりシン残基を含 む4個のぺ プチドを 分離し、 そのアミ ノ酸配列 をS. mutans酵素と比較したとこ ろ、2個は 活性中心 よりN一末端側領域、他の2個は活性中心よりC一末端側のデキ ストラン結合部位(C―末端から1/3の範囲)に近い領域のアミノ酸配列にキ口同性 がみられた。N―末端側のりシンが、スクロ―スおよびデキストランと結合に関与 し、.C‐末端に近いりシンがデキストランのみの結合に関与しており、活性発現に 補助的な役割を果たしていると推定された。
4. ジェチ ルピロカ ーボネート(DEP)を用いた化学修飾により、ヒスチジン 残基の役害I亅を検討した。本酵素は30mM DEP、36分修飾反応により65Xの失活がみ とめられ たが、基 質を加え ても失活 は抑制さ れず、また酵素1分子当り10個のヒ スチジン が修飾さ れても50%の 活性が残 存した。 従来本酵素の活性発現にヒスチ ジンが必 須である と報告さ れている が、DEPによ る化学修飾の結果は、ヒスチジ ン残基が かならず しも活性発現に必須ではなく、リシン残基よりも重要性が低い と考えられた。
5.本酵 素を水溶 性カルボ ジイミド (EDC)によ り化学修 飾し、カル ボキシル 基の役 割を検討 した。lOmM EDC、24分の修飾 反応によ り酵素1分 子に対し、1個 のカルポキ,シル基が修飾され完全に失活した。スク口一スにより、その失活は抑 制された が、デキ ス卜ランは、転移活性の低下を僅かに保護し、スクラ―ゼ活性 の低下を 促進した 。スクロ―スのアナログであるスクロ―スモノカプロン酸が結 合 し て 修 飾 を 保 護 す る 部 位 か ら べ プ チ ド を 分 離 し ア ミ ノ 酸 配 列
(Leu‑Gln―GluーAsp‑Asn‑Ser‑Asn―Val‑Val―Val‑GluーAla)を決定した。S. mutans酵素のア ミノ酸配列を比較した結果、このべプチドは触媒活性に直接関与 するアス バラギン 酸のカルボキシル基を含む既知の活性部位よりも約25アミノ酸 残基N―末端側に位蓮しており、活性発現に直接関与するアスパラギン酸またはグ ル タ ミ ン 酸 の カ ル ボ キ シ ル 基 を 含 む 新 た な 活性 部 位の 仔 往 が推 定 され た 。
以 上 の よう に 本研 究 は 、こ れ まで 構 造 解析 が ほ とん ど なさ れ て いな いL. mesenteroidesデ キストラ ンスクラ ーゼの構 造について化学修飾法による検討を 行 っ た も の で あ り 、 学 術 的 に 貴 重 な 基 礎 的 知 見 を 提 供 し て い る 。 よ って審査 貝一同は、別に行った学力確認試験の結果と合せて、本論文の提出 者 舟根和美 は博士( 農学)の 学位を受 けるに十 分な資格あ るものと 認定した。
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