博 士 ( 工 学 ) 長 船 康 裕
学 位 論 文 題 名
オーステンノヾ球状黒鉛鋳鉄の水脆化機構と その防止および応用
学位論 文内容の要旨
本 研究で は、 オー ステン パ球 状黒 鉛鋳 鉄(ADI)を 初め とす る高強 度球状黒 鉛鋳 鉄の水付着による脆化現象(水脆化現象)のメカニズムを解明するととも に,耐水脆化特性に優れた高強度高延性鋳鉄を開発する指針を提案し、さらに、
水脆 化と同時に生じる硬化現象を応用することによって耐摩耗性に優れた部材 の開発を行った。本論文は12章からなり、本研究の内容と得られ.た結果は以下 のように要約される。
第
1
章で は 、 高 強 度 ・高 靭性 材料 として 注目 され てい るADIの 機械的 特性 と オー ステン パ反 応を 概説 し,研 究目 的を 述べ た。第
2
章では、熱処理によって種々の基地組織を有する球状黒鉛鋳鉄を作成し、その 水付着 によ る脆 化挙 動を検 討し た。基地組織として、フェライト、パーラ イト 、焼入 れ焼 戻し 、ADIを 用意 し、こ れら 各組 織を 有する 鋳鉄 に水付着状態 で引 張試験 及び 破壊 靭性 試験を 行っ た。引張強さが大きい球状黒鉛鋳鉄ほど、
著し い水脆 化現 象を 発生 した。 水脆 化はいわゆる腐食によるものではないこと を示 唆した 。
第
3
章で は , オ ー ス テン パ処 理条 件を変 化さ せて 作成 したADIの水脆 化に お よば す組織の影響について検討した。特に、組織に含まれる約20%のオーステナ イト の応力 誘起 変態 と水 脆化の 関係 について検討した。その結果、オーステナ イ卜 の応力 誘起 変態 が初 期亀裂 発生 に影響を与えていることを明らかにした。第
4
章で は ,ADI
の 水 素ガ スによ る脆 化現 象に ついて 、特 に、 水素ガ スの 暴 露時 間の影 響, 水素 ガス 中への 水蒸 気混合の影響について、破断面の観察から 破壊 機構を 考察 した 。こ こで、 水素 分析から、水付着状態で生じる塑性変形に よっ て水素 が浸 入す るこ とを確 認し た。水素ガス中に水蒸気が混入すると、脆 化は 著しく 促進 され 、水 素脆化 と亀 裂進展の挙動は,水脆化挙動と同じ傾向を示した.
第
5
章 では , 種々 の 濃度 の 水蒸 気 を含 む 雰囲 気中でADI
の引 張試験を行 い、湿度と 脆化の関係 について検 討した。そ の結果、湿 度の上昇に伴って脆化が加 速されることを確認した。相対湿度が
50YoRH
以上で、水蒸気の影響が確認され、80%RH
以上になると脆化現象が明瞭に観察された。第
6
章 では , 接着 剤 塗布 に よるADI
の 脆 化現 象に ついて、特 に、接着剤 の種 類と脆 化現象の関 係、脆化に 及ぼす鋳鉄 の黒鉛(粒 径)の影響について検討し た 。接 着 剤を 塗 布すると 、ADIの伸 びが顕著に 低下し、ま た、引張強 さの低下 は高強 度の試料ほ ど著しかっ た。一方、 フェライト 及びパーライト組織では、接着剤 の塗布によ る脆化は見 られなかっ た。接着剤 塗布による脆化は、金属と 接 着 剤 が 水 素 結 合 す る 、 い わ ゆ る 水 素 脆 化 に よ っ て も の と 推 定 さ れ た 。
第
7
章 では 、 応力負荷 状態を変化 させた機械 的試験を行 い、前章ま での結果 と とも に 、ADIの水脆化 メカニズム について考 察した。水 脆化現象は 亀裂の発 生 と進 展 及び 有 効断面積 の減少によ る破壊の3
段階から なることを 結論した。第
8
章 では 、 基地 組 織中 に 微細 な フェ ラ イト を分散 させたADI
の作製方 法を 提案し 、機械的性 質と水脆化 挙動につい て検討した 。組織にマルテンサイトが 存在す るときは水 脆化が生じ るのに対して、微細なフーエライト混合組織のADI は、水を付着させても10
%以上の大きな伸びを示した。第
9
章 では ,ADI
のこ ろ がり 摩 耗特 性 に 及ば す黒 鉛と含有オ ーステナイ トの 影 響に つ いて 検 討した。ADI
のころ がり疲れ限 度は、黒鉛 粒径の減少 に伴い低 下し、引張強さ、伸び及び硬さが増大して強靭化される傾向と、逆の関係にある。第
10
章 で は、 砂 中に お けるADI
の 摩 耗現 象 、す な わち 、 土砂 摩 耗特 性 につ い て検 討 した 。ADI
の優 れた耐土砂 摩耗特性は 、残留オー ステナイト のマルテ ンサイ トへの加工 誘起変態と 水付着状態 で塑性変形 させる際に脆化と同時に硬 化するため、であることを明らかにした第
11
章 で は 、 第10
章 に 示 し たADI
の 優 れ た 耐 摩 耗 性 を 応 用 し た 機 械 部品 の 開発 を 試み た 。フィー ルド試験と 既存部品か らADIヘ材 質変更に至 った適用 例を紹介した。第
12
章 は 、 各 章 で 得 ら れ た 主 要 な 成 果を ま とめ て 、結 論 を述 べ てい る 。学位論文 審査の要旨
学位論文題名
オーステンパ球状黒鉛鋳鉄の水脆化機構と その防止および 応用
本研究では、オーステシパ球状黒鉛鋳鉄(ADI)を初めとする高強度球状黒鉛鋳鉄の水付着 による脆化現象(水脆化現象)のメカニズムを解明するとともに,耐水脆化特性に優れた高 強度高延性鋳鉄を開発する指針を提案し、さらに、水脆化と同時に生じる硬化現象を応用す ることによって耐摩耗性に優れた部材の開発を行った。本論文は12章からなり、本研究の内 容と得られた結果は以下のように要約される。
第1章では、高強度・高靭性材料として注目されているADIの機械的特性とオーステンパ 反応を概説し,研究目的を述べた。
第2章では、熱処理によって種々の基地組織を有する球状黒鉛鋳鉄を作成し、その水付着 による脆化挙動を検討した。基地組織として、フェライト、パーライト、焼入れ・焼戻し、
ADIを用意し、これら各組織を有する鋳鉄に水付着状態で引張試験及び破壊靭性試験を行った。
引張強さが大きい球状黒鉛鋳鉄ほど、著しい水脆化現象を発生した。水脆化はいわゆる腐食 によるものではないことを示唆した。
第3章では,オーステンパ処理条件を変化させて作成したADIの水脆化におよぼす組織の影 響について検討した。特に、組織に含まれる約20%のオーステナイトの応力誘起変態と水脆化 の関係について検討した結果、オーステナイトの応力誘起変態が初期亀裂発生に影響を与え ていることを明らかにした。
第4章では,ADIの水素ガスによる脆化現象について、特に、水素ガスの暴露時間と水素ガ ス中への水蒸気混合の影響について、破断面の観察から破壊機構を考察した。なお、水素分 析から、水付着状態で生じる塑性変形によって水素が浸入することを確認している。水素ガ ス中に水蒸気が混入すると、脆化は著しく促進され、水素脆化と亀裂進展の挙動は,水脆化 挙動と同じ傾向を示した.
‑ 116ー
夫行 徹浩 敏昌
眞 田藤 口尾 成工 野瀬 授授 授授 教教 教教 査査 査査 主副 副副
第5章では,種々の濃度の水蒸気を含む雰囲気中でADIの引張試験を行い、湿度と脆化の 関係について検討した。その結果、湿度の上昇に伴って脆化が加速されることを確認し、相 対湿度が50%RH以上で水蒸気の影響が顕在化し、80%RH以上になると脆化現象が明瞭に観察 された。
第6章では,接着剤塗布によるADIの脆化現象について、特に、接着剤の種類と脆化現象の 関係および脆化に及ぼす鋳鉄に含まれる黒鉛(粒径)の影響について検討した。その結果、
接着剤を塗布するとADIの伸びが顕著に低下し、また、引張強さの低下は高強度の試料ほど著 しくなる傾向が認められた。一方、フェライト及びパーライト組織では、接着剤の塗布によ る脆化は見られなかった。これらの結果から、接着剤塗布による脆化は、金属と接着剤が水 素結合して生じるいわゆる水素脆化によるものと推定している。
第7章では、種々の応カを負荷して機械的試験を行い、前章までの結果とあわせて、ADI の水脆化メカニズムについて考察した。水脆化現象は亀裂の発生と進展及び有効断面積の減 少による破壊の3段階からなることを結論した。
第8章では、基地組織中に微細なフェライトを分散させたADIの作製方法を提案し、機械 的性質と水脆化挙動について検討した。組織にマルテンサイトが含まれているときには水脆 化が生じるのに対して、微細なフェライト混合組織のADrは、水を付着させても10%以上の 大きな伸びを示した。
第9章では,ADIのころがり摩耗特性に及ばす黒鉛と含有オーステナイトの影響について検 討した。ADIのころがり疲れ限度は、黒鉛粒径の減少に伴い低下し、引張強さと伸び及び硬さ が 増 大 し て 強 靭 化 さ れ る 傾 向 と 逆 の 関 係 に あ る こ と を 明 ら か に し て い る 。 第10章では、砂中におけるADIの摩耗現象、すなわち、土砂摩耗特性について検討した。
ADIの優れた耐土砂摩耗特性は、残留オーステナイトのマルテンサイトヘの加工誘起変態と水 付着状態で塑性変形させる際に脆化と同時に硬化するため、であること゛を明らかにした 第11章では、第10章に示したADIの優れた耐摩耗性を応用した機械部品の開発を試みた。
フ ィ ー ル ド 試 験 と 既 存 部 品 か らADIへ 材 質 変 更 に 至 っ た 適 用 例 を 紹 介 し た 。 第12章は各章で得られた成果をまとめて、結論としている。
これを要するに、著者はオーステンパ球状黒鉛鋳鉄(ADI)の水脆化機構を解明するととも に、その耐水脆化特性を改善する手法を開発するとともに、水脆化.と同時に生じる硬化現象 を応用することによって耐摩耗性に優れた部材の開発を行ったもので、材料工学に対して寄 与するところ大なるものがある。よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与され る資格あるものと認める。
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