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鋳鉄における球状黒鉛の生成機構

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(1)

鋳鉄における球状黒鉛の生成機構

Formation Mechanism of Spheroidal Graphite in Cast Iron

2006 年 3 月

指導教授:中江秀雄

早稲田大学大学院理工学研究科

環境資源および材料理工学専攻 凝固工学研究

鄭 想勲

(2)

目次

1.緒言 2 2.従来の研究

7

2.1 球状黒鉛の生成条件 2.2 黒鉛球状化に関する諸説

3.球状黒鉛の生成に及ぼす硫黄と酸素の影響 34

3.1 緒言

3.2 実験方法 3.3 実験結果 3.4 考察 3.5 結論

4.黒鉛形態に及ぼす冷却速度の影響

50

4.1 緒言

4.2 実験方法 4.3 結果と考察 4.4 結論

5

.溶湯と黒鉛間の界面エネルギーに及ぼす硫黄の影響

61

5.1 緒言

5.2 より正確な界面エネルギーの算出方法 5.3 実験方法

5.4 結果と考察 5.5 結論

6.総括 79

謝辞

82

研究業績

83

(3)

1 章 緒言

球状黒鉛鋳鉄は片状黒鉛鋳鉄が機械的性質に劣る弱点を補い、高強度と高延性を有する ほか、切削性、鋳造性、耐摩耗などに優れる長所を持っている 1)-3)。その用途は、主とし て自動車の足回りやクランクシャフト、サスペンション部品などの自動車部品や鋳鉄管、

建設機械などの各種産業機械部品、キャスク部品などに幅広く利用されている 1),4)。その 適用範囲もますます増えており、Fig.1-1のように日本においては片状黒鉛鋳鉄の生産量が 減少傾向にあるのに対して、球状黒鉛の生産量は堅調な動きを示している5)

球状黒鉛鋳鉄は1948年にイギリスではMorroghらが、アメリカではGagnebinらによっ て発明された。Morroghら 6),7)は鋳鉄溶湯に Ce を添加して球状黒鉛鋳鉄を製造した。

Gagnebinら2),3)は、ほぼ同じ時期(1948年5月)にMg添加による製造法を発表した。そして 二人とも球状黒鉛鋳鉄が機械的性質に優れた材料であることを証明した。その後、多くの 研究が行われて、1965 年に Banerjee8)によって球状黒鉛鋳鉄のレビューが行われたが、球 状黒鉛の生成については不明点が多かった。しかし、1972年に入ってLuxら9),10)によって 173 の論文をまとめて球状黒鉛に関する総合的なレビューが行われ、球状黒鉛の生成諸条 件から黒鉛の球状化機構などの理論的な分野にまで解説が行われた。この論文で、溶湯中 の硫黄・酸素濃度の低下と冷却速度が、球状黒鉛の生成に大きな影響を与えることを示し た。そして、球状黒鉛が生成する条件下で「なぜ球状になるのか」に関して主張された諸 理論を説明している。それから現在に至るまで、硫黄、酸素、冷却速度による球状黒鉛の 生成条件や球状化機構(核説、界面エネルギー説、気泡説など)に関して多くの研究 11)-21)が なされてきた。

しかし、これらの従来の球状黒鉛に関する研究は、殆どが溶湯をMg、Ceなどの球状化 剤で処理し、脱硫・脱酸を行ったものである。これらの合金元素によって溶湯成分が変化 するし、添加したMgなどの球状化元素が時間経過とともに減少し(これをフェーディング と言う)、溶湯の組成が刻々変化する。そのため、Mg などの効果と硫黄・酸素などの影響 を分離して評価するのが難しい問題点がある。そこで本研究では一つの母合金を利用して、

Mgなどの球状化剤を使用せず脱硫と脱酸を行い、Fe-C溶湯に対して硫黄と酸素の影響を

(4)

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 Year

0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500

1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005

Flake Spheroidal

Year Production , 10t4 Spheroidal / Flake cast iron production ratio

(a)

(b)

Fig. 1-1. Comparison of production between flake and spheroidal graphite cast iron.

(5)

検討し、その結果を Subramanian の結果 22)と比較し考察した。また、Mg などの球状化剤 を使用せず脱硫と脱酸を行い、硫黄含有量が異なる試料を準備し、球状黒鉛の生成に及ぼ す冷却速度の影響を検討した。

一方、球状黒鉛の生成機構については多数の説が報告されてきたが、その中で、「硫黄 と酸素などの除去によって Fe-C 溶湯と黒鉛間の界面エネルギーが増加し、臨界値を越え ると、溶湯と黒鉛間の表面積を最小にするため球状になる」と主張する界面エネルギー説

23)が有力とされている。界面エネルギーを測定した多くの研究結果11), 13), 24)-26)が報告されて いるが、次の二つの問題点を持っているため、正確な溶湯と黒鉛間の界面エネルギーが測 定できているとは考えられない。まず、従来の研究はFig. 1-2のように、黒鉛基板の上に Fe-C合金を載せ溶解させたため、実験温度に達するまで溶湯と黒鉛間の物質移動が発生し、

黒鉛基板の表面が変化し、正確な接触角を求めるのが困難である。これらについては、Hara ら27)は従来の静滴法による接触角の測定が、炭素飽和溶湯を使用して得られた接触角より 低い値を示し、従来の静滴法の問題点を証明した。次の問題点は、Fe-C溶湯の成分元素が 黒鉛表面に吸着することによる黒鉛表面エネルギーの変化である28)。特に、MgやSなど の蒸気圧が高い元素が、気相や表面拡散により、黒鉛表面を汚染させると考える。したが って、黒鉛の表面エネルギーは溶湯成分によって変化すると考えられるが、従来の研究で は一定の黒鉛表面エネルギー値から溶湯と黒鉛間の界面エネルギーを算出しているため、

正確な値ではない。そこで、本研究では前述した従来の研究の問題点を解決し、より正確 な溶湯と黒鉛間の界面エネルギーを測定することを目的とし、硫黄活量による界面エネル ギーの変化を検討した。また、界面エネルギーと黒鉛形態との関係も検討した。

Graphite (a)

(b) Fe-C melt

Fig. 1-2. Mass transfer from melt to graphite. (a) via atmosphere (b) on S/L interface.

(6)

1 章 参考文献

1) T. Noguchi, H. Suzuki and M. Yano: Published by Agune, (1999), 223.

2) A. P. Gagnebin, K. D. Millis and N. B. Pilling: The Iron Age, Feb. (1949), 77.

3) A. P. Gagnebin, K. D. Millis and N. B. Pilling: The Iron Age, Feb. (1949), 97.

4) Foundry Handbook, edited by Japanese Foundry Society, (2002), 223.

5) 素形材年鑑, 素形材センター, (2001).

6) H. Morrogh and J. W. Grant: Foundry Trade Journal, Jul. (1948), 27.

7) H. Morrogh and W. J. Williams: J. Iron Steel Inst., 158 (1948), 306.

8) S. Banerjee: The British Foundryman, Sep. (1965), 344.

9) B. Lux: AFS Cast Metals Res. Journal, (1972), 25.

10) B. Lux: AFS Cast Metals Res. Journal, (1972), 49.

11) R. H. McSwain and C. E. Bates: The Metallurgy of Cast Iron, ed. B. Lux et al., Georgi Publishing Company, Switzerland, (1975), 421.

12) L. Bäckerud, K. Nilsson and H. Steen: The Metallurgy of Cast Iron, ed. B. Lux et al., Georgi Publishing Company, Switzerland, (1974), 625.

13) Y. Ueda and M. Takita: Imono, 50 (1978), 617.

14) I. Minkoff: Mat. Res. Soc. Symp. Proc., 34 (1985), 37.

15) D. Argo and J. E. Gruzleski: Mat. Sci. Tech, 10 (1986), 1019.

16) D. M. Stefanescu: Mat. Res. Soc. Sym. Proc., The Physical Metallurgy of Cast Iron, 34 (1989), 151.

17) T. Skaland, φ Grong and T. Grong: Met. Trans., 24A (1993), 2321.

18) D. D. Double and A. Hellawell: Acta Met., 43 (1995), 2435.

19) H. Itofuji: AFS Trans., 104 (1996), 79.

20) H. Nakae and H. Shin: Proc. of the International Conference on The Science of Casting and Solidification, (2001), 336.

21) H. Nakae and Y. Igarashi: Met. Trans., 43 (2002), 2826.

22) S. V. Subramanian, D. A. R. Kay and G.. R. Purdy: Mat. Res. Soc. Symp. Proc., 34 (1985), 47.

(7)

23) F. H. Buttner, H. F. Taylor and J. Wulff: Amer. Foundryman, Oct. (1951), 49.

24) J. Keverian and H. F. Taylor: Trans. AFS, 65 (1957), 212.

25) G. T. van Rooyen and G. Paul: Metal Science, 8 (1974), 370.

26) E. Selcuk: The Metallurgy of Cast Iron, ed. B. Lux et al., Georgi Publishing Company, Switzerland, (1974), 409.

27) S. Hara, K. Nogi and K. Ogino: Proc. Int. conf. High Temperature Capillarity, N.

Eustathopoulos Ed., May (1994), 43.

28) N. Eustathopoulos, M. G. Nicholas and B. Drevet: Wettability at High Temperature, Pergamon, (1999), 177.

(8)

2 章 従来の研究

2.1 球状黒鉛の生成条件

1948年、Morroghら1),2)とGagnebinら3),4)により球状黒鉛鋳鉄の鋳造法が発明された当時 は、Ce 添加の場合は 0.02mass%(以下単に%で示す)未満の硫黄を持つ過共晶組成 Fe-C 溶

湯に0.02%以上のCe添加で、Mg添加の場合は0.02%Sを持つ溶湯に0.04%以上のMgを

添加すると球状黒鉛が生成することを示した。Mg 添加量については、1955 年のMorrogh ら5)の報告によると、溶湯の硫黄量が0.015%の未満で0.04%超過のMg添加が必要である ことを示した。またMg添加量が少ない場合にCV黒鉛が生成すると報告した。そして、

それらの添加剤は脱硫、脱酸効果があることを強調した。その後、Loperら6)は、MgとS の比率が1.0以下の時に片状黒鉛が、3.0以下では球状と CV黒鉛が、3.0以上では球状黒 鉛が生成することを報告した。

一方、球状化剤の添加なしで、球状黒鉛を生成させた報告もある。Mg 処理した時に黒 鉛るつぼとの濡れが悪くなったことを強調したButtnerら7)の結果に着目して、Keverianら

8)は、球状化剤の添加なしで、真空溶解炉を用いて高純度Fe-C合金を製造した。その試料

を60K/minの冷却速度で凝固させると、球状黒鉛が生成したことを確認し、MgやCeなど

の球状化剤の添加は硫黄、酸素などの界面活性元素を除去する効果がある、と主張した。

このように真空溶解により球状黒鉛が生成することが、他の研究9)も報告している。

球状化剤の添加あるいは真空溶解によって生成する球状黒鉛は、過共晶と亜共晶組成に 関係なく溶湯から直接晶出する。その証拠としては溶湯を急冷させた時にγ相に囲まれて いる球状黒鉛が共晶レデブライトと接すること10)-12)や、遠心鋳造時に遠心力を増大させる ほど球状黒鉛の浮上が多くなるとする報告13)がある。また、球状黒鉛鋳鉄溶湯は片状黒鉛 鋳鉄溶湯と比べて共晶凝固時により大きな過冷を伴う11),14)。冷却速度を大きくすると、CV 黒鉛が球状黒鉛になったとする報告15)もある。

1972 年に発表された Luxら 16),17)による総合的なレビューにより、硫黄と酸素濃度の低 下や、大きい過冷が球状黒鉛の生成に要求される条件であるのが示されている。その論文 によると、硫黄と酸素濃度が10ppm以下と非常に低いことが球状黒鉛の生成条件であると 示した。また、冷却速度(凝固速度)が速いほど球状黒鉛が生成しやすいことも示した。そ

(9)

の後にも球状黒鉛の生成条件と冷却速度(凝固速度)について詳細な研究が行われてきた。

Subramanianら18)はFe-C-Si溶湯にCe、Mg、Caを直接添加し、熱力学な計算から硫黄と酸 素活量を算出し、観察した黒鉛形態との関連をFig. 2-1のように示した。Fig. 2-1によると、

球状黒鉛の生成範囲はCeS生成領域と一致しており、酸素と硫黄活量はそれぞれ約3×10-7 と 2.3×10-3以下であることが示されている。CeS生成範囲以外では酸素活量の増加ととも にCe2O2SやCe2O3が生成し、硫黄活量の増加によりCe3S4やCe2S3が生成する。これらが 生成する時はCV黒鉛あるいは片状黒鉛が安定相として存在することが示されている。し かし、この図は溶湯をゆっくり冷却した場合に有効であり、冷却速度によってずれが発生 すると記述されている。Argoら19)はMgを含むFe-C溶湯を用いて一方向凝固をさせ、Mg 量と凝固速度を変化させるとFig. 2-2のように黒鉛形態が変化し、低いMg含有量で凝固 速度が増加すると球状黒鉛が生成することを示している。Stefanescu20)は溶存 Ce 量とG/R を変化させ黒鉛形態との関係を検討し、Fig. 2-3のようにCe量やG/Rが増加すると黒鉛形 態が片状とCV黒鉛から球状黒鉛に遷移すると報告した。以上の結果はMgなどの球状化 剤を用いた結果であるが、純Ni-Cや純Fe-Cを使用して行った研究もある。Hellawellら21) によると、純Ni-Cを一方向凝固させた時、100 mm/hでは微細黒鉛が、240mm/h以上では 球状黒鉛が生成することを報告した。Luxら22)の研究では純Ni-Cを600mm/hで一方向凝 固させると、固相部に球状黒鉛が液相部分は片状黒鉛であることを報告した。中江ら 23)

によるとFig. 2-4 のように純Ni-Cを150mm/hで一方向凝固させた時には微細黒鉛で界面

が安定しているが、Ni-C-Mg合金を使用して150mm/hで一方向凝固させた時には黒鉛の成 長モードが連続から不連続へと遷移して、不連続黒鉛組織の中に生成した球状黒鉛の存在 を認めている。また、中江ら23)はFig. 2-5のように純Fe-CとFe-C-Ceを異なる冷却速度で 凝固させ、それぞれ40K/minと5K/minまでの範囲で球状黒鉛が生成することを確認した。

Ce添加によって球状黒鉛の生成が促進され、より遅い冷却速度でも球状黒鉛が生成するし、

高純度Fe-C溶湯でも冷却速度が大きいと球状黒鉛が生成することを認めた。

(10)

Oxygen activity, ao

Sulfur activity, as

Fig. 2-1. Graphite control diagram

18)

.

(11)

(a) (b)

Fig. 2-2. Variation of graphite morphologies with residual magnesium contents and solidification rate. (a) for hypereutectic iron (CE=4.51), (b) for hypoeutectic iron (CE=3.98).

Fig. 2-3. Influence of G/R ratios and residual cerium contents on graphite

morphology transition in cast iron.

(12)

100K/min150K/min

Ni-C-Mg Ni-C

Fig. 2-4. S/L interfacial microstructure of Ni-C and Ni-C-Mg samples solidified at

different rates.

(13)

(a) Fe-C-30ppmS

(b) Fe-C-0.21%Ce

Fig. 2-5. Influence of cooling rate on graphite morphology for Fe-C and Fe-C-Ce

alloys.

(14)

2.2 黒鉛球状化に関する諸説

2.2.1 分離共晶理論 (divorced eutectic theory)

球状黒鉛鋳鉄の凝固を解釈するためには、カップルド共晶成長(coupled growth)を理解す るべきである24)。Fig. 2-6に2つのノンファセット相からなる2元共晶状態図とカップル ド成長領域を示す。図中のG は温度勾配、Vは凝固速度、ΔTは過冷度、Ceは共晶組成を 示す。共晶系状態図上では凝固組織は共晶組成部分だけ共晶組織になると考えやすい。カ ップルド領域とは、α相とβ相が競合成長できる領域(組成と温度範囲)で、凝固速度の低下 により平滑界面の通常の共晶凝固からデンドライト状に成長する領域へと変化する。これ らの領域を外れると、カップルド領域以外では、αデンドライトあるいはβデンドライトが 成長し、これによって溶湯の組成はカップルド領域へと引き戻される。

planar coupled eutectic

celluar or dendritic coupled eutectic

equiaxed eutectic α-dendrites

& eutectic

β-dendrites

&eutectic

Ce C

Te T

O

ΔΤ ∝ V

G > O G = O

Fig. 2-6. Coupled zone of nonfacet/nonfacet eutectics.

(15)

Fig. 2-7に1つの相がファセット(図の場合はβ相)であるカップルド領域の例と、組成C0

における凝固速度と固液界面温度の関係を示す。ファセット相は成長速度が遅いためカッ プルド領域が左右対称(symmetric)ではなく、ファセット相であるB金属側にずれている。

(a) (b)

Fig. 2-7. Origin of skewed coupled zones: (a) coupled zone of facet/nonfacet eutectic (b) interface temperature vs growth rate on each morphology.

Fig. 2-8. Coupled zone of directionally solidified Fe-C eutectic: austenite dendrite

(AU), primary graphite(GR), primary cementite plates(CE), grey eutectics (EU1) and

white eutectics (EU2).

(16)

Al-Si 合金と Fe-C 合金がこれに属しており、過冷がかなり大きい場合は過共晶側でもαデ ンドライトが生成し、完全な共晶組織が得られる領域は少ない。Fig. 2-825)はFe-C合金の2 元共晶状態図とカップルド領域を示しており、黒鉛の生成領域(EU1)と、セメンタイトの

生成領域(EU2)の間に境界が存在する。黒鉛との共晶では非対称であるが、セメンタイト

との共晶では対称的に変化している。

Luxら17),22)は、前述したカップルド成長共晶凝固の理論を用い、γ相に覆われる球状黒鉛

とその分離共晶成長(divorced eutectic growth)を次のように説明した。まず、Fig. 2-9(a)のよ うに、1の過共晶から黒鉛が晶出し、γ相とは独立的に成長し続けると、溶湯中の炭素濃度 が減少し、液相は亜共晶組成2に移行する。組成2のγ相が晶出すると溶湯はカップルド共 晶領域に入り、黒鉛は完全にγ相に囲まれ、溶湯とは直接接することなく成長を続ける。こ れを分離共晶成長という。その成長には、液相内の炭素原子はγ-オーステナイト層を通っ て黒鉛まで拡散し、球状黒鉛は成長し続ける。これらの全ての過程をLuxら22)は、Fig. 2-10 のように示している。

亜共晶組成では Fig. 2-9(b)のように、先ず初晶オーステナイトが生成し、凝固の進行と 伴いデンドライトとして成長する。溶湯の組成は1から液相線に沿って過共晶側2へと連 続的に変化する。過冷した過共晶組成の残留液相から球状黒鉛が直接晶出する。黒鉛が生 成すると溶湯の組成がカップルド共晶領域に移動し、黒鉛はγ相に取り囲まれる。その後、

過共晶の場合と同じように分離共晶成長する。したがって、球状黒鉛の生成・成長は亜共 晶と過共晶を問わず、全く同じ機構である。この凝固機構は「黒鉛はγ相上に核生成し難い が、γ相は黒鉛の上によく核生成する」という一方向核生成 (one-way nucleation) 理論26), 27) が成立している証拠である。

一般の共晶では成長速度が遅い相が共晶組織を決めるが、Fe-C系場合には片状黒鉛は協 調共晶成長し、球状黒鉛は分離共晶凝固する。Fig. 2-9(c)の共晶組成の場合により、ある過 冷でγデンドライトが生成し、溶湯濃度が1から2に移動して共晶成長が始まる。

(17)

Temperature()

(a) Hypereutectic

Temperature()

(b) Hypoeutectic

Temperature()

(c) Eutectic

Fig. 2-9. Solidification process for (a) hypereutectic, (b) hypoeutectic and (c) eutectic

Fe-C melt.

(18)

(b)

(c) (a)

Fig. 2-10. Spheroidal graphite growth within a solid halo and growth of the halo with a smooth interface (a) growth of the spheroidal in contact with the melt, (b) halo encapsulation, and (c) growth of the spheroidal within the solid halo.

2.2.2 過飽和オーステナイト説

De Sy28)は「過冷により過飽和炭素を有するγ相が晶出し、これより球状黒鉛が析出する

とした。球状黒鉛は過飽和γ相が厚くなり、液相と接するγ相の表面から炭素の供給ができ なくなるまで成長する」と主張した。しかし、急冷時にγ相のハローに囲まれていない球状

黒鉛10)-12)や、遠心鋳造をする時に遠心力を増加するほど球状黒鉛の浮上が多くなること13)

から、球状黒鉛は液相から直接晶出することは明確であり、過飽和オーステナイト説は現 在には全く支持されていない。

(19)

2.2.3 核説

古典的な異質核生成理論に基づいて、球状黒鉛の核を観察することに研究が集中した。

1950年にDe Sy29)は球状黒鉛を研磨して詳細観察した結果、黒鉛中心に白く光った異質核

が存在することを報告した。黒鉛中心に Mg が多量検出されたことから、Mg 処理によっ て生成したと推測されるMgO、Mg2C3が核であると推測した。その後、多くの研究30)-40), 43)-49)

が行われ、多様な不均質核物質の存在が報告された。これらの不均質核物質をTable 2-1に 纏めて示す。殆どが硫化物、酸化物であることがわかる。数多くの報告の中で、異質核形 態が黒鉛の球状化と関係があることを主張しているものが多い。

Table 2-1. Summary of graphite nucleus materials in spheroidal graphite.

Nucleus Ref. Nucleus Ref. Nucleus Ref.

MgS 30), 35), 43), 48) MgO 34), 35), 43) SiO2 38)

CaS 37), 43) (Mg, Al)3O4 37), 47) Fe2O3 46) (Mg, Ca)S 33)-36), 38), 39) (Mg, Al, Si, Ti)O 32) Fe2SiO3 45), 46) (Mg, Ca, Sr)S 32) MgO⋅SiO2 40), 45) (Mg, Al, Si)N 34)-36)

(Ce, La)S 30), 31), 43) SrO⋅SiO2 40) FeClx 38)

(Ce, La, Nd)S 38), 39) CaO⋅Al2O3⋅2SiO2 40) NiC 49)

(Ce, Mn)S 44) (Mg, Ca, Al)SiO3 47)

Warrick30)は、初期段階には不均質核から黒鉛がエピタキシー成長するが、溶湯中の合金

分布によって球状あるいはCV黒鉛形態に変化すると主張した。Tarteraら31)もほぼ同じよ うに主張している。Jacob32)は、核の(100)面から黒鉛がエピタキシー成長し(0001)面で構成 すると主張した。Lalichら33)は、異質核が球であると球状黒鉛が、球ではない時や核の分 布が均等ではない時にCV黒鉛が生成すると主張した。Igarashiら34)-39)はFig. 2-11のよう に、Mg処理した溶湯では、MgOを含む球状MgS が核であり、黒鉛はMgSを囲むように 成長し、球状黒鉛になることを観察した。また、希土類元素(以下 RE で示す)処理した鋳 鉄ではRESを核に球状黒鉛が成長していることを示した。その結果から、核物質からエピ

(20)

タキシー成長によって、球状黒鉛は生成しないことから、核が球状であることと黒鉛球状 化には関係がないと言っている。

球状黒鉛の核物質はTable 2-1のように、さまざまな不均質核の存在が確認されているが、

2 重構造で構成されたものが多い。まず酸化物の中に存在する硫化物の不均質核である。

Jacobら32)は、直径1μm程度の六角形(Mg, Al, Si, Ti)Oの外部相の中に直径0.05μmの(Ca, Sr, Mg)S 内部相を観察した。その結果、六角形酸化物の(111)面で数原子層を成長した黒鉛の 格子定数は 0.264nm まで拡大し、六角形酸化物から遠くなるほど格子定数は小さくなり 0.246nmとなる、と示した。Skalandら40)は球状黒鉛の核は(Mg, Ca)Sで外周相はMgO⋅SiO2

Mg-treated RE-treated

Fig. 2-11. SEM images and EDS analysis of inclusion in the graphite at different

positions in a rapid cooled specimen (a) near chilled surface, (b) 0.6mm from the

surface and (c) 2.5mm from the surface.

(21)

あるいは 2MgO⋅SiO2の酸化物であり、(Mg, Ca)S を形成しない場合は長方形の MgO⋅SiO2 が存在すると報告した。 Ca、Al、Sr、Ba などを含有するフェロシリコン処理によって生 成するXO⋅2SiO2やXO⋅Al2O3⋅2SiO2 (XはCa, Sr, Ba) はMgO⋅SiO2よりもよく球状黒鉛が生 成すると報告した。その理由としては、Bramfittの式 41)を用いて格子不整合度を計算した 結果から、MgO⋅SiO2よりXO⋅2SiO2やXO⋅Al2O3⋅2SiO2の方が黒鉛との整合性が良いためで あると結論した。Igarashiら34)-39)はこれらの結果とは逆であり、球状MgS の中にMgOが 存在する核物質を観察した。それは標準生成自由エネルギー的にMgS よりもMgOの方が 生成しやすい42)ためであると考えた。また、RE添加した溶湯にMgSなどを含むRESが核 物質であるとの報告である。堀江ら43)はRE処理した球状黒鉛の中心を観察した結果、殆 どの不均質核は直径1μm以上の球形として存在し、MgS、MgO、CaSなどを含む RESで あり、RE の硫化物から黒鉛が生成すると報告した。Tarteraら 31)は RESの中に(Mg, Ca)S が存在する核物質を観察した。

以上のように、異質核物質の観察が多く行われ、核と見なされる物質は種々な組成と形 態を持つ硫化物や酸化物などであることがわかった。しかし、黒鉛の成長過程で球状化す るものも報告されており、黒鉛球状化の原因を核に求めるのは難しいと考える。

2.2.4 界面エネルギー説

Buttnerら7)は、黒鉛るつぼとねずみ鋳鉄溶湯との濡れは良いものの、球状黒鉛鋳鉄溶湯

との濡れが悪い現象を観察し、界面エネルギー説を初めて提唱した。彼らはFig. 2-12に示

すようにAflake>Aspheroidalことを前提し、「硫黄と酸素などの界面活性元素の除去により溶湯

と黒鉛間の界面エネルギーが臨界値を越えると、黒鉛相の自由エネルギーが相対的に片状 より球状の方が小さくなり、球状黒鉛が熱力学的に安定する」ことを提案した。その理論 を裏付ける研究がKeverianら50)により行われ、硫黄などの界面活性元素の除去によって界 面エネルギーが高くなると球状黒鉛が生成すると報告した。臨界界面エネルギーの存在を 直接表明していないが、Fe-C 容湯と黒鉛間の界面エネルギーを測定し、ある硫黄濃度

(10massppm 程度)からエネルギーが低下することを示した。それは臨界界面エネルギーの

存在を強く示すものと考える。その後、Fe-C溶湯と黒鉛間の界面エネルギーの測定や黒鉛

(22)

形態との相関を求める研究が行われてきた。

G= (ΔGD+ GV)+Aspheroidal⋅γGr/L

Critical energy (γ*Gr/L) Flake graphite

G= GV+Aflake⋅γGr/L

Spheroidal graphite

ΔGD

Free energy, G

Interfacial Energy, γ

Gr/L

Fig. 2-12. Free energy for graphite shape as a function of graphite/melt interfacial energy.

ΔGD

: the energy existed in the spheroidal graphite at low angle boundaries, Gv: free energy per unit volume, A: the solid/liquid interfacial area (A

flake

>A

spheroidal

).

1)

球状黒鉛鋳鉄溶湯と黒鉛間の界面エネルギーの測定

Rooyenら51)は、Fe-C溶湯と基底面黒鉛間の界面エネルギー(以下γGr/Lで示す)を、黒鉛の 表面エネルギー(以下γGr/Vと称す)に 0.562J/m2を使用して算出した。γGr/Lは球状黒鉛溶湯で

は2.285J/m2で、片状黒鉛溶湯では 0.746J/m2であると報告した。また、球状黒鉛から片状

黒鉛に遷移する臨界γ*Gr/Lは0.8~1.0J/m2であり、1.0 J/m2を超えると球状黒鉛になると提案 した。上田ら52)は、1453KでFe-C溶湯と黒鉛間のγGr/LをRhee 53)の黒鉛表面エネルギーを 使用して算出した。Mg 処理した球状黒鉛溶湯の場合、多結晶黒鉛板と基底面黒鉛板との γGr/Lはそれぞれ 1.55J/m2と 1.22J/m2であり、S を含有した片状黒鉛溶湯の場合、多結晶黒

(23)

鉛板と基底面黒鉛板とのγGr/Lはそれぞれ1.41J/m2と1.35J/m2であると示した。Mg処理した 溶湯ではプリズム面とのγGr/L値が高いが、Mg処理なしの場合はプリズムと基底面とのγGr/L

は、ほぼ等しくなると報告した。従って、球状黒鉛は基底面で構成され、溶湯と接する方 が安定であり、片状黒鉛は多結晶よりも単結晶に晶出する方が安定であると結論付けた。

SawyerとWallaceら54)は黒鉛間の小傾角粒界エネルギー、基地とプリズム面間の界面エネ

ルギー、基地と基底面間の界面エネルギーの3つの条件の釣り合いを使用し、球状黒鉛の 生成を説明しようとした。正確な値は示していないが、基地とプリズム面間の界面エネル ギーと、基地と基底面間の界面エネルギーの比率が8より大きいと球状になると主張した。

基地と基底面間の界面エネルギーは黒鉛間の小傾角粒界エネルギーによって変化する。

Selcuk55)はMg やCe を添加した球状黒鉛鋳鉄溶湯と黒鉛間のγGr/L値を算出し、1.1~1.2J/m2 であると示した。MgやCeのフェーディング現象により球状黒鉛は微細黒鉛に変化し、界 面エネルギーも低下することを報告した。McSwainら 56)は、Mg、Ce、S、Bi、Sbを Fe-C 溶湯に添加し、基底面とのγGr/L とプリズム面とのγGr/L 値を算出した。球状黒鉛が生成した Mg、Ce 添 加 溶 湯 と 基 底 面 と プ リ ズ ム 面 と のγGr/L 値 は そ れ ぞ れ 1.322~1.459J/m2

1.578~1.720J/m2と報告し、片状黒鉛が生成したS、Bi、Sb添加溶湯と基底面とプリズム面

とのγGr/L値はそれぞれ1.172~1.292J/m2と0.845~1.276J/m2としている。また、彼らは「Sと Oがプリズム面に吸着すると、プリズム面の界面エネルギーが基底面より低くなり片状黒 鉛と成長する。逆にMgやCe 処理よりSとOを除去すると、基底面とのγGr/Lがプリズム 面とのγGr/Lより低くなり、球状黒鉛と成長する」と主張した。

以上のように、Fe-C溶湯と基底面黒鉛間の界面エネルギーγGr/Lの測定値51)-56)が多数報告 されている。しかし、球状黒鉛溶湯の場合、γGr/Lの測定値は 1.1J/m2から 2.285J/m2の範囲 であり、界面エネルギー説を裏付ける証拠では不十分であると考える。その理由として、

従来の研究は、Fig. 1-2のように黒鉛基板の上にFe-C合金を載せ溶解したため、実験温度 に達するまで溶湯と黒鉛間の物質移動が発生し、黒鉛基板の表面状態や表面粗さが変化す る。そのため、黒鉛基底面(0001)とは異なる黒鉛表面状態になると予想される。次の問題 点は、Fe-C溶湯の成分元素が黒鉛表面に吸着することによる黒鉛表面エネルギーの変化で ある。特に、Mgや S などの蒸気圧が高い元素が、気相や表面拡散により、黒鉛表面を汚

(24)

染する。したがって、黒鉛の表面エネルギーは溶湯成分によって変化すると考えられるが、

従来の研究では吸着の影響が考慮していない黒鉛表面エネルギーγGr/Vから溶湯と黒鉛間の 界面エネルギーを算出しているため、正確な値ではないと考える。また、球状黒鉛溶湯を 用意するために、Mgや Ceを添加したため、Mg やCe のフェーディングすることより界 面エネルギーが時間の経過とともに続々変化することである。これらの三つの短所が原因 で、正確な界面エネルギー値を求められず、γGr/L 値が広くばらついていたと考える。従っ て、これら問題点を改善し、界面エネルギー説を明確に裏付ける界面エネルギーの値を測 定する必要性がある。

2)

球状黒鉛成長モデル

a)

回転(Circumferential)成長モデル

Sadocha ら 57)は溶湯と黒鉛間の界面エネルギーが高い条件下で、黒鉛が球状に成長する

過程を、Schramの高分子球状化モデル58)を利用して提案した。彼らは「優先成長方向であ

るa軸方向へ黒鉛は成長するが、Fig. 2-13(a)のように球状の形を持ちながら黒鉛面が回転

(a) (b)

Fig. 2-13. Schematic representation of the circumferential growth model of a

spheroidal graphite. (a) diametral section of spheroidal graphite (b) spheroidal

graphite surface.

(25)

(circumferential)し、常に基底面が溶湯と接して成長する。同様な成長が、多数のステップ より色々な方向へ発生し、これら黒鉛が接触する場所が結晶粒界となり、最終的に多結晶 球状黒鉛となる」、と主張した。そのため、Fig. 2-13(b)のような球状黒鉛の表面形態が観察 されると報告している。

b) Cone-Helix

成長モデル

DoubleとHellawell59),60)は気相炭素から成長するウィスカー黒鉛は、球状黒鉛の断面構造

と類似であることに基づいて、Conical-Helix成長機構を提案した。代表的な黒鉛繊維の形

態は Fig. 2-14(a)と 2-14(b)であり、conical 先端角度は 140°、積層した重複部分の角度は

21.8°であり、片状黒鉛の積層欠陥部分の角度と一致する61)。その条件下でFig. 2-14(c)の ように成長すると、溶湯との表面積を低減するとともに基底面で成長することが可能とな る。多数の黒鉛結晶がFig. 2-14(d)のように中心から放射状と成長すると、多結晶基底面で 囲まれた球状黒鉛となる。その後、球状黒鉛表面での成長は、Conical-Helix成長時に生成 した双晶と小傾角粒界61)-63)から層状成長(layer growth)が起こり、でこぼこした多層表面が 生成すると提案した。

(b) (a)

conical helix

(d) (c)

Fig. 2-14. Growth of spheroidal graphite from conical helix crystals.

(26)

彼らは1995年に、Sadochaら57)の主張と同様なモデルを再度発表した64)。ここではUgarte ら65)によるナノスケール球状黒鉛の研究を引用して、黒鉛はFig. 2-13(a)のようにa軸方向 に球状へと折り曲げられた成長を行い、様々の欠陥を内在するが局部的に秩序構造を保有 する球状黒鉛となる、と述べた。

2.2.5 らせん転位説

Hillertら66)は、球状黒鉛の生成をらせん転位の存在に基づいて説明した。この理論によ

るとMg、Ceなどの元素が黒鉛結晶に吸着し、らせん転位機構を導入して成長する。それ ら元素はらせん転位の成長を阻害させ、新しいらせん転位を発生する。これらが成長して

Fig. 2-15のようにmisfitが発生すると、また新しいらせん転位が発生・成長する。それが

繰り返されると球状黒鉛となると主張した。このようならせん転位成長はキッシュ黒鉛65) にも観察される。

Fig. 2-15. Misfit of neighboring screw dislocations.

(27)

2.2.6 欠陥成長と不安定成長機構説

Minkoff ら 68),69)は、過冷が小さい時と大きい時の黒鉛成長モデルを区別し、以下のよう

に説明した。まず、過冷が小さい時は片状黒鉛として成長する機構である。この場合には 六角形黒鉛のa軸方向への成長は、Fig. 2-16(a)のような成長あるいはFig. 2-16(b)のような 回転双晶境界(twist boundary)により成長する。また、c軸方向への成長は基底面に存在する らせん転位によって成長する。一方、Mgなどの元素が黒鉛のプリズム面に吸着し、a軸へ の成長が遅くなり過冷を大きくする。らせん転位の成長ステップにもMgなどが吸着する と、部分的に成長が遅くなり、過冷はいっそう大きくなるのでc軸への成長が促進される。

過冷が大きくなった条件下で、Fig. 2-17(a)のように、まず黒鉛形態は多面体ピラミッド と変化する。そのピラミッドのある面から不安定性(instability)が発生し、新たな面で成長 が始まる。これらの過程が繰り返されると、星状の擬球状黒鉛となる。また溶湯の過冷に よるリカレッセンス後には過冷が減少し、星状の擬球状黒鉛の先端が鈍角になって、球状 黒鉛の表面となる。そのピラミッドからの不安定成長68)は、Fig. 2-17(b)のように(1010)面(双 晶の場合は(1121)面)で小傾角境界などの欠陥から(0001)面が生成し、Fig. 2-17(c)のように成 長が続けると説明した。これら不安定による成長は一方向に続けると説明した。

(a) (b)

Fig. 2-16. Defect growth of graphite in the <1010>direction. (a) The crystal grows by

unaided nucleation on (1010) faces, (b) Growth of graphite from step of twist

boundary.

(28)

(a) (b)

(c)

Fig. 2-17. Diagram representing growth of graphite as related to undercooling. (a) the stage of spheroidal graphite growth, (b) instability occurred on 1010 and (c) repeated instability forming spheroidal.

2.2.7 吸着説

飯高70)はMg 処理した溶湯から生成した黒鉛粒は、Mg 蒸気を吸着して著しく塑性変形 が起し易くなり、変形し易くなった黒鉛結晶は周囲から平均的に圧され球状化すると主張 した。

Herfurth71)は Fig. 2-18 のように鋳鉄の黒鉛成長に及ぼす諸要素の影響を研究した結果、

表面張力を低下させる元素は片状黒鉛を生成すると報告した。彼は、平衡条件で適用され る結晶成長理論は、大きな過冷条件で成長する球状黒鉛の場合には適用されないと考えた。

そこで、最ちょう密面の方向へ優先成長すると考えた。純 Fe-C-Si 溶湯では、黒鉛の基底 面が最ちょう密面であるため、成長はc軸方向に成長する。しかし、硫黄と酸素などが黒 鉛のプリズム面に吸着する場合は、プリズム面が最もエネルギーの低い安定面になり、片

(29)

Fe-C-Si(+nodularizer) Fe-C-Si(pure) Fe-C-Si (O,S etc)

S adsorption makes prism faces the most densely packed Basal plane

most densely packed Prism faces

blocked by nodularizers

Fig. 2-18. Schematic of the change in the growth velocity of graphite due to adsorption of foreign atoms.

状黒鉛へと成長する。これらの説は単結晶に限る現象であると Lux16),17)は言い、この理論 を多結晶球状黒鉛に適用するため、Fig. 2-18のようなCe、Mg、La元素がプリズム面に吸 着して成長を妨害し、c軸方向への成長を促進させるとともに枝分かれ(branching)も発生さ せ、多結晶球状黒鉛へと成長すると説明した。

2.2.8 気泡説

Karsay72)は、鋳物のきれつ部やピンホール、または巻き込んだ介在物の表面に黒鉛が生

成することに基づき、溶湯中に黒鉛が形成する時に、気泡の存在が不可欠であると主張し た。溶湯中にSiO2が生成した後、SiO2とCが反応し、SiとCOガスが生成する。そのCO 気泡内側から黒鉛が核生成し(Fig. 2-19(a))、中心に向かって成長し(Fig. 2-19(b))、黒鉛で充

(30)

満するまで継続し、球状黒鉛となる(Fig. 2-19(c), 2-19(d))とした。しかし、生成する黒鉛の 体積より CO ガスが多く発生すると、気泡が壊れチャンキー黒鉛に成長すると考えた。

Yamamotoら 73)は、気泡説を裏付ける証拠として、EPMA分析から多数の Mg球状空洞が

存在することを確認した。またMg処理した溶湯にMg蒸気圧より大きい圧力を加えると、

Mg気泡がなくなり、球状黒鉛の生成が認めらないと報告した。Itofuji74)も球状黒鉛とその 周囲にMg膜の存在を確認し、気泡説を支持した。しかし、球状黒鉛の中心に核と思われ る硫化物などが存在することから、Mg の気泡が球状黒鉛の生成機構としてみなすのは難 しいと考える。

(b) (a)

(d) (c)

Fig. 2-19. Process to form a spheroidal graphite by gas bubble: (a) is gas, (b) is a graphite whisker, (c) is melt, and (d) is solid iron.

2.3 結言

従来の研究を総合的に検討すると、球状黒鉛を生成させるためには Mg や Ce など、あ るいは真空溶解によって鋳鉄溶湯中の硫黄と酸素などの界面活性元素の活量を低下させ る必要がある。また、冷却速度の影響も球状黒鉛の生成に影響を与える要素である。これ

(31)

ら硫黄と酸素を除去すると、鋳鉄溶湯/黒鉛間の界面エネルギーが増加すると考えられる。

したがって、黒鉛の球状化に関して多くの説が提唱されているが、その中でも界面エネル ギー説が有力と考えられる。しかし、正確な界面エネルギーγGr/Lの値がないため、説得性 がないと考える。

そこで、本研究では界面エネルギー説を系統的に検証することを目的として、以下の実 験を行うことにした。まず、球状黒鉛の生成に及ぼす鋳鉄溶湯中の硫黄・酸素の影響につ いて検討する。しかし、従来のように Mg や Ce などの合金元素の使用すると、鋳鉄溶湯 成分との合金化による脱硫と脱酸は、時間経過とともに Mg や Ce 含有量が減少するフェ ーディングによって、溶湯中の硫黄・酸素の活量も刻々変化すると考える。従って、鋳鉄 溶湯から晶出する黒鉛形態に及ぼす硫黄と酸素の影響と、MgやCeなどの影響を明確に分 離して評価することは難しい。そのため、MgやCeなどを使用せず脱硫や脱酸させること を目的とした。また、冷却速度も球状黒鉛の生成に重要なものと報告されている。したが って、冷却速度と黒鉛球状化との関係も系統的に検討する。最後に、従来の測定法と問題 点を改善した上、より正確なFe-C溶湯/黒鉛間の界面エネルギーを測定する。これらのγGr/L

値から、黒鉛の球状化機構が界面エネルギーの観点から確証することを目的とした。

2 章 参考文献

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(35)

3 章 球状黒鉛の生成に及ぼす硫黄と酸素の影響

3.1 緒言

本章では、Fe-C溶湯での球状黒鉛生成に及ぼす硫黄と酸素の影響について調査検討した 結果を述べる。第2章で言及したように、現在までに球状黒鉛の生成条件を調査した殆ど の研究が、鋳鉄溶湯に Mg や Ce などの合金元素を添加して脱硫・脱酸を行い、球状黒鉛 を生成させたものである。そこで、硫黄と酸素の除去だけではなくて、鋳鉄溶湯中の Mg や Ce のフェーディングによって溶湯組成が刻々変化する。従って、鋳鉄溶湯から晶出す る黒鉛形態に及ぼす硫黄と酸素の影響と、MgやCeなどの影響を明確に分離して評価する ことは難しい。

この章では、従来の研究で利用してきた Mg や Ce などの球状化剤を使用せず、鋳鉄溶 湯の脱硫・脱酸を行い、黒鉛形態に及ぼす硫黄と酸素の影響のみについて検討することを 目的とした。その手法としては、120massppm(以下、単に ppmで示す)の硫黄を含む Fe-C 溶湯をるつぼ材質や溶解雰囲気を変化させ、脱硫と脱酸を行った。これらの溶湯を炉中で 凝固させ、試料の黒鉛形態と冷却曲線に及ぼす硫黄と酸素の影響を詳細に調査した。これ ら元素の黒鉛形態との関係に対する影響を熱力学計算よりCe、硫黄、酸素の活量との関連

で求めたSubramaninanらの結果1)と比較して考察し、その相違点についても述べる。

3.2 実験方法

3.2.1 母材の作製

実験に用いた試料は電解鉄(99.9% Fe)と高純度黒鉛(灰分20ppm以下)、 99.9 % FeSを原 材料として、マグネシアライニング高周波誘導炉で100kgを溶解し、内径15 mm、長さ300 mmのセラミック鋳型に鋳込み、実験に用いる母材を溶製した。その化学組成をTable 3-1 に示す。

3.2.2 実験手順

本研究に用いた装置の概略図をFig. 3-1に示す。母材より切り出した試料70gをTable 3-2

(36)

に示す 9 つの溶解条件(るつぼ材質と雰囲気変化)で電気炉により溶解・凝固させた。アル ミナるつぼ及びカルシアるつぼ共に内径20mm×外径25mm ×高さ120mmのるつぼを使用し た。凝固過程の冷却曲線を得るため、外径 6mm×内径 4mm のアルミナ保護管に入った B 熱電対をるつぼの中央部に設置した。溶解中に脱硫させるためには、カルシアるつぼを用 いた。また、CaO-CaF2状態図2)より、1723Kで液相となるよう、粉末状のCaO 0.1gとCaF2

0.5g (溶湯質量に対し0.86%)をカルシアるつぼに投入し、固体カルシアるつぼのみで脱硫

を行った場合よりも、さらに脱硫反応を促進させることを目的とした。

一方、溶湯の酸素活量を変化させるため、大気、アルゴン及び Ar-3%H2 の 3 つの雰囲 気ガスを用いた。Ar-3%H2ガスを用いることでアルゴン雰囲気よりもさらに酸素活量を低 下させることを試みた。昇温前に1~2×10-3 Paまで炉内を減圧させた後、雰囲気ガスを導入 し、このガス置換を2回繰り返して、窒素と酸素の分圧を低下させた。溶解及び保持の間、

Table 3-1. Chemical composition of base alloy (mass %).

Fe C Si Mn S P Bal. 4.45 0.016 0.001 0.012 0.001

Table 3-2. Melting conditions; crucibles and atmospheres.

Crucibles Atmospheres

Alumina (Al2O3>99.5 mass%) Air

Calcia (CaO>99.9 mass%) Ar

Calcia* (CaO>99.9 mass%) Ar-3%H2

×

Calcia*: Calcia crucible added with mixed powder of CaO 0.1g -CaF2 0.5g

(37)

Gas outlet Thermocouple

Holder

Electronic Heater Alumina tube

Melt

Crucible

Evacuate Gas inlet

Fig. 3-1. Schematic representation of melting apparatus.

(38)

雰囲気ガスを150cm3/minで流し続けた。ただし、溶解雰囲気が大気の場合には真空排気や ガスの導入は行っていない。これらの雰囲気下で試料を加熱溶解し、1723Kで3.6 ks保持 した。その後、電気炉の電源を切り、約25K/minの冷却速度で炉冷し、るつぼ内で凝固さ せ、凝固終了までの冷却曲線はレコーダより記録させた。凝固させた試料は、黒鉛形態を 調べるため熱電対先端部の位置で切断し、光学顕微鏡によるミクロ組織観察を行った。さ らに、50%塩酸-50%エタノールで基地組織を深腐食させ、SEMにより黒鉛の3次元形態を 詳細に観察した。試料の硫黄含有量は燃焼-赤外線吸収法を使用し定量分析を行った。な お、酸素の分析は行っていない。それは、鋳鉄中の酸素量は10~100ppmとされているが、

これらの殆どが酸化物として存在する酸素である 3)。しかし、黒鉛形態に及ぼす酸素は

Subramanianら1)が示すように、溶湯中の溶解酸素であり、この分析が固体試料からは困難

なためである。

3.2.3 脱硫反応

カルシアるつぼによる溶湯の脱硫は、次の1)式の反応によって起こり、生成自由エネル ギー変化(ΔG o)は2)式で与えられる 4)-6)。1)式と2)式は3)~10)式から誘導することができる。

ここで、下線は溶湯中に溶解している元素(ヘンリ基準の1%)であることを表す。

) 2 )

/ ( 37 . 64 78250

) 1 )

( ) ( )

(

Λ Λ

Λ Λ mol J T G

g CO s CaS C S s CaO

o = −

Δ

+

= + +

) 4 )

/ ( 9 . 2 91100

) 3 )

( )

( )

(

) 4 2 2 1 2

2 1

Λ Λ

Λ Λ mol

J T G

O s CaS g

S s CaO

o = −

Δ

+

= +

) 10 )

/ ( 63 . 4 115750

) 9 )

(

) 8 )

/ ( 5 . 18 125100

) 7 )

(

) 6 )

/ ( 34 . 38 22200

) 5 )

(

) 6 2 2

1

) 5 2 2

1

) 5

Λ Λ

Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ

Λ Λ

Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ

Λ Λ

Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ Λ

mol J T G

O g O

mol J T G

S g S

mol J T G

g CO O C

o o o

= Δ

=

+

= Δ

=

= Δ

= +

1)式の反応が始まると、カルシアるつぼと溶湯間に COガスが発生するので、この COガ スの分圧(Pco)を1気圧と仮定した。硫黄の活量を計算する場合には、炭素の活量係数fc

(39)

(4.45mass%C)を5.3 7)、硫黄の活量係数fs (4.45mass%C)を5.1 8)とした。これらの値を用いて、1)式よ り硫黄の平衡濃度を求めると8.6 ppmとなり、本実験で脱硫によって達成される最終の硫 黄含有量はこの程度になると推測される。

3.2.4 脱酸方法

上記の5)、6)式のように、溶湯中に溶解している酸素量は、炭素や酸化炭素COの分圧 によって決まる。これらの現象を単純に考えると、溶湯中の酸素量は9)、10)式のように酸 素分圧(PO2)との関係が成り立つ。この9)式から、化学反応の平衡定数Koは式11)のように なる。したがって、PO2が低下すると当然に溶湯中の酸素が低下することがわかる。

) 11 )

/( O2 21 Λ Λ Λ Λ Λ

O

O a P

K =

11)式から本研究で使用した大気、アルゴン、Ar-3%H2雰囲気を考えてみる。雰囲気中の

PO2は、炉内をアルゴンガス置換することにより十分に低下する。また、Ar-3%H2 ガス置 換すると、水素と酸素の反応からH2Oガスが生成するので、アルゴンよりも更にPO2は減 少する。したがって、これらの溶解雰囲気によって、間接的ではあるが、溶湯中の酸素量 を制御することができると考える。

3.3 実験結果

るつぼと溶解雰囲気を変化させ、120ppm S を含む母材 70g をアルミナるつぼの中で溶 解・凝固させた。それらの試料の代表的な黒鉛形態をFig. 3-2に示す。全ての雰囲気にお いてA型に近い片状黒鉛が観察されるが、それぞれの溶解雰囲気により黒鉛形態が異なる。

そして、大気中で溶解した試料はFig. 3-2a)に示すようにA型片状黒鉛とともに湾曲した細 かい黒鉛が観察される。基地組織を深腐食させた試料の SEM による立体観察から、この 細かい黒鉛は先端が鋭いD型黒鉛であることがわかる(Fig. 3-2a′)。

カルシアるつぼで溶解・凝固させた試料の黒鉛組織をFig. 3-3に示す。これらの黒鉛は 全ての条件で ISO規格に定められた黒鉛形状のIVに相当する凝集状黒鉛と微細黒鉛であ る。この微細黒鉛はSEMを用いた立体観察からチャンキー黒鉛であることが判明した(Fig.

3-3 a′~ c′)。

(40)

Air Ar Ar-3%H

2

100μm

a b c

a′ b′ c′

SEMMicr

oscope

20μm

Fig. 3-2. Graphite morphology of samples melted and solidified in alumina crucible.

(41)

Air Ar Ar-3%H

2

100μm

a b c

a′ b′ c′

SEMMicr

oscope

20μm

Fig. 3-3. Graphite morphology of samples melted and solidified in calcia crucible.

(42)

CaO-CaF2を添加したカルシアるつぼで溶解・凝固させた試料の黒鉛組織をFig. 3-4に示 す。これらの黒鉛は球状、板状そしてCV(芋虫状黒鉛)と微細黒鉛である。この試料をよく 観察すると、球状と板状黒鉛は共晶組織である微細黒鉛とは連続していない。また、光学 顕微鏡で球状と判定されたもの(Fig. 3-4b とc)も、SEMによる立体観察ではFig. 3-4b′とc′ のように黒鉛形態は完全な球ではないことがわかる。アルゴン雰囲気で凝固させた試料の 黒鉛がAr-3%H2雰囲気で得られた黒鉛よりも一段と緻密で球形に近いこともわかる。また、

大気雰囲気で溶解した試料(Fig. 3-4a)にも一部に球状黒鉛の生成が認められる。

Fig. 3-2~3-4で観察された種々の黒鉛形態を持つ試料の硫黄含有量を分析し、この結果を

黒鉛形態とともにTable 3-3に示す。78~98ppm S試料では片状黒鉛とD型黒鉛が、11~20ppm S試料ではチャンキーと凝集状黒鉛が、1~11ppmの硫黄を含有する試料では球状黒鉛と板 状、チャンキー黒鉛などが認められる。これらの硫黄含有量から硫黄活量を計算してみる と、それぞれ40~50×10-3、5.6~10×10-3、0.51~5.6×10-3が得られる。ここで、おおよそ11ppm

S(as=5.6×10-3)以下では球状黒鉛と板状黒鉛が、それ以上ではチャンキーと片状黒鉛が生成

することがわかる。すなわち、11ppm S(as=5.6×10-3)が球状黒鉛生成の臨界硫黄濃度(活量) と言える。いずれも、母材が持つ120ppm Sと比べて硫黄量が低下し、溶解条件によって

Table 3-3. Sulfur content and graphite morphology of samples (massppm S).

Alumina Calcia Calcia*

Crucible

Atmosphere S,ppm G.M** S,ppm G.M S,ppm G.M

Air 78 A+D 15 CH+AG 5 S+P+CH +V

Ar 86 A+D 11 CH+AG 1 S+P+CH +V

Ar-3%H2 98 A+D 20 CH+AG 11 S+P+CH +V

Calcia*: Calcia crucible with mixed powder of CaO 0.1g -CaF2 0.5g G.M**: Graphite morphology, A: A-type, D: D-type, AG: Aggregate S: Spheroidal, V: Vermicular, CH: Chunky, P: Plate-like

(43)

Air Ar Ar-3%H

2

100μm

a b c

a′ b′ c′

SEMMicr

oscope

20μm

Fig. 3-4. Graphite morphology melted and solidified in calcia crucible with CaO-CaF

2

powder.

参照

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