博 士 ( 農 学 ) 的 場 百 合 香 学 位 論 文 題 名
インゲンマメ苗立枯病に関与するめ競22t77l 属菌の 分類とその制御に関する研究
学位論文内容の要旨
北海 道の 主要 インゲンマメ生産地では,しばしば種子の発芽障害や生育不良,根の 褐変等 の苗 立枯 症状 が観 察さ れる .こ れら の症状を示すインゲンマメからはPythium 属菌が 多く 分離 された.本研究では,北海道におけるインゲンマメの出芽前・後苗立 枯れ とPythium属 菌の 関連 を明 らか にし ,景 山ら(1981)が 報告 した 連作障 害の 原因 であ るPythium属 菌と の異 同を 明ら かに する ため ,連 ・輪 作土 壌と ,一般 圃場 から Pythium属 菌を 分離 して その 種構成 と病 原性 を比 較し た. さら に, それ らPythium属 菌に対 する イン ゲンマメ品種・系統の感受性,環境が病原カに与える影響,および,
化学的,生物的防除法について検討した.
1・Pythium属菌の分類と病原性
分離 したPythium属菌68菌 株を, 生殖 器官 (卵胞子,造精器)の形態から暫定的に 6グル ープ に分 類した.それぞれの代表菌株(Al‑2‑4,Bl‑2‑12,Cl‑l‑20,C2‑2‑6‑1, C2‑2‑6‑2,P‑0140)をインゲンマメ 大正金時 ヘ接種したところ,A1‑2‑4菌株以外は不 発芽や 主根 の伸 長停止などの苗立枯症状や,連作障害として報告された生育不良・根 腐れな どの 症状 を引 起こ した .ま た,Pythium属菌は一般的に広い宿主範囲を持つの で,他 作物 への 病原性も確認した.Al‑2‑4菌株を除く菌株は,エンドウ・カポチャ・
ダイズ ・ダ イコ ン・タマネギ・テンサイに不発芽や苗立枯症状を起し,その病原カの 強弱はPythium属菌の種によって異なっていた・
2.病原性Pythium属菌の同定
6っ に グ ル ー プ 分け したPythium属菌 のうち イン ゲン マメ に病 原性 を示 した5グル ープ を , 形 態 的 ・ 生 態的 特徴 およ びITS領域 のRFLP解 析や 塩基 配列 解析, 種特 異的 プラ イ マ ー に よ るPCR検 出 を 組合 せ て 同 定 を 試 み た. その 結果 ,こ れら5グル ープ はP irregulare Buisman,Pmamillatum Meurs,Pmyriotylum Drechsler,Pspinosum Sawada, P. ultimum Trow van ultimumで あ る こ と が 判 明 し た ・ 3.Pythirun属菌の病原カに影響する要因
Pythium属菌 を様 々な イン ゲンマ メ品 種の 種子に接種したところ,全体的に白色種 皮品種 の方 がPythium属 菌に よる苗 立枯 症状 が激しく出る傾向があった.それぞれの 種で寄 生性 は異 なり ,P myriotylum,Pspinosum,Pultimumは赤種皮品種のインゲン
マメに 対しても 比較的強い 病原カを発揮したが,P irregulare,P.mamillatumはそれ 程 強 く な か っ た . ま た , 温 度 条 件 を 変 え て 育 成 し 病 原 カ を 比 較 し た と こ ろ ,P 卿,riotylumは高 温で,反 対に,Pspinosumは低 温条件で多くのインゲンマメ品種に不 発芽を 起こした .この2種は 温度によ って病原 カが変化 すること から,実 際の圃場に おいて も季節に よって被害 は異なると示唆された.なお,P. ultimumの病原カは温度 に依存せず,常にインゲンマメに強い病原性を示した・
4.インゲンマメの病原菌としてのPythium属菌
景山(1982)は ,Pythium属菌は インゲンマ メの「連 作障害」 の原因菌 であると 報告 してい る.本研 究は,連作 障害に関 与するPythium属 菌も,接 種試験時 の条件に よっ てはインゲンマメの出芽前・後の苗立枯症状に関与することを明らかにした.そこで,
このP irregulare,P.mamillatum,P.myriotytum,Pspinosum,Pultimum var. ultimum を 病 原 菌 と し て 報 告 し , そ の 病 名 を 「 イ ン ゲ ン マ メ 苗 立 枯 病 」 と 提 案 し た . 5.インゲンマメ苗立枯病の農薬資材による防除
今回の 研究では ,Pythium属菌によって引起されるインゲンマメ苗立枯病に対して,
化学的 ・生物的 防除法の検 討を行っ た.まず ,Pythium属菌が 属する卵 菌類に効 果が あると される化 学農薬チウ ラム剤を インゲン マメ種子 に塗抹処理すると,圃場試験に おいて 高い防除 効果を示し た.また ,多くの 病原菌へ の拮抗性 が報告さ れているP・ oligandrumの生物 農薬を種 子に塗布し ,病原菌 土壌混和接種によるポット試験を検討 した結果,チウラム剤と同等の高い防除効果が得られた.
6.非病原性Pythium属菌の分離と同定
接 種 試験 で イ ンゲ ン マ メに 病気を起 こさないAl‑2‑4菌株は, 形態およ ぴ生理的 な 特 徴とITS‑RFLP解 析に よ りP.acanthophoronと同定 した.イ ンゲンマ メとコム ギを 用いた 捕捉法に より,連・ 輪作圃場 から新た に4菌株を 分離し, すでに同 定済みの菌 株 と併 せ た計7菌 株(Al‑2‑4,mW‑1,mW‑2,rHim‑l,rK‑1,Rk‐3,MAFF425319)を ITS領域 の 塩基 配 列 解析 に 供試 し た 結果 ,7菌 株全 て が デー タベー スに登録 されたP ロcロ門廟9幽D′D門のITS領域塩基配列と高い相同性を示し,また,7菌株間での相同性は 99.0‐100%と高かった.このP.ロc弸崩印轟D′弸をインゲンマメ白種皮3品種,赤種皮3 品種の 種子に接 種したとこ ろ,全て の品種に 病原性を 示さず,接種区の草丈は対照区 と比較して高くなる傾向にあった.
7.非病原性め伽ぬ贓属菌を利用した防除
P. ロc弸 所 印 轟Dm門 の 菌 糸 磨 砕 液 を 混 合し た 土 壌に イ ン ゲン マ メを 播 種 し,P けヅfDOね 所を寒天 片接種した結果,病原菌単独接種区と比較して苗立枯症状が抑制さ れた. これよりP.ロ…脇噺0m門のイン ゲンマメ 苗立枯病 に対する 抑制効果 が示唆さ れた.また,P.ロ閉′劭噺D′。門の細胞壁タンパク質(CWP)を抽出し,インゲンマメ 種子に 吸水させ てから病原 菌を接種 すると, 発芽率が 病原菌単独接種区と比較して高 く なり , イン ゲ ン マメ に 病害 抵抗性 および生 育促進を 誘導する 作用が示 唆された.
SDS‐P AGEで 確 認 し た 結 果 ,Pロc弸 めDp轟D′Dカ のCWPは30kDaで あ っ た ・ 以 上 よ り , チ ウ ラ ム 剤 や 生 物 農 薬 , そ し て 今 回 防 除 効 果 が 証 明 さ れ たP
acanthop轟甜Dロの利用,インゲンマメ品種の選択,適切な水分管理,また,輪作体系 の適切な設計を組み合わせることで,恥|脚属菌が引起すインゲンマメ苗立枯病に 対する効果的な防除を行うことが可能になると考える.
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 助教授 近藤則夫 副査 教授 内藤繁男 副査 教授 幸田泰則
学 位 論 文 題 名
インゲンマメ苗立枯病に関与するみ協 iZt77l 属菌の 分類とその制御に関する研究
本 論 文 は 図58, 表31を 含 み ,10章 か ら な る 総 頁 数175の 論 文 で あ り , 別 に 参 考 論 文1編が添えられている.
北海道 の主要 なインゲ ンマメ 生産地で はしぱ しば苗立 枯症状が 見られ ,これら被害苗およ ぴ不発 芽種子 からPythium属菌が 多く分離 される ことから ,苗立 枯症状とPythium属菌との関 連 が推 定 さ れてき た.本研 究は,こ れらの インゲン マメの 出芽前後 の苗立 枯症状とPythium 属 菌の 関 連 を明ら かにし, 連作障害 の原因 であるPythium属菌 との異同 を明ら かにする こと を主な 目的と して行わ れたも のである ,この中 で,試 験的に設 けられ たインゲンマメ連作土 壌も含 め,本 症状発生 圃場土 壌から分 離したPythium属菌の同定と病原性の検討がなされた.
さ ら に , 苗 立 枯 症 状 の 防 除 法 に つ い て , 新 た な 生 物 的 防 除 資 材 の探 索 が 試み ら れ た,
分 離 し たPythium属 菌68菌 株は 形 態 的に6種 に分 け ら れ, こ の うち5種が インゲン マメに 不 発芽 や 主 根の伸 長抑制な どの苗立 枯症状 を引起こ すこと が明らか にされ た.これ ら5種 に つ いて , 形 態的 , 生 理的 比 較 お よびITS領 域 のRFLP解析 や 塩 基配 列の 比較, 種特異的 プラ イ マ ー に よ るPCR検 出 を 組 合 せ て 同 定が な さ れた . そ の結 果 , これ ら はPirregulare,P mamillatum,Pmyr iotylum,Pspinosum,P.ultimum var. ultimumであることが判明した.いず れも各種作物に病原性を有することが知られている種である,
こ れ ら 病原Pythium属 菌は概し て赤色 種皮品種 インゲ ンマメに 対して よりも白 色種皮品 種 に対し て激し い症状を 起こす 傾向にあ ったが,P myriotylum,Pspinosum,P,ultimumは赤色 種皮品 種に対 しても比 較的強 い病原カ を発揮し た.ま た,P myriotylumは 比較的高温で,反 対にP spinosumは低温条 件で多 くのイン ゲンマ メ品種に不発芽を起こした.一方,P ultimum は 温度 に 拘 らずイ ンゲンマ メに強い 病原性 を示した .以上 のことよ り,P. irregulare,P mamillcitum,P.myriotylum,Pspinosum,P.ultimum var. ultimumをインゲンマメの新たな病原 として 報告し ,その病 名「インゲンマメ苗立枯病」が提案された.また,インゲンマメの根の 褐変あ るいは 生育抑制 を伴う連作障害の原因であるP・ myriotylumがインゲンマメ苗立枯病の 病原菌 のひと っであり ,本菌 はインゲ ンマメの ほとん どの生育 期に亘 って影響を及ばすこと
が明らかになった. ―993―
次に,イ ンゲンマメ苗立枯病に対して,Pythium属菌が属する卵菌類に効果が認められてい るチウラム 剤をインゲンマメ,種子に塗抹処理することで,高い防除効果を示すことが圃場試 験 にお いて 確認 され た .また,多くの病原菌への拮抗性が報告さ れているP oLigandrumの生 物 農薬 資材 を種 子に 塗 布することにより,チウラム剤と同等の高 い防除効果がポット試験で 認められ, 生物防除の可能性が示唆された.
上 記5種 の 病 原 性Pythium属 菌以 外 の1種は ,イ ンゲ ンマ メの ほ か主 な作 物に 対し ても 病 原 性は 認め らな かっ た .そ の形 態的 およ び生 理的 特徴とITS領域 塩基配列の高い相同性によ り本菌はP. acanthophoronと同定され た.本菌接種による作物の生育促進効果および病害抑制 効 果の 報告 があ るこ と から,インゲンマメ苗立枯病に対する生物 的防除資材としての効果が 検討された ,P acanthophoronの菌糸磨 砕液を混合した土壌にインゲンマメを播種し次いで病 原 菌のP myriotylumを 接種すると,病原菌単独接種区と比較して 苗立枯症状が抑制され,さ ら にP acanthophoronのみ 接種 した イン ゲン マメ の草丈が対照の 無接種インゲンマメと比較 して高くな るなど,病害抑制効果および生育促進効果が期待できた.P. acanthophoronから抽 出 した 分子 量約30kDaの細 胞壁 タン パク 質を イン ゲンマメ種子に 処理し,次いで病原菌を接 種すると, 病原菌単独接種区と比較して発芽率が高く詮り発病抑制効果が見られたことから,
細 胞壁 タン パク 質に よ るインゲンマメの病害抵抗性および生育促 進誘導作用が示唆された.
以上 の成 果は ,イ ン ゲンマメ栽培に多大な影響を与える病害の 病原を明らかにすることに よ って 防除 対策 の基 盤 を築き,新たな生物的防除資材の可能性を 見出したことにより,応用 上 ,学 術上 高く 評価 で きる.よって審査員一同は,的場百合香が 博士(農学)の学位を受け るに十分な 資格を有するものと認めた.
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