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非線形分散波理論に基づいた津波遡上解析手法の構築研究

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(1)

修士論文要旨(

2008

年度)

安定化有限要素法による

非線形分散波理論に基づいた津波遡上解析手法の構築研究

Development of a Tsunami Runup Numerical Method

based on Nonlinear Dispersive Wave Theory by Stabilized Finite Element Method

土木工学専攻

32

号 利根川 大介

Daisuke TONEGAWA

1. はじめに

地震に伴い発生する津波により沿岸域では甚大な被害 を受けることが予測される.現在世界各国でさまざまな 津波被害が報告され,防災対策の検討が広く行われてい る.防災対策を行う上で津波到達時間や最大遡上域の予 測,建物に働く力を正確に把握することが求められ,近 年ではコンピュータ性能の飛躍的進歩により数値解析に よる検討が盛んに行われている.

津波の数値解析手法としては,差分法による解析が広 く行われてきたが,津波の数値解析対象は複雑な自然地 形や建物群を考慮するため,遡上域・建物に働く波力を 正確に把握するためには,任意形状への適合性に優れ,

波力を正確に把握可能な有限要素法が有効な手法である と考えられる.また既往の研究において建物群を考慮し た解析手法1)が提案されているが,津波に対する建物の 抵抗をモデル化して土地利用毎に粗度を設定する方法で あり,建物周辺の流れを正確に把握するには建物の形状 を正確に考慮した解析を行う必要があると考えられる.

そこで本研究は,数値解析により波の遡上,建物に働 く波力を正確に評価可能な数値解析手法の構築を行うこ とを目的とする.支配方程式には波の非線形性と分散性 を考慮した非線形分散波方程式(

Boussinesq

方程式)を 用い,離散化手法に

SUPG

法に基づく安定化有限要素 法2) を適用する.遡上域における移動境界手法として は固定メッシュに基づく

Euler

的手法3)を用いる.数値 解析例として,孤立波遡上解析,建物を有する津波遡上 問題,建物群を有する津波遡上問題を取り上げ,本手法 の有効性の検討を行う.

2. 数値解析手法 2.1

支配方程式

支配方程式には,以下に示す非線形性と分散性を考 慮した非線形分散波方程式(

Boussinesq

方程式)を用 いる.

∂U

∂t + A

i

∂U

∂x

i

∂x

i

µ N

ij

∂U

∂x

j

=

2

∂t∂x

i

(K) + R GU (1)

ここで各ベクトルとマトリックスは以下のようである.

U =

"

H u

1

H u

2

H

# , K =

 0

h2 3

∂uiH

∂x1 h2

3

∂uiH

∂x2

, R =

−c

2

0

∂x∂z

−c

2∂x∂z1 2

,

A

1

=

"

0 1 0

c

2

u

21

2u

1

0

−u

1

u

2

u

2

u

1

# , A

2

=

"

0 0 1

−u

1

u

2

u

2

u

1

c

2

u

22

0 2u

2

# ,

N

11

= ν

e

"

0 0 0

−2u

1

2 0

−u

2

0 1

#

,N

12

= ν

e

"

0 0 0

0 0 0

−u

1

1 0

#

N

21

= ν

e

"

0 0 0

−u

2

0 1

0 0 0

#

, N

22

= ν

e

"

0 0 0

−u

1

1 0

−2u

2

0 2

# ,

G =

 

0 0 0

0

Cf

u21+u22

H

0

0 0

Cf

u21+u22 H

  , C

f

= gn

2

H

1/3

ここで

u

i

x

y

方向の断面平均流速,

H

は全水深,

h

は静水深,

ν

eは渦動粘性係数,

n

はマニングの粗度係 数,

c

は波速,

g

は重力加速度,

z

は基準面からの高さで ある.また,

U

K

R

A

i

N

ij

G

はそれぞれ未知,

分散,勾配ベクトル,移流,拡散,摩擦マトリックスで ある.

2.2

安定化有限要素法

支配方程式

(1)

に対して,空間方向の離散化として

SUPG

法に基づく安定化有限要素法2)を適用する.こ れにより以下に示すような重み付き残差式が得られる.

Z

U

·

³ ∂U

∂t + A

i

∂U

∂x

i

+ GU R

´ dΩ +

Z

µ ∂U

∂x

i

· µ

N

ij

∂U

∂x

j

+

∂t (K)

dΩ +

nel

X

e=1

Z

e

τ(A

j

)

T

³ ∂U

∂x

j

´

·

³ ∂U

∂t + A

i

∂U

∂x

i

+ GU R

´ dΩ +

nel

X

e=1

Z

e

δ ³ ∂U

∂x

i

´

· ³ ∂U

∂x

i

´

dΩ = 0 (2)

(2)

(2)

において左辺

1

2

項目は

Galerkin

項であり,

3

4

項目の要素ごとの積分の総和項はそれぞれ

SUPG

法による安定化項,水位の不連続面での数値不安定性を 回避する

shock-capturing

項である.拡散項と分散項に 対しては部分積分を行っている.また

τ

δ

は安定化パ ラメータであり以下のようである.

τ = ³ 1

SU GN1

)

2

+ 1 (τ

SU GN2

)

2

´

1

2

τ

SU GN1

=

³ X

nen

a=1

(c | j · ∇N

a

| + | u · ∇N

a

|)

´

−1

τ

SU GN2

= ∆t

2 , j = ∇H k ∇H k

δ = τ

SHOC

(||u

int

||)

2

τ

SHOC

= ³ X

nen

α=1

¯ ¯

¯u·∇N

α

¯ ¯

¯

´

−1

||u

int

|| = ||u||

ここで

∆t

は微小時間増分量,

N

aは形状関数である.

また要素としては三角形一次要素を用いて補間を行 い,時間方向の離散化には

2

次精度を有する

Crank- Nicolson

法を 適 用 す る .以 上 よ り 得 ら れ た 連 立 一 次 方程式の解法には

Element-By-Element

に基づく

Bi- CGSTAB

法用いた.

2.3

移動境界手法

遡上域における移動境界手法として,固定メッシュに 基づく

Euler

的手法3)を用いる.

Euler

的手法とは,あ らかじめ対象領域を有限要素分割しておき,各時間ス テップにおいて,要素が陸域の要素なら計算領域外,水 域の要素なら計算領域内という処理を行うことにより,

境界の移動を

Euler

的に表現していくものである.時間 ステップ

n

において,各要素における3節点の全水深

H

nと設定した微小水深

ε

とを比較し,陸水判定を行い,

水際境界線の移動を表現する.

2.4

流体力評価法4)

本研究では支配方程式

(1)

に有限要素法を適用し,時 間ステップごとに計算された流速と水深を用いて,流体 力を式

(3)

の右辺の境界積分項

T

より求める.

構造物周り一層分のメッシュにより構成される領域

0では,

Z

0

U

· ³ ∂U

∂t + A ¯

i

∂U

∂x

i

+ GU R ´ dΩ +

Z

0

µ ∂U

∂x

i

· µ

−L

i

U + N

ij

∂U

∂x

j

+

∂t (K)

dΩ

= Z

Γin

U

TdΓ (3)

が成り立つ.よって式

(3)

を鉛直方向に積分し,計算さ れた流速と水深を代入することにより構造物に働く流体 力が求められる.

2.5

建物倒壊方法

本研究では,建物の倒壊を考慮した解析を行うため,

建物倒壊方法を導入する.まず構造物内部にも有限要素 分割を行い,構造物の境界に境界条件を与える.そして 毎ステップ各構造物に働く流体力を計算し,ある構造物 が定めた造り別の構造物の倒壊にいたる流体力の指標

(コンクリート造,木造など)を超えたとき,その構造物 は倒壊と判定し,構造物周りの境界条件を

Free

として 解析を行っていく.

2.6

砕波モデル

非線形分散波方程式は直接砕波による運動量散逸を考 慮することが困難な方程式である.そこで砕波の表現に は,岩瀬ら5)にならい,拡散項の渦動粘性係数により運 動量散逸を表現し,砕波判定には流速波速比を用いる.

流速波速比が

0.59

を超えたときに砕波と判定し,渦動 粘性係数を以下の式

(4)

により空間分布として与え,砕 波による波高減衰を表現する.

ν

e

= β p

gHζ (4)

ここで

β

は係数であり,岩瀬らにならい,水理実験と数 値計算の比較により決められた係数

β=0.23

とする.

3. 数値解析例 1

3.1

孤立波遡上問題

津波の砕波,遡上問題に対しての本手法の有効性の検 討を行うため,

Synolakis

による水理実験モデル6),7)を 取り上げる.解析モデルを図

-1

に示す.

L

は孤立波の 半波長であり,波高水深比は

0.3

である.水理実験を考 慮し,マニングの粗度係数

n = 0.01[s/m

13

]

とした.

x,y

方向分割幅

0.005[m]

,微小時間増分量

∆t=0.005[sec]

と した.

3.2

解析結果

-2

において,波高水深比

0.3

での無次元化した各 時刻

(t

0

= t(

hg

)

12

= 10

15

20

25

30

35

40

60)

に おける波形の実験結果と計算結果との比較を示す.図

-2

より,

(t

0

= 20)

の砕波領域において,実験値に比べ過小 評価しているものの,波の伝播,遡上を精度良く表現で きていることがわかる.また図

-3

は孤立波の入射波高 に対する遡上高を計算し,

Synolakis

が提案した算定式 と比較したものである.図

-3

より非砕波領域,砕波領域 ともに近い値を示しおり,傾向を得られていることがわ かる.

(3)

z x 1:19.85 h

ζ

t=0

L

– 1 Synolakis

による水理実験モデル

-20 -10 0 10

0 0.2 0.4 0.6

Ā/h

Cal.

Exp.

t'=10

-20 -10 0 10

0 0.2 0.4 0.6 t'=15

-20 -10 0 10

0 0.2 0.4 0.6 t'=20

-20 -10 0 10

0 0.2 0.4 0.6 t'=25

x/h

-20 -10 0 10

0 0.2 0.4 0.6 t'=30

-20 -10 0 10

0 0.2 0.4 0.6 t'=35

-20 -10 0 10

0 0.2 0.4 0.6 t'=40

-20 -10 0 10

0 0.2 0.4 0.6 t'=60

x/h

     

– 2

各無次元時刻における計算結果と実験値の比較

10-3 10-2 10-1 100

10-2 10-1 100

Ā/h0

R m ax/ h

0

Cal.

non-breaking breaking

     

– 3

孤立波の最大遡上高の計算結果と算定式の比較

4. 数値解析例 2

4.1

建物を有する津波遡上問題

本手法の津波の遡上,波力への有効性の検討を行うた め建物を有する津波遡上問題8)を取り上げる.図

-4

に,

解析モデルを示す.幅

7[m]

,長さ

11[m]

の平面水槽で あり,波の浅水変形から遡上までを再現する.入射波は 実験での造波板の移動速度の時刻歴を

x

方向の線流量と して入力する.建物模型は護岸から

0.2[m]

の位置にあ り,縦×横は

0.1

×

0.1[m]

の角柱である.水理実験を 考慮し,マニングの粗度係数

n = 0.01[s/m

13

]

とした.

有限要素分割は非構造格子(総要素数

44991

,総節点数

89313

)を用い,微小時間増分量は

0.005[sec]

とした.

4.2

解析結果

-5

に お い て ,各 地 点

(P1: x=-3.8[m]

P2: x=-

2.3[m])

における水位変動量の時刻歴の実験結果と計算

結果の比較を示す.図

-5

より,

P1

での波が伝播してい る段階において計算結果は実験値と良い一致を示してお り,

P2

において非線形の影響により波高が増幅し,浅 水変形している様子も計算結果は実験値と良い一致を示 していることがわかる.また図

-6

に示す建物に働く波 力の時刻歴の実験値と計算結果の比較より,波の衝突が 実験値に比べ若干遅れているが,波力は実験値に対して 良い一致を示していることがわかる.

Shallow water

Sea Land

Wavemakerpaddle

Incident wave

3.83 1.75 1.81 3.7

5.85 6.95

0.62 0.6 0.57

~ ~

P1 P2

0.2

Unit:m x

y o

     

– 4

水理実験モデル

0 10 20

0 0.02 0.04

P1

time [ s ]

waterelevation[m] Cal.Exp.

0 10 20

0 0.02 0.04

P2

time [ s ]

waterelevation[m]

     

– 5

各地点

(P1,P2)

における水位変動量の時刻歴

8 9 10 11 12 13

0 1 2

time [ s ]

force[N]

Cal.

Exp.

     

– 6

建物に働く波力の時刻歴

(4)

5. 数値解析例 3

5.1

複数建物を有する津波遡上問題

本手法の実問題への適用の基礎的段階として,建物群 を有する津波遡上問題を取り上げる.図

-7

に解析モデ ルを示す.陸上部に

7

棟の建物を配置したモデルであ り,沖合いに水位差

1.5[m]

の段波を発生させる.有限要 素分割は,非構造格子(総要素数

19232

,総節点数

9861

-7

)を用い,微小時間増分量は

0.01[sec]

とした.ま た本研究では建物の倒壊を考慮するため,建物をコンク リート造,木造にわけ

,

それぞれの建物が倒壊する抗力 値を,表

-1

に示す松冨らの指標9)を用いて解析を行う.

– 1

家屋の造り別の倒壊に至る抗力 家屋の種類 抗力

[KN/m]

コンクリート造

165.6

木造

10.4

     

– 7

左:解析モデル,右:建物周辺の有限要素分割図

     

– 8

波の遡上,衝突,構造物倒壊

5.2

解析結果

-8

において,津波が押し寄せ,構造物が倒壊してい く様子を示す.図

-8

より発生した津波により,津波が陸 上へ遡上し,建物に衝突していることがわかる.そして コンクリート造は倒壊に至っていないが,木造は波力が 設定した限界値を超え,倒壊していることがわかる.こ れにより,本手法は建物の倒壊を考慮した解析を行えて いることがわかる.

6. おわりに

本研究では,支配方程式に非線形分散波方程式を用 い,波の遡上,建物に働く波力を正確に評価可能な数値 解析手法の構築を行った.数値解析例として孤立波遡上 問題,建物を有する津波遡上問題,複数建物を有する津 波遡上問題を取り上げ,本手法の有効性の検討を行った 結果,以下の結論を得た.

本手法は波の変形及び遡上高を精度良く表現可能 であり,計算結果は実験値と良い一致を示してお り,本手法の妥当性が確認された.

波力においては,計算結果は実験値に対して定 量的に良い一致を示し,本手法の妥当性が確認さ れた.

本手法は建物の倒壊を考慮した解析を行えること ができ,本手法の有効性が確認された.

今後の課題として,構造物の倒壊を考慮した実問題へ の本手法の適用などが挙げられる.

参考文献

1)

小谷美佐,今村文彦,首藤伸夫:

GIS

を利用した津波遡上計 算と被害推定法,海岸工学論文集,第

45

巻,

pp

356-360

1998.

2) T.E.Tezduyar

Stabilized finite element formulations for incompressible flow computations, Advance in Ap- plied Mechanics, 28,pp

1-44

1991

3) Mutsuto Kawahara

Tsuyoshi Umetsu : Finite element method for moving boundary problems in river flow

Int

J

Numer

Methods in Fluids

6

pp.365-386

1986

4)

小林義典,樫山和男:津波遡上現象と流体力の安定化有限要 素解析,第

19

回数値流体シンポジウム,

CD-ROM

2005 5)

岩瀬浩之,深澤雅人,後藤智明:ソリトン分裂の砕波変形 に関する水理実験と数値計算,海岸工学論文集,第

48

巻,

pp

306-310

2001

6) Synolakis

C.E.

The runup of solitary wave

J

Fluid

Mech

.,

185

pp.523-545

1987

7) Titov

V.V.

and Synolakis

C.E.

Modeling of breaking and nonbreaking long-wave evolution and runup using VTCS-2

J

Wtrwy

Port

Coast.

and

Oc

Engrg.

ASCE

121(6)

pp.308-316

1995

8)

チャルレスシマモラ,鴫原良典,藤間功司:建物群に作用す る津波波力に関する水理実験,海岸工学論文集,第

54

巻,

pp

831-835

2007.

9)

松冨英夫,首藤伸夫:津波の浸水深,流速と家屋被害,海 岸工学論文集,第

41

巻,

pp

246-250

1994.

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