大学新入生がふ りかえ ってみた =い じめ日の体験
On"Ijime"田unying)RememberedbytheUmiversityStudents
弘前大学保健管理 セ ンター 遠山 宜哉 弘前大学教育学部 豊嶋 秋彦 1 は じめに
2 調査 と分析の方法 3 結果 と考察
1)過去 のい じめ体験の報告
2)過去 のい じめ体験 と現在の状態 との随伴関係 3)学生相談 と学生のい じめ体験
4 まとめ
keywords:bunying,retrospectiveapproach,studentcounseling,
1 は じめに
本論では,われわれが これ まで3年 間にわた って行 な って きた 「い じめ」 に関す る実態調査の結 果 を報告す る。すでに4回にわた って報告書で結果 を紹介 して きた (遠 山 ら,1996a,b,1997.1998) が.本論では,それ らのデータを統合 し,あるいは別の角度 か ら分析 し直 して, これ までの調査の まとめ とす ることを 目指 した。
い じめ とい うテーマは裾野が広 く. しかも非常 にデ リケー トである。第三者 か らみて誰 にも明 ら かない じめが発生 している場合で も.い じめの被害者は被害 を否定 し加害者 は加害 を否定す るとい うことが往 々に してある。逆 に,第三者 か らみて単なるふざけ合 い と思われ るような行動で も,被 害者 か らすれ ばい じめ と感 じられ ることがある。 さらに,森 田ら (1986)がいわ ゆる四層構造論で 示 した ごと く,一件のい じめに関わ っている人間は,い じめを面 白が ってみる 「観衆」 と呼ばれ る 層や,い じめの発生 には気づ きなが らなす術 もな くそれを眺めている 「傍観者」層 も含 まれ る。 し たが って,い じめ発生の場面のかな りの割合の人間がそれ に否応 な く巻 き込 まれていることになる。
学校場面 でのい じめについては現場教師 による調査が行われている。 これはい じめの解決のため に実態 を知 ろうとす るものであるが,い じめは深刻化す るほど見えに くくな り隠蔽 され る性質をも つので,対応 策をたてる上の有効な情報 が得 られ ることは少 ない。 ま して.それ が教師 という.学 校場面 の当事者 によって行われれ ばなおのことである。 また,い じめ被害者 は 自尊心 を保つために みずか らを被害者 と して認めようと しない方向に動 き,加害者 は罪悪感 を減ず るため にみずか らを 加害者 と して認め ようと しない方 向に動 く傾向があると想定で きるか ら,学校関係者以外の人間が 生徒 にい じめ について尋ねて も.現在進行形のい じめについての認知 を問 うことはや は り大 きなバ イアスを受 けるであろう。
われわれ が行 な って きた ような.大学生 を対象 と した回顧的 ・遡及的な調査 はこの点 においてい
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くらかの長所 をもっていると言える。過去のい じめについて, これまでを振 り返 り,い じめと自分 との関係 について考えてもらうという尋ね方を しているか らである。 また,大学入学時点では大半 の学生が18歳か ら20歳であ り小学校低学年期との時間差は10年程度あるので.い じめ体験後の生活 経験 によって記憶が歪め られ.あるいは薄れたことも十分に考えられるが.逆 に新 しい光で過去の 体験 を 「い じめであった」 「い じめでなか った」 と意味づけることも可能 なのであって, この こと 自体は調査の決定的なマイナスにはならないだろう。問題があるとすれば.大学新入生が調査時点 で心理的 ・身体的な不調を感 じている場合,それを過去 にい じめ被害 を受けたため.あるいは∴い じめ加害 を して しまったためと意味づけて,過去の体験を過大視 して しまう可能性があることであ る。 しか し,い じめをどのように定義づけても 「い じめ られた」 という主観的体験を無視 して論 じ ることができない以上. この問題 に決着 をつけることはできない。い じめ体験のマイナスだけでな くプラスについてもあえて尋ねる工夫をするなど,質問 自体 に配慮 をすることに加えて,解釈の段 階で匡重 な検討を重ねることで論議の確からしさを高める しかないO
大学の学生相談 を担当 した経験 をもつ人たちのデ ィスカッシ ョンで出て くるのは,心理相談にや って くる学生にはい じめにまつわる体験 をもっている者が多いという印象である。今回.それは部 分的には確認で きたが, もし.それが的を射た感想だとすれば.大学教育の中で何をすれば彼 らに 癒 しをもた らせるかを考える上で. この種の調査が結果 として材料を提供できるだろう。また. ど んなことが傷 になって残 り.何が癒 Lになるかが分かれば学校教育全体への提言ができるはずであ る。間接的には, この調査はそれ を狙いと している。「い じめを如何に根絶するか」 という問いに 答える方向ではな く,それはどんな意味を人生にもた らすのか.どのように活かせば良いのか,「い じめ」 といった言葉で くくり得ないような豊かな体験に してい くには何をすれば良いのか,それが 傷にならないような人生とは何 なのか, といった視点を提示できれば望ましいと考えている。
2 調査 と分析の方法
以下 に報告す るのは4回にわた って行なった質問紙調査のまとめである。それぞれの調査の方法 について以下 に述べることとす る。
調査① : 平成7年4月に,弘前大学の5学部,人文 ・教育 ・理 ・医 ・農の新入生1,226名 (男子 689,女子537)に対 して郵送法 により行なった質問紙調査である。入学時手続 き書式等 と共に送 ら れる書類の中に保健管理センター発の 『健康調査書』が含 まれ るが. この一部をアンケ‑ トに割い たO調査書は全体で6頁にわた り.前半は身体の健康 について既往歴 などを尋ねるものであるが, 後半の2頁をアンケー トとして区切 り,結果は統計的 に処理すると断 った上で7項 目について質問を した。回収 も郵送で行われた。回収率は100%であ り.有効回答 は1,205件 (男子671,女子534). 有効回答率98.3%であった。
調査② : 平成7年4月,弘前大学の5学部の新入生 を対象に.健康診断時に行なった質問紙調 査である。 これは国立大学等保健管理施設協議会が 『学生の健康 白書』の資料 とするために行なっ た調査に弘前大学が参加 したものであ り,調査項 目は12であ った。医学部附属病院で行われる健康 診断の待 ち時間に回答 してもらう方法であったため,健康診断に現われなかった学生や質問紙の配 布 もれ もあ り.対象1,226件中860件 を回収 (男子438,女子422).回収率は70.1%であ った。有効
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回答率は100%である。 なお, この調査結果は学生番号 を照合す ることによって調査①の結果 と統 合す ることができた。調査の 目的は多少異なるが,同 じ時期 に同 じ対象 に行なった質問紙調査であ り,統合には無理がない と考えて良い。 こう してで きた有効なデータは対象1.226件中,848件 (男 子432,女子416)で全体 の69.2%である。
調査③ : 調査(Dと同様 の方法で平成8年度の新入生1.223名 (男子692.女子531)を対象 に行な った調査である. ア ンケー トの部分には大幅な修正を加え,3頁半 にわた って大項 目で4,合計12 項 目の質問と した。 なお, ここでの変更のもっとも大 きな部分は,調査(Dでい じめを定義 しなかっ たのに対 して, 「複数の人が,一人 または少数者 に対 して.繰 り返 して行 なった もの」 に限 って考 えるように,簡単 な定義を付 した ことである。調査書の回収率は100%,有効回答は1.190件 (男子 671.女子519),有効回答率97.3%である。 なお,分析 にあたっては 「健康調査書」のア ンケー ト 以外の部分,すなわち,食行動 について尋ねた二つの質問に対す る回答 もデータと して用いた0
調査④ :方法は調査(D ・③ と同様であるO対象は平成9年度の新入生1.221名 (男子674.女子546) である。アンケー トの構成 はほとんど調査③ を踏襲 した。 したが って,分析にあたっては調査③の データと統合 したものを対象 と した。調査書の回収率は100%,有効回答 は1.205件 (男子663,女 子542),有効回答率 は98.7%である.調査③ 同様.食行動 についての二つの質問への回答 をデー タとしただけでな く,調査の最後 に,い じめ体験 を清算す るための学内グループ活動への関心につ いて尋ねた項 目についても分析の対象 と した。
なお,統計的解析 についてはSPSSを用いた.
3 結果 と考察
1)過去のい じめ体験の報告
図 1はい七めの体験率 をみた ものである。H7年調査 とH8・9年調査 とでは体験率が大 きく異 なるのが分かる。 これ は 「い じめ」の定義の有無による。上述 したような定義を付す ことで体験率 はおよそ半分 くらいに下が った ことになる。 しか し.後者で も大学新入生の四人 に一人は体験者 と いうことになる。 なお,いずれの調査で も男子よ り女子の体験率が高 く.特 に 「被害体験のみ」群 が女子に多い ことが分かる。
い じめの被害 ・加害 を.双方 とも体験 した例 について,被加害体験の時間的関係別 に分けたのが図 2である。加害から被害 に回る者 よ り.被害か ら加害 に回る者が多いのが共通 して読み取れ る。「い じめ られ る前 にい じめようとした」 とい う自由記述か らその心理の一端が うかがえる。 しか し.被 害 ・加害 を相前後 して体験す る者 も多 く.い じめ体験の複雑 さが うかがわれ る。 なお.H8・9年 調査で 「被加害混在」が増 えている理 由は不明である。図4にみるように,い じめ被害の構成比上,
「いやが らせ」という可視的なものが減 り.「仲間はずれ」という見えに くいものが増えたことが,
「被加害混在」群が増 えた ことに関係 しているか もしれ ない。
図3は主たるい じめ被害の時期 を,四つの学齢期 に区切 って調べた結果である。高等学校ではい じめが問題 になることが少ない点で共通 している。 また,H7年調査では小学校低学年 ・高学年 ・ 中学校の三つの時期でほぼ同程度 に体験 されているが,H8・9年調査では小学校高学年で被害が 多 く,女子で この傾向はさらに明確である. この結果は豊嶋 ら(1993)とも共通する結果であるO少
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な くとも上述のような定義の下でい じめを考 えるかぎ り,小学校高学年 は注 目に値す る時期である ことが分かる。
H7年全体 H7年男子 H7年女子 H8・9年全体 H8・9年 男子 H8・9年女子
図1 い じめの体簾率
H7年調査
H8・9年調査
20% 40% 60% 80% 100%
田 被菩‑加害 E]加害‑被害 国 被加害混在
図2 被加害両体験者の体襲パ ターン
‑ 16 ‑
H7年調 査
H8・9年調査
H8・9年 男子
H8・9年女子
H7年調査
H8・9年調査
20% 40% 60% 80% 100%
日小学校低学年 臼 小学校高学年 四 中学校 □高等学校
図3 被害の時期
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% J無視 田仲間はずれ J言葉 の暴 力 田いやが らせ 田身体 的暴 力 ロその他
図4 被害の内容
図4は被害 内容 を奥村 らの調査の結果 (1987.1988a,b)を参考 に して六つのカテゴリー に分けて 調べた結果である。 「その他」は実際にはほとんど現われなか った。 したが って,以下の分析では このカテゴリーを無視す ることにする。「言葉の暴力」を一位 と して,「いやが らせ」「仲間 はずれ」
がそれ に次 ぐという関係 である。H7年調査 とH8・9年調査 を比べ ると.構成比上で 「いやが ら せ」群が減 り 「仲間はずれ」群が増 えている。 これは主にい じめ定義 を加えた ことによるものと考 え られ るか ら. 「いやが らせ」 はい じめ と考え られやすいが, 「仲間はずれ」 はい じめの定義 によ って影響 を受けに くい ということになる。 これは,一定の期間にわた って 「繰 り返 して」行なわれ たもの と定義 したためであると考えざるを得ない。「いやが らせ」は1回で もい じめ られた印象を 受けうるが, 「仲間はずれ」はその性質上 一定の期間継続があっては じめて被害の印象が成立す るからである。
‑17‑
人
小学校低学年 小学校高学年 中学校
図5‑1 被害の時期 と内容 (男子)
点
田 身体的暴力 田 いやが らせ
■嘗葉の暴力 巳 仲間はずれ
■無視
小学校低学年 高学年 中学校
図5‑2 被害の時期 と内容 (女子)
男子 女子 小学校低学年 中学校 無視 言葉の暴 力 身体的暴力 高学年 仲間はずれ いやが らせ
図6 被害程度の認知
‑18‑
図5の二つの図は,H8・9年の調査について,男女別 ・時期別 に体験者実数 をグラフに した も のである。男子では女子 にはほとんどない 「身体的暴力」がみ られ るのに対 し,女子では 「仲間 はずれ」「無視」 とい った関係を切断するい じめの割合が高い。 この関係切断型のい じめは,男女 ともに小学校高学年 において他の時期 に比べ大 きな割合 を占めているのが特徴的 に見て取れ る。
逆 に, これ らの カテゴ リーのい じめが.小学校高学年 のい じめの絶対数 を押 し上げてい ると見る ことがで きる。 なお, 「身体的暴力」のい じめ被害が中学期の男子にほ とんど集中 していることの 意味は不明である。
図6は. こう したい じめ被害の程度 を本人が評定 した ものを,それぞれ カテゴ リー別 にみたも のである。「9点を 『もっともひどい』 として, 0点か ら9点 までの整数で表す とすれば何点 くら いですか」 とい う質問を行な って.得 られた評点 を平均 した ものを示 してある。性別,時期別, 内容別 に示 したが. 分散分析の結果,いずれ にも統計的 に有意 な差 は認め られ ない。ただ し,輿 味深いのは,実数 の多い小学校高学年でのい じめ被害程度 は相対的には低 く, この時期 に特徴的 だ った関係切断の二つのタイプのい じめ も,相対的に低い評点に止 まっていることである。
こうしたい じめ被害 に対 して.新入生は過去 にどの ような対処を してきたのだろうか。図7に その全体的傾 向を示 した。対処法 についてのカテゴ リー も奥村 ら (1987,1988a.b)の結果を参考 に作成 した ものである。表現と しては 「我慢 した,耐えた」「無視 した」「自分だけで反撃 した」「家 演.友達.先生に相談 した」「い じめた人 と仲 良 くなろうと した」の五つである。 「我慢」が多い のは性別 にみて も時期別 にみて も共通 しているが. 「相談」 も少な くない ことが分かるC なお.い じめへの対処法 と被害 の時期 との間には有意な関係 はな く独立であ った (男子 xz=12.34N.S.. 女子x2=8.18N.S.).なお,被害 内容 と対処法 との関係 について.男女別 に数値を示 したのが表
1であるC
H8・9年 全 体
小 ・低 学 年 (男 子 ) 小 ・高 学 年 (男 子 ) 中 学 校 (男 子 )
′ト・低 学 年 (女 子 ) 小 ・高 学 年 (女 子 )
中 学 校 (女 子 )
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
田 我慢 町 無視 □ 反撃 田 相談 『 和潔
図7 被害への対処
‑ 19‑
表1 被害 内容 とその対処 (男女別)
い じ め 被 害 の 内 容 計
無 視 仲間 はずれ 言葉 の暴力 いやが らせ 身体的暴力
いじ め 被
≦へのに巨:コ 対
処 男千 我 慢 10 ll 30 18 ll 80
無 視 2 3 9 4 0 18
反 撃 1 2 9 6 5 23
相 談 1 3 9 8 4 25
和 解 0 2 2 2 1 7
計 14 21 59 38 21 153
女
千 我 慢 22 33 27 17 0 99
無 視 8 ll 15 10 0 44
反 撃 1 3 4 4 1 13
相 談 14 18 9 6 1 48
和 解 1 7 1 0 0 9
一方.い じめ加害 についてはどの ような傾向が見 られ るだろうか.図8は加害の時期 を示 した。
ここではH7年調査 もH8・9年調査 も小学校高学年 が もっとも高い割合 を占めてお り,や は り豊 嶋 ら (1993)と共通す る結果 を得た。 この傾向は女子で よ り強い。 また.高等学校 での加害 は少な
く.全体 に被害でみ られた傾向 と同様の ものが認め られ る。
H7年調査
H8・9年調査
H8.9年男子
H8.9年女子
20% 40% 60% 80% 100%
E=小学校低学年 EB小学校高学年 皿 中学校 □ 高等学校
図8 加害の時期
図9の二つのグラフは男女それぞれ について,い じめ加害 を時期別 ・内容別 に示 したものである。
男子では 「言葉 の暴力」が 目立つのに対 して.女子では関係切断型の二つの カテ ゴリーが中心であ る。 また, この関係切断型 は男女 とも,小学校高学年期 にもっとも多い。いずれ も図5‑1および
‑ 20‑
5‑2と類似 してい るが,男子の 「身体的暴力」「いやが らせ」,女子の 「いやが らせ」「言葉の暴 力」は加害で相対的 に少な くなっている。 これ らのい じめ内容が加害 と して認識 されに くいことに よるのか,あるいはいずれ大学 に進学す ることになる生徒 と他の生徒 との間でい じめ体験の形が異 なるためなのかは, これだけの資料か らは不明である。
なお.加害 について も被害 と同様 に, どの程度のい じめだ ったのか 0点か ら9点までの整数で表 現 してもらったが.時期別 にみると小学校低学年3.98点,高学年4.08点,中学校3.70点で統計的な 有意差 はなか った (一元配置分散分析。F‑1.081.N.S.)。加害の程度 について加害者 自身の評定 を求めるのは困難な課題であ り,その結果がどのような意味をもつか解釈は慎重でなければならな いだろう。
70 人
60
50
40
30
20
10
0
El身体的暴力 田 いやがらせ
■青葉の暴力 E]仲rJIlはすれ
■無視
人
小学校低学年 小学校 高学年 中学校
図9‑1加害の時期 と内容 (男子)
70
60
50
40
30
20
10
0
田身体的暴力 田いやがらせ
■青葉の暴力 ロ仲間はずれ t 無視
小学校低学年 高学年 中学校
図9‑2 加害の時期 と内容 (女子)
2)過去のい じめ体験 と現在の状態 との随伴関係
小学校か ら高等学校 までのい じめ体験 と現在の心身の状態の認知 とはどのような関係 になってい るかは,強い関心 を呼ぶところである。ただ し.過去 を振 り返 って調査時点で "い じめ''と認知 し ていることと.調査時点での 自己についての認知 との間に因果関係を確定することは困難であるた め,両者の間に関連があったとしてもこれだけの資料では随伴関係があると言えるだけである。現 在の心身不調を感 じる者 はその原因を過去 にたずねて,過去 のある事象を =い じめ日 だ ったと意味 づける傾向があるかも しれない か らである。その仮説 を否定するには,縦断的な調査を行 う必要が あるO心身の不調が消えてもい じめの意味づけが変わ らない,あるいは好調か ら転 じて不調になっ た学生が過去の事象をあ らためてい じめと意味づけ し直す ことはない. ということを示すためであ るoただ し, このようなデータがな くとも.過去 のい じめ体験 と現在の状態 との因果関係を示唆す る傍証 ならば得 ることができる。
‑ 21 ‑
H8・9年調査では,過去のい じめ体験が調査時点での 自分にとってどの程度マイナスに影響 し.
どの程度 プラスに影響 しているかを● 0‑9の10段階でそれぞれ評定 して もらい,その影響の内容に ついて も自由記述で回答 してもらった。表2は,い じめ体験のプラス ・マイナスの影響 の内容 につ いて 自由記述 により回答 を得た もののまとめである。 プラス ・マイナスともに影響は人間関係 に限
られてお り. マイナスの影 響 につ いて は4)が加害体 験 に対す る反応 である以外 は対人関係への不信 ・過敏
・消極 性 とい った類似 の回 答である。
つ ぎ に表3に示 した の は. プラス ・マイナスの影 響 につ いての評定点の平均 値であ る。被害 ・加害 の時 期別 に提示 してあるが,一 見 して明 らかなのはプラス の影響 がマイナスの影響 よ り高 く評定 されていること で あ る。 「被害体験 あ り」
は全体で436件.t=‑10.30, P〈O.001.「加害体験 あ り」
は全体 で327件,t=‑9.03, P〈O.001であ る。 また, プ ラス ・マイナスの影響 の評
表2 い じめの体験の影響の質
(自由記述 による :数字は実数。分母 は記述があった ものの数)
・マイナスの影響 として挙げ られたもの1)人 に対す る不信感が強まった 36/147人 2)対人関係 に過敏 になった 25/
3)消極的になった 21/
4)罪悪感をもつ ようになった 20/
・プラスの影響 として挙げ られ るもの
1)人の痛みが分かるようになった 99/214人
表3 い じめ体験時期別 にみた現時点への影響 プ ラ ス の 影 響 マイナ スの影響
被 害
時 期 小学校低学年 4,55 2.06
小学校高学年 3.99 1.84
中 学 校 4.17 2,66
全 校 4.18 2ー17
加 害
時 期 小学校低学年 3.24 1.77
小学校高学年 3ー81 1.92
中 学 校 3.37 1.84
点相互の間 には統計的 に有
意であるが弱い相関関係 がある (r=0.138.P〈O.01.Spearmn)。すなわち.過去のい じめ体験 に よるダメージが大 きいと評定す る者ほど.同 じその体験か ら得るものも大 きかったと していること になる。い じめ体験が成長促進的 に機能す ることがある可能性は豊嶋 ら (1993)がすでに指摘 して いるが, しか し.い じめ体験のダメージを肯定的 に意味づけることで少 しで もその辛 さを軽減 しよ うとする.は っきりとは意識 されていない認知的な傾向が反映 されていると解釈す る余地がある。
ただ し, この点 もこれだけの資料か らは判断がで きないO なお,マイナスよりプラスの影響が大 き いと評定す る傾向があるということは.調査時点で心身の不調のある学生がそ うでない学生 より過 去の事象をい じめと評定 Lやすいとい う仮説 を否定する傍証 となる。
なお.表3では被害 ・加害時期別 に評定点を示 しているが.統計的に有意な差が認め られ るのは, 被害時期が小学校高学年の者が中学校時期の者 に比べて,調査時点へのマイナス影響 を低 く評定す
る傾向があるという点だけである (Bonferroniによる多重比較Pく0.05)O図6で被害程度の認知 を 被害時期別 に比べて統計的 には差がなか ったものの,小学校高学年が被害程度 をやや低めに評定 し
ー 2 2 ‑
ヽ
ていたことと一貫する結果である。
この点については図10・11にさらに詳 しく検討 した。図10では男女別 ・被害時期別にマイナス影 響の評定点をみたが,小学校高学年の女子がもっともマイナス影響 を低 く評定 し.中学校時期にい
じめ被害を体験 した女子 より統計的にも有意に低かった (Bonferroniによる多重比較 P〈0.05)O
小 ・低学年 (男子)
小 ・高学年 (男子)
中学校 (男子)
小 ・低学年 (女子)
小 ・高学年 (女子)
中学校 (女子)
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3点
図10被害の時期 と現時点でのマイナス
図11では男女別 ・被害内容別にマイナス影響の評定点をみたが,女子の 「無視」が低 く 「言葉の 暴力」が高い点のみ統計的に有意であ った (Bonferroniによる多重比較 Pく0.01)。女子の 「身体 的暴力」はN‑2であるために適切な比較はできないが, 「無視」「仲間はずれ」という関係切断型の い じめ被害については男女 ともに他 よりマイナス評定が少ない傾向にある。つまり,小学校高学年 でのい じめは件数的には多いが.大学新入期へのマイナス影響は相対的に低 く評定 されてお り,そ の傾向は女子で明らかである。女子の関係切断型のい じめ被害はマイナスの影響 を低 く評定される 傾向があ り.関係切断型 を主とする小学校高学年期の女子のい じめの特徴を反映 している。
‑23‑
無視(男子) 仲間はずれ(男子) 言葉の暴力(男子) いやがらせ(男子) 身体的暴力(男子) 無視(女子) 仲間はずれ(女子) 言葉の暴力(女子) いやがらせ(女子) 身体的暴力(女子)
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 図11被害内容 と現時点のマイナス
表4 EAT‑26尺度か ら選んだ7項 目
(「はい」か 「いいえ」で答 えを求め 「はい」を 1点 と して数える) 1 か らだの具合が悪 くなるまで食べ続けることがある 2 頭の中が食べ物の ことでい っぱいになることがある 3 不安 な時にた くさん食べる傾向がある
4 自分の食習慣が恥ずか しい
5 食べ る量が コン トロールで きないので困っている 6 食べ るのは気晴 らしのためである
7 自分は強迫的に (無理 に)食べていると思 う
い じめ体験 と大学新入期の食行動の関係を図12・13に示 したOわれわれは,ガーナー ら (Gamer・ D.M.etal.1982)が開発 したEAT‑26と呼ばれ る食行動調査のうちか ら,全体 の得点 に対す る説 明 力の強い項 目を選んで質問票 に組み入れた。それが表 4に示す 7項 目である。 この新 しい尺度は 0
‑24‑
点 か ら7点 まで に分布 し,点 が 高い ほ ど食 行動 に問題 あ りと考 え られ る。 図12はい じめ体験 の タイプと7項 目の合計点 との関 係 をみ た もので, い じめの体 験 のあ る群 昼ない群 よ り明 らかに 食行動 の問題 を もつ と思われ る 者が多い (Tamhaneによる多重比 較O‡:P〈O.05,HPく0.001)O ま た,図13は最近1年 間の間の過食 経験 を尋 ね た質 問へ の回答 を, 男女別 ・い じめ体 験 の タイプ別 に示 した ものであ る。 男女別 に
x2検定 を行 うといずれ も有意で あ り (男子:x2‑28.40,女子 :
x2=31.57.いずれ もPく0.001), 特 に 「い じめ体験な し」 と 「被加 害両体験あ り」の群の差が大 きい。
体 簾 なし(男子 ) 加 害 のみ (男子 ) 被 害 のみ (男子 ) 被 加 害 休 鞍 (男子 ) 体鞍 なし(女 子 ) 加 害 のみ (女 子 ) 被 害 のみ (女 子 ) 被 加 害 体鞍 (女 子 )
点 1,2
1 0.8 0.6
0.4
0.2 0
♂ iU# が 謝
詩
経図12い じめ体験 とEAT7項 目の得点
0% 20% 40% 60% 80% 100%
囚 過食連繋 な し I ほとん どな し 田 月1回以上 図13被害への対処
‑25‑
つ ぎに,調査① と② と 100%
を統合 した デー タか ら得 90%
られ た結果 について示 そ 80%
う。調査① ではい じめ被 害の程度 について,「たい へんある」「かな りある」
「少 しある」「まった くな い」 の4段 階で尋 ね てい るが,「たいへん」 と 「か な り」 は数 が少 ないので これ を合わせ て被害 ・大 の群 と し, 「少 しある」を 被害 ・小 の群 と して扱 っ て群別に以下のような比較 結果を得た。
70,ち 60,ち 50,ち 40%
30,ち 20,ち 1O†i O,ち
由 心 身 共 に ヨ巨常 に 良 い C]ど ち ら力ヽとい え ば 良 い 田 ど ち らとも い え な い 田 身 体 的 に 不 調 m 精 神 的 に 不 ‡伺 口 JLl身 共 に 良 くな しヽ
弓波音 なし 1政事・小 1妓害・大
図14 枚書の程度 と心身の健康
心 を許 す 割 合 に親 密 一 緒 に話 す 程 度 E]被害な し E]被害・Jト E)被害・大
図15 被害の程度 と友人関係
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まず,図14で は心身の調子 の良 し悪 Lを六つの カテゴ リーに分けて, その構成比 を被害程度別 に 示 した。被害 が大 きいほど 「精神的 に不調」 の割合 が高 く, 「心身共 に非常 に良い」 の割合 が低 く な っている.心身健康 とい じめ被害 の程度 は統計的 にみて明 らかに関連 が ある (x2‑21.25.P〈O,05)O
図15には友人 関係 と被害程度 との関係 を示 した。調査票では 「大学 内 にどの程度 つ きあえる友 人 (同性異性 を問わず) がい ますか」 とい う問いをたて,「1)互 いに希望 や悩み をうちあけあい, 心 を許 し合 え る友人がい る,2)割合 に親密 につ きあえ る友人がい る,3)一緒 に話 はす るが.それ ほど親密で はない友人 はい る,4)あい さつ を交わす程度 の友人 はい る,5)友人 はい ない.6)そ の他」 とい う六つ の選択肢 か ら一つ を選ぶ ことを求めてい る。848件 中834(98.35%)が1)‑3)の 選択肢 を選 んだので,他 の選択肢 を統計か ら除外 した。 この図にみ るとお り. い じめ被害 の程度 に
よって友人 関係 の親 しさが異 なることはなか った (x2=1.56,N.S,)0
‑方 ス トレスを感 じる領域 とい じめ被害の程度 の関係 を示 したのが図16である。質 問はス トレ スを感 じる領域 を11の選択肢 か ら強制的 に一つ選 ぶ よう求めている。選択肢 は 「1)学業, 2)経済 的問鼠 3)友人 閑魚 4)異性 関係,5)家庭 ・家族.6)進路 ・就軌 7)性格 ・能九 8)容姿, 9)健康状態.10)特 にない,ll) その他」である. このうち選択率 が10%を こえる1),3).7),10) の項 目と, それ以外 の項 目をまとめた ものを.被害程度別 に選択率で提示 してある。統計的 にみる と被害の程度 とス トレス領域 とは x2検定で独立 (x2‑13.02.N.S.)であ るが, 「友人 関係」 および
「特 にな し」 の項 目だ け に限 ってみ ると有 意 な差 が認 め られ た (x2‑6.12.P〈O.05.x2=6,66, P〈O.05)。 す なわ ち. い じめ被害 の程度が大 きいほ ど友人関係 にス トレスを感 じることが多 く, その他 の領域 では 目立 った差 はない ことが分かる。図15で親密度別 の友人 の構成比 には差が なか っ た ことか ら考 えると.い じめ被害 を強 く受けた群 では, ス トレスを感 じなが らも表面的 には他 と違 わ ない友人関係 を保 ってい ることが分か る。
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Ej被害 な し E3被害 ・Jj、 包 被害 ・大 図16 被害 の程度 とス トレス領域
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図17で は 日常 生活 で感 じる精 神 的 な ス トレスの評定 点平 均 を 被害程 度 別 に示 した。質 問票 で は1) の 「非常 に感 じて い る」
か ら5)の 「全 く感 じていない」
まで の5段 階 で評定 を求 め て い るが, こ こで は間隔尺度 を構成 してい るもの とみな して, 「非常 に感 じて い る」 を5点 とす る得 点化 を行 っている。被害な し群が
他の2群 よ り有意 にス トレスが 0
低 い (TaALhaneによる多重比較C
*:P〈O.05)。
点
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図18はい じめ体験 のタイプとス トレスを感 じる領域の関係 をみた ものである。全体 と してみ ると 両者 は独立であるが (x2‑19.53.N.S.), ス トレス領域別 にみ ると 「人間関係」 についてのみ有意 な関係 が認め られ る (x2‑8.26.P〈O.05)。被加害 の両方 を体験 してい る群 の人間関係 でのス トレ スが突出 していることが見て取れ る。
学業 人間関係 性格 ・能 力 その他 特 にな し
□ 体験 な し 白 加害のみ 田 被害のみ 『 被加害体幹 図18 い じめ体験 とス トレス領域
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