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日本の教員の資質能力の向上と教育政策及び教育施策

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日本の教員の資質能力の向上と教育政策及び教育施策

渡辺 秀貴  宮崎 猛  大野 滋生  白土 明夫 竹縄 光雄  古川 恵美子  根津 雅子

はじめに

 2020年度、日本は学校教育の一つの大きな転換期を迎えた。小学校から順次完全実 施される改訂学習指導要領のスタート期であり、また、学校組織とともに教員の職務 遂行のあり方そのものも変えていく「学校の働き方改革」の推進の渦中である。さら に、新型コロナウイルス感染症による未曾有の事態に直面し、「学校の新しい生活様 式」を模索しながら教育課程のあり方そのものを抜本的に見直すことを迫られた。

 そうしたなか、本稿執筆者の一人が、米国大学 “William & Mary School of Education”

のJames H. Stronge教授から “International Beliefs and Practices of Teacher Effectiveness”

のタイトルでの出版企画への参加依頼を受けた。米国、日本、中国など10か国の教員 養成機関の関係者が参加し、各国の教員養成における質保証や教育施策の実際、また それらが依拠する理念等について、それぞれの国の教育・文化的土壌や背景を含意し つつ検討を進めるとの趣旨であった。同書のテーマは2020年度に教職大学院に在籍し た現職教員学生(リーダーコース)にとっても重要な関心事であった。そこで 2 名の 所属教職大学院の教員、 5 名の現職教員学生によってプロジェクトチームが立ち上げ られ、日本のチャプターを引き受けることになった。本稿はそれを大幅に加筆・修正 したものである。

1  問題の所在

 教員の資質能力の向上の問題は、これまでの教育改革に内包される形で実行されて きた。今津(2017)は、2010年代以降、戦後から今日までの教員政策の中で最大級の 変化が起きていると指摘し、その具体として中央教育審議会「教職生活の全体を通じ た教員の資質能力の総合的な向上方策について(答申)」(2012)と「これからの学校 教育を担う教員の資質能力の向上について(答申)」(2015)の 2 つを挙げている。沖 塩(2013)は、前者の答申について、教員の資質能力の向上や教師教育のあり方とい う観点にとどまらず、戦後の教員養成の原則に軌道修正を迫るものであり、教師教育 に関わる者として検討しておくことが不可欠であると指摘している。教員の資質能力

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の向上が近年なぜ声高に求められるのだろうか。以下にその背景や現状、課題を現場 教師の視座から確認する。

 第 1 に近年のいわゆる「教員不足」の深刻化が挙げられる。全国の自治体11団体で、

小学校教員の不足数266人という調査結果が示された(文部科学省、2018)。一方、教 員採用については東京都を例に挙げると2021年度小中高等学校等全体の採用倍率は 2.7倍(前年度3.0倍)であり、特に倍率の低下が危惧されている小学校教員の採用状 況は、合格倍率2.0倍となっている(東京都教育委員会、2020)。田中(2019)が「受 験倍率が 3 倍を切ると優秀な教員の割合が一気に低くなり、 2 倍を切ると教員全体の 質に問題が出てくると言われている」と指摘するように、学校の組織運営上の大きな 問題に直結する事態に陥っている。さらに、2021年度より小学校第 2 学年から順次35 人学級編成としていくことが決定され、 5 年間で新たに13,500人の教員の増加が必要 とされた(読売新聞2020年12月18日朝刊)。

 第 2 に、教員の質保証の基盤となる大学での教員養成の課題である。田邉(2012)

は、2011年中央教育審議会・教員の資質能力向上特別部会の「教職生活の全体を通じ た教員の資質能力の総合的な向上方策(審議経過報告)」を分析し、大学における養 成段階では、「教員としての基礎的な部分」としての「実践的指導力」、「コミュニケー ション能力」、「チームで対応する力」などが育成されていないことに言及している。

また、油布(2013)は、実践的指導力への期待が高まっているとした上で、社会の変 化と「大学での養成非力説」という状況があることを指摘し、「予期的社会化段階に 獲得したアカデミックな知識や技術、役割認識等が教育現場等で、そのまま役に立た ないということであろう」と述べている。

 第 3 は、「学校の働き方改革」が施策として取り組まれている状況に象徴されるよ うに、学校現場には、「ゆとり」が不足しているために、人材育成体制を整えにくい ことである。文部科学省委託調査研究報告書「公立小学校・中学校等教員勤務実態調 査」(2018)では、小学校、中学校ともに 1 日の教員の勤務時間の平均が11時間を超 えているという実態が明確になった。小川(2019)は、いわゆる「過労死ライン」を 超えているという超過勤務の実態が明らかになったとしている。生命の危機と背中合 わせの中で、教員は資質能力の向上を迫られていることになる。

 第 4 は教育施策の混迷である。中央教育審議会(2020)が「『令和の日本型学校教育』

の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的 な学びの実現~」答申の中間まとめを公表した。このことについて、那須(2020)は、

「中学校や高等学校では学習指導要領がまだ全面実施にもなっていない段階」、つま り、新学習指導要領の実施・普及に全力を尽くす時期に、また新たな答申が出される ということへの疑念を述べている。

 以上 4 点にわたって述べてきたように、学校が抱える諸課題の解決と教育効果への 期待は高まっている。これまでも学習指導要領の改訂期には、新たな教育の方向を象

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徴するキーワードが示され、関連する施策が矢継ぎ早に学校に降りてきたが、学校現 場はその趣旨の理解を深める間もなく、気が付くと次の改革モードに入っているとい う経験をしてきた。既に教員の疲弊度は限界を超えており、学校組織が担う職務は飽 和状態の中で求められる教育施策は、「混迷」という形でしか受け止められないのが 実態となっている。同時に教員不足・なり手減少(採用倍率低下)に直面しており、

学校教育を支える教員の質の低下が危ぶまれる状態は今後も続くものと想定される。

 こうした状況において、教員は学校現場に求められる変革にどう対応すればよいの だろうか。また、自らをどう変革していけばよいのだろうか。佐藤(2016)は教育委 員会からのトップダウンの改革は、これまで学校内部まで浸透することは難しく、結 果的に混乱と不信を醸成することとなったとし、学校は、想定以上に頑固であり、改 革に対する不信感に満ちており、改革は内部から出なければ実現できないと指摘して いる。他方で、複雑で複合的な条件のもとにある学校改革は、ボトムアップだけで実 現することは無理であり、外部からの支援なしではその持続は不可能で、ボトムアッ プの改革はトップダウンの改革と接合点を見出すことによって実現可能であると述べ ている。佐藤が指摘するように施策を実効性のあるものとするためにはボトム(現場)

からの改革志向、ならびにトップダウンの改革との接合ないし融合が必要であろう。

それを可能とする教員の資質能力とはいかなるものであるのか。望ましい状態への改 善施策がその逆の結果を生みかねない状況の中で、大きな社会変動に伴う教育改革の 渦中に立つ現場教師自身が解明すべき課題でもある。

 そこで本稿はその手掛かりを得るために戦後から今日に至る「日本の教員の資質能 力の向上と教育政策」がどのように進められてきたかを振り返って整理することにし た。経験から学ぶことの重要性を提唱したデューイ(1938、市村尚久訳2004)は「過 去の業績と現在の問題との間にある経験の内部に実際に存在する関連性を発見」する ことで未来を効果的に取り扱うことができると述べた。教育はその時の社会情勢や児 童生徒の実態から様々な改革が行われ、現在の課題においても、その改革から生み出 された一つの産物であるといえる。現在の課題の解決や、同じことを繰り返さないた めにも、今までの日本の教育の歴史を振り返ることで、どのように解決していけばい いのか一つヒントになるはずである。また矢継ぎ早の教育改革がどのように行われて いるのか、現在の教育行政の役割を再度確認し概観を捉えることで、持続可能な学校 教育体制を進める上でのボトムアップの改革とトップダウンの改革の接合点を見出す ことにつながるものと考えられる。

2  日本の教育の特徴

 ここでは、教員に求められる資質能力を検討する際の前提となる、これまでの教育 政策と実施に関わる行政の仕組み、さらにその社会的背景を確認、整理する。

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( 1 ) 日本の教育の変遷

① 学習指導要領の告示

 1945年 8 月の終戦によって日本は連合国軍の占領下に置かれることとなった。これ より1951年平和条約の成立によって独立するに至るまでは、国政がすべて占領行政の もとで行われていた。この間に各分野にわたって改革の実施が要請されたが、教育改 革はその中でも特に重要なものの一つとみられていた(文部省、1981)。改革の中核 となったのは1947年の教育基本法の成立であり、次いで同年に学校教育法が制定され 新しい学校制度が定められた。そして、戦後の学校において教授される具体的な教育 内容を示すガイドラインとして、米国を参考にした最初の「学習指導要領(試案)」

が作られることになる。1958年には、学校教育法施行規則を一部改正し、学習指導要 領は、教育課程の基準として文部大臣が公示するものであると改め、学校教育法、同 法施行規則、告示という法体系を整備して教育課程の基準としての性格を一層明確に した(文部科学省、2008)。

② 詰め込み教育と教育問題

 1947年から1949年にかけてベビーブームが到来する。政府は児童生徒の急増に伴 い、1958年に「義務標準法」を制定し、学級編成及び教職員定数の標準を示した。

1958年に53.7%であった高校への進学率は1965年には70.7%まで上昇した(厚生労働省、

2011)。ベビーブーム世代に合わせて1961年に「高校標準法」が制定され、高校の整 備に必要な財源を確保するなど、教育の量的拡大が図られた。同時に「教科内容は、

経済発展や科学技術の向上によって、より高度になってきていた」(野崎、2006)など、

教育の量的拡大と質的向上が推進されるようになる。

 1970年に実施されたIEA(国際教育到達度評価学会)の調査では、日本の理科の成 績は参加国の中で小学校、中学校とともに 1 位であり、算数や数学でもトップクラス を証明するなどその成果が見られた(文部科学省、2003)。一方で、日本の教育は様々 な問題にも直面していた。一つは「落ちこぼれ」の出現である。当時の日本の進学率 は高校が1974年に 9 割を越え、大学の進学率も1958年の8.6%から1976年の27.3%まで 上昇し(厚生労働省、2011)「学歴主義」が浸透していた。その中で一流大学への入 学が一流企業への入社につながり、それが個人の幸福につながっていくという幻想に 支えられてきた側面が強く、厳しい入試競争を勝ち抜かなければならなかった(野崎、

2006)。この現象は「受験戦争」と表現され、合格のために効率よく大量の知識を詰 め込む必要があった。この過度な「詰め込み教育」や内容の高度化により学習につい ていけなくなる児童生徒のことを総称して「落ちこぼれ」と表され、その増加が問題 となった。また、「不登校」の生徒の増大、校内暴力、イジメ、青少年 非行、青少年 の自殺など問題の深刻化も指摘されるようになる(斉藤、2007)。

③ ゆとり教育への転換

 教育の量的な拡大と質的な向上の結果に生じた弊害に対応するためにも、1977年頃

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から学習負担の適正化を見直すとともにゆとりある学校生活の実現が図られ、詰め込 み教育からの脱却が進められるようになる。1968年に小学校第 6 学年で1085時間あっ た授業時数が削減され、1977年には1015時間まで減少するなど、戦後増加傾向にあっ た授業時数が減ることになる。旧来の知識・技能中心の学力観から、1989年改訂の学 習指導要領では、学ぶ意欲や思考力・表現力・判断力を重視した「新学力観」に基づ いた主体的学習、問題解決学習の重視へと内容が変わった。1998年の学習指導要領改 訂では「ゆとりの中で生きる力を育む」をキーワードに、小学校第 6 学年で授業時数 が945時間にまで削減された。各学校の創意工夫を生かした特色ある教育活動の展開 を目指し、「総合的な学習の時間」が創設された。また、2002年には学校週 5 日制が 完全実施されることになる。この時期の教育は「ゆとり教育」といわれたが、後々こ の「ゆとり教育」が学力低下の一因であると指摘されるようになる。

④ 脱「ゆとり教育」から現在

 PISA調査において日本は、2000年、2003年、2006年と回を追うごとにどの領域で も順位を落とすこととなった。その原因は、1998年に改訂された学習指導要領、いわ ゆる「ゆとり教育」が大きく影響しているとの見方が強まり、脱ゆとり路線へと舵が 取られることになる(山根、2017)。2008年の学習指導要領改訂では、小学校第 6 学 年では945時間から980時間まで再び授業時数が増加し、基礎的・基本的な知識・技能 の習得、思考力・ 判断力・表現力等をバランスよく育むことや、言語活動・理数教 育の充実を図ることに重きが置かれるようになった。

 2017年の学習指導要領の改訂では、「生きる力」の育成を目指し資質能力が三つの 柱で整理され、社会に開かれた教育課程の実現が示された。背景には、年齢生産人口 の減少、グローバル化の進展、人工知能(AI)の進化が挙げられ、子どもたちの将 来が予測困難な時代であることから、様々な変化に積極的に向き合い、他者と協働し て課題を解決していくことや、様々な情報を見極めて再構成し、新たな価値につなげ ていく力の育成を掲げている(文部科学省、2018)。つまり、今までの「コンテンツベー ス(何を教えるか)」から「コンピテンシーベース(何ができるようになるのか)」へ と学力観が大きく転換した。

 このように戦後の日本の教育は、学習指導要領の改訂を通して、学校教育が重視す べきこととそれらに伴う教育内容、授業時数や教科編成等が変化してきた。しかし、

天笠(2020)が指摘するように、学習指導要領の内容・方法を実践化する過程で教科 等ごとに分解され、改訂の趣旨や理念が授業や学校組織の改善などに具体化・実質化 されないという、学習指導要領と現場の学校運営、授業運営との乖離という課題が現 存している。

( 2 ) 日本の教育行政

① 中央政府(文部科学省)ならびに中央教育審議会

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 国の教育の中枢である文部科学省は、教育やスポーツ、科学技術や文化の振興など 様々な役割を担っている。教育の分野には、総合教育政策局、初等中等教育局、高等 教育局があり、平和で民主的な社会を担う、心身ともに健康な国民を育成する教育を 行うことを目的に、法律や計画に基づいて事務が進められている。業務は広範に及ぶ が、総合的な計画の作成、学校に関する調査や環境整備、教科書の充実、教員の資質 能力の向上、学校運営支援、学校の設置認可、奨学金事業や留学生交流の推進などに 取り組んでいる。

 中央教育審議会とは、文部科学大臣の諮問に応じて教育や学術、文化を調査審議し 提言する諮問機関である(文部科学省、2019)。この提言が「中央教育審議会答申」

として出され、この答申を基に学習指導要領の改訂をはじめとする日本の学校教育の 施策が決められている。構成としては、委員が30人以内で任期は 2 年と定められ、 4 分科会(教育制度分科会、生涯学習分科会、初等中等教育分科会、大学分科会)が設 置されている。審議会のメンバーは学校長をはじめ、大学の学長や教授、企業の取締 役やスポーツ監督など多岐にわたっている。文部科学省に答申を示す中央教育審議会 が日本の学校教育の将来の方向性を示す役割を果たしているといえ、その動向は常に 注視されている。

② 都道府県教育委員会・区市町村教育委員会の仕組みと役割

 教育の実施に当たっては、国、都道府県、区市町村が役割を分担している。文部科 学省が学校制度の基本的な枠組みの制定や教育内容に関する全国的な基準を示し、こ れを受けて都道府県及び区市町村等に置かれる合議制の執行機関である教育委員会が 具体的な施策を展開する。教育委員会は、全ての都道府県及び区市町村等に首長から 独立した行政委員会として設置され、教育行政における重要事項や基本方針を決定 し、それに基づいて教育長が具体の事務を執行するという仕組みとなっている。教育 長及び教育委員は、地方公共団体の長が議会の同意を得て任命し、任期は教育長が 3 年、教育委員は 4 年である。

 教育委員会には「狭義」と「広義」の捉えがある。狭義の教育委員会とは、教育長 及び委員で構成される合議体を指し、広義の教育委員会とは、それに事務局を加えた ものである。保護者や教育関係者などが普段、教育委員会と呼んで話題にしているの は役所の組織である「広義の教育委員会」のことを指している(斎藤、2014)。2015 年に「地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律」において新 教育委員会制度が定められ、その取り組みの一つとして、全ての地方公共団体に「総 合教育会議」が設置された。首長も教育委員会と共に、公の場で教育政策について議 論することが可能になった。新教育委員会制度により、地方行政における責任の明確 化、迅速な危機管理体制の構築、首長との連携強化、地方に対する国の関与の見直し が図られることになった。都道府県の教育委員会の役割は、主に区市町村の教育委員 会への指導・助言・援助が挙げられる。小中学校の設置者は区市町村であるが、その

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規模等は様々であることから、地域全体における教育水準の維持向上を図るため、都 道府県が、区市町村の自主性を尊重しつつ格差が生じないよう支援を行っている。ま た、原則的に区市町村の小中学校の教職員の任免も都道府県の教育委員会が行ってい る。

3  日本の教員養成制度

 これまでの教育改革では、それに内包される形で教員の資質能力の向上についての 施策が実施されてきた。学校教育を支える教員の質を一定水準担保し、新たな教育課 題に対応できるよう向上させていく施策は、教育改革の成否を握っている。ここで は、教員の資質能力の保持・向上に関わる施策について現状を整理することとする。

( 1 ) 教員免許について

① 日本の教員免許制度と教員免許の種類

 学校教育法第 1 条では、「学校とは、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高 等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする」とされている。

これらの学校は、 1 条校と呼ばれ、この中で大学と高等専門学校を除く学校の教員に なるために必要とされるものが教育職員免許状(以下、「教員免許」という)である。

教育職員免許法は1949年に公布され、第 1 条では「教育職員の免許に関する基準を定 め、教育職員の資質の保持と向上を図ることを目的とする」と規定されており、学校 教育制度の根幹をなす重要な制度の一つである。また、教育職員免許法第 3 条では

「教職員はこの法律に授与するこの相当の免許状を有する者でなければならない」と 規定されており、免許の種類や有効年限、学校種などは多岐にわたっている。表 1 は、同法 4 条・ 5 条に基づいてその概要を整理したものである(文部科学省、2019)。

表 1  教員免許制度の概要(文部科学省:2019年 4 月 1 日版参照)

免許状の種類 有効期間 有効地域範囲 概 要

普通免許状 専修免許状 一種免許状 二種免許状

10年 全国の学校 教諭、養護教諭、栄養教諭の免許状です。所要資格を得て必要な書類 を添えて申請を行うことにより授与されます。専修、一種、二種(高 等学校は専修、一種)の区分があります。既に教員免許状を有する場 合は、一定の教員経験を評価し、通常より少ない単位数の修得により、

上位区分、隣接学校種、同校種他教科の免許状の授与を受けることが できます。

特別免許状 10年 授与を受けた 都道府県内の 学校

教諭の免許状です。社会的経験を有する者に、教育職員検定を経て授 与されます。授与を受けるには、任命又は雇用しようとする者の推薦 が必要であり、教科に関する専門的な知識経験又は技能、社会的信望、

教員の職務に必要な熱意と識見を有することが求められます。幼稚園 教諭の免許状はありません。小学校教諭の免許状は教科ごとに授与さ れますが、特別活動など教科外活動を担任することも可能です。

臨時免許状 3 年 授与を受けた 都道府県内の 学校

助教諭、養護助教諭の免許状です。普通免許状を有する者を採用する ことができない場合に限り、教育職員検定を経て授与されます。(当分 の間、相当期間にわたり普通免許状を有する者を採用することができ ない場合に限り、都道府県が教育委員会規則を定めることにより、有 効期間を 6 年とすることができます。(教育職員免許法附則第 6 項))

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これらの各種教員免許は、申請により、都道府県教育委員会から授与される形式を とっている。授与を受けるためには、所要資格(学位と教職課程等での単位修得、又 は教員資格認定試験の合格)を得るか、都道府県教育委員会が行う教育職員検定を経 る必要がある。

② 教育職員免許法改正

 日本では1970年代後半から80年代にかけて、国際化の進展や生涯学習時代における 教育の在り方が議論された。教員についても、文部省(当時)は現職教員の再教育と して公費での大学院への派遣を推進するために、新構想 3 教育大学(大学院)が新設 された。このような教育改革、行政改革の中、1988年に免許法改正が行われた(古賀、

2016)。この改正は、教育職員免許法制定以来最大と言われ、主な改正は以下の 3 点 である。 1 )免許状の種類を、大学院修了程度とする専修免許状、学部卒業程度とす る一種免許状、短大卒業程度とする二種免許状の 3 種類とした。 2 )社会人を活用す るため、教育職員検定により授与される特別免許状を創設した。 3 )学校教育の内容 の変化に対応し指導力の向上を図るため、教職科目として、「教育の方法・技術」、「生 徒指導」、「特別活動」などの科目を履修させることとした。この制度改正は、臨時教 育審議会における教員の養成・採用・研修の全般にわたる基本提言に基づいており、

免許制度は教員の資質能力の向上を支える重要なものであることを改めて確認してお く。

 この後、30年を経てさらに大幅な免許制度改革が行われることになり、大学の教員 養成カリキュラムの内容を規定する施策となるが、このことは次の節で述べていく。

( 2 ) 教員養成機関が果たしてきた役割と今後の課題 

① 戦後からの開放制の教員養成制度の成果

 中央教育審議会「今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)」(2006)に よると、戦前の教員養成は、師範学校や高等師範学校等がその役割を担っていたが、

戦後の教育改革を経て、幅広い視野と高度な専門的知識・技能を兼ね備えた多様な人 材を養成することを目的とし、教員免許取得に必要な所要の単位に係る科目を開設す ることで、国立、公立、私立のいずれの大学でも制度上等しく教員養成に携わること ができるようになった。国立の教員養成系大学では、文部科学省との密接な連携によ り、教職に就くことに特化した高等教育を提供し、豊富な大学教員を確保し、教育現 場において即戦力となる教員を育成・輩出してきた。一方で、一般大学(私立大学及 び教員養成系大学以外の国公立大学含む)では、各学部による専門性を生かした高等 教育が成され、教科の専門性を身に付けた幅広い教育人材を育成・輩出してきた。日 本の教員養成制度が早くから大学における教員養成制度に移行したことは、世界と比 べても注目すべきことであり、次の章で論じる校内研修制度等の充実と合わせると日 本の教員の質は世界最高水準の教育を背景とする優位性があった(佐藤、2007)。

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② 教員の資質能力の向上への課題

 この開放制の教員養成の仕組みは、戦後の学校教育の普及・充実等に大きく貢献し た。しかし、教員免許が保証する資質能力に関わる課題について、中央教育審議会

「今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)」(2006)では次のことが指摘 されている。 1 )学生に身に付けさせるべき最小限必要な資質能力についての理解が 必ずしも十分ではないこと、 2 )教職課程の組織編成やカリキュラム編成が、必ずし も十分整備されていないこと、 3 )大学の教員の研究領域の専門性に偏した授業が多 く、学校現場が抱える課題に必ずしも十分対応していないこと。また、指導方法が講 義中心で、演習や実験、実習等が十分ではないほか、教職経験者が授業に当たってい る例も少ないなど、実践的指導力の育成が必ずしも十分でないことである。また、「教 職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について(答申)」(2012)

では、近年の学校や教員が対応すべき課題の複雑化・多様化に伴い、教員の実践的指 導力やコミュニケーション力などを強化する必要性があること、不祥事、指導力不足 教員の問題を含む教員への信頼の揺らぎがあること、社会の高学歴化に伴う教員の地 位が相対的に低下していること、教員間の同僚性が希薄化していることなど、学校現 場を取り巻く環境の変化の問題も山積しているとされた。

 こうした状況を背景に、2016年教育職員免許法が改正され、2019年には20年ぶりに 教職課程が見直され、全ての大学の教職課程で共通的に修得する教育内容である教職 課程コアカリキュラムが実施されることとなった。教職課程コアカリキュラムでは、

実践的指導力や課題への対応力を修得させることを目的として新たに特別支援教育の 充実、総合的な学習の時間の指導法、学校体験活動、アクティブ・ラーニングの視点 に立った授業改善、ICTを用いた指導法、外国語教育の充実、チーム学校への対応、

学校安全への対応、学校と地域との連携、道徳教育の充実、キャリア教育等の内容が 加えられた(中央教育審議会、2020)。こうした改革に対して、戦力としての教員養 成としては期待できるが、大学の本質的な使命は研究の自由と学問の創造であるがそ れらを奪い、教員養成における開放制の特色が失われてしまう可能性があるという指 摘がある(町田、2019・油布、2016・光田、2008)。

4  教員の資質能力の向上のための施策

 ここでは教職の専門性確保や資質能力の向上という観点から、近年の日本の教員養 成改革、現職教員のキャリア形成と研修制度、教員の主体性に基づく資質能力の向上 を目指した学びについて取りあげ、その現状と課題を整理する。

( 1 ) 近年の教員養成改革

① 教師に求められる資質能力

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 前章の教員免許制度改革の流れで触れたように、複雑化・多様化した教育課題に対 応するために教員に求められる資質能力の向上は、教育職員免許法の改正とともに大 学における教職課程コアカリキュラムの作成とその実施に委ねられることとなった。

この制度改革が求める教員が備えるべき資質能力については、2015年の「これからの 学校教育を担う教員の資質能力の向上について(答申)」で述べられている。重複を 避けていくつか示すと、「これまで教員として不易とされていた資質能力に加え、自 律的に学ぶ姿勢をもち、時代の変化や自らのキャリアステージに応じて生涯にわたっ て高めていくことのできる力」、「情報を適切に収集し、選択し、活用する能力」、「知 識を有機的に結びつけ構造化する力」などである。その上で、教師に求められる資質 能力を養成するための大学の課題を次のように示している。 1 )教員となる際に最低 限必要な基礎的・基盤的な学修という認識、 2 )学校現場や教職に関する実際を体験 させる機会の充実、 3 )教職課程の質の保証・向上、 4 )教科・教職に関する科目の 分断と細分化の改善の必要性である。

② 教職大学院の創設

 教職大学院は、2008年、教員養成教育の改善・充実を図るべく、高度専門職業人養 成としての教員養成に特化した専門職大学院として創設された。教職大学院創設の背 景として、1970年代頃からの 6 年制教員養成構想がある(土屋、2017)。中央教育審 議会答申(2006)において「実践的な指導力を有する新人教員とスクールリーダー」

の育成を目的に、大学院レベルでの「教員養成の高度化」を目指す教員養成制度改革 の施策として提案されている。これまでの日本の大学院制度が研究者養成と高度専門 職業人養成との機能区分を曖昧にしてきたことや、高度専門職業人養成の役割が不十 分であったことから、学問的知識や能力を重視していく流れがあった。また、学校現 場での実践力・応用力など教職としての高度な専門性の育成が疎かになっており、本 来期待された機能を十分に果たしていないという指摘があった。教員養成システム全 体の充実・強化を図っていくためには、学部段階における教員養成の着実な改善・充 実を図ることと併せ、とりわけ大学院段階における養成・再教育の在り方を見直し、

制度的な検討を含め、その格段の充実を図ることが必要となったのである。

 そこで教職大学院の諸機能として、 1 )研究者養成・学術研究コースとして各分野 における深い学問的知識・能力の育成等に重点を置くもの、 2 )専門職大学院制度を 活用して高度専門職業人養成コースとして学校現場における実践力・応用力など教職 としての高度な専門性の育成に重点を置くもの等に区分し、その上で、各大学の方針 に基づくコースの選択と教育体制が整備されることとなった。中央教育審議会「教職 生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について(答申)」(2012)で は、これまでの学部での修了を大学院レベルに移行させるとした。教職大学院創設当 初は国立大学15、私立大学 4 計19校のスタートであったが、2020年 5 月時点では国立 大学47、私立大学 7 計54校にまで増加している。このことからも、教職大学院の役割

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の重要性を理解することができる。しかし、教職大学院全体として2016年の99.4%を 最高値に創設当初から定数割れが続いている現状がある(文部科学省、2020)。教職 大学院修了後のインセンティブが用意されていないこと、 1 年であっても中堅教員が 多忙な学校現場を離れることが容易ではないこと等の課題が当初から指摘されていた

(宮崎、2009)。一方、教職大学院で専修免許を取得した者の教員就職率は、2010年か ら2019年まで90%以上であるとの報告(文部科学省、2019)があり、教師としての資 質能力の高度化のため重要な機関としての役割を果たしているものといえる。

③ 教員免許更新制

 2009年の教員免許更新制の導入は、定期的に最新の知識技能を身に付けることで、

教員として必要な資質能力が保持され、自信をもって授業を展開し、社会からの敬意 と信頼を得ることを目的としている。2014年に改定され、新設された「選択必修領域」

には、いわゆる「アクティブ・ラーニング」など、2017年告示の学習指導要領の趣旨 を実現する観点からの指導方法の工夫・改善や、進路指導及びキャリア教育、道徳や 英語教育等の内容が加わった。

 教員免許更新制の導入は、不適格教師の排除を目的とした議論から生まれたことは 知られている(油布、2015)。また、土屋(2017)によると戦後日本の教員養成は「免 許状授与の開放制と免許状主義」という 2 つの基本原則の下で、免許基準の低下や教 員養成の目的欠如、特別免許状制度の導入、需要予測に基づかない教員育成など「教 職の高度化と専門職化」という点で課題があったとする。導入の背景の一つには、教 員免許取得制度の多様性がうまく機能していないことが考えられる。

 須川(2016)は、「近年、一部の大学(大学院)において策定され始めている教員 養成スタンダードやモデル・コア・カリキュラムなどは、教員養成の質保証と専門職 化を推進するにあたっての一つの道標となることは間違いないだろう」と述べている。

例えば、教職大学院の重要なカリキュラムの一環として「理論と実践の往還」つまり、

学校現場と大学を行き来し、60日間といった長期にわたる学校現場での経験が求めら れている。また、教育課程についての政策や教育事象を統計的または事例的に把握・

分析する調査法の修得等、教員としての資質能力を磨くためのカリキュラムを受講さ せることで、理論と実践の往還を担保している。教員養成改革は、まだまだ改革の途 中にあるといえるが、教員養成スタンダードやコアカリキュラムを確実に履行し、各 大学・大学院独自のカリキュラムの特色は残しつつ、自校を越えたネットワークを張 り巡らせ、共通理解を図ることで、確実に専門性や教員としての資質能力の向上のた めの水準を引き上げることが可能になるであろう。

( 2 ) 教員のキャリアに応じた資質向上に関する指標と現職教員研修制度

① 教員の資質向上に関する指標

 教育を取り巻く変化を受け、教育課程・授業方法の改革への対応を図るために、

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2016年に「教育公務員特例法等の一部を改正する法律」が公布された。この法律では、

文部科学大臣が示す、校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する 指針の基に、教員等の任命権者(教育委員会等)が、教育委員会と関係大学等とで構 成する協議会を組織して指標に関する協議等を行い、校長及び教員のキャリアに応じ た資質の向上のための必要な指標と、指標を踏まえた教員研修計画を定めている。し かし、都道府県教育委員会が地域の実情に応じた指標を作成した結果、教員のキャリ アの段階とその段階において求められる能力が、それぞれの教育委員会の指標ごとに なってしまった。そのため、独立行政法人教職員支援機構(NITS)は、2019年に全 国で策定された様々な「指標」の共通性を捉える研究を行っている。今後は、この研 究で示された「指標」の共通性を、教員養成や教員の資質向上の研修に役立てていく ようになるだろう。

 また、教員も地方公務員法及び地方独立行政法人の一部を改正する法律(2014年公 布)を受け、2016年から人事評価制度(能力評価・業績評価)を全都道府県・指定都 市の67教育委員会で導入している。それまでにも、「勤務評定」や「教員人事考課制度」

「新しい教員評価」を実施している教育委員会は全国にあった(頼、2012)。人事評価 制度は、教員の能力と業績を適正に評価し、評価結果が処遇上報われるようにするこ とで、教員全体への信頼性を高めることになるとして実施された。人事評価は、区市 町村教育委員会が行うものとされている(地教行法第44条)。これは、研修の計画実 施の流れとも同様である。

 東京都教育委員会の例でみると、東京都教員育成協議会を設置し、養成・採用・研 修を一体と捉えた人材育成の在り方を協議し、「東京都公立学校の校長・副校長及び 教員としての資質の向上に関する指標」(2017)と「東京都教員研修計画」(2019)を 策定している。前者の指標では、教員(主幹教諭、指導教諭、主任教諭、教諭)及び 教育管理職(校長、副校長)が、各職層に応じて身に付けるべき能力、教員に求めら れる能力、教育管理職に求められる能力、教員及び教育管理職に共通して求められる 教育課題に対する対応力を掲げ、必要な役割と能力を具体的に示している。

② 教員研修の仕組み

 教員は、教育公務員特例法の第21条において「その職責を遂行するために、絶えず 研究と修養に努めなければならない」とされ、22条には「教育公務員には、研修を受 ける機会が与えられなければならない」とあるように、研修の機会が保証されている。

例えば、教育委員会が計画実施したものではない民間団体等が主催する研修に、授業 に支障のない範囲で所属長の承認を受けて、職務専念義務を免除されて研修(承認研 修、職専免研修)を行うこともできる。

 ここでは都道府県、指定都市、中核市教育委員会が行う研修について述べていく。

教育委員会が実施するものには、法定研修や職層研修、教育研究員や教職大学院への 派遣などの長期研修、専門的な知識・技能に関する研修などがあり、教員は研修を通

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して最新で高度な情報を集中的・効率的に収集できる。法定研修とは、法律に定めら れているもので、「初任者研修」「中堅教諭等資質向上研修」「指導改善研修」があり、

都道府県、指定都市、中核市教育委員会が計画実施する。そのほかの研修は、教育委 員会が策定した「校長及び教員としての資質の向上に関する指標」の基、教員経験、

職能、専門性などの分野別に、教員の資質向上を目指して研修を計画し、実施してい る。中堅教諭等資質向上研修と教員免許更新制による教員免許状更新講習とは制度 上、同時期に対象となることもあり、多忙を極めている学校現場から実施への改善を 要望する声もある。中堅教諭等資質向上研修は組織の中間管理技法の獲得、教員免許 更新制は最新知識の獲得という目的の違いがある。

 文部科学省は、教員の育成段階を分け、どの段階においても学び続ける教員を支え られるようなキャリアシステム構築を目指した体制の整備を進めている。例えば、東 京都では、教員の育成段階を「教諭( 1 ~ 3 年目)」「教諭( 4 年目~)」「主任教諭」「指 導教諭」「主幹教諭」「教育管理職候補者」「教育管理職(副校長)」「教育管理職(校長)」

に分けている。研修計画は、それぞれの職層における求められる能力や役割のほか、

「学習指導力」「生活指導力・進路指導力」「外部との連携・折衝力」「学校運営力・組 織貢献力」「教育課題への対応力」といった具体的な目標が示されており、その向上 を目指すべく様々な研修が組まれている。都内公立学校の教職員の研修は東京都教職 員研修センターが計画実施しており、校務分掌に関わる伝達講習だけでなく、教師自 身が自分の関心や課題に合わせて研修に参加することができる。また、東京都教職員 研修センターは、研修履歴が確認でき、教員が自らのキャリア計画や研修計画をする 際に活用できる「マイ・キャリア・ノート」という支援ツールを開発した。所属校か らインターネットで研修センターにアクセスし、教員一人一人が、教員としての生き 方をイメージし、自分に求められる資質能力を意識しながら研修を計画していけるよ うになっている。2020年に世界中を襲ったコロナ禍において、全校休講措置や緊急事 態宣言でやむを得ず在宅勤務中心の勤務体制になった際にも「マイ・キャリア・ノー ト」を通じて、教員が自分のキャリアに合わせて在宅でも学び続けられるように情報 やコンテンツを発信していた。

 以上のように、教員には、国の指針の下に教員の任命権者である都道府県教育委員 会が示した校長及び教員の資質の向上に関する指標があり、一人一人に自分の職層・

職責・専門性にあった研修の機会が与えられている。個人の教員の職務遂行能力を向 上させることで、学校全体として質を高めることができるような仕組みが構築されて いる。

( 3 ) 教員の主体性に基づく資質能力の向上を目指した学び(校内研修、民間研修)

 教員の資質能力の向上の機会は、これまで紹介してきた国の施策として制度化され た下で意図的・計画的に実施されている研修に加え、教員個々あるいは学校や自治体

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単位で教員の自主性に基づいて実施されるものがある。教員の自主性に基づく研究・

研修活動は、教員自身が学ぶ必要性を感じて取り組むため、結果として資質能力の向 上に結びつきやすい。特に、教員が協働的に授業実践の力を向上させる取り組みとし ての授業研究は、学校内や自治体の研究会での実施が慣例化している(千々布、

2014)。日本の授業研究は、2000年以降「Lesson Study」として国際的に知られるよ うになり、すでに40か国を超える海外の国々に紹介され、その実践は広がっている

(秋田、2017)。

 ここでは、自主的な研修の実施単位である学校、自治体、個人の順に、具体的な取 り組みについてそれぞれの背景、目的、内容・方法等について整理して紹介する。

① 校内研究・校内研修

 教員の授業力や課題対応力の向上は、各学校の学校経営上の重要な課題であり、校 務の一環として研究・研修を組織的に実施する体制を整えている。具体的には、学校 全体の職務を構造化した校務分掌図に研究・研修を推進する組織を位置付け、年間の 教育活動計画には担当者や推進計画が明示されている。全国的な調査によれば、研究 推進委員会等、校内研究のために全校的な委員会が組織されているのは、小学校 90.5%、中学校79.1%、高校(公立)26.8%となっている(千々布、2014)。

 校内研究では、教科・領域の授業の水準を高めるために、授業研究を中心に年間を 通して実施されることが多い。児童生徒の学習状況の理解や教材研究などを深め、授 業設計をして実施し、その成果や課題を検証して日常の授業実践に生かすという、い わゆるPDCAサイクルで進められている。

 一方、校内研修は、現代的な教育課題に対応する力を教員が備えるために、その時 の社会情勢に応じて内容を取り上げ、その期間等も柔軟に実施される。例えばコロナ 禍の学校では、新型ウイルスやその防止策等について教員が研修し、校内における感 染拡大防止体制を整えている。また、新しいICT機器が導入されると、その操作や活 用について研修する機会を設定するなど、教員個々の課題対応スキルの向上を図って いる。

② 自治体単位で行われる教員の自主性を尊重した研究・研修

 区市町村が設置している公立の小中学校では、自治体ごとに教科・領域等別の研究 会が設置されている。その形態や実施方法等は自治体で異なるが、学校を超えて教 科・領域等の指導力向上を共通の目的とした教員が集まって研究活動を進めている。

教員は、学校内において年度当初に自身が所属する研究部を選ぶ。定期的に実施され る部会に参加し、 1 年単位で他校の教員と協働的な研究活動を進める。当該教科・領 域等の指導力を向上させるために授業研究を重視し、研究部で身に付けた専門性を各 学校の当該教科・領域の指導水準の向上に還元するという仕組みになっている。

 この研究体制は、学校を設置する自治体と校長会が連携し、職務の一環として自主 的な研究活動が保証されている点に特徴がある。学校や自治体内の学校の教科・領域

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等の指導の水準を向上させるための公的な施策であり、会の運営や研究活動の推進は 教員の自主性に委ねられているのである。小学校、中学校それぞれで実施されている ものが多いが、近年は小中連携の取り組みとして学校種間で協働的な研究体制をとっ ている地域もある。

③ 個人が取り組む研究・研修活動

 個人の意思で個人の時間を使って研究・研修活動に取り組む機会としては、研究の 趣旨等に賛同した教員等が集まって同人的に実施されているものや、民間企業等が主 催者となって実施しているものなどがある。例えば大学時代に専門教科として学修し たことを継続して研究しようとする教員などが広域から集まり、大学教員や学校教員 OBなどの個人的な指導のもと、研究グループがつくられている。そこでは各実践を 検討し合い、提案者は省察し、参加メンバーは実践の優れているところを自己の実践 に取り入れるという主体的・生産的な取り組みが行われている。また、教材会社や新 聞社、教育関係の企業が社会貢献的な位置付けで、教育セミナーや教育フォーラムな どを開催するといったように、教員が主体的に学ぶ機会もある。教育課題が複雑化・

多様化する中で、自己のテーマに即したものを選んで教員が参加し、自ら学びキャリ アアップする重要な機会として位置付いている。

 以上、教員の自主的な研究・研修の機会について概要を確認した。授業研究が世界 の多くの国から注目されていることや、ここでみてきた教員の自主性に基づく研究・

研修も「教員文化」の一つとして根付いていることは、日本の教員の資質能力の担保・

向上には欠かせない。しかし、日本の学校は長時間勤務の状態にあり、それにも関わ らず、肝心な校内研究・研修にかける時間が少ない現状が報告されている(文部科学 省、2007)。教材研究・研修の時間が確保できず、授業研究が形骸化していまい、日 本が誇ってきた授業研究の文化が危機に直面しているのである(島田、2011・千々布、

2015)。また、授業研究を中心とする校内研修への取り組みの形骸化が学校の多忙化 の大きな要因の 1 つとして指摘され(妹尾、2017)、さらに、授業研究の成果の日常 化に欠かせない授業準備の時間について、小学校では 9 割以上の教員が足りない(愛 知教育大学等、2016)と悩みの第一に挙げており、学校の働き方改革は喫緊の課題と なっている。今後は、働き方改革とともに、これまでの「研究・研修文化」の意義を 踏まえながらも、新しい教員の研究・研修スタイルの模索が、資質能力の担保・向上 のテーマとなっている。

5  おわりに(教員の資質向上のこれから)

 本稿では今日に続く教員の資質能力の向上の取り組みとその背景にある教育政策を 戦後教育の黎明期から検討した。米国主導で形成された日本の教育体制は、米国の コースオブスタディに倣ってつくられた学習指導要領、ならびに中央政府、地方公共

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団体の役割分担による教育行政の 2 本柱で進められてきた。当初ガイドラインという 位置付けだった学習指導要領は現在では法的拘束力をもつようになり、学習指導要領 の徹底により、日本全国どこの学校でも同じ学年であれば同じ内容の教育が受けられ る仕組みになっている。教員の資質能力の向上は各地の実情などを踏まえ、主に都道 府県や各自治体が担う体制が取られ、教員養成はそれを専門としない大学でも可能に なる開放制によって進められてきた。

 教員の資質向上についても様々な取り組みが行われてきた。近年では公的研修制度 の確立、人事考課制度の導入、教員免許更新制の導入、教職大学院の設置などが図ら れている。教育職員免許法の改正や教員養成段階におけるコアカリキュラムの導入 は、即戦力としての質の高い教員確保をねらいとするものであった。学習指導要領は 戦後直後より一貫して概ね10年毎に改訂されてきた。10年という改訂の周期は社会の 変化のスピードに合致しなくなっているものの、理念や内容の定着、またその検証、

さらには教科書の改訂等をはじめとする準備には一定の時間を要するものとされてき た。一方で、学習指導要領が求める理念やその内容、トップダウンによる教育施策は 必ずしも学校現場に主体性や内発性をもって受け止められてきたわけではなかった。

 公的な取り組みに加え、教員の主体性に基づく資質能力の向上を目指した自主的な 研修は一貫して続けられてきており、学校現場に定着している授業研究は諸外国から も注目されるようになった。近年は教員の仕事量が多く、長時間労働であるとして働 き方改革が求められるようになった。こうした状況を背景に教員志望数は年々減少し ており、教員の質担保の視点からも懸念されている。教員の自主的な研究・研修を担 保する環境も難しくなってきている。

 本稿は、歴史的な考察からボトムアップの改革とトップダウンの改革の接合点を見 出し、そこに求められる教員の資質能力を現場教員の立場から明らかにしようとする ものであった。それらを具体的に明示するまでには至らなかったが、本稿の作成を チームのプロジェクトとして遂行し、歴史を振り返り整理する過程で以下のような気 付きや考察があった。今後の手掛かりとしたい。

 第一に、学校現場が置かれている状況についてである。現代の変化の根底には科学 技術の発達とそれに呼応して進んできたグローバル化があることは論を待たない。現 在の変化は仮想空間と現実空間が融合するという人類の歴史上 5 番目の画期にある

(Society5.0)といわれ、これまでと比較にならない速さで社会が変化していくものと される(内閣府)。こうした変化への対応を嫌う側面を学校現場がもっていることは 否定できないものの、それは教員の怠惰という理由にのみに帰すことはできない。要 因の一つにはゆとり教育が求められる一方で詰め込みの受験への対応が必要とされる など、家庭や現実社会のニーズと学習指導要領が求める理念・内容との間に齟齬や乖 離がある。「学習指導要領と現場の学校運営、授業運営との乖離という課題」(天笠、

2020)が内包されてきたものといえよう。戦後から今日までの日本の教育の足取りを

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鳥瞰したとき学校現場が置かれている状況は今後も変わらないものと思われる。その ように捉えたとき、学校現場の存在意義はむしろその齟齬や乖離そのものにあるもの と捉えることができるのではないだろうか。現実と理想の狭間を融合させていく使命 をもった学校現場と教師に、積極的な役割や価値を見出すことができるのである。佐 藤(2016)のいう「ボトムアップの改革とトップダウンの改革との接合点」は表層的 な取り組みでは具現化しないだろう。ボトムアップによって必要とされる改革は何で あるのか、トップダウンが必要とする改革は何であるのか、その内実の吟味から始め る必要がある。変革の背後にある理念―改革は何のためにあるのか、誰のためにある のか―、社会や人のあり方への価値への問いを真摯に模索していくことが揺るぎのな い接合点を見出すために欠くことができないプロセスである。激動する社会であるか らこそそれが必要であり、粘り強く漸進していくという覚悟が必要であろう。

 第二に、現場教員の資質能力についてである。校長をトップとする教員集団はこれ までの授業研究等自校の児童生徒の課題にチームとして自発的な活動を通して向き 合ってきた。OECD(経済協力開発機構)は、日本を含む 8 か国・地域を対象とした 数学の二次方程式の指導に関する教員の授業動画を分析し、指導力の国際比較研究を 試みた報告書「Global Teaching InSights」を公表した。日本は「授業運営」「社会的・

情緒的支援」「教科指導」の各領域で平均スコアが参加国・地域の中で最も高かった(教 育新聞2020年11月17日)。この調査からは、日本の教員の質は今もなお高い水準にあ り、現場の課題を発見するための土壌は備わっているものといえよう。そこでは学校 現場や教師がボトムアップしようとする意欲をもち、さらにそれを具現化する資質を もち得ているのかが問われなければならない。一方で学校現場は目先の教育活動に傾 注するため視野が狭くなりがちである。社会の変化を肌身で実感することができるよ うな経験、研究や研修は不可欠である。目の前の児童生徒、社会が必要とする方向を 見極め内包化していく力こそ教員の重要な資質となる。

 第三に、教員の資質能力を大局的な見地から捉えることの重要性である。教員の質 保証の観点だけでみれば、教育職員免許法の改正や教員養成段階におけるコアカリ キュラムの導入は歓迎すべきである。しかし、いくら大学で現場に即した教育を受け てきたといえども、一朝一夕に経験までもが担保されるわけではない。逆に大学での 本質的使命を追求し、一分野だけの専門性を身に付けただけでも、現場で通用すると はいえない。教員志望者の減少と競争率の低下傾向が続く中で、更に今後教員の質が 担保されるのか不安視する声もある。そこで忘れてはならないのは、教職にやりがい と使命感を感じ、常に自己の向上を図っていく姿勢の育成である。教員採用試験で は、必ずと言っていいほど理想の教師像や恩師のことが語られる。そこで語られる教 員は人間性に優れ、授業においても学びの楽しさを引き出してくれる教員だったはず である。大学の教員養成過程では、今一度教職に魅力を感じることのできる学び、使 命感を持って教育に従事することができる哲学を提供することも再考しなければなら

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ない。

 日本の教育改革は、これまで時代の背景や世界の動向に伴って進められてきたが、

今後いかに社会の変化が激しくなろうとも「日本の教育の本質」とは何か問い直し、

見つめ直す作業を現場教員がその視点で行っていくことが大切であろう。今後の本プ ロジェクトの課題は、他国との比較において日本の教員の資質能力育成の特徴を考察 し、本研究の成果とともに今後の方向性や方法論を示すことである。

引用・参考文献

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参照

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