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人格 権 として の浄 水 享 受 権 にっ い て

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〈 論 説 〉

人格 権 として の浄 水 享 受 権 にっ い て

一 廃 棄物 処 理施 設 をめ ぐる差 止裁 判 を契機 として 一

宮 崎 淳

目 次 1.は じめに

2.裁 判例 にお け る人 格権 としての浄水 享受権 の 生成

3.身 体権 として の浄 水享受 権 と平穏 生活権 としての浄水 享 受権 (1)差 止請 求 の法 的根拠

(2)身 体権 と平穏 生活権 の 関係 性

(3)身 体権 としての浄水 享受権 と平 穏生 活権 としての浄水 享受権 4.む す び

1.は じ め に

1990年 代 か ら、 廃i棄物 処 理施 設 の建 設 また はi操i業を め ぐっ て 、 周 辺 住 民 等 に よ る生 活 環 境 の保 全 を 求 め る紛 争 が 多 発 し、 そ の い くつ か は訴 訟 に まで 発 展 し て い る。 廃 棄 物 処 理施 設 が 建 設 、操 業 され る と、 廃 棄 物 の処 理 に伴 う有 害 物 質 の排 出 に よ り水 や 大 気 が 汚 染 さ れ 、 近 隣 住 民 の生 活 環 境 が 損 な わ れ 、 健 康 被 害 が 生 じ る お そ れ が あ る。 そ れ ゆ え、 周 辺 住 民 等 は、 当 該 施 設 の建 設 ま た は 操 業 の差 止 め の 仮 処 分 を 申立 て た り、 本 案 訴 訟 と して差 止 め を請 求 す るの で あ る。

と くに 、 産 業 廃 棄 物 の 最 終 処 分 場 に関 す る訴 訟 で は、 有 害 物 質 等 を 含 む 水 が そ こか ら浸 出 また は排 出 され 、 周 辺 の井 戸 水 や 水 源 で あ る河 川 の水 を汚 染 す る 危 険 性 が 主 張 され る こ とが 多 い 。 飲 料 水 や 生 活 用 水 の 水 源 が 汚 染 さ れ る と、 人 の 生 命 や 健 康 を侵 害 す る ばか りか 、 一 旦 、 汚 染 され る と、 それ を 除 去 す る こ と が 困 難 で あ る とい う深 刻 な事 態 を招 くこ とに な るか ら、 裁 判 所 は 、 この よ うな 水 質 汚 濁 に よ る健 康 被 害 の 高 度 の蓋 然 性 が 認 め られ る場 合 に は、 そ の建 設 また

1)

は操 業 の 差 止 め を容 認 す る の で あ る。

(2)

廃 棄 物 処 理 施 設 の 建 設 また は操 業 の 差 止 め を認 め る法 的根 拠 と して は 、 物 権 的 請 求 権 に基 づ く説 、 人 格 権 を論 拠 とす る説 、 不 法 行 為 を理 由 とす る説 等 が あ るが 、 近 時 の 裁 判 例 で は、 人 格 権 を根 拠 とす る もの が 主 流 とな っ て い る。 な か で も、 差 止 請 求 権 の根 拠 と して 人 格 権 を挙 げ るだ けで は な く、 そ のwと して の 具 体 的 権 利 に論 及 す る裁 判 例 が 見 受 け られ る。 す な わ ち、 人 格 権 の 一 種 と し て 、 「 質 量 とも に生 存 ・健 康 を損 な う こ との な い水 を確 保 す る権 利 」 お よび 「 適 切 な 質 量 の生 活 用 水 、 一 般 通 常 人 の 感 覚 に照 ら して飲 用 ・生 活 用 に供 す るの を 適 当 とす る水 を確 保 す る権 利 」 に つ いて 言 及 し、 この よ うな 適 切 な質 量 の水 を 確 保 す る権 利 を 「 浄 水 享 受 権 」 と称 して 、 差 止 請 求 の法 的 根 拠 と して 判 示 す る 裁 判 例 が 出 現 して い るの で あ る。

人 格 権 とは、 人 が 生 存 し、 生 活 す る う え で の 様 々 な人 格 的 利 益 の帰 属 を 内容 とす る権 利 を包 括 的 に あ らわ して い るの で あ るか ら、 こ の よ うな 性 質 を有 す る 人 格 権 につ い て 、 そ の具 体 的 内容 を明 確 に す る こ とが 法 的 安 定 性 を確 保 す る意

味 に お い て 不 可 欠 で あ る。 本 稿 の 目的 は、 裁 判 例 が 判 示 して きた 浄 水 享 受 権 の 性 質 を解 明 す る こ とに よ り、 差 止 請 求 の 法 的根 拠 と して の人 格 権 の具 体 的 内 容

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につ い て考 察 し、 そ の安 定 した 保 護 の た め の 一 助 とす る こ とで あ る。

2.裁 判 例 に お け る人 格 権 と して の 浄 水 享 受 権 の 生 成

裁 判 例 に お い て 、 初 め て人 格 権 の一 種 と して の 「 浄 水 享 受 権 」 とい う言 葉 が

3}

用 い られ た の は、 福 島地 裁 い わ き支 部 平 成13年8月10日 判 決 で あ る。 しか し、

当該 判 決 で 浄 水 享 受 権 と称 され た権 利 の 具 体 的 内 容 は、 仙 台 地 裁 平 成4年2月 28日 決 定 に お い て 既 に判 示 され て い た 。 本 章 で は、 まず 平 成4年 の 仙 台地 裁 決 定 に お い て判 示 され た 浄 水 享 受 権 の 内容 につ い て 検 討 した後 で 、 そ の 内 容 が 裁 判 所 に よ っ て どの よ うに継 受 さ れ て い っ た か を観 察 す る。

① 仙 台 地 裁 平 成4年2月28日 決 定(判 例 時 報1429号XO9頁 、 判 例 タ イ ム ズ789 号107頁)

仙 台地 裁 平 成4年2月28日 決 定 は、 産 業 廃 棄 物 処 分 場 の使 用i操業 差 止 め を認

容 した 裁 判 例 で あ る。 す な わ ち 、 債 務 者 が 産 業 廃 棄 物 の安 定 型 最 終 処 分 場 を設

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人格権 として の浄 水享 受権 につ いて 77

置 し、使 用i操業 を予 定 していた ところ、本 件処 分場 の周 辺 に居住 す る債 権者 ら が、水質 汚濁 、地盤 崩壊 、交 通事 故発 生等 の差 し迫 った危 険性 が存 在 す る と主 張 して、生活 環境権 、 人格権 、物 権 的請 求権 お よび不法 行為 に基 づ く差 止請 求

=権を被保 全権 利 として本 件処 分場 につ いて使 用操 業 差止 めの仮処 分 を申請 した 事 案 で あ る。 本決 定 は、飲用水 ・生活用 水 と して使 用 され て い る井 戸水 ・沢 水 が本 件処 分場 の操 業 に よ り汚 濁 され、 人格権 が侵 害 され る高 度 の蓋 然性 が認 め られ、 か つ保全 の必 要性 も容 認 され る と判 断 して、 本件 処分 場 の使用 操 業 の禁

4)

止 を命 じた の で あ る。

当 決 定 は、 「 人 格 は人 の 生 活 の全 て の面 で法 律 上 の保 護 を受 け るべ きで あ るか ら、 民 法 七 一 〇 条 に明 示 され て い る人 格 権 と して の 身 体 権 ・自 由 権 ・名 誉 権 は 人 格 権 の 内容 の例 示 と理 解 す るの が 相 当 で あ っ て 、 そ れ ぞれ の 生 活 の 場 面 に応 じて そ れ に相 応 す る権 利(例 え ば、 精 神 的 苦 痛 や 睡 眠 妨 害 を味 わ わ な い 平 穏 生 活 権 等)が 、 右 民 法 の規 定 を実 定 法 上 の 根 拠 と して 、 人 格 権 の 一種 と して 認 め られ る もの と解 され る」 と判 示 して 、 各 人 の 生 活 の場 面 に沿 っ た 人 格 権 に相 応 す る具 体 的権 利 が 人 格 権 の一 種 と して 認 め られ る こ とに論 及 す る。 そ して 、 「 人 格 権 を侵 害 され た者 が 、 民 法 七 〇 九 条 、 七 一 〇 条 、 七 二 二 条 に よ り損 害 賠 償 請 求 を な す こ とが で き るの は も とよ り、 物 権 の 場 合 と同様 に、 排 他 性 の 現 れ と し て、 現 に行 わ れ て い る侵 害 行 為 を排 除 し、 又 は将 来 生 ず べ き侵 害 を予 防 す る た め、 侵 害 行 為 の 差 止 め を求 め る こ とが で き る もの と解 す る」 と述 べ 、 差 止 請 求 の根 拠 と して人 格 権 を挙 げ て い る。

か か る一 般 的 理 論 を展 開 した 後 に、 本 件 に お け る人 格 権 の 具 体 的 内 容 につ い て 次 の よ うに考 察 す る。 す な わ ち 、

「 人 は、 生 存 して い くの に飲 用 水 の確保 が 不 可 欠 で あ り、 か つ 、 確 保 した

水 が 健 康 を損 な う よ うな も の で あ れ ば 、 これ も生 命 或 い は 身 体 の完 全 を害

す るか ら、 人 格 権 と して の 身 体 権 の 一環 と して 、 質 量 共 に生 存 ・健 康 を 損

な う こ との な い水 を確 保 す る権 利 が あ る と解 さ れ る。 ま た 、 洗 濯 ・風 呂 そ

の他 多 くの場 面 で 必 要 とさ れ る生 活 用 水 に 当 て るべ き適 切 な 質 量 の 水 を確

保 で きな い場 合 や 、 客 観 的 に は飲 用 ・生 活用 水 に適 した 質 で あ る水 を 確 保

で き た と して も、 それ が 一 般 通 常 人 の 感 覚 に 照 ら して 飲 用 ・生 活 用 に 供 す

るの を適 当 と しな い場 合 に は、 不 快 感 等 の精 神 的 苦 痛 を 味 わ うだ けで は な

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く、 平 穏 な 生 活 を も営 む こ とか で き な くな る とい うべ きで あ る。 した が っ て 、 人 格 権 の一 種 と して の平 穏 生 活 権 の 一 環 と して 、 適 切 な質 量 の 生 活 用 水 、 一 般 通 常 人 の感 覚 に照 ら して飲 用 ・生 活 用 に供 す るの を適 当 とす る水 を確 保 す る権 利 が あ る と解 さ れ る。 そ して 、 これ らの 権 利 が 将 来 侵 害 され るべ き事 態 にお か れ た者 、 す な わ ち その よ うな侵 害 が 生 ず る高 度 の 蓋 然 性 の あ る事 態 に お か れ た者 は 、 侵 害 行 為 に及 ぶ 相 手 方 に対 して 、 将 来 生 ず べ き侵 害 行 為 を予 防 す るた め 事 前 に侵 害 行 為 の 差 止 め を請 求 す る権 利 を有 す る も の と解 され る。」

こ こで は、 「 人 格 権 と して の 身体 権 の一 環 と して 、 質 量 共 に生 存 ・健 康 を損 な う こ との な い水 を確 保 す る権 利 」 お よび 「 人 格 権 の 一 種 と して の平 穏 生 活 権 の 一 環 と して 、 適 切 な質 量 の 生 活用 水 、 一 一般 通 常 人 の 感 覚 に照 ら して 飲 用 ・生 活 用 に供 す る の を適 当 とす る水 を確 保 す る権 利 」 につ いて 論 及 して い る。 つ ま り、

健 康 に 支 障 を きた さ な い 、 身 体 権 の 一 環 と して の適 切 な 質 量 の 水 を確 保 す る権 利 と、0般 通 常 人 の 感 覚 に照 ら して 飲 用 ・生 活 用 に供 す るの を適 当 とす る、 平 穏 生 活 権 の.̲.と して の適 切 な 質 量 の水 を確 保 す る権 利 の2種 類 の 具 体 的 権 利 につ い て 言 及 して い る の で あ る。 当 該 決 定 は 、 人 格 権 の視 点 か ら適 切 な質 量 の 水 を確 保 す る権 利 に つ い て 考 究 し、 身 体 権 の 一 環 と して の水 を確 保 す る権 利 と 生 活 平 穏 権 の一 環 と して の そ れ とを説 示 した 点 に意 義 が あ る。 と くに、 飲 料 水 確 保 の権 利 を身 体 権 に 関 わ る も の と して 、 生 活 用 水 確 保 の権 利 を平 穏 生 活 権 に 関 わ る もの と して 位 置 づ け、 水 利 用 の用 途 別 に保 護 法 益 を考 察 し権 利 構 成 した

5}

点 に特 徴 を 見 出 す こ とが で き る の で あ る。

② 熊本 地裁 平成7年10月3i日 決定(判 例 時報X569号101頁 、判例 タイム ズ903 号241頁)

平成4年 仙 台地裁 決定 の考 え方 を継受 した裁判例 として、熊本 地裁 平成7年 10月31日 決定 が あ る。 当決定 は、債務 者が産 業廃i棄物 の安 定型最 終処分場 の設 置 、使用 、操業 を計画 して いた ところ、周辺 住民 で あ る債権 者 らが、水質汚 染、

大 気汚 染 に よる健康被 害 等 の差 し追 った危 険 を理 由 に、生命 、健 康 を維持 し、

快 適 な生活 を営 む権 利(人 格権)に 基づ く差 止請 求権 を被保 全権 利 として本件

処分 場 の建 設、 使用 、操 業 の差止 めの仮 処分命 令 を申立 てた事案 で あ る。 熊本

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人格権 としての浄水享 受権 につ いて 79

地裁 は、本件 処分場 か らの有害物質 の漏 出 に よ り地 下水 汚染 が惹起 され、飲用 ・ 生 活用水 を確 保 す る権 利 が侵害 され るお それ が あ る として被 保全 権 利 を認 めた が、債権 者 らに将 来 生ず べ き侵 害 を予 防 しつ っ、 最終 処分場 建 設 の必要 性 を満 た すた めに、 当処分場 につ いて は埋 立 て予 定 地 内 に保 有水 お よび雨水等 の埋 立 地 か らの浸 出 を防止 す る こ とがで き る遮水 工 を設 け る こ とを条 件 として、本 件 処分場 の建設 、操業 を認 め るのが相 当で あ る と判 断 して、条件 付 きで処 分場 の

s)

建 設、使 用 、操 業 の差止 めを命 じた ので あ る。

当決 定 の理論 的根 拠 は、適切 な質 量 の水 を確保 す る権 利 につ いて、 人格権 と しての身体権 お よび平穏 生活権 の一環 として位置 づ け、 それが侵 害 され た場 合 には差 止請 求 がで き る と判 断 してい る ところに あ るか ら、平成4年 仙 台地 裁 決 定 の強 い影 響 を受 けて い る と思 われ る。本 決 定 は、平 成4年 決定 を踏襲 しつつ も、地 下水 汚 染 とそれ に関連 す る汚染 の蓋 然 性 につ いて総合 的 に考 察 した とこ ろ に特 色 が あ る。 当該決 定 は、地 下水汚 染 の高度 の蓋 然性 を認 め、人格 権 に基 づ く差 止 請求権 を被 保全権 利 とす る本件処 分 場 建設禁 止 等 の仮処 分 の 申立 て を 容認 したの で あ るが、一 方 で土壌 汚 染の危 険性 を理 由 とした土地所 有権 に基 づ く差 止請 求権 お よび灌概用 水 の汚 染 の危 険性 を理 由 と した水 利権 に基 づ く差 止 請 求権 につ いて も論 及 してい る。地下水 汚 染 の高 い蓋 然 性 が肯定 され れ ぼ、 そ れ と関連 の あ る土壌 汚 染や灌瀧 用 水 の汚 染 の蓋然 性 につ いて も容認 され る可 能 性 もあ ろ うが 、 ここで は、地 下水汚 染以外 の蓋然 性 は認 め られ なか った。 す な わち、土壌 汚 染 に関 して は処 分場 の有害物 質 に よって土壌 が汚染 され る危 険性 が あ る として も、 直 ち に右土地 の財 産 的価 値 が低 下 す る とは認 め られ ない とし

て土地所 有権 に基 づ く差 止請 求権 を否認 し、灌 慨用 水 の汚 染 に関 して は生 活用 水 として 日常 的 に直接 飲用 す るの と異 な り、摂取 す る経 路が 間接 的 で あ る上 に、

その量 もご くわず かで あ るか ら、 その危 険性 も小 さ く、一 般通 常人 の感 覚 か ら み て もその嫌 悪 感 には顕著 な差 異が あ る と して、 水利権 に基 づ く差 止請 求権 を

8)

も否 定 した の で あ る。 差 止 請 求 の成 否 につ い て 、 土 壌 汚 染 の場 合 は土 地 の財 産

的 価 値 とい う基 準 に よ って 、 灌 概 用 水 の汚 染 の 場 合 に は水 利 権 の財 産 的 価 値 で

は な く、 人 格 的 利 益 とい う基 準 に よっ て判 断 して い る と考 え られ 、 判 断 基 準 に

お い て 財 貨 秩 序 と人 格 秩 序 の混 同 が み られ る。 この こ とは、 侵 害 行 為 が 人 格 権

侵 害 に至 っ て い る とみ るか 、 そ れ とも財 産 権 侵 害 に と ど ま っ て い る と捉 え るか

(6)

が、差 止請 求 の成 否 の規 定 的意 味 を もつ こ とを明示 してい る。 水質汚 濁 を水利 権(物 権)の 侵 害 と解 す るか、人 格権 の侵 害 と解 す るか とい う判断 は、水 利用

s>

の 目的 との関連性 を意識 しつ つ、被侵 害利益 の種 類 ・性質 お よび被 害 の程 度 を

ia)

重 視 して 決 め られ る とい え よ う。

③福 岡地 裁 田川支 部平成10年3月28日 決 定(判 例 時報1662号131頁 、判例 タイ ムズ1003号296頁)

福 岡地裁 田川 支部平成10年3月28日 決定 もまた、平成4年 仙 台地 裁決定 と平 成7年 熊本地 裁 決定 の理論構 成 に追 従 す る。本 件 は、債 務者 が県知 事 の許可 を 得 て産 業廃 棄物 の安 定型 最終 処分場 を建 設 して使用 、操 業 す る計画 を立 て た と ころ、本 件 処分場 予 定地 の周辺 住 民で あ る債権 者 らが本 件処 分場 の建設 等 に よ り有害 物質 が流 出 し、飲 料水 が汚 染 され るお それが あ る等 の理 由 に よ り、 人格 権 、水 利権 、土 地所 有権 に基 づ き、本件 処分場 の建設 、使用 お よびi操業 の差止 め を求 めて仮処 分 を申立 て た事案 で あ る。福 岡地 裁 田川 支部 は、本 件処 分場 の 有 害物 質 を含 んだ浸 出水 が流 出 した り地 下 に浸透 す る こ とに よって、 付近 の井 戸 お よび浄 水場 の水 源 を汚 染 す る高度 の蓋然 性 が認 め られ る こ と等 を理 由 に、

人格 権 に基 づ く差止 請 求権 につ いて被 保 全権 利 の存在 が認 め られ る とした うえ で、 い った ん本 件処 分場 の操 業 に よ り侵 害 が生 じた ときは債 務者 にそ の原 状回 復 の技 術 や資 力 はな く、 この汚 染 を除去す る こ とは極 めて困難 で あ るため、人 格 権 を被 保 全権 利 とす る保全 の必 要性 が存 す る とし、本 件処 分場 の建設 、 使用

 り

お よび 操 業 禁 止 の仮 処 分 の 申 立 て を認 容 した の で あ る。

本 決 定 は 、 人 格 権 の 具体 的 内 容 に言 及 し、 「 人 格 権 と して の身 体 権 の 一環 と し て 、 質 量 共 に生 存 ・健 康 を損 な う こ との な い水 を確 保 す る権 利 」 お よ び 「 人 格 権 の一 種 と して の平 穏 生 活 権 の 一 環 と して 、 適 切 な質 量 の 生 活 用 水 、 一 般 通 常 人 の 感 覚 に 照 ら して 飲 用 ・生 活 用 に供 す る の を適 当 とす る水 を確 保 す る権 利 」

につ い て 判 示 して い る点 に お い て 、 平 成4年 仙 台 地 裁 決 定 お よ び平 成7年 熊 本

地 裁 決 定 と異 な る と こ ろ は な く、 両 決 定 の 延 長 線 上 に位 置 づ け られ る 。

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人格権 としての浄 水享 受権 につ いて 81

④ 水戸地 裁平成11年3月15日 決 定(判 例 時 報 ・i1号86頁 、判例 タイム ズXO53 号274頁)

平成7年 熊本 地裁 決 定 と同 じ立場 か ら、差 止 めの仮 処分 申立 て につ いて水 利 用 の用 途 に応 じて判 断 を下 した もの として水戸地 裁平 成11年3月15日 決定 が あ

る。 当該 決定 は、水 道 水 の水 源 を汚染 す る場 合 と農 業用 水 の水 源 を汚染 す る場 合 とを区別 して考察 した。本 件 は、債務 者 が産 業廃 棄物 の安 定 型最 終処 分場 の 設 置、使用 、操 業 を予 定 して いた ところ、 その建設 予 定地 の周 辺住 民 で あ る債 権者 らが、本件 処分場 か ら排 出 され る有害物 質 に よって汚 染 され た地下 水 お よ

び地 表水 に よって債 権 者 らが使 用 して い る水 道水 、井戸 水 、農 業 用水 が汚 染 さ れ るおそれ が あ る として、 人格権 、水利権 に基 づ い て、処分場 の建 設、使 用 、 操業 の差 止 め を求 め る仮処分 を申立 てた事案 で あ る。水 戸地 裁 は、債 権者 らの うち本件 処分場 か ら流 出す る水 に よって汚 染 され る可能 性 の あ る河 川か ら取 水 され る水 道水 の使用 者 につ いて は、本件 申立 て を認 容 す る一 方 で、農 業用 水 の 使用 者 につ いて は、 農業 用水 は水 道水 の よ うに直接 汚 染水 そ の ものが人 体 に影 響 を及 ぼす もの では な い等 の理 由で、保 全 の必要 性 が な い と判 断 して、 申立 て

12)

を却 下 した 。

当 決 定 は、 被 保 全 権 利 で あ る人 格 権 の 内容 に つ い て 、 次 の よ うに論 及 す る。

す な わ ち 、

「 人 格権 の 一 内容 と して、 社 会 一 一般 の 感 覚 に 照 ら して 、 生 命 ・健 康 に危 険 の な い質 の飲 料 水 、 生 活 用 水 を確 保 す る こ とが 含 ま れ る とい え る。 そ して 、 右 内容 の 人 格 権 は、 そ の性 質 か らみ て 、 法 的 に最 大 限 の保 護 に値 す る も の で あ り、 他 人 の行 為 に よ り侵 害 さ れ る可 能 性 が あ る場 合 に は 、 そ の 行 為 を 事 前 に差 し止 め る こ とが認 め られ る もの と解 す る。」

さ らに、 水 戸 地 裁 は 、 被 保 全 権 利 の保 全 の 必 要 性 に つ い て次 の よ うに判 示 し、

水 道 水 の汚 染 の場 合 と農 業用 水 の 汚 染 の場 合 の判 断 を別 異 に考 え る。 す な わ ち 、

「 本 件 処 分 場 か ら流 出 す る水 に よ っ て 汚 染 され る可 能性 の あ る河 川 か ら取

水 され る水 道 水 を使 って い る債 権 者 らに つ い て は そ の 危 険 が 顕在 化 した場

合 は、 そ の結 果 は重 大 で あ り、 回 復 が 困難 また は不 可 能 で あ る こ とを 勘 案

す る と保 全 の 必 要 性 は あ る もの と思 料 され る。(中 略)し か し、 田野 川 の 水

を農 業 用 水 と して 利 用 して い る こ とを根 拠 と して 権 利 を主 張 して い る債 権

(8)

者 らにつ いて は、農業用 水 は、水 道水 の よ うに直接汚 染 その ものが人体 に 影 響 を及 ぼす もの で はな く、 その水 に よって生 育 した農産 物 に影響 す る こ とに よって間接 的 に影 響 す るわ けで あ り、万一 被害 が発 生 した場合 に は、

その発見 及 び回復 も飲用 水 ほ ど困 難 とは思料 されな いので、 事前 差止 め ま で を求 め る保全 の必要 性 はな い もの と判 断 され る。 」

水道 水 の水源 が汚 染 され る場合 と農 業用水 の水 源 が汚 染 され る場合 で は、前 者 は直 接 的 に健 康被 害 が生 じる蓋 然性 が高 いが 、後 者 の被 害 はあ くまで も直接 に は農産 物 に被 害 が生 じ る財 産 的損害 にす ぎない。 した が って、両者 に は被侵 害利 益 の種 類 ・性質 に差 異 が あ るた め、水道 水利 用者 と農 業用水 利用 者 の差 止 めの成 否 に相違 が 生 じた と理 解 で きる。 その一 方 で、侵 害 行為 につ いて水 質汚 濁 とい う同類型 の侵 害 で あ った として も、水 利用 が いか な る用途 で な され てい たか とい う水 利用 の 目的 の視 点 か ら両 者 を区別 し、飲 用水 の水 源汚 染 と農業 用

i3?

水 の そ れ に つ い て要 保 護 性 の 差 異 が 生 じた と捉 え る こ ともで き よ う。

前 掲 の 一 連 の諸 決 定 の存 在 に もか か わ らず 、 当 決 定 は 、 人 格 権 の 内容 と して 身 体 権 の 一 環 と して の 「 生 命 ・健 康 に危 険 の な い質 の 飲 料 水 ・生 活用 水 を確 保 す る」 権 利 の み を論 じ、 平 穏 生 活 権 の 一 環 と して の 適 切 な質 量 の水 を確 保 す る 権 利 に は 言 及 して い な い。 これ は、 身 体 権 と して の 浄 水 享 受 権 の侵 害 を認 めれ ば、 平 穏 生 活 権 と して の そ れ に 論 及 す る必 要 は な い と考 え た た め で あ ろ う。 な ぜ な ら、 平 穏 生 活権 は、 身 体 権 の 侵 害 に 至 らな か った 場 合 の 精 神 的 平 穏 を確 保 す る権 利 で あ るの で 、 身 体 権 と して の 浄 水 享 受 権 の 侵 害 が 認 め られ な か っ た と

き に初 め て 検 討 の 対 象 とな る性 質 を 有 す るか らで あ る。

⑤ 鹿 児 島地 裁平 成12年3月31日 決定(判 例 タイム ズ1044号252頁)

人 格権 としての適切 な質 量 の水 を確 保 す る権 利 につ いて判 示 す る際 に、身体

権 の一環 としての適切 な水 を確 保 す る権 利 のみ を論 じた もの として鹿 児 島地裁

平成12年3月31日 決 定が あ る。本件 は、債務者 が産 業廃棄 物 の管 理型最 終処分

場 の建設 を計画 した ところ、建 設予 定地 周辺 に居住 す る債権 者 らが 、本件 処分

場 の遮水 工 が破 損 す るお それ が あ る こ と等 を主張 し、処 分場 が 建設 、操業 され

る と有害 物 質 を含 んだ浸 出水 や放流 水 が流 出 して地下水 に混 入 し、債権 者 らが

飲用 ない し生活 用水 と して使用 して い る井戸 水 が汚 染 され るお それ が あ る とし

(9)

人格権 と して の浄水享 受権 につ いて 83

て、人 格権 に基 づ きその建 設 の差止 めの仮 処分 を申立 て た事案 で あ る。鹿 児 島 地 裁 は、遮水 工 が将来 的 に破 損 す る可能性 を否 定 で きない こ と、遮 水工 か ら漏 水 した有害物 質 を含 んだ浸 出水 が地 下水 や井戸 水 に混 入 す る可 能性 が 高 い こ と

等 の理 由に よ り、債 権者 らの うち井 戸水 を飲 用水 ・生 活用水 として利用 す る者 につ いて は、飲用水 ・生活用水 を確保 お よび使用 す る権 利 が侵 害 され る可能 性 を認 め、 当該 権利 が生存 に関 わ る重要 な権利 で あ る こ とに鑑 み この権 利侵 害 は 受 忍 限度 を超 え る もの と判 断 して、 工事 差 止 めの仮 処分 を認 容 したの で あ る。

当決 定 は、被保全 権利 につ いて 「 債権 者 らは、人格 権 として 生存及 び健 康 を 維 持す るのに十分 な飲用 水及 び生活用水 を確保及 び使用 す る権 利 を有 して い る。」

と論述 した後 で、 次 の よ うに判 示 す る。 す なわ ち、

「 〔 井戸水 を飲用 水 、生 活用水 として利 用 して い る〕債権 者 らの被 保 全権 利 は、生 存 に関わ る重要 な権 利 で あ る ところ、債権 者 らは、右 有 害物 が 混 入 した井戸 水 を飲 用水 、 生活用 水 として継続 的 に長 期 間摂 取 す る こ とに な るお それ が あ り、有害 物 の摂取 が微 量で あ った として も、永続 的 に継 続 し て人 体 に対す る影 響 を与 え るお それが あ るので、債 務者 の事業 者 と しての 性格 は措 くとして も、 本件 処分場 の建 設及 びi操業 に よ る右債 権 者 らの飲 用 水 、 生活用 水 の汚 染 に よる人格権 の侵 害 は、 受忍 限度 を超 え る もの とい う

べ きで あ るか ら、右債権 者 らの人格権 に基 づ く妨 害排 除請 求権 として の被 保全 権 利 が認 め られ る。 」

本件 において、人格 権侵 害 として考慮 されて い る具体 的内容 は、 「 人体 に対 す る影 響」、つ ま り健康被害 で あ り、身体権 の一環 としての水 を確 保 す る権 利 につ いて の み検討 して い る こ とが わか る。 これ は、 前掲 水戸 地裁 決定 と同様 に、身 体権 としての浄水 享受権 の侵 害 を認 めれ ぼ、平穏 生 活権 として の それ を問題 と す る必要 は ない と考 えて い るか らで あろ う。

⑥ 福 島地 裁 いわ き 支 部 平 成13年8月10日 判 決(判 例 タイ ム ズll29号X80頁)

福 島 地 裁 い わ き支 部 平成13年8月10日 判 決 は、 結 論 と してi操業 中 の廃 棄 物 処

理 場 の操 業 差 止 め を認 容 しな か った 事 案 で あ るが 、 今 まで 論 じ られ て きた 適 切

な質 量 の水 を確 保 す る権 利 につ い て、 裁 判 所 が 「 浄 水 享 受 権 」 とい う用 語 を使 っ

て 初 め て判 示 した ケ ー ス で あ るた め、 こ こで 取 り上 げ る。

(10)

本 件 は、 被 告 が 一一般 廃 棄 物 最 終 処 分 場 を設 置 して操 業 して い た と こ ろ、 本 件 処 分 場 の 周 辺 に居 住 す る原 告 らが 、廃 棄 物 に含 まれ る有 害 物 質 が 流 出 して飲 料 水 等 と して 利 用 す る河 川 や 地 下 水 を汚 染 す る こ とに よ り健 康 を損 な うお そ れ が あ る と主 張 して 、 人 格 権 と して の浄 水 享 受 権 に基 づ き本 件 処 分 場 の操 業 差 止 め お よび廃 棄 物 等 の 撤 去 な らび に不 法 行 為 に基 づ く損 害 賠 償 請 の請 求 を した 事 案 で あ る。 本 判 決 は、 当処 分 場 の 操 業 が原 告 らの 浄 水 享 受 権 を侵 害 す る もの で は な い と判 断 し、 操 業 差 止 め お よび 廃 棄 物 等 の撤 去 を求 め る原 状 回 復 請 求 は理 由 が な い とす る と と もに 、 不 法 行 為 を構 成 しな い た め不 法 行 為 に基 づ く損 害 賠 償 請 求 も理 由 が な い と して 、 原 告 の 請 求 を い ず れ も棄 却 した 。

本 判 決 は、 人 格 権 の具 体 的 内容 に 関 して 論 及 し、 次 の よ うに 「 身 体 権 と して の 浄 水 享 受 権 」 お よ び 「 平 穏 生 活 権 と して の 浄 水 享 受 権 」 の概 念 につ い て 説 示 す る。 す な わ ち、

「 人 は 、 生 存 して い くの に飲 用 水 の確 保 が 不 可 欠 で あ り、 か つ、 確 保 した 水 が 健 康 を損 な う よ うな もの で あれ ば 、 これ も生 命 あ るい は身 体 の完 全 を 害 す るか ら、 人 格 権 と して の 身 体 権 の一 環 と して 、 質 量 と も生 存 ・健 康 を 損 な う こ との な い水 を確 保 す る権 利 が あ る と解 され る(以 下 、 これ を 『身 体 権 と して の 浄 水 享 受 権 』 とい う。)。また 、 洗 濯 ・風 呂 そ の 他 多 くの 場 面 で 必 要 とさ れ る生 活 用 水 に 当 て るべ き適 切 な質 量 の水 を確 保 で き な い場 合 や 、 生 存 ・健 康 を 損 な うお それ が 明 確 で な い と して も、 そ れ が 一 般 通 常 人 の 感 覚 に照 ら して飲 用 ・生 活 用 水 に供 す るの を適 当 と しな い場 合 に は、 不 快 感 等 の 精 神 的 苦 痛 を 味 わ うだ けで は な く、 平 穏 な生 活 を も営 む こ とが で きな くな るか ら、 この よ う な適 切 な質 量 の 生 活 用 水 を確 保 す る権 利 を受 忍 限 度 を超 え て侵 害 さ れ る場 合 は、 この 侵 害 行 為 を排 除 で き る とい うべ きで あ る。 す な わ ち、 人 格 権 の0種 と して の平 穏 生 活 権 の 一 一環 と して 、 適 切 な 質 量 の 生 活 用 水 、 一 般 通 常 人 の 感 覚 に照 ら して飲 用 ・生 活 用 水 に供 す るの を適 当 とす る水 を、 受 忍 限 度 を超 えて奪 わ れ な い権 利 が あ る と解 され る(以 下 、 これ を 『平 穏 生 活 権 と して の浄 水 享 受 権 』 とい い、 前 記 『身 体 権 と し て の 浄 水 享 受 権 』 と合 わ せ て 、 単 に、 『浄 水 享 受 権 』 と もい う。)。そ して 、

これ らの 権 利 が 将 来 侵 害 され るべ き事 態 に お か れ た者 、 す な わ ち 、 そ の よ

うな侵 害 が 生 ず る高 度 の蓋 然 性 の あ る事 態 に お か れ た 者 は、 侵 害 行 為 に及

(11)

人格権 と して の浄水 享 受権 につ いて 85

ぶ相 手方 に対 して、 将来 生 ずべ き侵 害行 為 を予 防 す るた め事前 に侵 害行 為 の差 止 め を請 求す る権利 を有 す る もの と解 され る。」

当該判 決 で は、廃 棄物 処分 場 の操業 差止 めの請 求が棄 却 されて は い るが 、裁 判 所 が人格権 の具体 的内容 に論及 し、適切 な質 量 の水 を確 保 す る権 利 につ いて

「 浄水 享受権」 とい う言葉 を もちいて表現 して い る 。平成4年 仙 台地 裁決定 にお い て説 示 され た 「 適切 な質 量 の水 を確保 す る権 利」 が 、人格 権 の 具体 的 内容 を

i4)

あ らわ す 権 利 と して 裁 判 に お い て 定 着 した 証 左 で あ る とい え よ う。

3,身 体 権 と しての浄水 享 受権 と平穏 生 活権 と して の浄水 享 受権

(1)差 止 請 求 の 法 的 根 拠

前 章 に お い て 、 裁 判 例 にお け る2種 の浄 水 享 受 権 の 生 成 につ い て 観 察 して き た が 、 本 章 で は、 これ らの 浄水 享 受 権 の 性 質 につ い て 考 察 して い くこ とに す る。

と くに、 身 体 権 と して の 浄 水 享 受 権 と平 穏 生 活 権 と して の 浄 水 享 受 権 の 関 係 性 お よび両 権 利 の位 置 づ け に つ い て解 明 す る こ とが 重 要 で あ る と考 え る。 そ こで 、 そ の解 明 の 前 提 と して 、 差 止 請 求 の 法 的 根 拠 の 問 題 に つ い て 論 じな け れ ば な ら な い 。

他 人 の 行 為 に よ っ て健 康 被 害 や 生 活 妨 害 が 生 じ る お それ が あ る場 合 に、 い か な る法 的 根 拠 に基 づ い て 差 止 め が 請 求 で き る か に っ い て は 、 実 定 法 上 の 規 定 が

15)

な い た め以 前 よ り議 論 さ れ て きた 。

I6)

差止請 求権 の法 的根 拠 の問題 は、3つ の基 本類 型 に大別 す る こ とが で き る。

第1に 、排他 的支 配権 で あ る 「 権 利 」 に差 止請 求権 の根拠 を求 め る権 利 的構 成

17}18)

で あ る。 この 見 解 は、 権 利 の 捉 え方 に よ り、 物 権 的請 求権 説 、 人 格 権 説 、 環 境

t9)

権 説 に分 け られ る。権利 的構成 は、客 観 的 に違法 な権 利侵 害 が あれ ば直 ち に差 止 請求権 が発 生 す る と考 え るか ら、被侵 害利 益 の性質 、被 害 の程 度 、侵 害行 為 の種類 等 を利 益衡 量す る可能 性 は理論 的 に は排 除 され るこ とにな る。第2に 、 民法709条 の不法行為 に差 止請求権 の根 拠 を求 め る不法行為説 で あ る。 この説 に よれ ば、 同条 は損 害賠償 の請 求 と ともに、 事前 に侵害 行為 を防止 す る差 止 めの 請 求 も認 めて い る と解 す る こ とにな る。 不法行為説 は、成 立要件 の解 釈 に よ り、

20)21}

純粋 不法 行為 説、新 受忍 限度論 的不法行為 説 等 に分説 され る。 不法 行為 の成 立

(12)

要件 を厳格 に解 す る と、差 止 請 求 に も損害 の発生 お よび故 意 ・過 失 が要 求 され る こ とにな るが、 損害 が い まだ発 生 して い ない段 階 で不法 行為 の理論 を適用 す るこ との当否 が 問題 とな る。第3に 、 違法 な侵害 また は その お それ が あ る こ と を差 止請 求 の法 的構 成 の基軸 とす る違 法侵 害説 で あ る。 この学 説 は、法 的保 護 に値 す る権 利 また は利益が違 法 に侵 害 され、予 防的救済 が必要 とされ る場合 に、

違法 な侵 害 か らの法益保 護 の必要 性 その もの を直接 的 な根 拠 と して差止 請 求権

22)

を認 め よ う とす る考 え方で あ る。権利 的構 成 に こだ わ らず差 止 め によって保護 され るべ き法的利 益 につ いて広 く差 止 めの可 能性 を肯定 す る点 にお いて不法行 為説 と共 通項 が 見 出せ るが 、帰 責 事 由 を要求 す るわ けで はな いか ら、不 法行為

23)

説 の枠外 に位 置 づ け られ る。

さ らに、権 利 的構成 だ けで は抜 け落 ち る保護 法益 につ いて受 け皿 とな る法的 構成 が必 要 とな る との観 点か ら、権 利 的構 成 と他 の学説 とを並存 させ て二元 的 な構 成 を採 る立場 も有力 で あ る。 た とえば、 絶対権 侵 害 と解 され る場 合 は当然 に差 止 め を認 め るが 、絶対 権 以外 の利益 の侵 害 また は質 的 に は絶 対権侵 害 で あ るが、 あ る程度 の量 的侵害 が な い と違法 と認 め る こ とがで きない場 合 には、侵 害行 為 の態様(悪 性 〉 を考 慮 して違法 として差 止 めを肯認 す る と解 す る見 解で

24)

あ る。 二元 的構成 説 は、生 命 、身体 、健 康 な どの絶 対権 が侵 害 され た場 合 には 直 ち に差 止請 求 を認 め るが、 日照 妨害 な どの絶対権 侵 害 に至 らな い よ うな生活 妨 害 の場 合 に は侵害 行為 の種類 、 性質 等 の事 情 を も総合 的 に考慮 して差止 めの 可 否 を判 断す る とい う、権 利 的構 成 を基 軸 として他 の構 成 が それ を補 完 す る二

25)

元 的 な構 成 を採 っ て い る と理 解 で き るの で あ る。

近 時 、 この よ うな 差 止 請 求 権 の 法 的根 拠 に関 す る従 来 の議 論 とは ま っ た く異 な っ た視 点 か らア プ ロー チ す る学 説 が 出 現 した 。 そ れ は、 「 秩 序 」 違 反 に対 す る サ ン ク シ ョ ン と して の差 止 め の可 能 性 を示 唆 す る見 解 で あ る。 この説 は 、 生 活 利 益 秩 序 に お け る差 止 め に つ い て は厳 密 な 意 味 に お いて の 「 権 利 」 を語 る こ と が で き な い 以 上 、 「 権 利 侵 害 」 とい う よ りも 「 秩 序 」 違 反 に対 す るサ ン クシ ョ ン

26)

として の差 止 めを認 め るべ きで あ る とす る。 当学 説 は、広 中俊雄 教授 が説 か れ た市 民社 会 の法秩序 論 に依拠 して展 開 されて い るた め、 まず、 広 中理論 を説 明

しな けれ ばな らな い。

広 中理 論 は、不 法行為 法 にお け る保 護法益 の類 型 論 の考 察 を出発 点 に据 え、

(13)

人格権 と して の浄水享 受権 につ いて 87

財産 に関 す る法秩 序 と人(人 格)に 関す る法秩序 を体 系 的に整序 す るこ とによっ

27)

て 、 人 格 権 の 確 立 を踏 ま えた 民 法 の体 系 論 を展 開 して い る。 この 法 秩 序 論 に お い て は 、 市 民 社 会 に お け る基 本 秩 序 と して 「 財 貨 秩 序 」(「財 貨 帰 属 秩 序 」 お よ び 「 財 貨 移 転 秩 序 」)と と も に 「人 格 秩 序 」 が 析 出 され る。 「 人 格 秩 序 」 とは 、

「 個 々 の 人 間が す べ て 人 格 的 利 益 の 帰属 主 体 と して扱 わ れ る仕 組 み 」 を い い、 こ

zs)

の 秩 序 の 周 辺 に は外 郭 秩 序 た る性 格 を もつ 「 生 活 利 益 秩 序 」 が 存 し、 こ こで は

「 環 境 か らの生 活 利 益 の享 受 」 が 問題 とな る の で あ り、 「人 格 秩 序 」 に お け る よ

29}

34)

うな帰属 が 問 題 とな る の で は な い 。 中核 秩 序 た る 「 人 格 秩 序 」 と外 郭 秩 序 の性 質 を もつ 「 生 活 利 益 秩 序 」 の 主 な相 違 点 は、 「 人 格 秩 序 」 に お い て は、 人格 的 利 益 の帰 属 の侵 害 が 直 ち に 「 秩 序 」 違 反e違 法 と評 価 さ れ る の に対 して 、 「 生 活 利 益 秩 序 」 に お い て は、 他 人 の 享 受 して きた 環 境 を悪 化 させ る行 為 は、 あ る程 度 を超 え な い 限 りそ の他 人 にお い て 受 忍 す る こ とを期 待 さ れ 、 そ の 限 度 を超 え る 場 合 に は じ め て、 他 人 の生 活 利 益 を 「 生 活 利 益 秩 序 」 に反 して 不 当 に 害 す る も

31)

の と評価 され る、 と論 究 す るので あ る。

吉 田克 己教 授 は、 いわ ゆ る位 置指定 道路 の通 行 が妨 害 され た場合 の妨害 排 除 請 求権 につ いて、私道 の通行 利 益 を生活利 益秩 序 の次 元 に属 す るもの と把 握 し

た うえで、 「 生 活利益秩 序 に違反 す る と評 価 され た行 為 の差止 」 と して理 解 し、

「 秩 序 違 反 を直 接 の 根 拠 とす る差 止 とい う構 成 」 を提 示 す る。 さ ら に、 国 立 マ ン

32}

シ ョ ン第1審 判 決 に お け る景 観 利 益 の保 護 の法 的 構 成 につ い て 、 景 観 利 益 の 背 後 に あ る の は、 法 源 と して の性 格 を付 与 され た 「 景 観 保 護 を 内 容 とす る土 地 利 用 に関 す る地 域 的 ル ー ル 」 で あ る と述 べ 、 「 完 成 した マ ン シ ョン の 一 部 撤 去 も、

不 法 行 為 の 効 果 と して で は な く、地 域 的 ル ー ル 違 反 行 為 に 対 す る サ ン ク シ ョ ン と して 違 反 是 正 措 置 が 認 め られ た もの 」 と解 して 、 「 『秩 序 』 違 反 に 対 す るサ ン

33)

クシ ョン と して の差 止 」 に論 及 す る。 つ ま り、 生 活 利 益 の侵 害 に 関 す る差 止 め

34)

に つ い て、 「 秩 序 」 違 反 に対 す るサ ン クシ ョ ン と して構 成 す るので あ る。 しか し、

生 活 利 益 の侵 害 を あ えて 「 秩 序 」 違 反 と解 す るた め に は、 「 秩 序 」 の 具 体 的 内容

35)

を明確 に した うえで、 「 秩序」違反 と構成 す る積極 的 な理 由づ けが必要 で あろ う。

ところで、判例 にお いて は、被侵 害利 益 の種類 と性 質 、侵 害行為 の態様 等 を 比較衡 量 す る こ とによ り侵 害行 為 が受忍 限度 を超 え る と評価 され る場 合 に は、

物 権 的請 求権 の拡張形 態 として の人格 権侵 害 を根 拠 と して差 止請 求 を認 容 す る

(14)

こ とが 主 流 とな っ て い る。 要 す る に、 判 例 は、 利 益 衡 量 に よ っ て 人 格 権 の侵 害 に あ た るか 否 か を判 断 し、 差 止 め の成 否 を決 め て い るの で あ る。 裁 判 例 は 、 疾 病 に至 らな い不 健 康 の状 態 、 単 な る精 神 的苦 痛 や 不 快 感 を も人 格 権 に委 ね て 処 理 して い る た め、 そ の 外 延 部 分 に お い て 利 益 衡 量 に よ る受 忍 限 度 的 な 判 断 をせ

ざ る を え な い の で あ る。 この よ うな利 益 衡 量 に決 定 的 な比 重 を お く判 例 の 態 度 に対 して 、 「 歯 止 め の な い利 益 衡 量 」 を許 し 「 裁 判 官 の裁 量 に 白紙 委 任 す る」 こ

38)

とに な る との 批 判 と と もに 、 人 格 権 を根 拠 と して 権 利 構 成 した こ との 意 味 を喪

39}

失 させ る こ とにな る との論 難 が な され てい る。

最近 の判 例 にお いて、絶 対権 と して の身体 権 の要保 護性 を強調 す るもの があ る。 す な わち、 自動 車 の排 気 ガス等 を原 因 とす る大気 汚 染 に よ る沿 道住 民 の健 康 被害 を認定 した平成12年 尼 崎訴 訟判 決 は、 次 の よ うに判示 す る。 すな わち、

「 身体権 は絶 対権 に属 す る権利 で あ るか ら、物 権侵害 に対応 して物権 的請 求権 が発 生 す るの と同様 に、身体 権 を侵害 す る他 人 に対 して は(当 該 他人 の故 意や 過 失 を問題 にす る まで もな く)侵 害 の排 除 を求 め る趣 旨の人格 的

4a)

請 求権 が 発 生 す る こ とに な る。」

こ の よ うに本 判 決 は、 絶 対 権 と して の 身 体 権 の保 護 を 強 調 して い る こ とは確 か で あ るが 、 身体 権 の侵 害 の場 合 と身 体 権 の侵 害 に は至 らな い場 合 とを 区別 し て 、 両 者 の 相 違 を明 示 して い るわ け で は な い 。 しか しなが ら、 「 身 体 権 は絶 対権 に属 す る権 利 で あ る」 とい う表 現 につ い て 、 利 益 衡 量 を排 除 す る意 味 を含 ん で い る と考 え るな らば 、 当判 決 の 態 度 に っ い て権 利 的 構 成 を軸 と した 二 元 的 構 成

41)

説 へ の 接 近 を見 出 す こ と も可 能 で あ ろ う。 一 方 で 、 絶 対 権 も他 の権 利 との調 整 が 必 要 で あ る こ とを考 慮 す れ ば、 利 益 衡 量 を排 斥 す る こ とに は繋 が ら な い が 、 少 な くと も判 例 が 身 体 権 を基 軸 と した保 護 の あ り方 を考 え て い る点 で は、 二 元 的構 成 説 との 間 に お い て 思 考 の 次 元 が 乖 離 して い る もの で は な い と考 え られ る

42)

の で あ る 。

(2)身 体権 と平 穏生 活権 の 関係 性

43)

身 体 権 とは 、 身 体 的人 格 権 を指 し、 生 命 、 身 体 、 健 康 な ど人 間 の 身体 的属 性 に対 す る権 利 で あ る。 保 護 法 益 の な か で 、 最 も要 保 護 性 が 求 め られ る の は、 生

44)

命 、 身 体 、 健 康 で あ る。 した が って 、 身 体 的 人 格 権 は 、 絶 対 的 人 格 権 で あ り、

(15)

人格権 と して の浄水享 受権 につ いて 89

かか る権利 が侵 害 され た場合 には、侵害 者 の故 意 また は過 失 を要 す る こ とな く、

また、被 害 の程度 や侵 害行為 の態様 を問 うこ ともな く、直 ち に差止 請 求が 認 め

457

られ る と考 え られ る。絶 対 的人格権 を侵 害 され た者 が侵 害行 為 を差 止 め る必要 性 は、侵 害者 の故 意 ・過失 の有無 や侵 害行 為 の態 様等 に よって変 わ る ところは な いか らで あ る。

46)

平穏生 活権 とは、人 が平穏 で安 全 な生活 を営 む権 利 で あ る。差 止請 求 の法 的 根 拠 た る人格 権 としての平穏 生活 権 につ いて、 判例 が初 めて論及 した の は、昭

47)48)

和62年 横 田基地m音 公 害 訴訟控 訴審判 決 におい てで あ る。 す な わち、

「 人 は、 人格権 の一種 として、 平穏 安全 な生活 を営 む権 利(以 下 、 仮 に、

平穏 生活権 又 は単 に生 活権 と呼 ぶ)を 有 して い る とい うべ きで あっ て、騒 音、振 動 、排 気ガ ス な どは、 右 の生活権 に対 す る民法七 〇九 条所 定 の侵 害 で あ り、 これ に よって生ず る生活 妨害(こ の 中 には、不 快感 等 の精神 的苦 痛、 睡 眠妨害及 び その他 の生 活妨 害が含 まれ る)は 同条所 定 の損 害 とい う べ きで あ る(右 の生活権 は、 身体権 ない し自由権 を広 義 に解 す れ ば、 それ

らに含 まれ て い る ともい え るが、 それ ら とは区別 して右 に述 べ た よ うな意 味 で使 う こ ととす る。 これ は被 害 の態様 か らみ る と身体傷 害 に まで は至 ら

ない程 度 の右 の よ うな被 害 に対応 す る権 利 で あ る。)」

本判決 の説 示 によ る と、平 穏生 活権 の侵 害 を健 康被 害 に まで は至 らない程 度 の精 神 的苦痛 、睡 眠妨 害等 の生活 妨害 と捉 えて い る と考 え られ る。

学説 にお いて は、平穏 生活 権 を生成 中 の精 神 的人格 権 で あ る とす る見解 が あ る。当説 は、 人格権 につ いて身体 的人格 権 と精 神 的 人格権 とを区別 して扱 い、

身体 的人格 権 の侵 害 の場 合 には被 害 の程 度 や侵 害 行為 の態様 の いか ん を問 わず 差 止請求 がで き る と し、 身体 的人格 権 に は至 らな い精 神 的人格権 の侵 害 の場 合 に は受忍 限度判 断 的 な被 害 の程度 と侵害 行為 の 態様 との相 関衡 量 的総 合判 断 に

49)

よ って 差 止 請 求 の成 否 が 決 め られ る と解 す る。 そ して 、 平 穏 生 活 権 の 性 格 と し て 、 次 の3点 を挙 げ る。 第1に 、 単 な る不 安 感 や 危 惧 感 で は な く、 生 命 、 身 体 に対 す る侵 害 の 危 険 が 、 一 般 通 常 人 を基 準 と して深 刻 で 具 体 的 な危 機 感 や 不 安 感 とな っ て 精 神 的 平 穏 や 平 穏 な生 活 を侵 害 して い る場 合 に は、 人 格 権 の 一 種 と

して の 平 穏 生 活 権 の侵 害 と して 差 止 請 求 権 が 生 じ る。 第2に 、 平 穏 生 活 権 は 、

生 命 、 身体 に対 す る侵 害 の危 険 か ら直接 に引 き起 こ され る危 険 感 、 不 安 感 に よ っ

(16)

て精神 的平 穏 や平 穏 な生活 を侵 害 され ない精神 的人 格権 で あ るか ら、 身体権 に 準 じた重 要性 を有す る。第3に 、平穏 生 活権 に基 づ く差 止請 求 の可否 の判 断 に

らの

つ いて は、人 格権 に基 づ く差 止請 求権 と同様 の相 関衡量 的判 断 に従 う。 この説 に よれ ば、平 穏 生活権 とは、 身体権 の侵 害 にまで は至 っ てい ないが、 生命 、身 体 に対 す る侵 害 の危 険が 、深刻 な具体 的危機 感や不 安感 とな って精神 的平 穏や 平穏 な生 活 を侵 害 して い る場 合 の精 神 的人格 権で あ る と解 す る こ とにな る。っ

5t)

ま り、 身 体 権 に直 結 した精 神 的 人 格 権 で あ る とい うの で あ る。

ま た、 平 穏 生 活 権 の侵 害 に つ いて 、 「 周 辺 住 民 の生 命 ・身 体 に対 す る侵 害 の危 険 、 精 神 的 平 穏 に対 す る侵 害 が 問 題 とされ て い る点 で 、 被 侵 害 利 益 の 点 で は絶

52)

対権 ・絶 対 的利 益 侵 害 と同質 で あ る。」 と論 及 し、単 な る精 神 的 人 格 権 とは異 な っ

53?

た強 い保 護 が 求 め られ る とす る学説 も存 在 す る。

この よ うに論 じ られ る平穏 生活権 につ いて、 身体権 との関係 を どの よ うに理 解 す れ ば よいので あ ろ うか。 両者 の関係 性 は、平 穏 生活権 の性 質 の解 明 に本質 的 な要 素 を提供 して くれ るで あ ろ う。 両権利 の関係性 につ いて は、2つ の対置 す る立場 が考 え られ る。

まず、平 穏 生活権 を身体権 と同次元 の絶 対権 と して捉 え、人 格秩序 に属 す る と解 す る考 え方 が成 り立 つ。 すな わち、平穏 生活 権 は単 な る精 神 的人格権 で は な く、身体 権 に直結 した精神 的人 格権 で あ る とい う身体権 との直結 性 の特質 を 前面 に出す こ とによ り、 また は被 侵害 利益 の観 点 を重視 す る こ とに よ り、平穏 生活権 も身体権 と同次 元 の絶対権 で あ る として、平 穏生 活権 の要保 護性 を強調 す る見解 で あ る。 しか し、 この ように平 穏 生活権 につ いて身体 権 との直 結性 に 比重 をお いた理解 をす る と、平 穏生 活権 の概 念 を限定 す るこ とにな るで あ ろ う。

なぜ な ら、平 穏 生活権 とは、 プ ライバ シーや平穏 な家庭 生活 の侵害 等、 身体権 に直 結 しない生活 妨 害 も含 む精神 的平 穏 を享 受す る権 利 で あ る と解 す るのが一

般 的で あ るか らで あ る。 さ らに、平穏 生 活権 を根拠 として差 止 め を求 め る裁 判 で は、地 域 性等 を加 味 した利益 衡量 に よって受 忍 限度 を判断 す る こ とが妥 当で あ るので、 ここで は絶対権 が利 益衡 量 を排 除す る意 味 で使 われ て いな い こ とに

55)

な る。

つ ぎ に、 平穏 生活権 を身体 的人格権(絶 対権)の 外延 部分 に位 置づ け られ る

生 活利益 の享受 に関す る保 護 法益 で あ る と捉 え、 生活利 益秩 序 に属 す る と解 す

(17)

人 格権 としての浄水 享 受権 につ いて 91

る立場 が考 え られ る。 身体権 は絶 対権 で あ るか ら、 その侵害 は直 ち に差 止 めが 認 め られ る一 方 で、平穏 生 活権 は身体権 ほ ど要保 護 性 が求 め られ る法 益 で はな いか ら、受 忍限度 を超 えた侵害行 為 のみ に差 止 めを肯認 す る と解 す るので あ る。

この見解 に よれ ば、 平穏 生活権 が 身体権 に直 結 して い る場合 にお け るその特 質 は、 あ くまで も受 忍 限度 の判 断 の際 に被 侵害 利益 の性質 と して考慮 され る こ と にな る。 生活 妨害 の差 止請 求の事 案 にお いて、 裁判所 は被害 の程 度 と侵 害 行為 の態様 等 との相 関衡 量 に よって受 忍 限度 を判 断 して い るので、利益 衡 量 を正 面 か ら認 め る点 におい て判例 と親和 的 な考 え方 で あ る とい え よ う。

(3)身 体権 と して の浄水 享受権 と平 穏生 活権 と して の浄水 享受 権

身 体権 として の浄水 享受権 は、 「 質 量 ともに生存 ・健康 を損 な うこ との ない水 を確保 す る権 利」 で あ るか ら、 かか る水 を確 保 で きな い場 合 には人 の健 康 はお

ろか生存 につ いて も保 障で きな くな るた め、 人格 秩 序 に属 し、 この種 の 浄水 享 受権 の侵 害 は直 ち に侵 害行為 の差 止 め を認 め、受 忍限度 的 な利 益衡 量 をす る必

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要 は な い。 これ に対 し、 平 穏 生 活権 と して の浄 水 享 受 権 は、 「 適切 な質 量 の 生 活 用 水 、 一 般 通 常 人 の 感 覚 に 照 ら して 飲 用 ・生 活 用 に供 す る の を適 当 とす る水 を 確 保 す る権 利 」 で あ るか ら、 侵 害 行 為 が 即 座 に健 康 被 害 を もた らす わ け で は な く生 活 利 益 の 享 受 を問 題 と して い るた め 、 生 活 利 益 秩 序 に属 し、 この 種 の 侵 害 は受 忍 限 度 を超 え た と き に初 め て差 止 め を容 認 す る こ とに な る と考 え るべ きで

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あ ろ う。 平 穏 生 活 権 と して の浄 水 享 受 権 につ い て 、 平 成4年 仙 台 地 裁 決 定 が 判 示 した 「 飲 用 ・生 活 用 に供 す るの を適 当 とす る水 を確 保 す る権 利 」 を、 平 成13 年 福 島 地 裁 判 決 は 「 飲 用 ・生 活 用 に供 す るの を適 当 とす る水 を 、 受 忍 限 度 を超 え て奪 わ れ な い 権 利 」 で あ る とい う表 現 で 言 いi換え て い る点 を見 逃 して は な ら な い の で あ る。

水 利 用 の 保 護 につ い て は、 そ の用 途 が 規 定 的 な 意 味 を有 す る。 水 の 利 用 が 水 質 また は水 量 に お い て 侵 害 され た 場 合 に は、 侵 害 さ れ た 水 利用 の用 途 と被 侵 害 利 益 の種 類 ・性 質 とは密 接 な 関 係 に あ るか らで あ る。 侵 害 され た 水 利 用 の 目的 が 達 成 で きな くな った とき、 そ の 目的 が 飲 用 で あ れ ぼ人 格 権 の侵 害 と解 さ れ 、 洗 濯 や 庭 の水 遣 り等 の 生 活 用 水 で あ れ ば 生 活 利 益 の 侵 害(生 活 妨 害)と 捉 え ら

れ る。 ま た 、 灌 溜i用や 工 業 用 で あ れ ば 、 水 利 権 とい う物 権(財 産 権)の 侵 害 と

(18)

して扱 わ れ る こ とに な るので あ る。 同 じ水 利 用 の侵 害 で も、 水 利 用 の用 途 に よっ て 人 格 権 侵 害 とな り直 ち に差 止 請 求 が 認 め られ た り、 生 活 利 益 の 侵 害 と して 利 益 衡 量 に よっ て 差 止 め の成 否 が 判 断 され た りす るの で あ る。 この 意 味 に お い て 、 水 の 利 用 は そ の用 途 に応 じて 保 護 の程 度 に差 異 が あ るか ら、 水 利 用 の 要 保 護 性

58)

は その 目的 に よって段 階 的 な構造 を有 す る とい え るので あ る。裁判例 が2種 類 の浄水 享受権 の類 型 を生成 した こ とは、 身体権 と平 穏生 活権 とい う人格権 の一 環 として の具 体 的権 利 を用 いて、 この よ うな水 利用 の保 護 の段 階的構造 を裏 付 け一 し、質 量 ともに適 切 な水 を確保 す る権 利 の性 質 を明 らか に した点 にお いて重 要 な意 義 を見 出せ るので あ る。

4.む す び

適切 な質 量 の水 を確保 す る権 利 を浄水 享 受権 と称 し、 それ に は身体権 お よび 平穏生 活権 の性質 を有 す る2つ の類型 が あ る とす る考 え方 は、水 が人 の生 存 に 必要不 可 欠 な物質 で あ り、 かつ人 が平 穏 で安全 な生活 を営む た めに も必要 な物 質で あ る とい う水 の特質 を、 人格権 の一環 と して の具体 的 な権 利 の うえ に反映 させ た もの で あ る。 これ ら2種 の浄水 享受権 は、 同時 に侵 害 され る こ とはない 関係 にあ る。つ ま り、身体権 と しての浄 水享受権 の侵 害が認 め られた ときには、

平穏 生活権 としての浄水享受権 の侵 害 は問題 とはな らないので あ る。 なぜ な ら、

平穏 生 活権 は、 身体権 の侵 害 に至 らなか っ た場 合 の精 神 的平穏 を確保 す る権利 で あ るので 、 身体 権 と しての浄 水享 受権 の侵害 が認 め られ なか った ときに初 め て検 討 の対 象 とな る性質 を有 す るか らで あ る。 したが って、 身体権 として の浄 水 享受権 には論 及 して い るが 、平穏 生活権 としての それ には触れ て いな い平成 Il年 水戸地 裁決 定 お よび平成12年 鹿 児 島地裁 決定 の態度 は、 この よ うな2種 の 権 利 の関係 性 を暗示 してい る と解せ られ るので あ る。

有害 物質 が飲 料水 や生 活用水 の水 源 に混入 す る と、水 とともに有害物 質 が体 内に摂 取 され る危 険性 が考 え られ る こ とか ら、清 浄 な飲 料水 等 の確 保 は、社 会 生活 上、最 優 先 され るべ き もので あ る。 それ ゆ え、水 質汚濁 に よ る健 康被 害 の 高度 の蓋 然性 が認 め られ るな らば、身体権 としての浄水享 受権 の侵害 と解 して、

直 ち に侵 害行 為 の差止請 求 を認容 すべ き と考 え られ る。一 方、水 質汚 濁 に よる

(19)

人格権 として の浄水 享 受権 につ いて 93

健康 被害 の危 険性 が、深 刻 で具体 的 な不 安 感や 恐怖 感 となって精 神 的平 穏 や平 穏 な生活 を侵 害 して い る場合 に は、精 神 的平 穏 を享 受 す る法益 の侵 害 と解 し、

その侵害 行為 が受 忍 限度 を超 えた ときに差 止請 求 が認 め られ る と理解 す べ きで あ ろ う。 平穏 生活権 の概 念 を生成 して きた裁判例 の立場 か らは、 受 忍 限度 の判 断 に よって精神 的平 穏 を享 受す る法益 に権 利性 が付 与 され、 その権 利 を根拠 と

して差 止請 求が認 め られ る と解 す るこ とが で き よう。 この よ うに浄水 享 受権 は、

侵害 行為 が直 ちに差 止請 求 を認容 す る身体権 と、侵 害行為 が 受忍 限度 を超 えた

59)

とき に差 止 請 求 を認 め る平 穏 生 活 権 の性 質 を併 有 す る特 徴 を も っ て い る。 か か る浄 水 享 受 権 の特 質 は 、 裁 判 例 が 判 示 して きた 人 格 権 の 具 体 的 内容 を解 明 した もの と理 解 で き るの で あ る。

水 の利 用 は、 飲 料 用 、 生 活用 、 灌 概 用 、 工 業 用 等 の 用 途 に応 じて 保 護 の 程 度 に差 異 が あ るか ら、 水 利 用 の 要 保 護 性 は そ の 目的 に よっ て 段 階 的 な 構 造 を 有 す る と考 え られ る。 裁 判 例 が 、 浄 水 享 受 権 の2類 型 を 生 成 した こ とは、 身 体 権 と 平 穏 生 活 権 とい う人 格 権 の....と して の 具 体 的権 利 を用 い て 、 この よ う な水 利 用 の 保 護 の段 階 的構 造 を裏 付 け し、 質 量 と もに適 切 な 水 を確 保 す る権 利 の 内容 を 明 らか に した もの と して評 価 で き るの で あ る。

1)具 体的 な事案の解決 に あた っては、差止 めだ けが 問題 にな るので はな く、 不法行 為 に基 づ く損害賠償 の請求や和解 の条件等 、様 々 な角 度か らの検 討が必要 で ある。本稿 に お いて は、差止請 求の法的根拠 を何 に求 め るべ きか とい う問題 意識か ら差止 め に焦 点 を絞 っ て論 を展 開 して い きた い。 なお、廃棄物 処理施設 の操 業 をめ ぐる損害賠償 の裁判例 につ い て も 視野 に入れ た論考 として、橘 高栄子 「 廃棄物 の処理 に関す る民事裁判例 の分析(1)(2・

完)」立教大学大学 院法 学研究25号(2000年)37頁 以下、26号(2001年)77頁 以下 が あ る。

2)「 民法 の一部 を改正す る法律 」(平 成16年12月1日 法律第147号)に よって民法 は現 代語 に改 め られ た。 その際、 民法709条 につ いて、侵害 され た ものが厳 密 な意 味で権 利 といえ ない よ うな もので あって も、 それが 法律 上保護 され る利益 にあたれ ば不法行為 が成 立 す る との解釈 は判例 ・通説 として確立 した もので あ る とい う理 由で、 「 法律上保護 され る利 益」

とい う文 言 が 付 加 され た 。 本 改 正 に よ って 「 権 利 」 と 「 法 律 上 保 護 さ れ る利 益 」 の2つ の 概念 が併 記 された ことに積極 的 な意 義 を見 出 しうるか、 とい う新 たな問題 が提起 され た と 解 す るな らば、権 利侵害 と法益侵害 の異同 の問題 を内在 させ っっ、生活 利益 の権 利化 とい

う視 点か ら本稿 の趣 旨を捉 え るこ とも有益 で あ るよ うに思 われ る。

3)そ の他 に も 「 浄 水享受権 」 につ いて論及 した判 決 として、大津 地裁平成元 年3月8日 判

決(判 例 タイムズ697号56頁)が あ る。 しか し、当該判決 は、人格権 を根拠 として差 止請

(20)

求がで き る としなが ら も、浄水享 受権 は私 法上の差止請 求権 の根拠 とはな りえな い と判示 してい るた め、 ここにい う浄水 享受権 は人格権 の一種 としての具体 的権 利で はない と解 し、

本稿 で は取 り上 げない ことと した。 当判決 は、次 の よ うな理 由 によって浄水享 受権 を認 め なか った。す なわち、① 水源 が汚濁 して も、浄水処理 によ り飲料水 、生活用水 として適格 な水質 となれ ば、 人の健 康 に は影響 を及 ぼ さないか ら、水源 の清浄 さを権利 内容 とす る必 要 性 に乏 しい こ と、② 河川 の流 水 は私権 の 目的 とな らない と規 定 され てい る(河 川法2条

2項)こ とか らすれ ば、流水 の属 性 であ る清浄 さも私権 の 目的 とはな らない こと、③ 浄水 享受権 な る私権 を認 めた場合 、水源 の清浄 さをめ ぐる多数 の利 害関係人 の利 害対立 を調整 す る制 度 は民事訴訟 とな らざるを得 ないが、民事訴訟 はか か る利害対立 の調整 をす るには 不適 当で あ る こ と、④ 成文 法上 の根拠 が薄 弱で あ る こ と、で あ る。

4)坂 口洋一 「 判批 」 『 環境 法判例 百選 』別冊 ジ ュ リス ト171号(2004年)140頁 以下 参 照。

5)ま た、本決定 は、住 民 の立証責任 を軽減 す る理論 を判示 した点 において も重要 な意義 を もつ。す な わち、 「 一般 の住 民 が、専 門業 者 を相手 として、 業者 の営業 に関 して生 じる健 康被害 ・生活妨 害 を理 由 に、操業差 止 めを求 めて いる事案 にお いて は、証明 の公平 な負担 の見地 か ら、住 民が侵害 発生 の高度 の蓋 然性 にっ いて一応 の立証 を した以上、業者 が それ に もかか わ らず侵害発生 の高度 の蓋 然性 のない こ とを立証 すべ きで あ り、 それ がない場合 には、裁判所 として は、侵 害発生 の高度の蓋然性 の存在 が認 め られ るもの として扱 うのが 相 当で あ る。」 と判 示 した。 っ ま り、 侵害発生 の高 度 の蓋然 性 につ いて住 民 が一応 の立証 をすれ ば、事 業者 の側 で その蓋然性 が ない こ とを立証 すべ きで あ る と論及 し、住 民 の立証 責任 を軽 減 した ので あ る。

6)本 決定 の ような条件 付仮 処分命 令が認 め られ るか 否か につ いて は、議 論 の余 地が あ る。

これ につ いて は、清水正 憲 「 判批 」私法 判例 リマー クス14号(1997年)142頁 以下が詳細 で あ る。

7)「 所 有土 地が本件 処分 場 に搬 入 され る有害 物質 によって汚 染 され 、 その財産 的価値 が低 下 す る危 険性 が あ る とは認 め られ な い。 よって、土地所 有権 に基づ く差止請 求権 は認 め ら

れ ない。」(判 例 タイ ムズ903号255頁)

8)「 有害物 質 は灌概 用水 を通 じて農作 物 に吸収 され、 さ らに農作 物 を食 す る こ とによって 初 めて体 内 に入 るもので あって、 債権者 らが生 活用水 として 日常的 に直接飲用 す るの と異 な り、摂取 す る経路 が間接的 であ る上 に、 その量 もご くわず かであ るか ら、 その危険性 も 小 さ く、 一般通常人 の感覚か らみて もその嫌悪 感 には顕著 な差 異が あ るとみ るのが相 当で

あ るこ とを考慮 す る と、事前 に差 止 めを求め る権利 を認 め るこ とはで きない とい うべ きで あ る。」(判 例 タイ ムズ903号255頁)

9)水 利用 の 目的 は被 侵害 利益 の種類 ・性 質 と密接 に関係 して い る点 に注 目すべ きで あ る。

10)こ の こ とは、後述 す る水戸地裁 平成11年3月15日 決定(判 例 時報1686号86頁 、判 例 タ イ ム ズ1053号274頁)に 如 実 に あ らわれ て い る。

11)坂 本 慶一 「 判批 」判例 タイ ムズ1036号(2000年)296頁 以下 参照 。

12)水 戸 地裁 は、 「 農 業用 水 として 利用 して い る債 権者 らにつ いて は、農業 経営 を侵害 され

ない よ うな安全 な水 質 を確保 す るこ とので きる権 利 を有 す る と考 え られ る ところ、他 人 の

行為 に よって、水質 が害 され、右権利 が侵 害 され る可能性 が高 く、 その侵害 の程度 が深刻

で あ る場合 には、その行為 を事前 に差 し止 め るこ とも認 め られ る」 と判示 しなが らも、 「 農

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