腎細胞癌手術後の慢性腎臓病 発症予測について
日本大学大学院 医学研究科 博士課程 外科系 泌尿器科学専攻
堀 祐太郎 2018 年
指導教員 高橋 悟
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目次
要旨 ... 2
背景 ... 4
1.疫学 ... 4
2.発生要因 ... 5
3.症状、検査ならびに治療 ... 7
4.予後 ... 10
5.腎機能障害 ... 11
目的 ... 16
対象と方法 ... 17
結果 ... 20
1.患者背景 ... 20
2.臨床所見と術後AKI(acute kidney injury)発症との関連(表6) ... 20
3.臨床所見と術後新規CKD(Chronic Kidney Disease)発症の特徴(表7) ... 21
4.術式が与える術後AKI
発症への影響(表
8) ... 215.術式が与える術後新規CKD
発症への影響 (表
9) ... 226.CT
を用いた術後予測腎体積と
AKI・CKD発症との関連性 ... 22
考察 ... 24
1.腎摘除術と腎機能障害 ... 25
2.腎部分切除と腎機能障害 ... 26
3.術後予測腎体積を用いたCKD
発症予測モデルの確立 ... 27
結語 ... 30
謝辞 ... 31
表 ... 32
図および図の説明 ... 42
参考文献 ... 48
研究業績 ... 54
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要旨
腎細胞癌の罹患率は年々上昇している。腎摘除術または腎部分切除術が標 準治療であるため、総生存率に対する危険因子に腎機能障害が挙げられてい る。このため今回、腎細胞癌患者の術後腎機能障害に着目し、有用な予測マ ーカーの検討を行った。
2004 年から 2014 年に腎細胞癌と診断され、日本大学医学部附属板橋病院 で加療された 181 例を後ろ向きに観察した。観察項目は、AKI(acute kidney injury)や CKD(Chronic Kidney Disease)の診断基準となる 1.年齢 2.性別 3.糖尿病の有無 4.蛋白尿の有無 5.血清クレアチニン値 6.血清クレアチ ニン値と年齢から推定した eGFR(estimated glomerular filtration rate)
値である。
今回新規指標を求めるために 7.術式(開腹または腹腔鏡下、腎摘除術また は腎部分切除術)8.病理組織診断 9.TNM 分類 10.術前 CT 画像から算出した 術前非癌部腎体積と予測術後腎体積を加え、さらに、術前および術後 5 年以 内の AKI、CKD の有無も検討した。
術後 AKI 発症に対する有意な予測因子は、術前糖尿病合併の有無、腎部分 切除施行の有無であった。
術後新規 CKD 発症に対する有意な予測因子は、年齢、腎部分切除施行の有無
および術後 AKI 発症の有無で有意差を示した。
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このように AKI と術後新規 CKD 発症に共通して術式の違いが大きく影響して いるため、症例を術式別に群分けし、腎機能障害をおこす因子との関連性に ついてさらに解析を行った。
腎摘除後に AKI 発症症例は、術前糖尿病合併率が有意に高く、術前血清ク レアチニン値が有意に低く、一方、腎部分切除後の AKI 発症症例は、術前尿 タンパク陽性率が有意に高い。
腎摘除後に新規 CKD 発症症例は、年齢が唯一の危険因子であり、一方、腎 部分切除後新規 CKD 発症症例は、年齢および術後 AKI 発症の有無が有意な危 険因子であった。
両術式の最大の差と思われる術後腎体積に着目し、CT による予測術後腎体 積を算出し、術後 AKI 発症ならびに術後新規 CKD 発症への関連性を検討した。
術後新規 CKD 発症予測モデルの作成を行ったところ、AKI、eGFR(84ml/s 未満)、
予測術後腎体積(240ml 未満)の 3 因子の組み合わせが最も有用であった。
さらに、術後 5 年以内の観察期間で CKD free survival 曲線を各因子と
新規リスク分類をもとに解析した。我々の示した新リスク分類に比例して予
後不良になった。予測因子からみたハイリスク症例は、早期より腎保護治療
を積極的に介入させることが必要と考えられた。
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背景
1.疫学
腎細胞癌は尿細管由来の癌で、腎由来の悪性腫瘍の 85%を占めてい る。これに次いで尿路上皮細胞由来の腎盂尿管癌が残りの大部分を占める。
我が国における部位別罹患率(腎・尿路)は、腎細胞癌と尿路上皮癌(膀胱 癌を除く)とが合算されたものとなっている。その推移は 1975 年の男性 2.45、女性 0.95/人口 10 万人対以降、男女ともに年々上昇しており、2012 年の罹患率では男性 24.3、女性 11.7/人口 10 万人対であった(図 1)[1]。
一般に年齢調整罹患率は罹患率(全国推計値)より低値であるため、本邦 での罹患率(全国推計値)上昇の一因は高齢化にあると思われる。また健康 診断や人間ドックなど受診率向上や各種画像検査の進歩により、早期癌が多 数検出されるようになったことも原因として挙げられる[2]。
死亡率(全国推計値)も年々上昇の一途をたどっており、2012 年では男性
8.79、女性 4.55/人口 10 万人対であった(図 2)[3]。これも本邦では一般
に年齢調整死亡率は下降傾向であるため、この死亡率(全国推計値)上昇の
一因は高齢化にあると思われる。しかし、死亡率は罹患率の約 1/3 程度であ
り、膵癌(死亡率は罹患率のほぼ同数)等と比較し、治療可能で死亡に至ら
ない癌が占める割合が多いことが示唆される。
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2.発生要因
腎細胞癌の発生因子は単一ではなく、以下の様々な要因が複合していると 考えられている。
喫煙:24 のデータをまとめたメタアナリシス解析では、全喫煙群、現在も 喫煙している群、過去に喫煙していた群において、それぞれの腎細胞癌発症 相対リスクは 1.31、 1.36、 1.16 と高値であった[4]。さらに進行性腎細 胞癌ともオッズ比 1.5 と有意に関連していることが別に報告されている [5]。
高血圧:詳細なメカニズムは依然として不明だが、高血圧と腎細胞癌発症 は有意に相関するとされている。近年報告された 18 の前向き研究をまとめ たメタアナリシス解析で、高血圧は腎細胞癌発症リスクが 67%増加し、ま た収縮期血圧が 10mmHg 上昇するごとにリスクが 10%増加した[6]。
肥満:肥満は喫煙や高血圧と同様に腎細胞癌発症のリスクが増加するとさ
れている[7]。その一方で興味深いことに、体重の増加が低悪性度の腎細胞
癌に相関するといった報告もされている。1543 例の腎摘除術施行症例を用
いたメタアナリシス有転移腎細胞癌解析では、肥満群は有意に全生存率を延
長させることが認められた(Hazard Ratio[HR];0.45、 95%Confidence
Interval[CI]:0.29-0.68)[8]。さらに別の有転移腎細胞癌症例を用いた
解析でも同様の結果が得られ、脂質代謝に関連する fatty acid synthase
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(FASN) 遺伝子の発現が肥満群で有意に低く、これが分子標的薬の感受性を 高めていることが近年報告された[9]。
職業関連暴露:職務中に暴露される有害物質のうち、カドミウム、アスベ ストならびにペトロリアムなどの石油化合物が腎細胞癌発がん物質として知 られている[10]。これらの発癌物質は腎細胞癌における重要な癌抑制遺伝子 の一つである von Hippel-Lindau(VHL)遺伝子発現を抑制させる[11, 12]。
鎮痛薬:フェナセチンやアスピリンなどの鎮痛薬を長期服用した場合、腎 細胞癌発症リスクが高まることが知られている。これは長期服用により、慢 性の腎障害を誘発するためとされている。必ずしも全ての鎮痛薬がリスクと なるわけではないが、非アスピリン性鎮痛剤が発がんリスクになりうること が近年報告されている [13]。
癌抑制遺伝子や癌遺伝子:腎細胞癌のうち、組織型の 75%を占める淡明細
胞癌では癌抑制遺伝子の一つである VHL 遺伝子が高率に失活している。同遺
伝子の失活は、低酸素下誘導因子(hypoxia inducible factor: HIF)の発
現を誘導し、次いで血管内皮成長因子(vascular endothelial growth
factor: VEGF)や mammalian target of rapamycin (m-TOR)を活性化、血管
新生を促進し淡明細胞癌の発生と進展に寄与する。組織型の 15%を占める
乳頭状細胞癌では癌遺伝子の一つである mesenchymal-epithelial
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transition (MET) 癌遺伝子の活性化や fumarate hydratase (FH) 遺伝子の 失活が関与している。また、まれな組織型の嫌色素性腎細胞癌の一部では、
Birt-Hogg-Dubé (BHD) 遺伝子が関与している[14]。
その他:長期透析患者の多くに発生する後天性嚢胞性腎疾患(ACDK)や VHL 病などの遺伝性疾患、HCV 感染症、細胞傷害性化学療法の施行歴、腎結 石、糖尿病、アルコールおよび小児癌の治療歴が腎細胞癌の発生と関連があ るとされている[15-29]。
3.症状、検査ならびに治療
腎細胞癌の主要症状は 1971 年に 309 例をまとめた総説[30]で、1.肉眼的 血尿 2.腹部腫瘤 3.腰背部痛 4.体重減少とされ、以後広く知られているが、
これら全て進行癌での症状であり早期癌では無症状である。
腎細胞癌の検出では、CT ならびにエコーが最も有用とされ、これに対し て尿検査、赤沈、CRP 等の生化学検査は腎細胞癌の検出には有用ではない [31, 32]。診断技術が発達し、日常診療で CT ならびにエコーを行う頻度が 増加したことにより、近年では偶発的に発見される無症状の早期癌症例が 80%以上にのぼり、予後改善に大きく影響している[33]。
局所療法である腎摘除術は局所腎細胞癌の根治性に大きな役割を担ってい
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る。腎摘除術では腎および腎周囲脂肪織を一塊として摘出するが、副腎の摘 除に関しては画像上明らかな転移が認められない場合は転移の確率が 10%
未満と低いため温存する[34]。腎摘除術を施行された局所腎細胞癌の 5 年癌
特異的生存率は 80−90%と良好である[35]。さらに、転移巣を有する進行症
例でも切除可能であれば有効とされている。現在でも下大静脈内腫瘍塞栓を
有する症例や肝、腸管などの周囲臓器への浸潤を疑う症例をも含めた進行性
腎細胞癌に対して、浸潤臓器の合併切除を含めた腎摘除術は標準的な治療の
一つである。しかし一方で、腎摘除によるネフロンの減少は術後の腎機能障
害に大きな影響を与え、それに伴い新たな腎細胞癌の総生存率に対する危険
因子となっている[36]。近年、腎機能温存の観点から、全生存率を延長させ
る 有 効 な 手 術 と し て 、 腎 部 分 切 除 術 が 腎 摘 除 術 よ り 普 及 し つ つ あ る 。
Manikandan らが行った直径 4cm 以内の腫瘍に対する腎部分切除術を施行され
た 1,211 例と腎摘除術 797 例とを比較した検討試験では、局所再発率に有意
な差は認められず、さらに腎部分切除術は腎摘除術と比較して癌特異的生存
率を有意に改善することを示している [37]。この報告はさらに 1990 年から
2011 年にかけて行われた 36 もの研究を用いて行われたメタ解析によって裏
付けられている。Kim らはこの中で腎部分切除術は腎摘除術に比べ全死亡率
を 19%、癌特異的死亡率を 29%減少させ、さらに慢性腎臓病(Chronic Kidney
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Disease:CKD)発症リスクを 69%抑制したと報告している [38]。
しかし、腫瘍の残存に注意を払う必要があり、腫瘍の比較的小さい症例 (4cm 以下の T1a 腫瘍)に限り、腎機能温存を目的として腎部分切除術が推奨 される[39]。最近のトピックとしては、部分切除において、ロボット(Da Vinci®)支援下による手術も保険適応となり(2016 年)施行されている。
一方で、化学療法や放射線療法の有効性がほとんど認められないため、腎 細胞癌の約 20%を占める進行した症例では、長らく、インターフェロンα (INF-α)、IL-2 による治療が行われてきた。近年、血管新生関連因子に注 目が集まり、先に述べた VEGF や m-TOR などを標的としたチロシンキナーゼ 阻害薬(tyrosine kinase inhibitor: TKI)や mTOR 阻害薬などといった分子 標的薬が開発された。2008 年に初めて使用可能となった TKI である
Sorafenib は VEGF を含めた数種のチロシンキナーゼを標的とし、当初サイト
カインの無効例に使用されていた。2009 年 Motzer らにより次の TKI である
Sunitinib の一次療法が、INF-αに比べ無増悪生存期間の延長を認めること
が判明し、新しい標準治療法として認められた[40]。現在では、TKI として
4剤(Sorafenib、Sunitinib、Pazopanib、Axitinib)、mTOR 阻害薬として
2剤(Temsirolimus、Everolimus)の計6剤の分子標的薬の使用が可能とな
り、その使用適応も定まりつつある(表 1 および 2)。
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また、宿主の免疫応答が腎細胞癌の腫瘍増殖に大きく影響を及ぼしている と考えられているため、古くは INF-α、IL-2 などのサイトカイン療法、最 近は Programmed death-ligand 1 (PD-L1)阻害薬(Nivolumab)が治療薬と して挙げられる[41-44]。
4.予後
腎細胞癌の予後について Hung らの報告によると、約4割が術後に CKD (eGFR<60)を発症すると言われている[36]。一方、術後の死因として、
Patel らの報告によれば、早期腎細胞癌の 12 年の経過観察で、7177 例中、
腎細胞癌死 334 例(4.7%)他の癌死 320 例(4.5%)(肺がん 86 例、血液 癌 41 例、大腸癌 36 例、前立腺癌 31 例、膵臓癌 30 例)、心血管疾患 522 例
(7.3%)(心臓疾患 396 例、脳血管疾患 82 例)、慢性閉塞性肺疾患 68 例
(0.9%)といわれる[45]。術式別の検討では、2008 年に報告された小径腎
細胞癌の研究において、全生存率は、腎部分切除施行例が腎摘除術施行例に
比べ有意に低く[46]、その翌年の Surveillance、Epidemiology and End
Results (SEER)癌登録でのさらなる検討では、心血管疾患イベントのリスク
が腎摘摘除群は腎部分切除に比べ 1.4 倍上昇していた[47]。このように癌組
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織を切除によって根治させたとしても術式自体が予後に影響を与えている可 能性が考えられる。
5.腎機能障害
腎細胞癌と腎機能障害は密接に関連している。腎機能障害の発生要因は、
① 腫瘍の正常組織への浸潤や手術に伴う正常腎組織の減少。② 腎部分切除 術の際に腎血流を一時遮断することにより起こる腎実質への虚血再灌流障害。
Basile ら の 説 に よ る と 、 腎 部 分 切 除 で は 疎 血 に よ り 残 存 ネ フ ロ ン の ATP
(adenosine triphosphate)が枯渇状態になりケモカイン、サイトカインが 動員され急性細胞障害が起こる。障害を受けた細胞の一部は虚血が解除され ると機能を回復するが、回復する細胞数により腎機能が決まると述べている [49]。③ 腎細胞癌術後に正常腎組織の減少により、残存腎・残存ネフロンへ の循環血漿量の増加および糸球体内圧の上昇がおこり、内皮細胞の機械的損 傷による糸球体硬化が生じる[48]といった現象が考えられる。
腎機能障害は以下の通り急性腎障害と慢性腎臓病に分類される。
[急性腎障害の定義・分類]
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急性腎機能障害(ARF; acute renal failure)は、「腎機能が急激に低下し 不全状態となった結果、体液の恒常性が維持できなくなった状態」である。
従来複数の基準により診断・分類されてきた ARF は、2004 年に国際的な基 準に統一が図られた。Acute Dialysis Quality Initiative (ADQI) によ り Risk、 Injury、 Failure、 Loss、 End Stage Kidney Disease
(RIFLE) からなる基準が発表された(表 3)[50] 。
RIFLE 基準では ARF は 2 つの基準からなる。「GFR 基準」として血清 Cr 値の増加と GFR 低下を、「尿量基準」として尿量の変化を用いる。そのどち らを満たしても ARF と診断し、Stage 分類ができるようになっている。
Stage 分類は、早期の重症度による 3 つの分類 (Risk、Injury、Failure) と、腎機能喪失期間による 2 つの分類 (Loss、End stage kidney disease;
ESKD) がある[51]。単一の医療機関に入院した患者 20,126 例を RIFLE 分類 と院内死亡の関連性を後ろ向きに検討したところ、オッズ比: Risk 2.5、
Injury 5.4、 Failure 10.1 とほぼ直線的に上昇しており、RIFLE 分類は ARF の重症度と死亡率の段階的な関係を示す良い指標であることが示唆された [52]。
2005 年に国際腎臓学会、米国腎臓学会、米国腎臓財団、欧州集中治療学会
のメンバーが集まり、第一回 AKIN(the Acute Kidney Injury Network)会
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議が開催された。急性腎障害の早期発見と介入が生命予後を延長させると考 え、ARF という用語に代わりより早期の段階の腎障害を含めた AKI(Acute Kidney Injury) という用語の概念を提唱した。そこで、新たな AKI の定義 として RIFLE 基準を修正し、より血清クレアチニン 0.3mg/dl という軽度な 上昇を誤差としてではなく有意な上昇と捉え、さらに 48 時間以内という早 期発見を目的とした条件を加えた AKIN 基準を発表した(表 4)[53]。
AKIN 分類は迅速かつ簡便に診断できることを特色とし、基礎血清クレア チニン値は必ずしも必要でなく、48 時間以内に 2 回以上の血清 Cr を測定す ることで判定でき、クレアチニンクリアランスも除外された。各 Stage につ いてはこれまでの RIFLE 分類と同様 7 日目で判定する。RIFLE 分類と同様に この分類の有用性が検証され、Thakar らは集中治療室に入室した症例を用 いて、AKIN 分類のステージの重症度に一致して院内死亡率が増加し、微量 なクレアチニンの上昇でも影響をおよぼすこと、さらに腎機能の回復によっ て死亡率が改善することを報告した[54]。これを踏まえ、2012 年には、
Kidney Disease Improving Global Outcomes (KDIGO)が RIFLE 基準と AKIN
基準を統合した KDIGO 基準を発表した[55]。AKIN 分類と違い、血清クレア
チニンの 1.5 倍以上上昇の評価期間を 7 日以内に変更することにより、緩徐
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に上昇する症例も含め、より多くの症例を AKI と診断できることが特色であ る。
[慢性腎臓病の定義・分類]
慢性腎臓病(CKD;chronic kidney disease)は、2002 年に米国腎臓財団 で提唱された概念であり、慢性的に腎機能が低下する全ての腎臓病を含む。
日本では 2006 年に「日本慢性腎臓病対策協議会」が設立され、CKD の概念 が導入され本格的に対策に取り組むようになった。CKD の診断基準は 1.GFR が 60mL/分/1.73m
2未満、2.腎臓の障害を示唆する尿タンパク陽性などの所 見が、どちらか、あるいは両方慢性的(3 カ月以上) に持続するものすべて を包含している。CKD は進行すると尿毒症を引き起こす。尿毒症は腎機能低 下によりおこる臓器障害と体液異常により起こる症候群の総称である。CKD は循環器疾患とも密接に関連し、近年心腎症候群として注目を集めている。
腎機能低下により、レニン・アンジオテンシン系(RAS; renin-angiotensin
system)が亢進し、血圧上昇と腎血流量低下がおこる。また高血圧による心
機能障害で、腎血流量の低下と交感神経系の亢進が惹起され、体液貯留と
RAS が亢進する。さらに腎機能低下による貧血が心機能に悪影響を及ぼす
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[56]。このように CKD と心疾患は相互に悪影響を及ぼし、両疾患の合併例で
は死亡率が顕著に高くなる[57]。
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目的
前述のように腎細胞癌の約 8 割は早期発見例であり[33]、外科的加療によ り長期にわたって良好な制癌効果を得られる。しかし、主に根治的腎摘除術 で発生する直接的なネフロンの減少や腎部分切除術で発生する虚血再灌流障 害が CKD を発症させ、さらには致死的な心血管イベントのリスクを高めるこ とにより、腎細胞癌の全生存率へ深刻な影響を与えていると思われる。 今回、
腎癌患者の長期予後に影響すると考えられる術後腎機能障害に着目し、有用
な予測マーカーの検討を行った。
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対象と方法
2004 年から 2014 年に腎細胞癌と診断され、日本大学医学部附属板橋病院 で腎摘除術または腎部分切除術が施行された 181 例を後ろ向きに検討した。
観察項目は、1.年齢 2.性別 3.糖尿病の有無 4.蛋白尿の有無 5.血清クレア チニン値 6.血清クレアチニン値と年齢から推定した eGFR 値 7.術式(開腹 または腹腔鏡下、腎摘除術または腎部分切除術)8.病理組織診断 9.TNM 分類 10.術前 CT 画像から算出した術前非癌部腎体積と予測術後腎体積であり、さ らに、11.術前および術後 5 年以内における CKD の有無について検討した。化 学療法の有無、高血圧、高脂血症、手術時間、輸血の有無、BMI、PS の検討に ついては、検討項目から除外した。理由として、高血圧ならびに高脂血症で はすでに治療され良好にコントロールされている症例、コントロール不良例、
未治療例ならびに健常例が多岐に混在しており評価が困難なため、BMI は欠 損値が多く、PS は耐術能がある症例を対象としているため全例良好であるこ と、輸血施行例と化学療法に関しては施行症例が非常に少ないこと、阻血時 間は温阻血か冷阻血か、冷阻血であれば腎外か腎盂内かで分類されるため、
多岐にわたる。それに伴い手術時間が異なり、解析が煩雑になるためである。
eGFR は、日本腎臓学会にて推奨されている計算式、
男性 194 × (Scr
-1.094) × (age
-0.287)
女性 194 × (Scr
-1.094) × (age
-0.287) × 0.739
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を用いて算出した [58]。
AKI については KDIGO 分類に則って術前術後 7 日以内にクレアチニン上昇 が 1.5 倍以上認められた場合 AKI ありと判定した [59, 60]。CKD について は、eGFR が 3 ヶ月以上離れた 2 つの観測点で連続して 60ml/分/1.73m
2未満 になった際に発症と判定した [61]。
腎体積は術前 CT から得られたデータをワークステーション ZAIOSTATION2
(ザイオソフト株式会社, 東京, 日本)を用いて算出した。まず造影 CT で 撮影された腎皮質実質部分を3D 構築し、構築された腎実質を ZAIOSTATION 2でトレースし、次いで腫瘍部分を除去した部分を術前非癌部腎体積として 算出した。そのため、腎摘除術の場合は健側腎のみを予測術後腎体積として 抽出、腎部分切除術の場合は健側と術前非癌部腎体積を予測術後腎体積とし た(図 3)。
尚、この研究は、日本大学医学部附属板橋病院倫理委員会における承認を 得て行っている(RK-170711-07)。
統計解析
検定は、2 群比較において対象とする項目が連続変数の場合はステューデ
ント t 検定を行い、名義変数の場合は Pearson 検定か、χ 二乗検定を行った。
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予測術後腎体積と eGFR の関係性については Spearman 相関解析を行い、相関 係数(r)を算定し、eGFR を目的とする単回帰分析で予測術後腎体積の回帰 係 数 と 定 数 項 を 求 め た 。 そ の 後 、 そ れ ぞ れ の Receiver operating characteristic(ROC)曲線を作成し、曲線下面積(Area under curve ;AUC)、
感度、特異度、陽性的中率(PPV)、陰性的中率(NPV)を算出した。さらに各 因子で AUC の差の検定を行った。術後 CKD 発症予測モデル作成のために、有 望な因子をステップワイズ法で抽出し、CKD 発症の有無を目的とする二項ロ ジスティック回帰分析を施行した。有望な因子と、CKD 発症予測モデルを元 に作成したリスク分類に対してはそれぞれ CKD free survival 曲線を作成し、
Log-rank 検定を行った。上記統計は全て JMP 9.0 (JMP Japan, 東京、日本)
を用いた。P<0.05 を有意差有りとした。
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結果
1.患者背景
患者背景を表 5 に示す。男性 132 例、女性 49 例の計 181 例を対象とし、手 術時平均年齢は 62.69±12.02 歳であった。糖尿病合併は 44 例(24.3%)に 認めた。術前尿中タンパクを認めた症例は 63 例(34.8%)、術前の血清クレ アチニン値の平均は、1.05±1.21mg/dl。術前非癌部腎体積は、345.4±82.2 mlであった。術式は、腎摘除 117 例(64.6%)のうち、開腹 80 例、腹腔鏡下 37 例であった。腎部分切除 64 例(35.3%)のうち、開腹 47 例、腹腔鏡下 17 例 であった。組織型は淡明細胞癌が 158 例(87.2%)で最も多く、T 分類は、T1 134 例(74%)、T2 15 例(8.5%)、T3 31 例(17.5%)、T4 1 例(0.5%)で あった。
2.臨床所見と術後 AKI(acute kidney injury)発症との関連(表 6)
術後 AKI を発症したのは、181 例中、63 例(34%)であった。また、術後 AKI 発症症例は非発症症例に比べ、術前糖尿病合併率(術後 AKI 発症症例 34.92% vs 非発症症例 18.64%、p=0.016)が有意に高く、腎部分切除施行率
(同 14.29% vs 46.61%、P<0.0001)が有意に少なかった。年齢、性別、術前
尿タンパク陽性率、腫瘍の組織型および T 分類による、術後 AKI 発症の有意
差は認めなかった。
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3.臨床所見と術後新規 CKD(Chronic Kidney Disease)発症の特徴(表 7)
CKD 発症のリスク因子を評価するため、181 例中、術前腎機能正常例 121 例を対象に術後 CKD 発症の有無を観察した。術後新規 CKD 発症例は 57 例 (47%)であった。年齢(術後新規 CKD 発症あり:64.52±10.71 歳 vs なし:
57.21±12.00 歳、p=0.0006)、腎部分切除施行の有無(同 38.60 % vs 51.56 %、p<0.0001)および術後 AKI 発症の有無(同 54.3 % vs 28.1 %、
p=0.0032)で有意差を示した。
このように AKI と CKD 発症に共通して術式の違いが大きく影響しているた め、症例を術式別に群分けし、それぞれ上述の腎機能障害をおこす因子との 関連性についてさらに解析を行った。
4.術式が与える術後 AKI 発症への影響(表 8)
腎摘除群 117 例、腎部分切除群 64 例の患者背景について AKI 発症の有無で
群分けをし比較検討した。腎摘除群において、術後 AKI 発症症例は非発症症
例に比べ、術前糖尿病合併率が有意に高く(術後 AKI 発症症例 33.3 % vs 非
発症症例 14.2 %, p=0.014)、 術前血清クレアチニン値が有意に低かった(同
0.81±0.35 mg/dl vs 1.32±1.87 mg/dl、p=0.036)。年齢とはやや関連を示
したが有意ではなかった(同 64.7±11.6 歳 vs 61.8±11.5 歳、p=0.18)。
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一方腎部分切除群では術後 AKI 発症症例は非発症症例に比べ、術前尿タン パク陽性率が有意に高かった(術後 AKI 発症症例 33.3% vs 非発症症例 7.27%、
p=0.004)。
5.術式が与える術後新規 CKD 発症への影響 (表 9)
術後新規 CKD 発症の有無について、同様に、それぞれの術式において比較 検討を行った。腎摘除群のうち術前腎機能正常例であった 79 例において、術 後新規 CKD 発症は、年齢が唯一の危険因子であった(術後新規 CKD 発症症例 63.8±10.7 歳 vs 非発症症例 55.4±11.7 歳、 p=0.002)。腎部分切除群 64 例 のうち術前腎機能正常例であった 42 例において、腎摘除術群と同様に年齢 (術後新規 CKD 発症症例 68.0±10.19 歳 vs 非発症症例 58.9±12.18 歳、
p=0.038)および術後 AKI 発症の有無(同 44.4% vs 6.0%、 p=0.0082)が有意 な危険因子であった。
6.CT を用いた術後予測腎体積と AKI・CKD 発症との関連性
また、表6,表7に示すように、術式の違いが術後腎機能に多大な影響を 与えていることから、両術式の最大の差と思われる術後腎体積に着目した。
今回は CT による予測術後腎体積を算出し、術後 AKI 発症ならびに術後新規
CKD 発症への関連性を検討した。CT ワークステーション ZAIOSTATION2ソフ
23
ト上で解析し得た 138 例を対象に解析を行ったところ、術後予測腎体積と eGFR が術前、術後 6 ヶ月、12 ヶ月、36 ヶ月、60 ヶ月においてそれぞれ正の 相関を示した(r; 術前=0.27、 術後 6 ヶ月=0.49、12 ヶ月=0.48、36 ヶ月
=0.44、60 ヶ月=0.41、図 4)。
術後新規 CKD 発症の有無について、138 例中術前腎障害を認めなかった 105
例に対し、予測術後腎体積を用いてロジスティク回帰分析を行い、ROC 曲線
を描いて検討したところ、感度: 77%、特異度: 53%、陽性的中率 59%、陰性
的中率 76%、Area under curve = 0.71、カットオフ値 240ml であった(図
5A)。また、予測術後腎体積と相関関係にある eGFR についても同様に ROC 曲
線を描いて検討したところ、感度: 91%、特異度: 37%、陽性的中率: 55%、陰
性的中率: 84%、Area under curve = 0.67、カットオフ値 84.78 ml/s(図
5B)、両因子の AUC に有意な差は認められなかった(図 5C, p=0.65)。
24
考察
腎細胞癌の早期発見ならびに手術技術の向上により、腎細胞癌の癌特異的 生存率は向上している。しかし、腎摘除術術後の CKD 発症、ひいては致死的 な心血管疾患の合併が腎細胞癌術後の全生存率に大きな影響を及ぼしている [62]。本来、腎細胞癌と腎機能障害は手術の有無にかかわらず密接に関連し ている [63]。これは正常な腎組織が癌に浸潤されていること、腎細胞癌の発 症年齢が比較的高齢であること、発症のリスク因子に高血圧や肥満などの生 活習慣病があることが挙げられている。Fox Chase Kidney Cancer Database の 1,114 例の腎悪性腫瘍手術施行例の術前腎機能において、既に 22%の症例 に CKD stageⅢ以上が合併し、さらに 70 歳以上が占める割合が 40%を占め ていたと報告されている [64]。GFR は年平均 0.9ml/分/1.73m
2低下し、年齢 が進むにつれて低下の度合いが増加するとされている [65, 66]。
今回、腎細胞癌患者において一般に術後腎機能低下を起こすリスクとして 知られている臨床所見について、術後 AKI と術後新規 CKD の発症を再検討し たが、両項目に共通する因子は術式であった。そのため、再度、術式毎に術 後腎機能を低下する因子を検討した。しかし、すべてに共通する項目は認め なかった。
術前に術後腎機能の予測が出来る因子の模索として、術前に一般に行われ
25
る CT から腎体積について検討した。そして、腎細胞癌の生存率を規定する術 後新規 CKD 発症について他の因子とあわせて、更に検討を加えた。
1.腎摘除術と腎機能障害
今回の検討において腎摘除術が施行された 117 例のうち 54 例(46%)が
AKI を発症し、術前 CKD のなかった 79 例中 35 例(60%)が新規 CKD を発症
した。“術前糖尿病”と“術前血清クレアチニン値”が AKI 発症の危険因子
となり、年齢は有意といえる値ではなかった。Patchan らは、糖尿病による
高血糖の持続は腎血管内皮傷害を術後早期に惹起し、術後 AKI の早期危険因
子となると報告しており、我々の結果と一致する[67]。しかし Cho らの報告
によると、腎摘除術後の AKI 発症の独立した因子として年齢と肥満が挙げら
れ、糖尿病は因子として認められなかった[68]。一方、新規 CKD 発症の危険
因子は“年齢”であった。腎摘除後の腎機能低下がおこる原因として、腎細
胞癌発症年齢が比較的高齢であること、腎機能障害と腎細胞癌の発生危険因
子が類似していることなどがあげられている [69]。前述の Cho らは腎摘除
後 AKI 発症例では非発症例と比べ術後 CKD 発症リスクが 4.24 倍上昇したが
[68]、我々の結果では、腎部分切除術後において同リスクは上昇していた。
26
2.腎部分切除と腎機能障害
腎部分切除 64 例中、AKI は 9 例(14%)が発症し、新規 CKD は術前 CKD の なかった 42 例中 9 例(21%)が発症し、腎摘除術施行例に比べ圧倒的に少な かった。“術前タンパク尿”が AKI 発症の有意な危険因子となった。“年齢”
と“術後 AKI 発症”が CKD 発症の有意な危険因子となり、血清クレアチニン は有意ではないがやや関連を認める結果となった。
Basile らによれば、AKI を誘発する急速な GFR の低下は一般的に腎血流量 の低下が関連していると考えられる。糸球体や尿細管などの炎症や、一過性 の虚血により AKI が発症するという。組織学的には間質の浮腫や、尿細管囲 の白血球の堆積が認められる。既に壊死した腎組織と亜致死状態になってい る腎組織が混在している状態が存在し、その後、亜致死状態になっている腎 組織の保護の成功の有無が、CKD 発症の大きな役割を担っていると考えられ ている [49]。腎部分切除の際にも、特に患側の腎臓は、疎血時間や手術侵襲 による腎組織の炎症が起こり亜致死状態を起こしていると考えられるため、
術後の腎保護療法の積極的な介入が必要である。
周術期の腎保護のため、Park らによれば、術中の血圧、循環血漿量、補液
の組成および術前のヘモグロビン値が特に重要と言われている [70]。また
その後の CKD の進展を防ぐため、生活習慣、食事療法(適度な水分、6g/日以
下の塩分、カリウムの豊富な食事の制限および 0.6-0.8g/kg/day のタンパク
27
制限)、高血圧管理、尿タンパク、糖尿病コントロール、脂質異常の改善、
貧血、骨・ミネラル代謝異常に対する治療、高尿酸血症、尿毒症毒素に対する 治療が重要である[71]。
3.術後予測腎体積を用いた CKD 発症予測モデルの確立
ネフロンは、腎細胞癌手術により総数が減り、手術侵襲により一過性また は完全に機能が低下する。そのため、腎細胞癌術後の腎機能の予測として、
術前の腎予備能と、術後残存ネフロン量が重要である[72]。腎機能をみるた めに一般的に行われる腎シンチグラフィーは施行コストが高く、放射性同位 元素を扱うため、特殊設備が必要である。そのため、腎摘除術前に腎シンチ グラフィーを行うことは一般的ではない。
一方で、CT で計測された腎体積が腎機能と相関するという報告がある。
Gong らは 539 の健常例を用いて CT で算出した腎体積と GFR の有意な相関を
示 し 、 さ ら に 加 齢 に 伴 い 腎 体 積 が 減 少 す る こ と を 報 告 し て い る [73] 。
Patankar らは腎移植術を対象とした検討で、ドナー腎において CT で測定した腎
体積と腎シンチグラフィーによる分腎機能に高い相関があることを見出している
[74]。近年 CT 検査の 3 次元(3D)再構成技術の出現と CT 検査の簡便性が向上し
たことにより、以前より正確な腎体積の測定が迅速に行えるようになった。そこ
28
で、腎細胞癌の手術の際に頻繁に行われる CT 検査から、腎体積ひいてはネフロン の総数を予測し、術後の腎機能の予測ができないか、術後予測腎体積から術後新 規 CKD 発症モデルの確立を試みた。検索し得た文献では、CT による腎体積測定 の有用性について報告は少なく、今回の研究対象である腎細胞癌症例ではまだ報 告がなされていない。
術後新規 CKD 発症予測モデルの作成を術後新規 CKD 発症の有無による重ロジス ティック回帰分析を用いて行った。まず、前述の解析で予測に有意と考えられた 因子群をステップワイズ法で抽出した結果、AKI、eGFR(84ml/s 未満)、予測術後 腎体積(240ml 未満)の 3 因子の組み合わせが最も有用であった(R square=0.31、
p=0.0001)。この 3 因子を組み合わせた術後新規 CKD 発症予測を目的とする重ロ ジスティック回帰モデルを表 10 に示す。続いて、術後新規 CKD 発症予測モデル に含まれる 3 因子の陽性数が 0:リスクなし 1:低リスク 2:中等度リスク 3:
高リスクと新たにリスク分類し、術後新規 CKD 発症を目的とする ROC 曲線を 検討し、AUC=0.81 とそれぞれ単独の因子に比べ有意に上昇を認めた(図 6A)。
さらに、術後 5 年以内の観察期間で CKD free survival 曲線を各因子と新 規 リ ス ク 分 類 を も と に 解 析 し た 。 eGFR (84ml/s 以 上 vs 84ml/s 未 満 、 p=0.0004、 図 6B)、予測術後腎体積(240ml 以上 vs 240ml 未満、 p=0.0012、
図 6C)、術後 AKI 発症の有無(p=0.0092、 図 6D)と各因子で有意に CKD 発症
29
予後に影響を与えているのに加え、我々の示した新リスク分類に比例して予 後不良になった(図 6E)。
今回我々の検討においては、予測術後腎体積 240ml 未満が一つの CKD 発症の予 測因子になりうることを示した。加えて、それぞれの術式群内から見出した術後 新規 CKD 発症の危険因子を示した。これら3要素をもちいて、術後新規 CKD 発症 予測モデルを作成した。これら3要素がそろえば、1 年以内に CKD になる可能性 が高いことも予想できた。
術後腎機能の予想のために、腎シンチグラフィーや病理学的にネフロンの 数などを日常的に観察することは困難である。周術期に一般的に施行されている CT を利用し、術後 CKD のリスク評価が出来るということは、非常に有用で簡便で ある。
本研究は、単一施設の限られた症例で行ったので今後さらに症例数を増やして
検討することが必要と考える。また、今後、残存ネフロンの質的予測を手術検体
非癌部の病理学的検索で検討を行う必要がある。
30
結語
腎細胞癌手術後の慢性腎臓病発症予測因子として、術後 AKI の有無、eGFR 84ml/s 未満、予測術後腎体積 240ml 未満が示唆され、今回新たな CKD 発症 予測ができる新規リスク分類を提唱した。ハイリスク症例については術後、
早期より腎保護治療を積極的に行う必要がある。
31
謝辞
本研究の機会を与えてくださり、終始親身なご指導を頂きました日本大学医学 部泌尿器科学系泌尿器科学分野 主任教授 髙橋悟博士に謹んで感謝の意を表しま す。また研究を行うに当たり親身なご指導、貴重なご意見を賜りました、日本大 学医学部放射線医学系放射線医学分野 准教授 前林俊也博士、日本大学医学部病 態病理学系形態機能病理分野 診療准教授 楠見嘉晃博士、主任教授 杉谷雅彦博 士に心から感謝申し上げます。各種解析の際に貴重なご助言をいただいた、日本 大学医学部附属板橋病院中央放射線部、日本大学医学部附属板橋病院病理診断 科・病理部のスタッフの皆様に深く感謝申し上げます。
本研究をまとめるに当たり貴重なご助言頂きました、日本大学医学部泌尿器科
学系泌尿器科学分野 助教 大日方大亮博士、准教授 山口健哉博士に甚謝致しま
す。最後に、物心両面に渡り援助をいただいた両親、妻子に感謝致します。
32
表
表 1. 切除不能腎細胞癌に対する薬物治療
一次治療 淡明細胞*
* MSKCC リ ス ク
分 類 に 基 づ く
Low risk および
Intermediate risk
Sunitinib, Pazopanib, IFNα
High risk Sunitinib, Temsirolimus
非淡明細胞 Sunitinib, Temsirolimus
二次治療 TKI 使用後 Axitinib, Nivolumab
,
Everolimus, Sorafenib
サイトカイン療法後 Axitinib, Sorafenib,
Sunitinib, Pazopanib
mTOR 阻害剤使用後 Clinical trial
三次療法 TKI2剤使用後 Nivolumab
(
Everolimus)TKI/mTOR 阻害剤使用後 Sorafenib, Axitinib,
Sunitinib, Pazopanib
その他 Clinical trial
日本泌尿器科学会(編).腎癌診療ガイドライン2017年版.
33
表 2. MSKCC によるリスク分類[75]
Karnofsky PS<80%
LDH≧正常上限値の 1.5 倍 補正カルシウム値≧10mg/dl Hb<正常下限値
診断から治療開始まで 1 年未満
0項目で low risk、1-2項目で intermediate risk、3 項目以上で high risk
日本泌尿器科学会(編).腎癌診療ガイドライン2017年版.
34
表 3.RIFLE 分類[50]
糸球体濾過量(GFR) 基準 尿量基準 Risk
血清クレアチニンが基準値の 1.5 倍以上
もしくは GFR 低下 >25%
0.5 ml/kg/h 未満が 6 時間以上継続
Injury
血清クレアチニンが基準値の 2 倍以上
もしくは GFR 低下>50%
0.5 ml/kg/h 未満が 12 時間以上継続
Failure
血清クレアチニンが基準値の 3 倍以上
もしくは GFR 低下>75%
もしくは血清クレアチニン 0.5mg/dl
以上の急性上昇を伴う≧4 mg/dl
0.3 ml/kg/h 未満が 24 時間以上継続
もしくは 12 時間以上の無尿
Loss 持続する急性腎不全(腎機能の完全喪失)4 週間以上 ESKD 末期腎不全(3 か月以上の透析依存)
ESKD: End stage kidney disease
35
表 4. AKIN 分類[53]
定義
1.血清クレアチニンが 48 時間以内に 0.3mg/dl 以上増加 2.血清クレアチニン基礎値から 48 時間以内に 1.5 倍上昇 3. 尿量 0.5ml/kg/h 以下が 6 時間以上持続
血清クレアチニン基準 尿量基準
Stage1
血清クレアチニン>0.3mg/dl もしくは 1.5-2.0 倍上昇
0.5 ml/kg/h 未満 が 6 時間以上継続 Stage2 血清クレアチニン 2.0-3.0 倍上昇 0.5 ml/kg/h 未満が 12 時間以上継続
Stage3
血清クレアチニン 3.0 倍上昇 もしくは 4.0mg/dl 以上上昇
もしくは腎代替療法開始
0.3 ml/kg/h 未満が 24 時間以上継続 もしくは 12 時間以上の無尿
定義 1-3 の一つを満たせは AKI と診断する。尿量のみで診断する際は、尿路閉塞や容
易に回復可能な乏尿は除外され、体液量が適切に是正された条件で診断基準を用いる。
36
表 5: Patient characteristics at baseline (n = 181) (%)
Age at surgery 62.69 ± 12.02
Male 132
Female 49
DM 44 (24.3)
Preoperative proteinuria 63 (34.8) Preoperative serum Cr 1.05 ± 1.21 Surgical technique
Open surgery 127 (70.1)
Laparoscopic surgery 54 (29.7) Surgical procedure
Radical nephrectomy 117 (64.6) Partial nephrectomy 64 (35.3) Histological type
Clear cell 158 (87.2)
Papillary 12 (6.6)
Chromophobe 1 (0.5)
Granular 6 (3.3)
Spindle 3 (1.6)
Oncocytoma 1 (0.5)
Pathological T stage
1 134 (74)
2 15 (8.5)
3 31 (17.5)
4 1 (0.5)
Pathoological N stage
N0 169 (92.1)
N1 12 (6.9)
Pathoological M stage
M0 162 (90)
M1 19 (10)
37
表 6; Association of postoperative AKI and clinicopathological findings (n = 181) (%) AKI
Negative (n = 118) Positive (n = 63) p value Age at surgery 61.91 ± 12.26 64.15 ±11.52 0.22 Gender
Male 82 50 0.14
Female 36 13
DM 22 (18.64) 22 (34.92) 0.016
Preoperative proteinuria 48 (40.6) 15 (23.8) 0.06 Preoperative serum Cr 1.13 ± 1.4 0.91 ± 0.72 0.16 Surgical technique
Open 84 (71.1) 42(66.6) 0.45
Laparoscopic 33 (27.9) 21(33.3)
Radical 63(53.3) 54(85.7) <0.0001
Partial 55(46.4) 9(14.2) Histological type
Clear cell 103 55 0.09
Papillary 9 3
Chromophobe 1 0
Granular 1 5
Spindle 3 0
Oncocytoma 1 0
Pathological T stage
1 86 48 0.17
2 8 7
3 24 7
4 0 1
Pathological N stage
N0 112 57 0.25
N1 6 6
Pathological M stage
M0 108 10 0.23
M1 54 9
AKI:acute kidney injury
38
表 7; Association of CKD and clinicopathological findings (n = 121) (%)
Novel CKD
Negative (n = 64) Positive (n = 57) p value
Age 57.21 ± 12.00 64.52 ±10.71 0.0006
Gender
Male 45 43 0.52
Female 19 14
DM 16 (25.0) 16 (28.0) 0.70
Preoperative proteinuria 9 (14.0) 7 (12.2) 0.56 Preoperative serum Cr 0.72 ± 0.15 0.75 ± 0.24 0.51 Surgical technique
Open 45(70.3) 35(61.4) 0.30
Laparoscopic 19(29.6) 22 (38.5)
Radical 31(48.4) 48(84.2) <0.0001
Partial 33(51.5) 9(15.7)
Perioperative AKI 18 (28.1) 31 (54.3) 0.0032
CKD: chronic kidney disease
39
表 8 Subgroup analysis for postoperative AKI after surgery
Radical nephrectomy (%) Partial nephrectomy (%)
Postoperative AKI
Negative (n = 63)
Positive
(n = 54) p value Negative (n = 55)
Positive
(n = 9) p value Age 61.8 ± 11.5 64.7 ± 11.6 0.18 61.9 ± 13.1 60.6 ± 10.5 0.75
DM 9 (14.2) 18 (33.3) 0.014 13 (23.6) 4 (44.4) 0.2
Preoperative
proteinuria 11 (18.0) 12 (22.2) 0.57 4 (7.27) 3 (33.3) 0.04 Pre sCr (mg/dl) 1.32 ± 1.87 0.81 ± 0.35 0.036 0.91 ± 0.34 1.49 ± 1.68 0.33
AKI: acute kidney injury, Pre sCr; Preoperative serum creatinine level (mg/dl)
40 表 9 Subgroup analysis for novel CKD after surgery
Radical nephrectomy (%) Partial nephrectomy (%)
Novel CKD
Negative (n = 31)
Positive
(n = 48) p value Negative (n = 33)
Positive
(n = 9) p value Age 55.4 ± 11.7 63.8 ± 10.7 0.002 58.9 ± 12.18 68.0 ± 10.19 0.038
DM 10 (32.2) 12 (25.0) 0.48 6 (18.1) 4 (44.4) 0.1
Preoperative
proteinuria 7 (22.5) 6 (12.5) 0.24 2 (6.0) 1 (11.1) 0.61 Pre sCr 0.70 ± 0.18 0.73 ± 0.25 0.53 0.74 ± 0.13 0.84 ± 0.10 0.06 Postoperative AKI 16 (51.6) 27 (56.2) 0.68 2 (6.0) 4 (44.4) 0.0082
Pre sCr; Preoperative serum creatinine level (mg/dl)
41
表 10 Multiple logistic regression model with three explanatory variables
Novel CKD Estimate Standard Error Wald Chi Square P value Odds ratio 95%CI
Intercept 0.81 0.31 - - - -
AKIN 1.15 0.34 11.32 0.0008 10.09 2.96 – 47.42
After Kidney size <240 0.82 0.25 10.38 0.0013 5.24 1.97 – 15.05
eGFR < 84 1.57 0.40 14.98 0.0001 23.15 5.46 – 138.45
42
図および図の説明
図1
腎・尿路(膀胱除く) 罹患率(全国推計値)の年次推移
人口動態統計(厚生労働省大臣官房統計情報編)[1]。
0 5 10 15 20 25 30
1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010
罹患率(人口10万人対)
男性 女性 人数
年
43
図2
腎・尿路(膀胱除く) 死亡率(全国推計値)の年次推移
人口動態統計(厚生労働省大臣官房統計情報編)[3]。
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010
死亡率(人口10万人対)
男性 女性 人数
年
44
図 3
代表的な腎正常体積の測定方法を示す。CT 画像をもとに3D 構築後、測定範囲
を ZAIOSTATION2で抽出(A および B の赤色部分)し、腎体積として算出してい
る。予測術後腎体積を評価する際は根治的腎摘除術では健側腎(C)を、腎部分
切除術では腫瘍を除いた体積を測定している(D)(n=138)。
45
図 4
術前(A)、術後 6 ヶ月(B)、12 ヶ月(C)、36 ヶ月(D)、60 ヶ月(E)の eGFR と予測
術後腎体積の分布を示す。図内のドットは各症例を、赤線は近似線を示してい
る。術後予測腎体積と eGFR がそれぞれ正の相関を認めた (n=138)。
46
図 5
術後 CKD 新規発症を目的とした予測術後腎体積(A)ならびに eGFR(B)の ROC カ
ーブを示す(n=105)。両群の ROC 曲線下面積を比較したが有意差は認められなか
った(C)。
47
図 6
(陽性因子数 0:リスクなし、1:low risk、2:intermediate risk、3:high risk)
術後新規
CKD発症を目的とした各因子ならびに新規リスク分類による
ROC曲線ならびに
AUCを示す
(p value vs.新規リスク分類
)(A)。新規
CKDリスク分 類は単独の因子と比較し有意に
ROC曲線下面積が大きかった。
eGFR(B)、予測 術後腎体積
(C)、
AKI(D)ならびに新規リスク分類
(E)で群分けした
CKD freesurvival
曲線を示す。それぞれの因子は
CKDの発症に有意な影響を与えてお
り、さらにリスクに比例して予後が有意に不良になった。
48
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