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公立小学校 における校 内研究主題の変遷

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三重大学教育学部 附属教育実践総合 セ ンター紀要 2 0 0 9 , 第 2 9 号, 6 9‑ 7 4 頁

公立小学校 における校 内研究主題の変遷

岡 野 昇 *

本稿 では、公立小学校 における校 内研究主題を手かか りに、その使用キー ワー ドか ら学習論 を、文末表記か ら 発達観 を読 み取 り、 その変遷を明 らかにす る基礎的資料 を収集 し、それに基づ きなが ら、現状 の校 内研究の取 り 組みに対す る問題を浮 き彫 りにす ることを 目的 と した。

平成

13

年度か ら平成

20

年度 までの四 日市市立小学校 お ける校 内研究主題を対象 に調査 した結果、平成

13

年 度か ら平成

16

年度 までは、「自ら 」 「 主体的に 」 「 意欲的に」 をキー ワー ドとす る認知主義が最 も多 く、約

4

割 の 学校 で 占め られていたが、平成 1 7 年度を境 に、「 学 び合 う 」 「伝え合 う」 な どをキー ワー ドとす る状況主義、認 知主義、「 身 につ ける 」 「定着」 な どをキー ワー ドとす る行動主義 の順 に変化 し、特 に平成

19

年度か らは、約半 数 の学校が状況主義 で占め られていることが明 らか にな った。

また、平成

16

年度を境 に 「 子 どもの育成 」 「 子 どもを育て る」 な どの文末表記 による個体定着指向がやや減少 傾 向に転 じつつあ り、「 授業の創造 」 「 授業づ くり」 な どの文末表記 による意味生成指向がやや上昇 しつつある も のの、 いずれの年度 も個体定着指向が意味生成指向を大 き く上回 ってお り、個体定着指向は約 4 分の 3 の学校 に よ って、意味生成指向は約

4

分の

1

の学校 によって 占め られていることが明 らかにな った。

さ らには、 四 日市市立小学校 における校 内研究主題 か ら読 み取 ることがで きる学習論 ( 状況主義) と発達観 ( 個体定着指 向) のね じれ は、パ ラダイムのね じれであ り、実質 的 ・本質的な校 内研究が展開 されていない こと の現れ と推察 された。

キー ワー ド:校 内研究主題、公立小学校、学習論、発達観

1 . は じめに

最近 の小学校教育現場 で は、「学 び合 い」 や 「 伝 え合 う」 といった相互交流を重視 した 「 かかわ り」をキーワー ドとす る校 内研究が多 くな ってきているように感 じられ る

これ は、平成 1 7 年度 か ら新 たに開始 された 「伝 え 合 う力 を養 う調査研究事業 ( 文部科学省)

」 l'

や経済開発 協力機構 ( OECD) の学習到達度調査 ( PI SA) によ っ て示 された 「 世界一」 の教育水準を達成 したフィンラ ン ドの授業 と学 びの様式

2'

における影響 によるもの と考 え られ る

しか しなが ら、 こうした教育行政や教育事情 の 動 向にの りなが ら、安易 に校 内研究主題のキー ワー ドを 変更 したのであれば、それは重大な問題 になるであろう。

なぜな ら、「かかわ り」 を意味す るキー ワー ドの台頭 は、

それまで とは異 な る学習論 や発達観 を背景 に持つ もの と 考 え られ るか らである

本 山は、 市川 ( 1 9 9 5 ) や九野 ( 1 9 9 8 ) 、佐伯 ( 1 9 9 8 ) の研究を踏 まえなが ら、 「 『学習』 をどうとらえるのか、 と いう問題 については、三つの立場か ら研究が進められてき た 」 ( 1 9 9 9 、 p. 1 01 ) と述べ、次のように整理 している

一つ には、行動主義 の学習論で、刺激 と反応 の連 合が条件 によ って強 くなることを学習 とみなす。人 間の行動を刺激 との因果関係で説明す る。二つには、

*三重大学

認知主義 の学習論で、個体 による知識獲得 を学習 と す る

頭 の中にある表象 とその操作 を情報処理 モデ ル と して説明す る

三つ には、状況的学習論 で、他 者 や人工物 とい った社会的文化的状況 と結 びつ いて 引き起 こされてお り、 ことばや記号 は有効 に利用 さ れ る文脈 をはなれて活用 されない ( 1 9 9 9 、 p. 1 01 ) 。

つ ま り、「かかわ り」 をキー ワー ドとす る学習論 は、

「行動主義 や認知主義 に基づ く操作 的な学習観 か ら、状 況的学習論 のように子 どもの社会的環境 との関わ りをみ てい く臨床的な学習観への移行 」 ( 本 山、 1 9 9 9 、 p. 1 01 ) の現 れ と読 み解 くことが求め られ るであろう。

一 方 の発 達 観 につ いて、 松 田 ・島 崎 は、 ピア ジ ェ ( Je anPi age t ) ゃ ワロン ( He nr iW al l o n) の所論 や浜 田 ( 1 9 9 3 ) の見解 に依拠 しなが ら、次のように整理 している。

ピア ジェ‑ワロ ンによって交 された議論 が、 「子 どもの存在を個的、実体的な もの として見 るか、社 会 的、 関係 的 な もの と して見 るか 」 「発 達 を能 力 ( 認識) の問題 と捉え るのか、生活 ( 意味) の問題 と捉え るのか」 とい う 2 軸 をめ ぐって、両者 の発達 観 の相違 を浮 き彫 りに した点であ る

この ことか ら す ると、両者 の発達観 は次のよ うに図示す ることが で きる ( 図 1 )

ここで 「 個 一能力」 か ら発達 を捉 え るピア ジェの立場 を 「 個体定着指向的発達観」 と 呼ぶ とす ると、 「関係性 一生活」 か ら発達 を捉 え る

‑ 6 9‑

(2)

能力 ( 認識)重視 ピアジェの立場

3 体定着指向的発達観

視 関係性重視

生活 ( 意味)重視

図 1 発達観の構造 ( 松田 ・島崎、 1 9 9 7 、 p. 3 0 )

ワロンの立場を 「 意味生成指向的発達観」 と呼ぶ こ とができよう ( 松 田 ・島崎、 1 997 、 p. 3 0) 。

すなわち、発達観 において も 「かかわ り」のキー ワー ドが意味す るところは、個 の重視 とともに能力あるいは 認識 の重視 に特徴づ け られ る 「 個体定着指向的発達観」

か ら、関係性の重視 とともに生活あるいは意味の重視 に 特徴づけられ る 「 生活 ( 意味)生成指向的発達観」への 転換 と解釈 され ることが求め られ よう。

そ こで本研究では、公立小学校 における校内研究主題 を取 り上 げ、その使用 キー ワー ドか ら学習論を、そ して 文末表記か ら発達観を読 み取 り、その変遷を明 らかにす る基礎的資料を収集 し、それに基づ きなが ら、現状の校 内研究の取 り組みに対す る問題 を浮 き彫 りにす ることを 目的 とす る。

2. 方 法

2 .1 校内研究主題 について

本研究では、平成 1 3 年度か ら平成 2 0 年度 までの四 日 市市立小学校 における校 内研究主題 を対象 に調査を行 っ た。 対象校 は、 平成 1 3 年度 か ら平成 1 5 年度 までは全 3 9 校、平成 1 6 年度以降 は全 40 校 である。校 内研究主 題 は、 四 日市市教育委員会 ホームペー ジ、『四 日市市学 校数育 自書』な どに掲載 されているものか ら収集 した。

2 .2 使用キー ワー ドと学習論

校 内研究主題 に使用 されているキー ワー ドは、学習論 の観点か ら次のように分類 を行 った。

第一 に、「 身 につ ける 」 「 定着」 な どのキーワー ドは、

「 行動主義的な因果論 に立 ち、教授‑学習過程 は教師 に よる統制の もとで進む 」 ( 本 山、 1 999 、 p. 1 02 ) 言葉 とし て連想 され るため 「 行動主義」 と位置づけた。

第二 に、「自ら 」 「 主体的に 」 「 意欲的に」の三つのキー ワー ドは、子 どもを課題解決のための学習者 として位置 づ け、学習者 と学習課題 との対話的プロセスにおいて、

知識 を獲得 してい く学習を連想 させ る言葉であることか ら、「 認知主義」 と位置づ けた。

第三 に、「 学 び合 う 」 「 伝え合 う」などのキーワー ドは、

「 個体 間 に共通 の道筋をた どることを前提 に行動 や認知 を操作 し変容 させた結果ではな く 」 ( 本山、 1 999 、 p. 1 02) 、

「 学習者が他者 とのかかわ りのある多様 な活動 を通 して、

意味 を構成 してい く社会的行為である 」 ( 広石、 2005 、 p.2) と見立 ててい く学習を連想 させ る言葉であ ること か ら 「 状況主義」 と位置づけた。

2 .3 文末表記 と発達観

校 内研究主題 の文末表記 に着 目し、発達観の観点か ら 次 のように分類 を行 った。

第一 に、「 子 どもの育成 」 「 子 どもを育て る」 な どの文 末表記 は、「 非社会的存在 としての子 どもの社会化 」 ( 松 田 ・島崎、 1 997 、 p.29) を連想 させ る言葉 で あ ること か ら、「 個体定着指向」 と位置づけた。

第二 に、「 授業の創造 」 「 授業づ くり」 な どの文末表記 は、「 社会的存在 としての子 どもの個性化 」 ( 松 田 ・島崎、

1 997 、 p.29) を連想 させ る言葉であることか ら、 「意味 生成指向」 と位置づけた。

3. 結 果

3 .1 使用キー ワー ドと学習論

校 内研究主題 に使用 されているキーワー ドについて、

学習論の観点か ら分類を行 った結果は次の通 りである。

行 動主 義 を背景 とす るキー ワー ドを整理 した ものが 表 1 である

「身 に付 ( つ) け」が最 も多 くのベ 43 件で あ り、ついで、「 定着」 がのベ 9 件、「 育成 ・育てる」 が のベ 5 件である

認知主義 を背景 とす るキーワー ドを整 理 した ものが表 2 である

「自ら」 が最 も多 くのベ 64 件 であ り、ついで、「 主体的に」がのベ 36 件、「 意欲的に」

がのベ 1 7 件である

状況主義を背景 とするキーワー ドを 整理 した ものが表 3 である。「 高め合 ( あ) う」が最 も多 くのベ 42 件であり、ついで 「 学び合 ( あ) う」がのベ 41 件、「 伝え合 ( あ) う ・伝え合い」がのベ 1 6 件である。

表 4 と図 2 は、学習論の変遷を整理 した ものである。

平成 1 3 年度か ら平成 1 6 年度 までは、認知主義が最 も多 く、約 4 割の学校で占め られている。ついで、状況主義、

行動主義の順である

その順位 は、平成 1 7 年度 を境 に、

状況主義、認知主義、行動主義の順 に変化 している

特 に平成 1 9 年度か らは、約半数 の学校が状況主義 で 占め られている。

3 .2 文末表記 と発達観

校 内研究主題 の文末表記 に着 目し、発達観の観点か ら 分類 を行 った結果は次の通 りである。

個体定着指向を背景 とす るキーワー ドを整理 した もの

が表 5 である

「子 ども ( 子) の育成 ・児童 の育成 ・子

どもたちの育成」が最 も多 くのベ 11 0 件であ り、ついで、

(3)

公立小学校 における校 内研究主題 の変遷

表 1 行動主義 を背景 とす るキー ワー ド

H 1 3 H 1 4 H 1 5 H 1 6 H 1 7 H 1 8 H 1 9 H 2 0 計

確 かな学力 を身 につ け 2 1 2 4 5 5 5 2 4

国際感覚 を身 に付 ( つ) けた 1 1 1 1 1 1 1 1 8

確 かな力 を身 につ け 1 1 1 1 1 5

確 かな言葉 の ( 力 の)基礎 を身 に付 ( つ) け 1 1 1 3

学 び方 を身 に付 け 1 1

伝 え る力 を身 につ け 1 1

人権尊重 の精神 を身 につ け 1 1

学力の定着 1 1 1 1 1 1 6

基礎 .基本 の定着 1 1 1 3

基礎 .基本 の確 かな育成 1 1 1 3

確 かな学力 の育 成 1 1

確 かな学力 を育 て る 1 1

確 かな学力 を もった 1 1 1 3

計 3 5 6 9 1 1 1 0 8 8 60

*実数 はのべ数

表 2 認知主義 を背景 とす るキー ワー ド

H 1 3 H 1 4 H 1 5 H 1 6 H 1 7 H 1 8 H 1 9 H 2 0 計 自 ら ( 学 び、進 んで、考 え、課題 を) 1 4 11 11 8 6 5 5 4 6 4 主体的 に ( 学ぶ、 活動 し、取 り組 む、学 び合 って) 6 7 5 5 4 3 3 3 3 6

意欲的 に ( 取 り組 む) 1 1 3 3 3 3 2 1 1 7

*実数 はのべ数

表 3 状況主義 を背景 とす るキー ワー ド

H 1 3 H 1 4 H 1 5 H 1 6 H 1 7 H 1 8 H 1 9 H 2 0 計

高 め合 (あ) う 4 4 3 6 7 6 6 6 42

学 び合 (あ) う 4 6 3 3 4 5 6 1 0 41

伝 え合 (あ) う .伝 え合 い 1 1 3 4 5 2 1 6

語 め合 (あ) う .認 め合 い 2 3 1 1 2 2 1 1 1 3

関 ( かか) わ り合 う 2 2 1 2 2 9

コ ミュニケ‑ シ ヨン 1 3 3 2 9

支 え合 い 1 1 2 1 1 6

尊重 しあ う 1 1 1 1 1 5

つ なが り合 う l l 2

話 し合 い l l 2

協力 し合 う l l 2

ひびき合 う 1 1

聴 き合 い 1 1

考 え合 う 1 1

*実数 はのべ数

‑ 71‑

(4)

4 学習論の変遷

H 1 3 H 1 4 H 1 5 H 1 6 H 1 7 H 1 8 H 1 9 H 2 0

行動主義 3 5 6 9 11 1 0 8 8 60

( 3) ( 5) ( 6) ( 9) (l

l )

(1

0 )

( 8) ( 8) ( 60)

認知主義 1 7 1 7 1 6 1 4 1 2 1 0 9 8 1 03

( 21 ) (1 9) (1 9) (1 6) (1 3)

(ll )

(1 0) ( 8) (11 7)

状 況主義 8 11 9 1 3 1 5 1 8 21 22 11 7

(1 0) (1 5) (1 2) (1 7 ) ( 21 ) ( 2 4) ( 25) ( 2 6) (1 5 0)

*実数 は学校数、 ( ) 内数 はのべ数

表 5 個体定着指 向を背景 とす るキー ワー ド

H 1 3 H 1 4 H 1 5 H 1 6 H 1 7 H 1 8 H 1 9 H 2 0 計 子 ども ( 子)の育成 .児童 の育 成 .子 どもたちの育 成 1 0 1 2 1 3 1 4 1 4 1 5 1 6 1 6 11 0

子 ども ( 子) を育 て る 11 1 1 1 2 9 7 5 4 4 63

子 ( 子 ど も).子 をめ ざ して .子 ど もの姿 を求 めて 8 8 5 6 7 6 5 6 51

力 を育 て る .力 を高 め よ う 1 1 1 2 3 1 9

身 につ け させ る .定着 を 目指 して 2 2 2 6

定着 を図 る学習指導 1 1 1 1 1 1 6

基礎 .基本 の確 か な育 成 1 1 1 3

か らだ育 て l l 2

*実数 はのべ数 表 6 意 味生成指 向を背景 とす るキー ワー ド

H 1 3 H 1 4 H 1 5 H 1 6 H 1 7 H 1 8 H 1 9 H 2 0 計

授 業 の創造 4 4 2 2 3 3 4 3 25

授 業 (をめ ざ して) 1 1 1 1 1 2 2 2 ll

授 業づ くり (をめ ざ して) 1 1 3 5

授 業 1 00% 1 1 1 1 4

学 びの追 究 1 1 1 1 4

学習 の創造 2 1 1 4

道徳教育 1 1 1 3

集 団の育 成 1 1 1 3

つ なが る心 .つ なが る仲 間 l l 2

人 とと もに育 つ l l 2

学習 1 1

活動

1 1

学校づ くり 1 1

学 ぼ う .見つ けよ う .つ たえ よ う 1 1

*実数 はのべ数

「 子 ども ( 子) を育て る」がのベ 63 件、「 子 ( 子 ども)・

子 をめざ して ・子 どもの姿 を求 めて」 がのベ 51 件 であ る

意味生成指向を背景 とす るキー ワー ドを整理 した も のが表 6 である。「 授業の創造」が最 も多 くのベ 25 件で あ り、ついで、「 授業 ( をめざ して)」がのベ 11 件、「 授 業づ くり ( をめざして) 」がのベ 5 件である

表 7と図 3 は、発達観の変遷を整理 したものである。

平成 1 6 年度を境 に個体定着指向がやや減少傾向に転 じつ

つあり、意味生成指向がやや上昇 しつつあるものの、いず

れの年度 も個体定着指向が意味生成指向を大きく上 回 っ

ている。個体定着指 向は約 4 分の 3 の学校 によって、意

味生成指向は約 4 分の 1 の学校 によって占められている。

(5)

公立小学校 における校内研究主題 の変遷

表 7 発達観 の変遷

H 1 3 H 1 4 H 1 5 H 1 6 H 1 7 H 1 8 H 1 9 H 2 0 計

個体定着指 向 2 9 32 3 4 35 32 31 2 9 28 25 0

( 2 9) ( 32) ( 3 4) ( 35) ( 32) ( 31 ) ( 2 9) ( 2 8) ( 25 0)

意味生成指向 1 0 7 5 5 8 9 11 1 2 67

*実数 は学校数、 ( )内数 はのべ数 学校数

H 1 3 日 1 4 日 1 5 日1 6 日1 7 日1 8 日1 9 日 2 0

ー 行動主義 ‑‑壬======認知主義 ‑‑主〒‑状況主義

図 2 学習論 の変遷

年度

4. 考 察

平成 1 7 年度 頃か ら、状況主義 の学習論 が台頭 して き ているが、意味生成指向の発達観が伸 び悩みを見せてい ることが、調査結果よ り明 らかにな った。 このことは、

同 じ関係論的視点に立つ状況主義の学習論 と意味生成指 向の発達観の歩調があ っていないことを意味 し、現状 は 関係論的視点 に立つ学習論 と実体論的視点 に立つ発達観 がね じれ現象の中にあるもの と見 ることができよう。

この ことは例えば、「 一人一人 を大切 にす る教育」 と

「一人一人が大切 にされ る教育」 とは、根源的にパ ラダ イムが異 なるため、それを融合す ることは認識論的には 問題 とな るとい う見方 と同 じである

「 一人一人 を大切 にす る教育」 は文字通 り、 「 一人一人 を大切 にす る」 と い う個 を重視す る発達観 ( 個体定着指 向) であ り、「 一 人一人 を」 という個を対象 に し、個を変え ることを前提 とした教育が展開され る学習論 ( 行動主義 ・認知主義) にパ ラダイム (ここでは、実体論的パ ラダイムと呼ぶ こ とにす る) があるといえよ う。 また、「一人一人が大切 にされ る教育」 とは、「 一人一人 が大切 にされ る」 とい う関係 ( 学級、授業な ど)を重視す る発達観 ( 意味生成 指 向) であ り、「 一人一人が大切 にされ る」 とい う関係 を対象 に し、その関係を変え ることによって個の変容を 促 そ うとす る教育が展開 され る学習論 ( 状況主義) にパ ラダイム (ここでは、関係論的パ ラダイムと呼ぶ ことに

学校数

H1 3 日1 4 日

15 16 日

17

日18

19

日20 一一 ・ ・ ・ 個体 定着 ー 意味生成

図 3 発達観 の変遷

年度

す る)があると解釈 されよう

また、教師が一人 の子 どもにかかわる場合 も、実体論 的パ ラダイムに立てば、 その子 ども自身を変えようとす るかかわ り方 とな り、関係論的パ ラダイムに立てば、 そ の子 どもへの働 きか けを通 してある関係を変えよ うとす るかかわ り方 になるであろう。

さらには、 「問題」 の とらえ方 も同様である

実体論 的パ ラダイムに立てば、 「問題」 は解決 され るべ き対象 とな り、「問題」 のない学校や学級、「問題」のない子 ど もが、 よい学校 ・よい学級 ・よい子 どもということにな ろう

しか し、 関係論 的パ ラダイムに立てば、 「問題」

は共有 され るべ き事態 とな り、「問題」 と向き合 い、語 り合 い、合意形成 してい くことのできる学校や学級、子 どもどうしの関係が、 よい学校 ・よい学級 ・よい子 ども 関係 ということになろう

前者 に立 って考えると 「問題」

は、 トラブルであ り、失敗であ り、「 厄介な もの」 として 位置づ くが、後者 に立てば 「問題」 は、たちまち 「成長 を促す出来事」 に見えて くる。 なぜな ら、一つ一つの理 を紐解 いて くれ、 その意味を浮 き上が らせて くれ、人間 の成長を促 して くれるか らである

しか しなが ら、「トラ ブルや失敗の尊重」 は容易ではない。行動 に移す となる と膨大なエネルギーと時間が求め られるか らである。

ここで、 いまの学校が どのようにこれ らのことに対応 しているかに言及 したいわけではな く、パ ラダイムが異 なるだけで、授業づ くりや学級づ くりや子 どもへのかか

(6)

わ り方、 あ るいは、 「問題」 の解 釈 な どが全 く異 な って くる ことを強調 した いのであ る。 つ ま り、例 え ば 「学 び 合 う子 ど もの育成」 とい う表記 は認識論 的 に誤 りであ り、

正 し くは 「学 び合 う関係 ( 授業 ・学級) づ くり」 と表記 され な ければな らないだ ろ う。

以 上 の点か ら、最近 の四 日市市立小 学校 にお け る校 内 研 究主題 か ら読 み取 ることがで き る学習論 ( 状況主義) と発達観 ( 個体定着 指 向) のね じれ は、パ ラダイムのね じれ で あ り、実質 的 ・本質 的な校 内研究 が展 開 されて い な い ことの現 れ と推察す ることがで き る

5. おわ りに

本稿 で は、公立小学校 にお ける校 内研 究主題 を手 かか りに、 その使用 キー ワー ドか ら学習論 を、文末表記 か ら 発達 観 を読 み取 り、 その変遷 を明 らか にす る基礎 的資料 を収 集 し、 それ に基づ きなが ら、現状 の校 内研究 の取 り 組 み に対す る問題 を浮 き彫 りにす ることを 目的 と して き

平 成 1 3 年度 か ら平成 2 0 年度 までの四 日市市立小学校 にお け る校 内研 究主 題 を対 象 に調 査 した結 果、 平 成 1 3 年度 か ら平成 1 6 年度 まで は、「自 ら 」 「 主体 的 に 」 「意欲 的 に」 をキー ワー ドとす る認知主義 が最 も多 く、約 4 割 の学校 で 占め られて いたが、平成 1 7 年度 を境 に、 「学 び 合 う 」 「伝 え合 う」 な どを キー ワー ドとす る状 況主 義 、 認知 主義、「身 につ ける 」 「定着」 な どをキー ワー ドとす る行 動主 義 の順 に変化 し、 特 に平 成 1 9 年度 か らは、 約 半数 の学校 が状況主義 で 占め られて い ることが明 らか に な った。

また、平成 1 6 年度 を境 に 「子 ど もの育成 」 「子 ど もを 育 て る」 な どの文末表記 による個体定着指 向がやや減少 傾 向 に転 じつつ あ り、 「 授業 の創造 」 「授業 づ くり」 な ど の文 末表記 によ る意 味生成指 向がやや上昇 しつつ あ る も のの、 いずれ の年度 も個体定着指 向が意 味生 成指 向を大 き く上 回 って お り、個体定着指 向 は約 4 分 の 3 の学校 に よ って、意 味生成指 向 は約 4 分 の 1 の学校 によ って 占め られ て い ることが明 らか にな った。

さ らには、 四 日市市立小学校 にお け る校 内研究主題 か ら読 み取 る こ とが で き る学 習 論 ( 状 況主 義 ) と発 達 観 ( 個 体 定着 指 向) のね じれ は、 パ ラダ イ ムのね じれ で あ り、 実質 的 ・本質 的 な校 内研究 が展 開 されて いない こと の現 れで あ る と推察 された。

しか しなが ら本研究 は、校 内研究主題 のみか らの整理 と考 察 で あ り、 四 日市市 内の各小学校 が取 り組 む校 内研 修 の 内実 を調査 した もので はない。 したが って、本稿 に よ る整理 や考察 は、 あ くまで も限定版 と しての‑ 柴料 で あ る ことをお断 りしてお きたい。 各小 学校 にお け る校 内 研 修 の内容 的検討 を加 えた考察 は今 後 の課題 と した い。

1 ) 「学校教育 の様 々な機 会 を通 じて、 お互 いの考 えや 気持 ちを伝 え合 う力 を高 め、生 活上 にお ける問題 を言 葉 で解決す る力 を育 て る とと もに、児童生徒 が相互理 解 や望 ま しい人 間関係 づ くりを進 め るためのカ リキ ュ ラム等 の在 り方 につ いて、計画 的、総合 的 に高 めて い く調査研 究 を実 施 」 ( 文 部 科 学省 、 2 0 0 5 ) す る事 業 で あ る。

2 ) 佐藤 は、 フ ィ ンラ ン ドの教育 の優秀性 の一 つ に、授 業 と学 びの様式 をあげ、次 のよ うに述べている。「フィ ンラ ン ドは もと もと一斉授業 の伝統 的様式 が強 い国で あ った。 しか し、 PI SA 調 査 の結 果 は、 プ ロ ジ ェク ト 型 のカ リキ ュラム単元 と協 同学習 の学 びの様式 を採用

してい る学校 お いて成績 が優秀 で あ ることを明 らか に した。 その結果 を受 けて、 プ ロジェク ト型学習 と協 同 学習への改革 が どの学校 で も進行 して い る 。 」 ( 2 0 07 、 pp. 6 6 ‑ 6 7 )

引用 ・参考文献

浜 田寿美男 ( 1 9 9 3 ) 発達心理学再考 のための序説. ミネ ル ヴ ァ書房.

広石英記 ( 2 0 0 5 ) ワー ク シ ョップの学 び論 一社会構成主 義 か らみた参加型学習 の持 つ意義 ‑.教育方法学研究 31:1 ‑ ll .

市川伸一 ( 1 9 9 5 ) 現代心理学入 門 学習 と教育 の心理学.

岩波書店.

丸野俊一 ( 1 9 9 8 ) 心理 学 の過去、現在、未来.丸野俊一 編 シ リー ズ心理 学 の 中の論争 [ 1 ] 認知心理学 にお け る論争. ナ カニ シャ出版 : pp.1 ‑2 9 .

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表 4 学習論の変遷 H 1 3 H 1 4 H 1 5 H 1 6 H 1 7 H 1 8 H 1 9 H 2 0 計 行動主義 3 5 6 9 11 1 0 8 8 60 ( 3) ( 5) ( 6) ( 9) (l l ) (1 0 ) ( 8) ( 8) ( 60) 認知主義 1 7 1 7 1 6 1 4 1 2 1 0 9 8 1 03 ( 21 ) (1 9) (1 9) (1 6) (1 3) (l l ) (1 0) ( 8) (11 7) 状 況主義 8 11 9 1 3 1 5 1 8

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