民 事 判 例 研 究
岩 本 尚 繕
公 団分 譲住 宅の譲渡契約締結 に際 して意思決定 の機会 を奪 う説明義務違反 が あったことを理由に慰謝料請求が認容 された事例
平成16(餐)第482号 同年11月1
8
日第一小法廷判決 棄却 第‑審東京地利 第二審東京高裁 民事判例集58巻8
号22 2 5
頁【事実】
原告 ら (以下、単 に
「Ⅹ
」 とす る) は、住宅 ・都市整備公 団 (以下、「 Y」
とする)が設営する千葉県内の
a
団地お よび神奈川県内のb団地の各住戸 を賃 借 していたoY
は、平成2
年 にa
団地・b
団地の廷替事業 に着手 した。a
団地建替後の団 也 (以下、「
C団地」 とする)では350
戸が分譲 され、 b
団地建替後の団地 (以 下、「d
団地」 とす る)では132
戸が分譲 される計画であった。 また、Y
は、同 年 に行 われた建替事業 に関する居住者説明会 において、建替後の建物の概要や 譲渡価格等 について説明 した。 なお、説明会の際 に提示 された譲渡価格 は、 C団地内の分譲住宅が約3,
500
万円、d
団地内の分譲住宅が約5,400
万円であった。また
、Y
は、上記説明会の際お よび直後 に、戻 り入居の意思の有無 を確認す る 調査 を行 い、他方でX
は対策委員会等 を設置 して、建替事業への対応策 を検討し、あるいは価格 について交渉する等の対応 を取 った。
Y
は上記説明会の後に、建替後の分譲住宅へ戻 り入居 を選択 した者 に対 して は、一般公募 に先立つ優先入居の機会 を確保 し、入居住宅完成 までの仮住居 を 確保 し、移転 費用相当額の支払い、家賃等 の一部填補相当額 として100
万 円を 支払 う旨を条件 として提示 した。ただ し、上記条件 は、a
団地 は同4
年9
月30[ 6 5 ]
北法58( 3・ 49 8)1 5 6 4
民事判例研究
日
、b
団地は同年3
月3 1
日まで に、従前 の賃貸借契約 を一時使用貸借契約 に切 り替 え、 または住宅 を明け渡す等 して建替事業 に協力 した場合 にだけ、覚書 と い う形で確認されることになっていたo上記期 限の経過後に建替事業 に協力 し て も、入居 は認め られず、あるいは家賃等 の一部填補 として支払われる金額が 減 じられる等の不利 な条件になる ときjtたO 加 えて、建昔事業 に協力せず に賃 貸借契約が終了すれば、何 らの措置 も与 え られない ことになっていた。 もっ と も、当初 は戻 り入居 を希望 しな くて も、その後、一敗の者 と同 じ立場で公募 に 応 じて住居 を取得することまで否定 されていたわけではない。X
は戻 り入居 を希望 したので、建替事業 に協力 し、Y
との間で覚書 を締結 し た。 なお、覚書2
条1
項 は 「甲 (公 団) は、建替住宅への入管が可能 となった 場合 には、乙 (住民)に対 して,公募 に先立 ち、優先 して住宅 をあっせんす る」と規定 していた (以下、「覚書」 とす る)
。
Ⅹは、「優先」 として記 されてい る 以上、一般公募がⅩに対す る斡旋後 に直 ちに実施 され、 しか も一般公募の譲渡 価格が少な くともⅩの譲渡価格 と同等である、 と認識 していたO それゆえ、一 般公募の実施の有無は、X
に とって 自己の譲渡価格の妥当性 を検証す るための 重要 な判断要素であった。X
とYは、 C団地内の分譲住宅 について同7
年1 0月
31
日、 d
団地内の分譲住 宅 について同6
年1 2
月10日に契約 を締結 した。 なお、譲渡価格 は各契約の3カ月前 に提示 され、その価格 はバ ブル崩壊前の平成
2
年時点 における説明会でY
が提示 した価格 とほぼ同額であった (最大で も8%
の下落)Oところで
、Y
は、 C団地 について同 7
年1 0
月か ら同8
年5
月頃まで、d
団地 について同6
年1 0
月か ら同 7
年11月頃 までの間に、残余住宅の斡旋 を知 らせ る「分室だ より」等の書面 を作成 ・配布 していた。 しか し、本件 各契約締結後か ら同
1 0
年7
月 までの間に、上記斡旋 を通 じて残余住宅 を購入 した者 はいなか っ た。加 えて、同9
年1 2
fHこ公団の理事 が衆議 院建設委貞会 で、「価格の見直 し を しなければならないか とい うような具体的な結果 につながるような認識 を し 出 したのは、 この 1年 ぐらい とい うふ うにお考 えいただ きたい と思い ます」等 と答弁 していた。Yは本件契約締結 か ら約
3
年後 の同10年7
月2 5
日に、
C団地の末分譲住宅8 3
戸 お よびd
団地の末分譲住宅4 6
戸 につ いて値下 げ した上で一般公募 を実施 し た。平均億下率は、前者が約2 5%
(平均億下額約8 5 0
万)、
後者が約2 9%
(平均 値下宿約1. 6 3 0
万)であった.北法
5 8( 3・ 4 9 7 ) 1 5 6 3 [ 6 6 ]
そこで
、
Ⅹは、高額 な譲渡価格が原因で一般公募は実施で きない ことをY
が 認識 していたこと、 この こ とをY
が本件各契約締結時 にⅩに説明 しなかったこと等 を理 由に、説明義務違反等 に基づ く損害賠償お よび慰 謝料 を請求 した。
一審 ・原審lはⅩの慰謝料請求 を一部認容 した (各住戸
1 5 0 万円 ) 0 Y
は、財 産的利益 に関す る意思決定 について不十分 ・不適切 な情報提供 を理由 とす る慰 謝料請求 を否定 した最判平成1 5
年1 2
月9
日民集5 7
巻ユ1
号1 8 8 7
頁 (以下、「平成1 5
年判決」 とす る) を引周 し、上告受理 申立 を した。なお
、Y
は同 1
ユ年1 0 月 1
日に解散 し、その権利義務は上告 人である独立行政 法人都市再生機構 (以下、住宅 ・都市整備公団 と区別せず「Y
」 とす る)が承 継 しているO【判旨】
上告棄却。「前記事 実関係 によれば、次の ことが明 らかである。
( 1 )
Ⅹは、Y
との間で、その設営 に係 る団地内の住宅につ き賃貸借契約 を締結 していたが、
Y
の建て替 え事業 に当た って、借家権 を喪失 させ るな どしてこれ に協力 したO (2)YとⅩとの間で交 わ された覚書 は、 Xに対するあっせ ん後未分譲住宅の一般 公募が直 ちに行われ ること及 び一般公募 における譲渡価格 とⅩに対す る譲渡価 格が少な くとも同等であることを前提 とし、その上で抽選 によることな くX
が 確実 に住宅 を確保す ることがで きることを約 した ものである。 (3)そのため、X
は、覚書 によ り、本件各譲渡契約締結の時点 において
、
Ⅹに対す るあ っせ ん後 未分譲住宅の一般公募が直ちに行 われ、価格の面で もⅩに示 された譲渡価格 は、その直後 に行われ る一般公募の際の譲渡イ酎各と少な くとも同等 である もの と認 識 していた。(4)ところが、 Yは、本件各譲渡契約締結の時点 において、 Xに対 す る譲渡価格 が高額 に過 ぎ、仮 にその価格で未分譲住宅 につ き一般 公募 を行 っ て も買手がつかない ことを認識 してお り、そのためⅩ及び他の建 て替 え団地の 居住者 に対す るあっせ ん後直 ちに未分譲住宅の一般公募 をする意思 を有 してい なかった。(5)それに もかかわ らず
、Y
は、Ⅹに対 し、Ⅹに対す るあ っせ ん後直 ちに未分譲住宅の一般公募 をす る意思がない ことを説明 しなかった 。以上の諸点 に照 らす と
、Y
は、X
が、覚書 により、本件各譲渡契約締結の時 点 において、
Ⅹに対す るあっせ ん後未分譲住宅の一般公募が直 ちに行 われる と1少 な くとも原審 は、説明義務違反 を不法行為責任 として捉 えている。
[ 6 7 1
北法5 8( 3・ 4 9 6 ) 1 5 6 2
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認識 していたことを少な くとも容易 に知ることがで きたにもかかわらず
、X
に 対 し、上記一般公募 を直ちにする意思がない ことを全 く説明せず、これによりX
がY
の設定に係る分譲住宅の価格の適否 について十分に検討 した上で本件各 譲渡契約 を締結するか否かを決定する機会 を奪 ったもの とい うべ きであって、Y
が当該説明 をしなかったことは信義誠実の原則 に著 しく違反するものである といわざるを得 ないOそ うすると、X
がY
との間で本件各譲渡契約 を締結する か否かの意思決定は財産的利益 に関するものではあるが、Y
の上記行為は慰謝 料請求権の発生 を肯記 し得る違法行為 と評価することが相当であるO上記判断は、所論引用の判例 (平成
1 5
年判決) に抵触する ものではない」。【評釈】
‑ はじめに
バブル経済の崩壊 に起因する不動産の
値
下げ販売が、‑連の値下げ販売訴訟 (以下、「一連の事例」 とする) を続発 させた。本件 は、その‑つ であるO本判決が注 目さるべ き理由は二点ある。第‑ は、一連の事例では買主側の主 張が全て退けられたのに対 して、本判決は買主側の主張 を認零 した点である。
第二 は、本判決が財産的利益に関する意思決定の機会の喪失 を被侵害利益 とし て慰謝料請求 を認容 した点である。
そこで本評釈は、第‑の理由について後述二 ・三で、第二の意義 について後 述四 ・五で検討 し、その結果 を後述六で述べ 、最後に残 された問題 を指摘する。
ニ ー連の事例
まずは一連の事例 を概観 し、次いで主たる争点 を検討 し、最後に値下げ事案 の特性 を確認する。なお、以下の① ない し④ における売主は民間業者であ り、
⑤ ない し⑪ における売主は公団または公社である。
北法
5 8( 3・ 4 9 5 ) 1 5 6 1 [ 6 8 ]
(‑)SSの&$ 2
①
大阪地判平584・21(
判時1 4 9 2
号1 1 8 貫)
平成元年
1 0
月か ら翌年1 0
月に成 、.i̲した各売買契約締結時に売主側は 「値下げ は絶紬 こしない」等 と述べていたが、同3
年か ら未売却区画の販売価格が下げ られ、ある物件 は同 2
年5
月時点で約1億3, 0 0 0
万円の販売価格が翌年3
月に 約7, 8 0 0
万円で値 円ヂ販売 されたO(
彰 東京地判平5・4・2 6
(判 タ8 2 7
号1 9 1
貫)当初の販売価格
9, 31 3
万円のマ ンシ ョンの転売価格が、他の未売却物件の値 下げ販売が原因で5, 9 8 0
万円となった。なお、本件の買主は不動産業者であった。③ 東京地判平
・8・2・5
(判 タ9 0 7
号1 8 8 頁)
販売担当者は 「本件マ ンションは値引 きで きない」等 と述べていたが、契約 締結か ら約1年後に値引率
1 0‑1 5%
で末売却住戸が値下げ販売 された。④
大阪地判平1 0・3・1 9
(判時1 6 5 7
号8 5 貫)
本件契約締結時 (平成
3
年6
月)の約2
年後 に先行販売価格の約4 0%
で倍下 げ販売 された。⑤ 札幌地判平日
・1・2 1
(判 タ1 0 3 9
号1 5 1
貫)この事例では、
ユ、 0 0 0
万円の限度で売買代金 ・家具購入代金等 を負担する売 主側のサー ビスが実質的な値引 き販売 として問題 となった.⑥ 東京地判
平1 2・8・3 0
(判時1 7
21
号9 2 貢)
平成5年か ら同 8年にかけて販売 された住宅が同 9年に平均値下げ率
2 0
.4%で値下げ販売 された。
(彰 福岡地判
平1 3・1・2 9(
判時1 7 4 3
号1 1 2 貫)
平成
4
年か ら同9
年4
月に本件物件 を購入 した買主 らは、販売担当者か ら「値 引 き販売は しない」等の発言 を受けていたが、公団は同9
年8
月に売れ残 り物 件の値下げ販売を発表 し、翌 日か ら平均2 2. 5%
(平均値下げ価格8 8 0
万円) の 値下げ率で分譲 を開始 した。⑧ 東京地判平
1 3・3・2 2
(判時1 7 7 3
号8 2 貢)
約
3, 0 0 0
万円か ら8, 9 0 0
万円で販売 されたマ ンシ ョンが、後に平均値下げ率約2他に大阪地利平
7・2・2 2
、大阪高利平9・2・2 7
、大阪地判乎10・
11・3 0
、 大阪高判平
11・8・6が存在する。 しか し事案内容 を確認で きなかったので、本稿の検討か ら除外 した。
[ 6 9 ]
北法5 8( 3・ 4 9 4 ) 1 5 6 0
民事判例研究
1 6 . 4%
(平均値下げ価格 は1,1 00
万円)で販売 された。 この事件 に関 しては後逮 ( ニ) 3
も参照。⑨
札幌地判平13・5 ・28
(判時17 91
号119
頁)上記⑤ と同様 に、1
0 0
万円の限度 (後に1,0 00
円に拡大)で売買代金等 を負担 する売主側のサービスが実質的な値下げ販売 として問題 となった30⑲
東京高判平13 ・1 2・1 9
(未登載4 )
上記⑥の控訴審。控訴 は棄却 された。⑪ 横浜地判平1
5・2 ・1 2
(未登載)本件契約は平成
7
年か ら同 9年 に締結 されたが、同11年5
月時点で当該団地 の約半分が売jt残 り、後 に同11年7
月か ら平均値下げ率44. 38%で販売 された。
(ニ)争点
1
実質値引き相当のサービス実質的な値引 き販売 として争 われた事例 は、⑤⑨ のみである5。⑤ では公団 の公的性格 を根拠 として一一‑律 に同サー ビスを提供すべ き義務の有無が争 われ た。裁判所は、本件住戸の販売が通常の私法上の取引であることを理由に、買 主側の主張 を退けた。
2
「値引き販売 しない」 旨の言辞初期の事案である①丑③では、売主側の当該言辞が値引 き販売 しない旨の合 意を形成 したか否かが中心的争点 として問題 となった。例えば①判決は、売主 も地価の下落 を予想で きず、不動産市場の時価 を無視 した価格 を設定すること は期待で きないこと等か ら、上記言辞 を単なる 「顧客 に柑するセールス トーク」
として判断 し、合意の存在 を否定 している。
このように上記言辞 に基づ く争点は連続 して否定 され、その後は主張の内容 を変えて争われた。④では詐欺の存否 として争われたO裁判所 は、地価のT落
3この事件では暴力団関係者が入居 したことに起因する住環境の悪化 を理由に 慰謝料が認め られたo Lか し、実質的値下げ販売それ自体の責任が肯定 された
わけではない。
Li 「LEX/DB」か ら採集 した裁判例 を本稿では、「未登載」 として表記 した0
5⑨事例では多様 な争点が展開 されているように見えるが、いずれ も中心 には 実質値引 き問題が置かれている。
北法5
8( 3・ 4 9 3 ) 1 5 5 9 [ 7 0 ]
は予期 し難い事態であるか ら、不動産業者 は値下げ販売 を認識 していなかった と述べ、買主の主張 を否定 した。
② では、不法行為 を成 立させ る違法 ・不当な勧 誘の存否 として問題 となった。
裁判所 は売主が経済事情 に鑑みて値下げに踏み切ることを買主側が予 見 し得た ことを理由に、買主の主張 を否定 した。
⑪ では、虚偽の説明回避義務違反の存否 として問題 となった。裁判所 は、契 約時に値下げ販売の実施が決定 されていたわけではな く、当該言辞 は当初の価 格で完売 しようとい う営業方針 を述べた内容 に過 ぎない ことを理由に
、
同義務 違反 を否定 した。3
説明義務違反買主側の敗訴が続 き、加 えて、「説明義務」概念の広義性 ・利便性 も作用 し てか、先の①②③ 耳 を除 く全ての事例で説明義務違反の存否が問題 となったO 同義務 は一連の事 例における中心的争点 として理解 され得 る。同義務の内容 と
して主 に販売状況 ・地価の動向 ・値下げ販売の可能性が主張 された。
特 に⑧は事案 も含めて概観 してお く。公団は昭和61年か ら平成
9
年7
月 まで 現状有姿販売 (モデルルームの現状有姿 と引 き換 えに修復 費相 当額 を代金 に充 当す る形態の販売) を実施 した。平成5
年度は皆無だった同販売形態件数が同6
年度か ら次第 に増加 し、同 8
年度末入居数の3
割以上が同販売形態であった。この事実 に加 えて同 9年1
2
月3日の公団理事の発言 内容 (【
事実】参照) を前 提 に、買主側 は遅 くとも同8
年12
月3
日以降は公団が値下 げ販売の可能性 を認 識 していなが ら、こjLを秘匿 していたことが説明義務違反である と主張 した。裁判所 は、相手方の誤解や錯誤 を積極的に利用 し契約締結 に至 らせ る等の信義 に摩 る作為 または不作為の存在が認め られない限 り、値下 げ販売 を認識 し始め た とい う事実 だけで同義務違反 を認めることはで きない、 と判示 した0
4
価格設定義務売主が公団 または公社である とい う属性 に着 目した争点 として、価格設定義 務の問題があるO⑥ 令⑧⑲⑰ では住宅 ・都市整備公団法施行規則 を根拠 に同義 務違反が争 われた。例 えば⑦ 判決は
、
同規則1 2
条1
項6に列挙 された費用 の合6同規則1
2
条 1項 :公団が譲渡する住宅 (公団が譲渡す る賃貸住宅 を除 く。以 下 「分譲住宅」 とい う。) の譲渡の対価は、分譲住宅 の建設 (分譲住宅の取得 を含 むC) に要す る費用 に、当該費用の うち借入れ に係 る部分 に係 る利子 の支[ 7
11 北法5 8( 3・ 4 9 2)1 5 5 8
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計額だけで譲渡対価 を定めるべ きとする買主に対 して、行政命令である同規則 は買主 と公団の権利義務関係 を規律する根拠 にな らないこと
、
同規則1 2
条1
項 は分譲住宅市場の需給バランスや動向その他の要素 を加味 した譲渡対価の設定 も許容 していることを理由に、買主の主張 を否定 した。5
再譲渡制限条項本争点 も売主が公団ない し公社であることに関係する争点である。上記規則 19粂 2項 によると譲受人は割賦譲渡代金支払完了 までに住宅 を譲渡等 したい場 合、予め公団の承諾 を得る必要があった。そこで⑥⑲では、同条項が隠れた暇 疲であるか否かが争われたG しか し、⑥判決は募集バ ンプレッ トや契約書等に 同条項の記載があ り、買主は再譲渡制限の存在 ・内容 を知 り得たので、同条項 は隠れた暇痕ではない と判示 した。
6 暴利行為
本争点は売主が公団か否か とは無関係 に、④◎ 丑⑪ で争われた。例えば④判 決は、他の周辺住宅の販売価格 と比べて も本件価格が著 しく高額ではないこと、
地価の急激なT藩 という事態が売主にとって も予期 し疑い事態であったこと、
買主 に他の物件 を選択する余地がなかったわけではないこと等 を理由に買主の 主張 を退けたO
(三)一連の事例の特性
全事例の共通点 として本件の如 き覚書 (【事実】参照) は存在 しないことを 指摘で きるO加 えて、売主が民間業者 または公団 もしくは公社 という属性の差 異は、少 な くとも弓 垂の事 例における結論 に影響 を与 えていない70 このこと か ら一連の事例は通常の売買契約事例 として理解 され得 ること、 しか も、各争 点 に対する裁判所 の説示が一様 に特殊経済事情 を踏 まえた内容であることか ら、結局バブル崩壊 に起因する不利益 を誰が負担するか、 という問題 に帰着 し ていることが分かる。かかる経済事情が誰の責 にも帰 し得 ないなら、自己責任
弘 に必要な額 、分譲事務費、貸倒れ等 による損失 を補てんするための
引
当金の 額及び公租公課 を加 えた額 を基準 として、公団が定める07例 えば争
点 1
の説示 を見 よoなお、本件一審 も、Y
には公法人 として 「公益 目的があるといえるが、売主である公団 と個々の分譲住宅の買主 との関係 は、私法上の契約関係である」 と説示する。
北法58(3・491)1557
[ 7 2 ]
の原則が安当 し、その反面 として売主の責任の否定が帰結 される。 このことを 裁判所が判断の基礎 に置いていたことは想像 に難 くない8。
また、買主側の主張にも弱 きがあったo例えば説明義務について不動産 とい う性質に鑑みれば同義務の内容は居住それ自体 を阻む可能性が大 きい事項 に絞 られ得 るが9、‑連の事例 における問題 は値下げ前後の販売価格の差額であっ て、不動産の性質ではないG買主が ライフスタイルに応 じた一定の動梶 ・目的 を達成で きな くなる事例10と一連の事例 とは質的に異なるのであるO確かに倦 下げ販売 による資産価値の低下は無視で きないが、地価の上昇で資産価値の増 加分の返還 を売主が求め得 ないの と同様、減少分の補償 を売主に求め得る道理
も存 しない といえよう。
ただ し、疑問が残 る事例 もあるO例 えば①判決は、「値引 き販売 し射 、」等 の発言があった として も、「いつの E]か統一的な方針 として億下げに踏み切 る ことのあ り得 ること」 を買主が 「社会通念上予見で きない とはいえない」等 と 説示 した。 しか し、このことは、む しろ不動産業に携わる売主にこそ妥当する はずである (買主 も業者であった② は例外)。土地は値下が りしない という土 地神話 を安易 に信 じていたなら、売主 にも責任の一端 はあるC例えば③判決は、
値引率が約15%であ り、先行販売か ら約
1
年経過後の倦引 き販売は不当ではな い と説示 した。 しか し、①では先行販売か ら数 ヶ月で約60%の値引 き販売が実 施 されてお り、売主が土地神話 を信 じていたことさえ疑わ しいOこの場合 に売 主の責任 を否定する根拠が経済事情や買主側の自己責任だけでは不十分であろ8 「資産価値が変動する分譲住宅 を、 どの時点で、い くらで購入するかは、購 入者が自由な意思に基づ き決定する ものである。そ して、分譲住宅購入後、不 動産市況の好転等に伴い、購入価値 にふ さわ しい資産価値 を維持で きるか、は たまた市況の悪化に伴い、その資産価倍が下落 し、購入価格 との乗雛が進むの かについて も、購入者がその リスクを負 うこともまた自明の理なのである」(⑧ 判決)0
9例えば大阪地利平11
・2 ・9
(判夕1 002
号198
頁) は、
目的物の不動産が居 住用ならば、説明義務の基準 は 「通常一般人がその事笑の存在 を認識 したなら 居住用の建物 としての購入 を断念す ると社会通念上解 される事実」であるという。
10例えば平穏 ・閑静な生活 を求めて購 入 した土地の近 くに高架道路が建設 さ れた、あるいは住居用 に購入 した土地の基盤が軟弱だった等.
[ 7 3 ]
北法58( 3・ 49 0)1 5 5 6
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う。裁判所は、安易 な売主責任の肯定が、潜在する類似事案の訴訟化 を誘発 さ せかねない とい う憂慮を抱いていたのかもしれない。 しか し、それで も、売主 側 に偏 し過 ぎた判断だった ように思われる。いずれにせ よ、一連の事例 におい て買主側の主張は、ことごとく退けられたのであった。
三 本件の特殊性
一連の事例 と同 じ経済事情 を内包 しなが ら、本件買主の請求は一審か ら一部 認容 されて きた。そこで、一審 ・原審の判断を確認する (両者は大部分が重複
しているので、基本的に一審の見解 を示す)0
(‑)覚書の理解
一審では、(丑覚書
2粂 1
項 に基づ く債務不履行、②錯誤、③適正価格設定義 務違反、④説明義務違反が争われたO争点① の覚書 (【事実】参照) は他の争 点にも影響 しているので、まず覚書の解釈 についてⅩの主張 と一審の理解 を確 認 してお く。Ⅹは、優先入居 とは自己の購入価格が同時期 に実施 される一般公募価格 と同 等であ り、公募価格 より高額ではあ り得ない と主張 した。
他方で一審 によると、優先入居 とはⅩへの斡旋時期が‑般公募 に先行するだ けでな く、販売価格 も一般公募 と同等 ない しⅩに不利にならない ことを意味す るが、 しか し、覚書 はⅩへの斡旋後相当長期間経過後の公募価格 を制約 してい ない、 とい う。 また、一審は
、「
相当長期間」 を 「数年以上」 と解 した。( ニ)
xの主張 と一審の判断(む 覚書
2
条 1項に基づ く債務不履行一連の事例では本件の如 き 「覚書」は存在せず、本争点は本件特有であるo
X
は、斡旋価格が一般公募価格 よりも高額でないことが 「優先入居」の意味だ か ら、公募 に耐 え得ない高額な分譲価格設定は覚書違反の債務不履行である、とい う。
他方で、一審は、本件契約時か ら
3
年以上経過後の一般公募価格 は斡旋価格 より低額で も覚書 に反 しない、 と判断 した。② 錯誤
Ⅹは、斡旋価格 と一般公募価格 との関係 について動機の錯誤に陥いるも、こ 北法58(3・489)1555 [74]
の動機は斡旋価格が一役公募価格 より高額でないことを示す覚書の
2
条1
項に 表示 されていることを理由に、錯誤無効 を主張 した。他方で、一審によると、覚書は時期 を問わず常 に一般公募価格 より低額 を約 した内容ではないか ら、覚書 にⅩの動機は表示 されていない という。
(参 適正価格設定義務違反
Ⅹは
、Y
の公共性 および譲渡制限条項日の存在等 を理由にY
の適正価格設定 義務違反 を主張 したO一審は
、Y
が公益 目的を有 していて も、本件売買は通常の売買契約 と異なら ないこと、Y
が承諾すれば住宅の譲渡は可能であ り、譲渡制限条項は合理的な 範囲に限定 されていることか ら、同義務の存在 を否定 した。(彰 説明義務違反
本争点は一連の事例で も中心的な争点であった。 しか し
、
Ⅹの主張は、一連 の事例では見 られなかった 「覚書」 に基づいている。すなわち、
Ⅹは、優先入 居が一般公募 に先立つ入居 を意味するに過 ぎないことをY
が説明 しなかったこ と等 を理由に、Y
の説明義務違反を主張 した。 これに対 して一審は、覚書が斡 旋後相当長期間を経過 した後の公募価格 を制約 していないことを理由に、この 点 に関するY
の説明義務違反 を否定 した。もっとも、一審は、最終的に
Y
の説明義務違反 を肯定 している。以下で確認 するように、その判断の根拠か ら本件の特殊性 を窺い知ることがで きるであろう。
(三)説明義務違反による慰謝料の認容
まず一審は、契約締結時に一般公募の不実施 を予想 していたのなら
、Y
は信 義則上 この ことをX
に説明する義務があった と述べ、 この点 について原審 も、「価格の妥当性 は
、
Ⅹの入居後に行われる一般公募 によっていわば事実上検証 される」ので、「一般公募が行われるか どうかは、
Ⅹにとって重大 な関心事であっ た」か ら、別途Ⅹに本件契約締結の適否や他の賃貸住宅等への移転の可能性 を 検討する余地 を与 えるためにも「YはX
に対 し、そのこと (一般公募 をしないこと) を説明する義務があった」 と説示 している。
とはいえ
、Y
が一般公募 を実施する意思 を有 していたなら、「実施 しないこ‖ 前述ニ (ニ)
5
と、ほぼ同内容であるO[ 7 5 ]
北法5 8( 3・ 48 8)ユ 5 5 4
民事判例研 究
とを説明する義務」は生 じ得ないので
、Y
の‑般公募 を実施 しない意思の有無 が問題 となるはずであるC この点 に関 して一審は、平成 7年 8月に一般公募 に よる分譲予定の1 6
号棟の建設が中止 されたこと、本件売買価格がバブル崩壊 前 の平成2
年時点で提示 された価格 とほぼ同額であったこと等か ら、「 Y
は、本 件各売買契約時点で、
Ⅹへの譲渡価格がやや高額 に過 ぎ、仮 にその価格で一般 公募 を行 って も買い手がつかないことを認識 してお り、そのため、一般公募 をX
に対す るあっせんに引 き続いて直ちに行 う意思 を有 していなかった」 (傍点 は筆者) にもかかわらず、Y
はⅩに対 し何 ら説明せず、適切な説明を欠いたの であるか ら、Y
はⅩに対 し説明義務違反を理由 とする損害賠償義務 を負 うべ き である、 と判示 したOところで、説明義務違反が肯定 された以上、財産的損害賠償が認め られてよ いはずである。 しか し、慰謝料だけが認容 されたOその理由について一審は、
斡旋後相当長期間経過後の一般公募価格設定に制約がないこと、適正価格設定 義務は認め られないこと、分譲後の経済状況の変動可能性等か ら 「一般公募の 販売価格 をもって本件各売買契約時において設定すべ き適正価格 ともいえない ことを総合考慮す ると、平成10年 7月に行われた一凋芝公募における販売価格 (億 F価椿)をもって
、X
の財産的な損害の算定根拠 とすることはで き」ないので、「
Ⅹ‑の販売価格 と値下げ後の販売価格 との差額がⅩの損害であると認めるこ とはで きない」が、しか し、X
は 「結果的に高額 な住宅 を購入 した ものであ り、このことにより大 きな精神的苦痛 を被 った」 と説示 した。
本判決 も一審 ・原審 と同様 に慰謝料 を認めたC 【判 別 において説示 されて いるように、説明義務の内容 ・説明義務の存否 ・説明義務違反による慰謝料の 認容 について同様の判断が下 されたのであったO
(四)本件の特殊性一戻 り入居 と覚書一
本件で問われた責任は売買契約 の締結 を決定づける要素である一般公募の不 実施 を
Y
が説明 しなかったことであって、倍下げ販売 を実施 したことではないO その限 りで本件は一連の事例 と異 ならないO さらに、本件の億下率は一連の事 例 に比べて特 に高率 とい うわけで もな く (本件 は約27%、 しか し④⑪ は40%を 超 える)、 また、一連の事例の中には説明義務違反 を基礎づける事実の主張 に 関 して本件 と類似する事案 も存在 した (前記ニ (ニ)参照)oそjLにもかかわ らず、買主の主張が認め られた事例 は本件 だけなのであるO その理由は、以下 北法58(3・487)1553 [76]のような事案の特殊性 にある。
本件の買主は戻 り入居 を希望する者であった。 もともと
Y
が設営する公団住 宅の賃借人であった本件の買主は、住み慣れ た従前の団地に継続 して居住 した い と考え、ゆえに覚書の条件 (【事実】参照) を甘受 した とも考えられる。 な らば本件の買主は、覚書 を交わ した時点で他の物件 を選択する意思 も自由 も持 ち得 なかったであろう (また、本件契約 を締結する前 に戻 り入居の意思の有無 を確認するY
の調査が、
Ⅹにとって心理的圧迫 とな り、建替事業 に協力せ ざる を得 ない雰囲気 を醸成 した可能性 も否定で きない12)。か くして、本件 では自 己責任の原則 を貰徹 し得ない理由があること、その反面 として覚書 を前提 とす るY
の説明義務違反が強調 さるべ き理由があること、さらに買主が値下げ販売 を売主の裏切 り行為 として感 じる程度は一連の事例の買主 より強いであろ うこ とが分かるC こうした事案の特殊性 に鑑み、本判決は慰謝料 を認容 したと考 え られる。四 本判決の判断構造13
本判決は財産的利益 に関する意思決定の機会の喪失 を理由に慰謝料 を肯定 し た点にも特色がある。 この点は、上告理由が引用 した平成1
5
年判決 に起因 して いると考えられる14。問題は、同判決が本判決 と異な り、かかる機会の衷英 を 理由 とする慰謝料請求 を否定 したのに対 して、本判決は平成15
年判決 との関係 について、「抵触する ものではない」 と述べ るに止めたことである。そこで、抵触 を回避 し得る根拠 を確認する必要があるOそのことを通 じて、本判決の判 断構造 も明 らか となるであろう。
12Ⅹは、こうした主張 を展開 したが、しか し裁判所 には受け入れ られなかった0
13本稿では、慰謝料の可否 を判断す る諸基準 ない し諸要因の枠組の総称 とし て 「判断構造」 とい う言葉 を用いている。これは、ある法律規定か ら一般的法 原則 を抽出する‑ことによって判断基準 を構成するとい う意味における 「法律構 成」 と、必ず しも同 じではない。
川 平成15年判決 日は平成1
5
年12月9日であ り、本件原審判決 日は同年同月1 8
日であったことか ら、平成15
年判決 を踏 まえた公団側の主張は上告でのみ為 し 得た。[ 7 7 ]
北法58( 3・ 4 86)1 5 5 2
民事判例研究
(‑)平成1
5
年判決の事実 と判 旨1
事実被告の保険会社 ら (以下、単 に
「 Y
」 とする) と火災保険契約 を締結 してい た原告 ら (以下、単 に「 Ⅹ
」 とする)は、阪神 ・淡路大震災が原因である火事 の延焼 により建物 ・家財 を消失 したので、本件保険に基づ く保険金の支払いをY
に請求 したが、Y
は拒否 した。本件保険は原則 として地震保険 を附帯するが、地震保険不加入確認欄 に押印することで地震保険を排除で きる制度 になってお り
、Ⅹ
は当該欄 に押印 していた。そこでⅩは、Yが当該欄へ押印することの意味内容 につ き説明義務 を怠った 等 と主張 し、保険金支払いない し説明義務違反による損害賠償 を求めた。
原審は、 Yの説明義務違反 を認め、地震保険金額 と保険料 との差額の10分の 1の限度で慰謝料 を認容 した。Yは上告 した。
2
判旨破棄 自判。「地震保険に加入するか否かについての意思決定は、生命、身体 等の人格的利益 に関するものではな く、財産的利益 に関する ものであることに かんがみると、この意思決定に関 し、仮に保険会社側か らの情報の提供や説明 に何 らかの不十分、不適切 な点があったとしても、特段の事情が存 しない限 り、
これをもって慰謝料請求権の発生 を肯記 し得 る違法行為 と評価することはで き ない」。続けて裁判所は
、Y
がⅩに対 して本件保険契約の締結 に際 して地震保 険に関する事項 を意図的に秘匿 した事実はないこと等 を認定 して、次のように 判示 した。「 Y
側 に、
Ⅹに対する本件地震保険に関す る事項 についての情報提 供や説明において、不十分な点があったとして も、前記特段の事情が存するも の とはいえないか ら、これをもって慰謝料請求権の発生 を肯記 し得 る違法行為 と評価することはで きない」。(ニ)平成1
5
年判決の判断構造この判決か ら、財産的利益 に関する意思決定の機会の喪失 を理由 とした慰謝 料は特段の事情15を前提 とすること、それゆえ、この意思決定の機会の要保護 性は人格的利益 に関する意思決定の機会の要保護性 に劣後すること、そ して、
特段の事情 (保険契約 に関する事項 を意図的に秘匿す ること)が強い違法性 を
15この内容 について、角由美穂子 「判批」法セ5
91
号1 1 7
頁 も参照O北法
5 8( 3・ 4 8 5 ) 1 5 5 1
[78]備える行為 として認め られ得ることが読み取れるO
こうした同判決の立場は、いわゆる相関関係説によって説明す ることもでき よう16。つ まり、財産的利益に関する意思決定の機会の喪失 (弱い被侵害利益) を理由とする慰謝料請求は、特段の事情 (強い違法行為)が存する立場にのみ 認め られる、 ということである。
(三)本判決の判断構造
かかる理解 を前提 とするなら、本判決は平成1
5
年判決に抵触 しない と理解す ることがで きるOなぜ なら、本判決は被侵害利益 として財産的利益 に関する意 思決定の機会 (‑弱い被侵害利益) を認定 しつつ、Y
の行態を 「信義誠実の原 則 に著 しく遠反する もの」 (‑強い違法行為) と解 しているか らである17。両 判決の結論の相違は事案の相違 として理解することが可能である18。五
本判決の判断構造の意義一当寺に慰謝料請求の観点 から一
本判決の判断構造は明 らかになった。 しか し、他の事例、すなわち、取引関 係において説明義務違反を理由に慰謝料が認容 された他の諸事例 と本判決との相 違は明確ではない。加えて、本件だけ見ても、一審 ・原審 と本判決 とは、各判断 構造が異なっているように見えるOそこで、これらの点について検討する。
(‑)慰謝料請求が否定 された事例
財産的損害賠償が認め られた場合、 これに加 えて慰謝料 も認容 される事例は 多 くない。裁判所 は基本的に 「金銭賠償 によって精神的苦痛 も慰謝 される」 と
16野揮正充
「
判批」判夕1187
号1
04
頁によると、本判決は相関関係説 を前提 し ている、 とい う。17例 えば安永正昭 「判批」判時1
91 2
号197
頁以r円j:、Y
の 「行為の違法性 は高 く、被侵害利益の内容いかんによるが、た とい保護すべ き程度が低い ものであ るとして も、不法行為が成立する可能性は高い」 と指摘する。18確 かに本判決は 「特段の事情」 とい う文言 を用いていない。 しか し、本判 決を平成15年判決の 「特段の事情」 を認めた事案 として評価する見解 として、
例えば大中有倍 「判批」金利1
21 6 号 77
頁がある。 これ と異なる見解 として、例 えば原田剛 「判批」法セ602号120
頁がある。[ 7 9 ]
北法5 8( 3・ 48 4 )1 5 5 ( )
民事判例研究
解 しているか らである19。例えば札幌地判平
9・1 0・2 3
(判時1 6 4 6
号1 2 9
頁)は、Ⅹが商品先物取引業者の従業員の説明義務違反を理由に損害賠償 を請求 した事 案で
、「
Ⅹが精神的損害 を受 けたことは容易 に推察で きるが、財産的損害 に伴 う精神的損害は、右財産的損害の賠償 によって一応慰謝 さjtる」 と判示 した.こうした理解 を前提 にすると、財産的損害 と代替可能な精神的損害、つ ま り、
財産的損害賠償 に解消 され得る精神的損害 を観念 し得る20。 しか し、他方で精 神的損害 と財産的損害 を完全 に同‑視 しない限 り、財産的損害か ら独立 した精 神的損害 もあ り得るはずである。そこで、従来の枚判例を分析するに際 して、
財産的損害賠償 に加 えて慰謝料 も認容 された事例 と慰謝料だけが認容 された事 例 とを分けて検討す る。
(ニ)慰謝料請求が認容 された事例
1
財産的損害賠償に加 えて慰謝料も認容 された事例(1) 松 山地判平
1 0・5・1
1 (判 タ9 9 4
号1 8 7
貫)Y
‑を介 してY2
か ら購入 した土地にⅩほ自宅 を新築 したが、当該土地の南側隣接地に高架道路が建設 さ れた事案 において、「物的損害が填補 されれば、特段の事情がない限 り精神的 損害が填補 された もの とするのが相当であるが ・・ ( 中略)
・・Y
2には、本 件高架道路建設計画 を知悉 しなが ら告知 しなかった という悪質な義務違反があ ること ・・ (中略) ・・しか も、
日照被害や圧迫被害等による精神的苦痛は、Ⅹが本件建物 に居住する限 り持続するものであることなどが認め られ、これ ら の事情 を考慮すると
、
Ⅹが被 った精神的苦痛 について もY
らに損害賠償 させ る のが相当」であると判決 された。同判決か ら特段の事情 として二つの要素 を指摘で きる。第一の要素 は 「悪 質 な義務違反」とい う売主の態様であ り、第二の要素は 「日照被害や圧迫被害等」
とい う買主の損害である。なお、第二の要素は、単なる精神的苦痛 とい うより
柑 例えば静岡地判浜松支部平
1 7i1I2 5
(未登載)、最判平8・1 0・2 8
(金法1 4 6 9
号4 9
頁)等がある。 また、被害者の落度を理由に慰謝料が否定 されることもある。例 えば東京地判平
1 3・2・2 6
(末登載)は、商品先物取引の事案 において、説明義務違反 を理由に財産的損害賠償 は認めつつ
、「
Ⅹにも慎重 さを欠 く点が あったといえることから」、慰謝料請求は否定 したC20窪田充見 「取引関係 における不法行為 一取引関係 における自己決定権 をめ ぐる現況 と課題」法時
7 8
巻8
号72頁 を参照O北法
5 8( 3・ 4 8 3 ) 1 5 4 9 [ 8 0 ]
も、む しろ、肉体 を介 した精神的苦痛 といえる。
( 2)
横浜地判平1 4・2・1 3(
未登載)判
決は、不十分 な知識 しか有 しないX
に対 して変額保険の リスクを含めた本質的部分 に関 して保険会社か ら 「きち ん とした説明がなかったことがⅩの精神的苦痛 につながるO もちろんそのよう な説明を受け、そのような検討の機会 を得 ると、X
が本件変額保険を締結 しな かったであろうということではない。
Xは、十分な説明を受けていで も結果的 には同 じように本件変額保険契約 を締結 していたか もしれないが、それで もそ の生 じた結果に対する精神的な苦痛の状態が異なるのである。 自己決定をする だけの適正引 電報 を得ていれば、運用利回 り低下 といった不測の結果が生 じて も、
Ⅹはそのことを甘受することになろうが、 きちんとした情報 を与えられず に安易 に契約 をした場合 には、不測の結果は自己だけで甘受で きる苦痛ではな く、原因をもたらした他の要素に対 してもX
としては不満のはけ口をもってい かない と、その精神の苦痛は癒 されない」 と説示 して、本件契約の締結 に要 し た借入金や当該借入金の利息の支払等 を理由 とした財産的損害賠償 (約 1億円) に加 えて、慰謝料 (600万円) を認容 した くただ し、 これ ら合計額か ら3割が 過失相殺 されている)0この事案で注 目すべ きは財産的利益 に関する意思決定の「機会」が問題 となっ ていること (ただ し、説明義務違反を始点 とする因果関係の終点は精神的苦痛 であ り、 この点は本判決 と異なる)、加害者の態様 より被害者の損害に考慮の 比重が置かれていること、肉体 を介 さない精神的苦痛が問題 になっていること である。
(3)両事業の比較 ・検討
両事案か ら、①加害者の態様 と被害者の損害が指摘 されていること、②両者 の考慮の比重が異な り得 ること、③肉体 を介する精神的苦痛 と介 さない精神的 苦痛 とに区別 し得ること、④ この精神的損害は (財産的損害賠償 とは別に慰謝 料が認め られているので)財産的損害に解消 されないことが分かる。
まず③ は不動産‑有形物の事例 と変額保険‑無形物の事例 とい う差異に対応 した区別 として考えることも可能であ り、① は前記 (‑)か ら理解で きよう。
問題は① である。精神的な損害 を知るだけなら、被害者側の事情のみを見れば 分かるはずである21。 しか し、特に(1)判決では、単 なる義務違反ではな く、「悪
21植林弘 『注釈民法(19)A202頁 〔加藤一郎編〕 (有斐閣、1965)
a
[8ユ] 北法58(3・482)1548
民事判例研 究
質な」義務違反を認定 している。 この点に関 して、第‑に加害者の態様 に 「制 裁」の要素 を認める考え方がある2㌔ これによると先の事例 (特 に(1))の慰謝 料は精神的損害填補鞍能 と制裁的機能 を含むことになるO第二に、かかる態様 を考慮することは 「精神的損害算定の具体的妥当性 を意図するもの
」
に過 ぎな い という考え方 もある23。 こjtによれば制裁的機能には消極的 となるが、少な くとも吊 の判示 とは乗寵がある考え方である。加 えて、この考え方は② との関 係 において も問題であるo精神的苦痛 は肉体的苦痛 よりも認定が困難であると 一般的に理解 されている24にもかかわ らず、( 2 )
では加害者の態様 よりも被害者 の損害に考慮の比重が置かれている。損害算定の妥当性 を意図するなら、(2)に おいてこそ加害者の態様が重視 されるべ きなのに、そうではないのである。2
慰謝料だけが認容 された事例慰謝料だけが認容 された事例は、 さらに二分 される。財産的損害賠償は (請 求 された ものの)否定 ・慰謝料は認容 された事例 と、慰謝料だけが請求 ・認容 された事例である。
回 財産的損害賠償請求否定 ・慰謝料認容の事例
京都地利平1
2・3 ・24
(判夕1 09 8号1 8 4
頁)は、「全戸南向き」 として宣伝 ・ 販売 されたマ ンシ ョンが実際には 「南向 き」ではな く、日照の減少分 ・光熱費 等が損害 として求め られた事案 において、説明義務違反を認めつつ、「証拠上、その具体的な損害額 を認めることがで きないので、結局、財産的な損害賠償の 対象 となる損害 としては認め られない とい うはかない (もっとも、右 日照の減 少、光熱費の増加 の点 は慰謝料 において考慮する
)
」 と述べ、財産的損害賠償 は否定 し、慰謝料 を認めた。本件では慰謝料 を認める前提 として、例 えば 「悪質な」義務違反等 は要求 さ れていない。このことは慰謝料の補完的横能に基づいて理解することもで きる。
財産的損害額の証明が囲薙な財産的損害賠償 を慰謝料の形で補完 していると考 えるのである。つ まり、 この事例 を実質的に財産的損害賠償だけが認め られた
22例えば三島宗彦 「慰謝料の本質」金沢法学
5
巻1号2 2
第を参照023四宮和夫 『現代法律学全集1
0‑
ii 不法行為法』267
頁 (青林書院、19 85 )
024肉体的苦痛 と精神的苦痛 について、前者は客観的に判断 し得 るのに対 して、
後者は何 ら有形の侵害 を伴わないことがある (千種達夫 「慰藷料請求 と被害利 義 (二)」民商 2巻2
3 0
頁)0北法
5 8( 3・ 4 81 )1 5 4 7 [ 8 2 ]
事例 として理解で きるな ら25、 この事例の慰謝料 は財産的損害の代償物 に過 ぎ ないのであるか ら、「悪質な」義務違反等が要求 されていない ことには理由が ある。
(2)慰謝料だけが請求 ・認容 された事例
大分地
利平1 7・5・3 0
(未登載) は、Xl
お よびx2がY
か ら同 じマ ンショ ンを購 入 し、契約時 にY
は、Ⅹ
1にはペ ッ ト類の飼育が禁止.されていると説明 し、
x2にはペ ッ ト類の飼育が許容 されていると説明 したが、契約当時ペ ッ ト 類の飼育 に関する管理規約等は存在せず、契約後にペ ットの飼育 を原則禁止 し 例外的 に許容す る規約が設けられ、かたやⅩ
1は生活の平穏 を害 された等 と主 張 し、かたやⅩ2はペ ッ トの飼育がで きな くなった等 と主張 した事案で、「ペ ット類の飼育が禁止 されるのか、可能であるのかが、購 入者 にとって、契約締結 の動機 を形成するに当たって重要な要素 となることもあ り得 る」 にもかかわら ず、これ らの点 を説明 しなかった
Y
の言動は 「信義則上の義務 に違反 した もの」として説明義務違反 を肯定 し
、
Ⅹ1・Ⅹ2
にそれぞれ慰謝料 を認めた。そ もそ も財産的損害賠償が請求 されていないので、それ と慰謝料請求 との関 係は明確 ではないo Lか し、単なる信義則上の義務違反を理由に、つ まり、例 えば 「悪質な」義務違反等 を要求することな く請求が認容 された点は注 目に億 する。 また、本件で財産的損害が主張 されていない理由は、値引 き販売等 と異 な り、ペ ッ トの飼育の可否それ自体 を財産的損害 として認定 し難いためであ り、
それゆえ、その ような場合 は単なる義務違反で足 りると解することも可能であ る。
(三)従来の裁判例 と本件 との比較
1
一審 と本判決一審は
X
が主張する財産的損害の算定根拠 を否定 (前記三 (三)参照) した 後 に、「もっとも、前記の とお り、
Ⅹへの販売価格の設定 はやや高額 に過 ぎた ことも事実であ り、この点 を全 く無視するのは相当ではないか ら、このことをⅩの被った精神的損害において考慮すべ き事情の 1つ とする」と説示 していた。
つ ま り、補完的機能が作用 していると考 えられる。前記 (ニ)
2
回 と同様 に、25この意味の慰謝料 は 「本来は財産的損害である」 とも考 え られる (四宮 ・ 前掲注