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ドイツ法における契約義務違反責任の基本特性

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ドイツ法における契約義務違反責任の基本特性

著者 プレルス, ユルゲン, 金岡 京子

雑誌名 明治学院大学法律科学研究所年報 = Annual Report of Institute for Legal Research

27

ページ 65‑85

発行年 2011‑07‑31

URL http://hdl.handle.net/10723/2172

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ドイツ法における契約義務違反責任の基本特性

ユルゲン・プレルス*

金 岡 京 子(訳)

阿 部 満(監)

数年前に改正されたドイツ債務法は、契約義務違反責任についてかなり詳細に規定しています。

他方、日本法においては、特に民法415条、416条がありますが、契約義務違反責任に関する規定 は多くありません。もっとも、日本では民法改正が検討されています。したがって、ドイツの契 約責任法は、おそらく日本にとっても興味深いのではないかと思われます。しかし本稿では、そ の基本特性だけを論じることになります。

A.はじめに

Ⅰ.契約責任と契約外責任との相違

ほとんど全ての法秩序は、他人に損害を与えた人に負担させることのできる責任と、損害を与 えた人と損害を被った人との間の契約関係を前提とする責任とを区別しています。契約関係を前 提としない責任においては、一方において、故意または過失による作為あるいは不作為に対する 責任、つまりいわゆる不法行為責任が問題となりますが、他方において、加害者が求められる注 意を尽くして危険の発生を回避することができたか否かを考慮することなく、特定の危険が発生 したことで十分とする危殆化責任または危険責任が問題となります。

契約義務違反に対する責任と契約外責任との相違は、ドイツ法では相当大きなものとなってい ます。一般的には、契約責任を根拠とすることができれば、そのほうが損害を受けた人にとって は有利になるといえます。とりわけ、責任要件について、このようにいうことができます。危険 責任は、たとえば自動車の保有者のように(道路交通法7条)特にさまざまな法律で規定された 危険源を支配する者のみが負担します。ドイツの不法行為法においても、個々の回避すべき損害 が、どのような基準に基づき、加害者によって賠償されるべきかについての一般規定は存在して いません。むしろ、どのような要件の下で、損害賠償が支払われるべきであるかについて、比較 的正確に規定した個別の責任規範があります。このような責任規範がなければ、市民の行為自由 は、ドイツ人の考え方によると、非常に制限されることになってしまうことになったでしょう。

この責任規範のなかで最も重要なものは、ドイツ民法823条1項です。この規定によれば、他人 の健康、自由、所有権、もしくはその他の権利1が、違法かつ有責的に侵害されたことにより発 生した損害は、賠償されなければなりません。したがって、加害者に対する損害賠償請求権を正 当化するためには、他人に対する何らかの回避されるべき侵害があっただけでは、決して十分で はありません。また被害者は、加害者の帰責事由を証明しなければなりません。被用者の選任ま

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たは監督について、使用者に帰責事由がある場合にのみ、使用者は被用者の加害行為に対する責 任を負います。もっとも使用者責任の場合には、使用者に帰責事由があることが推定されますの で、使用者は、帰責事由がないことを自ら証明しなければなりません(ドイツ民法831条)。契約 責任法においては、これらの事情は、異なった内容で規定されています。したがって、いずれに してもドイツでは、契約義務違反に対する責任は、非常に重要なテーマです。

当事者が契約の準備段階で負担する義務違反があったときも、契約責任の規定はその威力を発 揮できるようになりました(ドイツ民法311条2項)。

Ⅱ.契約責任の内容

責任に関して述べる場合には、まず第一に、損害賠償義務が論ぜられます。しかし契約義務違 反は、債務者に不利となる他の法律効果につながる可能性があります。たとえば、売買契約(ド イツ民法323条以下)のような双務契約の場合には、債権者は、解除権を行使することができます。

債権者が、日本法にも規定がある(民法541条から543条)この権利を行使する場合には、双方の 契約当事者の契約義務は消滅し、契約に基づき財産が移転したときは、一定のルールに従い、清 算されます(ドイツ民法346条以下)。解除は、債務者の帰責事由を要件としていません。解除の 場合であっても、損害賠償請求の要件が満たされるときは、損害賠償請求権は排除されていませ ん(ドイツ民法325条)。本稿では、債務者の解除権については若干言及しますが、損害賠償責任 が中心となります。

Ⅲ.法規の構成

最初に法規の構成について簡単に述べます。

中心となる規範は、ドイツ民法280条1項です。この規定は、債務者が義務違反について責任 があるときは、義務違反による損害を賠償しなければならないことを定めています。この規範は、

さまざまな種類の義務違反を顧慮して、補完されています(ドイツ民法281条、283条、286条参照)。

これらの特別規定が適用されないときは、損害賠償請求は、ドイツ民法280条1項に基づき行わ れます。したがって、その損害は、債務者に責任がある義務違反により生じたものであれば、

280条1項の要件を満たすことになります。

B.給付義務と保護義務の相違

契約義務違反の中心となる要件は、義務違反です。ドイツ法では、この義務違反は、帰責事由 と区別されています。帰責事由は、債権者が損害賠償請求をするためにさらに求められる要件で す。この点に関しては後にさらに詳しく論じます。

義務違反を定義するためには、さらにその他の責任要件を顧慮するならば、多様な契約義務を 区別する必要があります。

契約義務には様々なタイプがあります。債権者に対し、契約により負担した給付を提供する債 務者の義務が中心となります。したがってたとえば、売主の義務は、買主に対し、売買の目的物

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を引き渡し、その所有権を移転することです。そのほかに、付随義務があります。付随義務も、

債権者が債務者から何らかを受け取るということを根拠とすることができます(付随給付義務)。

たとえば賃貸人は、賃借人に対し、賃貸した住居の鍵を引き渡さなければなりません。この点に 関しては、給付義務と同様の義務が適用されます。付随義務の中でも重要なグループは、保護義 務です(ドイツ民法241条2項)。保護義務とは、債務者が接触している、給付利益以外の債権者 の利益に配慮すべき義務です。したがって保護義務の場合には、債権者に対し、債務者が義務を 負っているものを提供することが問題となるのではなく、債権者の利益を害さないように、債務 者が給付義務の履行に関連する行為2をなし、または行為をなさないよう配慮することが問題と なっています。これらの保護義務に関する具体的規定は、大半は法律にも契約にも定められてい ません。一般的にはおおよそ次のように表現されています。債務者は、可能な範囲内であり、か つ期待できる範囲内で、債権者の利益を害さないように行為しなければならない、ということで す。この非常に漠然とした定めは、債務者が行為している状況に応じて具体化されます。その場 合、債権者の所有権侵害の回避がしばしば問題となります。したがってたとえば、債権者の場所 で仕事をする職人は、その場所にあるものに損害を与えないように行為する義務があります。確 かにこのような場合には、不法行為責任も考えられます。しかしすでに述べましたように、契約 義務違反責任は、債権者にとって有利です。

C.給付義務違反に対する責任

つぎに給付義務違反に対する責任を取り上げます。最初に、この責任の適用要件を論じます。

そして次に、この責任の内容と範囲について論じます。

Ⅰ.責任の要件 1.給付義務違反

a)一般論

責任の最初の要件は、義務違反です。義務づけられた給付が、その義務に基づき提供さ れないときは、給付義務違反となります。通説であり、かつ正しい見解3によれば、給付 義務違反の原因は重要ではありません。その給付障害について、債務者に帰責事由があっ たか否か、したがって、債務者が要求される注意を尽くしてその障害を回避し得たか否か ということは、特に重要な役割を担っていません。たとえば地震で売主の営業場所が破壊 されたため、売主は履行できないか、または適切な時に履行することができないと仮定し ます。それにもかかわらず、この場合にも、給付義務違反が存在しています。債権者が被っ た義務違反の不利益を債務者に負担させることを正当化させる関係が、給付義務違反の根 拠となる事情と債務者の帰責事由との間に、存在しているか否かは、第二段階で検討され ることになります。このようにさらに求められる要件は、義務違反に対する債務者の有責 性と呼ばれています。義務違反に対する債務者の有責性の確定には、債権者よりも債務者 に義務違反の不利な効果を負わせるほうがよい、という命題が最初に込められています。

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債務者の有責性においては、第一に、債務者または履行補助者の帰責事由が問題となりま す。この点については後に言及します。

b)個々の義務違反

給付義務違反には様々な種類があります。履行不能、履行遅滞、義務づけられた給付と 実際の給付とが異なっている場合、つまり、欠陥がある物の給付のような、いわゆる不完 全履行があります。債務者が履行期に履行しなかったとき、債権者は、不完全履行の場合 のように、特定の要件を満たせば、履行に代わる損害賠償を請求し、そのことによって、

契約を清算する可能性もあります。これらの様々な給付障害に対する責任は、部分的に異 なった規定が定められています。たとえば、債務者またはその履行補助者に帰責事由があ るというだけでは、履行遅滞および不完全履行による責任を負わせるには十分ではありま せん。この点に関しては、後ほど詳しく論じます(aa,bb以下)。

重要な契約類型の場合には、給付障害の効果が特別に規定されています。しかしこれら の特別規定は、給付義務違反に関する一般規定が債権者に与える権利を債権者から奪って おらず、むしろぎりぎりのところで一般規定を修正し、債務者に追加的な権利を与えてい ます。後でこの点について論じます。

aa)履行不能

最初に履行不能を取り上げます。つまり、契約締結後に発生した履行不能について詳し く論じます。原始的不能の特殊性については、後に取り上げます。

aaa)その給付が、誰にとっても、または少なくとも債務者にとって、まったく不能になっ たとき(物理的または法的不能)、したがってたとえば、売買の目的物が引き渡し前に滅 失したとき、債務者は給付義務を免れますが(ドイツ民法275条1項)、その不能について 責任がある場合には、損害を賠償しなければなりません(ドイツ民法280条1項との関連 におけるドイツ民法283条)。売主が契約締結後はじめて調達しなければならない種類物売 買の場合には、履行不能は、債務者が市場においてすでに入手不能であるため、債務者が この種類の物を調達できないこと、または、売主が、いずれにしても何らかの理由で、そ の種類の物の獲得を妨げられている(この点に関しては、下記2b,bbにおいても論じてい る。)ことを要件としています。もっともあるときから、もとの種類債務が特定物の引渡 し債務に、つまり特定債務に変化した場合には(いわゆる種類債務の特定、ドイツ民法 243条2項参照)、この物を引き渡すことができなくなったとき、履行不能になります。こ のような変化の詳細は、複雑です。たとえば、売主が買主に対し、買主の住所地にその物 を持参しなければならない場合(持参債務)、債務者が債権者にある物を提供し、債権者 が受領を遅滞したときは、種類債務は特定債務に変わります。たとえばある船舶の船倉か ら石油を引き渡す場合のように、売主がある特定の貯蔵庫から物を引き渡す義務を負って いる種類債務も存在します4。このように制限された種類債務の場合には、貯蔵がなければ、

すでにそのときに履行不能となります5

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金銭債務の場合には、通説によれば、義務づけられた金銭の支払不能は、債務者を債務 から解放しません。金銭的な給付能力に関し、無条件に責任を負わなければならないとい うことは、自由主義的な経済秩序の基本原則によるものであり、強制執行の法と倒産法で 示されています。債務者が債権者に対し、金額で表示された価額をそのまま引き渡し、そ のことによってこの価額分の債務者の財産を減らす必要はなく、むしろ第三者から調達し た特定の金額を債権者に引き渡さなければならない場合に、したがって、債務者が金銭に 関し、「通過地点」にすぎない場合には、この原則とは異なった原則が適用されます。こ の場合には、物の譲渡義務の場合と同様の規律が適用されます。つまり、何らかの理由で、

たとえば、債務者の銀行の倒産により、その金額が失われた場合に、債務者は履行義務を 免れますが、その金銭の喪失について、債務者に責任がある場合には、ドイツ民法283条 による責任を負います6

給付義務を履行するためには、法外な費用が必要となる場合に、狭義の意味での履行不 能の場合と似たような状況になります。この場合に、債務者は履行を拒絶することができ ます(ドイツ民法275条2項)。履行義務を免れることと債務者の履行拒絶権との相違に関 しては、本稿では詳述せず、同等に扱います。ドイツ民法275条2項1号によれば、とく に法外であるか否かを判断する場合には、債務者の費用は、債権者の給付利益の範囲と比 較されなければなりません。Aは、Bに対し、1バレルあたり50ドルで石油を販売したと 仮定してみます。世界市場におけるAの仕入れ価格は、契約締結時には、1バレルあたり 約45ドルでした。Aの仕入れ価格は、突然1バレルあたり100ドルに上昇した結果、Aは 契約を履行するためには、1バレルあたり100ドル支払わなければならなくなってしまい ました。なぜならAは、契約締結時には、引き渡すべき石油をまだ調達していなかったか らです。この事情があったがために、ドイツ民法275条2項が適用されるのではありません。

Bの給付利益は、Aの費用が高くなったことと同様に、まさに高くなっているからです。

このような場合には、履行不能の規定が適用されるのではなく、独自の法制度があります。

つまり、いわゆる行為基礎の障害に関する規定です(ドイツ民法313条)。この規定に関し ては本稿では詳しく論じないこととします。したがって、ドイツ民法275条2項が適用さ れる事案は、比較的まれです。なぜなら、債務者の費用が増えると同時に、その費用に対 応する債権者の給付利益も高くなることが多いからです。いずれにしても、債務を履行す るためには、債務者は、予定されなかった費用を負担しなければならない可能性がありま 7

本稿では取り上げませんが、履行不能には別の形態のものもあります。一身専属的給付 の履行を求めることができない場合です(ドイツ民法275条3項)。もっともわかりやすい 例は、歌手が、出演の日に、重い病気にかかった子供の面倒をみなければならない場合で す。

債務者を給付義務から免れさせる不能に陥ったということは、そのことだけでもすでに 給付義務違反となります。したがって履行不能は、すでに発生した特定の法律効果を失わ せます。たとえば双務契約の場合には、債務者は、反対給付請求権を失います(ドイツ民

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法326条1項)。債権者は、ドイツ民法326条5項、323条により、解除することもできます。

別の給付義務違反を理由とする解除の場合とは異なり、債権者は債務者に対し、成果なく 過ぎ去るだけの催告期間を定める必要はありません。もっとも債権者が損害賠償を求める ためには、すでに述べ、これからさらに詳しく論じますが、履行不能を基礎づける事情に ついて、債務者が有責であることがつけ加わらなければなりません。その他の要件は存在 しません。

履行不能を基礎づける給付障害は、一時的な性質を有する場合もあります。原料を輸出 する国で騒乱が起こったため、売買された種類のものを生産するために必要な原料が一時 的になくなった場合、または、たとえば芸術作品の制作のように、一身専属的給付をする 債務者が病気になった場合が思い浮かびます。かつての通説によれば、履行不能の規定の 適用は、継続的不能を要件としていました。一時的不能の場合には、履行遅滞の規定、と りわけ、ドイツ民法326条の旧規定が適用されるべきであると考えられていました。もっ とも、その一時的不能が、継続的不能と同視され得る場合には、履行不能の規定が適用さ れるべきであると解されました。一時的不能により、契約目的の達成が危殆化されたため、

障害が取り除かれるまで、当事者を契約に引き留めることを要求し得ない場合は、履行不 能の適用対象となると考えられました8。この見解によれば、たとえば、製造者が、売主 によって調達された商品の迅速な売り上げに関心のある商人に対し、何らかの事情により 長期間、何らかの物を引き渡すことができなくなった場合9、または工場が設置されるべ きであった地域で予測のつかない間、騒乱が続いている場合10には、履行不能が認められ るべきことになります。改正された債務法においては、連邦政府の本来の提案に反し、明 示的規定は設けられず、立法者は、この問題の解決を判例および法学に委ねました11。こ のことによって、再び議論が活発になりました。一時的不能はドイツ民法275条により債 務者を給付義務から免れさせるか、もしくは少なくとも、給付障害が存続する限り、債権 者の請求権行使可能性は妨げられている、という考えが、現在では広範に一致した見解と なっています12。一時的不能が継続的不能と同視されるべきでない場合は、債務者に責任 を負わせるべき履行不能のみを要件とする、ドイツ民法283条による損害賠償請求権につ いては、連邦通常裁判所13は、通説14と同じ見解により、認めませんでした。その他の点 では、債権者はドイツ民法323条によって(ドイツ民法323条との関連におけるドイツ民法 326条によるのではなく)解除できるということが、通説的見解15です。この解除は、ド イツ民法323条との関連における326条による解除とは異なり、債権者が、給付のための期 間を設定し、その期間が成果なく経過したことを(原則的に)要件としています。そのほ かに、一時的不能について債務者に責めに帰すべき事由があり、かつ、ドイツ民法281条 が(原則的に)要件としている通り、債務者のために設定した履行期間が、成果なく経過 した場合には(この点に関しては下記3)、債権者は、ドイツ民法281条により、契約不履 行を理由とする損害賠償を請求することができると解されています16。最終的に一時的不 能について債務者に責めに帰すべき事由がある場合に、債権者は、契約を維持し、かつ、

遅滞損害の賠償を請求する(この点に関しては、下記Ⅱ2)という可能性もあると考えら

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れています(ドイツ民法280条2項、286条)17。もっともこの権利は、債務者に対し行使 可能な請求権を要件としています。この請求権は、まさに一時的不能の場合においては、

上述したように、不能の期間中には、存在しないと解されています。したがって、一時的 不能の事案においては、この請求が断念されなければならず、給付障害がなくなったこと により、いつ、債権者の請求権の期限が到来したと解されるか、ということに焦点があて られなければなりません18。連邦通常裁判所が、債務法改正後においても支持しているよ うに(上記参照)、今後も引き続き、特定の状況においては、一時的不能と継続的不能を 同視するという見解が維持されるべきであるか否かは、議論の余地があります19

bbb)これまでは、契約締結後に発生した履行不能について論じてきました。しかし契 約締結時にすでに、給付が不能になる可能性もあります(原始的不能)。たとえば、Aは、

Bに対し、船舶Xにある特定の船荷を、たとえば穀物類を売りました。その船舶は、契約 締結の少し前に沈没しました。売買された物が、契約締結前にすでに、除去することので きない欠陥を有している場合にも、原始的不能となります20

原始的不能の場合にも、契約は有効です(ドイツ民法311a条1項)。その給付が債務者 にとってだけでなく、誰にとっても不能である場合であっても、契約は有効です21。もっ とも、不能がこのように契約締結前に発生しているため、契約上の給付義務違反はあり得 ません。それにもかかわらず、債務者がその不能を知っていたか、または、要求される注 意を尽くせばその不能を知り得た場合には、債権者は、給付義務の不履行を理由として、

損害賠償を請求することができます22(ドイツ民法311a条2項)23。そのほかにいずれに しても債権者は、ドイツ民法326条5項により、解除することができ、債務者は、ドイツ 民法326条1項により、反対給付請求権を失います。したがって、債務者が、給付不能を そもそも知らない場合には、債務者の帰責事由の基点は、不能を基礎づける事情の発生で はなく、むしろ、債務者の給付不能に関する情報欠如にあるということを度外視すれば、

本質的には契約締結後の履行不能の規律が適用されます。債務者が、給付不能について無 責の錯誤に陥っていた場合には、少なくとも損害賠償の方法で、債権者がその契約を締結 しなかったならば、存在したであろうと認められる金額を債権者に支払わなければならな いか否かについては、異論があります(消極的利益の賠償請求)24

一時的な原始的不能に関しては、債務者の帰責事由の基点が、不能の発生ではないとい うことを度外視すれば、本質的には、契約締結後の一時的不能の規律が適用されます25

bb)履行遅滞

おそらくもっとも頻繁におこる給付義務違反の形態は、遅延損害の賠償を効果とする履 行遅滞です(ドイツ民法280条2項、286条)。履行期に履行が可能であるにもかかわらず、

履行がなされず、かつ、その他の要件(この点に関してはccで論じます)が満たされる場 合は、給付に代わる損害賠償請求権(もしくは契約の解除権)が認められます。

遅延損害の賠償請求は、債権者が履行期に給付を請求することができ、かつ、債務者が、

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ドイツ民法275条によれば、履行不能になっていないにもかかわらず、その履行期に履行 しなかった26ことを要件としています27。債権者が履行請求できるときは、契約による合 意または契約締結時の事情によります(ドイツ民法271条)。しかしながら、債務者が適切 な時期に履行しなかったことに、給付義務違反があると、簡単に決めることはできません。

むしろ、原則的には債権者の催告が(ドイツ民法286条1項)、つまり、債務者に対し、履 行の提供を求めるということが、追加されなければなりません。原則的には、催告したに もかかわらず、履行しない債務者のみが、履行遅滞となります。この要件に関して、例外 があります(ドイツ民法286条2項)。たとえば、契約において、特定の日付が履行期とし て合意されている場合、または、少なくともカレンダーに基づき、履行期を算定できる場 合には、催告は要件とされません。債務者が最終的に履行を拒絶したときも、同様に催告 を要しません。催告の要件に関するその他の例外については、本稿では取り上げません。

上述した履行遅滞の要件が満たされるとき、その遅滞について債務者に帰責事由がある 場合にのみ、債権者は損害賠償を請求することができます(ドイツ民法281条2項、286条 5項)。

cc) 履行期に履行がなされないこと(不履行を理由とする損害賠償の観点から)および不 完全履行

債務者が、(履行が可能であるにもかかわらず)履行期に履行しなかったときは、債権 者は、債務者が履行遅滞に陥り、債務者にその遅延損害を請求する可能性があるだけでな く、ドイツ民法281条1項の特別な要件を満たせば、給付に代わる損害賠償を請求するこ とができます(もしくはドイツ民法323条による解除権の行使)。このことはとりわけ、履 行遅滞があったので、契約に拘束されることを望まず、むしろ給付に代わる損害賠償の請 求によって(もしくは解除により)契約を解消したい債権者にとっては、重要です。この ような請求の要件は、これから論じる不完全履行の場合と同じです。

債務者が履行を提供したけれども、その履行に欠陥があった場合には、したがってたと えば、売主が契約で求められた質を備えていない物を引き渡した場合には(この点につい ては、ドイツ民法434条に詳しく規定されています。)、その不完全履行について、債務者 に責めに帰すべき事由がある場合には、債権者は、ドイツ民法280条1項との関連におけ る281条1項に基づき、給付に代わる損害賠償を請求することができます。もっとも債権 者は、原則的には債務者に対し、義務づけられた履行を契約に定められた通りに提供する 機会を与えなければなりません(この点については下記3)。解除の場合にも(ドイツ民 法323条)、このことが当てはまります。すでに何度か述べられてきたように、義務違反に ついて、債務者に帰責事由があることは、要件とされていません。

通説によれば、決められた通りの履行が遅滞しているということは、不完全履行ではあ りません28。したがって一時的に(まったく)履行が行われないことは、遅滞の理由とな ります(債務者の遅延損害賠償責任という効果を伴う)。たとえば、欠陥があるために利 用することのできない物の給付のような不完全履行が、債権者の営業を停止させた場合は

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(この点については下記Ⅱ2)、このことはとりわけ実際に重要となります。したがって たとえば、売主が除去できない欠陥を有する物を提供した場合には、不完全履行において も、履行不能になる可能性があります(上記aa,bb参照)。

瑕疵ある給付の法律効果は、さまざまな契約類型において、たとえば売買契約における 場合(ドイツ民法437条)のように、特別に規定されています。もっともこれらの規定は、

対応する一般規定を参照指示することにより(たとえば売買契約に関するドイツ民法437 条2号、3号)、債権者が一般規定に基づき損害賠償を請求できるか、もしくは契約を解 除できることも規定しています。

2.義務違反に対する債務者の有責性

a)債務者または履行補助者の帰責事由

給付義務違反は、違反の原因とは無関係に確定されるため、給付義務違反があったとい うことだけでは、債務者の損害賠償責任の十分な根拠にはなりません。したがって、すで に概略を示したように、ある関係が義務違反の根拠となる事情と債務者との間に存在して いなければなりません。その関係に基づき、義務違反の結果は、債権者によって負担され るべきではなく、債務者に転嫁されるべきことになります。債務者には、義務違反につい て、責任がなければなりません。これは、さしあたり、債務者には、義務違反について帰 責事由がある場合、つまり、債務者が、故意または過失により、義務に違反した場合にい えます(ドイツ民法276条)。過失とは、要求される注意を怠ることを意味します。過失の 場合に問題となるのは、債務者が義務違反の原因となった事情を予見し、かつ、回避し得 たか否かということです。そのために債務者にどれだけの費用が要求されなければならな いかという点は、非常に不確定的です。この点に関しては、ここでは詳しく立ち入らない ことにします。いずれにしても重要なことは、債務者の個人的な過失、場合によっては、

債務者の軽微な過失が問題になるのではないということです。むしろ要求される注意の基 準は、問題となっている義務を負担した平均的債務者に期待し得る能力です。さらに強調 されるべきことは、ドイツ法では、帰責事由は、損害に関連している必要はなく、義務違 反にのみ関連しているということです。

被用者であれ、独立実業家であれ、給付義務を履行するときに債務者を補助する人の帰 責事由は、債務者の帰責事由と同視されます(ドイツ民法278条)。この履行補助者に関す る責任は実際に非常に重要であり、本質的な点で、契約責任と不法行為責任とを区別して います。なぜなら、他人が責任者の指示に従っている場合であって、つまり責任者の被用 者である場合であって、その責任者が監督義務に違反した場合にのみ、他人の誤った行為 による不法行為責任が、ある人に課せられることになるからです(ドイツ民法831条参照)。

履行補助者に関する債務者の責任根拠は、見解が分かれており、したがってこの責任の 適用範囲に関しても見解が分かれています。多くの説においては、−ドイツ民法の立法理 由に依拠し29、−履行補助者は、債務者の利益のために活動しているので、債務者は、履

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行補助者の誤った行為によって発生した不利益を負担しなければならないと主張されてい ます30。給付義務には、履行補助者の帰責事由について責任を負うという保証が内在して いるという見解31や、債務者は、債権者よりも、債務者の履行補助者の誤った行為のリス クをよく支配しているという見解32が考慮されています。これらの見解は納得できるもの ではなく、またいずれにしても、ドイツ民法278条の適用範囲に関する具体的な結論と認 めるには、あまりにも一般論的すぎます33。私の考えでは、平等な扱いということが重要 です。ある他人の行為が、ある目的の追求であるとして、ここでは、債務の履行という目 的の追求であるとして、債務者の行為と同視するならば、履行補助者が行為したようには、

債務者は行為しなかったということは、重要になり得なくなります。債務者自身が、誤っ た行為をしなかったならば、債務者は、履行がなされなかったことによる損害が債権者に 発生しないように必然的に尽力しなければならなかったはずであろう、ということも重要 になり得なくなります。債権者に損害が発生しないようにするこの義務は、不注意な行為 の場合の損害賠償義務と同じです。したがって債務者は、あたかも債務者自身が履行補助 者と同じ行為をしたかのように扱われなければなりません。そうでなければ、債権者は不 当な不利益を被ることになるでしょう34。この検討はまだ非常に抽象的であり、具体化さ れなければなりません。具体化することは、相当複雑である35ため、本稿では述べること ができません。いずれにしても、私の見解では、平等な扱いの原則が履行補助者の責任を 求めているため、履行補助者の責任が法律に明示的に規定されていない場合であっても、

履行補助者の責任は、本来的に、認められなければならないと考えます。

b)帰責事由に左右されない責任

債務者または履行補助者に帰責事由が存在する場合に限り、債務者は、給付義務違反に ついての責任を負うとは限りません。法律に基づく場合は別として、「債務関係の内容」

に基づき(ドイツ民法276条1項1号)、より厳格な責任(あるいは本稿では述べませんが、

より軽度な責任)が課せられる場合もあります。

aa)金銭債務

ある人が金銭債務を負い、資金不足により弁済しないか、適切なときに弁済しないとき は、その資金不足について、債務者に帰責事由があるか否かは問題になりません。すべて の人が、金銭的給付能力について無条件に責任を負わなければならないことについては、

すでに倒産法と強制執行法で規定されています。このことから明らかであるのは、金銭債 務の債務者は、債務を負った金銭を支払うことができない場合に、ドイツ民法275条1項 により、その債務を免れられないということです(上記1.b,aa,aaa参照。そこでは、この 原則の例外についても参照)。

bb)保証と取得リスクの引受

帰責事由が問題とならないそのほかの重要な場合は、保証の引受の場合です。したがっ

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てたとえば、物の売主が、売買した物に義務付けられた品質があることを保証する場合で す。保証の引受は、法律に規定されていますが(ドイツ民法276条1項)、本来は当然のこ とです。保証を引き受けた人は、帰責事由を顧慮しないで、責任を負う意思があるという ことが、ドイツ民法276条の意味での保証のまさに本質であるからです。保証が明示的に 引き受けられていないが、債務者の行為から保証の引受を推認できるか否かが問題となっ ている場合には、保証の引受が疑わしいものとなります。なぜなら提供すべき給付に関す る記述がすべて、すでにその給付に対する保証を意味しているわけではないからです。む しろ債権者は、債務者の行為から、債務者が通常の責任を超える責任を引き受ける意思が あることを察知することができなければなりません。

保証以外に、法律は、取得リスクの引受について規定しています。取得リスクは、物の 売主が、売買契約締結時に売った物をまだ占有しておらず、売買契約締結後取得しなけれ ばならない場合に、特に問題となります。たとえば特定の種類の車両というように、抽象 的な特徴のみによって示されており(種類債務)、契約締結後しばらくしてからはじめて 引き渡されるべき物を売主が売る場合に、取得リスクがしばしば発生します。このような 事案においては、たいていの場合、売主は、明示的な意思表示をしていなくても、取得リ スクを引き受けていると解されるべきであり36、売主がその物を適切な時に調達できな かったときは、帰責事由がないことを援用することはできなくなります。明示的な合意が ない場合に、この取得リスクの引受は、取得それ自体にのみ関係しているか、あるいは、

引き渡されるべき物が契約に基づき質を備えていることも含むかは、争われています。通 説は、取得のみに限定したリスクの引受という考え方を支持し、物の瑕疵を理由とする損 害賠償請求に関しては(ドイツ民法437条3号、280条3項、281条1項)、瑕疵ある物の引 き渡しについて、売主に帰責事由があるか否かによると解しています37

3. 履行期に履行がなかった場合、および不完全履行の場合における給付に代わる損害賠償責 任のための期間設定の要件

a)期間の設定

上述した意味で給付義務違反について債務者に責任があるとき、履行不能の場合には、

損害賠償責任を負います。すでに説明しましたように、履行遅滞は、原則的に催告を要件 としています。不完全履行の場合、または履行期に履行がなされなかった場合に、給付に 代わる損害賠償責任を認めるためには、原則的には、債務者が不完全履行または不履行に ついて責任があれば十分であるとはいえません。むしろ債権者は、債務者に対し、契約に 定められた通りに履行するために適切な期間38を与えることによって、債務者が契約に基 づき履行する機会を与えなければなりません(ドイツ民法281条1項)。したがって、瑕疵 ある物の引き渡しを受けた買主は、その物を契約に基づく状態に修繕する機会を、もしく は、瑕疵がない物を提供することが可能であれば、引き渡された物の返還と引き換えに、

瑕疵がない物を提供する機会を売主に与えなければなりません(ドイツ民法437条3号、

(13)

439条1項、4項、281条)。契約に基づく給付がなされないまま、その期間が経過したと き初めて、債権者は損害賠償を請求することができます。したがって買主が、売主に対し、

契約に定められた通りに履行する機会を与えないで、自らその瑕疵を除去したときは、そ の費用を売主に請求することはできません39

少なからぬ事案において、期間の設定は求められていません。たとえば、債務者が給付 を最終的に拒絶した場合や、すぐに損害賠償請求することについての債権者の利益が非常 に強いため、債権者のその利益が、契約に定められた通りに履行する機会をなお与えられ ることについての債務者の利益よりも重要である場合があります(ドイツ民法281条2項)。

どのような要件が満たされれば、このような債権者の利益の優位が認められるべきかにつ いて決定することは困難です。たいていの場合、迅速な介入を要する緊急の場合が問題と なっています。ある動物の売主が、病気の動物を引き渡しましたが、この動物が死亡しな いようにするためには、この動物が獣医によって早く治療されなければならない場合が考 えられます40。さらに連邦通常裁判所は、売主が瑕疵について詐欺的に沈黙したときは、

買主は売主に対し、契約に定められた通りに履行するための期間を設ける必要はないとい う判決を下しています41

争われているのは、ドイツ民法281条の損害賠償請求を考慮し、債務者の有責性の基準 点が、期間を設けた後に履行しなかったことにあるのか、あるいは、元来の義務違反につ いて債務者に責めに帰すべき事由があるということで十分であるか、したがって、債務者 または債務者の履行補助者が、契約通りに履行すべき期間に遅滞したことに帰責事由があ るか否かは問題とならないか、ということです。正しいけれども異論の余地がある見解に よれば、元来の義務違反か、あるいは期間設定後に履行しないことのいずれかについて、

債務者に責めに帰すべき事由がある場合には、債務者は責任を負います42。したがって、

元来の義務違反について、債務者に帰責事由がある場合には、期間設定後に履行しなかっ たことについて、債務者に帰責事由がない場合であっても、債務者はドイツ民法281条に よる責任を負うことになります。

b)履行請求権の消滅

効果なく期間が経過した場合であっても、期間を設定したというそのこと自体によって、

債権者から履行請求権が奪われることはありません。債権者が履行に代わる損害賠償請求 をしない場合には、期間満了後に、なお履行を請求することができます(ドイツ民法281 条4項)。債権者が、期間が効果なく満了した後に、履行を請求したときであっても、通 説によれば、債権者は、後で、損害賠償請求に変えるか、もしくはドイツ民法323条によ り契約を解除することができます43。このようにしばらくの間、履行請求と損害賠償請求 または解除による契約解消の可能性が併存していますと、このことによって債務者は不安 定な状態におかれるため、債務者にとっては、好ましくない状態になります。このような 債務者を助けるために、様々な解決方法が提案されてきましたが44、本稿ではこの点につ いて詳しく論じないこととします。

(14)

4.義務違反と損害との間の関連

上述した損害賠償請求のための要件以外に、債権者が義務違反により損害を被ったことが、

もちろん要求されます。すでに述べましたように、帰責事由は、義務違反にのみ関係してい ます。したがって、債務者が損害を予見することができたか否かは問題となりません。しか しながら他方において、単に損害が引き起こされたというだけでは十分ではありません。

むしろ要件としてさらに求められることは、損害の発生が、まったくあり得なくはなかっ たということです。しかし法律に規定されていないこの要件45が欠けていることは、非常に まれです。同様に明示的に法律に規定されていない別の要件のほうが、さらに重要です。発 生した損害の回避が、違反された義務の保護目的によって、保障されるものではければなり ません46。たいていの場合は、この場合にあたりますが、この場合とは異なった場合も存在 します。ある銀行は、その顧客に対し、ある投資に伴うリスクXについて説明しなければな りませんでしたが、リスクYについて説明する必要はなかった、と仮定してみます。その銀 行は、その顧客に対し、リスクXに関する説明をしませんでした。リスクXは発生しなかっ たのですが、リスクYは発生しました。この場合に、リスクXに関する説明義務違反が、損 害の原因であったにもかかわらず、顧客が、リスクXに関する説明があった場合に、その銀 行に勧められた投資対象に顧客の金銭を投資しなかったであろうと認められるときは、顧客 は、リスクYの発生を理由とする損害賠償を請求することができません47

最近連邦通常裁判所は、ある弁護士が、損害賠償請求された夫婦に対し、誤った助言をし たという事案について、判決を下さなければなりませんでした。その夫婦によって意見を求 められた弁護士は、その夫婦に対し、その夫婦の責任義務保険の保険者は、その損害に対す る保険金を支払わないはずなので、その損害を自分で賠償しなければならないと、言いまし た。そのため、その夫婦はショックを受けました。その弁護士が言ったことは、間違ってい ました。したがって、その夫婦は、その弁護士に対し、ショックを受けたことにより発生し た精神的損害の賠償請求をしました。連邦通常裁判所は、その弁護士の助言義務は、依頼人 の健康を害することによる非財産的損害の発生を阻止すべきものではなったという見解でし 48

5.証明責任

客観的な給付義務違反の存在は、いずれにしても原則的には、債権者が証明しなければな りません。同様に、損害および義務違反と損害との間の関連性についても、債権者が証明し なければなりません。債務者または債務者の履行補助者の帰責事由を明らかにする事実につ いては、この場合とは異なってきます。債務者は、その義務違反について、帰責事由がない ことを証明しなければなりません。したがってこの証明に関係する事実が明らかにされない 場合は、帰責事由があると判断されます。このことは、ドイツ民法280条1項の規定の文言 から明らかです。

(15)

証明責任の分配では、債権者に有利な、さまざまな例外があります。少なからぬ例外は、

法律によって明示的に規定されており、また、少なからぬ例外は、判例によって展開されて きました。この点に関しては、本稿では詳細に論じないことします49

Ⅱ.損害賠償請求権の内容と範囲

損害賠償の内容と範囲について、これから若干論じます。

1.給付に代わる損害賠償

ドイツ民法280条1項の一般規範によれば、債権者は、義務違反によって発生した損害賠 償を求めることができます。給付に代わる損害賠償(以前は、不履行を理由とする損害賠償)

の場合、履行不能の場合(ドイツ民法283条)以外には、ドイツ民法281条の追加要件が満た されなければなりません(上記Ⅰ3参照)。したがって、ドイツ民法281条により賠償される べき損害が、ドイツ民法280条1項によって簡単に請求され得る損害と区別されていること は、重要です。

給付に代わる損害賠償によって、債権者の給付利益の侵害は、金銭によっててん補される べきことになります。出発点は、契約に基づく履行がなされたときの状況と契約に基づく履 行がなされなかったことにより実際に生じた債権者の状況との比較です。その際に、履行期 に給付がなされなかった場合と不完全履行の場合には、上述した期間の設定により、原則的 に債務者に対し、契約に基づく履行を追完する機会が与えられなければならなかったことが、

考慮されます。したがって、契約に基づく履行を追完することによって、もはや除去するこ とができないか、もしくは阻止することができない、瑕疵ある給付により債権者が損害を受 けたときには、給付に代わる損害賠償ではなく、ドイツ民法280条1項により賠償されるべき、

給付とともにする損害賠償となります。売主が瑕疵ある物を引き渡し、その瑕疵により、買 主の別の物が損傷された場合が考えられます。このような場合には、買主は、売主に追完の ための期間を与える必要はなく、他の物の損害を理由として、損害賠償を求めることができ ます。追完期間を設けることは実際に無意味であるとも考えられます。契約に基づく履行に より瑕疵が除去されるという基準によって、ドイツ民法280条1項により賠償されるべき損 害とドイツ民法281条がその賠償のために適用される損害とを区別することは、ときには困 難になります。たとえば、瑕疵ある給付による営業停止損害の賠償の場合のように(この点 については上記Ⅱも参照)、給付利益にかかわる損害の賠償は、この基準によれば、ドイツ 民法280条1項が適用される、給付とともにする損害賠償にもなり得るからです。したがって、

この基準は具体化されなければなりません50。この点について、本稿で詳しく論じることは できませんが、債権者は、履行に代わる損害賠償の代わりに、給付を受けることを信頼して 支出した費用の賠償を請求することができる(ドイツ民法284条)、ということを言及してお きたいと思います。したがって債権者は、契約に基づく給付を期待して行った投資は、給付 義務違反によって生じたものではなく、その投資利益を失ったにすぎないにもかかわらず、

その投資についての賠償を請求することができます。

(16)

給付に代わる損害賠償は、双務契約の場合に、さらに新たな問題を投げかけています。双 務契約においては、債権者によって負担される反対給付が考慮されるべきであるからで 51。本稿ではこの点に関し、詳しく論ぜず、むしろこのあとすぐに履行遅滞の場合の損害 賠償の話に移っていきたいと思います。

2.履行遅滞の場合の損害賠償

履行遅滞の場合には、まさに給付の遅滞によって発生した損害のみが賠償されます。した がって債権者は、適切な時に給付がなされた場合と同様の状態におかれるべきです。債務者 の責めに帰すべき義務違反を要件とする、ドイツ民法280条1項の一般規範が適用される損 害と、遅滞の要件が満たされた場合にのみ賠償されなければならない遅延損害が問題となる ような損害とを区別することは、問題があると考えられます。とりわけ、瑕疵ある給付の結 果発生した営業停止損害の場合に、この区別は問題のあるものとなります。たとえば、売買 された不動産に瑕疵があったとします。売主は、売主のために設けられた期間内に、その瑕 疵を除去しました(上記Ⅰ3参照)。しかし買主は、瑕疵が除去されるまで、その不動産を 賃貸することができませんでした。そのため、買主は、この事案においては、給付利益が問 題となっているにもかかわらず、ドイツ民法281条に基づき、給付に代わる損害賠償として、

営業停止損害の賠償を請求することはできません。なぜなら、その損害は、契約に基づく履 行が期間内に追完されることによって、除去され得ないと考えられたからです(この点に関 しては上記Ⅰ参照)52。したがって、上述したように、特別な要件が求められる履行遅滞に よる損害賠償のみが考慮されるか、もしくはドイツ民法280条1項の一般規範による損害賠 償が考慮されます。通説によれば、ドイツ民法280条1項が適用され、その結果として、履 行遅滞の要件が満たされる必要はないと解されています。なぜなら、不完全履行は、通説に よれば、契約に基づく給付の遅滞を基礎づけるものではないからです53。債務者がまったく 履行しなかった場合にのみ、履行遅滞が考慮されます。したがって瑕疵ある給付を行った債 務者は、履行しなければならないときにまったく履行しなかった債務者よりも、悪い状態に おかれます。まったく履行しなかった債務者は、履行遅滞の要件が満たされた場合にのみ、

損害賠償責任を負うからです。債権者は、給付のために特定の期間を合意し、または、給付 がなされないとき、ただちに債務者に催告することによって、給付が全く行われないという 結果から保護され得たであろうという理由から、このような相違が正当化されています。こ れに対し、給付の瑕疵は、瑕疵によりすでに損害が発生したときにはじめて認識されること が、しばしばあります。したがって、債権者は、瑕疵ある給付という点に関しては、特別に 保護されるべきであると解されています。

D.保護義務違反に対する責任

これで給付義務違反を理由とする債務者の責任に関する説明は終わりとし、最後に保護義務違

(17)

反を理由とする責任について、若干述べたいと思います。

Ⅰドイツ民法280条1項による責任 1.義務違反と帰責事由

最初にすでに述べましたように、保護義務は、債務者が接する債権者の利益をできる限り 保護することを債務者に義務づけています(ドイツ民法241条2項参照)。債務者は、債権者 が損害を受けないように、その行為を調整しなければなりません。したがって、たとえば塗 装職人のように、債権者の場所で活動する債務者は、債権者の場所にある債権者の物に損害 を与えないように、できる限り注意しなければなりません。

このような保護義務違反を理由とする責任については、ドイツ民法280条1項の一般規定 が適用されます。つまり、債務者は、保護義務に違反し、その義務違反について帰責事由が ある場合には、責任を負うということを意味しています。これ以外は要件とされません。

給付義務違反とは異なり、保護義務違反は、しばしば債務者の行為に関する評価なしに確 定することはできません。債務者は、行為すべきであった行為とは異なる行為をしたという ことでなければなりません。債務者が本来なすべきであった作為または不作為は、債務者が 置かれた具体的状況において、可能な限り損害を回避するために求められる注意を尽くすこ とが必要であった、という基準により、しばしばかなり一般的に評価されます。その場合、

責任能力に関して度外視すれば、保護義務違反を認定することは、帰責事由を認定すること と同じになります。しかし、ある状況において、債権者の利益を保護するために、あらかじ め特定の措置をとることが債務者に求められていますが、債権者の損害を回避するために要 求される注意を尽くすことが、一般的に必ずしも要求されていない保護義務も存在します。

このような場合には、債務者に帰責事由があったか否かを考慮することなく、要求された措 置を行わなかったことが、保護義務違反になります。したがってこのような場合には、義務 違反と帰責事由が同じになることはありません。たとえば、ある機械の売主は、いま述べた 保護義務に基づき、その機械を利用する際の特定の危険について、買主に説明する義務を負っ ています。売主がこの説明を行わなかったときは、保護義務違反になります。しかし、買主 が、その危険を判断できるだけの十分な専門知識を有していたと認めることができるならば、

売主には帰責事由はありません。もっともこの関連においては、まだ徹底的に議論されてい ない問題があることを指摘しておきたいと思います。

債務者は、自己の責めに帰すべき事由についてのみ責任があるのではなく、履行補助者の 責めに帰すべき事由についても責任があります(ドイツ民法278条、この点に関してはすで に上記Ⅰ2aで論じた)。履行補助者は、給付義務を履行するときに、給付に関連する保護義 務の履行にも関与していることが、広く認められています54。たとえば、債務者が債権者の 住居を改築することになっており、一人の従業員をその住居に派遣しましたが、その従業員 が、改築をしているときに、過失により、債権者の何らかの物を損傷してしまったときは、

債務者はその責任を負います。しかし通説は、履行補助者が追求すべき目的を追求したこと により、債権者に損害を与えたことを要求せず、むしろ、履行補助者の行為が、彼によって

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