受領遅滞の不履行︵協力義務違反︶への統合理論
石 崎 泰 雄
はじめに
一︑立法段階における弁済の提供と受領遅滞
1 弁済の提供
2 受領遅滞
二︑比較法︵ユニドロワ国際商事契約原則・ヨーロッパ契約法原則ほか︶における﹁弁済の提供﹂と﹁受領遅滞﹂
ー ユニドロワ国際商事契約原則
2 ヨーロッパ契約法原則
3 諸国の比較法
三︑現代および今後の日本における弁済の提供と受領遅滞
受領遅滞の不履行︵協力義務違反︶への統合理論 ︵都法四十六ー二︶ 九七
九八
1 弁済の提供制度の将来
2 債権者の協力義務違反
3 債権者・債務者による契約内容の実現
4 協力義務違反とならない特別の契約類型
5 協力義務︵受領義務︶違反の効果
6 受領遅滞と履行不能
おわりに はじめに
債務者の弁済の提供と債権者の受領遅滞制度は︑債権者と債務者の権利義務関係が交錯する領域であり︑債権・債
務に関する本質的理解を必要とするにもかかわらず︑旧来研究の不充分な領域であった︒近年この領域にかなり質の
高い研究成果が示され始めており︑これにより︑債権・債務および契約というものへの根源的理解をさらに深める端
緒が開かれたように思われる︒
学説史的な分析に関しては︑既に多くの優れた研究が公にされていることから︑本稿ではそれは割愛し︑まず立法
段階での起草委員を中心とした当時の理解に関する未だ解明されざる﹁真理﹂をここに明らかにし︑次に︑比較法的
到達点ともいえるユニドロワ国際商事契約原則・ヨーロッパ契約法原則に見られるその理論構造を解析することによ
り︑日本法への参考に供し︑そして最後に︑以上の検討を踏まえ︑現時点における解釈のあるべき姿を提案し︑さら
に将来の民法の進むべき方向性を示唆してみたい︒
一︑立法段階における弁済の提供と受領遅滞
1 弁済の提供
弁済の提供に関する現行民法四九二条の審議に付すべく︑原案五百七条﹁弁済ノ提供ハ其提供ノ時ヨリ不履行二因 ︵1︶ リテ生スヘキ一切ノ責任ヲ防止ス﹂が︑法典調査会に提出される︒
この規定は︑穂積陳重起草委員がいうところの既成法典︵旧民法典︶の規定内容を大幅に変更したものであった︒ ︵2︶ 旧民法典では財産編四七六条において︑﹁時期ヲ失セス且有効二為シタル提供ハ法律ヲ以テ規定シ若クハ合意ヲ以テ
要約シタル失権︑解除及ヒ責罰ヲ予防ス﹂とあったものの内容を改めたものである︒この旧民法典四七六条を中心と
した﹁弁済の提供﹂規定は︑フランス民法典に範を求めたものであったが︑旧民法四七六条に該当する条文はフラン ︵3︶ ス民法典にはなく︑ボアソナードの創作によるものではないかとされる︒
フランス民法で︑弁済の提供を規定するのは第一二五七条であるが︑次のように規定される︒
第一二五七条
一項 債権者が弁済を受けることを拒否するときは︑債務者は実質的提供を行い︑債権者がなおも受けることを拒否
するときは︑提供した金額または物を供託することができる︒
受領遅滞の不履行︵協力義務違反︶への統合理論 ︵都法四十六ー二︶ 九九
一〇〇
二項実質的提供とこれに続く供託により︑債務者は免責される︒実質的提供とこれに続く供託は︑これが有効にな ︵4︶ されたときは︑債務者にとって弁済に代わるものであり︑供託された物についての危険は債権者が負担する︒ ︵5︶ ここで注意されるべきは︑﹁実質的提供︵O自﹃6gり﹃似O一一①o乃︶﹂とは︑指摘されるように裁判所官吏によって行われるべ
き手続であり︑フランスの﹁実質的提供﹂の制度は︑債権者が受領遅滞にある場合に︑それに続く供託とあいまって
債務者の債務からの解放をもたらす手続を定めた独自の制度だといえよう︒
現行日本民法においても︑類似する表現として﹁現実の提供︵民法四八三条︶﹂というものがあるが︑これは債務
者の任意の弁済の原則的一形態を示すものである︒日本民法の﹁現実の提供﹂とは全く異なった概念であるフランス
のo日Φ゜・品巴9に︑債務者の債権者への任意の﹁提供﹂に匹敵するような効果を生ずる制度であるという意味を付与
すべくここに別の訳語︵実質的提供︶を用いた所以である︒
さて︑旧民法では財産編四七六条において︑日本独自の﹁提供﹂制度が導入され︑その効果は﹁提供﹂により﹁失
権︑解除︑責罰﹂が予防されるといった︑基本的には債務者が債務不履行責任から免れるというものであった︒しか
し︑これはフランス民法の﹁実質的提供﹂とほぼ同内容のシステムであり︑債権者が﹁弁済ヲ受クルヲ欲セス又ハ之
ヲ受クル能ハサルトキ﹂︑すなわち蔓領遅滞Lを前提とし・その手続に執達吏が関与する提供Lの制度であつ︵旭・
これは受領遅滞があった場合の︑債務者の﹁提供﹂手続に関する規定であって︑その﹁提供﹂による効果もあくまで
債務者の債務不履行責任からの解放のみを想定したものである︒債権者の責任を問うといった性格は有さず︑また債
務者は﹁提供﹂に続く﹁供託﹂によって初めて危険負担を免れる︵旧民法四七八条︶というシステムであって︑債権 ヱ 者の責任を問題とする﹁受領遅滞﹂の規定であったと見ることは適当ではないと考える︒
では次に︑現行民法規定につながる法典調査会における議論を見ることにする︒
第五百七条﹁弁済ノ提供ハ其提供ノ時ヨリ不履行二因リテ生スヘキ一切ノ責任ヲ防止ス﹂
この原案提出にあたって参照されたものとしては︑旧民法財産編四七六条のほかベルギー草案一二六四条︑ドイツ ︵8︶ 第一草案二五八・二五九条︑同第二草案二五五・二五六条︑ザクセン法四六条他が挙げられている︒ ︵9︶ 本原案の提出理由を︑穂積陳重起草委員は次のように説明する︒すなわち本案は︑旧民法財産編四七六条・四七八
条第一項に相当する規定である︒旧民法では弁済の効力を列挙していたが︑その必要はなく不履行によって生ずべき
すべての責任を免れるというようにまとめた︒続けて次の説明を加える︒
﹁既成法典ノ第四百七十八条ノ第一項二危険ノ責ト云フモノハ供託ヨリシ゜テ債権者二帰スル様ニナシテ居リマス併
シ是ハドウモ当ヲ得タ規定デハナイノデアリマシテ其債務ノ本旨二従ヒマシテ現二其物ヲ有効二受取ルヘキ有様ニシ
マシテ而テ其債務者ガ遅滞ニナル独逸法典二於テハ債権者ノ遅滞ノ場合二於キマシテハ矢張リ其危険ハ債務者ガ意外︑
ノ事二任ジタルトキモ債権者ノ責二帰スルト云フコトガアリマスガドウモ然ウ云フコトガアルヘキ道理ハアルマイト ︵10︶ 思フ夫故二危険ノ場合モ含ミマス様二廣ク書イタ夫レ丈ケガ既成法典ト異ナツテ居ル﹂
ここが現代の法律学者の理解に困難を与えているところであり︑さまざまな﹁解釈﹂の工夫が示されている︒たと ︵11︶ ︵12︶ えば︑﹁独逸法典﹂は﹁既成法典﹂の誤りであるとされ︑さらに﹁債権者ノ責二帰ス﹂も﹁債務者﹂の誤りであると
の﹁解釈﹂が加えられる︒あるいはまた﹁債権者ガ遅滞ニナル独逸法典﹂と文をつなげて読み︑﹁アルヘキ道理ハマ ︵13︶ ルマイト思フ﹂は﹁アルヘキ道理デハアルマイヵト思フ﹂の誤記ではないかとの﹁解釈﹂が示される︒
確かに︑いずれも一つのまとまった﹁文章﹂を論理的に整合的に理解しようとの苦心がうかがわれる優れた﹁解釈
論﹂であると評価できようが︑穂積起草委員が心の中で実際に考えていたこと︑その内なる真実を捉えたものである
かといえば︑残念ながらいずれも正確に捉えられたものではない︒
受領遅滞の不履行︵協力義務違反︶への統合理論 ︵都法四十六⊥一︶ 一〇一
一〇二
この部分の正確な理解を困難にしている要因の一つが︑まずこれは︑読むことを想定して書かれた文章ではないと
いう点である︒法典調査会の議場で︑起草担当者としてその起草趣旨説明を口頭で行ったものの速記録であるという
ことである︒ここでの穂積起草委員の主たる役割は︑原案五百七条の提出にあたり︑旧民法財産編の規定からの変更
点とその理由を納得のいくように他の審議委員に説明しなければならないということである︒穂積起草委員の思考は
もっぱらその点に集約して振り向けられている︒
穂積委員は︑旧民法︵既成法典︶の規定では供託によって初めて危険が移転するとなっているが︑これではまずい
ので︑その点を変更したい︒どう変更するかというと︑債務者が債務の本旨に従った提供をして︑債権者がそれを受
けないと債権者は遅滞になるわけで⁝︑との趣旨を述べ︑ここで比較法的根拠を持ち出す︒独逸法典では︑債権者遅
滞の場合に債務者が意外の事に任じたるときも危険は債権者が負うことになっている︒︵このような比較法的根拠か
らしても︶どうもそういうこと︵旧民法典のように供託ではじめて危険が債権者に移るということ︶は道理としてお
かしいので︑このように旧民法典を修正致しまして本原案として提出致します︑と穂積委員の﹁心裡﹂では︑このよ
うな意図の趣旨説明がなされているものと考えられる︒
混迷する﹁解釈論﹂を招来した源泉たる個所の﹁然ウ云フコトガ﹂の﹁そういう﹂とは︑比較法的根拠づけ等の挿
入があったので︑文章として読むと離れてはいるが︑﹁供託で危険が移る﹂という穂積委員が﹁不当﹂だと考える旧
民法の規定を指している︒ここで常に穂積委員の念頭を捉えて離さないでいるのは︑当を得た規定ではないと考える
旧民法典の修正であり︑その修正の趣旨説明をし︑諸委員に納得させることである︒これがここでの穂積委員が担わ
された重い使命である︒文章として読まなければ︑ここに刻まれた言葉の一つ一つから何とその人たる心の動き・揺
れ︑思考過程が生き生きと如実に伝わってくる速記録ではないか︒まさにここには速記の﹁誤記﹂もなければ﹁修正
解釈﹂の必要など微塵もない︒旧民法の変更の理由を真摯に何とか理解させようという穂積起草委員の努力と全思考
を余すところなく伝える資料となっている︒
結局︑穂積委員の旧民法の修正の趣旨説明の内容それ自体に対しては︑審議委員からは特に意見は出されず︑ただ ︵14︶ =切ノ責任ヲ防止ス﹂という表現が﹁免レシム﹂と修正されたにとどまる︒また︑実はここで示された穂積委員の
弁済の提供と受領遅滞の理解に︑後に生ずる諸学説の争いの源が隠されている︒それは債権者の受領遅滞の場合に債
権者が危険を負担するのが道理であると考えていながら︑規定の上では︑提供により債務者は一切の責任を免れる︑
となっている点である︒もちろん旧民法体系の下では︑旧民法財産編四七四条で︑債務者の﹁提供﹂は︑債権者が弁
済を受けることを欲しない場合や受けることができない場合に初めて可能となる制度であり︑この旧民法体系がその
まま民法典にとり入れられるならば︑その限りで矛盾は存しないことにはなる︒しかし︑起草委員は原案五百八条に
おいて︑旧民法体系の重大な変更を提案する︒
第五百八条﹁弁済ノ提供ハ債務ノ本旨二従ヒテ現実二之ヲ為スコトヲ要ス但債務者力予メ其受領ヲ拒ミ又ハ債務ノ履 ︵15︶ 行二付キ債権者ノ所為ヲ要スルトキハ弁済ノ準備ヲ為シタル旨ヲ通知シテ其受領ヲ催告スルヲ以テ足ル﹂ ︵16︶ ここにおいて︑債権者の受領遅滞︵受領拒否・受領不能︶の場合に執達吏によって行われる﹁提供﹂制度は︑その
内容を根本的に変更されたことが明らかとなる︒法典調査会の審議において原案五百八条の起草趣旨説明にあたった ︵17︶ 穂積起草委員は次のような趣旨の説明をする︒すなわち︑本条は旧民法財産編四七四条を修正するものであるが︑そ
の理由は﹁提供﹂というものは︑債権者が受くることを拒みまたは受くること能はざる場合にのみなすものではな
い︒旧民法典では︑提供と供託を一緒にしようとするからこうなってしまう︒提供は︑欲せずとか能はずとかいう場
合に限ってなすものではなく︑どんな場合にもなくてはならないことである︒そこでここでは﹁弁済ノ提供ハ﹂と規
受領遅滞の不履行︵協力義務違反︶への統合理論 ︵都法四十六ー二︶ 一〇三
一〇四
定したのである︒
つまり︑旧民法の下での債権者の受領遅滞の場合の執達吏によって行われる﹁提供﹂という特殊な手続を担わされ
た概念から︑債務者が債権者に一般的に弁済をする際になす制度たる概念へと大きく変容されたのである︒そしてそ ︵18︶ れには参照された多くの外国の草案・法律等の影響があり︑特にドイツ民法第一草案の影響が大きかった︒重要な点
は︑旧民法下では︑受領遅滞がある場合に限って﹁提供﹂をなすのであるから︑原案五百七条のところで示された危
険移転の理解︑すなわち︑提供によって危険が移転すると考えても矛盾は生じない︒しかし︑旧民法の理論体系に重
大な変更を生ぜしめた原案五百八条によって︑﹁提供﹂概念とその機能は大きく変更されてしまったのであり︑もは
や受領遅滞を前提とはしない提供により危険移転を生ずると考えることは︑再考を必要とする問題となったのであ
る︒また原案五百八条で初めて示された提供の二つの方式︑すなわち︑原則としての﹁現実の提供﹂と例外としての
﹁口頭の提供﹂とが導入された︒既述したように旧民法の母法たるフランス民法二一五七条の﹁実質的提供︵o日①゜・
品0已゜・︶﹂とは全く内容の異なる﹁現実の提供﹂を原則とした﹁弁済の提供﹂制度が日本民法に導入されたのである︒
2 受領遅滞
次に︑受領遅滞に関する民法の立法過程を見ることにする︒
修正案 第四百十二条﹁債権者力債務ノ履行ヲ受領スルコトヲ拒ミ又ハ之ヲ受領スルコト能ハサルトキハ其債権者ハ ︵19︶ 履行ノ提供アリタル時ヨリ遅滞ノ責二任ス﹂ ︵20︶ この第四百十二条は旧民法にも当初の原案にもなく︑起草委員から急遽修正案として提出されたものである︒穂積
起草委員の修正案提出の趣旨説明で重要なところは︑次の点である︒すなわち︑当初は売買の目的物の引渡しに関し
て︑引取義務を想定し︑これを売買の総則において有償契約一般に準用しようと考えていた︒その後︑よく考えてみ
るとこれは売買だけに限った規則ではないし︑これをすべての有償契約に準用するとしても︑債権者遅滞の規定がす
べてこれに当たるとはいえない︒有償契約でない贈与でも︑準備をしたのに相手が受け取らないと迷惑を被る︒そこ
で新しい諸国の法典等にあるように︑一般の債務の履行の通則の中に掲げておいて︑債権者遅滞の規則とした方が適 ︵21︶ 当であろうと考えた︒
この趣旨説明からわかるように︑修正案四百十二条は債権の目的物の﹁引取義務﹂を定めたものではなく︑なす債
務ほかすべての債務の提供に対して︑それを受けることを拒んだり︑受けることができない債権者の遅滞の責任を規
定するものである︒この意味からすると﹁受領﹂という表現は狭すぎるような印象を与えかねないが︑果たして最終
的には﹁受クル﹂との表現に改められている︒なお口語化された現民法では︑弁済の提供のところの規定では﹁受領﹂
となっているのに対して︑受領遅滞のところの規定では﹁受ける﹂となっている︒
また穂積起草委員の説明の中で次の部分も看過できないところである︒すなわち︑債権者遅滞の成立要件として︑
債権者の過失を要するとする見解︑債権者の意思を必要とする見解︑債権者が受領しないという事実があればよいと
する見解の三説の中で受領しないという事実だけで債権者遅滞となると考えたい︒その理由は︑たとえば債権者の病
気の場合︑双方ともに過失はなく︑その点では両当事者は平等の位置にいる︒しかるに一方は債務の本旨に従って履
行の提供をしている︒天災のためであろうと病気のためであろうと︑受け取ることを妨げられたのは債権者の方であ び り︑この結果を債権者が受けるのが当然ではないかと考えるからである︒
穂積委員は︑さらに比較法的に根拠づけようとして︑スイス債務法︑ザクセン法︑オーストリァ法︑ドイッ法等の
例を挙げ︑受領することができないときに債権者に責任を負わせるのは気の毒だが︑債務者に負わせるのはもつと気
受領遅滞の不履行︵協力義務違反︶への統合理論 ︵都法四十六⊥﹈︶ 一〇五
/ 一〇六
の毒なので︑この規定を入れたい︑との説明を加える︒ 次にこの修正案に対して質疑が行われるが︑ここでは特に長谷川喬委員がきわめて重要な質問をする︒すなわち︑
本案は危険問題を主として扱うものなのか︑との趣旨の質問をするが︑これに対して穂積委員は﹁損害賠償又ハ利息
ノ附クベキトキハ遅滞利息トカ其問題二帰シマス夫レカラ﹃遅滞ノ責二任ス﹄ト云フト勿論⁝﹂と応じている︒この
速記録では捉えられていない﹁⁝﹂の部分であるが︑これは速記官が正確には聞き取れなかったり︑書き取れなかっ
た部分であり︑少し後の穂積委員の陳述から推測すると﹁それも入ります﹂といった趣旨のことが述べられたものと
思われる︒これに対して長谷川委員が︑弁済ノ提供ノ規定︵四九五条︶︑供託の規定︵四九七条︶では足りないのか︑
といった趣旨の質問をすると︑穂積委員は﹁供託デハ何ウモ足リマセヌ供託デハ物ガ⁝居リマス之ハ労力デモ何ンデ
モ之三這入ル積リデアリマスカラ﹂と応じた︒この速記が抜け落ちている部分も速記官が聞き取れなかったりした個
所で︑﹁その対象となって﹂と補うことができる︒これも大変重要な答弁であり︑この後も繰り返し述べられるよう
に﹁労力デモ何ンデモ這入ル積リデアリマスカラ﹂と︑物の引渡しの受領といった場合だけでなく︑なす債務などを
受ける場合も入るということを強調している︒さらに長谷川委員は﹁提供ハ何ウデゴザイマセゥカ四百九十五条ハ提
供ノ⁝一切ノ責任ヲ免レル﹂と質問をする︒この速記官が聞き取れなかったりした個所は条文通り﹁時ヨリ不履行二
因リテ生スヘキ﹂と入るが︑穂積委員は︑それは債務者が免れるだけであって︑それについて債権者が責任を負うと
いう規定になっていない︒弁済の提供の規定が︑弁済時より危険が債権者に移るというようになっていれば話は別で
あるが﹂との趣旨の回答をする︒ここでは︑弁済の提供の規定には危険の移転を入れられないので︑本修正案である
債権者遅滞の規定が必要であるとの意図を︑長谷川委員他に伝えようとしている︒ここから︑先の﹁﹃遅滞ノ責二任
ス﹄ト云フト勿論⁝﹂で速記が脱落している部分には︑危険移転が入る︑という趣旨で述べられたことは間違いない
ことがわかるであろう︒
さらに箕作麟祥議長が︑四九五条の﹁弁済ノ提供﹂だけだと意味が狭すぎるのか︑という質問をしたが︑これに対
して梅謙次郎起草委員が︑狭すぎてだめだとの趣旨のコメントをする︒さらに穂積委員は﹁労力デモ何ンデモ這入ル
積リデアリマスカラ之ヲシテヤラウト言ツテヤツテ来タ所ガ夫レハ出来ル﹂と付け加える︒箕作議長の﹁狭い﹂とは︑
債権者に責任を負わせる︵特に危険負担︶ことまで入るように広く捉えることはできないのか︑といった趣旨であ
り︑梅委員が︑狭すぎると応えて︑本条︵受領遅滞︶の規定の必要性を納得させようとしている︒穂積委員のここで
の付言は︑﹁狭い﹂という言葉から︑つい先ほどから自分の念頭にあった﹁引取義務﹂という﹁狭い﹂概念の方を連
想してしまい︑その概念では捉えきれない労力とかを債権者が受けない場合を含むように︑広い一般的概念としての
﹁受領﹂概念を入れたのだと︑的をはずしたコメントをしてしまったものである︒
以上の立法過程の検討からわかる重要な点は︑弁済の提供の規定が︑債務者の債務不履行責任からの免責を企図し
たものであること︑そして弁済の提供があった場合に︑債権者がそれを受けないと︑その理由いかんを問わず︵たと
え帰責事由がなかろうと︶︑その事実から債権者は受領遅滞という法的責任︵損害賠償︑危険負担など︶を負わされ
ること︑また債権者が債務者の提供を受けねばならないということは︑物の引取りに限らず︑一般的債務類型︵たと
えば雇用契約での債務者の労力の提供︶において認められるべき債権者遅滞の規定である︑といったところである︒
二︑比較法︵ユニドロワ国際商事契約原則・ヨーロッパ契約法原則ほか︶における﹁弁済の提供﹂と﹁受
領遅滞﹂
日本の立法過程に見た﹁受領遅滞﹂は︑目的物の﹁受領﹂︵引取り︶であれ︑労務等を﹁受ける﹂ものであれ︑主
受領遅滞の不履行︵協力義務違反︶への統合理論 ︵都法四十六−二︶ 一〇七
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へお として債権者の債務者に対するその履行過程における最終段階の協力行為である﹁受領行為﹂に焦点が注がれたもの であった︒この点は︑比較法的に最も影響を受けたドイツ民法第一草案︵現ドイツ民法二九三条以下︶の規定自体が
そのようなものなっていたことにも起因する︒現在のドイツの学説では︑債務者の履行の実現のための要件として︑ び 債権者の決定行為︑準備行為︑︑受領行為が認められるから︑﹁受領遅滞︵﹀目芦日︒<o﹃N已σq︶ではなく︑﹁債権者遅滞 ︵<︒目已σ・09臼ぎ窪︒q︒﹃°・︶﹂と呼ぶべきだとする主張もある︒
今ここにユニドロワ国際商事契約原則とヨーロッパ契約法原則とに目を転じると︑日本法の状況とはがらりと異な
る様相が現前とする︒まず︑ユニドロワ原則から見てみよう︒
ー ユニドロワ国際商事契約原則
ユニドロワ国際商事契約原則︵以下ユニドロワ原則と略称する︶では︑当事者間の協力に関する規定が置かれてい
︵躍・ 第5.1.3条 各当事者は相手方の債務の履行のために協力することが合理的に期待されるときは︑相手方に協力 ︵30︶ しなければならない︒
本規定では︑各当事者︑つまり債権者・債務者のそれぞれ相手方に対する﹁協力義務﹂が問題とされている︒殊に
債権者の債務者に対する協力義務は︑第1.7条﹁信義誠実および公正取引﹂の原則に深く関連仁剤ものであり︑も ちうんそれは合理的な範囲︵文言では︑﹁合理的な期待﹂︶に制限される︒ここに︑ユニドロワ原則の公式コメントに
語られるきわめて注目すべき部分がある︒すなわち︑﹁契約は対立する利益の集約点であるばかりでなく︑ある程度
各当事者が協力しなければならない共通の事業と見なければなら蕊﹂との個所である・この点に関しては後に日本
法の検討のところで詳述したい︒ ︵34︶ ユニドロワ原則では次のような設例が挙げられる︒
︵設例1︶ Aは一定量の石油の交付に関してBと契約した後で︑他の供給元から現物市場で利用できるすべての石
油を買い占めた︒Bの債務の履行を妨害するこのようなAの行為は協力義務違反である︒
︵設例2︶ X国の画商Aは︑一六世紀の絵画をY国の個人収集家Bから購入する︒絵画は特別の許可なしには輸出
できず︑契約ではBはその許可を申請することが求められている︒このような手続に経験のないBは︑Aがそのよう
な手続に習熟しているのに対し︑その申請において重大な困難に遭遇した︒このような状況においては︑契約の文言
にかかわらず︑Aは少なくともBへの何らかの手助けをすることが期待されうる︒
ここに挙げられた二つの例は︑典型的な協力義務というよりもかなり極端な例だといえよう︒︵設例1︶は債権者
が自らの行為によって債務者の履行を不能にしたともいえるものである︒実はユニドロワ原則では︑︵設例1︶に関
するようなケースに対して他にも規定がある︒
第7.1.2条︵債権者による妨害︶ 当事者は︑相手方の不履行が︑自己の作為もしくは不作為により生じたとき︑
または自己がそのリスクを負担すべき別の事実によって生じた範囲において︑相手方の不履行を主張することができ
︵35︶
ない︒
この債権者による妨害として次の具体例が挙げられる︒
︵設例1︶ AはBの土地上に建物を建築することに合意する︒もし︑Bが土地の門扉を閉鎖してAが入れないよう
にすると︑BはAが仕事を開始しないことに対して文句を言うことはできない︒Bの行為はしばしば免責されない不
履行となるが︑それは︑Aに土地に入る権限を与えた明示の条項に反するか︑またはBの行為が信義誠実の原則およ
受領遅滞の不履行︵協力義務違反︶への統合理論 ︵都法四十六−二︶ 一〇九
一一〇
び協力義務に違反するという理由によるものである︒しかしながらこの結論は︑Bの不履行が免責されないことには
依拠しない︒この結論は︑Bの不履行が免責される場合でも同様である︒たとえば土地への立ち入りがストライキに よって妨げられていることを理由とする場合である︒
債権者の行為︵作為または不作為︶が債務者の不履行の原因となる場合には︑債権者の責任︵帰責性︶を問わず︑ ︵37︶ 本条に該当することになる︒いわば債権者の行為という原因主義を採用するものである︒そして︑本条が適用になる
場合には︑債務者の不履行は︑免責される不履行となるのではなく︑もはや不履行という性質を失う︒したがって︑ お 相手方は不履行を理由とした契約解除の法的救済等行使できない︒
本第7.1.2条は︑日本法との比較法的観点からはきわめて有益な示唆を含んでいるように思われる︒後に見る
ヨーロッパ契約法原則においても同様の規定があるが︑本条は日本法の弁済の提供に対応する規定とも見ることがで
きる︒つまり︑本条が適用になると︑債権者は債務者による不履行があったとの主張︑および不履行を理由とする法
的救済の行使ができなくなるのであり︑この点で日本法の弁済の提供の規定に相当する規定と見ることが可能であ
る︒ただ異なっているのは︑日本法では︑債務者の弁済の提供という債務者側の行為態様を主として問題としている
のに対し︑ユニドロワ原則等では︑債務者の不履行が生じた際に︑それが債権者の行為︵作為または不作為︶に起因
する場合に適用されるものであって︑債権者側の行為態様に焦点が当てられている︒この点は︑日本法の弁済の提供
制度の﹁評価﹂︑そして立法論を考慮に入れたときに︑有益な示唆を与えてくれるのではないかと考える︒詳しくは
後述する︒
2 ヨーロッパ契約法原則
︵39︶ 次にヨーロッパ契約法原則に目を向けてみよう︒次の規定がある︒ ︵40︶ 第1⁚202条 各当事者は︑契約の完全な結果を生ぜしめるために︑相手方に協力する義務を負う︒
本条に関し︑掲げられた設例を基に理論的考察を加えてみる︒
︵設例1︶ ハンブルグにいるSは︑ロンドンにいるBとハンブルグ本船渡しで商品を売る契約をする︒Bは商品を
運ぶ船を指定しない︒こうした惜怠は︑売買契約のもとでBの義務の不履行を構成し︑かつSが商品を出荷する義務
を果たし︑それにより商品の代価を得るということを妨げることにより︑本条に違反する︒Sは8⁚101︵3︶条 ︵41︶ のもとでその履行を免れ︑そして本契約を解除し︑損害を回復することができる︒
︵設例1︶での債権者の協力行為は︑債務者の商品の発送の前提となる船の指定という債権者の﹁決定行為﹂であ
り︑これを怠った債権者に義務違反を認めることができる︒また効果論においては︑債権者の義務違反により︑債務
者に契約解除権と損害賠償請求権とが認められるところが特に重要である︒ 〜
︵設例2︶ Bは0のためにオフィスビルを建設する契約をする︒ビルの建設許可の申請を0が怠った結果︑Bがビ
ルの建設をできなくなる︒0はこれにより︑契約において許可を申請すべき明示の義務を課されていようがいまい
が︑本条の要件に違反する︒0はBが建設しないことに対して法的救済を行使できないし︑逆に0自身が契約違反と
︵42︶
なる︒
︵設例2︶は︑債務者の履行の前提となる債権者の﹁準備行為﹂の違反と捉えることができる︒債務者は当然︑解
除権︑損害賠償請求権を行使できる︒
受領遅滞の不履行︵協力義務違反︶への統合理論 ︵都法四十六ー二︶ 一一一
一=一
事実関係は省略するが︑︵設例3︶において焦点となっているのは︑一方当事者は︑相手方が契約を履行する際に
人的物的侵害の危険が存することを知らないかもしれないようなケースでは︑相手方にそのことの情報提供をしなけ
︵43︶ ればならない︑というものである︒これはいわば債務者の完全性利益の保護に向けられた﹁情報提供義務﹂といえる︒
︵設例4︶ SはBに商品を売る契約をし︑契約に従いその提供をするが︑Bはその受領を拒絶する︒これは商品に
対する支払いが済んでいようといまいと︑Bによる不履行を構成する︒その理由は︑SはBに商品を引渡してそれを ︵44︶ 手放す権利を有するし︑これにより商品を処分する費用や不都合を回避するという権利を有するからである︒
︵設例4︶では︑日本で議論の中心となる傾向にある﹁受領義務﹂が扱われる︒ヨーロッパ契約法原則では︑﹁受
領義務﹂に関しては附随義務の不履行の範疇で捉えられている︒附随義務の不履行とは︑一方当事者の協力義務の不
履行やそれ自体は履行の僻怠を構成はしないが︑相手方による履行を妨げたり抑制したりする効果を有する履行障害
であるとされ︑その一例として債権者の不受領が挙げられる︒この場合に重要なのは︑相手方が︑提供が受領される
ことに利益があるときにのみ﹁協力義務違反﹂として不履行を構成するという点である︒債権者の受領に債務者が利
益を有しない場合は︑債権者の不受領は協力義務違反︑すなわち不履行とはならないということである︒
この債務者の債務の履行過程の最終段階に位置づけられる﹁受領﹂に関しては︑日本法における議論で︑債権者は ︵45︶ 権利者であるからその受領義務なるものは認められない︑との主張がある︒比較法的成果たる統一法秩序では︑先述
した一定の要件を充たせば債権者の義務として確立されており︑逆にそれに対応する債務者の権利が認められている
点は重要である︒また注目すべき点として︑債務者としては弁済の提供をして︑債権者が目的物を受領しない場合︑
その物に対して一定の合理的措置をとることを義務づけられもするところである︒それが金銭の場合は︑供託するこ
とによりその支払義務を免れることができる︵第7⁚111条︶が︑物の場合には︑債務者は目的物を捨てたり︑不
当に紛失や損害を与えたりする権限はなく︑その目的物の保護のため正当な措置をとらねばならない︒つまり︑債務
者は受領されない物に対して善管注意義務という軽減されない保護・保管義務を負うのであり︑この点は日本法の議
論への有益な示唆を与えてくれるところではないかと思われる︒
なお協力義務は︑各当事者︑特に債権者に一般的に課される義務であるが︑契約に完全な結果を与える目的でのみ
課されるものであるから︑協力義務の僻怠が相手方に対して何ら不利益な結果をもたらさない場合には︑協力義務違 ︵46︶ 反とはならない︒これについては次の例が挙げられる︒
︵設例5︶ BはS劇場から劇場チケットを一枚購入し︑あらかじめクレジットカードでその支払を済ませる︒Bは
チケットを入手しないかまたは上演に出席しないとする︒このことでBは協力義務違反または契約の何か他の不履行 ︵47︶ を構成しない︒というのは︑S劇場はチケットの支払を受けているため︑その出席に何の利益もないからである︒
このケースは︑債務者の一回の債務の履行たる行為に対応して多数の債権者が同時に満足をうる特殊な契約類型で
あり︑特別の考慮を要すると考える︒例として挙げるには最適なものとはいえないかもしれないと考えるが︑理論的
に重要なところは︑債権者の不受領等が︑特に債務者利益を侵害するものでない場合には︑協力義務違反︑すなわち︑
債権者の不履行とはならないという点である︒この意味で︑日本でよく指摘される︑すべての契約類型に一般的に債 ︵48︶ 権者の受領義務を認めることはできない︑との主張には正当な面がある︒だが同時に︑ユニドロワ原則・ヨーロッパ
契約法原則において︑契約総則的に一般的に協力義務が掲げられているという事実は何を意味するのであろうか︒大
変重要な問題であり︑後述する︒
なお︑各当事者は一般的に協力義務を負うといっても︑相手方に先履行義務がある場合や相手方による履行期前の
︵49︶ ︵50︶ 不履行のケースでは︑協力を留保する権利︵第9⁚201条︶が認められる︒
受領遅滞の不履行︵協力義務違反︶への統合理論 ︵都法四十六ー二︶ 一二二
一一四
さて︑ヨーロッパ契約法原則においても︑日本の弁済の提供に相当するとみることのできる規定がある︒
第8⁚101︵3︶条 一方当事者は︑自分自身の行為が相手方の不履行を惹起した限りにおいて︑第9章に定めら ︵51︶ れたいかなる救済手段も行使することができない︒
この典型的な例は︑債権者遅滞︵5﹈O﹃①O﹃①ユ=O﹁一〇D︶であり︑たとえば債権者が建設予定の敷地への立ち入りを拒否
するケースである︒また債権者の協力義務の一つに情報提供義務があるが︑その義務の行使の際にそれが誤ったもの ︵52︶ であったり︑不完全であれば︑契約は債権者により不完全に履行されたものとされる︒設例として次の二例が挙げら
︵53︶
れる︒
︵設例3︶ Aは︑トリポリ地区でBが建設する学校の設計をする契約をする︒Aはその学校の正確な場所について
のBからの指示を待つ︒Bは︑そのスタッフ間の意見の相違により︑定められた期間内に指示をすることができな
い︒この結果Aは学校の設計ができない︒Aの不履行は︑Bのいかなる救済手段の行使も認めないが︑AはBに対し
て法的救済手段を行使できる︒
︵設例4︶ 事実関係は︵設例3︶と同じであるが︑Bが指示を与えられなかったのは︑Bのスタッフがリビアに行
く途中で飛行機事故で死亡したという事実に基づくものであった︒BはAに指示しなかったことについての責任はな
いが︑Aの側の不履行はBにいかなる救済も認めない︒
また不履行という事実が生じた場合︑それを生じさせた原因が債務者︑債権者の双方に存するとき︑不履行への債
権者の寄与が︑債権者自身の作為・不作為によって惹き起こされた限り︵範囲︶において救済に影響する︒この結果︑ ︵54︶ 債権者はいかなる救済も行使できないという場合もあるし︑部分的に救済を行使できないということもある︒
以上見たように︑日本法の弁済の提供と受領遅滞の規定に対応するものとして︑ヨーロッパ契約法原則においても
︵55︶ ユニドロワ原則と基本的に同様の構成が採用されている︒その根幹を形成する最重要概念が不履行という概念であ
る︒不履行は︑一方当事者が︑契約上のあらゆる義務のいずれかを履行しなかったときに認められるものである︒当
然︑遅滞した履行︑全くなされない履行︑暇疵ある履行が含まれ︑相手方の営業秘密を漏洩しないといった附随義務 ︵56︶ の違反も含まれる︒本稿との関連で特に注目すべき受領義務違反に関しては︑それが相手方の利益を侵害する場合に
不履行を構成する︒つまり︑相手方︵債務者︶の利益を侵害すると評価される受領義務違反のみが︑協力義務違反︵不
履行︶となり︑相手方の利益を侵害するものとは評価されない不受領は協力義務違反とはならず︑したがって不履行
を構成しないのである︒
また日本法の弁済の提供に相当する領域では︑ユニドロワ原則・ヨーロッパ契約法原則においては債権者の免責さ
れる不履行であれ︑免責されない不履行であれ︑履行障害に債権者の行為︵作為または不作為︶が原因となる場合に
は︑その限りにおいて債務者の不履行とは評価されず︑むしろ逆に債権者の不履行とされ︑債務者が債権者に対し︑
契約解除・損害賠償請求権の行使という救済手段を行使できることになる︒
3 諸国の比較法
ユニドロワ原則・ヨーロッパ契約法原則に見られる不履行概念は︑免責事由には依拠しない概念である︒これと同
様の法体系を採用するのは︑北欧法における蒔︒旨爵呂§︷︒.または..日邑品ぎ庄書︒︒︒︑フィンランド法における..°・名ぎ5− ︵57︶ ユ犀o日5.︒︑オランダ法における..8宮葵o目ぎo︒︒︒そして︑ベルギー法︑CISG︵第四五条︶であるとされる︒これら
の法制では︑不可抗力によって妨げられた履行も不履行として扱われる︒これに対して︑コモン・ロー諸国において
は︑契約違反は免責されない不履行においてのみ生ずる︒またフランス法の・︒ぎo×合巨8合8巨巨︒︑︑イタリア法︵○○
受領遅滞の不履行︵協力義務違反︶への統合理論 ︵都法四十六−二︶ 一一五
一一六
︵58︶ §°・﹂巳︒︒°一よいω隅︶他多くの諸国の法では︑債務者の帰責事由︵不可抗力免責主義を含めて︶が前提とされる︒ドイ ︵59︶ ツ民法においては︑2002年の改正により︑義務違反︵唱聖合︷<旦9N旨⑯︶が一般履行障害法における統一的要件と
して導入されており︑基本的にはユニドロワ原則・ヨーロッパ契約法原則の不履行と同様の内容を有する概念と評価
できよう︒もっとも︑損害賠償においては︑基本的には過失責任主議が堅持される︵§278BGB︶︒
協力義務に関しては︑ユニドロワ原則・ヨーロッパ契約法原則の両統︒法秩序では︑不履行を構成する一つの類型 ︵60︶ として協力義務違反が認められるが︑大陸法諸国でも︑信義誠実の原則により認められる︒ドイツ民法では︑§242
BGBのもと信義則により協力義務︵受領義務︶が導かれることが一般であったが︑この規定は一般的には相手方の ︵61︶ 利益を保護する義務は含まれないとされていた︒しかし新たに導入された§241︵2︶BGB︵債務関係は︑その ︵62︶ 内容により︑各当事者に相手方の権利︑法益および利益に配慮することを義務づけることができる︶によって︑債権 ︵63︶ 者の債務者に対する協力義務︑特に保護義務を根拠づけうるのではないかと考える︒意図的に﹁債権者・債務者﹂に ︵64︶ 代え︑﹁各当事者・相手方﹂の指標が採用されており︑履行義務の債権者が保護義務の債務者でもありうるからであ
る︒また︑オーストリア法︵﹀柏W︹︸︼﹈吻一②一鼻︶ギリシア法︵﹀勺一おこ⇔い◎Zood犬這いひ︶□自︶イタリア法︵○ひ§°ご9い︶︑
オランダ法︵︼﹈♂<§°り゜ひ⁚N9ひ⁚NやoQ︶ほか︑ポルトガル法︑スペイン法︑フランス法︑ベルギー法においても基本的 ︵65︶ には信義則から認められるとされる︒北欧では︑契約の履行において協力義務は規定されないが︑この義務は︑多く
の契約法の一般原則を提供するものだとみなされる動産売買法の規定に浸透している︵デンマーク︑おOO︑フィンラ ︵66︶ ンド・スウェーデン︑お゜︒ベーおq⊃O︶とされる︒イギリス法では︑取引上の合意の有効性を与えるのに必要な場合に黙
︵67︶ ︵68︶ 示的協力義務を課し︑スコットランド法においては︑契約の黙示的条項の中に見出しうる︒
日本法の弁済の提供の制度に対応するものともいえる︑債権者により惹起された不履行に関しては︑たいていの法
体系においては︑履行を妨害した当事者は不履行当事者となり︑相手方による法的救済手段の行使を受けるとされ
︵69︶
る︒しかし︑ベルギー︑オランダ︑ギリシア︑北欧法においては︑債権者による履行の妨害は︑受領が債権者の主た ︵70︶ る義務かどうかに依拠するため︑契約違反とは一般的にはみなされないとされる︒ドイツにおいては︑協力は義務 ︵71︶ ︵唱臣︒邑ではなく︑o昆Φoq①ロ冨詳とみなされるのが一般であった︒しかし︑協力行為を︑一般的に義務の対象とする
︵72︶ 見解も有力になってきている︒現代の債権・債務関係の理解は︑契約固有の主たる義務をはるかに超えた双務的附随 ︵73︶ ︵74︶ 的履行義務︑保護義務の複雑な構造として発展しており︑§242BGBからもこうした義務が導かれうるのであ ︵75︶ り︑債権者の債務者への協力義務は契約上または法律上の起源を持ちうるものともいえる︒既述したように§241
︵2︶BGBが導入された今日︑ドイツにおいて債権者の協力義務を一般的義務として認めることはより容易になっ
たものと考える︒
三︑現代および今後の日本における弁済の提供と受領遅滞
1 弁済の提供制度の将来
弁済の提供制度に関しては︑その中心的規定である民法四九二条はほとんど機能しておらず︑実際には︑たとえば
民法四一五条の解釈の中で債務者の債務の本旨に従った提供がなされるかどうかが検討されるというように︑その必 ︵76︶ 要性に疑問を呈され︑あるいは︑民法四九二条が﹁弁済の提供﹂制度に結びつけて規律しようとしている問題は︑債
務不履行︵履行障害︶の際の個々の救済手段ごとに発展的に解消して捉えるべきであり︑債務不履行責任からの解放
受領遅滞の不履行︵協力義務違反︶への統合理論 ︵都法四十六ー二︶ 一一七
一.八
目的での現行の﹁弁済の提供﹂制度は︑履行障害の免責事由に関する判断と解除の要件論に解消されるべきであっ ︵77︶ て︑立法論としては︑無用であると厳しい評価が向けられている︒
既に見たように︑フランス民法の制度︑すなわち債務者が任意の弁済︵℃鵠日①具く巳oロ巨﹃①臼ロ広巨①匡①︶をするの
に対して︑債権者がそれを受けなかった場合に認められる特別の制度であって︑裁判所の執達吏が関与してはじめて
実際に提供があったものと同様の効果を認めようという実質的提供︵O日Oo乃 ﹃瓜O一一60ヵ︶の制度を基本的に旧民法が採用
した︒現民法はこの内容を大幅に改変し︑フランス民法でいうならば︑まだ任意の弁済の提供段階にすぎないもの
を︑ドイツ民法草案等の影響を受け︑弁済の提供︵現実の提供・口頭の提供︶制度として定めた︒
現代の比較法的成果ともいえるユニドロワ原則・ヨーロッパ契約法原則では︑これに対応する制度として︑債権者
の行為が原因となって債務者の﹁不履行﹂が生じた場合の債務者の免責︑不履行自体の否定︑さらには債権者の不履
行の認定︑という制度がある︒思うに︑債務者の行為態様の法的評価は︑債務者の債務不履行に関して扱われるべき
であり︑ここでは債権者の行為態様に焦点を当てた規定形式で処理すべきであろう︒筆者は︑立法論としては︑弁済
の提供制度は︑債権者の行為に焦点を向けた規定形式の方向へと転換すべきではないかと考える︒
2 債権者の協力義務違反
日本における議論は︑債権者に一般的に﹁受領義務﹂を認めるべきか否かという点に焦点が注がれる傾向にあっ
た︒もちろん﹁受領義務﹂の中身としては当然目的物の﹁引取り﹂以外の債権者の一定の協力行為・義務をもその範 ︵78︶ 疇に含めるものであった︒しかし︑﹁受領﹂という用語の原初的意味の印象から︑どうしてももっぱら﹁引取り﹂を ︵79︶ 想定した議論になりがちであった︒現に判例で争われたケースのほとんどが︑﹁引取り﹂を問題としたものであった︒
こうした認識からか︑.﹁債権者遅滞﹂という捉え方をすべきだとする主張もあった︒しかし︑債権者遅滞では﹁遅
滞﹂とはならない債権者の﹁不履行﹂が捕捉できない︒将来の日本法の方向としては︑より一般的に債権者の義務を
取り込めるタームを用いるべきかと思われ︑筆者としては﹁協力義務﹂よりも広い概念を持ったタームが望ましいと
考えるが︑現時点では︑比較法的にも﹁協力義務﹂で確立されており︑これに従っておく︒
さて︑債権者の協力義務は︑契約関係の中で債権者の決定行為・準備行為・保護行為︵特に情報提供義務︶・受領
行為等多岐にわたる債権者の行為について認められる︒たとえば︑買主Aと売主Bとが売買契約を締結したが︑売買
目的物をAがほかの供給元から購入することによって︑Bは市場から目的物を入手できなくなったという場合︑債権
者Aは︑債務者Bの債務内容の実現を不能とするような行為をしており︑協力義務違反といえる︒つまり︑債務内容
の履行の実行を不能としたり︑その意味を喪失させるような債権者の行為も協力義務違反と考えることができる︒こ
のように債務者の行為態様︵弁済の提供︶から債権者の行為態様︵債権者による妨害行為︶へと視点を転換すると︑
従来不作為債務について︑日本では﹁受領義務﹂など考えられないと︑全く等閑に付されてされてきたが︑異なった
扱いの可能性が浮かび上がってくる︒たとえば︑南北に隣接する土地の所有者A︵北側︶・B︵南側︶がいて︑日照
を理由としてBは4階建以上の建物は建てないとの合意がA・B間で成立したとする︒そこでBは︑本意ではないが
3階建の建物の建設に着手したところ︑Aが土地を高めたため︑実際には4階建でも問題ないような状況となった︒
これは債権者Aの行為によって︑債務者Bによる契約内容通りの契約の履行が必ずしもその後の現実にそぐわなく
なったケースであり︑Aに信義則上の協力義務違反を認めることも可能なケースではないかと思われる︒またAの店
からBが独立して店を出そうという場合に︑Aの店︵本店および支店︶から一.○○メートル以内のところにはBは出
店しないものとする合意が両当事者間になされたとする︒BはAの支店の一つから一〇〇メートル以上離れた地点に
受領遅滞の不履行︵協力義務違反︶への統合理論 ︵都法四十六ー二︶ 一一九
=一〇
店を出すのに着手したところ︑Aの方が意図的に一〇〇メートル以内のところに支店を出す︒これは︑Aの行為に
よってBの債務の履行が妨げられたケースであり︑Aの行為に協力義務違反を認めることも可能であろう︒
このように不作為債務のケースであっても︑﹁受領﹂という概念からより広く﹁協力義務﹂へ︑また債務者の行為
態様から債権者のそれへと視点を転換させることにより︑新たな視野が開けるのではなかろうか︒もちろんこの場
合︑債権者の妨害行為によってもことさら債務者の利益に影響しない場合には︑協力義務違反︑すなわち債権者の不
履行とはならない︒
3 債権者・債務者による契約内容の実現
債権者には権利があるだけであり︑一般的に受領義務なるものは認められない︑との主張が法定責任説により強力
に主張された︒この例としてたとえば︑一年間その子女のために家庭教師を雇い入れた者は︑その報酬を支払う以外
に︑なおその者に子女を教育させる義務を負うべきか︑との問題設定をし︑たとえ家庭教師の不誠実︑不道徳︑その
他不適任なることを発見したときでも︑雇い主は解雇できないことになってしまうから︑受領義務は認めるべきでは
︵80︶