液体Pb−Sn系合金の固体銅へのぬれ性について
(第1報)
三 浦 和 久
宮 向 圭 造*
(昭和57年4月30日受理)
Wettabilities of liquid lead−tin alloy on solid copper.
(part 1)
Kazuhisa MluRA and Keizo MlyAMuKl
(Received April 30, 1982)
Investigations of the wetrability have been carried out by measuring the equilibrium of spreading of liquid Pb−Sn alloy on solid copper under static and isothermal co夏ditiolls. The results obtained fro皿the experilnents lnade at three different temperatures ranging from 2500C to 4000C are summarized as follows:
(1)The wettabiIity depe且ds on the temperature and the composition:The maximum spreading of each isother皿
is found at the composition of Pb−40% Sn at 2500C, and of Pb−62% Sn at 3400C and 4000C.
And besides, spreading areas show a tendency to decrease at gradually elevating temperatures.
(2) From the rnicroscopic observation, a formation of solid solutions is recognized. [[hese are supposed to be E (Cu3 Sn) and n (Cu6 Sns) phases.
1 緒 言
固体金属上での溶融金属によるぬれ現象は,古くからろ う付け技術と関連した分野で活用され,今日においてもト タン・ブリキの製造,メッキや銀鏡の処理,ラジエター等 の熱伝導などの問題に関連し詳しい研究もされており1),
技術的にはすでに確立されているものも多く,充分実用に 供されている。
しかし,技術的にはすでに完成されているとはいえ,よ り原理的,基本的な命題である「ぬれの良し悪しを支配す る因子は何なのか」ということについては,未だ解明され ていない部分も多くある様に思われる。工学的見地からし てみれば,ぬれを左右する因子を明確にし,これを制御す
ることは極めて重要な意味を持つものと考えられる。
著者らは,このような観点から,ぬれ現象を取り扱う第 1段階として,軟ろうの代表ともいうべきPb−Sn合金の銅
*)金属工学科昭和56年度卒業生,現在京都小松販売(株)
板上でのぬれをとり上げ,検討を行なった。その結果,以 下に述べる幾つかの問題点が明らかになったので,ここに 第1報として報告する次第である。
2 試料および案験方法
2.1Pb−Sn合金,銅板およびフラックスについて
純度99.9[%]の純Snおよび純Pbから,直径8[mm]の棒状合金を溶製した。これをマイクロカッターにより,1枚
が約0.3[9]の薄いディスク形に切り出し,アセトン浴で1 分間の超音波洗浄を行ない実験に用いた。使用した試料合 金の組成はSnの重量百分率が0(純Pb),20,30,40,50,62,70,80,1bo(純Sn)の9種類で,実験温度範囲は
250。〜400℃とした。母材の銅板は厚さ0、5[㎜]のJIS規格銅板1種(99.9%)
を60[mm]×60[mm]の小片に切り出し用いた。銅表面の
粗塩はぬれに影響を与えるので,切り出じた小片を400番
から800番までのサンドペーパーを順次用いて研摩した。そののち,1分間アセントン浴で超音波洗浄し,さらに5
津山高専紀要第20号(1982)
[%]の硝酸で10秒間浸漬洗浄ののちよく水洗し,水浴内で 10分間の超音波洗浄を施した。あと室温乾燥し実験に供し
た。
フラックスは接合作業中,金属面を被覆して酸化物被膜 生成を防ぐ機能を持つが,合金中に巻き込まれずかつ作業 終了後金属を腐食しない性質を持つことが要求される2)。
著者らはハンダ付けの際によく用いられるZnC12−NH4Cl系
のものを用いた。試薬特級のZnC12およびNH4Clをデシケ
ーター中で充分乾燥した後,種々の組成に混合して10wt%溶液を調製した。
2.2 実験方法
一般にぬれ性の評価は,固体金属に対 する溶融金属の拡がり面積3・4・5),接触
ft 3・5),毛管上昇高さ3・5)などの測定で行
なわれるが,本実験では母材である銅板 上でPb−Sn合金が一定時間後に拡がった 面積を求め,この大小でぬれの良し悪し を評価する方法を採った。ぬれとは固/液原子間の親和力のよう なものであると考えられ,液体金属の原 子が固体金属の原子との間に大きな親和 力を持てば,換言すると液体原子対曲の 結合エネルギーと固体原子対間の結合エ ネルギーとの相加平均が液体原子と固体 原子との間の結合エネルギーより大きい とき,液体金属の原子が次々に移動し,
固体表面層の高いエネルギー状態を安定 化させることになり7)結果的によく拡が ることになる。これがよくぬれている状 態とも考えられるわけである。
8
のような測定方法を採っているため,特殊な炉を必要とせ
ず実験操作も容易である。すなわち,炉内の水平板a上に 2.1項で述べた処理を施した銅板b(あらかじめ適量のフ
ラックスを塗布しておいたもの)を置き,合金試料ディス クCを上にのせて一定時間,一定温度で加熱したのち,自 然放冷し板上の合金の拡がり面積を測定した。なお,実験 中炉内の温度は設定温度±3DCの範囲内で制御された。3 実験結果ならびに考察
3.1合金試料の質量と拡がり面積との関係
6
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Sampte weight (g)
Fig.2 Relation between the sample (Pb−Sn alloy disc) weight and the spreading area on copper plate.
e : for Pb−62%Sn in using 3 (ZnC12) : 7 (NH4Cl) flux,
O:for Pb−70%Sn in using 1 (ZnC12):9 (NH4Cl) flux.
Fig.1に著者らの使用した実験装置の概略を示す。上述
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Fig.1 Schematic representation of the equipment.
a : horizontal plate,
b:copper plate,
c : sample disc (Pb−Sn alloy) ,
d : Pyrex window,e : chromel−alumel thqrmocouple,
f : cold junct ion.
10
Pb−Sn合金のディスク型試料は,調製時にその切り出し 質量を約0.3[g]になるように工夫しているが,ディスクに より変動があるため,あらかじめディスク質量と拡がり面 積との関係を調べてみた。Fig.2にはその結果の一例を示 す。フラックスの混合比および合金の組成比を変えて,
340℃,10分間で拡がった面積をディスク質量に対してフ。
ロットしており,このように直線関係となる。これらの直 線の勾配が単位質量の合金の銅板上での拡がり面積を表わ しており,これが大きくなるほどよくぬれていることを示
し,この例では,ZnC12とNH4Clのモル比が3:7のフラッ
クスを用いた場合のPb−62%Sn合金の方がよくぬれている ことになる。さらに,拡がりに及ぼす加熱時間の影響を調べるため,
30分で測定してみたところ,10分の場合と同様の結果が得 られたので,以後加熱時間10分,試料質量0.35[g]以下に 定めて実験することとした。
3.2 フラックス千成の選択
著者らは,フラックスとしてZnC12とNH4C1との混合物
を用いているが,その組成とぬれの関係を測定し,.ぬれ性 の良否が最も顕著に現われるフラックス組成比を実験的に 決定した。Fig.3にその結果を示す6それぞれのフラックスの組成比はモル比である。これから明らかなように,3
(ZnC12):7(NH4Cl)フラックスを用いた場合がPb−Sn合 金の全組成領域で最も良好なぬれが実現され且つぬれる場 合とぬれない場合の差が最も大.きく出ており,ぬれ性の良 否を検討するためにはこのフラックスの使用が最:適と考え
られる。著者らは,以後の実験ではこの3:7組成のフラ
ックスを使用することとした。また,フラックスには使用上適量不適量があるのではな いかと思われた。そこで数枚の洗浄処理した銅板にそれぞ れ異なった量のフラックスを塗布し,その上に同質量で同
組成のディスク試料を置き,340℃で10分間加熱した。そ
の結果どれも同じよ.うにぬれ,本実験条件下ではフラック スの量によってぬれ性は左右されないことを確認した。3.3 加熱温度とぬれ性の関係
以上の設定条件下で加熱温度を2500C,340。C,400。Cと 変えた場合,ぬれ性が合金の組成によってどのように変動 するかを調べたところ,Fig.4に示す結果を得た。温度の 上昇に伴い,いつれの組成の合金もぬれにくくなり,かつ
ぬれの最大値はSn含有率の高い組成の方に移っている。
この結果は.先にBaileyら3)が銅板の酸
10
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(weight percent)
Fig.3 Flux−composit ion dependence of the spreading area.
e : znc12,
O: 5 (ZnC12):5 (NH4Cl),
一: 3 (ZnC12):7 (NH4Cl),
O: 1 (ZnC12):9 (NH4Cl),
A: 2 (ZnC12):8 (NH4Cl),
A : no flux.
欄顕
化防止のために水素中で行なった結果と 極めてよい一致をみており,大気中で行 なった著者らの場合でも酸化の影響の無 いことが確認された。
温度の上昇につれぬれにくくなり,か
つその最大ぬれがSn含有率の高い組成
の方に移行するという現象に対する説明 は現段階においては充分な形ではなされ ていない。そこで ぬれを支配する因子 に再検討を加え,問題点を明確にしてみ たいと思う。現在までに知られているぬれを支配す る主な因子としては次のようなものが挙 げられる。すなわち,④固体(母材)表 面の粗滑,㊥溶融金属の粘度,㊦溶融金 属の表面張力芝、㊥溶解現象,である。以 下.それぞれについて検討する。
④2.Z項で述べた著者らの処理によって は銅の表面は完全に滑らかで清浄な表面 にはなっていないが,このことは測定に 用いたすべての銅板について同様にいえ ることであり,かっこのような不充分な 前処理に起因する影響を凌駕してFig・4
に示す傾向が再現性よく認められるの
で,④の因子は問題にしなくても良いも のと思われる。@Pb−Sn合金の粘度については.川勝
ら5)によれば,温度の上昇とともに単調 に減少することが認められており,従っ て,2500C>340。C>400。Cの順に粘度は小さくなっているので.250℃の場合が
一番拡がりにくいはずであるが事実は粘 性から推測されるものと全く逆の順序を津山高専紀要第20号(1982)
14
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Sn content ( weight percent )
Fig.4 Temperature dependence of the spreading area in using 3 (ZnC12) : 6 (NH4Cl) flux.
㎜舗
(y)
与えている。
㊦ぬれ量は基本的には溶融金属の表面張力と母材との相互 作用によって決まる接触角の余弦との積で定義されてお
り,本来両者の実測値から間接測定されるべきものであ る。従って,溶融金属の表面張力が合金の組成によってど のように変化するかを調べる必要がある。美馬ら8・9)によ れば,Pb−Sn合金の400℃での表面張力は, S且からPbへほ ぼ単純に減少しており,この傾向は250℃まで変化しない
ものと類推するならば,Fig.4に示された傾向を説明する には⑧の因子だけでは不充分である。
しかも,Pb−Sn合金の銅板上でのぬれの際には,母材中 の銅原子が溶融合金の中へ溶解する現象を伴うことがすで に報告されており10),実験中表面張力はPb−Sn二元合金の ものからPb−Sn−Cu三元系のものに変化して行くものと思 われるので,この辺の解明が進められなければ表面張力の
(z)
Photo.1 lnterface layers formed between the solid copper and the liquid Pb−Sn alloy at 2500C.
a : PtsSn alloy,
b:supposed to be n−phase,
c:supposed to be e−phase,
d :copper substrate,
e:tin.
効果について言明できない。
㊥著者らの実験でもPhoto.1に示すように界面付近の組
織の中にS11とCuとの固溶体であるε,η相と考えられるもの6・10)の形成が認められた。合金中の反応元素はSnであ り,Snの活動度が大きいほど.溶解して来たCuと固溶体 を形成するのが容易であると推測される。一般に溶融金属 中へ母材が溶解すると接触角は小さくなろうとするので,
液滴は母材上で拡がらざるを得なくなる。従って,Snの 活動度の一番大きいSn100∠%1のときが最もよくぬれるは
ずであるが事実はそうならず,著者らの温度範囲では,Pb を20〜80[%コ含む合金では純Snよりもぬれ性が良くなっ
ている。
Pbの含有率が高くなればSnの活動度は小さくなり11),
一定時間内にSnとCuとの接触する機会も少なくなるた
め,溶解そして固溶体の形成という過程の進度も落ちるも のと考えられるが,事実,Photo.1ではPb含有率の上昇に 伴いη相の生長は低くなる傾向が認められる。しかもη相 の生長の低いほど拡がり面積は大きくなりよくぬれているのである。従って,Pbの存在によってCuの溶解がある程
度抑制されている方がぬれ性は良好になるものと推測される。
以上のことから,④〜㊥までの項目はいつれも温度と組 成の変化によるぬれ性の変動を説明するには不充分なもの であり,今後さらに検討を加えなければならない点が幾つ か明確になったものと思われる。
4 総
括
銅板上でのPb−Sn合金のぬれ性を,温度と合金組成をパ ラメータとして検討し,以下の諸結果を得た。
(a)250℃〜400℃の温度範囲では,温度の上昇に伴いぬ れは悪くなり,しかも各温度での最大ぬれを示す合金 組成はSn含有率の高い方へ移行する。
(2)界面付近の組織観察の結果,ε相およびη相と思わ れる固溶体の形成が認められた。
(3)今後に残された課題として次の2つの事柄があげら
れる。すなわち,④Pb−Sn−Cu三元系の合金の表面張 力の組成への依存性を調べること,◎界面の組織観察 のデータを豊富にすること,である。
終りに,本研究を遂行するに当り,多くの御助力を賜っ た本校金属工学科教授谷岡守先生と一般学科教授杉山魏先 生,また写真撮影の際にはいろいろと便宜をはかって下さ
った金属工学科技官西彰矩氏に心より謝意を申し上げま
す。
文
献
1) A.Bondi;Chem. Revs., .K2 (1953),417
2)椙山正孝著;非鉄金属材料,(昭44),コロナ社
3)G工J.Bailey, H.C.Watkins;J. Inst. Metals,80(1951〜
52), 57
4)川勝一郎,大沢直;日本金属学会誌,35(1971),463
5)川勝一郎,大沢直,五十嵐修;日本金属学会誌,45
(1981), 847
6)横田勝,野瀬正照,高ノ由重,三谷裕康;日本金属学
会誌,幽(1980),7707)N.Bredgs,旺Schwartzbart;WJ.,42(1963)No・2,61s ew68S
8)美馬源次郎,豊富好雄;日本金属学会誌,22(1958),
92
9)美馬源次郎,倉貫好雄;日本金属学会誌,22(1958),
196
10)川勝一郎,山口洋;日本金属学会誌,3Z(1967),1387