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リモー トセ ンシング法原則 の採択 について

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リモー トセ ンシング法原則 の採択 について

中 村 恵

1.は じ め に

我が国の宇宙開発事業団は,1987219日,‑国産初の海洋観測衛星(MOS

‑ 1)の打 ち上 げに成功 した。打 ち上 げ後衛星本体 は,地球の両極近 くの上空 を通過 する円軌道 に投入 され,「もも1号」 と名付 け られた。 この衛星 は,港 面や地表 の様子 を宇宙空間か ら常時観測することを目的 と したもので,宇宙利 用で最 も関心の高 い リモー トセ ンシング (遠隔探査 )の分野 に,我が国 もよう や く自前の衛星 を持つ様 になったと言える。 この リモー トセンシングは,国土 の様子や漁場,農作物,森林の状態 を高高度の上空か ら調査することができる ので,国々の関心 は,極 めて高い。

けれども, この リモ‑ トセンシングには,問題点が全 く無 いわけではない。

従来の航空機 を利用 した活動では,国々の領空主権 により制限 ざれていた他国 領域の調査 を,1967年の「宇宙条約」第2条 により,一切の主権主張が認 め られ な くなった宇宙空間か ら,実施することが可能 になったのである。従 って, こ の様 な技術 を持つ宇宙活動国 (探査活動国)は,前述の 「宇宙条約」第1条が 規定する宇宙活動 自由の原則や,今 日の国際社会 で様 々な形で主張 される様 に なってきた情報流通の自由という原則 により,自国領域 ばか りでな く他 国領域 をも, 自由に探査 し,かつ 自由に情報 を伝達できると主張 している。

これに対 し非宇宙活動国 (被探査国)は,国家主権 (天然資源及 びその情報 に対する主権 )の保護 という観点か ら,探査活動 自体 に対する事前の同意であ るとか,又 は得 られた情報の第三国への伝達 に対する事前の同意 という,当該

*本稿は,昭和61年度文部省特定研究費 (研究題目 「高度情報化社会における法的諸 問題の総合的研究」,代表 大谷良雄)による研究成果の一部である。

〔77〕

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活動に対する何等かの法的な規制 を,主張 している。

この様 な国々の見解 の対立 に対 し,国連総会 は,1974年11月 に決議3234

(ⅩⅩⅠⅩ)を採択 しJ,その下部機関である宇宙空間平和利用委員会法律小委員 会 (以下,宇宙法律小委員会 とする.)が, リモー トセ ンシングに関する法律問 題の検討 を行 う様決定 した。そ して翌1975年の宇宙法律小委員会は, リモー ト センシング作業部会 を設置 して,検討を開始 した。この作業部会は, リモー ト センシングに関する法原則 を作成すべ く審議 を始めたが,上述の様 な宇宙活動 国と非宇宙活動国の見解の対立 により,審議 はなかなか進展 しなかった。 しか し,審議開始か ら12年経過 した19864月に,15原則か ら成る法原則が,作業 部会及び宇宙法律小委員会 において国々のブンセンサスを得るところとな り, 同年6月の宇宙空間平和利用委員会においてようやく採択 された(1)0

そこで本稿では,この審議の過程 を踏 まえた上で,採択 された法原則の内容 を分析 し,それにより, リモー トセ ンシングに関する国際法上のいくつかの問 題 を,検討することにする。

2.法原則案審議における各国の主張

リモー トセ ンシング作業部会 における1975年の審議開始以来,その土台 と なったのは,同部会に提出された3件の条約案であった。それは,アルゼンチ ン ・ブラジル ・メキシコ ・ヴェネズェラ共同提案 (以下 ラテンアメリカ共同提 案 とする)(2),フランス ・ソ連共同提案(3),及びアメリカ提案(4)3案である。

以下では,国々の主権の適用可能範囲という最 も重要な論点に対する各国の主 張 を,比較検討する。

まず,ラテンアメリカ共同提案であるが,自国領域内の天然資源に対する主 権 は,それに関する情報 にも及ぶとする。従 って, リモー トセンシングは,情 報を収集するだけの活動であっても,被探査国の主権侵害 となるとされる。そ

(1) U.N.G.A. OfficialRecords, A/41/20, AnnexI

(2) U.N.Doc. A/C.1/1047.

(3) U.N.Doc. A/AC.105/C.2/L.99.

(4) ibidL.103.

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リモー トセンシング法原則の採択について 79

こで同提案第5条及び第7条 は,当該活動が主権侵害 とな らない様 にするため, 探査及 びデータの収集 という宇宙部分 における活動の開始 に対 して,被探査国 の同意が必要であると している。

次にフランス ・ソ連共同提案であるが, これ も自国領域内の天然資源 に対す る主権 は,それに関する情報 にも及ぶとする。 しか し, ラテンアメ リカ共同提 案のように,探査活動 自体 を主権侵害 とはせず,得 られたデータの探査活動国 による独 占的な利用が,被探査国の主権 を侵害すると している。従 って, この 様 な主権侵害 を防止するため,同提案第4条及 び第5条 は,取得 されたデータ を探査活動国が第三国へ伝達する場合,及 び当該 データを第三国が探査活動国 か ら直接利用する場合 に限 り,被探査国の同意 が必要であると している。

この様 に, ラテンアメ リカ共同提案 とフランス ・ソ連共同提案 は,同意権行 使の対象 は異 なるにせ よ,被探査国の同意権 により,同国の国家権益 を保護 し

ようとする提案であるのに対 し,アメ リカ提案 は,天然資源 その ものに対する 主権 とその情報 に対する主権 は別であ り,◆宇宙空間か ら情報 を取得するだけで は,国際法上,主権侵害 にはな らないとする。従 って,このアメリカ提案では, 被探査国の同意 は全 く問題 とな らず,自由に情報の収集及 び伝達ができること になる(5)0

3.法原則案の一本化

この様 に, リモー トセ ンシング活動 に対する国々の主権の適用可能範囲とい う最 も重要な論点 に対する各国の主張 には,かな りの隔た りがあった。しか し, 1978年の宇宙法律小委員会第17会期の リモー トセ ンシング作業部会では,大部 分の原則 に審議未了のカギカッコが付 けられているものの,17原則か ら成 る法 原則案が,審議 の叩 き台 と して,作業部会議長 によって作成 された(6)。以下 では, この法原則案中で,前述の論点 と関係するいくつかの原則の内容 につい

(5)アメリカは,同国のOpe,nSky政策に基づいて,データの自由公開を原則としてい る。

(6) U.N.Doc. A/AC.105/218, AnnexⅢ, Appendix.

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80 38 1

て,検討する。

まず,探査活動 自体 に法的規制 を加えようとちる原則であるが,第Ⅳ原則 (数 語のみ審議未了のカギカッコ付 き)は, リモー トセンシング計画を実施する国 は,その計画において国際協力を推進すべきであり,適当かつ相互に受 け入れ られる条件の下 に,他国の参加 (ノ participation)を認 めるべきであるとして いる。また第Ⅷ原則 (全文審議未了のカギカッコ付 き)は,探査活動国による 被探査国と国連事務総長への,探査活動に関する事前通報義務 を規定 している。

これ らの2原則 は,探査活動国の事前通報 と被探査国の参加 という2つの方法 により,探査活動 自体 に法的規制 を加え,被探査国の主張 をある程度考慮 した ものと言える。次に,探査活動により得 られたデータ及び情報の伝達に法的規 制 を加えようとする原則であるが,まず注 目されるのは,第Ⅴ原則 (全文審

議未了のカギカッコ付 き)である。この原則 は, リモー トセンシングにより得 られた天然資源に関するデータ及び情報 を,第三国に公開する場合の,被探査 国の同意権 について規定 している。 この原則 は,天然資源に関するデータ及び 情報 という限定 はあるが,被探査国の同意権 を認めたものであり,前述のフラ

ンス ・ソ連共同提案の線 に沿ったものと言える。

これに対 し,被探査国の同意権以外の方法で,データ及び情報の伝達に対 し, 法的規制 を加えようとするいくつかの原則がある。まず第Ⅸ原則 (数語のみ審 議未了のカギカッコ付 き)であるが, リモー トセンシングにより得 られたデー タ及び情報は,他国の正当な権利及び利益 と両立するように,国々によって使 われるべきであると規定 している。 この原則の,「正当な権利及 び利益」の具 体的範囲は,必ず しも明確ではないが,少なくとも探査活動国によるデータ及 び情報の独 占的な利用 を規制 しようとする原則 と言える。次に第Ⅶ原則 (一部 審議未了のカギカッコ付 き)は,被探査国の自国領域 に関するデータへのアク セス (access)について,規定 している。このアクセスは,探査活動国及 び 被探査国間の相互 に合意 した条件 によるとされるが,迅速かつ森差別に,さら にはいかなる第三国よりも遅 くなくとされているので,データの利用 という点 において,被探査国の権益 を保護 しようとする原則 と言える。 さらに第 ⅩⅣ原

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リモ‑ トセンシング法原則の採択について 81

則 (全文審議未了のカギカッコ付 き)は,探査活動国及 び被探査国間の,デー タ及 び情報 の公開 に関す る協議 (cons111tation)につ いて,規定 して いる。

この原則 によれば,探査活動国か ら被探査国へ,第Ⅷ原則 に基づ く事前通報が あった場合,被探査国は探査活動国に対 し,かかる協議 を要請する権利 を有 し, 一方探査活動国はそれに応 じる義務 を負 うことになる。 この 「協議制度」 は, 放送衛星 による直接放送の場合 と同様 に,探査活動国と被探査国との間の手続 であ り,紛争の発生 を事前 に 「回避」 し,両国の利害の均衡 をはかろうとする ものと言 える(7). この他 に,探査活動の開始 とデ‑タ及 び情報の伝達双方 に, 法的規制 を加 えようとする原則 として,第Ⅵ原則 (全文審議未了のカギカッ

コ付 き)がある。 この原則 は,「富 と天然資源 に対する完全かつ恒久主権の原 則」(8)を尊重 して, リモー トセ ンシングが実施 されるべ きであると,規定 して いる。そ してその際,他国の国際法上の権利 や当該天然資源及 びその情報 に対 する不可分の処分権 に,適当な考慮 をはらうものとされる。この原則 は,リモー トセ ンシング活動 においても,国々の天然資源及 びそれについての情報 に対す る主権が,尊重 されるべ きことを規定 したものと言える。

この様 に,1978年の リモー トセ ンシング作業部会では,国々の見解 にかな り の隔た りがあったため,そこで作成 された17原則 は,まさに審議の叩き台 と言 うべ きものであった。従 って,審議未了のカギカッコが全文,又 は部分的に付 け られた原則がほとんどであ り,国々の合意が完全 に得 られた原則 は,上述の論 点 に関 しては一つ もなかった。 しか し, ラテンアメリカ共同提案 に含 まれてい た探査活動の開始 に対する被探査国の同意権 までは行かないものの, リモー ト セ ンシング活動 か ら一方的 に影響 を受 ける被探査国の正当な関心 を,何等かの 形で考慮 しようという点 については,ほぼ国々の合意が得 られたと言える。従 って,当該活動 に対 していかなる形の規制 を加 えるか,換言すれば,情報流通

(7)協議制度については,以下の文献を参照されたい。

拙稿 「宇宙国際法における協議制度 (2・完)F商学討究』,第34巻第3号, 1984,79‑88頁。

(8) 196212月の国連総会決議1803(ⅩⅦ)による。

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の自由という原則 に対 しどの程度の制約 を加えるかが,問題の焦点 となってき たと言える。

特 にその後の審議では,第ⅩⅤ原則が規定するデータ及 び情報の第三国への 伝達に対する被探査国の事前同意 と,第Ⅶ原則が規定するリモー トセンシング により得 られたデータへの被探査国のアクセスに,議論が集中 した。前者の第

ⅩⅤ原則 を支持する国々は, リモー トセ ンシング活動か ら一方的に影響 を受 け る被探査国の憂慮 を,事前同意権の確立 によって取 り除こうとするのに対 し, 後者の第XR原則を支持する国々は,事前同意権 は否定するが,被探査国のデー タへのアクセスを認めることにより,探査活動 と被探査国の利害の調整 をはか ろうとするものであった。

この様 に規制に対する方法論の違 いか ら,法原則案の審議 は,なかなか進展 しなかったが,、1982年の リモー トセンシング作 業部会 に提出されたブラジルの ワーキングペーパーによって,状況が変化 した。このワーキングペーパーは(9), 作業部会 で作成 された法原則案の内,被探査国の同意権 を規定 していた第 ⅩⅤ 原則 を削除 し,第XK原則が規定する被探査国のデータに対するアクセスの強化 と,第刃原則が規定するデータ及び情報伝達 に対する探査活動国の国際責任 を 明確化することにより,国々の間の妥協 をはかろうとするものであった。元 莱,ブラジルは,ラテンアメリカ共同提案への参加国であり,被探査国の事前同 意権 を強 く主張 していた国であったので,ブラジルの態度の変化は,妥協のため の提案 とはいうものの,作業部会における審議 に少なか らぬ影響 を与えたと言 える(10)。ちなみにこの198212月の国連総会 は,「放送衛星に関する法原則」

を,多数決によって採択 した(ll)。この法原則 も,リモー トセンシングと同様 に,

(9) U.N.Doc. A/AC.105/C.2/RS(1982)/WP.ll.

(10) M.Benko,etal., SpaceL.awintheUnitedNations, Dordrecht, 1985, pp.26‑

27.

(ll) U,N.Doc.A/RES/37/92.

正式 な名称 は, PrinciplesGoverningtheUsebyStatesofArtificialEarth SatellitesforlnternationalDirectTelevisionBroadcasting(国家による人工衛星 の国際的テレビジョン直接放送への使用を律する原則」),である。

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リモー トセンシング法原則の採択について 83

発信国と受信国の見解の対立により,宇宙法律小委員会で長年 に渡 って審議 さ れたものであったが,結局,受信国の主張 していた外国向け直接放送に対する 事前同意原則 は受 け入れ られず,上述の発信国と受信国の 「協議」 という国際 協力の原則によって,妥協がはか られた。

その後,1984年の リモー トセンシング作業部会 にフランスは,「宇宙空間か らの リモー トセンシングに関する国家活動についての原則案」 と題 された,一 括妥協のための15原則か らなるワーキ ングペーパーを提出 した(12)。 この ワー キングペーパーの特徴 は,従来の原則案では 「嶺一次デ‑」(primarydata) と 「分析 された情報」(analysedinformation)が定義 されたのみであったが, それに付 け加えて 「整理 されたデータ」(processeddata)の定義が入れ られ, より詳細な案文 とされたことであった。そ して問題の焦点 となっている規制の 方法 については,先のブラジルの妥協案の線 に沿 って,被探査国が 「第一次デー タ」,「整理 されたデータ」及び 「分析 されたデータ」へアクセスできるという 同案の第Ⅶ原則 と,放送衛星 に関する法原則 と同様な探査活動国と被探査国の 間に 「協議制度」 を設 けるという第Ⅷ原則により,国々の妥協 をはかろうとす るものであった.この2原則の他 に,フランスのワ‑キングペーパー中には, 注 目されるいくつふの原則が含 まれていた。まずⅧ原則であるが,探査活動国 は,1976年の 「宇宙物体登録条約」第4条に基づいて,国連事務総長 に通報す ることが義務付 けられてお り,また活動か ら影響 を受 ける国の要請があれば, 活動に関する情報 を提供することが義務付 けられている.また第Xl原則 は, リ モー トセンシング活動が,他国の正当な権利及び利益 と両立する様 に実施 され るべきと規定 してお り, さらに第 ⅩⅣ原則 は,「宇宙条約」第6条 に基づ く国 家への責任集中が, リモ‑ トセンシング活動 にも適用 されると規定 していた。

このフランス提案 を受 けた作業部会 は,前述の作業部会議長案 とフランス案 を比較 して審議 を進め,なんとか国々の合意 を得 ようとしたが,被探査国の事 前同意権 に固執する国々と,被探査国のアクセスと関係国間の協議制度により

(lZ)U.N.Doc.A/AC.105/C,2/L144

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妥協 をはかろうとする国々の隔たりは,完全 には埋まらなかった。かかる事態 を打開するため,作業部会議長の下 に非公式 グループが作 られ折衝 を続 けた結 果,翌1985年 にフランス案 に修正 を加えた形の新たな作業部会議長案が作成 さ れ(13),この案文の字句 を若干修正 したものが,その翌年,多数決によらないコ ンセンサスという方法で,国々の合意 をみるに至 った。

4.採択 された法原則の内容

ここでは採択 された法原則の内,問題の焦点 となっていた国々の主権の適用 可能範囲に関する原則の内容を中心 に,検討する。

まず注 目されるのは,被探査国の事前同意権 を規定 した原則が,一つ も盛 り 込 まれていないことであり,それに代わって,被探査国のデータ及び情報への アクセスと,探査活動国と被探査国の間の協議により,関係国間の利害の調整 をはかろうとする規則が,法原則の根幹 となったことである。まず第Ⅶ原則で あるが,被探査国は,自国領域に関する第一次データ及び整理 されたデータへ, 無差別かつ合理的な費用でアクセスできるとされる。さらに,分析 された情報 へも,同 じ条件でアクセスできるとされる。その際,開発途上国の必要性 と利 益 とが,特 に考慮 されることにtl,る。次に第Xm原則であるが,国際協力を促進 し,開発途上国の必要性 を考慮 した上で同国の活動への参加の機会 を与えるべ く,探査活動国は,被探査国の要請により,相互に協議するものとされる。そ してこの2原則の前提 として第Ⅸ原則 は,探査活動国による,活動計画の国連 事務総長への通報,及び,特 に開発途上国の要請 による情報提供 について,規 定 している。前者の通報 は,「宇宙物体登録条約」第4条及 び 「宇宙条約」第 11条に基づいて,行われるとされる。なお以上の3原則 は,先のフランス提案 のそれぞれ第Ⅶ,班,Ⅷ原則 に修正 を加えたものであり,被探査国の事前同意権 という厳格 な規制ではなく,探査活動国と被探査国の間の協力によって,利害 の調整をはかろうとした原則 と言える。

(13)U.N.Doc.A/AC.105/352,AnnexI,Appendix,SectionB.

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リモー トセンシング法原則の採択について 85

この様に,被探査国の事前同意権が法原則中に加えられなかったため,当該 活動か ら得 られた利益の探査活動国による独 占が,懸念 されることになる。そ こで第 Ⅱ原則 は, リモー トセンシング活動 は,すべての国の利益のために実施 されるとしてお り,特 に開発途上国の必要性 を考慮するものとされる。また第

Ⅳ原則 は,かかる活動が,「富 と天然資源 に対する恒久主権原則」 を尊重すべ きこと,及び被探査国の正当な権利や利益 を害 さない様 に実施 されることを, 規定 している.この2㌧原則 は, リモー トセンシング活動における探査活動国の 行動基準 を定めたものであり,活動か ら得 られた利益の探査活動国による独 占

に対 し,一定の歯止めを掛 けたものと言える。

次に第Ⅴ原則か ら第Ⅷ原則には,フランス提案第Ⅳ原則か ら第Ⅶ原則 を踏襲 する形で,国際協力に関する原則が置かれている。第 Ⅴ原則 には,合意 された 条件 に基づいたリモー トセンシング活動への他国の参加が,第Ⅵ原則には, リ モー トセンシングにより得 られた利益の,地域的協力に基づ く活用が,また第

Ⅶ原則には,国々の合意による技術協力が,そ して第Ⅷ原則には,国連の諸機 関を利用 した国際協力の促進が,‑規定 されている。特 に第Ⅷ原則 には,探査地 域の調整 に関する国際協力が含まれていることが,注 目される。また第 Ⅹ原則 及び第XI原則 は,自然環境保護や自然災害防止のためのデータ及び情報の関係 国への通報 を規定 しているが, この2原則 も,環境保全の面での国際協力につ いて規定 したものと言える。

さらに第 ⅩⅣ原則には,フランス提案第 ⅩⅣ原則 を若干修正 した形で,リモ‑

トセンシング活動 に関 しての探査活動国への責任集中が,規定 されている。こ の原則は,「宇宙条約」第6条の規定する国家への責任集中という規則 を,リモー トセンシング活動 に適用 したものであり,当該活動が公私 を問わずいかなる主 体 によって実施 されようとも,探査衛星 を打 ち上 げ,かつ運用する国家が,国 際責任 を負 うというものである。この国家への責任集中という原則により, リ モー トセンシング活動 を,国際法及びこの原則 に準拠 して実施 させることが, 担保 されるであろう。

以上の様 に,1986年の宇宙法律小委員会で合意 された リモー トセンシングに

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β6 38 1

ついての法原則は,長年に渡 って主張 され続 けてきた,被探査国の探査活動 自 体やデータ及び情報の伝達 に対する事前同意権 を採用せず,国々の平等 を基礎 とした宇宙開発の自由という 「宇宙条約」第1条が規定する原則 に基づいた法 制度 (legalregime)を,作 り出 した。さらに,協議 という利害調整手続 によっ て,国々の当該活動への参加 と,相互の利益の実現を,はかろうとしたのであ る。従 ってこの原則 は,国々の無制限な主権の主張ではなく,国々の協力を主 眼とした原則 と言えよう。

5.リモー トセンシングと国際法

ここでは, リモー トセンシングにおける探査活動国の活動 自由か,それとも 被探査国の権益保護かという問題 を,次の2つの観点か ら検討することにした い。第1,「宇宙条約」第1条が規定する 「宇宙活動 自由の原則」 を,他国 領域 に対する探査活動にそのまま適用できるかという点であり,第2は,国際 人権B規約第19条等が規定する 「情報流通 自由の原則」 を,当該活動 によっ て得 られたデータ及び情報の第三国への伝達 に,そのまま適用できる少 という 点である。

まず第1の点であるが,「宇宙条約」第2条 によれば,宇宙空間のいずれの 部分 に対 しても,国家 による領域権原の取得 (nationalappropriation)が禁 止 され,またいかなる国も,宇宙活動の実施 による主権の主張,使用若 しくは 占拠等という手段 により,宇宙空間に対 し排他的な領域主権 を設定することが できないとされる。そ してこの規定 と対 をなす形で,同条約第1条 に,宇宙空 間の探査(14)及 び利用の自由は,無差別かつ平等の基礎 に基づいて,すべての 国に権利 として保障されるものであり,また宇宙空間がすべての国の利益のた めに,「全人類の活動分野」として確保 されるべきであるという,「宇宙活動 自 由の原則」が置かれている。この原則 は,いずれの国も,他国の許可を得 る必 要 もなく,また他国による何等の妨害 も受 けずに,宇宙活動を実施する権利が

(14)この 「探査」は,exploratiomの訳語で,文字通りの探険とか調査を指すものであ り,リモー トセンシングにおけるsensingの訳語とは異なる。

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リモー トセンシング法原則の採択について 87

あ り,逆 にいずれの国 も,たとえ自国の領空 を通過するものであっても,他国 が打上 げた宇宙物体 に対 して,宇宙空間の利用 を妨害 した り,否認する様 な方 法 で,管轄権 その他 の実 力措置 を及 ぼす ことが禁止 され るとい う趣 旨で あ る(15)。 この 「宇宙空間領有禁止原則」 と 「宇宙活動 自由の原則」 により,伝 統的な国家の領空主権 が,宇宙空間では排除 されることになる。従 って,リモー トセ ンシングにおける探査活動国は, この2原則 を援用 して,従来領空主権 と の関係で制限 されていた航空機 による他国領域の調査活動 も,宇宙空間か らの 人工衛星 による探査活動であれば禁止 されないと主張 した。

これに対 し被探査国は,宇宙活動 自由の原則」が対象 と している宇宙活動 は, 月の探査 とか太陽系の惑星の探査 という様 に,宇宙空間そのものの科学的及 び 実験的な探査や調査であ り,打上 げた宇宙物体 を通信,放送,気象観測,航行 管制,資源探査等の実用的な目的 に用 いる活動,つま り宇宙活動の影響が直接 地球上へ及ぶ活動 は,当該 自由に含 まれないと主張 した。また, もしそうでな いと して も,宇宙条約」の審議 の際 に問題 となった様 に(16),宇宙活動が全 く 自由というわけではな く,宇宙条約」前文が規定する「全人類の共同の利益」と の関係で,宇宙活動の自由には限界がなければな らないと主張 した。従 って, 活動の影響が直接地球上へ及ぶ リモー トセンシングの様 な活動 については,探 査活動国の排他的な活動 を許 さず,かつ被探査国の利益 を尊重する観点か らも,

「宇宙活動 自由の原則」 に何等かの制約 を設 けるべきであ り,その一つの方法 が,探査活動開始 に対する被探査国の同意であると主張するのであった。

この様 に,宇宙活動 自由の原則」 の適用範囲に関 して,探査活動国と被探 査国の見解の間には大 きな相違があったが,本来 この原則 は,被探査国が主張 した様 に,宇宙空間そのものの科学的及 び実験的な探査や調査 を対象 としたも の と解釈 すべ きであろう(17)。従 って,宇宙活動の影響が直接地球上 に及ぶ放

(15)LLl本草二 「宇宙開発『未来社会と法』,筑摩書房現代法学全集第54,1976,32

‑43頁。

(16) U.NDoc. A/AC.105/C:2/SR.57, pp,68‑70; ibid./SR.69, p.17.

(17) N・Jasentuliyana&R.Lee, ManualonSpaceLaw,Vol,1,DobbsFerry, 1979, pp.9‑12.

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88 商 学 究 第 38巻 1

送 とか資源探査等の活動については,人工衛星の打上 げや宇宙空間への配置 と いう段階については,本原則により自由に実施できても,他国向けテレビジョ ン電波の発出や,他国領域 に対する探査活動 という段階を,本原則により自由 に実施できると解するのは,本来の解釈か らすれば疑問が残ろう。 しか し合意 された法原則中の第Ⅳ原則 は, リモー トセンシング活動は,宇宙条約第 1条が 規定する原則 に基づいて,なかんず く 「平等の基礎に基づいた宇宙空間の自由 な探査 (exploration)及 び利用」 と.いう原則 に基づいて,実施 されると規定 している。この第Ⅳ原則は,同時に, リモー トセ ンシング活動が,国家の 「富 と天然資源に対する完全かつ恒久主権原則」 を尊重 し,被探査国の正当な権利 及び利益 を害 さない様 に実施 されるべきことを規定 しているが,とにか く,探 査活動の開始 に対する被探査国の事前同意原則 を否定 し,「宇宙活動 自由の原 則」が, リモ⊥ トセンシング活動に対 しても適用 されることを明確 に したので あ り,注 目に値 しよう。この点に関 しては,被探査国に代表 される非宇宙活動 国といえども,宇宙開発がもたらす利益 を何等かの形で享受 したいので,宇宙 活動国との妥協 によって,かかる原則 を受 け入れざるを得なかったのであろう。

以上の様 に, リモー トセンシングに関 しては,宇宙活動 自由の原則をかな り 広範囲に適用する原則が規定 されたが, この様 な傾向は,1982年 に採択 された 放送衛星による 「直接放送に関する法原則」 にも見 られる。この原則でも,外 国向け直接放送に対する受信国の事前同意権が否定 され,直接放送 を発信国と 受信国の間の事前協議 という手続 に委ねることとなった。従 って,今後,宇宙 開発の様々な分野における法規範が作成 されることになろうが,国々の主権の 適用範隣を限定 し,それに代 って 「宇宙活動 自由の原則」 をかなり広範に認め

る規則が,作成 されることになるであろう。

次に第2の点であるが,国際的な人権保障の気運の高まりの中で,国際人権 B規約第19条第2項が規定 する 「情報流通 自由の原則」が,国際社会 におけ る関心の的となってきた。 この原則が規定する自由には,国境 とのかかわりな く,あらゆる種類の情報及び考えを 「求め」,「受 け」及び 「伝える」 自由が含 まれている。そ してこの原則 をリモー トセンシング活動にも適用することによ

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'リモー トセンシング法原則の採択について 89

り,探査活動国は,他国領域 に関するデータ及 び情報であっても,第三国に対 し自由に伝達できると主張するのに対 し,被探査国は,その様 な自由な伝達 ま でをも当該原則が保障するものではないと,主張 している。

そもそも人権規約上の文言が「すべての者 は」となっていることか らも解 る様 に,本来 この原則 は,情報流通 に関する私人の個人的な自由を権利 として保障 しているだけと考えるのが,妥当であろう。 ところが, リモー トセ ンシング活 動 により得 られたデータ及 び情報の第三国への伝達 は,たとえそれが私人や私 企業 によって実施 されるものであっても,国家の何等かのかかわ りが必要であ り,私人の個人的な段階を越 え,国際社会 において国家間の相互関係 に直接の 影響 を与 えるもの と言 える(18)。従 って,既存 の人権保障条約 の対象範囲 を越 えた全 く新 しい問題 を提起 するものであ り,国際人権B規約第19条第2項 を,

リモー トセ ンシング活動 により得 られたデータ及 び情報の自由な伝達 に,その まま適用することはできないであろう(19)0

この様 な点 は,前述の 「放送衛星 に関する法原則」でも既 に議論 されていた。

外国向けの直接放送が,受信国の政治的及 び文化的一体性 を保持するという国 内管轄事項 に対する違法 な干渉 となる恐れがある以上,「情報流通 自由の原則」

を根拠 と した自由な放送が認め られず,受信国の法益 に対する相当な配慮 とい う観点か ら,事前の協議や取 り極 めを,放送電波発出の要件 とする原則が採択 された。同様 に, リモー トセ ンシングに関 しては,私人の個人的な権利 とはい え,国際社会 における情報流通の自由という気運の高 ま りと,被探査国の権益 保護 との妥協の結果,被探査国が強 く主張 したデータ及 び情報の伝達 に対する 事前同意権 は否定 されたが,被探査国の得 られたデータ及 び情報へのアクセス を認める原則 と, リモー トセ ンシング活動 を探査活動国と被探査国の間の協議 に基づかせる原則が,採択 された。前著 は,被探査国の言わば 「知 る権利」 を

(18)山本章二 F放送衛星を'めぐる自由と規制』,玉川大学出版部,1979年,82‑95頁。

(19) この点に関連 して,国連における 「情報自由に関する条約」作成の失敗が,注目さ れる。詳細については,拙稿 「放送衛星による直接放送と国際法一橋論叢』,第 85巻第6号,1981年,140‑141頁を,参照されたい。

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保障 したものであり,後者は, リモー トセンシング活動 を,放送衛星による直 接放送 と同様 な協議 という利害調整手続 に基づかせることにしたものである。

これ らの原則の採択についても,事前同意原則 に対する固執によって,宇宙開 発か らの恩恵に乗 り遅れまいとする非宇宙活動国の意向が,大いに反映 したも のと言えよう。

6.む す び ̲

すでに検討 してきた様 に,1986年 に採択 された リモー トセンシング法原則で は,被探査国が主張 していた探査活動開始やデータ及び情報の伝達 に対する事 前同意原則 は否定 された。 しか し,探査活動国の全 く自由な活動 を認めたわけ ではなく,被探査国の自国領域 に関するデータ及び情報へのアクセスと,利害 関係国間の協議手続 という規制 を含んだ原則が,採択 された。これは,宇宙活 動か ら直接影響を受ける被探査国の権益 を保護するためには,宇宙部分 (衛星 による探査活動 自体 )や地上部分 (収集 されたデータの受信及び解析 )ではな く,使用者部分(解析 された情報の配布及び利用 )の段階で法的な規制 を加える のが妥当であるという,国々の意思 を反映 させたものといえよう。そしてかか る方法により,宇宙条約が規定する 「宇宙活動 自由の原則」や,国際的な人権 保障条約が規定する 「情報流通 自由の原則」 と,被探査国に代表 される非宇宙 活動国の権益保護 との,調和 をはかったものと見 ることができよう。またこう した利害調整 により,自然災害 に関するデ‑夕及 び情報の伝達の場合の様 に, すべての国が宇宙開発のもたらす利益を享受することになろう。

最後 に,時間的には前後するが, リモー トセンシング活動か ら得 られたデー タ及び情報の国際的利用を促進 させるものとして,19832月の国連総会 は, 国際宇宙情報サービス (InternationalSpaceInformationServi℃e)の設立 を, 決議 した(20)。 これは,国々に対 して,利用可能なデータバ ンク等の情報源 に ついての案内を行 う機関であり, リモ‑ トセンシング法原則にも規定 された国

eo)U.N.Doc.A/RES/37/90

(15)

リモー トセンシング法原則の採択について 91

際協 力 を推進 す る一つ の機 関 と して,注 目に値 す ると思 われ るが,詳細 につ い て は,後 日を期 す ことに したい。

参照

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