経営 と経済 第85巻 第1・2号 2005年9月 199
企業価値評価 とのれんの認識拡大
‑ 企業結合会計プロジ ェク ト(フェーズⅡ)の特徴 ‑
今 田 正
Abstract
TheFASBandIASBprojectedtoachieveconvergenceofaccounting andreportingforabusinesscombinationsintwophases.Thefirstphase seeksinternationalconvergenceoftheappropriatemethod(S)ofac‑ countingforbusinesscombinations.ThemainobjectiveofthejointPur‑ chaseMethodProceduresproject(PhaseⅡ)istoachieveconvergence betweenFASBandIASBguidanceintheareaofpurchaseaccounting, andissulngtheircommonproposedStatement.AsgeneralprlnCiple, thisproposedStatementwouldrequlretheacqulrlngentityaccountfor thebusinessacquired,asawhole,atitsfairvalue.Inapplyingthisfun‑
damentalprinciple,assetsandliabilitiesofacquiredbusinesswouldbe recognizedatthefullamountoftheirfairvalues.Goodwillalsowouldbe recognizedatitsfullamountwhetherornottheacquiredbusinessis whollyowned.
ThepaperdiscussesthefeaturesoftheproposedStatementandexa一 mineaccountinglmplicationsofmeasurlngthefairvalueofthebusiness acquired.
Keywords:fairvalue,acquisitionmethod,fullgoodwillmethod
は じ め に
企業結合会計の見直 しは処理基準の国際的統一化の名の もとに
F AS B
とI AS B
との共 同のプロジェク トとして,2
段階に分けて進め られてきた。企業結合会計プロジ ェク ト (フェーズ
Ⅰ)
(以下,フェーズⅠという)はFAS B
に おけるFAS1 4 1
号 「企業結合」 1およびFAS1 4 2
号 「のれん及びその他の無 形資産」 2の公表 として,またI AS B
においてはI FRS3
号 「企業結合」3と 改訂I AS3 6
号 「資産の減損」 4および改訂I AS3 8
号 「無形資産」 5の公表 として結実 した。すなわち,フェーズ Ⅰの 目的はパーチ ェス法 と持分プー リン グ法 とい う同じ企業結合について異なる財務諸表上の結果をもた らす 2つの 会計方法の国際的な統一化 (convergence)を図ることにあ り,その結果, すべての企業結合を 「取得」 とみな してパーチ ェス法へ一本化 し,持分プー
リング法を排 したのである。
一方, このプロジェク トの特徴は企業結合会計プロジ ェク ト (フェーズⅡ)
(以下,フェーズⅡという)がフ ェーズ Ⅰとはぼ平行 して進め られたことであ る。その 日的はまさにパーチ ェス法適用の拡張にあ り,非支配持分が存在す る場合の企業結合会計,すなわち 「全部のれん法」(fullgoodwillmethod)
の問題を含む もの として設定され,その結果は早 くも
FAS B
におけるF AS 1 4 1
号およびI AS B
におけるI FRS3
号の同時の修正 となったのである6。いま, これを
FAS B
公開草案 (以下,ドラフトという)によってみれば,紘 じてその基本的考 え方は公正価値評価の拡張 ともい うべきものである。その 基本原則は,取得企業を取得原価においてではな く,その総体を公正価値を もって評価するとい うものである7。 それは企業結合会計が個別資産の公正 価値評価か ら企業価値評価の会計へ と視点が移 されたことであ り,それはま1 FASB,StatementofFinancialAccountingStatementsNo.141,BusinessCombinations, June,2001.
2 FASB,StatementofFinancialAccountingStatementsNo.142,GoodwillandOtheyIn‑
tangibleAssets,June,2001.
3 IASB,IFRS3,BusinessCombinations,March,2004.
4 IASB,IAS36,ImpairmentofAssets,March,2004.
5 IASB,IAS38,IntangibleAssets,March 2004.
6 FASB,ExposureDraft,ProposedStatementofFinancialAccountingStandards,Busi‑ nessCombinations,a71ePlacementofFASBStatementNo.141,June,2005.
IASB,ExposureI)raftofProposedAmendmenttoIFRS3BusinessCombinations, June,2005.
7 FASB,ExposureDraft,opcit.,p,Ⅹiv.
企業価値評価 とのれんの認識拡大 201
た原価主義会計からの離脱 と公正価値会計への転換を意味 しているとみ られ るのである。
以下, これ ら企業結合会計への全面的公正価値会計適用の内容 とそれが意 味するところを検討する。
Ⅰ 企 業 結 合 会 計 (フェーズⅡ)の到達点
まず,フェーズ Ⅱの到達点またはその要点を整理 しよう。
フ ェーズ Ⅰで規定されたすべての企業結合についてパーチ ェス法のみを会 計方法 とすること,したがってそのすべてについて取得企業を識別すること, またのれんか ら分離 して無形資産を識別すること等 についての指針について は何 ら変更は加えていない。
では,フェーズⅡの特徴はなにか。企業結合会計の一般原理は,取得企業 はその取得 した企業 (ビジネス)をその公正価値で認識すること,また企業 結合の一部 として取得 した資産及び引受けた負債をすべて公正価値で測定す
るとい うところにある。
すなわち,すべての取得 した企業 を,APBオピニオン16号8か ら引 き継 がれ
,FAS
141号が採用 してきた原価ベースで (costbased)規定するので はな く,その公正価値 をもって測定することを求めたのである。取得 した企 業をその公正価値で測定するとい うことはある取得項 目をその公正価値で測 定するという基本的な原則 と合致するというのである。そして,その取得 さ れた企業の公正価値は交換取引の慣例 として,交換 において引 き渡 された対 価の公正価値 をもって測定される, というのがここでの基本論理である。この考 え方は,取得 した企業の測定 にあたっては取得に要 した取引コス ト を含めない というところにも示 されている。すなわち,それ らのコス トは企 業の取得 において交換 された対価を構成するものではないから,個別に費用
8 APB,APBOpinionNo.16,BusinessCombinations,August,1970.
として処理する とする とされるのである9。
要点の第二は,取得 した資産及び引受けた負債の認識 と測定は取得 日にお ける公正価値 を もって行 う とい うこ とである (すなわち,それら資産 ・負債へ の取得原価の配分ではない)。 これは現行基準 と実質的には変 わ らないが,質 産あるいは負債の定義 を満たす取得 した資産及び引受けた負債は取得 日の公 正価値で測定 される。 またその場合,被取得企業の資産 お よび負債の全額が 取得 されない場合 (非支配持分が存在する場合)について も,部分公正価値では な く全部公正価値 を もって認識 され る。すなわち,100%以下の取得の場合 に,部分公正価値 と部分帳簿価額 といった測定は行わない とい うことである
10 0
要点の第三は,のれんの認識であ るが,のれんは非支配持分帰属のそれを 含めてその全額が認識 される。すなわち,完全取得でない場合ののれんの認 識 と測定を取得持分に限 る とする現行基準 と実務が排除された ことである。
要点の第四は,企業結合 によって取得 されたある種の研究開発費が従来費 用償却 された ものが,認識計上 され,以降減損 テス トに付 されることである。
以上の ような主要な企業結合会計基準の概念的転換 ・拡張 について,以下, 詳細に検討 しよう。
Ⅱ 企業結合会計の拡張
前述のご とく,フェーズ Ⅱの基本原則は,取得企業はその取得 した企業を 取得 日の公正価値 で認識す ることを求めた ことである11。 この公正価値 によ る測定は支配獲得の形態の如何 にかかわ らず適用 される原則であ り,すべて の企業結合は企業の取得 として処理する 「取得法」(acquisitionmethod)を 適用 して処理 されるこ とになる。 この方法は,企業結合を取得企業の観点か
9 FASB,ExposureDraft,op.cit.,p,Ⅹiv.
10 Zbid.,p.V.
ll Ibid" par.19.
企業価値評価 とのれんの認識拡大
らするある企業の純資産の取得 とみるのである。
203
(1)取得企業の公正価値の決定
まず,取得 された企業はその取得 日における公正価値で測定 される とい う 場合,それはいかに決定 されるであろうか。取得 された企業の公正価値 は当 該企業 との交換 に移転 された対価項 目の公正価値 に基づいて決定 され, もし 移転 された対価が取得 された企業の公正価値 を表 わさない場合は他の評価技 法を用 いて評価するとする12。
すなわち,意思があ る当事者間の企業結合 において全持分 (純資産)の買 収によって取得企業が被取得企業の支配権 を獲得する といった場合には,珍 転 された総対価の公正価値が取得 された企業の公正価値 よ りも一般 に明確な 証拠 とな り,かつ信頼性 をもって測定可能である とされるのである13。 しか し,持分の100%以下の取得 に よって企業の支配権 を得 る場合 には,移転 さ れた総対価の公正価値 それ 自体は当該企業の公正価値 を必ず しも表わさない こともある。 この ような場合,当該企業の公正価値の決定 には移転 された対 価の公正価値 とともに他の利用可能な情報や評価技法を用いるとされる14。
留意 されるべ きことは,この移転 された対価 には取得 された企業の純資産 と交換 に取得企業 によって移転 され るあ らゆる形態の対価が含まれ,例 えば 現金,有形お よび無形資産,取得企業の一つのビジネス部門ない しは子会社, 取得企業の有価証券,あるいは取得企業 による予約 された支払勘定な どが含
まれることである。
この ように,企業結合の会計の基礎 には,独立 して,取引の意思がある当 事者間の等価交換がなされる独立第三者間取引が前提 されてお り, これによ
って取得企業 によって支払われた対価が (支配権を獲得した)被取得企業の純 資産の公正価値 を表わ している とい うように論理づけ られるのである。
12 Ibid.,par.20.
13 Ibid.,par.20.
14 Ibid.,par.All
(2)取得資産 ・負債の認識 と測定
つぎのステ ップは,取得資産 ・負債の認識 ・測定である。
取得企業はその定義 を満たす資産 ・負債 を認識す ることになる。 しか も, これ ら企業結合の一環 として認識 される資産 ・負債 には,結合前 には被取得 企業 によって認識 されていなかった資産 ・負債が含 まれる15。た とえば,取得 企業は認識規準を満たさないゆえに被取得企業の財務諸表上 に認識 されなか った 自己創設の無形資産で も識別可能な ものは認識 してい くことになる。 と
くにこの ドラフ トは,企業結合によって取得 された研究開発活動 に使用 され た識別可能な無形資産 および固定資産は(将来の代替的使用の有無にかかわらず) すべて取得 日の公正価値 をもって測定 し認識するこ とを規定 している160
また, これ ら資産 ・負債は当初取得 日の公正価値 を もって測定 される。で は, この公正価値 とはなにか
。FAS B
とI AS B
とは別個の共 同プロジ ェク トとして公正価値測定のフレームワーク化 を企図 し17,公正価値の見積 りを 以下の ような 「公正価値 ヒエラルキー」を基礎 として決定するとしたのである。
すなわち,公正価値 は知識を有 し,利害関係を有せず,意思がある当事者 間の取引を反映 した ものであるとい う一般原則 によ り次q)ように定式化 した のである。
レベル 1‑公正価値の見積 もりはその情報 が得 られ るか ぎ り,同一の資産 または負 債の観察可能な市場の取引価格 を参照 して決定 され る。
レベル2‑同一 の資産 または負債 についての市場取引価格 が得 られない場合は,公 正価値 の見積 も りは類似の資産 または負債 についての測定 日における観察可能 な市 場取引価格 を調整 することによって決定 される。
15 Zbid.,par.28.
16 Ibid.,pars.40,A27,D9,D22C.
IASBは既にIFRS3号において仕掛研究開発プロジェク トについて認識すべきことを 規定 した (IASB,ZFRS3,par.BC90.)0
17 FASBは (ExposureDraft,ProposedStatementofFinancialAccountingStandards, FairValueMeasurements,June,2004.)を表わし,金融資産 ・負債および非金融資産 ・負 債について適用される公正価値測定法の指針を示 した (今田 正 「公正価値測定のフレー ムワーク化
」
『長崎大学経済学部研究年報』第21巻,2005年3月を参照されたい)0企業価値評価 とのれんの認識拡大 205
レベル3‑もし同一の,また類似の資産 または負債 についての観察可能な市場取引 価格 も得 られない場合 には,公正価値 の見積 もりはその他の評価技法 を用 いて決定 されることになる。それ らにはマーケ ッ ト ・アプローチ,インカム ・アプローチお よびコス ト ・アプローチ法 として分類 される手法が用い られる。
(3) 無形資産の認識
この ように, ここでの中心問題は無形資産の認識問題であるが,その識別 の基本は現行規準 と異なる ところはない。
まず i)取得無形資産 は もしそれが契約ない し法的権利か ら生 じた もので ある場合 (契約及び法的権利規準)に資産 として認識 される。ii)もし無形資 産が契約あるいはその他の法的権利 か ら生 じた ものでない場合は,それが分 離可能である,すなわち,それが取得 された企業か ら分離ない し分割 して売 却,移転 ,ライセンス,貸与あるいは交換で きる場合 (分離可能性規準)にの みのれんか ら分離 して資産 として認識 されるとす る。 また この分離可能性 に ついては,無形資産 が個別 には以上の規準を満たさない場合で も,関連する 契約,資産あるいは負債 との組合せで可能な場合は分離可能 とみなされる180
すなわち,その交換取引 こそが無形資産が被取得企業か ら分離で き,公正価 値の見積 もりに利用で きる情報 を提供するとい うのである。 したがって,取 得無形資産は同一のタイプあるいは類似の資産が交換取引されているとい う 証拠があれば,それは分離可能性を満た している とされる。た とえば,顧客 リス トは しば しばライセンスされるが,取得企業の顧客 リス トは分離可能性 規準 を満 たす ことを示 している19。すなわち,分離可能性規準 を満たす無形 資産は取得企業が当該資産 を売却,ライセンスあるいはその他交換する意図 の有無の如何 にかかわ らずのれんか ら分離 して認識すべ きとす るりである。
18 FASB,ExposureDraft,op.cit.,pars.A28,A29.
19 Lbid.,par.A29.
Ⅲ のれんの認識拡張
( 1 )
のれんの認識つぎに,フェーズⅡの最大の特徴はのれんの認識拡大である。それは,取 得企業は被取得企業の全体 としての公正価値が認識 された識別可能な取得 し た資産及び引受けた負債の純資産公正価値 を超える額をもってのれん として 認識するところにある。 この要請は被取得企業が全体 として取得 されたかど うかの如何 にかかわ らず適用 され る20。それはのれん以外の資産が取得持分 の如何 にかかわ らず取得時の公正価値で (その総額が)認識 されるの と同様 に,のれん資産 もまた取得持分の如何 にかかわ らずその (非支配持分相当のの れん分も含めた)全部のれんが認識 されるべ きだ とい うのである。 したがっ てまた, この全部のれんには,当然,のれんか ら分離 して認識する規準を満 たさない無形資産 も含 まれることになる。
また,当初認識以降は, (改訂)FAS142号に従 ってのれんは償却 されるこ とな く,減損テス トに付されることになる21。
いずれにして も,被取得企業について100%以下の持分取得 による企業結 合の場合において も,のれんはこの認識規準によって決定 され,この全部の れんが支配持分 と非支配持分に配分 されるのである。支配持分に配分される 額は支配持分相当の公正価値 と取得 された識別可能純資産公正価値に対する 支配持分比率 との差額22として測定 され,そののれんの残余部分が非支配持 分 に配分 されることになる23。 この 「支配持分相当の公正価値」 とは,(a) 取得企業 によって交換 された対価の取得 日現在の公正価値 および,(ち)もし あれば,取得企業の取得 された企業 に対するそれ以前の非支配的投資額の公 正価値 によって測定される。
20 IbidリparS.51,D22.
21 Ibid.,par.51. 22 Ibid.,par.49.
23 また, (改訂)FAS142号 (パラグラフ34)はのれんの減損をテス トする目的上,企業結 合によ り取得 したすべてののれんは取得 日現在でレ‑ポテ ィング ・ユニ ッ トに割 り当て なければな らない とする (Ibid.,par.D22i.).
企業価値評価 とのれんの認識拡大 207 以上 を ドラフ トが示す設例24を基 に (一部加筆)会計処理 をもって示そ う。
20Ⅹ5年 1月1日A社はB社の80%の持分を160で取得 した。 この取引は 等価交換取引でない と示唆する証拠はない。 したがって,移転された対価
(160)は支配持分の80%の公正価値 を表わ している。
評価技法を用いた評価の結果,B社持分の全体の公正価値が195と決定 された。また,取得 日において認識可能な資産の公正価値が210,負債が 60であった, とする。
従来基準 と比較 した会計処理の結果を比較 しよう。
買収のれん説 :
(借) 資 産 210 (貸) 負 債 60 の れ 'ん 40 B社 株 ∵式 160
全部のれん説 :
(借) 資 産 210 の れ ん 45
0056631
債式分抹消=加負B非
㈲
「全部のれん」額は次のように算定 される。
被取得企業の公正価値 (B社の100%持分) 控除 :識別可能純資産の純公正価値[210‑60]
のれん
A社およびB社の非支配持分に配分 されるのれんは次のように計算 される。
B社に対するA持分80%の公正価値
控除 :識別可能な取得純資産公正価値 に対する A社の持分 (80%×[210‑60])
A社への配分のれん
B社の非支配持分への配分のれん[45‑40] 24Zbid.,par.A63.
(2) バーゲン ・′パーチ ェスの処理
つぎに,取得企業の被取得企業に対する持分の公正価値が交換 された対価 の公正価値を超 える場合,これをバーゲン ・パーチ ェス とよび,次の ように 処理 される25。
a.取得企業はすべての取得資産 お よび引受け負債が正 し く識別 された か,また測定 に用 い られた手続 を評価 し,被取得企業の公正価値の再 評価等を行 う。
b.その評価を行ったのち,被取得企業の公正価値 に対する支配持分額が その取得持分について移転 された対価の公正価値 をなお超 える額は (支 配持分に配分される)のれんの額を減ずる。また非支配持分に配分 される のれんの額 も比例的に減ずることになる。もしのれんをゼロまで減 じて, なお残余額がある場合は支配持分を取得時の損益計算書上利益に計上す る。 この ように100%以下取得の場合,利益 として計上 されるのは支配 持分に限定 され,非支配持分利益は認識 されない。
この企業の公正価値以下での取得の場合を同じく設例をもって示そう。
20Ⅹ5年 1月1日,A社 はB社持分の100%をA社株式190で取得 したo A社の経営者は取得 日におけるのれん以外の個別に識別可能な取得 した資 産及び引受けた負債 の公正価値 を250お よび50と決定 したoそ こで,A社 は交換 された対価お よび取得 された企業の双方の再評価を行 うとともに評 価会社を用いた評価 も行 うとするoその結果,評価会社は多元的評価技法
試算上ののれんは次の ように算定 される。
25Ibid.,pars.60,61,A64.
企業価値評価 とのれんの認識拡大
B社の公正価値
控除 :個別 に認識 された識別可能純資産の 純公正価値額 [250‑50]
のれんの試算上の計上額
(借) 資 産 250 (質) 負 債 50
の れ ん 0 A社 株 式 190
B社 に対する100%持分の公正価値 控除 :移転 された対価の公正価値 移転 された対価の公正価値額 を超 える B社公正価値の超過額
控除 :試算上ののれん額の (ゼ ロまでの)減額 のれんをゼ ロまで減額 した残余額 としての バーゲン ・パーチ ェスに伴 う調整 ̀利益'
209
上例 と同様の取引条件で,A社 がB社の所有持分の80%をA社株152で取得 した場合 ののれんおよびバーゲン ・パーチ ェスに伴 う利益の測定は次のご とくである。
B社の公正価値 (支配持分80%および非支配持分20%の額) 控除 :個別に認識された識別可能純資産の純公正価値額 [250‑50]
のれんの試算上の計上額 (およびその各持分への配分額)
B社全体 A社持分 非支配持分 225 180 45
・'tJlい 日.・tl 世 25 20 5 B社に対す るA社持分の公正価値 [225×.80]
控除:A社持分 について移転 された対価の公正価値 対価を超 えるB社 に対す るA社持分の公正価値超過額 控除 :試算上の計上のれんの減算額 [25×.08]
のれんゼ ロ減額後のバーゲン ・パーチ ェスに伴 う
80%持分の調整 ̀利益'
か くて,A社はB社の取得 に際 し連結財務諸表上で次の ように処理 する。
(借) 資 産 250 (質) 負 債 50 の れ ん 0 A社 株 式 152
利 益 8
すなわち,支配持分および非支配持分に配分されるであろう25ののれんはゼロ額ま で減額される。かくて,A社の持分への追加額は個別に認識された識別可能な取得し た資産及び引受けた負債の純公正価値額に対するA社の80%の支配持分 と20%の非支 配持分を反映させた,160(152+8)と40として計上されている。
Ⅳ 企 業 結 合 会 計 プ ロ ジ ェク ト (フ ェーズⅡ)の特徴
以上 ,パーチ ェス法 の拡張 を中心 とす る企業結合会計 (フェーズⅡ)の内 容 についてみたが,いま一度その特徴 を整理 しよう.
その基 本 は,企業 の取得 のすべて について,その取得 した企業 を FAS 141号 (またIFRS3号)が規定 した原価基準 においてではな く,当該企業の総 体 を公正価値で評価す ることにあ る。これ らの基礎 は,企業結合を独立 した, 取引の意思があ る当事者間の等価交換がなされ る独立第三者間取引を仮定す
ることである。 この等価交換 を仮定 す る ところか ら,取得企業 によって支払 われた対価 こそが取得純資産 に対 す る (取得企業の取得持分の)公正価値 を表 わ してい る26, と論理化 され るのであ る。
その二 は,取得 した資産及び引受 けた負債の認識 と測定 は企業結合の取得 原価 (結合原価)の (それら資産 ・負債への)配分 としてではな く,その取得 日 の公正価値 を もって行 うとい うこ とである。 この こ とか ら,その持分の全額 が取得 されていない取得企業の資産 お よび負債 について も取得持分 に対応 し た部分公正価値 でな く全部公正価値 に よって認識計上 され, しかる後,非支 配持分は取得純資産 についての比例持分が表示 され ることにな る。
その三 は,フ ェーズ Ⅱの最大の特徴 はいわゆ る全部のれんを計上すること
26 Ibid.,par.A9.
企業価値評価 とのれんの認識拡大 211
である。のれんが残余額 として測定 され る点では変 わ りはない27が, (FAS 141号までは認識 されなかった)子 会 社 に お け る非 支 配 持 分 に帰属 す るの れ ん も 認識するとしたことである。その論拠は,た とえば無形資産を含めて他の資 産は連結財務諸表上100パーセン ト計上する,すなわち全部連結するのであ るか ら,資産たるのれん もその全額を認識すべ きであるというものである.
先の設例にもみるように,従来基準に比較 して全部のれんの会計効果はの れん とそれに対応する非支配持分の拡大計上にある。それはのれん算定を支 出原価ではな く取得企業全体の公正価値を基礎 に評価することによる。すな わち,全部のれんは 「被取得企業全体の公正価値 と被取得企業の識別可能純 資産の純公正価値 との差額」 として算定されるのである。
では,「被取得企業全体の公正価値」は如何に測定 されるであろうか。そ の基本は支払われた対価の公正価値であるが,それによることができない場 合には被取得企業 と類似企業の観察価格 による。だが問題は, 100%以下の 持分取得の場合に支払われた対価が被取得企業の全体 としての公正価値評価 の基礎 を表わ しているかどうかである。 この ような場合は多元的評価技法を 用いて見積 ることになる28。た とえば,IASBはつぎのごとく定式化 した。
a.取得企業が持分の100%を取得 した場合には,支払対価が取得 した資産及び引 受けた負債の公正価値の最適証拠であ り, したがって支払対価がのれんの全体価 額の基礎 として用い られる。
b.取得企業が被取得企業の持分の100%以下 しか取得 してお らず,取得企業が支 払 った支配プレミアム29を識別で き,かつ十分な信頼性をもって測定で きる場合 には,支払対価か ら取得 した純資産の公正価値を推定 して会計処理する。また, もし取得企業が支払 った支配プレミアムを十分な信頼性をもって測定で きない場
27 Mard,M.J.,J.R,Hitchner,S.D.HydenandM.L Zyla,ValuationforFinancial Reporting:IntangibleAssets,Goodwill,andZmpairmentAnalysis,SFAS141and142,New York,JohnWileyandSons,2002,p.110,
28 FASB,ExposureDraft,op.cit.,pars.A16,A17,A19.
29 企業支配権の価値 ともいうべきもので,支配権の買い手が売 り手に支払 う企業支配権 市場で成立するプレミアム額を指す。
合には,評価技法を用いて直接に測定する。その場合の評価技法の目的はあくま でも市場参加者が持分の100%を取得する場合の支払対価の公正価値を測定する 場合のものでなければならない,と30。
この ように,全部のれんは支 出原価 ではな く,取得純資産の公正価値 と支 払対価 (投資額) との等価交換 を前提 として算定 され とくに100%以下の取 得の場合 は支払対価 か らの推定 に よ り算定す る(実際には支払対価を取得持分比 率で割 り返す)か,または評価技法 を用 いて直接 に被取得企業 の全体 としての 公正価値 を算定す るのであ るo このため,FASBお よび IASBは公正価値 評価のヒエラルキー化 を図 り体系化 したのである。
この ように測定 された全部のれんは,支配持分 に帰属す るのれんは当該持 分 に対す る対価 と取得 された識別可能純資産の公正価値 に対す る支配持分の 差額 として,のれんの残余額 は非支配持分 に配分 され る。
いずれ にして も,全部のれんは取得企業の企業価値 の うち企業結合を契機 とした識別可能無形資産 を認識 したのちの識別不能無形資産 あ るいは識別不 能 自己創設無形資産 (自己創設のれん)を含んでいる。
お わ り に
以上 にみた ように,企業結合会計 (フェーズⅡ)の焦点は全部 のれんの認 識計上 にある とい って よかろう。企業の市場価値 と純資産簿価 との差額が何 らかの企業価値 を反映 している とすれば,フ ェーズ Ⅰにおいては識別可能な 無形資産 については積極的な認識計上 が図 られた31。 フ ェーズ Ⅱにおいて, のれんについて もその全額 を計上す る とい うの もその延長線上 にあ るといえ
30 IASB,BusinessCombinations(PhaseE)‑ApplicationofthePurchaseMethod,Janu‑ ary,2004,p.15.
31 Zambon,S.,Accounting,htangiblesandIntellectualCapital:anoverviewoftheissues andsomeconsiderations,PRISM/RESCUE,WP4:Accounting,Audit,andFinancial AnalysisintheNewEconomy,UniversityofFerrara,April,2002.p.9・
高橋琢磨 『知的資産戦略と企業会計』弘文堂,平成17年,217‑218頁,参照。
企業価値評価 とのれんの認識拡大 213
よう32。
全部 のれんは被取得企業全体 の公正価値 と被取得企業の識別可能純資産 の 純公正価値 との差額 として認識 され る。 この 「被取得企業全体の公正価値」
とは,実際の取引額 た る取得原価の枠組 みに拘束 され るこ とのない,被取得 企業のいわゆ る企業価値 を意味 してい る。 また 「被取得の識別可能純資産 の 純公正価値」 には,既 に通常 の資産 (負債) とともに,識別規準 を満 たす研 究開発費 や ソフ トウ ェアな どの識別 可能 な 自己創 設無形 資産 が (のれんと区 別 して)個別 に認識 されてい る。 したが って,全部 のれん には個別 には信頼 性 あ る識別可能性規準 をク リアで きない 自己創設無形資産 や結合 に基づ くシ ナジー効果等 が含 まれ るこ とにな る。 すなわち, これは非支配持分 に相 当す る自己創設 q)れんを も計上 させ る こ とを意味 して い る33。 結果 として, これ は従来基準で乗 り越 え られなか ったブラン ドな どの識別不能 な 自己創設無形 資産 を計上す る方 向性 を先導 す る役割 を果 たす ものであ る とみ られ る340
自己創設の れんについてはフ ェーズ Ⅰにおいてはその認識 は禁 じられた。
た とえば, (現行)FAS142号 において識別不能 の 自己創設無形資産 について はその原価の費用処理 を要求 した35。 またIAS38号 (2005年改訂版)は 自己創 設 のれんは原価 で信頼性 を もって測定 で きず,識別可能 な資産 で もない (そ
れは分離可能でも,契約その他法的権利から生じたものでもない)ゆ えに資産 とし て認識 されない36としたのであ る。 これに対 して,全部 のれんは取得原価 の
32 古賀智敏 「知的資産の認識可能性」『骨計』第176巻第6号,3頁,参照。
これらの背景一つとして,のれんの償却禁止と減損処理への移行 (FAS142号および IAS36号)がのれん計上の拡大を可能としたとみられる。
33 広瀬義州 「知的財産会計と全面公正価値会計」『税経通信』2004年8月号,27頁,参照。
これは連結財務諸表上資産が全部連結されるのと同様に,その取得持分の如何にかか わらずのれんについても非支配持分相当も含めて表示するという考え方といえよう(中央 青山監査法人研究センター[編]『企業結合会計基準ガイドブック』中央経済社,平成16 年3月,209頁,参照)0
34 Bean,L andB.DJarnagin,IntangibleAssetAccounting:How DoWorldwideRule Differ?TheJournalofCorpwateAccounting&Finance,November/December,p.59.
35 FASB,FAS142,02.cit.,par.10.
36 IASB,IAS38,09.cit.,pars.48,49.
枠内に拘束 されることな く,企業価値 を反映させた もの とて測定 され,結合 会計をして取得原価基準の拘束か ら解 き放ち,公正価値 による企業価値の測 定会計へ と転換 させたりである。