酒税の転嫁と酒類販売免許制 : 国税庁の反論への 再批判
著者 三木 義一
雑誌名 靜岡大学法経研究
巻 35
号 3‑4
ページ 251‑272
発行年 1987‑03‑14
出版者 静岡大学法経学会
URL http://doi.org/10.14945/00008648
酒 税
の 転 嫁 酒 と 類 販 売 免 許 制
︱︱国税庁の反論への再批判︱︱
本
義
は じ め に 酒類 販 売免 許制 合憲 論 対に す る批 判 及 論び 争 の経 緯 に つい ては 拙︑ 稿
﹁酒 類販 売 許免 制 合憲 論 批判 再 論
﹂ 紹で 介 し てき たが
︑ 去 る昭 和 六 一年 七月 九 日東 京高 裁 に前 記 拙稿 に対 す る国 税 側 から の反 論 書が 再 び提 出 され た︒ し かし
︑ 今 回 の国 税 側 の反 論 にも いく つか の論 点 に つい て︑ 特 に酒 税 の転 嫁 と売 上 代金 の回 収 と を混 同し て いる 点等 に基 本的 な疑 間が あ る の で︑ 再度 批 判 を試 みた い︒ そ こで
︑ 本稿 でも まず 国税 側 の反 論 を紹 介 し︑ つい 私で 見 を述 べる こと とし た い︒ 国 税 側 の 反 論 被控
訴 人 は︑ 甲 二七 号証
︵三 木義 一作 成 に係 る
﹁拙 稿
﹃酒 類販 売免 許制 合憲 論批
﹄判 外 一点 対に す る国 税 側 の意 見 に つ
﹂れ
︶ど 及 び同 二八 号証
︵控 訴 人作 成 に係 る陳 書述
︶ にお いて 加え られ た被 控 訴 人 の 昭和 六 一年 月一 二八 日付 け準 備 書 面 酒税 の転 嫁と 酒類 売販 免許 制 一一五 一
法経 研究 三五 巻三 o四 号
︵一 八九 七年
︶ 一一五 二 国
︵以 下
﹁被 控 訴 人準 備 書面 国
﹂と いう
︶︒ 対に す る批 判 に つい て︑ 次 のと りお 主張 す る ︒
i な お︑ 控 訴 人 は︑ そ の昭 和 六 年一 月四 二二 日付 け第 二準 備 書 面 にお いて 甲︑ 二七 号証 及 び同 二八 号証 の記 述 をす てべ 援 用 し て るい ので
︑ 下以 にお いて は︑ 控 人訴 主の 張 とし て引 用す る︒ 一 被控 訴 準人 備書 面日 の第 一 o一
︵酒販 免 制許 度 の立 法 的目
︶ に つい て 1 控 訴 人 は︑ 酒販 免許 制 度 の立 法 目的 に つい ての 被控 訴 人 の主 張
︵被 控 訴 人 準備 書 面日 二丁 表 な いし 三 丁表
︶ 対に し︑
﹁提 案 理由 が
﹃酒 税 保 全﹄ と され てい る のだ から そ れを 尊 重 す べき あで ると いう 主張 にし か解 し得 な
﹂い と した 上︑
﹁提 案 理由 に対 し て疑 義 を さは む とこ が許 さ れな いと 言 う ので あ れば ヽ
⁝ 裁⁝ 判 所が 違憲 審 査権 を行 使す る必 要性 すら な く な てっ し まう
﹂︵以
上︑ 甲 二七 号証 四 ペー ジ な いし 五 ペー ジ︶ など と批 判 す る︒ し かし なが ら︑ 控 人訴 の右 批 判 は立 法 的目 と立 法 事実 と を混 同 す るも ので あ てっ
︑ そ の前 提 おに いて 誤 てっ いる す︒ な わち
︑ 被控 訴 人 は︑ 酒税 法 の各 規定 や国 務 大臣 提の 案 理由 説の 明 など によ てっ 酒 販免 許制 度 の立 法 目的
︵立 法 者 の意 思︶ を認 定 し た ので あ てっ
︑ 立法 事 実 認を 定 し た ので はな い︒ し かる に︑ 控 訴 人 は︑ 被控 訴 人 の右 主張 を 批 判 す る に当 た っ て︑ 立 法事 実 認の 定 に関 す る芦 部信 喜 氏 の記 述 を引 用 す るな ど︑ あ た かも 被控 訴人 が 右 主張 によ てっ 立 事法 実 を認 定 し た か のよ う に取 り扱 てっ おり そ︑ の批 判 は的 外 れ と言 う ほか なは い︒ ち な みに
︑ これ ま かで 引ら 用さ れ て いる 最高 裁 昭和 四 七年 一 月一 二二 日大 法 廷判 決
︵刑 集 二六 巻 九 号五 八 六ペ ージ
︶ 及 び同 昭和 五〇 年 月四 三〇 日大 法 廷判 決
︵民 集 二九 巻 四号 五七 二ペ ージ
︶ にお いて も 当︑ 該規 制 措置 の立 法 的目 は︑ 当 該法 律 の規 定 や提 案 の理 由 など によ てっ 認 定さ れ
︵前 者 にあ てっ は右 刑 集 五九 二 ペー ジ 後︑ 者 にあ てっ は右 民 集 五七 七 ペー ジ な いし 五七 九 ペー ジ︶︑
治 の上 当で 該規 制 措置 の合 憲 性 の有 無 が判 断 され いて る︒ な お︑ 控 訴 人 は︑ 酒販 免許 制度 に つい て︑ あ﹁ ま 効り 果 のな いも のを 導 入 し ても ど う であ ろう か﹂ と 述 べた 政府 委 員 の
第七〇回帝国議会における発言を︑再三自己に有利に援用する︵甲二〇号証六七七ページ︑同二七号証五ページ︶が︑し かし︑同議会における治の余の発言及びその後第七三回帝国議会において右制度が採用されるまでの一連の帝国議会にお ける政府委員の発言に照らすと︑控訴人が援用する右発言は︑捨こに述べられたような観点から︑酒販免許制度の導入に ついて政府が慎重に検討中であることを表明したものに過ぎず︑酒販免許制度の効果を否定した趣旨のものでないことは 明らかであり︑控訴人の援用の仕方には問題がある︒ 2 控訴人は︑昭和一三年当時に酒税の滞納率が低下した理由についての被控訴人の主張︵被控訴人準備書面国三丁 表︶に対し︑酒販免許制度は﹁同じ目的を達成しうる︑よりゆるやかな規制手段﹂がない場合にはじめてその合憲性を肯 定し・うるとした上︑﹁政府の低利貸付で滞納率が改善されるという効果があったなら︑昭和十三年当時は酒販免許制まで 導入しなければならない状況ではなかったことの証明になる﹂︵甲二七号証六ベージないし七ページ︶と主張する︒ しかしながら︑控訴人の右主張は︑本件酒販免許制度の合憲性判断基準として前掲最高裁昭和五〇年判決の判示する基 準を採用している点で︑その前提に潤題がある︵被控訴人準備書面国の第二︒一︶上︑間接消費税である酒税の本来のあ り方に照らすと︑酒類製造者自らが酒税を納付するために銀行や政府資金からの融資を受けなければならないような事態 は︑異常な事態であることを看過している点にヽ問題があり︵被控訴人準備書面日の第一︒二・10ないし国︶︑到底採 用し得ない︒ また控訴人は︑酒販免許制度導入前の酒類業界の状態についての被控訴人の主張︵被控訴人準備書面国三丁表及び裏︶ に対し︑これを否定し︑﹁酒造業者の減少は酒造業界の合理化によるものである﹂旨主張する︵甲二七号証八ページ︶︒ しかし︑控訴人の右主張は何ら根拠がなく︑独断と言わざるを得ない︒ ちなみに︑酒販免許制度導入に至った当時の酒類業界についての被控訴人の右主張が正当であることは乙七号証︵朝日 酒税の転嫁と酒類販売免許制 一
一五三
法経 研究 三五 巻三
・四 号
︵一 九八 七年
︶ 一一五 四 済経 年史 特輯
︶ のほ か︑ 乙 一四 号証
︵酒 造組 合中 央会 沿 革 史第 二編 特0 に︑ そ の 一八 ペー ジ な いし 一九 ペ ージ に記 載 の酒 造 組合 央中 作会 成 に係 る昭 和 五年 月六 二〇 付日 け大 蔵 大臣 あ て
﹁酒 類販 売 業免 許 制度 促進 の件 請願
﹂参 照
︶︒ から も 明ら かで あ る ︒
一 な お︑ 付 す言 る に︑ 酒販 免許 制度 は︑ 酒類 製造 者 の同 販 売業 者 に対 す る売 掛代 金 の回 収︑ す なわ 酒ち 税 の消 費者 への 転 嫁が 著 くし 難困 なと たっ 結 果も た さら れ る酒 類製 造者 の減 少 に よる 酒税 収 入 の減 少 など を 防 止し うよ すと る制 度 で あ っ て︑ 酒 製類 造者 が 経 営効 率 を向 上 さ せる た めに 企業 の合 理化 を図 たっ 結 果生 ず 酒る 類 製造 者 の減 少 ま をで も 防 止し よう と す もる ので な いこ と 言は う ま でも な い︒ たし が てっ
︑ 控 訴人 が 指摘 す る よう に昭 和 一三 年 以 降︑ 酒類 製 造者 数が 漸減 し て いる と し ても
︑ そ この と 酒は 販免 許制 度 の有 効 性 を何 ら 否定 す るも ので はな い︒ 二 被控 訴人 準備 書面 の第 一︒ 二
︵酒 税制 度 にお け る酒 販免 許制 度 の位 置 付け
︶ に つい て 被控 訴 人 は︑ 同 項 に いお て︑ 間接 消 費税 にお い ては そ の税 負 担が 財 貨 の コス トに 合 めら れて 消費 者 へ転 嫁 さ れ る こと が 極 めて 重 要 あで る こと 酒︑ 販免 許制 度 は︑ 間 接消 費 税 であ る酒 税 にお い て︑ 効 率的 な 徴税 確を 保 す るた め 庫に 出課 税
︵移 出 課税
︶ 制度 を採 用 し︑ 消 費者 から 遠く 離 たれ 酒 製類 造者 を納 税義 務 者 と定 めた こと から
︑ 酒税 負担 の消 費者 への 右転 嫁 を容 易 なら し め︑ も てっ 酒 税収 入 の安 定 的 か つ効 率的 な確 保 を図 る こと を主 た る目 的 と し︑ 併 せ て適 脱防 止 をも 目 的 とし た制 度 あで る こと など を主 張 し た ので あ るが 控︑ 訴 人 は︑ これ ら の主 要 な点 に つい て は反 論 せず
︑ わず か に︑
①
﹁酒 類 販 売免 許制 は造 石税 時 代 の発 想 の産 物 であ り︑ 庫 出税 に移 行 し︑ 移出 し た分 のみ を納 税 すれ ば くよ な たっ こと によ り酒 造業 者が 酒類 販 売免 許制 を要 求 たし 前 提が 崩 れ てい る︒
﹂
︵甲 二七 号証
一六 ペー ジ︶
②︑ 免許 制 運営 のた めに 要 す る機 構
︑ 人 員
︑ 予算 の面 で の行 政上 の負 担 を考 え れば
︑ 酒 販免 許 制度 は決 し て
﹁効 率的
﹂ な徴 税 仕の 組 みと は いえ な い
︵甲 二八 号証 二丁 裏
︶︑ との 反 を論 加え いて る のみ あで る︒
し かも 右︑ 反論 のう ち︑
① に つい ては
︑ たと 移え 出 した 分 のみ の納 税 であ てっ も︑ そ の税 負 担 消は 費 者 へ転 嫁 さ れな け れば なら ない こと
︑ また 酒 類 製の 者造 売販 格価
︵税 抜︶ 対に す る酒 税 額 の割 合 や酒 製類 者造 の売 上高 に占 める 酒税 額 の割 合が 極 め て高 い こと など に鑑 みる と︑ 右転 嫁 が 円滑 か つ確 実 なに され なけ れば
︑ 酒 類製 者造 過に 重な 負 担 を負 わ せる こと なと り︑ いひ ては 庫 出課 税 制度 自体 の合 理性 が 問題 と るな こと
︵被 控訴 人準 備 書 面日 の第 一
・三
・1
︶ など の点 に つい て は現 行制 度 下の に おい ても 変わ りが な い こと 考を え ると 酒︑ 販免 許 制度 を し て造 石税 時 代 の発 想 の産 物 と のみ 位置 付 け る のは 誤 り であ り︑ また
② に いつ ても
︑ 酒 販免 許制 度が 庫 課出 税 制度 とあ いま てっ
﹁効 率的
﹂ な酒 税制 度 を形 作 てっ いる こ とを 看 過 たし 議論 あで てっ 採︑ 用 の限 り で はな い︒ な お︑ 控訴 人が 自 己 有に 利 援に 用 す る桜 井宏 年著
﹁清 酒業 の歴 史 産と 業組 織 の研 究
﹂ の当 該引 用部 分 は︑
﹁酒 類行 政指 導 の歩 み と改 革
﹂と の項 目 にお い て述 べら れ てい る こと から も 明ら かな よう に︑ これ ま で の徴 税優 位 の行 政指 導 から 産 業 行 政優 位 の行 政指 導 への 政 策 の転 換 求を める 趣 旨 記の 述 あで てっ
︑ 憲 法論 を論 たじ 述記 で はな い︒ も と より
︑ かい な る政 策 を採 用す る かと の政 策 決定 の問 題 は︑ 酒販 免 制許 度が 合憲 か否 かと の問 題 と 別は 次元 問の 題 あで り︑ 立 法機 及関 行び 政 機 関 にお い て決 定 され るべ き 問題 あで る から 控︑ 訴 人が 右 用引 部 分 を自 己 有に 利 援に 用 す る のは 適 切 でな いと 思 われ る︒ 一 被控 訴 人準 備 書 面日 の第 一・ 三
︵酒 販免 許制 度 の合 理性
︶ に つい て 1 控訴 人 は︑ 酒 類製 造者 の売 上高 に占 める 酒税 負担 率が 高 之い し ても
︑ 竹 この と 酒は 販免 許 制度 を合 化理 す る論 拠 に はな なら い旨 主張 し︑ そ の根 拠 とし て︑ たば 専こ 売制 度 の廃 止 に伴 い︑ 製 造 たば こ の小 売販 売業 に つき
︑ 当分 の間 に限 っ て許 可制 が 採用 さ れ た
︵た ば こ事 業法 二二 条 二項
︶ こと を指 摘 す る
︵甲 二七 号証 二 ペ一 ージ な いし 二四 ペー ジ
︶︒ し かし なが ら︑ 控 訴 人 の右 主張 は︑ たば こ
︵た ば こ事 業 法上 製は 造 たば こ︶ と酒 類 と の取 引形 態 な いし 市場 態形 大に き な相 違 あが る こと を全 く 看過 し たも ので あ り︑ 失当 あで る︒ 酒 税 転の 嫁 と 酒類 販売 免 許 制 一一 五 五