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「自己受容」 の基底因 一実存不安との関連の分析的検討一

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茨城大学教育学部紀要(教育科学)39号(1990)199−216      199

「自己受容」 の基底因

一実存不安との関連の分析的検討一

服部 智*・吉田 昭久**・小熊 均***

(1989年9月9日受理)

Basal Factors of  Acceptance of Self

by Factor Analysis in Reference to Existential Anxiety

Satoshi HATToRI,Teruhisa YosHIDA and Hitoshi OGuMA      

(Received September 9,1989)

は じ め に

人間は本来的に,自己の潜在的可能性を実現したいという欲求を持っており,人間の一生は絶え 間ない人格形成・自己実現の過程であると言える。人間を全体的・有機体的にとらえ,このような       D

l間の自己実現の動因を強調したのは,ゴールドシュタイン(Goldstein, K.),マスロー(Maslow,

A.H,)llロジャース(Rogers, C.R.)3ちであるがひと口に自己実現と言っても,それを図る ことは容易ではない。

なぜなら,人間は自己意識を持つゆえに,まさに「今・ここ」に生きている瞬間瞬間の自己の存 在を自覚し,自己を問い,自己にかかわりながら,自己の人間性の実現を図らなければならないか らである。このことは,絶対的意味において,他者に頼らず,自ら自己の瞬刻瞬刻の在り様を,主 体的に選択・決定しなければならないことを意味し,自由と責任という重荷を個々人に負わせるこ とになる。フランクル(Frank1, V.Ejが,人間を「意識性存在」と「責任性存在」として位置       4}

テけるように ,人間は自己の存在を意識できるからこそ自由なのであり,それゆえにまた,自ら に対して責任を負わなければならない存在であると同時に,責任主体となり得ぬ存在なのである。

この事実は,個人に絶えがたい孤独と不安という人間的な苦悩をもたらすことになる。なぜなら,

自ら自己の在り様を決定しつつ生きることは,親をはじめとする依存対象から分離・独立し,自己 の欲求や独自性を受け容れることが前提となるからである。その意味で,自己実現は,人間として の自由の発現であると言えるが,それは可能性の領域に属する事柄であり,そこで人間は,自己の        51

カ在の可能性に対する「非存在の脅かし」  (空極的には死)としての存在論的・実存的な次元に おける不安と対決せざるを得ない。それは,人間存在にとって必然であり,根源的・不可避的なも

*茨城県水海道市立水海道小学校.

**茨城大学教育学部教育臨床心理学研究室.

***都留文科大学文学部.

(2)

のであって,人間本来の生を開示する積極的な体験である。キルケゴール(Kierkegaard, S.)は いみじくも言っている。「不安は自由の眩量である。」6)と。それゆえ,この不安をしっかりと見据 え,自己の内に引き受けることが,真に自己自身となり,自己実現を図ることの大前提となる。そ れは,仏教でいう自己の「生・老・病・死」すなわち「苦」の自覚と解決という課題に通底するも のであろう。

ところが現代人は,この極めて人間的な苦悩を直視せず,不安からの逃避を企てている。とりわ け,高度に産業化が進み自己疎外要因を数多く持つ現代社会においては,個人は実存としてのかけ がえのない絶対的な自己の存在を見据えることができず,人生の本質や意味,実存的不安を実感で

きないまま, 「自由からの逃走」7)に終始している。その結果,現代人の多くは自己の存在感覚・

主体性を喪失し,かえって,地位を失いはしないか,人に嫌われはしまいかといった,非本来的・

神経症的な不安を増大させることになる。そして,自己の社会的地位や社会的価値観・学歴・他人

●   ●   ●

の評価などといった相対的自己にしがみつき,「自己受容」したつもりになっており,それでいな        8)

ェらいつもどことなく不安で,刹那的快楽を追い求め,パスカル(Paaca1, B.)のいう「慰戯」,

フロム(Fromm, E.)のいう「持つ」様式9)に埋没するという不毛な悪循環に陥っているのである。

また,市場の論理1°)は人間を「もの」と化し,相互の敵意,競争,不信,孤立等を増大させ,他者 と真の人間的な関係を結ぶことを困難にしている。

このような状況の中で,個人が人間性を回復し真に人間らしく生きるためには,なんの存在根拠 もなく, 「今・ここ」にたった一人で放り出され,確実に死へと至る,有限で不条理な自己の全存 在性を引き受けつつ生きる以外に道はない。そこで初めて,個人は人生のあらゆる可能性を受容し,

自由に真実の自己自身として生きること,しかも,自己の現実性のすべてをあるがままに受容し,

何ものにもとらわれない自由な自己になりきることが可能となる。そこにおいて,個人は非本来的

・神経症的な不安を去り,自己の限界を背負いながらも自己実現しつつ生きることになる。

ところで,これまで「自己受容」に関しては数多くの研究がなされて来たが,その多くは極めて 静的な捉え方に止まったものであり,その基底因等について検討した研究は寡聞ながら見当たらな い。上述したように,「自己受容」の大前提としては,人間存在にとって避け得ない本質的な不安 を,勇気を持って自己の内に引き受けることが要請されよう。ロロ・メイ(May, R.)もこの不安 への積極的態度について論じており11),これは「実存不安」として位置づけられる12}。そこで,本 研究では, 「自己受容」とその基底因と考えられる実存不安との関連について,具体的なデータを 基に分析的に検討し,論究する。

なお,本論文構成の概要を示せば以下のごとくである。

1 実存不安と「自己受容」の測定の問題 1−1 実存性scaleの構造と妥当性

1−2 「日常行為に表出する自己・他者の受容」の構造と妥当性 H 大学生を対象とした質問紙調査

II−1 調査協力者の選定と実施手続き II−2 調査協力者属性に関する分析 皿 実存不安と「自己受容」との関連性の分析

皿一1 分析の前提としての論理仮説

(3)

服部ほか:「自己受容」の基底因一実存不安との関連の分析的検討一       201

皿一2 実存不安と「自己受容」との関連 IV 「自己受容」の基底因としての実存不安

IV−1 日常行為を規定する実存不安 IV−2 実存不安と「自己受容」との関連性

1 実存不安と「自己受容」の測定の問題

1−1 実存性scaleの構造と妥当性

前述のように,不安は人間存在にとって本質的な問題であるが,その不安を突き抜け,本来の実 存に達するための,積極的に意味づけられた不安を,「実存不安」と呼んでいる。

実存不安の測定可能性と心的構造に関しては,Time Perspectiveの問題との関連で論じて来てい る13)カ㍉ここでもう一度,実存不安を測定し得る唯一のsca韮eと考えられる「実存性scale」14)の構造 と妥当性について述べておくことにする。

実存不安の測定可能性については,実存不安が瞬間的なものであることから,相対的な意味で,

「どれだけ実存的に生きているか」という実存性を測定することにより,間接的に実存不安を測定         15)

ナきるとしている 。それは,実存不安に脅かされているものほど,より実存的に生きているとい う仮説が前提となっており,ここでも,相対的・間接的水準ではあっても,実存不安は測定可能で あるとする立場に立つ。

実存性scaleについては,2度の調査結果に基づいて因子分析がなされ,第一次調査では7因子

 16)      17)

 ,第二次調査では10因子を 抽出している。この結果に基づき、各々の因子の連関についての       18)

芒r検討を行っており ,そこでは実存性scaleの構造と妥当性が確かめられている。

本研究で用いる実存性scaleは,この2度の因子分析結果に基づき,新たな視点により構造化を 図り作成したものである19)。これは,当初の72項目より12項目少ない60項目(各カテゴリーに10項 目ずつ)で構成されている。この実存性scaleの構造枠と具体的質問項目を表1に示した。

1−2 「日常行為に表出する自己・他者の受容」の構造と妥当性

「自己受容」という内的世界を言葉で説明することは容易ではないが,それはひと言で言えば,

「自己の人間性の様々な側面を抑圧することなく,自己の最も弱い面,醜い面をもあるがままに認 め,自己の全人格を信頼・尊重しようとする態度」だと言えよう。個人が自己にこのような構えで かかわることができ得た時,個人は内的,外的な束縛から解放され,真の内面的自由を獲得するこ とができる。ここでは,われわれが「自己受容」測定のために独自に作成し,本研究で用いる「日 常行為に表出する自己・他者の受容」をとらえるための質問項目に関して,その作成過程及び因子 分析に基づく構造と妥当性について言及する。

「自己受容」の研究としては,多数の一般人を対象にして,「自己受容」と「他者受容」との関 係を検討した,バーガー(BergeちE. M.)の研究があげられる2°)。彼は,「自己受容」について

は9つの定義, 「他者受容」については7つの定義を設定し,これらの定義に基づいて, 「自己受 容」scaleと「他者受容」sca蓋eを作成している。

(4)

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報題

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(5)

服部ほか:「自己受容」の基底因一実存不安との関連の分析的検討一 203

ところカ㍉バーガーのscaleは,観念的・抽象的な項目が多く,具体牲に欠けるという問題点を 指摘できる。そこで,大学生の対他者関係において,観念でなく,日常の具体的行為として表出す

る「自己・他者の受容」を測定するために,独自の質問紙を作成した21}。まず自己・他者の受容 という現象をひろうための視点の構造化を図り,現象記述に基づいた具体的質問項目を設定した。

その構造枠と具体的質問項目を表2に示した。

表2 「日常行為に表出する自己・他者の受容」の構造枠及び質問項目

関係をもつ他者

友       達

受容の側面

7.親に自分のしたことについてとやかく言われても,うるさがら 3.友達に自分のしたことや考え方を批判された時,無視したりし

他者による評価の

 ず最後まで話をよく聞いて,親の考え方を理解しようとする。*la親に自分の判断で決めたことを批判されると,いらいらして反  ないで,常に友達の意見をよく聞き理解しようとする。*5.友達に自分の意見を批判された時,友達の話にはあまり耳をか

 発したり,自分の意見ばかり言い張ることがある。*6.親の意見は大切にしたいので,自分のしたいことを親に非難さ  さず自分の意見ばかり押し通そうとする。*1α友達に自分の考えを悪く言われると,自分の意見を取り消して

客観的受容  れるとそれを断念ナることがある。*14親に自分のしていることが,認められないと,安心してそれに  友達の意見に匠憶してしまうことがある。*2.友達との話し合いの中で自分の意見が損剰されると,気に病ん

取り組めなくなる。 でしまい,あまり発言しなくなる。

15親の物の見方や考え方が噺ざ遅れだと思っても,親を非難した 1工友達の物の見方が自分と違う時でも,頭から拒否せず友達の考

自己と相異なる基準

 りばかにしたりしない。       一*9,親の考え方や生き方が気に入らず,一方的に非難したり,反発  え方を常に尊重する。*8.自分と意見の合う友達は歓迎するがそうでない友達とはあま

 したりすることがある。*1.親の考え方に同意できない面があっても,親を安心・させたいの  り付き合おうとしない。*1α友達の意見が正しくないと思う時でも,友達との関係をまずく

をもつ他者の受容  で,親の考え方にそうような生き方をする。*4.親と考え方が違うと思っても,自分の考えに確信が持てないの  したくないので反論をさし控えることがある。*1a友達との話し合いの中で,自分と同じ意見の人がいないことが

で,親の前で自分の意見を主張できない。 わかると,自信がなくなって自分の意見が述べられなくなる。

注)・数字は項目番号を示す。

・*印のついた項目は,否定的に表現されたものである。

「受容の側面」という視点には,バーガーの「自己受容」の9つの定義の中から, 「他者による 評価の客観的受容」を,また, 「他者受容」の7つの定義の中から, 「自己と相異なる基準をもつ 他者の受容」を,それぞれ採用した。一方, 「関係を有する他者」という視点としては,大学生に

とって,特に重要な意味をもつと考えられる「親」と「友達」の2つの視点を設定した。

この構造化に基づく現象記述から作成したAppendix Iに示す質問票を用いて,大学生を対象に調 査を実施し22), 「日常行為に表出する自己・他者の受容」の構造と妥当性を検討するために,因子 分析を行った23)。なお,因子分析にあたっては,評定結果に基づいて項目間相関をピアソンの相関 係数で算出し,因子抽出法は主因子法,因子軸回転はバリマックス法に拠っている。以上の統計的 処理は,東京大学大型計算機iセンター「HITAC M−680H」を使用した行った。

抽出する因子数は,項目数が少ないため5因子と特定した。バリマックス回転後の因子負荷量行 列を,Appendix豆に示す。因子解釈にあたっては,便宜上,因子負荷量iO.300001以上の因子負 荷量を満たす項目を各因子から抽出した。表3は,各因子から抽出された項目番号と各因子の平均 得点を示したものである。すべての項目が妥当性のある項目として抽出され,しかも,各因子と

(6)

       も3項目以上が充当したので,全て解表3 「日常行為に表出する自己・他者の受容」に関する

因子名と各因子に含まれる項目番号及び因子得点平均   釈可能な因子とした。

第1因子についてみると,表4に示 因子 因  子  名

因子に含まれ.る因子負

ラ量L300001以上の 因子得点平均 すように4項目からなり,すべてNeg一

高得点順の項目番号 ativeに表現された項目である。視点

第1因子 親との対立回避のための自己規制 1.6。4,2 2.45 を見ると, 「自己」と「他者」が入り

第2因子 謔R因子

親との対峙に表出する自己中心性 F人との対立時における他者尊重

12,7,9,15

R,5,11,8,7

2.83

第4因子 他者の不承認による自己不確実性 14.13116 2.72   すべて親との関係において表出される

第5因子 友人との対立回避のための自己規制 10.13.2 3.16 行為である。「親の考え方にそうよう

な生き方をする」「親に非難 表4 「日常行為に表出する自己.他者の受容、の各因子に含まれる    されると断念する」「親の前

質問項目       で自分の意見を主張できな い」ということから,親と

因子 項目No. 具 体 的 質 問 項 目 因 子

演ラ量 視  点    の対立を避け,自分の意志

宰 1 親の考え方に同意できない面があっても,親を安心させたい

.80532 親・配と相異なる灘を  や行為を押さえ込んでしま

ので,親の考え方にそうような生き方をする。 もつ他者の受容 (他者}

親の意見は大切にしたいので,自分のしたいことを親に非難 親.儲にょる評価の額   う態度が意味連関として抽

* 6 .64907

* 4

されるとそれを断念することがある。

eと考え方が違うと思っても,自分の考えに確信が持てない フで,親の前で自分の意見を主張できない。

.52612

鄭言己と櫻品巽1  象されよう。従って,第1もつ儲磯容(儲)  因子を「親との対立回避の

友達との話し合いの中で自分の意見が批判されると,気に病 友達・他者による評価の客

* 2

んでしまい,あまり発言しなくなる。 .35827 舳受容  (自己}  ための自己規制」の因子と

* 12 親に自分の判断で決めたことを批判されると,いらいらして ス発したり,自分の意見ばかり言い張ることがある。 .68645

轟攣による評囎警   解釈した。

7 親に自分のしたことについてとやかく言われても,うるさが

一.54869 親 到賭による評価の額    第2因子は,4項目(表

2 らず最後まで話をよく聞いて,親の考え方を理解しようとする 的受容    {自己}

* 9 親の考え方や生き方が気に入らず,一方的に非難したり,反

.50720

親・自己と相異なる鮮を  4)である。視点を見ると,

発したりすることがある。

eの物の見方や考え方が時代遅れだと思っても,親を非難し 部離篇糞蕊舞1  自他に分化はなされておら

15 一.49767

たりばかにしたりしない。 もつ他者暖容(儲)  ず,すべて第1因子に属す

友達に自分のしたことや考え方を批判された時,無視したり 友達・他者による評価の客 3

しないで,常に友達の意見をよく聞き理解しようとする。 .69064 納受容  伯己)   る項目と同様に,親との関

寧 5 友達に自分の意見を批判された時,友達の話にはあまり耳を ゥさず,自分の意見ばかり押し通そうとする。

一.63346 鑑露者による囎野   係において表出される行為

3

n 友達の物の見方が自分と違う時でも,頭から拒否せず友達の

.51780 雄 配と相異なる鱗@  である。項目番号7と15は,

考え方を常に尊垂する。 をもつ他者の受容(他者)

* 8 自分と意見の合う友達は歓迎するが,そうでない友達とはあ

一.31688 雄・臼己と撰なる鮮   Positive項目であるが,負

まり付き合おうとしない。 をもつ他者の受容{他者)

親に自分のしたことについてとやかくいわれても,うるさが 親.他者にょる評価の醐   荷量が負の方向を示すため,

7 .30787

らず最後まで話をよく聞いて.親の考え方を理解しようとする 畷容@ (自己)   「うるさがって最後まで話

* 14

親に自分のしていることが認められないと,安心してそれに

謔闡gめなくなる。 .74804

親・他者による評価の客観

I受容  伯己)  をよく聞かず,親の考え方

4 因

* 13 友達との話し合いの中で,自分と同じ意見の人がいないこと ェわかると,自信がなくなって自分の意見が述べられなくなる .43617

友達・自己と相異なる…難

も馳者暖容(儲)  を理解しようとしない」「時

* 16 友達に自分の考えを悪くいわれると,自分の意見を取り消し ト友達の意見に同意してしまうことがある。 .36924

友達・他者による評価の客

@       代遅れだと思うと,親を非観的受容    (自己)

* jo 友達の意見が正しくないと思う時でも,友達との関係をまず

.71545 自己と櫻なる基準  難したりばかにしたりする」  一

くしたくないので反論をさし控えることがある。 をもつ他者の受容(他者)

5

* 13 友達との話し合いの中で,自分と同じ意見の入がいないこと

.39918

友達・自己と櫻なる鉾   といったように,それぞれ

因 子

* 2

がわかると,自信がなくなって自分の意見が述べられなくなる F達との話し合いの中で自分の意見が批判されると,気に病

.39859

錘慧羅窟藩曇  Negativeな意味に理解され

んでしまい,あまり発言しなくなる。 舳難  (自己)  る。他にも,「自分の意見ば

注}覗点の1配レ(他者)は バーガーの「配受容」の議「他椴容」の定義}こ対応する゜ @    かり言い張ることがある」

(7)

服部ほか:「自己受容」の基底因一実存不安との関連の分析的検討一      205

「一方的に非難したり,反発したりすることがある」等から,親を許容できず,非難・反発したり,

自分の意見を一方的に押し通すという自己中心的な態度が浮き彫りにされよう。しかも,これは,

「親に自分の判断で決めたことを批判され」たり,「親の考え方や生き方が気に入らない」など,

親とまともに対立する状況において表出するものである。それゆえ,第2因子を「親との対峙に表 出する自己中心性」の因子と解釈した。

第3因子は,5項目(表4)からなる。この因子も,自己と他者とに分化していず,項目番号7 以外は,すべて友達との関係において表出される行為である。項目番号5と8は,Negativeに表現

されたものであるが,方向が負であることを考えると,「友達の話にも耳をかし,自分の意見ばか り押し通そうとしない」「意見の合わない友達とも付き合おうとする」といったように,それぞれ Positiveな意味解釈ができる。しかも,他の項目との意味連関から,この因子においては,友達を 尊重する態度が特徴となっている。それは,「友達に自分の意見を批判された時」や「友達の物の 見方が自分と違う時」など,友達との対立時に特定されたものである。それゆえ,第3因子は,「友 人との対立時における他者尊重」の因子と解釈できよう。

第4因子は,3項目(表4)からなるが,これも自己と他者が分化せず,対象も親と友達といっ た分化が鮮明ではない。それゆえ,この因子は一般的な「他者」との関係において表出する行為を示 すものと考えられる。「自分のしていることが認められないと安心してそれに取り組めなくなる」

「自分と同じ意見の人がいないことがわかると,自信がなくなって」等から,他者に認められない ことからくる自己不確実感がうかがえる。従って,第4因子を「他者の不承認による自己不確実性」

の因子と解釈した。

第5因子は,3項目(表4)であるが,自他は分化しないものの,どの項目も友達との関係にお いて表出する行為であり,「友達との関係をまずくしたくないので,反論をさし控えることがある」

というように,友達と対立する事態を避け,自分を押さえてしまう行動が共通してうかがえる。そ の意味で,第5因子は第1因子に対応する因子であり,「友人との対立回避のための自己規制」の 因子と解釈できよう。      

以上のように, 「日常行為に表出する自己・他者の受容」の因子構造が明らかとなった。各因子 とも, 「自己受容」の視点と「他者受容」の視点が分化せずに入り混じっている。これは,本研究 における項目が,すべて「他者」との関係において表出する「自己」の「行為」なので,そこでは,

「自己」と「他者」の受容の分化が不鮮明になったと考えることができる。「自己」の行為の視点 は,即時的に「他者」の行為にはなり得ず,「自己」と「他者」が分化するとすればそれは両者 とも「観念」として受け取られる時である。すなわち,他者に対して表出される受容的行為は,必 然的に自己を受け容れた「自己」の行為であり,他者に対して表出される非受容的行為は,同様に 自己を受け容れていない「自己」の行為を意味する。本来的に「自己受容」と「他者受容」とは表 裏一体の関係にあり,「行為」という水準において,両者は不可分なものとして測定し得るもので あって,本研究の結果は,「自己受容」測度として意味のあるものと言えよう。

一方,「関係を有する他者」の視点に関しては,「親」に対する行為と「友達」に対する行為と は,鮮明に分化している。これは,大学生にとって,両者が全く異なる意味を持つ存在であること を示唆するものであろう。

(8)

次に,表3から,第3因子以外は明らかにNegativeな「非受容」の方向を示す因子であることが わかる。しかし,第3因子についても,他の因子を考慮すると,「他者尊重」ということが,自分 に自信がないゆえの,あるいは友人との対立を回避するための,友人への同調的な傾向を含むもの であることが,充分予想される。なぜなら,真に相手の立場に立つならば,言うべきことは言えな ければならないからである。また,親に対しては「自己規制」と「自己中心性」の両方向性が示さ れており,親に依存しつつ反発している大学生の姿が浮き彫りにされている。反対に,友達との関 係においては,友達との対立を避けようとする因子であることが興味深い。ここには,親への依存 が絶ち切れず,その結果,友達とも真に独立した人間的な関係を結ぶことのできない大学生の姿が 示されている。

いずれにしても,本研究の結果は,全体的に「非受容」の方向を示しているため,得点の高い者 ほど「自己受容」は低く,相対的に得点の低い者ほど「自己受容」は高いことになる。また,各項 目がほとんどNegativeな方向の表現となっているので,各因子とも「非受容」の方向を示すのは当 然の結果といえる。これは,「受容」そのものの方向よりも,Negativeな方向の現象が日常数多く 見受けられ,とらえやすいからであり,あくまでも相対的にではあるが, 「非受容」の程度によっ て「受容」の程度を推し測ることになる。

さらに,因子別反応傾向・性差に関

して検討を加えてみよう。表3から明      表5 因子別男女差の検定結果

らかなように,第3因子と第5因子が

比較的得点が高い。いずれも「友人と   因子 因  子  名 性別 X SD t

の対立」に関する因子であり,第5因      第1因子

親との対立回避のための自己規制

9.9368 9.5224 0.5112

子との関連から,第3因子における「他 10.4286 3.8347

10.9789 4.3832 第2因子 親との対峙に表出する自己中心性

者尊重」は,前述したように,友人と

11.5630 3.9950 1.Ol28

の対立を避けるための他者への同調性 17.6526 4.5959

第3因子 友人との対立時における儲尊重 0.3823

を示すことを示唆しており,本当の意 17.8655 3.5101

6.7579 2.8386 *ホ*

味での「他者尊重」ではない可能性が   第4因子 他者の不承認による自己不確実性 6.1942 9.3025 3.0741

強い。真に友人を人間として信頼し尊 8.3789 3.ll88 ***

第5因子 友人との対立回避のための自己規制 4.8189

重できず,相手と対立することを恐れ 10.3529 2.8332 て「自己規制」してしまう大学生の姿    注) ***:P〈.0010.1%水準で有意であることを示す。

が示されたと言えよう。

次に,性差の検討では,まず正規性の検定を行った。得点化に際し,2つ以上の因子に重複して いる項目については,因子負荷量の絶対値の大きい方の因子の項目として加算した。検定により,

正規性が認められたので, 検定を行った結果,女性の方が0.1%水準で有意に高かった。これは,

実際には男性の方が「自己受容」が高いことを意味する。次に,どの因子において男女差がみられ るのかを検討するために,各因子ごとに男女差の検定を行った。∫検定の結果を,表5に示す。第

4因子と第5因子が,女性の方が有意に高く, 「自己不確実性」と「自己規制」の傾向は女性の方 が強いことを示している。また,同じ「自己規制」でも,第1因子においては男女差がみられない。

このことは,「親」が,男性にとっても女性にとっても,同様に受け容れ難い存在であることを示

(9)

服部ほか:「自己受容」の基底因一実存不安との関連の分析的検討一      207

唆している。これは,第2因子において男女差がみられないことからも明らかであろう。

皿 大学生を対象とした質問紙調査

実存とは観念ではなく,瞬間瞬間の自己の投企的行為である。それゆえ,個人が真の自己を受け 容れ,自己の可能性を実現し,本来の実存になりきるためには,瞬間瞬間の実存不安に脅かされな がらも,これを引き受ける以外にはない。個人は実存不安を突き抜けてこそ,真の「自己受容」に 到達できる。従って,実存不安は「自己受容」の基底因と考えられ,両者の関連を検討することは,

重要な意味を持つ。実存不安の測定には実存性scaleを,「自己受容」の測定には,「日常行為に表 出する自己・他者の受容」をとらえる質問紙(以後「自己受容」と呼ぶ)を使用した。

H−1 調査協力者の選定と実施手続き

調査協力者を大学生としたのは,自己疎外要因を数多くもつ現代社会状況の個人への影響は免れ 得ないものであり,このことは,社会人であるか大学生であるかを問わない問題と考えられ,しか も,実存不安を対象化でき,実存性scaleの項目に反応可能な年齢層としても,大学生は適切である と思われるからである。

調査は,1986年12月上旬に,主に授業時間の一部を割愛し

       ていただいて実施した。一つの大学の学生だけでは,データ表6 調査協力者の大学分布

及び有効データ数       が偏る可能性があるので,宇都宮大学,茨城大学,千葉大学 の3大学の学生を対象に調査を行った。

調査協 有効データ数 質問票は,Appendix I に示すように, 「調査のお願い」,

大学名 力者数 計   Face Sheet,具体的質問事項という順に構成した。まず,イ

宇都宮大学 96 38 42 80@ ンストラクションとして,Appendix Iに示す「調査のお願い」

茨城大学 206 66 89 155@ を読ませる形式をとった。Face Sheetでは,大学名・年齢・

千葉大学 103 23 47 70@   性別を記入してもらうことにした。

405 127 178 305

そして,設問1を実存性scale,設問2を「自己受容」調査 とした。回答形式は,いずれも7段階評定である。配点は,

実存性scaleは,「はい」(6点)から「いいえ」(0点),「自己受容」調査では,「とてもあて はまる」 (6点)から「まったくあてはまらない」 (0点)としている。

得点化の仕方については,実存性scaleでは,従来の因子分析において因子負荷量がマイナスとな る場合の多かった項目(項目番号11,21,26,28,45)は逆転項目とし,配点を逆転させて加算し た。また, 「自己受容」調査では,因子分析の結果,因子負荷量がマイナスとなった項目(項目番 号5,7,8,15)を逆転項目とした。なお,「自己受容」調査は,Negativeな「非受容」の程度

を測定しているので,得点の高い者ほど,実際には「自己受容」が低いことになる。

II−2 調査協力者属性に関する分析

本研究においては,男女差のみについて検討する。実存不安及び「自己受容」の男女差をみるた

(10)

めに,各々の得点の上下各群25%(76名ずつ)を抽出し,x2

       表7 実存不安及び「自己受検定を行った。結果を表7に示す。       容」の男女差の検定結果

表7から,実存不安は,女性の方に得点の高い者が多い傾

向が見い出された。しかし,本来「実存的に生きる」という   調査視、エ ことは,人間の存在にかかわる問題で,個人差はあるとして   、 H 23 53 76 も,基本的に全ての人の問題であり,これまでの研究でも, 実存不安

j女差は見られない。本研究での結果は,時代状況・文化状

L 35 41 76

*象 H 18 58 76

況や学生の質の変化などの影響が考えられるにしても,従来   自己受容

の結果を支持していない。 L 46 30 76

一方,「自己受容」についても,女性の方に得点の高い者   注)    索磨@x2= 4,0147     , df=1    *: P〈.05       ** ⊃【2=21ユ591*寧*, d= 1 *** : P〈.001が多い傾向が見い出された(表7)。これは, 「非受容」の

程度であるので,実際には男性の方が相対的に「自己受容」

が高いことを示している。「自己受容」も,本来は全ての人の問題であり,性差の影響は少ないも のと考えられるが,本研究の質問項目に性によって規定される内容が含まれていたことを示唆して いよう。

皿 実存不安と「自己受容」との関連性の分析

皿一1 分析の前提としての論理仮説

存在感覚が基盤にない個人の行為は,真の「自己受容」の行為とはなり得ない。 「自己受容」の 行為は,個人の実存体験に根ざすものでなければならないからである。

従って,次の仮説が成り立つことになる。

「実存不安に脅かされている者(実存性scaleにおいて得点が高く,相対的に実存的に生きている 者)ほど, 『自己受容』は高く,実存不安に脅かされていない者(実存性scaleにおいて得点が低く,

相対的に実存的に生きていない者)ほど, 『自己受容』は低いであろう。」

皿一2 実存不安と「自己受容」との関連       表8実存不安と「自己受容」

実存不安と「自己受容」との関連をみるために,それぞれ得 との関連の検定結果 点の上下各25%の者を抽出し,両者を交絡させてx2検定を行っ

ス。その結果を表8に示す。      「自己受容」 実存不安 H L

H

表8より,両者に有意な関連は見られない。しかし,実存性 嘆際には「自己受容」が低い) 26 18

の高い者は「自己受容」が低く,実存性の低い者は「自己受容」     L

l際には「自己受容が高い) 18 26

が高い傾向が示されており,仮説とは逆の結果を示している。 注)・x2=2.909090909(NS),df=1

さらに,両者の相関を,ピアソンの相関係数によって求める

と,相関係数は0.1299であり,両者に5%水準の有意な正の相関があることが明らかとなった。「自 己受容」は,実際には「非受容」を測定しているので,実存性scaleとは負の相関が期待されたカ㍉

やはり仮説と矛盾している。

(11)

服部ほか:「自己受容」の基底因一実存不安との関連の分析的検討一      209

なぜ仮説と逆の結果になるのかを検討するために,さらに「自己受容」の各項目と実春牲scale との関連について,次のような分析を行った。

ま魂実存性scaleの得点の上下各25%(76名ずつ)を抽出し,それぞれH群(相対的に実存性の 高い者),L群(相対的に実存性の低い者)とし,実存不安のH群, L群各々について, 「自己受 容」の各項目ごとに,「とてもあてはまる」 (6点)及び「かなりあてはまる」 (5点)に反応し ている数と,「まったくあてはまらない」 (0点)及び「ほとんどあてはまらない」 (1点)に反 応している数とをそれぞれ求めた。結果を整理したものを表9に示した。これに基づき,「自己受 容」の各項目について,実存不安との関連をx2検定により検討した結果,実存不安と統計的に有意

な関連がみられたのは,項目番号2と12のみである(表9)。しかし,この2項目はいずれも実存 性の高いH群の方に「あてはまる」と反応している数が多く,仮説とは全く逆の結果となっている。

その問題も含め,表9を基に,実存不安と「自己受容」の各項目との関連について検討してみよう。

表9 実存不安の高低と「自己受容」の各項目との関連

実   存   不   安

H   群 L   群

「自 己 受 容」 の 質 問 項  目 「とてもあてはまる」 「まったくあてはま 「とてもあてはまる」 「まったくあてはま x喉定の結果 及び「かなりあては らない」及び「ほとん 及び「かなりあては らない汲び「ほとん

まる」に反応してい どあてはまらない」 まる」に反応してい どあてはまらない」

る人数 に反応している入数 る人数 に反応している人数

*ll灘磐蹴寒籍1か競を安しさせた畷 15 16 14 12 x2ニ0.168612255(NS)

р?≠P

*・禦1麟囎意見が批判鰍気に病んでし 22 6 13 16 x〜=6.別4302988纏 р?≠P,*象:Pく.Ol

・鷺窪あ籔1講灘1野視した瞭

36 2 26 3 x2=0.615045957(国S)

р戟≠P

㍉蕪召鱗婁熱野えに麟てな畷 3 34 5 37 x2ニ0.311552876(國S)

р戟≠P

⑥1灘離灘欝達の話にはあ糠かさザ 3 25 36

x2=0.{翻61%3(NS)

р?≠P

*・醗綴と鱗1自分のし抄ことを親に勲る 8 18 5 29

x2=0.23993009(NS)

р戟≠P

⑦1躍1織鱗1繍セ11藷騰 12 8 8 12 κ2=1.6(NS)р戟≠P

*⑧1蹴罪は歓迎する侃うでない友達とはあ鮒 15 9 ll 17

x2=2.7857ユ4認6(誕S)

р?≠P

*・糠1欝が気に嘱講非難したり,反発した 14 16 10 22

x2=1.55113謝1(NS)

р激j1

窄1。欝羅懸磐離ち空達との関係をまずくした 20 9 ユ4 7 x2=⑪.029i贈798(NS)

р?≠P

 友達の物の見方が自分と違う時でも,頭から拒否せず友達の考え方11 を常に韓する。

16 1 14 3 x2=L1羅3333(NS}

р?≠P

*12奨ll雛騰暮離1茅lllいらいらして反発し 21 5 11 12

x2=5.糾5591309ホ

?P,*:〈.05

*1囎織際旨昇繍蓬昊鍵鷹とがわか 16 1ユ 11 13 xz=0.919鋤29別(NS)

р?≠P

*14灘1ていることが認めら伽と灘してそれに輔 11 ll 7 20

x〜=3.0¢306518(NS}

рh=1

⑮鯉1欝欄遅れだと脇親を非鱒ば 26 6 23 6 x2=0.036220091〔国S)

р?≠P

*16猫懸1難蹴自分の意見を取胤て友達 5 15 1 22

x2=3.800186056(NS)

р?j1

注) ・*項目は項目作成時にNegative項目としたもの。

・○項目は因子分析の結果,逆転項目となったもの。

(12)

IV 「自己受容」の基底因としての実存不安

lV−1 日常行為を規定する実存不安

仮説との矛盾の背景,及び,日常の行為が実存不安にどのように規定されているのかを検討して みよう。

項目番号1については,実存性の高低とかかわりなく,平均的に分散している。このことは,実 存性scaleにおいて測定される実存不安は,項目1の事象を規定する要因となり得ていないことを示

している。すなわち,「親を安心させたいので,親の考え方に沿うような生き方をする」という親 との妥協は,現代青年の生き方としてあまりにも一般的なものなのであろう。しかし,実存的に生 きようとするならば,親と対立し,親の期待を裏切ることも免れ得ない課題である。だが,実存性 scaleの項目では,そこまでの実存性をとらえるには,限界があったと考えられる。見方を変えれば,

親という存在は,自己にとって最も強い依存対象であるが故に,親への依存を絶ち,本質的な意味 で親を受け容れることは容易なことではない。

項目番号2については,x2検定で有意差がみられたように,「あてはまる」に反応している者が,

実存性のH群の方に多くみられる。しかし,この項目は,Negative項目で非受容を表すものである        ■   ■ ゥら,仮説とは全く逆の結果である。 「友達との話し合いの中で自分の意見が批判されると,気に

●   ●   o   o   ●   ●

病んでしまい,あまり発言しなくなる」というのは,明らかに神経症的傾向である。これは,実存 性scaleによって測定される実存不安が,神経症的不安と未分化に受け取られる可能性のあることを 示唆している。

項目番号3については,「あてはまる」に反応した者が,実存性のH群,L群双方に多くみられ る。この項目については,本研究で指摘してきたように, 「常に友達の意見をよく聞き理解しよう とする」ことが,真の他者尊重に基づくものでなく,「同調性」という自己疎外状態を意味するも のであると考え得る。すなわち,この項目は,あくまでも相対的にではあるが,実存性の高い者に は他者尊重に基づく行為として受け取られ,実存性の低い者には,自己疎外に基づく同調行為とし て受け取られたことを推測させる。これは,項目3の現象記述上の限界を反映していよう。

項目番号4については,項目3と逆に,「あてはまらない」に反応している者が,実存性のH群,

L群双方にかなり多い。これは,実存性の高い者も低い者も「親の前で自分の意見を主張できる」

ということを示している。しかし,これが本当に親の立場を尊重した上での自己主張なのか,単な る反発に過ぎないのかまでは分化し得ない。それゆえ,実存性の高い者には前者の意味に受け取ら れ,実存性の低い者には後者の意味に受け取られたとも考えられる。また,これは,親に依存しつ つ反発している状態を意味しており,相対的に実存的に生きていても,親だけは乗り越え難い存在 であることを示唆していよう。

項目番号5も,実存性の高低にかかわらず,「あてはまらない」方に反応数が偏っている。ただ し,L群の方がH群よりも「あてはまらない」方に反応している者が多く,これは,相対的には実 存性の高い者の方が,自分を押し出す傾向が強いことを示している。すなわち,実存的に生きるな らば,時には友人と対立することも避けられないことであり,そうした過程を経てこそ,真に相手 を独立した個人として承認することができると言えよう。

項目番号6もまた,実存性のH群,L群とも,「あてはまらない」方に反応が偏っている。すな

(13)

服部ほか:「自己受容」の基底因  実存不安との関連の分析的検討一      211

わち,実存性の高低にかかわりなく,「自分のしたいことを親に非難されても,それを断念するこ とはない」者が多いわけである。L群の方が,「あてはまらない」方に反応している者が多いこと から,「親に非難されても断念しない」のは,親への反発に近いものと考えることができる。この ような現象は,現代の大学生にかなり一般的にみられるものであろう。

項目番号7については,実存性のH群には「あてはまる」方に反応した者が多く,L群には「あ てはまらない」方に反応した者が多い。このことから,実存性の高い者の方が,親と距離をおいて,

親の言い分も許容するだけの精神的余裕,自律性を獲得しているものと考えられ,相対的には実存 性の低い者より「自己受容」が進んでおり,親をも受容していると言えよう。

項目番号8についてみると,これも実存性のH群に,「あてはまる」と反応した者が多く,L群 には「あてはまらない」方に反応した者が多い。この項目は,Negativeな方向に位置付けられたも のであったが,実存的に生きるという意味では,必ずしもNegativeなものではないことを示唆して いる。すなわち,実存性が高ければ,当然自己の生き方と相容れない者との対立は免れ得ない。こ れに対して,実存性の低い者においては,「自分の意見と合わない友達とも付き合おうとする」こ とが,「他者受容」ではなく,他者に容易に同調したり迎合したりする優柔不断さを意味するもの と言える。この項目が,因子分析の結果,逆転項目となったことは,このことを裏付けるものであ

ろう。

項目番号9については,実存性のL群に「あてはまらない」,すなわち,「親に対して一方的に 非難したり反発したりすることはない」と反応している者が多い。実存的であれば,必然的に,親 の期待にそむき,親と対立することも起こり得る。そのような過程を抜きにして,真の「自己受容」

に到達することはでき得ない。それゆえ,親に反発することがないということは,親への依存を絶 ち切ろうとする葛藤自体が存在しないことを意味し,これはまさに実存不安の欠如を示すものであ

る。

項目番号10については,実存性の高低にかかわらず,「あてはまる」方に反応の偏りが見られる。

すなわち,自己に孤独と不安とをもたらすことになりかねないので,友達との関係がまずくなるこ とを多くの大学生は恐れていることを示唆している。それゆえ,これを乗り越えたレベルの実存性 までは,実存性scaleでとらえることはできず,これは質問紙法の限界と言えるかもしれない。また,

H群の方が,「あてはまる」に反応している者がやや多いことから,項目2においても指摘したよ うに,実存性scaleの項目には,神経症的不安と分化しないで受け取られるものが含まれていること を示唆している。

項目番号11についても,同様に実存性の高低と関係なく, 「あてはまる」方に反応が偏っている。

この項目には,真の他者尊重ではなく,友達への同調的傾向を反映した反応がなされた可能性が考 えられ,それゆえ,項目11についても,項目10と同様のことが言えるであろう。

項目番号12については,x2検定で有意差がみられたが,「あてはまる」と反応した者が,実存性 のH群の方に多い。これは,真の実存に至る過程としての,依存対象である親との対立,親への反 発を意味すると考えられる。すなわち,この項目の示すものは,存在と非存在との葛藤状態である 実存不安を基底にもつ行為と言えよう。

項目番号13については,実存性の高低にかかわらず,平均して反応数がばらついている。ただ,

●   ●   ■   ●   ■   ●   ■   ■

「あてはまる」と反応している者が,ややH群に多い。「自信がなくなって自分の意見が述べられ

(14)

なくなる」というのは,明らかに神経症的であり,ここでも,実存不安と神経症的不安との未分化 問題のあることが示唆される。

項目番号14については,「あてはまらない」と反応した者は,L群に多くみられる。これは,「親 に自分のしていることが認められなくても,安心してそれに取り組める」ことが,必ずしも「自己 受容」しているのではないことを示している。すなわち,それは,いまだ実存不安に脅かされてい ない状態,親との関係において葛藤を経験していないことを意味すると考えられ,そのことは,実 存性の低さに反映することを示唆している。

項目番号15は,H群L群いずれも,「あてはまる」方に反応している。これは,実存性の高い者 も低い者も,「親を非難したりばかにしたりしない」わけである。しかし,このことが,本当の意 味で親を尊重した行為なのか,親を非難することで親の保護や承認を失うことを恐れた同調性に過 ぎないのかを分化することはできない。実存性の高い者には前者の意味に受け取られ,実存性の低 い者には後者の意味に受け取られた可能性もあろう。

項目番号16も,両群とも「あてはまらない」方に反応している。これは,実存性の高低にかかわ らず,「友達の意見に同意してしまうことはない」と言っているわけであるが,それが,本当に「自 己受容」を意味するのか,自己防衛による心理的硬さに過ぎないのかを分化できない。L群の方が,

「あてはまらない」と反応した人数が多いことから,後者の意味合いの方がやや強いと言えよう。

以上,実存不安と「自己受容」の各項目との関連について検討してきた。全体的に,実存性の高 底にかかわらず,反応が一方に偏る傾向が見られた。これは,実存性scaleと「自己受容」調査双方 の項目の現象記述に問題のあることを示すものであり,今後さらに検討されなければならない課題 である。

IV−2 実存不安と「自己受容」との関連性

実存性scaleの得点のH群,L群と「自己受容」の各項目との関連について検討した結果,全体的 に,実存性の高低にかかわらず,「自己受容」の項目への反応が,「あてはまる」「あてはまらな い」のいずれか一方に偏る傾向が見られた。

また,実存性の高い者の多くが,Negativeな神経症的傾向を意味する項目,特に友達との関係に おける行為を表す項目に,「あてはまる」と答えている場合が見られ,実存性scaleにおいて測定さ れる実存不安に,神経症的不安と分化しない水準のあることが示唆された。これは,意識の上では,

自己の孤独と不安に気づきつつも,これに直面することに耐えられず,行為の上では,友達と対立 したり,友達にきらわれることを極力避ける傾向と考えられる。この状態が,質問紙のレベルでは,

実存性の高さとなって表れた可能性がある。相関の結果が,仮説と全く逆になった背景の1つが,

ここに見い出せよう。この点をより明確にするためには,実存性scaleの各構造枠と「自己受容」と の関係,さらには,実存性scaleの各項目と「自己受容」との関係が検定されねばならず,今後の課 題と言えよう。

実存不安と「自己受容」との関係が,仮説と逆の結果となった背景として,次のことを考える必 要がある。それは,Negativeな親への反発的行為を表す項目に,実存性の高い者が「あてはまる」

と反応する傾向,実存性の低い者が「あてはまらない」と反応する傾向があることである。これは,

実存性の高い者には,親という依存対象から分離・独立しようとする欲求,自己の可能性を実現し

参照

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